感想欄にあった内容のおかげで気がつけた部分をも有ったりします。
カワグチ湖コンベンションセンターホテル四階宿泊エリア。
通信機越しにスザクに策を一通り伝えたルルーシュは、意識を刈り取った数名の日本解放戦線の構成員を魔法を使って確認する。
「やはり……魔力的な干渉を受けているか。草壁め……。よりにもよってナナリーが楽しみにしていた旅行を台無しにさせるとは…!」
過激派レジスタンスが受けていたものと同じ魔力波長による魔力的な干渉が日本解放戦線の構成員にも施されていることを確認したルルーシュは、草壁中佐こそがレジスタンスに過激思想を植え付けた張本人であると断定する。
数日前、ナナリーが生徒会メンバーから旅行に誘われて参加する事にしたと聞いたルルーシュは、身体が不自由な事から他人に遠慮しがちなナナリーに楽しい思い出を作ってくれる生徒会メンバーに感謝すると共に、少しずつだが幼い頃の活発さを取り戻してくれる切欠になるかもしれないと胸の内が熱くなる想いだった。
とはいえ、若い生徒会メンバーとイレヴンである咲世子だけの旅行でトラブルに巻き込まれる可能性──ガラの悪い旅行客からのナンパなど──も考えられたので、ナナリーたちの旅行日に合わせて旅行先であるカワグチ湖への出張も急遽組んで気付かれないように遠くから見守っていた。
そのついでという訳ではないが、ルルーシュは神聖ブリタニア帝国を倒すために諸外国の力も借りる必要があると考え、ナナリーの生徒会旅行と同日に行われる国際サクラダイト配分会議に集まる各国要人たちの関係者と接点を持つためという理由もある。特に医療サイバネティクス関連の第一人者であるラクシャータ・チャウラ―が所属するインド軍区の要人と接触する事が出来たのは、
尤も、途中でナナリーたちがユーフェミアと遭遇した時にはかなり焦ったが、ユーフェミアがナナリーに対して赤の他人の振りをしてくれて本当に助かった。でなければ、ユーフェミアを眠らせて記憶を弄るか、最悪の場合は拉致せざるをえなかったかもしれないのだから
しかし、今回のホテルジャックによって、ナナリーの楽しい旅行は台無しにされてしまった。結果次第では、今回構築したパイプもあっさり崩壊してしまいかねない。そもそも、ナナリーたちの身に危険が及ぶことなど許してはならない。
「だが、これで草壁のいる場所はいつでもわかる様になった。あいつらと合流するまでにナナリーたちを含めた人質の救出準備も済ませなくてはな。魔力干渉された連中があれだけの事をするんだ。その大本が人質をまともに扱うなど思えない」
ナナリーを助け出すのは前提条件だが、もしも生徒会の人たちが犠牲になってしまったら、ナナリーはとても悲しむことになるだろう。それも出来る限り避けなければならない。
ルルーシュはホテル内を対象にした広域魔力探査を開始する。これによってこのホテル内にいる魔力反応を保有する者──草壁中佐とその影響を受けている日本解放戦線の軍人たち、そしてナナリーが愛用している車椅子に仕込んであるビーコン用の魔力結晶体の位置を割り出すためだ。
このビーコンはシンジュクゲットーの一件以降に仕込んだもので、これがあればビーコンを頼りに近くの座標へすぐに転移する事ができる。
(ふむ……魔力反応がある者は、一階と屋上付近、それと三十六階に集中しているな。一階と屋上側のは人質の脱走防止用なら、草壁がいるのは人質も含めて三十六階か。だが、ナナリーの車椅子の反応が四十五階から動いていないのは一体……まさか、ナナリーの身になにか!?)
