『リースの摘まみ食い騒動』から暫くの時が経ち、夜もふけ始めてきた頃……。
「まったく……見た目よりも大量に食いやがったなぁ、ルフィナ姉の妹は…」
俺は、先ほどまで行われていた食事会での様子を思い出しながら、厨房で食器や調理器具の後片付けの真っ最中だった。
因みに、ルフィナ姉と拓海は子供達を寝かしつけるために院長先生と共に上の階に行っており、一階の厨房にいるのは俺一人であったりする。
そんな静かな空間の中で、水音と食器や器具が擦れる音が周囲に響く中……。
「……で、今更来られても酒の摘まみになるようなものは作れねぇぞ。残った材料は、明日の朝食分くらいだからな」
俺は、振り返りもせずにそこにいる人物に向かって言葉を投げかける。
「そうか、それは残念だ。久々に君の手の込んだ手料理を食べられると期待していたんだがな」
「大食い娘のおかげで、料理が残らなかったものでね。おかげであり合わせも作れる余裕もありゃしねぇよ」
背後にいる人物の声を聞きながら、俺はそう答える。
「まぁ、これから大事な話があるような雰囲気を出してるあんたにあり合せの料理と酒を出せるほど、俺も無粋じゃないけどな」
そう言いながら、最後の食器を洗い終える。
「……そんなものよりも大事な事を依頼したくて笑ってるんだ。ただの酒盛りで済ませたくないんだろ? ……【アイン・セルナート総長様】?」
振り返りながら、俺は背後にいる人物に向かってそう伝える。そして、振り返った先には……。
――「よく分かっているじゃないか。《
腕を組み、壁に寄りかかりながら不敵な笑みを浮かべる《
――――
その後、子供達を寝かし終えた拓海やルフィナ姉と合流した俺達は、《紫苑の家》敷地内にある礼拝堂に向かい、思い思いの場所に座る。
「……さて、それでは始めるとしようか。余計な前置きは、非効率極まりないからな」
セルナートは、腕を組みながら教壇に寄りかかる形で俺達の方に向き直り、本題を切り出した。
これは俺を含めた誰もが、セルナートがここにいる事実に疑問を持っていない事を知っていての言葉だ。そして、俺達自身もこうなる事は予め予測していた。
何故なら、ルフィナ姉の依頼自体は想定外の事態こそあったが、そこに嘘はなかった。そして、几帳面な彼女の性格ならば、俺と拓海に依頼を出す場合、直接言いに来た上で詳細を話す。
そんな彼女がセルナートに伝言として依頼を頼む理由……それは、俺と拓海に対して【真の依頼】が裏に潜んでいる事を意味する。
そして、それを潜ませてまで俺達を法国から遠ざけた理由は……。
「先日、白夜子飼いの【狐】から私宛に秘匿情報が入った。内容は、“黄金軍馬の隊内にて、白き顔の侵入あり。手負いの鷹と接触”との事だ」
――ほぼ確実に、法国内部では到底話すことが出来ない内容に他ならない……。
「“黄金軍馬”に“白き顔”……、それってもしかしなくても…」
「……だろうな」
「察しが良いな。流石は白夜の弟子達……と言った所か」
俺と拓海が即座にその内容を理解した事に、セルナートは賞賛の言葉を述べる。
「褒められても嬉しくねぇよ。なんせ、あんた宛にそんな情報が来るって事は、【獣】に“見張られている”ような人物だからな……暗号内容から推測しても、該当者なんざ一名しかいねぇ」
そんな彼女の言葉に、俺は肩を竦めて返答した後……彼女を見据えた上で、その言葉を口にする。
「そしてそいつは、七耀教会の封聖省司教でありながら、蛇の使徒が第三柱に属するとされる《白面》にして“外法”……ゲオルグ・ワイスマン以外に他ならない。違うか、セルナート?」
「ご明察だ、シュウ」
その言葉を聞いたセルナートは軽く目を閉じて小さく拍手をした後、言葉を続ける。
「
「その詳しい内容は分かるの、セルナート総長?」
セルナートの説明に、ルフィナ姉は真剣な表情で質問する。彼女自身、セルナートが信頼している人物である為、既に奴の事情を説明されているので冷静である。
「いや、接触を目撃したは良いが、内容までは確認が取れなかったそうだ。目撃した【狐】曰く、術か何かで周囲を警戒していたようなのでな」
「恐らく、自分が帝国内部に潜入した事実を極力外部に漏らさないための用心故だろうね。白夜先生が鍛えた【狐】でなかったら、危なかったかもしれない」
ルフィナ姉の質問に首を横に振って答えるセルナートの言葉に、拓海が冷静に指摘する。
