英雄伝説~碧風(かぜ)の軌跡~   作:龍使い

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プロローグ
第一話「三度ある事は四度以上もある」


世の中、異世界に移動する可能性がないわけじゃない。

というか、一般人にしてみれば限りなく0に近い可能性でも存在しないわけではないのだ。

むしろ、ほいほい異世界に行ったりする人間なんざ、ある種の特異体質と言っても良い。

だがしかし、しかしだ……!

 

「…………で?」

「『で?』とはなんじゃ、馬鹿弟子?」

俺の不機嫌な声に、目の前にいる師匠は俺を『見下ろしながら』ニヤニヤと笑っている。

「とぼけんなああぁぁぁっ!! 何で俺らの身体が縮んでんだって聞いてんだよおおおぉぉぉ!?」

 

――異世界に来た時点で自分の身体が縮んでるなんて、納得出来るかぁ!!

 

――――

 

俺の名前は、真行寺修夜。IS学園に所属する学生で、17歳。

一応は代表候補生の一人だったりするんだが……まぁ、そこは別段重要じゃないので割愛する。

今重要なのは、何故俺が異世界にいて、身体が縮んだかって事だ。正直な話として、過去三度の経験でもこんなことはなかった……。

と言うか、何で異世界に来て身体が縮むんだよ!? そんなのどんな創作物でも出てきたことねぇぞ、在り得ねぇだろ!?

「まぁ、落ち着け馬鹿弟子。今から説明するでな」

そんな風に混乱している俺に対し、目の前にいる師匠――夜都衣白夜は、未だにその表情を崩さないまま笑っていやがる……。

「……とりあえず、本気で納得出来る説明をお願いしますよ、先生。後、なんで僕までここにいるのかも……」

その様子を、俺たちより少し離れた地点で額を抑えながら見つめていた俺の家族――相沢拓海が疲れた口調でそう呟いていた。

「そう急くな、拓海。物事には順序と言うものがあるでな。とりあえずは……そうじゃな、まずはここが何処だかを教えておこうか」

拓海に言われたからなのか、はたまた俺をからかうのに飽きたのか……師匠は近くの切り株に腰をかけて俺たちを見据えながら、説明を始める。

「この世界は……そうさのぅ、便宜上で“エイドス”とでも呼ぼうかの。その世界に存在する“ゼムリア大陸”南西部の“リベール王国”にある“地方都市ロレント”の郊外じゃな」

「……異世界だから、地名のどれもが聞いたことがないのは良いとして、便宜上ってのはどう言う意味だ…?」

師匠の説明に思わず問いかける。俺が過去三度に渡って向かった異世界は、少なくとも世界の名前があった。

とは言っても、基本は大陸全体の名前だったり、俺達が存在する世界とそれほど大差がない平行世界だったりするのだが、少なくとも師匠が世界そのものを説明する際はそんな曖昧な事を口にはしない。

「単純じゃよ。この世界にはまだ、明確な名前が分かっておらぬからの。幾らわしとて、分からぬ名前を断言することは出来ぬよ」

からからと笑いながらそう答える師匠。納得は出来たが、なんか釈然としないのは何故だろうか……。

「次に、お主らがここにおる理由じゃが……まぁ、砕いて言うならば、この世界がお主らを“呼んだ”からに他ならぬよ」

「……世界が、“呼んだ”…?」

師匠の言葉に思わずそう問い返す拓海。かく言う俺も、その意味を全く理解できていない。

「そう、呼んだのじゃよ。他の世界に“移動”するのでもなく、誰かに“召喚”されたのでもなく、世界そのものに“呼ばれた”……“彷徨者(ストレンジャー)”たるお主らがここにおるのはそれが理由じゃ」

師匠のその説明に、その言葉に俺と拓海は顔を見合わせる。

彷徨者(ストレンジャー)”――時の流れより隔離され、世界そのものから隔絶してしまった“(ことわり)を外れし者”の総称。俺と拓海は、過去にとある理由と目的からそんな存在となってしまっている。

もっとも、俺たちにとってはその事自体に後悔は無く、むしろ覚悟の上で目的を果たしているので然して気にしてはいない。重要なのは、何故その理由で世界が呼んだと言う事に繋がるかだ。