万が一の可能性を考え、ルルーシュはビーコンを頼りに転移魔法で一気に四十五階へと向かう。
ルルーシュの目に飛び込んできたのは、既に誰もいなくなっている四十五階展望エリアの非常用階段に通ずる通路の前に放置された車椅子。
「これは……間違いない、ナナリーの車椅子だ」
ナナリーの車椅子の状態を確認し、壊れたような跡が全くない事から無理やり引きずりおろされたりはしていない事を確認する。
(幾らナナリーが少女とはいえ、人間一人を運ぶのには大きな労力がいる。人質にするにあたって態々車椅子から引きずり下ろす必要は薄い。放置されていた場所が非常用階段の近くだったという事は、非常階段を利用するのに車椅子を利用できないからやむなく放置したという事。日本解放戦線なら掌握したエレベーターを使える事を考慮すれば……)
「ナナリーは生徒会のメンバーと一緒に逃げ回っているという事か」
一般人である生徒会のメンバーに旧日本軍人である日本解放戦線の構成員が後れを取るというのもおかしな話だが、草壁による魔力的な干渉を伴った洗脳の影響で正常な判断が下せない状況なら、運が良ければあり得るのかもしれない。
「あるいは、誰か気骨のある者と一緒に逃げているのか? もしそうなら、後で礼を言わなくてはな」
まさか、メイドの篠崎咲世子が大活躍していたなど、この時点では知る由もないルルーシュであった。
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「なに? 3号車がゼロに盗まれた? ギブソンは何をやってたんだ!」
カワグチ湖コンベンションセンターホテルジャック事件を取材していた、Hi-TVエリア11トウキョウ租界支局報道局プロデューサーであるディートハルト・リートが、部下の失態に苛立ちを見せる。
彼は元々、ブリタニア軍がホテルジャック犯の要求を聞かずに突入して鎮圧し、人質も犠牲になるという構図を予想してカメラを回していたが、一向に突入する気配も要求を聞く気配もない膠着状態に退屈を感じていた。
敵に対して苛烈な事で知られる
期待を裏切られたディートハルトは、つい先ほどまでカメラマンとしての職務は忠実にこなすが気分が乗らない状態であった。
「それが……現れたゼロをカメラに収めようとしたら、急に意識が遠のいて、気が付いたら取られたって」
「はあ? で、その3号車は?」
「軍のど真ん中へ」
「ええっ!?」
職員の返答にディートハルトが困惑している頃、ホテル前に陣取っているブリタニア軍も困惑する事態に陥っていた。
今回のホテルジャック事件では、参加者名簿にこそ載っていないが国際サクラダイト配分会議にユーフェミア副総督も参加しており、コーネリア総督はホテル正面からの突入を躊躇していた。
ホテル直下まで伸びるライフラインのトンネルを通ってサザーランドでホテルの基部ブロックを破壊して水没させる事で突入する計画も、日本解放戦線がトンネルに設置したグラスゴーを改造した大型リニアカノンによって第一陣が阻まれ、対抗策が用意できるまでは第二陣を投入できない事態に陥っていた。
幸い、人質の中にユーフェミアがいる事を日本解放戦線側は把握していないようだが、このまま膠着状態が続けば焦れた日本解放戦線側は見せしめとして人質を殺害しかねない。
そんな中、ゼロからG1ベースへのオープンチャンネルで此方に向かう旨の連絡が来ていたのだ。
それから間もなくしてコーネリア達の前にテレビ局から盗み出したのであろう車両を伴い、その車体の上に堂々と姿をさらすゼロの姿。
「確認しました。ゼロです。狙撃しますか?」
「その状態で待機せよ。包囲完了後に逮捕する」
いつでも狙撃される状況になり、更にコーネリアのグロースターを含めたブリタニア軍のナイトメアに包囲されてもなお動揺する素振りが一切見られないゼロ。
