「それでも」と言って立ち上がってくる系英雄 作:D.D.D_Official
俺の名はアルベルト・フォン・フリークス3世。
幼名はライカード。獅子の如く育つようにだそうだ。
神聖ローマ帝国貴族であるフリークス家の長男兼嫡子だ。我が父アルベルト2世の頑張りによって、俺は無事に嫡子になれたらしい。
自慢ではないが、俺は12世紀の子供達の中では恐らく天才と呼ばれている。何故かって?それは、俺が現代からの転生者だからである。
初めは確かに混乱した。目が覚めたら白い部屋にいて、アラヤと名乗る人物によって12世紀の神聖ローマ帝国…現代で言うところのドイツに転生させられていたからだ。
流石に力の無い状態で転生させられたら拙いと言うことで抗議してみたりした。そしたら、アラヤはニヤリと笑って(表情は見えなかったが、そんな気がした)
「なら、君には英雄になって貰わなくてはいけないね」
と言って『不死』さえ可能な力を寄越して来た。
アラヤが言うには、決して『不老不死』では無いから注意するようにとの事だが、違いがさっぱりわからない。
しかし、そんな『不死』の力を得たからって中世ヨーロッパの殺伐とした世界で英雄になれるとは思わない。しかも、アラヤは意地が悪いのか
「英雄になれなかったら魂ごと消すから」
とか言って来やがった。魂が消されたらどうなるかは知らないが、どうせ碌なことにはならないのだろう。
まぁ、結局はなるようになるだけだ。俺に出来る事はそう多くはないだろうが、精々足掻いてやるさ。
○○○○○○○
あれから10年が経った。俺は今19歳、毎日のように英雄になる為に身体を鍛え続けて来たから筋骨隆々…とは行かないが、細マッチョにはなっている。
当然、この細い筋肉の中に猛烈な密度の筋肉が詰まっているわけだが。実際、素手で岩を粉砕するぐらいには強い。そんな俺のメインウェポンは特大剣だ。
特大剣は良い。剣にも盾にもなるからな。
父上は「強き貴族は良い貴族」と言って自身も筋骨隆々なタフガイなので俺の鍛錬もすんなり認めて貰えた。お陰で、領内での俺たち親子の評判は「脳筋貴族」一筋である。父上はこれに激怒するかと思ったら、むしろ喜んですらいた。
何でも、「鍛えられぬ脳すら鍛えられていたとは!」だそうだ。うん、脳筋だ。とは言え俺も脳筋であることには変わりはないだろう。戦略とか練るの死ぬほど下手くそだし。
そんな折、俺の元へある知らせが届いた。
それは未来を知る俺にとってとても重大な事だった。
『サラーフ・アッディーンが卑劣にもイェルサレム王国を占領。その奪還の為教皇猊下が第三次十字軍の出動を命じられた。赤髭フリードリヒ1世や獅子心王リチャード1世が参戦を表明。諸侯市民構わず参戦されたし。これは聖戦である』
まさかの第三次十字軍だ。歴史ではこの戦いはサラディンの勝利に終わる。赤髭は溺死、フィリップは腹痛、獅子心王は捕虜になる。その結果失地王ジョンの愚行でMagna Cartaを作られるのだが。
それは置いておいて、この十字軍遠征は俺にとってチャンスだ。何故なら、俺のかねてよりの悲願である『英雄になる』という目標を達成する事が出来るからだ。
戦場で華々しい活躍をすれば、当然俺は英雄として祀られる。サラディンを倒した暁にはその名前が永遠に刻まれるだろう。まぁ、それほどまでにサラーフ・アッディーンの名声は凄まじいのだが。
早速俺は父上に参戦を表明する為に直談判しに行った。
「父上、私は此度の十字軍に参戦したいと思います」
「──────やはり、血は争えんな。丁度ワシも征こうと思っておったのだ。しかし、ライカード。貴様が征くのならワシは身をひこう。存分に励めよ」
「はっ!この身で武勲を立て、いつか立派な英雄になり再び父上の元へ帰ります!」
「うむ、その責務しかと果たせよ」
やはり持つべきは強い父上だな。
早速俺は武装して十字軍に参戦すべくジェノヴァへ赴く為馬を駆けた。乗っているのは、愛馬であるルシアンだ。この子は俺にすぐ懐いてくれた筋肉モリモリの軍馬だ。きっとこの戦いにもついて来れるだろう。