「彷徨者が世界そのものに呼ばれる事象自体、実は然して珍しい事ではない。世間一般の間で“神隠し”と呼ばれる現象が起こる理由には、彷徨者としての資質がある故に呼ばれてしまうからと言った事もあるからの。そして、他の世界が彷徨者を呼ぶと言う事象が起こると言うことは、即ち“世界介入者を必要とする”からじゃ」

そこまで言って、師匠は一度息を吐く。

「覚えているとは思うが、世界に存在する時の流れは一定ではない。時として、些細な事象で流れが幾重にも分岐し、様々な未来を形成していく。俗に“並行世界”と呼ばれるこの概念は、世界が生まれた時から存在し、今尚分岐し続けておる」

その事は、俺と拓海もよく理解している。世界が存在し続ける限り“もしも”と言う可能性が付きまとっていき、世界に生きるものは常にその選択をし続けて行かなければならない。

そして、その選択を変えることは普通ならば出来ない。それ故に人は、在り得たかもしれない未来に想いを馳せ、後悔してしまう事も多い。

しかし、時としてそんな事象に逆らい、在り得た未来の為に選択を変える人間も稀に存在する。それが彷徨者と呼ばれる存在だったりするのだ。

「世界介入者とは、名の通り“世界の事象に介入する者”を意味する。まぁ、本来ならば神々の手によって介入許可を得た“転生者”と呼ばれる者共がこれに属するのじゃが、如何せん僅かな選択で時の流れが分岐するので、慢性的に人手が足りぬのじゃよ。そもそもにして、事象に介入して成功した転生者は数少ないしのぉ」

何かを思い出したのか、からから笑いながらそう説明を続ける師匠。いや、あんまり笑い事でもない気がするんですけど……。

事象介入を許可されて成功した例が少ないって、ある意味で問題なくないか……?

「まっ、少々遠回りしてしまったが……彷徨者が世界介入者として呼ばれるのは、つまりはそう言う理由じゃよ」

そう言って、師匠は俺たちを見つめる。

「樹形図の如く本来の流れから分かれてしまった世界全てに介入することは、神々でも不可能なこと。故に、介入を必要としないままに切り捨てられた世界もまた、数多く存在する。そして、そんな神々の決定を良しとしない“エイドスそのものの意思”が彷徨者たるお主らを呼び、世界介入の資格を与えた……と、こんなところじゃな」

「……とりあえず、二つほど質問があるんだが…」

「なんじゃ、馬鹿弟子?」

一度説明を切った師匠に対して、俺はまだ釈然としない疑問を投げかける。

「一つは、なんで呼ばれたからと言って俺達の身体が縮んでいるのか」

具体的に説明してなかったが、今の俺達の身体は人間で言うところの5歳児に当たる。本来ならば17歳である筈の俺や拓海がこんな事になっているのか、全く説明されていない。

「ああ、それは単純じゃよ。神々に送られた転生者と違って、世界に呼ばれた彷徨者はその世界の知識を基本的には持っておらぬからの。場合によっては、介入開始の時期に矛盾を引き起こさぬよう、準備期間としてその世界に慣れさせる為の身体変化等を起こす場合があるのじゃよ。言ってみれば、彷徨者特有の特異体質みたいなものじゃな。因みに、元の世界に戻る際は世界が呼び出した時間の直後に戻されるので、実質上の時間経過はないからの」

なるほどな……自分から彷徨者をいきなり呼び出す以上は、それ相応に対応をしてくれると言うわけか。

「……して、二つ目の質問は何じゃ?」

「もう一つは、なんで俺達が呼ばれたのか……だ」

先ほどの師匠の言うことが正しければ、彷徨者を呼ぶ行為自体は、最終的にはその世界の意思が決める事になる。つまり、世界が望む彷徨者であれば別段俺や拓海を呼ばなくても構わないはずであり、これも今までの説明を聞いていた上では納得が出来ていない。

