転生?憑依?まぁ、知らんけど起きたらフェンリルだったよ   作:マスターBT

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後編

『スルト、報告がある。サーヴァントの霊基の解析、模倣は今をもって完全に終了した。本来のサーヴァントとは少し違うかもしれないが、そこは原初のルーンで誤魔化してある。いよいよ、本格的に死ぬのが条件になったぞ』

 

「クク、そうか。宛はあるのか?自害はしないのだろう?」

 

『あぁ。その為のペーパームーンの回収、その為の名乗りだ。頼んだぞ、スルト』

 

 眼前に見えるはカルデアが、虚数潜航に用いるシャドウボーダー。あそこから、オフェリアに頼まれた通り虚数潜航に最も重要なペーパームーンの奪取を行い、対応する為に出てくるサーヴァント相手にシグルドとしっかり名乗りを上げて、応戦するのが目的だ。どうせ、ホームズによって明かされる事だが、自ら名乗っておく事でそれが弱点であると知恵者以外にも真実だと認識させた方がスムーズだろう。

 

「殺戮は?」

 

『駄目だ。兵力は多い方が良い』

 

「面倒だな」

 

 スルトが虚数へ潜ろうとしたシャドウボーダーを掴み、放り投げる。おぉ……一回転しながら飛んでいったぞ。絵面がヤバいな。そのままスルトは魔剣を用いて、装甲を剥がしていくと、中から彼らが現れる。機械の装甲に身を包んだマシュ、この寒さには明らかに合っていない服装だが意志の強い青い瞳を向ける汎人類史のマスター、そして明かす者ホームズ。……あの探偵の視線、俺まで見られてる気分になるな。

 

「……此処で名乗れば良いのか?」

 

『いや聞くなよ。まぁ、タイミング的にはそうじゃね?』

 

 スルトはゆっくりと彼らの方へ歩き出す。何やらホームズが推理を披露し始めるが、そのタイミングでスルトは口を開いた。

 

「シグルド。この身は、シグルドだ」

 

「……そうか。いや、推理し披露する手間が省けたと言うべきかな」

 

「ホームズさんが、凄く残念そうな顔をしています。よほど、推理途中で真名をバラされたのがショックだった様です」

 

 まぁ、うん。気持ちは分かるよシャーロック・ホームズ。けど、やっぱりまだ此方を疑っているな。その視線は少々戴けない。この身はシグルドだ、それ以上でもそれ以外でもないんだ。

 

『スルト。あの男の英霊、これ以上喋らせない様に出来るか?』

 

「可能だ」

 

 魔剣を構え、スルトがホームズの目の前まで肉薄した。その速度は、盾であるマシュにも追えておらず防御は間に合わない。だが、それでも英霊の一角。ホームズはスルトへ攻撃しようとし、逆に突き出したその腕をスルトが斬り裂き死のルーンを刻み込んだ。

 

「ぐっ……」

 

「ホームズさん!!」

 

「マシュ、頼む!!」

 

 殺してはないんだから許して欲しいが……まぁ、彼らからすれば仲間が傷つけられたのだから当然か。盾を構え、突っ込んでくるマシュをスルトは弾き飛ばすと、理解出来ないといった感じに彼らを見る。

 

「力の差を理解しない程、愚か者には見えんが」

 

「……私達の旅は、不可能だからと手放して良い物ではないのです。貴方が強いからと、諦めて良い物ではない!!」

 

 マシュの横で、汎人類史のマスターも覚悟を決めた表情を浮かべていた。なるほど、確かに彼らの旅は諦めて良い物ではない。その旅路を俺はゲームとしてだが、よく知っている。けど、『俺達』も此処で失敗する訳にはいかないんだ。

 

「ペーパームーンとかいう道具を寄越せば、見逃すと言っても変わらんか?」

 

「ッッ、それが狙いなら益々引き下がれません!!」

 