コーネリアはそんなゼロに何ともいえない無気味さを感じながらも、グロースターのコックピットから姿を見せてゼロに視線を向ける。
「こうして直接会うのは初めてだな、ゼロ。お前は日本解放戦線のメンバーだったのか? それとも協力するつもりか? しかし今はこちらの都合を優先する。義弟クロヴィスの仇、此処で討たせてもらう」
コーネリアはゼロに拳銃を向ける。
「そう焦るな。お前が守りたい者を助けてやろうというのだ」
「ん? まさか!」
「死んだクロヴィスと、生きているユーフェミア。コーネリア、お前はどちらを選ぶ?」
「っ!? うっ……」
ゼロに自らの妹であるユーフェミアがホテルにいる事を暗に指摘され、コーネリアはほんの僅かだが動揺を見せる。しかしコーネリアも歴戦の将であり、その動揺もすぐに表面上は抑え込む。
「ゼロ、何を言っているのかわからないな」
「ユーフェミアも人質たちも救ってみせると言っているのだよ」
「っく……」
「それでどうする。クロヴィスの仇を討ってユーフェミアを喪うか、この場で仇を討つ機会を見逃してユーフェミアを救うか」
カマを掛けている可能性も考えてとぼけて見せたコーネリアだが、ゼロははっきりとユーフェミアも救って見せると言い切った事でブラフの可能性を排除した。
ブリタニア全体の事を考えればクロヴィスの仇を討ち、敵の芽を摘む事が正しいのだろう。だが、ユーフェミアを溺愛しているコーネリアにとって、僅かでもユーフェミアを救出できる可能性が高い方法があるならばという考えがよぎる。
熟考できるならば違う選択肢もあったのだろうが、コーネリアにはその時間は残されていない。それは日本解放戦線が短慮を起こす可能性だけでなく、ヴィクトリアとの今回の事件における取り決めがあるからだ。それは日付を跨いでも事件を解決する目途が立っていない場合、ヴィクトリアが直接ホテルに強行突入して殲滅するという内容だ。
ヴィクトリアとユーフェミアはエリア11に赴任した当初から不仲であった。思想から行動まで何から何まで相容れない相手と言える。特にヴィクトリアがラウンズ権限で行ったサイタマゲットー殲滅作戦をユーフェミアが中断させた事で、ヴィクトリアはユーフェミアに強い恨みを抱いている。
もしもヴィクトリアのホテル突入を許してしまえば、奴はユーフェミアを殺害し日本解放戦線にその責を嬉々として押し付けるだろう。
そんな事態だけは許してはならない。コーネリアはそう判断してナイトメアフレームを引き下がらせ、ゼロが乗る車両を素通りさせる。
「全部隊に達する。ゼロを通せ。繰り返す、ゼロを通せ」
兵士が他の部隊にも通達する様子をコーネリアは忌々しく表情を歪め、ゼロの後姿を睨みつける。
一方の日本解放戦線側も、ブリタニア軍からゼロがやってきたという連絡を受けていたのか、ホテル正面ゲートの封鎖が解除されてゼロの乗る車両を受け入れた。
「お前がゼロか。草壁中佐がお呼びだ。ついてこい」
日本解放戦線の構成員に前後を挟まれた状態でゼロはホテル内を案内される。
「ふふ……」
「何がおかしい」
草壁中佐がいる三十六階へ向かうエレベータの中で、笑いを堪えているような様子のゼロに構成員は苛立ちを見せる。
「いや、余りにも不用心だと思ってな」
「それはどういう……あぐぁあっ!?」
構成員たちの視界が突如として無数の断続的な映像で埋め尽くされる。目を閉じても消える事のない、まるで頭の中に直接画面を映し出されているような情報の洪水に、構成員たちの脳は強烈な頭痛を起こして次々と倒れていく。
構成員たちが倒れた数秒後、エレベーターは三十六階に到達して扉が開く。その先には、もう一人のゼロがいた。
「まったく……人使いが荒い奴だな、お前は」
「何を言っているんだ。お前は俺達の共犯者だろう?」
エレベーターから降りたゼロが自らのヘルメットを外し、C.C.としての顔を見せる。
ホテルの外から入ってきたゼロは、ルルーシュの指示で変装したC.C.だった。ゼロの正体が不明である事からできた芸当だ。