「だけど、それだけに彼が政府要人に接触した理由が、幾つかに絞られてくる。だからこそ、シュウ達への依頼を介して私達を“ここ”に集わせた……ってことね?」
「正解だ、ルフィナ」
ルフィナ姉の指摘に、セルナートは頷きながら言葉を続ける。
「本来ならばこのような情報が入った時点で上層部の連中に
加えて、あの封聖省にいる老害どもの事だ……仮に話を聞いたところで、事態が起こるその時まで
軽く舌打ちをするかのような表情で、セルナートは半ば吐き捨てるように言う。彼女の現在の立場からすれば、後半の台詞は教会の守護騎士の長たる者の言葉とは到底思えないのだが、俺達はその事を指摘しない。
何故なら、俺達に“外法”と呼ばれるワイスマン自身が、正式に教会からの“外法”認定をされていないからである。
元々“外法”とは、アーティファクトの悪用を始め、本来ならば限られた者だけにしか許されない“女神の
加えて、アルテリア法国は“中立”を謳っているので、余程の事態が起こらない限りは任務以外での介入を行うことは出来ない。それ故に、ワイスマンが蛇の使徒である可能性という理由だけでは一蹴されるのは目に見えている。
最も、教会上層部からすれば、これから起こりうる事態に備えるよりも眼前の秘蹟を探索・回収するために騎士団を運用することに力を入れているので、報告の意味は元々なかったりするのだがな……。
「……となると、そこから先の台詞は大体予測できるが……敢えて聞こうか、アイン・セルナート」
そんな彼女の姿を見ながら俺はその言葉を口にし、拓海とルフィナ姉がこちらを見る。
「お前は、俺達に何をさせたい? ……いや、そもそもに【何の理由】があって俺達にそれをさせようとする?」
セルナートを真っ直ぐに見据えた上で、俺はそう問いかける。
「く、くく……」
すると、彼女は顔を俯けて微かに笑い始め……。
「はははははは!! その問い掛けに対する答えが分かっていて、敢えてそれを聞こうとするか、シュウ・アズベルト!」
腹を抱えて、本当に可笑しそうに笑い始める《
「決まっている……【気に入らない】からだ。“
そして、
「私自身、確かに血と肉を七曜の
だが私は所詮、教会にとって都合の良い
そう喋り続ける彼女の表情は、普段の駄目総長でもなければ、人を弄って楽しむ不良騎士でもない。
「我が身と魂が
故に……私は、私の信頼しうる《
ましてや、星杯騎士団の総長でもなければ、《
「正騎士、《千の腕》ルフィナ・アルジェント! 並びに冒険家である《
――誇り高き意思の輝きを放つ《
「《
手段や【獣】達の使用は問わない! どんな手を使ってでもこの任務を完遂させ、その上で奴の望む結果として事態を収束させろ!
その後に起こりうるであろう事態の
「……勅命、確かに承りました」
セルナートの
「不肖、ルフィナ・アルジェント……この身は未だ《千の腕》と呼ばれるには至らぬ分不相応の身なれど、
そのまま彼女の前に跪き、彼女から託された
そもそもセルナートの親友であるルフィナ姉にとって、彼女の我侭に対してこのような対応を取る必要性はない。ただ、普通に聞き入れるだけで事足りるからだ。
しかし、今回のセルナートの我侭はそう言うわけにも行かない。失敗すれば自分や俺達だけではなく、セルナート自身の破滅にも繋がるのは確実であり、惹いては星杯騎士団全体にまで事が及ぶ可能性さえある。そして、その事実をセルナートが考えていないはずがないし、覚悟をしていないわけがない。
だからこそルフィナ姉は騎士として、何よりも親友としてその覚悟に応え、共に道を歩む意思を一連の行動を通してセルナートに伝えたのだ。
「……頼んだぞ、
そしてセルナートもそれを理解しているからこそ、全ての感情を込めたその一言をルフィナ姉に伝えた。
「やれやれ……毎度毎度の事ながら、無茶な依頼を要求しやがるよな、お前は…」
「はは、全くだね」
二人を見つめながら俺は頭を掻きつつぼやき、拓海は苦笑を浮かべて同意する。その俺達の声が聞こえたのか、セルナートとルフィナ姉は黙って視線を向けてきた。
「……だけど、僕としてもそろそろ試作品の実戦テストを行いたいし、断る理由もないからね。その依頼、受けさせてもらうよ、アイン・セルナート総長」
そんな二人の視線を受けつつ、微笑みを浮かべてつつ彼女の
「それで、君はどうするんだい?