「……そうか。では、死ね。俺達にも引けぬ理由がある」

 

 スルトがホームズにした様に再び、急加速でマシュへと肉薄するが、二度目で目が慣れたのか盾を構えて防御姿勢を取っていた。だが、スルトの筋力はシャドウボーダーの虚数潜航を無理やり止めるほどのステータスだという事を忘れたか?彼女の盾に瞬きの間に、短剣が振るわれ大きく吹き飛ばし、更に追撃で体勢を整えるより早く斬り飛ばす。

 

「マシュ!!」

 

 瞬間強化を入れた様だが、その程度では意味がない。っと、危ねぇ、マシュは死なせちゃ駄目なんだ。その事を思い出し、スルトを止めようとした瞬間、怯えに怯え切った声が聞こえてきた。

 

「ま、待ってくれ!!これが欲しいのだろう?」

 

「所長!?」

 

 ゴルドルフの手には羅針盤があった。マシュがダメージで動けず膝をついているのを確認しスルトに声をかける。

 

『目的の物はアレだ。回収して戻るぞ』

 

「目的は達したか」

 

 ゴルドルフの手から乱暴にペーパームーンを奪ったスルトはマシュ達を一度見た後、この場から去った。ふぅ、どうにかマシュを殺さずに済んだな……折角、それなりにオフェリアとの仲は良好なのに悪化したら困るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やら賑やかだな」

 

「思ってたより早かったのね、カルデア」

 

 スルトが淹れた為か熱すぎて飲めなかった紅茶を机の上に置くオフェリア。ペーパームーンを奪取してから数日、どうやら彼らはこの氷の城にまでやってきた様でスカサハ=スカディの御前で、戦いをしている様だ。

 

「クク、どうやらあの間男がいる様だ。ちょうど良い、カルデア諸共斬り伏せてしまおう」

 

「マシュは駄目よ。それ以外は貴方の好きにしなさい」

 

 ナポレオンぇ……まぁ、主に関わってる側というか応援してる側の俺が言うのもなんだけど、オフェリア、面倒な男に好かれすぎじゃないか?人の情緒などよく分かってないスルトに、いきなり口説いてくるナポレオン。キリシュタリアがどう思ってたかは知らないけど、彼はなんというか鈍そうだし。なんて事を考えていると、スカサハ=スカディの場所まで到着した。そして、オフェリアを視界に捉えたナポレオンは嬉しそうに破顔しながら何処までも響き渡る大きな声で言い放った。スルトの特大の地雷原を。

 

「オフェリア・ファムルソローネ!オレの婚約者よ、元気にしていたか!!」

 

「よし、殺す」

 

 神も人間も止まったその空間で、巨人だけが動いた。自らの女──厳密には違うけど──に手を出されたスルトは勢いよくナポレオンへと斬りかかる。

 

「オフェリアは、俺の女だ。その五月蝿い口を閉じろ」

 

「おぉ!?こりゃ、予想外のライバル登場って訳か!俄然、楽しくなってきたじゃねぇか」

 

「ライバル?フン、そんなものではない。所詮は、オフェリアの騎士にすら成れぬ間男の発想だな」

 

「騎士と旦那は違うだろう!それに、オレは告白し拒まれなかった。とくりゃ、婚約者ってもんだろうさ!」

 

 すげぇやこいつら。当のオフェリアを置き去りにして、旦那戦争始めやがった。こんな公開処刑にも等しい空間で、オフェリアは顔を赤くしながらプルプル震えてるし、それに気付かずこいつらはオフェリアに関して、好き放題言いながら戦ってるし……

 

「何も知らぬ間男が。お前は、物鬱げに窓の外を眺めるオフェリアの美しさなど知らぬだろう」

 

「これから知っていくさ!人はそうしてわかり合うものだからな」

 