「それで、これからどうするつもりだ?」
「俺とお前で草壁の部屋に突入する。スザクの班はこの階の別エリアに監禁されている人質の救出を、玉城たちの班はホテルを爆破するための爆弾設置を。カレンとマーヤの班には六十三階で救助した生徒会メンバー及びユーフェミアの保護を行ってもらう」
「……ん?」
「気持ちは分かる。俺もナナリーたちとユーフェミアが遭遇した場面を見ていなかったら、困惑するところだ。幸い、ユーフェミアはナナリーとは赤の他人の振りをしてくれている。ナナリーが皇族として連れていかれる事はないだろう」
「そ、そうか……」
色々と言いたい事があるC.C.だが、無暗に時間をかけてしまうと草壁に気取られる事から聞かないでおく事にする。
「では……草壁たちの『SETTOKU』に行こうではないか」
「絶対、世間一般の説得とは違うだろう……」
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ホテルジャックを決行した主犯格である草壁と側近たちは、陣取った部屋に入ってきたゼロと緑髪のブリタニア人の女と相対していた。
「案内に寄越した者たちはどうした?」
「途中で体調を悪くしたので、休ませている。話し合いに居なくてはならない者たちではあるまい?」
「枢木首相の息子は? 貴様と組んでいるのだろう?」
「組織のトップは私だ。彼は私に従っている部下であり仲間だ。よって、この交渉の席にはトップである私がつく」
「ほう、交渉……」
「交渉の席に着く前に聞かせてほしい。お前はこの行動の果てに、何を求めている?」
こちらの主張を聞かせてほしいと言うゼロに対し、草壁はニヤリと笑う。草壁の邪法は相手に自分の瞳を見せて話さなくては発揮されない。その前提条件をあちらから用意してくれたのだから。
草壁からすれば、ゼロはクロヴィス前総督を殺害して見せた逸材であり何としても味方に引き入れたい存在だ。特派というブリタニア軍所属の技術者を助けた事は気にくわないが、それはこの瞳に宿る邪法で同志にしてしまえば関係なくなるのだから。何だったら、この邪法で同志にしてから目の前の女を殺させるのもいいだろう。
ゼロを同志とするために、深く息を吸った草壁の左目に、片翼が途中から欠けた赤い鳥の紋様が浮かぶ。
「知れたことを。日本人がブリタニアに屈していない、まだ死んでいない事を内外に知らしめるのだ」
「……」
「クロヴィス前総督を殺害した貴様ならばわかるだろう、ゼロ? この作戦は憎きブリタニアを我らが日本から追い出すための狼煙となる。私の同志となれ」
左目に浮かんだ紋様が消え、草壁は再び深く息を吸う。藤堂の時は奴の強い意志力に弾かれたが、クロヴィスを殺害するような行動をとったゼロならば同調する。草壁はそう確信し、返答を待つ。
「ふむ……時に草壁徐水。お前が支援している他のレジスタンスの多くは、民間人を拉致・拷問していたようだが、それについてはどう思っている?」
「ふん、奴等は民間人だがブリタニア人や名誉ブリタニア人だ。我ら日本人を不当に支配する者たちと裏切り者だ。当然の報いではないか?」
「そうか……お前が悪意の出所か」
「なにぃ? どういう意味かな、ゼロ?」
邪法が効いていない事と共にゼロに非難されたことに対して、草壁は困惑と苛立ちを含みながら問う。
「ゼロ、こいつはギアスを使っているぞ。能力は相手の思想を自分の思想で塗りつぶし汚染するもののようだ。尤も、こいつのは不完全な粗悪品だがな」
「なっ!!?」
ブリタニア人の女の言葉に、草壁は言葉を失う。ギアスという言葉は知らないが、自らの瞳に宿した邪法の能力を一目で看破した事に対してだ。側近にした者たちも、ブリタニア人の女の言葉に互いに顔を見合わせている。自分の思想が上司によって歪められたものだと言われたら穏やかでいられるわけがないだろう。
