英雄伝説~碧風(かぜ)の軌跡~   作:龍使い

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第二話「過ぎ行く時間(とき)の中で」

俺達が“エイドス”に呼び出されてから数年の時が経ち、この世界の常識などにも慣れてきた頃……。

「遅い! その程度の剣速では相手に防がれて終いになるだけじゃぞ、馬鹿弟子が!」

「五歳児体型の相手に相変わらず無茶言ってんじゃねぇよ、馬鹿師匠!!」

俺と師匠は、剣術の死闘(しゅぎょう)に精を出していた。

 

――――

 

「お疲れ、修夜。はい、差し入れ」

「サンクス、拓海。ったく、相変わらず無茶な修行させてくれるぜ、あの馬鹿師匠……」

修行を終えての休息中、大の字になってへばっている俺に、飲み物を差し出す拓海に俺はそう答える。

「はは、確かに“ここ”に来てからと言うもの、君は先生の新たな修行をやってばかりだからね。なんて言ったっけ……確か、八葉…」

「“八葉一刀流(はちよういっとうりゅう)”――この世界で有名な武術の一つらしいぜ。相変わらず何処で覚えてきたのか謎だけどな……」

苦笑を浮かべながら答える拓海に対して、俺は身体を起こしながら座禅を組む。

“八葉一刀流”――この世界で有名な武術の一つであり、《剣仙》の異名を持つ剣豪“ユン・カーフェイ”によって興された剣術の流派。刀・太刀を得物とする剣術で、壱の型から七の型の7種の剣術の型と、武器を失くした時などに使う素手による第八の型《無手》の計8つの武術で構成されている。

この世界でも屈指の実力者達の何人かはこの武術を学んでおり、この剣術の型を一つでも皆伝まで極めた者は《剣聖》と呼ばれるに至るほどの実力を得ると聞いている。

何故師匠がこの武術を知っているのかについてはまぁ、ぶっちゃけどうでも良い。あの人は長い時の中で様々な武術を学び続け、俺や師匠が扱う“四詠桜花流古武術(しえいおうかりゅうこぶじゅつ)”の昇華へと繋げていった。

故に、その過程で異世界の武術と刃を交え、盗み、習得したとしてもなんら不思議ではない。と言うか、あの師匠の“規格外度”は俺たちのような常人の枠に当て嵌めてたら、幾ら突っ込んでも突っ込みきれないからな。

そして、何故俺がこの流派を学んでいるかと言うと……。

「つ~か、幾ら何でも【対抗策】の為に他流派を身体に叩き込むってのは無茶苦茶だろうに……俺じゃなかったら死んでるぞ、ぜってぇ……」

そう、この流派を扱う者達への対抗策として覚えさせられているのだ。しかも実戦形式と言う形を取って、だ。

五歳児体型の人間に対して相当無茶な理論ではあるが、実際の所では“俺限定”でこの理論は当てはまってはいる。

幼い頃から多岐かつ熾烈を極めるような修行を師匠につけられてきた俺なら勝手知ったる何とやら……その時その時の限界が簡単に分かるために相当の無茶をし易い。同時に、幼い身体となっている今なら武術に対する適正を修正しやすく、経験による補正も手伝って臨機応変な作りを生み出せる。

型を覚えつつも型に捕らわれず、【勝って生き残る】ことを理念とする四詠桜花を学んでいる俺だからこそ出来る無茶苦茶な修行と言うわけだ。……やられるこっちが正直しんどいんだがな…。

「まぁ、逆を言えばそれだけこの世界の武術家達が強いって意味でもあるんだろうけどね。君の実力を知らないわけじゃないけど、先生は必要のないことはさせないから……」

「まぁなぁ……」

苦笑を浮かべる拓海の言葉に、俺はそう返す。世界が変われば、実力も変化する……それは俺自身が良く知っているから。

「そういやぁ、お前のほうはどうなんだよ?」

「一応は順調と言ってもいいかな。後は何度か試作品のテストを繰り返せば、実戦に出せるレベルに持っていける筈だよ」

俺の質問に、拓海はそう答えながら【円状の機械】を取り出して眺める。

「……それにしても、調べれば調べるほどこの世界の技術には驚かされるばかりとしか言いようがないよ。僕達の世界の技術と比較しても、その差がはっきりと分かる……」

そう語る拓海の顔は、まさに研究者の顔と言って良いくらいに真剣だった。

「この世界で導力器(オーブメント)と呼ばれる機械の数々は、僕達の世界で言えば数世代先を行っていると言って良い。ましてや、導力(どうりょく)を生み出す七耀石(セプチウム)と呼ばれる鉱石は、それ一つが一種の永久機関として成り立っている。