 ナポレオンの砲撃がスルトに直撃するが、この霊基がどれだけ傷付こうが気にもしないスルトを止める事は出来ない。煙幕から勢いよく飛び出し、ナポレオンが盾代わりにした大砲をズラし、霊核を貫こうとするが横からマシュが勢いよく体当たりをした事で阻止される。

 

「なんだか、よく分かりませんがオフェリアさんの将来の相手は殺させません!」

 

 お前もかマシュ。

 

「違うわマシュ。今聞いたことはすぐに忘れなさい。人の話を聞かない馬鹿の戯言よ」

 

「酷いな、オフェリアよ。熱すぎる紅茶を淹れた事をまだ怒っているのか?それとも、あの狐を利用して手に入れた貴重な卵で焦げたケーキを作った事を怒っているのか?」

 

「……お願いだから少し黙って」

 

「クク、了解した」

 

 スルトにも悪気はないんだオフェリア。俺がただ、折角好物を聞いたのなら実践してみろって言っただけで。空気を読むとかそういう次元ですらないスルトは、オフェリアに辛辣にされるがそれすら何処か嬉しそうに返事を返している辺り、好きすぎるだろオフェリアのこと。彼が黙ってから暫くの間、マシュとオフェリアの間で話が行われるが、キリシュタリアに救われクリプターになった事を誇りに思っている彼女と、汎人類史を救おうとしているマシュでは、平行線の話を辿った。

 

「シグルド、彼らを捕らえなさい。王の御前ですから、殺しは控える様に」

 

「クク、オフェリア。限定解除を一つだ」

 

「良いでしょう認めます。──霊基強制再臨・限定解除、立ちはだかる敵を全て倒しなさい我が騎士」

 

 やがて、スルトをより戦闘し易い形態へと変化させ戦闘となるのもやむなしだった。魔剣の力を解放したスルト、そして魔眼を用いるオフェリアによってカルデア側はどんどん追い詰められていく。

 

「なぁ、オフェリア!オレにもその瞳を向けるのは嬉しいが勘弁だぜ!どうせ向けるなら笑顔だ、笑顔!もっとこう色っぽいのを頼む!」 

 

 戦いの最中に口説くか普通?あんた、案外余裕だろう。本当はスルトの支援をしてやりたいが、ルーン魔術は現在成功率を上げるために絶賛稼働中。見守ることしかできない。

 

「……っ」

 

「オフェリア、笑みを浮かべるのなら俺に向けると良い。お前の騎士であるこの俺に」

 

 オフェリアの僅かに取り乱した様子に案の定、嫉妬するスルト。その嫉妬を乗せる様に更に苛烈にグラムが振るわれ、ナポレオンの追い詰めていくがこの場において唯一絶対の神が手を叩き、戦いを止めた。

 

「フン」

 

 スルトが霊体化し神であるスカサハ=スカディによってカルデアの者達は、身体の自由を奪われた。直後、キリシュタリアの所からカイニスが来て一悶着起こしたのだが、まぁ割愛しておく。

 

「オフェリア」

 

「何かしら。色々とあったから疲れているのだけど」

 

 オフェリアの自室にて実体化したスルトが彼女の名を呼んだ。分かりづらい変化だが、そこに傲慢さはなかった。

 

「契約を通してお前の夢を見たぞ。オフェリア、囚われたままの女よ。俺であればお前を取り囲む鳥籠ごと、世界を滅ぼす事が出来る。何故、それを願わない?」

 

 サーヴァントは契約を通して、マスターの過去を夢に見る事がある。そこで知ったのだろうスルトは、彼女が日曜日を嫌っている事を。そして、そんなに嫌っているのなら自分はそれを壊せると。なのに、それを願わない事が純粋に疑問だったのだ彼は。

 オフェリアは一度、スルトを軽く睨むと諦めた様にため息を吐いた。彼に察しろと求める方が無理なのだから。

 