「なるほど、それで草壁の影響を受けたレジスタンスたちも凶悪化し、特に影響が大きかったグループは臓器密売にまで手を出したわけか。草壁徐水……貴様達のその歪んだ思想と行動が、一体どれほど日本を貶めているか分からないのか!」
途中までは淡々としていたゼロが、強い口調で草壁を非難する。
「無関係の民間人を巻き込みその命を奪うこれまでの数々のテロ。そして武器を持たない人々を人質とした今回のホテルジャック。傍から見ればブリタニアに勝てないから嫌がらせをしている悪ガキの癇癪そのものだ! ブリタニアよりもなお性質が悪い!」
「訂正しろ、ゼロ! 我等はブリタニアの支配に抵抗するために立ち上がり戦い続けている日本の勇士だ! それをあろう事かブリタニアより下に見るなどという侮辱を許す訳にはいかん!」
腰に差してる日本刀を抜刀した草壁の怒りに呼応するように、側近たちも拳銃をゼロに向ける。草壁への信頼が揺らいでいる彼らも、ゼロの物言いには腹を立てていた。
「この作戦に従事している者たちの大半から、お前のギアスによる汚染が見られた。大方、ギアスを得る以前は同志など碌にいなかったのではないかな? 仲間からも理解されない主張を振りかざし押し付ける貴様のような男を、愚か者と言うのだ!!」
「貴様ぁ! これ以上はもはや問答無用! 死ねぇ!」
激昂した草壁が、日本刀でゼロに斬りかかる。側近はゼロの傍にいるブリタニア人の女に向けて発砲。
「無駄だ」
短く呟いたゼロの足元に正三角形に剣十字の紋章が浮かび上がり、草壁の振り下ろしと銃撃を不可視の盾が全て弾く。
「なぁっ!?」
「大人しくしてもらおうか」
指をパチンと鳴らすと同時に、草壁たちの頭上に魔法陣が展開され、そこから伸びた鎖で彼らを全員拘束する。
「何、だ、これはぁ!? ゼロぉ!」
「相手も似たような切り札を持っている可能性を考えるべきだったな。尤も、私のこれはお前たちのとは別の技術だがね」
もがく草壁たちに対して、ゼロは侮蔑を孕んだ言葉で返す。
「さて、そろそろ仲間たちが人質たちの救出も完了していることだろう。脱出する前にお前から聞き出さなければならない事がある。そのギアス、誰から貰った?」
「くっ……!」
ゼロからの問いかけに対して言い淀む草壁。彼がこの邪法を手に入れたのは、数年前に部隊から孤立して瀕死となり、気が付いたらこの力を得体のしれない誰かから与えられた事が切欠だからだ。
──顔を思い出せない。
──性別も思いだせない。
──声もかなり朧気だ。
すると、草壁の脳内に何者かの声が響く。
『草壁徐水……他の
どことなく聞き覚えがある男の声が脳内に響いた直後、頭が割れるような頭痛に苛まれる。それだけじゃない。邪法が制御できなくなり呼吸もできなくなっている。
「あがぁっ……! い、息、がぁ……」
「草壁!?」
「ゼロ、この男……ギアスが暴走している!」
「暴走だと!?」
草壁の
呼吸ができなくなり、遠のいていく意識の中、草壁は何故こんな事になったか自問する。
始めはただ理解者が欲しかった。だからこそ、自分が何を考えているのかを相手に伝え賛同してほしかった。やがて、自分の思想に賛同しない者がいる事に不安を感じるようになり、この力で染め上げていった。
草壁の意識は、本当の理解者を得る事はできないまま沈んでいった。
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「くそっ、このタイミングでギアスが暴走だと? こいつにはまだギアスの出所を聞けていないというのに」
呼吸不全で事切れた草壁を魔法の鎖から解放し、ソファーに安置してから愚痴を漏らすルルーシュ。
「そんな、草壁中佐が……」
「それより、俺達はなんで草壁中佐に共感していたんだ?」
鎖で拘束されたままの側近たちも呆然としながら、先ほどまでとは違って攻撃的な感情が鳴りを潜めている。