ジェノヴァに着いた時、そこは沢山のならず者達がいた。身なりは汚く、碌に武装すらしていない。中には天幕の中で平民の女達を抱いている貴族の三男坊までいた。十字軍は寄せ集めとは聞いていたが、まさかここまでとは。
俺が苦々しい顔をしていると、遠くから大勢の騎士達に囲まれた美少女がやって来た。
「……貴公の名は?」
「──────私は、此度の十字軍に教皇猊下への義によって馳せ参じたフリークス家長男、アルベルト3世であります。貴公は見たところ相当の貴人とお見えになりますが…」
「おや、分かるものですね。如何にも、余が尊厳王フィリップ2世である。此度は貴公の参戦、有り難く思う。赤髭が苦戦している今、貴公の存在はとても得難いものです」
「そのお言葉、謹んでお受けいたします」
まさかフィリップ2世が女だったとは…歴史とはわからない物だな。しかし赤髭が苦戦?まだ死んでないのか?歴史だと、彼は川で転んでそのまま起き上がれずに溺死したのだがまだ死んでいないと言う事は、間に合えば勝てる可能性が上がると言うことでもある。
「──────尊厳王陛下、じき出立です。出来ることならば、我々の手でフリードリヒ1世を救って差し上げましょう」
「ええ、そうですね。皆の者、船に乗り込め!」
「流石は尊厳王陛下だ。兵の統率も取れている。ところでフィリップ陛下、お腹の調子はいかがですか?」
「──────?ええ、問題ありませんよ?」
「そうですか、では私はこれで」
やはり、フィリップ2世の腹痛は嘘だったな。フィリップ2世は史実通りなら腹痛を理由に自国へ帰投するのだが、果たしてどうなるか…まぁ、初めからやる気のない奴にどう言ったって変わるはずもないのだがな。
「出発!出発ーっ!」
さて、パレスチナに着くまで景色でも見てますかね。
○○○○○○○○
パレスチナに着いた。
獅子心王の軍はまだ着いてないようだな。まぁ予想はしていたが。史実でも嵐に飲まれキプロス島まで流されていたはずだ。
「──────ん?あれは…」
「き、貴公らはっ!十字軍かっ!?助かった、貴公らに援助を申し受けたい!」
突然現れたのはボロボロの軽装備をした兵士たちの一団だった。これはまさか…
「我々はフリードリヒ陛下の元、戦っておりましたがフリードリヒ陛下は崩御なされ、我々は散り散りになってしまいましたが残った兵士達で死兵となりシリアにて戦闘!しかし敗北しここまで逃げ帰って来た次第であります!どうか、どうか我らと共にアッコンを!」
俺以外の全員に衝撃が走った。彼の赤髭が死んだのだ、溺死したと知らなかったらこれほど恐ろしいことはない。
王侯が戦場で死ぬと言う事は、アイユーブ軍が捕虜すら取らずに殺戮を撒き散らす凶兵だと言うことに他ならないからだ。
チラリとフィリップ2世を見ると、その目がどんどん冷めていくのが分かった。あぁ、コイツここで逃げ帰る決心がついたのか。元々やる気が無かった所にこれだ。まぁ残当だろう。
だが、ここで帰られてはまずい。
何とかして煽らねば。
「皆の衆ッ!落ち着いて私の話を聞け!」
取り敢えず大声を出して俺の方に注意を向けさせる。大丈夫、俺は英雄になるんだろ?これぐらいなんて事はない。
「敢えて汝らに問おう!汝らは何ぞや!?」
「「「神の軍隊なり!!!」」」
「如何にも!ならば将兵が一人死んだとて、神の国へ帰るだけの事!臆するな、神の兵士たちよ!我らの神は勝利を望まれている!故に逃げ帰る事は末代までの恥と知れ!」
「「「応!!!!」」」
「しかしそれでも尚、臆すると言うのならば!考えてみよ!我らがここで逃亡しようものならば、次に狙われるのは我らの土地、我らの家族ぞ!そのことを努、忘れるな!」
「「「おおおっ!!!」」」
よし、士気は最高潮だ。好きだろう?聖戦。
これでフィリップ2世への牽制にもなったし、早速アッコンの制圧を済ませてしまおうか!