「……私が嫌いなのは、私自身よ。呪いの様に父と母の期待を感じ誰にも頼れない私自身が嫌い。そうね、貴方に願えばそんな世界も私自身も壊してくれるのでしょう。けど、駄目よ。それはキリシュタリア様の期待を信頼を裏切る事になります」

 

「俺にヒトの感性など分からないが、オフェリア。俺はお前の願いを聞く為に此処にいる、それだけは忘れるな」

 

 そう言ってスルトは霊体化した。答えを聞く気はないのだろう。スルトは霊体化したまま部屋を出ていき、そのまま部屋の前で待機するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ク、クク!漸く来たか。俺を殺し得る英霊よ」

 

 氷の城へと続く大橋の中央にて、スルトは立っていた。全身から溢れるばかりの魔力と殺気を放ちながら迫る敵を迎え撃つ構えを取っている。無為に過ごした時間に比べれば短いが、此処まで至るまでの苦労が漸く身に結ぶ時が来たのだ。俺もスルトの内側で気が昂っていた。増援に来たオルトリンデと共にカルデアを、ブリュンヒルデを迎え撃つ。無論、本気で。

 

 そして、オフェリアの魔眼が封じられたのを皮切りに、ブリュンヒルデは更にスルトを攻め立て、宝具を、英雄シグルドを殺す為の槍を放った。

 

 その一撃は、間違いなくシグルドを捉えた。だが、この身に宿る者はシグルドではなくスルトだ。霊核にヒビが入り、その身体から魔力が流れ出ていくが死に至るまでは足りない。

 

「フ、フハハハハ!!まだ、足りぬぞ!!戦乙女!!!!!」

 

 さてと……俺も始めよう。原初のルーン、起動。演算開始。

 

 スルトが再び挑発するとブリュンヒルデの槍が今度こそ、シグルドの霊核を貫いた。その瞬間、今のスルトから回収出来る分の魔力を回収し現界した。突然、出てきた狼にオフェリアを除く全員が驚きつつも武器を構える。

 

「こっちは出来るだけの事をやる。お前も気張れよ!!」

 

「あぁ。失敗は許さないからな」

 

「はっ、誰に言ってやがる」

 

 一息遠吠えをし、カルデアと俺達を遮る様に氷の壁を形成し、身の安全を確保する。宝具をぶつけられれば、あっという間に壊される程度の防壁だが無いよりマシだ。

 

「信じる信じないは、任せるが手出しをしない方をお薦めする!……サーヴァントモデル、セイバー:シグルドの霊基を複製開始……複製完了を確認。第二工程、霊基を改修、英霊シグルドではなくスルトに適した形に……エラー……補修箇所にルーンを刻み補修……」

 

 頭が焼き切れそうだ。サーヴァントの霊基を弄りに弄りに倒し、綻びが出た所を全て原初のルーンで補修、書き換えて辻褄を合わせていく。俺がただのフェンリルならこんな芸当は出来なかっただろう。だが、身に覚えのない原初のルーンが何故か、最初から使えた事。そして、今の俺が純白の狼である事。そして、遥か上空を飛び回る二羽の鳥を見て確信した。

 

 今、俺に起きている不可思議なことは全てオーディンが仕組んだと。原初のルーンは、彼が編み出したもの理解し易い形に変える事など造作もない。狼はフェンリルの姿でもあるが、白い狼となればオーディンが連れる狼である事。そして、監視する様に飛び回る二羽の鳥は彼が情報収集の為に放つワタリガラス。

 

 何が狙いかは知らないが、あぁ、俺はお前が与えた力を友の為に使わせて貰うぞオーディン!