「なに? ちょっと見せてみろ。……確かに、草壁が施していた呪いが消えている」
「どういう事だ? 精神に干渉し続ける類のギアスは基本的に使い手が死んだ後も条件を完遂するまで効果が継続するはずだ。それに、死んだ草壁の左目の紋様が消えていないのもおかしい」
「……これは推測だが草壁のギアス、いや……劣化ギアスと言っておこう。もしかしたらそれはギアスを基にして模倣したものかもしれん。……ん?」
草壁の保有していた劣化ギアスについて考察するルルーシュだが、ふと目線を草壁の亡骸に合わせると、彼の懐に通信機がある事に気が付く。
その通信機は電源が入ったままで、何処かと連絡を取り合ったままになっているようだ。
「……お前たち、この通信機は何処と繋がっている!」
「ホ、ホテル直下にある地下坑道に設置した雷光のパイロットとの通信用です」
「雷光?」
「ブリタニア軍から鹵獲したグラスゴーを改造した、超電磁式榴散弾重砲の事です! 地下坑道から侵入する事が想定されるブリタニア軍の撃退と……」
「撃退と何だ!」
「もしホテルにブリタニア軍が突入した際には、方向転換して基部ブロックごとホテルを破壊して道連れにするように。雷光のパイロットは古くから草壁中佐を支えていた古参兵です! 恐らく、そのギアスとかやらによる影響はないかと思います」
正気に戻った側近の言葉に、ルルーシュは急いで通信機を取り出して仲間たちと連絡を取る。
『こちらS1』
「ゼロだ。人質の救出は済んでいるか?」
『もう全員救出は完了しているよ。予定通り、誘導も済ませてある』
「K1は?」
『こっちも六十三階に避難していた学生たちとユーフェミア副総督を保護できたよ』
「T2はどうだ?」
『こっちも設置できているぜ、ゼロ! ボートも確保した! 全員合流済みだ!』
「分かった。私もすぐにそちらへ向かう。草壁中佐は己の行動の無意味さを悟り自害したが、地下坑道に設置された迎撃用機がホテルを破壊しようとし始めている。いつでも脱出できる準備を進めるんだ」
草壁の死に関して嘘を付いたのは、ルルーシュなりの慈悲かもしれない。自分の力に溺れて自滅した最期よりも、自ら命を絶った最期の方がまだ印象はマシなはずだから。
「ゼロ! この鎖を解いて私達も連れて行ってくれ! こんなところで死にたくない!」
「私達は草壁中佐に操られていたんだ。私達も被害者なんだ!」
拘束されたままの草壁の側近たちが、命乞いを始める。このままでは遠からず倒壊するホテルに巻き込まれるのだから、無理もない事だろう。
しかし、草壁中佐の影響を受けていたとはいえ、今まで武器を持たない民間人を犠牲にしてきた者たちの言葉としてはあまりにも都合が良すぎる話だ。
「お前たちは此処で朽ちていけ。それがお前たちの償いだ」
「そんな! 人の心はないのか、ゼロ!」
「行くぞ」
当然、ルルーシュは拘束されたままの彼らの叫びを無視し、C.C.と共に部屋を出る。
「良いのか?」
「奴等は草壁中佐の下で非道を働いてきたからこその側近だ。そんな奴らを引き入れたりなどすれば、俺達まで奴らと同一視されることになる」
「本音は?」
「……ここで死ぬことが、あいつらにとってはこれ以上苦しまずに済む」
「お前なりの慈悲か。本当に甘い奴だな」
ルルーシュはC.C.を連れて魔法でショートカットしながら合流地点へと向かうと、人質全員をボートに乗せてカワグチ湖に避難させ、雷光がホテルの基部ブロックを破壊するよりも前にホテル内に設置させた爆弾の起爆装置を作動させた。
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トウキョウ租界の該当モニターの画面が突如乱れ、ゼロの姿が映し出される。
『ブリタニア人よ、動じる事はない。ホテルに捕らわれていた人質たちは全員救出した。あなた方の元へとお返ししよう』