○○○○○○○○
「アッコン包囲完了しました!」
「よし、では弓兵や投石による攻城を開始せよ!」
「「「おおおおおおっ!!!!」」」
アッコンの城壁は硬い。弓や石のペースだと数ヶ月はかかるだろうな。何より、十字軍の数が足りない。あと1万人は欲しい所だ。
俺は何をしているかと言うと、散発的に出てくるアイユーブ軍の兵士たちをルシアンを駆けて斬り捨てている。
そしてそれは2ヶ月経った今日も同じだ。
「出たぞっ!剛腕の騎士だ!」
「何だあいつの剣は!デカすぎるぞ!」
「弓だ、弓を使え!」
「オラァッ!!!」
「「「ぎゃあああああああっ!!!」」」
大抵、密集陣形…ファランクスが最強の時代なのでそれを取っている部隊が殆どで、遊撃で一気に陣形を崩してくる俺のような奴にボコボコにされる。
特大剣は質量武器だ。如何に盾を持っていても、盾ごとひしゃげて死ぬのがオチだ。今回も、愚かしくファランクスを組んでやってきたアイユーブ軍を特大剣の薙ぎ払いで殺戮した。
「良くやりました、騎士アルベルト…いえ、ライカード」
フィリップ2世とは名前で呼び合う仲になった。俺が武勲を立てる度に天幕は呼ばれ、お褒めの言葉を戴くのだ。まぁ、これは多分俺への勧誘とアピールだろうな。
リチャード1世とフィリップ2世はあまり友好的ではない。それ故、優秀な騎士が一人でも欲しいんだろう。だが俺は英雄になれたら隠居するつもりだから、誰かの騎士にはなれない。
「御歓談中失礼します。リチャード王の軍が間も無く到着します。じき、アッコンも陥落するでしょう」
「……そうですか、では歓待の準備を。ライカード、切り込み隊長は貴方に任せますが…良いですね?」
「願ってもないことです。その任、喜んでお受けいたしましょう」
とうとう来たか、決着の時が。
「ご報告します。以前よりフィリップ陛下が同盟を結ばんとされていたコンラート卿との同盟が締結されました。今後は更に攻略が楽になるかと」
「まぁ!それは良かった!では早速軍を送るように指示を。コンラート軍の指揮権はアルベルト3世に移譲、彼らには最前線で突撃してもらいます」
「了解致しました。では伝えて来ます」
……この女、平然と人の軍隊を特攻隊にしやがった。まぁ良いか。俺の部下が出来るって事は、俺の華々しい活躍を宣伝してくれる奴が増えるって事だ。有効に活用させて貰おう。
「獅子心王リチャード陛下の御成であるぞ!道を開けよ!」
どうやら来たみたいだな。さて、俺はこれから素振りでもして来ようかな。もうすぐ決戦だ、出来る事はしておいて損はないだろう。
「あら、ライカード。貴方も来るのですよ?」
畜生。
○○○○○○○○
「良くぞ来てくれましたね、猫…失礼、獅子心王?」
「そう言う貴様こそ、未だに王を続けられているとは感心だな。小娘?」
「フフフフ…」
「ククク……」
空気が重い。やっぱりコイツら敵対してたよ。まぁ、元よりフランスはイギリスへの領土的野心があった訳だし、当然といえば当然なんだが。にしたってコレは酷い。士気がダダ下がりする。
見てみろ、リチャード1世の側近なんて泡吹いて倒れそうじゃないか。あとで労ってやろう。
「……して、そこな騎士は何者ぞ。貴様の男か?」
「まぁ、私は既婚者ですよ?そのような低俗な発言がよくもまあ出来たものですね。この者は此度の戦役で数々の武功を上げし騎士、アルベルト・フォン・フリークス3世です。少なくとも、貴方よりは役に立ちそうですね?」
やめてくれ、俺を巻き込むな。
英雄の最期は毒殺だと相場は決まっているが、今じゃない。空気が刺々しいを超えて剣の山だよ。この場の殆どの人間は胃痛を覚えているだろう。
え、俺?俺は英雄になるんだから腹痛にはならんよ。
「そこまで言うならば、証明して見せろ。アッコン包囲戦に於いて我より武勲が劣っていたのなら、即座に首を刎ねる。それで良いな」
「構いません…ですよね?ライカード」
「──────はい」
俺の英雄覇道は前途多難のようだ。
──────────────────
「では、フィリップ陛下。行って参ります」
「ええ、我々に勝利を。」
「勝利を。」