そして、そのままセルナートの依頼を『まだ』受諾してない俺に向かって拓海は質問を投げかける。答えは分かりきってるだろうに……。
「ルフィナとお前の二人が揃って、セルナートの
溜息をつきながらも拓海の質問にそう答えつつ、俺は不敵な笑みを浮かべてセルナートを見据え、言葉を続ける。
「正直、普段の
そして……俺達が関わる以上は全力でその期待に応えてやるよ、《
そんな俺の言葉に、セルナートは……。
――「ふっ……相変わらず捻くれた受諾の仕方をしてくれるな、《
信頼を込めた強気な笑みで、そう答えるのだった。
――――
礼拝堂にて秘密裏に行われた会合が終了し、暫くの時が経った後……。
「『今の
アルテリア法国へと帰還する《
修夜自身は信頼の意味でその言葉をセルナートに言ったのだろうし、彼女もその事は十分に承知している。
しかし、それでも……自身の中から沸き起こる感情の波を、彼女は抑えきれない。思い返す度に、胸の内が暖かくなるのを感じてしまう。
「ふふ……この私にこのような感情を生まれさせてくれるとはな…。全くもって面白い奴だよ、君は…」
そう呟きながらセルナートはタバコを取り出して口に咥え、愛用のライターで火をつける。そして彼女は、甲板から見える月を背にして軽く柵に寄りかかった。
「…………。ふー……」
そのまま深く味わうかの様にしてタバコを吸い、静かに紫煙を吐き出す。風に消える紫煙を見つめた後に、セルナートは天を仰ぎながら小さく呟いた。
――「……私の
そう微笑みを浮かべながらもう一度紫煙を吸う彼女の背を、優しい輝きを放つ月と彼女の髪をなびかせる風のみが見つめ続けていた……。
というわけで、これにて今回の更新となります。
毎度の事ながら、各方面から色々文句言われないか不安抱えながら書いています、はい(汗
セルナート総長やルフィナ姉さんの喋り方は3rdで確認したりしているのですが、基本的に出てくる場面が限られているので、きちんと書けてるか不安なんですよね(汗
とりあえず、今回の補足をば……。
本編にて出てきた【獣】や【狐】の意味は次の更新で出す予定なので省くとして……出てきた暗号の意味は文中の通りです。
また、SC最終戦前のイベントを確認しつつ、教授なら実際にどういう風にして行動するかを想定しつつ書かせて頂きました。
ファンから色々と言われてる人ではありますが、慎重かつ用意周到な教授ならばこれくらいの事はするのではないか……と思ったんですよね。
なので、後に起こるあの悲劇の詳細はこの時点では敢えて伏せさせていただきました。
因みに、この時点での教授が封聖省の司教である事や外法認定を受けていないのは公式の年表や3rdの扉イベントでも明言されていますので、SCのイベントも確認しつつ纏めていますのでご了承ください。一応、念の為(汗
次に、七曜教会の上層部などについても知り合いと相談したり、年表や設定などを確認しながら自分なりに纏めてみました。
当時の教会上層部に腐敗がある事は3rdのとあるイベントでも確認されたので、そこから推測した上でセルナート総長の言葉や地の文で表現しています。
ただし、これはあくまで私個人の推測でしかないので、間違ってたらご指摘願います(礼
後は今回のセルナート総長に関してですが……彼女の性格から推測して、教授の企みを知り、それでいて星杯騎士団や封聖省などに縛られることのない戦力と繋がりを持っていたらこうなっているだろうなと言う想定の上で書かせて頂きました。
また、その企てをその場で阻止するのではなく、この企みが成功した後の教授がどう動くかを想定し、万一にも失敗した場合の事なども全て計算した上で、修夜たちに命令という名の我侭として伝えています。
彼女の性格から考えれば、頭を下げてお願いすると言うのは想像できませんしねw
因みに、最後の方の描写の意味はご想像にお任せしますw
ではでは、今回はこれにて~