ゼロはそう言いながら、カワグチ湖に浮かべられている多数のボートに乗る人質たちの姿を映す。
コーネリアからすれば、この状況でゼロを捕まえにかかろうものならば、救助された者たちが全員人質に逆戻りの状況だ。しかもこうも大々的に報道されてしまってはゼロ達に責任転嫁する事もできない。
『人々よ、我等を恐れ、求めるがいい! 我らの名は……黒の騎士団!』
ゼロと周囲の黒づくめの服で統一された者たちの姿が明るく照らし出される。
ブリタニアにとって、テロリストが騎士を名乗るというのは屈辱以外の何物でもない。
『我々黒の騎士団は、武器を持たない全ての者の味方である。イレヴンだろうとブリタニア人であろうと』
ゼロの演説の中、ボートに一緒になって乗っている生徒会メンバーとユーフェミアはそれぞれ思う。
シャーリーはナナリーを背負って非常用階段を昇る途中、足を滑らせて落ちそうになった時に何処からか現れて支えてくれたゼロの優しさを。ルルーシュという想い人がいなければ、ひょっとしたらキュンと来てしまっていたかもしれない。
『今回の事件の首謀者である日本解放戦線の草壁中佐は、卑劣にもブリタニアの民間人を人質に取った。過去にも多くの民間人をイレヴン、ブリタニア問わず拉致し殺害もしている。故に我々が制裁を下した!』
ニーナは、日本解放戦線の構成員に見つかって襲われそうだった時にゼロが構成員たちを全員気絶させた力強さを。彼のように強くなれれば、敬愛するユーフェミア副総督の役に立てるのではないかと。
『クロヴィス前総督も同じだ。己の私利私欲と自己保身のために武器を持たぬイレヴンの虐殺を命じた。このような残虐行為を見過ごすわけにはいかない。故に制裁を加えたのだ』
ミレイは、我が身を顧みずに自分達や人質を救出しナナリーやユーフェミア副総督も解放した彼らの高潔さを。同時に、ルルーシュがこの声明を聞いていたら、彼らに協力してしまうのではないかという危うさも感じる。
『私は戦いを否定はしない。しかし、強いものが弱い者を一方的に嬲り殺すことは断じて許さない。撃って良いのは──撃たれる覚悟のある奴だけだ!』
篠崎咲世子は、枢木ゲンブの一人息子である枢木スザクが従うゼロという男に興味を。ひょっとしたら、ゼロならばナナリー様やルルーシュ様の事も守ってくれるかもしれないという期待もある。
『我々は、力ある者が力無き者を襲う時、再び現れるだろう。たとえその敵が、どれほど強大であったとしても』
ユーフェミアは、腹違いの兄であるクロヴィス前総督を殺して多くの人達を救ったゼロに対する複雑な感情を。姉であるコーネリア総督に対する最大のカードとなりうる自分を容易く手放してまで、人々を救う事を優先したゼロは何者なのだろうか?
『力ある者よ、我を恐れよ! 力無き者よ、我を求めよ! 世界の歪みは──我々、黒の騎士団が裁く!』
そして、ナナリーは……。
(ゼロ……貴方はやはり、お兄さまなのでしょうか?)
ゼロの正体に対し、ルルーシュお兄さまではないかという疑念を強めていた。
ゼロがクロヴィスお兄さまのようにユーフェミアお姉さまを殺害しようとしなかった事に安堵する一方、彼の行動一つ一つが所々でルルーシュお兄さまと重なるのだ。
確証はない。物証だってない。それでも、今回の声明を直接聞いた事によってラジオ越しに聞いていたあの時よりも疑念は強まっていた。
描写は省略されましたが今回のブリタニア軍によるライフライン突入作戦第二陣には、ジェレミア達純血派が志願しておりました。
ジェレミアが考えていた突破方法としては、
・攻撃担当の1機と複数機の防御担当でチームを組む
・防御担当は、ランスロットの攻撃に耐える事を想定して試作されたシールド(ただしやたらデカいために実用化には至らなかった)をそれぞれ保持して攻撃担当を庇いながら突入
・雷光の攻撃を耐え凌ぎながら接近し、有効射程に入り次第攻撃担当の攻撃で撃破する。
・防御担当は勿論私が行く
でした。