フィリップ2世と話を終えると、俺は鎧についたマントをはためかせコンラート軍の前に立つ。これからするのは、士気高揚の為の儀式のようなものだ。
「諸君ッ!我が名はアルベルト3世、十字の守護者である!君たちはこれから、俺の直属となる!即ち、君たちは今から神の威光を知らしめる一つの塊となるのだ!」
「「「おおおおおっ!!!」」」
「いざ征かん!栄光の地へえええっ!!」
「「「ウォオオオオオオオオオ!!!」」」
士気は上々。さて、城攻めだ。
と言っても、俺にとっても初めての攻城戦だ。敵の防壁は主に煉瓦や木だ。これぐらいなら俺の剣でも叩き潰せそうか…?
「試してみるか…!オラァッ!!!」
見様によっては鉄塊とも見える特大剣を城壁に叩きつける。おお、面白いぐらいに壊れるぞ!毎日筋トレ続けてて良かった!
「オラッ!せあっ!ぬぅんっ!」
俺が剣を振るうたびに城壁が揺れる。俺の予想なら、もう少しで…
「はぁぁぁぁぁ!!!………よし!進撃開始ぃいい!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
──────まじか。城壁が崩れ落ちた。
ともあれ、チャンスには変わりない。さっさと攻め滅ぼそう。サラディンが来たら絶対負けるしな。それは確証を持っていえる。
サラディンは真の勇者だ。俺のような英雄願望丸出しの戦餓鬼とは比べ物にならないぐらい強いし、カリスマがある。
その証拠に、サラディンは敵であるはずの十字軍から真の勇者と呼ばれた程だしな。こればっかりはサラディンの凄さを認めて、俺はその中で出来る事をしなくてはな。
「アルベルト様!手に入れた物資は如何致しますか」
「捨て置け!今は一刻も早くアッコンを制圧せよ!抵抗する者は殺しても構わんが、できれば控えよ!」
「はっ!みんな、聞いたか!?」
さて、俺は都市の奥まで入って降伏勧告でもしてくるか。俺としても無益な殺生はしたくないしな。
「私はライカード。この都市を陥した者である。代表者は我が前に出よ」
高い所から粛々とした感じでそう言うと、避難民たちを守っていた戦士達の中から一人が前に出てくる。見た所、鎧すらつけていない女だ。しかも肌が異様に白い。まるで吸血鬼みたいだ。
「ボクがリーダーのリーブルだ。ライカード、とか言ったかな?ボクを敵に回しても良いのかな?ボクはこれでも権威ある魔術師だ。そんなボクを敵に回したらどうなるか分かってるよね?」
「貴様がこの者たちの長か。では早々に降伏せよ。さすれば命までは奪うまい」
「………話、聞いてたよね?ボクは魔術師。キミは非魔術師。勝てる道理が無いというのは分かっているだろうけど」
「この世界に魔術や魔法なんてものは無い。」
「んなっ!?ふふ、良いだろう……なら見せてあげるよ!ボクの400年の魔術をね!」
リーブルと名乗った頭が可哀想な女が何やら光り出した。どんな絡繰だ?まぁ良いか、斬り捨ててしまおう。もしかしたら原子力とかを魔法って言ってるのかもしれないし。
もしリーブルが核融合とかで自爆した場合、危険だしな。
「ふははは!キミはこれから死────え?」
「む、頭以外を吹き飛ばされてまだ生きているとはな。本当に魔術師だったか。では完全に殺してしまおう」
俺が特大剣で吹き飛ばすも、頭だけで生き延びているようだ。気持ち悪いな…まぁ、挽肉にしたら死ぬだろ流石に。
「ま、待って!ボクは────!」
「オラァ!オラァ!潰れろぉ!」
「────!────!?──────ッ!!」
初めのうちは何やら叫びにならない叫び声を上げていたが、次第に静かになり、最後には塵になって消え失せてしまった。
余りにも長く抵抗されるものだから、元々は白銀色だった剣が血まみれになってしまった。後で洗わなくちゃな。
「………さて。残った諸君は抵抗するかね?」
「「「降伏します」」」
──────────────────
さて、すんなりと都市を制圧できたわけだが。
俺は今、リチャード1世に呼び出しを食らっていた。
流石に活躍しすぎたか?だが、これぐらいしなければ英雄なんぞには成れやしないだろう。
