○『コードギアス - 魔導のルルーシュ』本編との相違点
1,ルルーシュがアッシュフォード学園に在学
2,スザクと特派がブリタニア軍所属のままで、アッシュフォード学園に在籍
3,ヴォルケンリッターと本編よりも早く合流
など、原作寄りの展開を進んだルートを基にしております。
細部は詰めていない不思議時間軸なので、勢いで読んでいただけると幸いです。
※
()は心の声
「()」は小声でのひそひそ話
ルルーシュ生誕記念特別回~IF世界線一話完結短編~
生徒会に所属する水泳部のシャーリー・フェネットは、胸を高鳴らせながらアッシュフォード学園にあるクラブハウスへと足を運んでいた。
手に握っているのはコンサートのチケット。仕事で良く家を空けている父親が送ってくれた品だ。
コンサートの日付は今度の日曜日の夕方。
最初はルルーシュをデートに誘うなんて恥ずかしいと、このチケットをどうするか決めあぐねていたが、ミレイ会長の応援(恐らくは面白半分)とガッツの魔法(単なる気合)もあって、ルルーシュをコンサートに誘う事となった。
(デ、デートじゃないし? お父さんからもらったチケットが勿体ないから、友人と一緒に見に行くだけだし? 偶々その相手がルルだっただけだし?)
どこか浮ついた気持ちで心の中で自己弁護しながら、シャーリーはクラブハウスの中へと入っていく。
「今の時間帯だと、ルルとナナちゃんは多分……こっちの部屋だよね?」
これまでの経験から、シャーリーは二人がいるであろう部屋へと向かってクラブハウス内を歩いていく。
予想通り、いると目星をつけていたルルーシュとナナリーの部屋から、二人の声がかすかに聞こえていた。
──ナナリー……大切な話があるんだ。
──お兄さま、大切なお話とは一体なんでしょうか?
どうやら、部屋の中ではルルーシュがナナリーに何か大切な話を始めようとしているらしい。
(大切な話ってなんだろう? 盗み聞きをしているみたいで、ちょっと悪いかな? でも……気になる)
シャーリーは罪悪感を覚えながらも、ルルーシュが話し始めるのを聞き耳を立てて待っていた。
──今度の日曜日、ナナリーに会って欲しい人がいるんだ。
ルルーシュの口から聞こえてきたのは、とんでもない爆弾であった。
シャーリーは思わずその場から逃げ出す様に走り出す。その目元には、涙が滲んでいた。
クラブハウスから出て、学園の校舎裏まで離れたシャーリーは、乱れた息を整えてから呟く。
「……そうだよね。ルルってばモテるんだから、そういう人がとっくにいてもおかしく無かったよね……」
頭では理解したつもりになって、でも心では認めたくなくて。グシャグシャになった心境を必死に戻そうとして、でもドンドン悲しい気持ちが強くなっていく。
「何やっているんだろう、私……。ルルに好きな人がいた事を祝わないといけないのに、どうして……」
む、瞳からあふれる涙が零れるのを止められない。嗚咽が零れるのを止められない。その時、
「シャーリー……どうしたの!?」
そんな自分を見つけてしまったのは、よりにもよってミレイ会長であった。しかもニーナとマーヤ、スザク君も一緒だ。
「ミ゙レ゙イ゙会゙長゙……。ルルに、ルルに恋人がいたんです!」
「「「「……えぇっ!!?」」」」
シャーリーの言葉に、驚きを隠せない一同。
「ちょっとシャーリー。それって本当なの!?」
「はい……。クラブハウスでルルがナナちゃんに『会って欲しい人がいる』って」
「ルルーシュに恋人がいただなんて。知らなかった」
間違いじゃないのかシャーリーに問いかけるミレイ。親友の交際関係にポカンとするスザク。
「今度の日曜日に、ナナちゃんとその人を会わせるつもりみたいです……。コンサートのチケット、無駄になっちゃいました……」
「そう言えば、ここ最近ルルーシュは上機嫌だったけれども……そう言う事だったのね」
「マーヤちゃん!?」
落ち込むシャーリーに無自覚なまま追撃を加えるマーヤ。思わずツッコミを入れるニーナ。
「ふむふむ……。ねえ、シャーリー?」
「なんですか……会長?」
「シャーリーは、このままで良いの? ルルーシュ君に想いを告げる事もできないまま、誰かもわからない人に取られてしまって」
「それは……」
ミレイ会長の問いかけに、シャーリーは言い澱む。
本音を言えばルルを諦めたくない。彼に自分の想いを伝えたい。でも、既に恋人がいるのに告白して、断られるだけじゃなくこれまでの関係も壊れてしまうのが怖い。
「シャーリー。変わらないものなんて、この世界には存在しないの。それは誰かとの関係だって同じ。これまでの関係だって、いつかは変わる日がやってくる。唐突にその時が来て置いてけぼりにされるくらいならば、玉砕覚悟でも自分から進んでいきましょう? やらない後悔よりもやる後悔ってね!」
「でも、もしもルルの恋人が本当に良い人だったら……」
「それを確かめるために、今度の日曜日、ルルーシュ君を尾行するわよ! 本当にルルーシュ君を任せられる人なのか、この目で確かめなくっちゃ♪」
