ナリタ連山各地に突如現れた大量の無頼による自爆攻撃と大規模な通信障害によって、ブリタニア軍と日本解放戦線及び黒の騎士団の戦況は混迷を深めていた。それでも、ブリタニア軍と日本解放戦線及び黒の騎士団は協力してこの脅威にあたる事はできない。
なぜならば、ブリタニア軍にとって日本解放戦線と黒の騎士団も壊滅させるべき敵であり、日本解放戦線と黒の騎士団にとってもブリタニア軍は打倒するべき相手だからだ。
「ああ、もう! 滅茶苦茶だ!」
「朝比奈! 弱音を吐いている暇はないぞ!」
四聖剣の無頼改は、四機の連携攻撃でブリタニア軍の
「またあの攻撃が来るぞ! 各機散開!」
四聖剣が
「くっ! あれが黒の騎士団のロイドという科学者が言っていたハドロン砲。何という破壊力だ。直撃どころか、掠めただけでもやられかねんぞ!」
「だが、あの武装の弱点は把握済み!」
従来の兵器を凌駕する破壊力に肝を冷やしながら、四聖剣はこれまでの情報を基にその弱点を看破していた。
それは、攻撃の予備動作ともいえるチャージ時間と狙いの甘さ。新武装を使用する時以外は態々格納していることから、武装そのものの強度はあまり高くないのだろう。そして映像を見たロイドの証言と岩壁の破壊痕のムラから、ハドロン砲の収束・制御は不完全で、未だ完成の領域には至っていない事も分かる。
「はぁぁっ!」
高速で廻転する刃が
「すまん、機体の調整で遅くなった!」
「藤堂さん!」
赤いサザーランド・リベリオンを操縦しているのは、藤堂だ。紅蓮をカレンに預けた藤堂は、代わりにカレンの乗騎である赤いサザーランド・リベリオンで出撃したのである。
カレン用にピーキーに調整されていたリベリオンを藤堂に合わせたのは、ロイドである。ロイドはこれまでの藤堂の実戦データを受け取り、それを基にOS等の再調整を急ピッチで行ったのだ。
「それにしても……キョウトから受け取った紅蓮を、黒の騎士団に預けて良かったんですか?」
「ああ。あの機体は強力だが、それ故に仲間と連携を取るのが難しい。私が乗るよりも、他のパイロットを乗せたほうが有効だと判断した。それに──」
「それに?」
「紅蓮のパイロットとなったカレンとは途中まで同行していたが、彼女は紅蓮と一心同体と言っても過言ではない、初めて乗ったとは思えないような素晴らしい動きをしていた」
「藤堂さんがそう言うほどですか……それに、なんだか嬉しそうですね」
「そうか? ……そうかもな。日本を取り戻す大きなうねりが、若い世代に芽吹いたと考えるとな。今まで耐え凌いできた事が無駄ではなかったと実感できる」
藤堂は無自覚なうちに緩んでいた頬を引き締めると、四聖剣に号令を出す。
「繋がった意志を無駄にしないためにも、我等がその道を切り開くぞ!」
「「「「承知!」」」」
藤堂は四聖剣を連れて、遭遇したブリタニア軍のサザーランドを連携して切り伏せ、無人の自爆無頼を近づかせずに撃ち落としながら戦場を駆け巡っていった。
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藤堂が四聖剣と合流し、混乱に乗じて戦線を押し戻す一方、ブリタニア軍は戦線を分断されて孤立状態に陥っていた。突然現れた所属不明の多数の無頼による自爆攻撃による被害もそうだが、大規模な通信妨害によって全体の戦況を正確に把握できなくなった事も大きい。
全体の被害はどうなっているのか。何処の戦場に被害が偏っているのか。戦線はどのように崩れているのか。日本解放戦線や黒の騎士団、所属不明の自爆する無頼の配置はどうなっているのか。
憶測混じりの情報や恣意的に流された誤情報も含まれる事で現場も正確な判断を下せなくなり、各部隊の指揮官は各々に行動することを余儀なくされる。