「リチャード殿下。私にどのようなご用件が…?」
「うむ、単刀直入に言わせて貰おう。貴様の強さはしかと分かった。その上で貴様に頼みがある。フィリップ2世を捨て、我につけ」
「…と、言いますと?」
「要するに、我らの軍隊だけでは聖地奪還は難しい。だから我の軍につき、戦力の底上げを頼みたい。どうやら、フィリップは此度の戦に消極的なようなのでな」
やはりか。まぁ元から決まっていたようなモンだし気にするほどでも無いか。それなら、俺が英雄としてすべき事はただ一つだろう。
「この身は元よりフリークス伯爵家のもの。そして私は当主ではありませんが故、永遠の忠誠は誓えませぬがこの命、獅子心王閣下にお預けしましょう」
「おお!永遠の忠誠が無いというのはまぁ良いが、兎に角貴様が我が軍に着いてくれるのは非常に有難い。まぁ、本来はフィリップが十字軍遠征に意欲的であればこのような交渉をしなくても良かったのだがな」
ふむ、史実ではフィリップ2世はこのまま帰る筈だが、俺の働きかけで歴史を変えられないだろうか?マグナカルタの成立が危ぶまれるかもしれないが、失地王ジョンの事だ。
どうせ碌でも無い事してマグナカルタ作られて終わるだろう。
歴史を守るのなら、リチャード1世には残念だが、大人しく捕虜になってもらう他あるまい。だが、それは本当に英雄のする事か?
真の英雄なら、例え確定された未来だろうと覆してみせるものでは無いのか?
………よし、そうと決まれば早速行動だ。
俺は港を張る事にした。
何故かって?フィリップ2世に帰って欲しくないからだよ。
「──────全く、下らない。こんな事がフランスの為になるものか」
おっ、早速見つけたぞ。白髪金眼の美少女、フィリップ2世だ。俺としてはフィリップ2世は極めて21世紀的な考え方が出来る人だと思っている。
だからまあ、話せばわかるだろう。
「ええ、ですから腹痛を─────おや。ライカード、このような場所で何を?」
「フィリップ陛下。何処へ行かれるのです?」
「貴様!フィリップ陛下に気安く話しかけるでない!」
見たこともない騎士達がフィリップ2世の護衛をしていたようで、十分に警戒されあっという間に包囲されてしまう。参ったな。
「貴様は何者だ!所属と名を名乗れ!」
「邪魔だ。私は今、フィリップ陛下に話しかけているのだ。退かぬなら斬るぞ」
「貴様ァ!皆の者!此奴を討てい!」
「「おおっ!」」
間抜けめ。戦場に出てこなかったお前がずっと戦ってきた俺に勝てるはずなかろう。言っちゃ悪いが、鎧袖一触だ。
「オラァ!」
「「「ギャアアアアアアアア!!!」」」
「そう言えば、名乗って居なかったな。俺の名はアルベルト。フィリップ陛下からはライカードと呼ばれている。」
「な、まさか…あの……血濡れの!?へ、陛下ぁ…!お逃げ下さい!この者はぁっ!」
フン、弱者だが忠誠心は一人前か。
主の居ない俺にとってその在り方は少し眩しい。
「…………ライカード。」
「どうか、ご再考願います。今、フランス軍が抜けてしまえば聖地の奪還は不可能になります」
「ですが、私は既に目的をほぼ全て果たしています。あと一つ。優秀な騎士を手に入れることを除けば、ですが」
「……………………」
「そして私はこの戦いに意味を見出せない以上、これ以上戦場に居るべきでは無いのです。そこで、私には戦場から去る理由が必要なのです」
「──────それは、腹痛ですか?やめておいた方が良いでしょう」
「何故に?」
「私から、給仕の者に手を回しフィリップ陛下の食事は非常に健康に気を遣った代物を提供させて頂いておりました。今、貴女が腹痛を起こすと言うのはあり得ないのです」
「────────────!」
この場で初めてフィリップ2世が驚いた顔をした。彼女は絶対に知り得ないだろう。俺が元現代人で栄養や食事について多少の知識を持ち合わせている事など。
「そう、ですか……最後に聞きますが、ライカード。私の騎士になるつもりはありませんか?」
「貴女が私を貴女の騎士たらんとする契機があれば」
「本当ですね?では……魔術師っ!」「はっ」
「なぁっ!?」
魔術師だと!?俺を殺すつもりか!?