「……はい! 私、頑張ります!」
────────────────────
そして日曜日を迎え、ルルーシュがナナリーを連れてクラブハウスを出発したのを確認した生徒会一同は、ルルーシュの恋人がだれなのかを突き止めるために尾行を開始する。
トウキョウ租界の道路を、ナナリーの車椅子を押して進むルルーシュ。
対する生徒会の一同は、ルルーシュに気が付かれないようにかつ見失わないよう注意しながら、二人の後を尾行する。
「まさかルルーシュの奴に彼女がいたなんてなぁ。此処しばらく忙しそうにしていたのは、それが理由かぁ?」
「はぁ、どうして私まで」
恋人がいるような素振りを見せていなかった
「ミレイ会長。やっぱりこういうのは良くないのでは……」
「スザク君は気にならないの? 親友の恋人がどういう人なのか」
「う、それは……」
「(もしもルルーシュが恋人を切っ掛けにブリタニアへの復讐を止めるならば、その時は……)」
マーヤが物騒な事を考えている事に誰も気が付かないまま、生徒会一同はワイワイガヤガヤと雑談しながら尾行を続けていた。
────────────────────
「……ふぅ。此処に来れたのは久しぶりだが、やはりここの紅茶とオレンジタルトの組み合わせは素晴らしい」
その日、純血派のリーダーであるジェレミア・ゴットバルトは久方ぶりの休暇を使ってお気に入りに喫茶店でランチをとっていた。オレンジがふんだんに使われたタルトは、しつこくない甘さとすっきりとした酸味がザクザクとしたタルト生地と相まって非常に美味い。まさに自らの忠義を体現しているかのような味わいだ。
「ん? あれは……」
オレンジタルトを食べ終えて紅茶を飲んでいたジェレミア卿の視界に、なにやら怪しい動きをしている学生の一団が映る。しかもよく見るとそのうち一人は特派所属の枢木スザクではないか。
そう言えば、枢木スザクが在学する事となったアッシュフォード学園は、敬愛する今は亡きマリアンヌ様の後ろ盾となっていたアッシュフォード家が運営している。そして枢木スザクは、マリアンヌ様の忘れ形見であったルルーシュ様とナナリー様が、エリア11となる前の日本に送られる際、その引受先で合った枢木家の一人息子。
これが只の偶然で片づけて良いのだろうか?
「何か裏があるかもしれん。……確かめてみるとしよう、全力で」
ジェレミアは記憶の隅からその事を思い出し、ウェイターにチップ含みで会計を支払う。そしてそのまま生徒会一同に気が付かれないように尾行を始めるのであった。
一方、ジェレミアも気が付いていない処では、別の動きがあった。
「あら?」
それは、変装してお忍びで租界を散策していたユーフェミアである。
あまり長い時間は政庁を空けられないが、気晴らしくらいは許して欲しいものだ。それに、こうして民の生の空気を感じ取ってこそ、為政者として必要な判断を下せるはず。
そう思って租界に向かったユーフェミアの視界に、学生たちと一緒にワチャワチャと楽しそうにしているスザクとマーヤの姿が映る。
学生として楽しんでくれている事を嬉しく思いながら、二人は休日にどんなことをしているのだろうと気になり、その後を尾行し始めるユーフェミア。
「ふふ……♪ まるで映画のワンシーンみたいですね♪」
異なる思惑から生徒会一同を尾行し始めるジェレミアとユーフェミア。その結果、道中の細くなった路地にさしかかった時、距離が縮まったジェレミアとユーフェミアは互いの存在に気が付く事となる。
(何故この様な所にユーフェミア副総督が!? 拙いぞ。此処でユーフェミア副総督がおられる事が露見して騒ぎが起これば、枢木スザクの尾行どころではなくなってしまう!)
(あれはジェレミア卿!? どうしましょう……もしも私の正体が気が付かれてしまったら、政庁に連れ戻されてしまいます)
「……」
「……」
ジェレミア卿としてはユーフェミア副総督の周囲への正体露見を防ぎながら枢木スザクを尾行せねばならず、ユーフェミアからすればジェレミア卿に正体が気が付かれないように尾行を続けなければならない。
互いに緊張が走り、気まずい沈黙のまま生徒会一同の尾行を続ける事となった。
────────────────────
後方で自分達が尾行されている事に気が付いていない生徒会一行。ルルーシュがナナリーを連れて向かった先は、租界を見下ろすことができる高台であった。
高台にはルルーシュを待っていたかのように一人、金髪の優しげな表情の女性がベンチに座っている。
「久しぶりね、ルルーシュ」
「待たせてしまってすまない。シャマル、この子が俺の妹のナナリーです」
「この方がシャマルさん。優しいお声の方ですね」
「(うぉっ、すっげえ美人……)」
「(何というか、母性の強そうな人だね)」
リヴァルやスザクがそう評した女性は、おっとりとした顔つきで露出の少ないどこかの会社の制服でありながら、大きく主張する胸元などどこか大人の色気を感じさせていた。
(ルルーシュ……見極めさせてもらうわ)
「(あれが、大人の魅力……)」
(私、帰って良いかな?)