 

「フェンリル……一体、何を……」

 

「信じろオフェリア!!……あいつはただ、お前に報いたい。それだけなんだ……!」

 

 身体にグッと魔力が満ちていく。どうやらスルトは、綱引きに勝利したらしい。ならば、あいつの魂が消えないうちに器を作る必要がある。満ち足りた魔力を使い、歪な霊基を歪なまま成立させる。

 

「最終工程……仮想モデルに巨人王スルトの魂を定着……コストオーバー分を霊基、フェンリルへ……霊基定着を確認。最終工程完了」

 

 奴の存在を身近に感じ、俺達の作戦の成功を確信した俺は、一息間をとって高らかに宣言する。

 

「霊基再臨……いや、違うな。これは霊基再編!!来い、サーヴァントセイバー、スルト・フェンリル!!!」

 

 空から太陽が落ちた──正確には、それに比類する熱量の存在が。俺が作った氷の壁が、瞬く間に溶け水蒸気となり辺りに高熱をばら撒く。この北欧異聞帯の運命を決定づけ、全てに絶望し、ただ一人の女に報いたいと願った騎士が自らの力をもって現界したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ……一体何が……」

 

 予想していなかった自体に動きを止めていた藤丸達だったが、水蒸気が生み出した霧の先にその姿を見た。

 

 体躯は2Mほどあるだろうか。シグルドに何処となく似ているが、それは人ではなかった。ガチャリと金属音を立ててはいるが、その内側はかなりの高熱なのだろう。熱気を放っており、その頭部には一対の角が生えておりシグルドの人相を五倍ほど悪人にした面をしていた。そして、それに付き従う様に彼の腰ほどまでの大きさがある純白の狼がいた。

 

『サーヴァント……まさか、そんなあり得ない!!態々、サーヴァントより神秘の濃い巨人があのスルトがサーヴァントである事を選んだっていうのかい!?』

 

 計測していたダヴィンチが慌てる。理解が出来ないのはそうだろう。何せ、彼らは自らが完全に消滅するリスクを負いながら弱体化する道を選んだのだから。到底、理屈では考えられない行為。しかし、それはそうだろう。

 

 何故なら、恋という感情ほど理屈で測れないものはないのだから。

 

「……スルト、貴方なの?」

 

「そうだオフェリア。俺はお前の為に此処までしたぞ」

 

「細かい調整は全部、俺だけどな……」

 

 驚き、戸惑っているオフェリアの前まで来たスルトは、騎士の如く彼女の前で膝を着き、燃える手で彼女の手を取った。不思議とオフェリアは暑さを感じなかった。今度は、二人の距離が離れる事はなかった。

 

「……どうしてそこまで私に執着するの?」

 

「お前が俺に視線を寄越したからだ」

 

「それだけ?」

 

「あぁ。お前は偶々、視線を向けただけでその行為に何かしらの意図も意味もなかったのだろう。だが、何も成せずただ消えゆくのみであった俺には、お前という未知は、俺に驚きを教えた。そして、明日など望める訳もなかった俺に明日を見せてくれた。それが俺にとっては救いだったのだ。自らだけでは、どうする事も出来なかった牢獄をお前は破ってくれた」

 

 スルトはオフェリアへと自身の気持ちをぶつけていく。それを邪魔されぬ様にフェンリルは藤丸達に睨みを効かす。友の一生に一度の告白を邪魔させる訳にはいかないのだと。

 

「フェンリルが居なければ、俺は破壊しかお前に与えられなかっただろう。俺の本体と共にお前を歪めただろう。

 オフェリア。炎に捲られ終わる世界から、視線を向けた人の女よ。俺はお前に報いたい、今一度問おう。何を望む?どんな願いも俺が叶える、叶えてみせる。だから、誰かの為でもない。お前、自身の願いを言え」

 

「……私の願い……は……」

 

 オフェリアは一度口を開き、何かを言おうとして閉ざしてしまう。それでもスルトは黙って彼女を見つめ続ける。膠着状態になるかと思われたが、意外にもこの膠着を崩したのは、友としてそばに居たフェンリルではなく、家臣として使えたスカサハ=スカディでもなかった。

 