くそ、だんだん、意識が…!
まだだ、俺はこんな所で…倒れる、訳には……
──────────────────
「うう…ここは、一体……?」
「あら?意外と早く起きられたのですね」
「………フィリップ陛下?」
俺が目覚めると、俺の上にフィリップ2世が跨っていた。何、この状況……?
「ふふっ、ライカードがいけないのですよ。私の誘いを断るから…だから、仕方ないんです。これは」
フィリップ2世はそう言うと、俺の上で服を脱ぎ始めた。おい、まさかそんな古典的手法を使うつもりか?やめろ、それはダメだ。
「おっ!俺はまだ純潔の身で…!」
「おや、既に結婚していると思いましたが。これは僥倖ですね。では、始めましょうか?」
「アーーーーーーーーーーッ!!!!」
くそう。大人にされてしまった。
しかも何が悔しいって、これでフィリップ2世に帰国の口実を与えてしまった事だ。流石に一回で…って事は無いだろうが、それでもだ。
これで十字軍遠征失敗したら確実に俺のせいだ。
マジで最悪だ。俺がもっと強ければ、魔術にも抵抗出来たのだろうか。というか、魔術なんてものが存在する事自体頭に無かった。
これはもう、アレだな。鍛える他は有るまい。
という訳で、早速特大剣で素振りをしていると何処からともなく視線を感じた。この嫌な感じは、恐らく魔術師か何かなのだろう。
もう二度と同じ轍を踏んでなるものか。
「そこな魔術師、今すぐ出てこなければ斬り殺すぞ」
ガタガタっと音を立てて逃げ出す音が聞こえた。逃げるのか…もしかしたら敵側のスパイかも知れないな。追うか。
「──────居た。」
「ひょえっ!?魔術で強化してるのに追いついてきたぁっ!?」
女か。眼鏡をかけていて、全体的にボサっとした感じの野暮な女だ。しかし魔術師だ。細心の注意を払って対処しなければ。
「止まれ」
「止まったら殺すんでしょーっ!?」
「殺すのは話を聞いてからだ。場合によっては殺さん」
「ほ、本当ですね!?」
女魔術師は停止すると、息を整え始めた。
剣はいつでも振るえる。軌道は即死。
「名を名乗れ魔術師。嘘をついたのが分かったら殺すから、本当の事だけ言え」
「は、はいっ!あ、アタシはリチャード閣下に雇われた野良魔術師のアルス・マギア・ヴォイド・アークです!野良…と言っても、これでも8代は続いてる家系なんですが。」
長い名前だ。これからはアルスと呼ぶ事にしよう。
「して、アルスよ。貴様は何故俺を覗いていた」
「えと、あの……そのう…」
「どうした?言えぬか。無口は死を呼ぶと思え」
「えっ!あ、違うんです!うぅ〜っ…ファ、ファン…なんです!あなたの!剣聖ライカード様のっ!」
「───────────は?」
絶句した。
ファン、ファンだって?