「しまった! 弾が……うわぁぁっ!」
所属不明機以外の無頼も自爆攻撃を仕掛けてくるのではないのか? という疑心暗鬼から、必要以上にアサルトライフルの弾薬を消費した結果、弾切れを起こして自爆攻撃に対する対抗手段がなくなったサザーランドのブリタニア軍パイロットが、自爆攻撃に飲み込まれる。
「なっ、上から!?」
山の中で繰り返される自爆によって一部の地盤が崩壊し、麓の街にこそ届いていないものの山崩れに部隊が飲み込まれる。
そして、被弾し武装を失ったナイトメアの一部がG1ベースまで逃げ込み、所属不明の無頼達がそれを追跡した事で、後方指揮と野戦病院としての機能のために陣取っていたG1ベースも、無頼たちの自爆攻撃の対象となっていた。
「副総督がおわすG1ベースには、一歩たりとも近づかせはせん!」
オレンジと緑を基調としつつ両肩が赤く塗装された、ランスロットに似たKMFが腕部から小型のMVSを展開し、接近する無頼をすれ違いざまに両断する。
この機体はサザーランド・シグルド、サザーランドを基にブリタニア軍に回収された特派のヘッドトレーラーに残されていたランスロットのデータと、ランスロットの余剰パーツや試作パーツを用いて組み上げられた試作KMFだ。
この機体のパイロットはジェレミア・ゴットバルト。これまでの戦いで黒の騎士団のランスロットに挑み何度も辛酸を舐めさせられた経験から、サザーランドを凌駕する性能を持つ本機のテストパイロットに志願し、志願者の中でただ一人この機体を十全に扱えている。
機体のカラーリングについて、本来は青と白を基調に両肩は純血派の証である赤に塗装される予定であったが、ジェレミアの脳内に何故かオレンジと緑の組み合わせが思い浮かび要望していた。
何故この組み合わせにしようと思ったのかは自分でもよくわからない。仲間内からはいつからオレンジが好きになったんだ? と揶揄われたりもしたが、ジェレミアはその時、この色の組み合わせこそ忠義の形と思えて仕方がなかったのだ。
両断された無頼が自爆するが、自爆する頃にはシグルドは既に自爆範囲外まで距離を取っている。そして、アサルトライフルで的確に無頼たちの脚部を破壊し、G1ベースを守る他の友軍にトドメを刺させる。
「この動き……自爆する無頼は全て行動パターンが同じ。だとすれば……よもや無人機!? なら、行動を誘導してしまえば!」
ジェレミアは自爆する無頼の正体の一端に気が付き、これまでの行動ルーチンから相手の行動を予測して次々と両断していく。言葉の上では簡単だが、実際には僅かでも見切りを外せば、自ら自爆に巻き込まれる狂気的ともいえる綱渡りだ。
ジェレミアがこれまで乗っていたサザーランドでは、機体のパワーと速度が足りずに自爆攻撃に巻き込まれていただろう。パイロットがジェレミアでなければ、このギリギリの選択を択ばず安全策で対応し、G1ベースに取り付こうとする無頼たちを全滅させるのにより多くの時間を要していただろう。
「各員、今のうちにエナジーフィラーの交換と弾薬の補充を済ませておけ!」
「イエス、マイロード!」
ナリタ連山から降りてきた自爆する無頼たちを全滅させ、ジェレミアはG1ベースの護衛の方に残った純血派に指示を出しながら、各所で桜色の爆発が発生するナリタ連山を見る。
「コーネリア総督はご無事だろうか……」
ジェレミアにとって、コーネリア総督は忠義を尽くすべき皇族というだけでなく、ある一点においては目的を同じとする同志でもある。その目的とは、敬愛するマリアンヌ后妃の死の真相を明らかにし、このエリア11で非業の死を遂げたルルーシュ殿下とナナリー殿下の墓前にそれを報告する事。