「はぁ……お主がそれを言うか、馬鹿弟子」

そんな俺の質問に対して、師匠は呆れながら溜息をつく。

「仮にも四度に渡って世界を救ってきた可能性の申し子たるお主が、介入者として世界の意思に選ばれる資格を持ち合わせてないと本気で思っておるのかえ?」

「……うっ…」

呆れた目で俺を見る師匠のその言葉に、思わず呻いてしまう。確かに、それを言われてしまえば納得せざるを得ない……少々不本意だが、俺が今までにやった事は紛れもない事実なのだから。

「じゃあ、僕まで呼ばれたのはどう言う……?」

「お主も似たようなものじゃよ、拓海。より良き未来や発展の為にあらゆる可能性を追求し尽くし、極僅かでも望む可能性を手繰り寄せてきた天才にして、馬鹿弟子同様の可能性の申し子。そんなお主だからこそ、この世界は介入者としての資質を見出したのじゃろうて」

拓海の質問に、師匠はそう答える。事実、俺の知る限りの範囲だけでも、こいつはあらゆる最善を尽くす為の努力を惜しまなかった。それ故に辿り着いた結果もまた、俺の手の中に存在している。

「他に質問はあるかの?」

「……いや、現状で俺が気になるのはそれくらいだな」

師匠の質問に、少しだけ思考を巡らせながらも俺はそう答える。異世界にいる以上、気になることは山のようにあるのだが現時点で全てを聞いた所で状況が好転するとは限らない。

むしろ、師匠が世界に呼ばれたと言っている以上は世界が望む【何か】を行わなければならないのだから、否が応にもそれらを知る機会は幾らでも出てくるだろう。

「とりあえず、後はこれから先どうするか……ですね。この世界で暮らす事になると拠点が必要になってきますし……」

拓海の言葉に、俺も内心で同意する。俺が今まで行った異世界は基本的に予め拠点となる場所が存在していたが、この世界ではそういった類のものは今のところない。

ましてや、俺と拓海は精神こそ変わらないが身体は子供のそれと大差がない。師匠がいなかったら、それこそ途方に暮れているところだぞ。

「まぁ、そこはわしに任せい。幸い、この世界の【時】を見た限りではわしが知る幾つかの伝手を頼ることが出来そうじゃし、万が一の時は気侭に旅をしながら過ごせば良いだけじゃしな」

そう言ってからからと笑う白夜師匠……何時も思うんだが、その世界すらも超えた人脈の豊富さは一体どこで入手してるんだ?

幼い頃から共に過ごして随分経つが、未だに底が見えないぞ。流石は神仙・【八十一尾(やといお)銀狐(ぎんこ)】と言うべきなのだろうけど……。

「さて、それじゃ移動するかの。日が暮れる前に宿に辿り着いておかぬと、野宿する羽目になるしのぅ」

そう言って師匠は立ち上がる。ふと空を見上げると、既に日が傾いており、夕刻の時刻が近いことを物語っていた。

「……ったく、何時になったら平穏に過ごせる日は来るんだよ…」

そんな師匠の後を追いながら、俺は溜息をつきながらぼやく

「はは、そう言いながらも顔は楽しそうだよ。修夜」

そんな俺の表情を、隣を歩く拓海が笑いながら指摘する。

「んな訳ねぇっての……」

そう返しつつも、俺は拓海の指摘通り、内心での高揚感を隠しきれていないのかもしれない。

平穏に日々を過ごす――そんな日常は、確かに大事だ。

元の世界で仲間達と過ごし、笑う――その掛け替えのない日常を何時かは過ごしたいとも思う。

だけど……。

 

――まだ見ぬ世界に夢を馳せ、その先での出会いに期待し、日々や冒険に心躍らせる。

 

その感情が、確かに俺の中に存在している。

だからこそ、呟いたのだろう。

「……はてさて、この世界の【碧風(かぜ)】は俺に何を見せてくれるのかね…」

頬を撫でる柔らかな風をその身で感じ取りながら、俺は……

 

――通算で四度目となる異世界の日々に、想いを馳せていくのだった。

 

 




お久しぶりです、龍使いです。
可能性の翼の方は、ちょいちょい書いてますが色々時間がかかっており、気分転換も兼ねて最近始めた軌跡シリーズの執筆を、私個人でやってみようと思います。

いつまで続くかわかりませぬが、がんばっていこうと思います

ではでは
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