「オーララ!それは駄目だぜオフェリア!!漢が一世一代の告白をしてんだ、しっかり答えてやるのが良い女って奴だぜ!!」

 

 異聞帯の敵であり、オフェリアを巡る恋敵でもあるナポレオンだった。

 

「受け入れるにしろ拒絶するにしろ、想いは言葉にしないと届かないぞオフェリア。そこのスルトはな、お前の為に死ぬかもしれない道を選んだんだ。そして、見事に成し遂げた!……答えてやれよオフェリア・ファムルソローネ」

 

 その言葉にオフェリアはハッとする。誰かの為に自らが死ぬかもしれない道を進む。その姿は、キリシュタリアと重なるものがあったのだ。今一度、オフェリアはスルトへと視線を向け、覚悟を決めた様で口を開いた。

 

「……スルト」

 

「あぁ」

 

「私は、一度で良いから……キリシュタリア様と面を向かって話をしたいわ……でも、彼の期待にも応えたいの」

 

「あぁ」

 

「……最後まで付き合ってくれるかしら。スルト」

 

「構わん。お前の旅に付き合おう」

 

 蹲り、自らが作った鳥籠から飛ばずに居たオフェリアは、籠の鍵を震えながら開けて外へ出て、自由な空へと羽ばたいた。

 

「──なるほど。何か隠しているとは思ったが、スルトであったか」

 

「スカディか。話は聞いてきたのだろう?空想樹が折れるまでは、お前の味方だぞ?」

 

「信じられるか!!!!!」

 

 氷の壁が勢いよくスルトへと迫るが、スルトが手を翳すと炎が現れぶつかり合うと全て溶解していく。スカサハ=スカディからすれば自分以外の全ての神を滅ぼしたスルトが、味方になると到底信じられる訳がなかった。

 

「……さて、どうする。オフェリア?」

 

「スルトを信じる気にはなりませんか?」

 

「ならん!其奴は、私達の全てを滅ぼした存在だ!?」

 

 地面が揺れた。空に浮かぶ偽りの太陽が溶ける様に崩れ落ちたのだ。一体何が?と思うと同時に、巨大な巨人が姿を現しそれ以外の巨人達も理性を得たように咆哮を上げた。巨大な巨人は、サーヴァントとなっているスルトを大きくした様な姿をしていた。

 

「やっぱり、大きすぎる魔力は核を求めて動くかぁ」

 

 フェンリルがそう溢した事で動き出した巨人はスルトの抜け殻の様なものだと全員が理解した。そして、巨人はふらふらとした足取りである場所へと向かっていき、オフェリアとスカサハ=スカディが気がつく。その方向には隠している空想樹があるのだ。

 

「一時休戦としなければ、大事になるぞ?スカディ」

 

「お主が!……くっ、今は口論より先か」

 

「んじゃ、一旦手を組むぞ。カルデア!」

 

 フェンリルの言葉が決め手となり、いつの間にか復活したシグルドとブリュンヒルデを加え動き出したスルトの抜け殻を全員で追いかける。理性を得た巨人達が道を塞ぐが、スルトが燃やし、フェンリルに凍らせ、英霊達が悉くを討ち滅ぼし抜け殻へと追いついた。既にスカサハ=スカディの隠蔽は破かれており、空想樹がその姿を現しており、抜け殻はそこへ手を伸ばしている。

 

『ォォォオオオオオ!!!!!』

 

「クク、自分殺しの様なものをする事になるとはな」

 

「平気なの?」

 

 スルトの独り言にカルデアのマスターがそう返した。

 

「大丈夫だ。既に、スルトの本体はこっちだ。アレは、ただの抜け殻。倒しても、俺達が死ぬ事はない」

 

「だそうだ。遠慮なくやられるぞ」

 

 お前自分の事だろうが……とフェンリルが突っ込むがスルトはただ笑って誤魔化した。そして、彼らと抜け殻の戦いが始まるが、所詮は抜け殻。カルデアが誇る英雄達と、スルト達に勝てる訳もなく、姿を消した。