マーヤ、ニーナ、カレンがそれぞれ異なる事を考えたり呟いたりしている中、シャーリーは涙目になってプルプルと震えている。
「(シャーリー、大丈夫なの?)」
「(会長……勝てそうにないです)」
「(諦めたら試合終了よ! ガーッツ!)」
「(……はい! シャーリー・フェネット、当たって砕けます!)」
「(その意気よ! 骨は拾ってあげるから)」
シャマルという女性に対して朗らかな笑みを浮かべているルルーシュを見て、心折れそうになっているシャーリーを、ミレイは励まし勇気づける。
シャーリーは涙を拭うと、思い立ってルルーシュの元へと走り出した。
「それでシャマル、ナナリーの──」
「ルルっ!」
「ん? シャーリー、どうしてここに?」
「き、聞いて欲しい事があるの! わ……私! ルルの事が好き!」
「……えぇ!?」
シャーリーからの突然の告白に、思考がフリーズして戸惑いを隠せないルルーシュ。
「あらあら♪」
「まぁ……」
一方のシャマルとナナリーは、その様子をどこか楽しそうに見つめていた。
「ルルに好きな人がいる事は分かってる。でも……此処で踏ん切りをつけないと、私はずっと後悔し続けちゃうから!」
「シャーリー。俺には──」
「あらまぁ、ルルーシュってば、好きな子がいたの? 私にも教えてちょうだい?」
「……え?」
「「……え?」」
シャーリーの玉砕覚悟の告白にどう応えるべきか悩むルルーシュだったが、シャマルの言葉に一同は首を傾げる事となった。
「……え? シャマル……さんが、ルルの好きな人なんですよね?」
「え? 家族みたいな関係ではあるけれども、恋人ではないわよ?」
「家、家族ぅ!? そ、それってひょ、ひょ、ひょっとして!?」
シャーリーの妄想回路が暴走し、ルルーシュとシャマルの家庭が脳内に映し出される。
「シャマル……勘違いさせる言い方は勘弁してくれ」
「あら、ごめんなさい。貴方の事を愛してくれている子だから、つい揶揄いたくなっちゃって」
「シャーリー。この人は7年前に……ナナリーとはぐれてしまった俺を匿ってくれた恩人で医師なんだ。今回は久しぶりに再会する事が出来て、ナナリーの足を治せるかもしれないから会って話をしてもらおうと……」
「そ、そうだったんだ。……じゃあ、私……勘違いで告白……しちゃったって事!?」
「そう言う事になるわね♪」
勘違いに気が付き、さらに勢いでしてしまった告白に顔を真っ赤に染めてゴロゴロと転がって悶え始めるシャーリー。
「七年前……。そっか、あの時行方不明だったルルーシュを保護してくれていた人達だったんだ。良かった……」
「ルルーシュ……(良かった。ナナリーの足を治すためだから、ブリタニアを倒す意志は消えていない……はず)」
スザクは七年前のおのれの罪に関わる記憶を思い出しながら、マーヤは共犯者として一応は安心しながらほっと一息つく。
一方、生徒会を尾行する事で結果的にこの話を聞いてしまったジェレミアとユーフェミアはというと……。
「七年前……そして傍らにいる車椅子の少女。よもや、マリアンヌ様の忘れ形見であるルルーシュ殿下とナナリー皇女殿下!? このような形で無事を確認できるとは……本当に、本当に良かった!」
「ルルーシュ……ナナリー。二人とも、無事でよかった……」
ルルーシュとナナリーの無事を知る事ができ、ジェレミアとユーフェミアはその場を離れてから思わず抱き着いて喜びを露わにする。
「……っは! も、申し訳ございません、ユーフェミア副総督。とんだ不敬を!」
「いえ、何も問題ありません。此処にいるのはジェレミア卿と只のユフィですから♪」
「で、ですが……」
「それよりも、二人の事はコーネリア総督には、お姉様にはどうか内密に」
ユーフェミア副総督からの提案に、ジェレミアは首を傾げる。
「……宜しいのですか? コーネリア総督もさぞお喜びになるかと」
「総督は立場上、あの二人を見つけたら本国に連れ戻さなくてはなりません。そうなってしまっては、後ろ盾がないあの二人は再び政治の道具として利用される事となってしまいます」
「なるほど。畏まりました。このジェレミア・ゴットバルト。ルルーシュ殿下とナナリー皇女殿下の事は他言しない事を誓います。全力で」
「ありがとうございます。それでは、そろそろ政庁へ戻りましょう」
「不肖ながら、この私がエスコートさせていただきます」
ジェレミアとユーフェミアは、気が付かれないうちにそっとその場を後にするのであった。
シャーリーの告白の行方がどうなったかは、御想像にお任せします。