 ……この技術を確立した人は間違いなく、束師匠(せんせい)と同じ位の天才だね」

「お前にそこまで言わせるのかよ……」

真剣に語る拓海に、俺はそう呟く。拓海は俺が知る限りで数少ない天才の一人であり、技術から事象に至るまでのあらゆる可能性を突き詰める研究者だ。

そんなこいつがここまで言うのだから、この世界の技術は余程のものであると言う実感ができる。

「……だけどよ、それを数年で調べ尽くすお前も大概だと思うぞ」

同時に、こいつがこの世界に来て行って来た事を鑑みると、相当な無茶をしてるのも理解できる。

拓海がこの世界で最初にやった事は、技術体系の網羅だった。それも導力技術が確立される前から存在する技術をも調べて……だ。

武術一辺倒の俺と違って、こいつには手が空く時間が山のようにある。その時間全てを技術調査や研究に当て、理論を纏め、応用の研究に没頭しさえした。

拓海自身は否定するが、こいつは間違いなく天才と呼ばれるに値する素質と努力を積んできた。でなければ、使える時間を全て使ったとは言えど、数年程度で導力技術を研究・習得することは不可能なのだから。

「時間が沢山あっただけだよ。それに束師匠(せんせい)だったら、同じ時間を使った上で新技術の確立くらい平気でやってのけそうだしね」

そんな俺の考えを読み取ったのか、苦笑を浮かべながらそう答える拓海。

「それはそうと修夜……今日は確か、アインさんから修練終了後に執務室に来るように言われてなかったっけ?」

「……ああ、確かに呼ばれてるよ。あんの飲んだくれ総長が……!」

ふと思い出したかのようにそれを尋ねる拓海の言葉に、俺はしかめっ面になりながら答える。

――アイン・セルナート。師匠のこの世界における知り合いであり、俺たちがいる【アルテリア法国】で一応の世話になってる女性の名だ。

紅耀石(カーネリア)》の異名を持つ星杯騎士団の【守護騎士(ドミニオン)】の第一位にして同騎士団の総長らしいのだが、俺からすればただの飲んだくれ騎士に過ぎない。

……つ~か、日々接する内に起こった出来事を思い出すだけでもむしゃくしゃする。事ある毎に酒のつまみは作らされるわ、修行中に師匠と混じって俺を叩きのめすわ、仕事サボってからかいに来るわ……!

師匠からは「お気に入り扱いされておるのぉ♪」とか言われてるが、こっちはただ単に弄り倒されてるだけにしか思えねぇぞ、マジで……。

「……はは、その様子だと無茶な要求を言われることは確定してるって反応だね…」

「つ~か、あの飲んだくれの駄目総長がまともな要求する可能性自体がありえないわ…!」

苦笑を浮かべる拓海に対して、俺は不機嫌な声を隠さないままにそう答える。すると……。

「やれやれ、随分と嫌われたものだね……。君には、それほど無茶なお願いをしたことはないと思ったのだが……?」

背後から、溜息交じりでありながらも凛とした女性の声が聞こえる。

「来やがったな、飲んだくれ騎士……!」

俺は素早く身を起こして距離を取る。視線の先には、苦笑なのか悪戯の笑みなのかよくわからない表情を浮かべた金髪の女性――(くだん)の飲んだくれ堕落騎士、アイン・セルナートが立っていた。

「今、何かとてつもなく失礼なこと考えなかったかい?」

「そう思うならそうなんだろうよ、残念総長……!」

俺のそんな言葉に、彼女はやれやれと肩を竦めながら首を横に振る。

「何が君をそこまで苛立たせてるのかは知らないが、これでも一応気を遣っているのだが……?」

「本当に気を遣ってる人間なら、俺を都合の良い人材として扱わないんだけどねぇ……!?」

嫌味どころか辛辣な言葉の雨霰を投げたくなるようなむかつく表情を浮かべてる彼女に、俺はそう言葉を投げつける。

交流していて理解したが、この女は基本的に根が駄目人間に近い。やるべき事は確かにやるが、それ以外のことは他者に押し付けるかサボるかのどちらしかしない。

また、無茶な用件を平然と言ってのけて、それを実行させたりすることも間々ある。というか、この数年で俺自身も彼女の要求に翻弄されてた人間の一人だ。

初めてそれを知った時は、大真面目に総長を変えるべきだと心の底から思ったほどだ。それが出来ないのは、身に染みて分かっているのだが……。

「……で、今日はどんな無茶な要求を突きつけるんですかな、セ・ル・ナ・ー・ト・総・長・様・!・?」

多大な皮肉を込めた俺の言葉に、彼女は尚も普段の姿勢を崩そうとはしない。つ~か、この程度の皮肉で対応を崩すような柔な性格じゃないのは、俺もよく理解している……。

「おやおや、その言葉から察するに今までのお願いが無茶な要求と言う意味に聞こえるのだが?」

「五歳児体型の少年に山のような書類仕事押し付けたり、アーティファクト回収任務に無理やり連れて行ったりしている癖して、どの口がそんな事ほざきやがるんだ不良騎士がああぁぁ?!?!!」