 

 空想樹を背にし、オフェリアとスルト・フェンリルがカルデアとスカディ達に向き合う。既に空想樹は、スルト・フェンリルへと接続され、異聞帯の王はスカサハ=スカディではなく、スルト・フェンリルへと更新されていた。大量の魔力のバックアップを受け、スルト・フェンリルはカルデアとの決戦に臨む。

 

「ぐっ……此処までですね……お姉様……申し訳ありませんでした……」

 

 先ず、落ちたのはオルトリンデだった。スカサハ=スカディの魔術を炎が焼き尽くし、その隙を狼が食らいついたのだ。圧倒的な力を振るうスルトと、彼から離れ縦横無尽に大地を駆けるフェンリル。その連携に為す術もなかった。

 

「はぁぁ!」

 

「魔剣解放……破劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)!」

 

 ブリュンヒルデとシグルドの同時攻撃がそれぞれ、フェンリルとスルトに当たるが返しの反撃で両名が倒れた。しかし、シグルドの霊基を基に構成されているスルト・フェンリルには竜特攻のダメージは大きく、オフェリアの治癒魔術とフェンリルによる原初のルーンにより霊核こそ砕かれないものの膝をつくダメージが入った。

 

「負けん……まだだ……未だ、俺は生きているぞ汎人類史!!」

 

「その通りだ……足掻くぞスルト!!」

 

 フェンリルの咆哮と共に氷が勢いよく迫るが、スカサハ=スカディが生み出した氷と激しくぶつかり合い、その場に一瞬で氷山を形成する。その氷山を貫く様に炎の剣が飛び出すが、シトナイが呼んだバーサーカーがそれを正面から受け止める。そして、生まれた道をスカサハ=スカディが魔術でバフをかけて、駆け抜けたマシュがスルトに盾を叩きつけ、吹き飛ばす。

 

「カハッ!?フェンリル……貴様!!」

 

 スカサハ=スカディの横腹をフェンリルが喰い千切る。スルトを信じ、護るのではなく攻勢に出た一撃はバックアップが担当の彼女の力を大きく削いだ。だが、そこまでだった。スルト・フェンリルになった事でダメージを共有しているフェンリルがその場に崩れ落ちる。スルトも、空想樹に叩きつけられた体勢から動いていない。

 

「……これ以上は無理か」

 

 あっさりとスルトが武器を収め、藤丸に空想樹を斬るなら斬れと顎で、指示を出した。彼らはスカサハ=スカディとシトナイの援護を受け、空想樹へと立ち向かっていく。その眼下で、スルト・フェンリルはオフェリアを庇いながらその場を離れようとしていた。

 

「まだ、戦えるはずよね」

 

「あぁ。だが、それをすればお前をあの男の所に連れていけなくなる」

 

「……不器用ね貴方」

 

 オフェリアがそう言うとスルトは楽しげに鼻で笑う。

 

「お前ほどではない」

 

「そうね。そうかもしれないわね」

 

「俺からすりゃ、どっちもどっちだがな」

 

「「貴方/お前も大概よ/だぞ」」

 

「えぇ……」

 

 まさかこの二人にそんな事を言われると思ってなかったフェンリルは、理解出来ないと言った感じで返す。そして、カルデアが空想樹を折る頃、既にオフェリア達は北欧異聞帯よりその姿を消していた。

 

 破壊しか知らなかった巨人は、他者を大切にするという愛を知った。

 

 世界を知らない狼は、友と共に旅に出た。

 

 恋を知らぬ女は、自らを愛してくれる者達と歩き出した。

 

 彼らの旅は、ギリシア異聞帯まで続くだろう。その先の話は神だけが知っている。




前編より長くなったよ……
続きは書くかもしれないし、書かないかもしれない。

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