それはつまり。英雄としての俺を慕う人間って事だ。それも、8代も続いていると言う魔術師の令嬢が、だ。つまりコレは…俺の活躍が認められたと言っても過言ではないのでは?
「そ、それで…ライカード様の英雄譚を後世に残すべく魔術紙にその言動を書き起こしておこうとしたまででぇ…!お許しくださいぃ…」
「────フ、フフフッ!はははっ!」
「ふぇ…?」
思わず笑みが溢れてしまう。
俺は成れたのか。この娘にとっての英雄に。
これが一人、二人と増えていけば…英雄街道まっしぐらだ。これで魂の死は免れる事が出来る!
「良い良い、すまなかったなアルス嬢。そう言う事なら、態々隠れる必要など無いぞ?俺の側で書き記すが良い」
「おれの、そば……はわっ!?」
アルス嬢は顔を真っ赤に染めてしまった。そうかそうか、そんなに嬉しいか!いやあ、鍛えてて良かった!フィリップ2世に襲われるという悲劇があったが、まぁ良いだろう!
「伝令です!フィリップ殿下が悪阻を理由に戦線離脱!至急、アルベルト様にお越しになるようリチャード閣下からの伝言です!」
「──────やはり、か。今行こう。アルス嬢、君も着いてきたまえ」
「良いんですか?」
「おや?そちらの方は…アーク殿ではありませんか!貴女にも召集が掛かっています、アルベルト様と共にご同行願います!」
「あっはい」
──────────────────
俺たちが軍会議室に着くと、リチャード1世が物凄い渋面で座り込んでいた。まぁ、そうなるわな。
「アルベルト3世、現着しました。」
「魔術師アーク、ここに」
「──────む、貴様らか。早速で悪いが、貴様らの配属はこれから我直属となる。フィリップ2世去りし今、この我のみがキリスト教の君主だ。どうか、従って欲しい」
「騎士アルベルト3世、貴方に忠誠を誓いましょう。これからはどうか、ライカードとお呼びください」
「アタシはライカード様に追従します」
「………そうか、感謝する。では、これより作戦を説明しよう。これより、我々第三回十字軍はエルサレム奪還のためヤッファを制圧する。出軍の際、捕虜の激しい抵抗が予見される。その為、只今から捕虜2700人の殺戮作戦を開始せよ」
そうだった。史実では捕虜を全て殺していたんだったな。しかし、これは英雄的行動だろうか?アルス嬢を失望させはしないだろうか。
捕虜を無慈悲に殺す俺の姿を誰が英雄と言うのだ。
「恐れながら陛下、虐殺はしない方が賢明かと」
「ほう、訳を述べよ」
「我々は神の兵士です。宗派が違うからとは言え、同じ神を信じる者達を鏖殺するのは如何な物かと」
どうだ?俺たちが「十字軍」である事を利用した詭弁だが、唯一のキリスト教主であるリチャード1世には耳が痛い事ではないか?
「知った事か。奴らはイエスを信じぬ。奴らめが信じるのは
「…………………」
「分かったのなら、早く行け。サラディンの居ぬ間に作戦を遂行しなくてはならない」
「──────了解、しました」
捕虜を殺す事に罪悪感は無い。
俺の心にあるのは、ただ一つ。
「英雄になる」ことだけだ。
だから、俺は無視する。
「いやぁああああっ!」「この子だけはっ!ぎゃっ!?」「おかあさ────」「悪魔めぇっ!」「勇者様ぁ!助けてぇ!」「啓典の民に呪いあれ!」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」
────英雄に救われるべき人々の声を。
《真名解放》
真名 ██のセイバー→ライカード
宝具【███████████████】
効果:自身にターゲット集中&無敵状態(3回)付与&ガッツを付与(5ターン)&NP獲得率をアップ(3ターン)
スキル1「不屈」CT8
自身にガッツ(3ターン5回)を付与&ガッツ発動の度に攻撃力アップを付与(3ターン)
スキル2「██」CT6
自身にNP40%を付与&キャスター特攻を付与(4ターン)
スキル3「█████」CT5
敵全体の防御力をダウン(3ターン)