彼女の誠意の欠片すらない返答に思わず絶叫を上げてしまう俺。……やっぱ俺はこいつが嫌いだ、心底そう思う…。

「まぁまぁまぁ、落ち着いて修夜。アインさんも、弄りは程々にしてください」

肩で息をする俺を宥めつつ、苦笑を浮かべながら拓海は不良総長にそう言葉をかける。

「すまんな、彼との問答は中々に楽しくてつい、な。そろそろ本題に入るとしよう」

そう言って、彼女はポケットからタバコを取り出して口に咥え、一緒に出したジッポライターで火を点ける。

「二人は、正騎士のルフィナ・アルジェントは知っているな?」

「知ってるも何も、ルフィナ姉はあんたと同じくここに来てからの知り合いだっつの。何でんな事聞くんだよ、不良堕落騎士……?」

呆れた顔を浮かべる俺に、堕騎士――もう名前考えるのがめんどうだからセルナートにする――が、紫煙を吐き出しながら答える。

「まぁ、一応の確認事項だ。そのルフィナだが、明日の早朝に、所用でエルメローゼ市に一時帰国する事になった。

 その護衛を、お前たちに頼みたい」

「………………はぁ?」

セルナートの言葉に、更に怪訝な表情を浮かべる俺。隣にいる拓海も、理解が追いついていないといった感じの表情を浮かべる。

ルフィナ姉――ルフィナ・アルジェントは星杯騎士団所属の正騎士であり、ありとあらゆる手段を駆使してさまざまな問題を平和解決に導いてきた有数の実力者だ。ぶっちゃけて言えば、俺や拓海が護衛しなくても並大抵の相手なら普通にいなす事が出来る。

加えて、目の前にいるセルナートの親友でもあり、ルフィナ姉の実力は俺達以上によく熟知しているはずだ。そんな彼女が、何故にこんな不可解な要求をするのか、意味がわからない。

つ~か、何度も言うが五歳児体型の少年にんなこと頼むな、マジで……。

「意味がわからない……といった感じだが、ちゃんと理由がある。まぁ、素直に白状するならば、『今のお前たち』ではなく『元のお前たち』を《紫苑の家》にいる妹達に紹介したいということなのでな。

 建前上、同行させる理由を提示しておきたいということだ」

「……ああ、なるほどな」

そう言われて、俺と拓海は同時に納得する。『元のお前たち』というのは、要するに本来の年齢時の姿である俺たちの事だろう。

理由は不明だが、この世界に着てから暫くしたある時に、本来の姿やそれより成長した形で活動出来るようになっていた。

師匠に問い質してみた所、彷徨者(ストレンジャー)がもつ一種の特異体質の一つであり、それによって活動範囲を広げたり出来るようになるらしい。

要は、俺と拓海がかつて元の世界で、とある理由から過去に『介入』した時に起こった現象をある程度自由に操作する事が出来ると言うことらしいのだが……その体質のせいで、目の前のセルナートに良い様に扱われてる気がしてならないんだよな…。

因みに、そう言った体質を持つようになった理由としては、この世界における本来の姿が現在の俺たちの状態であり、ある時期までは成長できないという体質も持ってしまっているからということだ。

「まぁ、そういう理由なら別に良いけどよ……何か裏はねぇよな?」

「お前はルフィナを何だと思っているんだ……?」

「ルフィナ姉は信じられても、てめぇは信じられねぇつってんだよ堕落総長!?」

呆れた表情で俺の質問に返答するセルナートに対して、即座に突っ込む俺。

ルフィナ姉本人が来ないで、彼女が言いに来た時点で裏を探るのは当たり前である。普段が普段なのだから、信用出来る訳がない。

「ま、まぁまぁ修夜……幾らアインさんでも、ルフィナさんの頼みの中に無茶な要求を入れるはずはないんだからさ…」

「タクミの言う通りだな、まったく……。シュウヤ、君はどうしてそう、私に対して疑り深いんだ?」

俺を宥める拓海の言葉にセルナートは、煙草を咥えたまま呆れてつつ同意する。

「その言葉は自分の胸に手を当てて、俺に対する今までの行動を思い返してから吐きやがれ、腐れ総長があああぁぁぁ!?!?!」

そんな彼女に対して、俺は通算二度目の絶叫を憎らしいくらい澄んだ青空に響かせるのだった……。

 




とりあえず、出来上がってる部分だけ投稿します。区切りもいいですし。

2話で軌跡シリーズ有数の曲者と個人的に思ってるアイン・セルナート総長を出してみましたが、うまく書けてるだろうか……?
知り合いに見せたら、合ってるとは言ってたが……不安だ。

それと、可能性の翼のキャラである修夜達が出てますが、基本本編より相当後の設定になってます。なので、基本的に部分部分で本編のネタばれも入りますがご了承ください。
後、可能性の翼の執筆は、相方の方の都合もあるので遅れてますが、凍結にするつもりはありません。
そっちの方もぼちぼちどうにかしていきますので、気長にお待ちください。

ではでは
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