ジェレミアもコーネリア総督も、マリアンヌ后妃が暗殺された事件について独自に調べていたが、お互いがその事に気が付いたのはつい最近の事だ。
二人の共通認識として、現状で最も怪しい犯人は、クロヴィス前総督を殺害しアリエス宮の真相を知るとされる仮面の男ゼロだ。
ジェレミアは、この大量の無頼による自爆攻撃という異常事態が無ければ、黒の騎士団がどこかで介入してくる事を心のどこかで望んでいた。G1ベースに帰投したサザーランドのパイロットからの報告で、黒の騎士団がナリタ連山にいる事を知った時、持ち場を離れて向かおうとする内心を押し留めるのに必死だった位だ。
コーネリア総督の安否を心配する心。ゼロをこの手で捕らえたい心。そしてコーネリア総督より与えられた、ユーフェミア副総督の護衛任務を完遂したい心。これらの心がジェレミアの中で渦巻く。
「ジェレミア卿!」
「キューエル卿! 無事であったか!」
純血派に所属するサザーランド達が、G1ベースへ新たに帰投する。機体各所の装甲は剥げ落ち、腕部が脱落している機体もある。既に戦力としては使い物にならないほどの損傷だ。
「ああ、何とかな。黒の騎士団のサザーランドに、自爆する無頼を擦り付けられたときは死ぬかと思ったぞ」
「擦り付けられた?」
「どうやらあの自爆する無頼は、我らだけでなくテロリストに対しても自爆攻撃を仕掛けているようだ」
キューエル卿の話を聞いて、ジェレミアは少し考え込んでから推論を述べる。
「よもや……あの自爆する無頼はテロリストが用意したものではないのか? そうなると、実戦で限定的ながら運用可能な無人機の登場は、今後の戦争の在り方にも影響を与えかねんな」
「かもしれん……。だが、そうなると一体どこからの刺客だ? ドローンによる無人機運用を試みているEU圏か?」
「この一件、どうやら我らが思っているよりも根深い可能性があるやもしれん」
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ナリタ連山の山中では、スザクが撃破したブリタニア軍の
「皆とは……連絡が取れないか。前に出過ぎかな。それにしても、まさかブリタニア軍が今までと全く違う新型機を投入して来るだなんて」
──機体ダメージ:軽微
──武装稼働状況:破損・損失無し
──エナジー残量:64%
「よし。これならば、まだ戦える。……っ!」
ランスロットのコックピットにアラームが鳴り響き、スザクは反射的に機体を跳躍させる。ランスロットがその場を離れた数瞬後、獣の咆哮の様な音と共に赤黒い閃光──ハドロン砲が通過して周辺を薙ぎ払っていく。
スザクは跳躍したランスロットのヴァリスをハドロン砲の発射された方向に向けて数度発砲しながら、腰のスラッシュハーケンを周辺の崖に打ち込み、軌道を変更して崖を上る。
「ほう……キャスパリーグの反応がロストしたから来てみれば、黒の騎士団のランスロットか」
その異形のKMFは、
「あのエンブレム……ヴィクトリア・ベルヴェルグ!」
「折角だ。此処でサイタマゲットーでの雪辱を晴らさせてもらうとしよう。ゼロも、あの世への付添人が先に待っている方が嬉しいだろう?」
「ここで死ぬつもりはないし、お前をゼロの所に行かせもしない!」
スザクはランスロットのMVSを抜剣・展開し、ヴァリスをヴィクトリアの機体に向ける。
「勝てると思っているのか? この私と、キャスパリーグ・ヘンウェンに!」
ヴィクトリアはキャスパリーグ・ヘンウェンの対艦用6連装ヘビーガトリングの照準をランスロットに合わせ、撃ち始めた。破壊の嵐と形容できる弾幕によってランスロットがいる崖が見る見るうちに削り取られていく。スザクはヴァリスで反撃しながらランスロットで崖を滑るように駆け下りていく。
「ブレイズルミナス……あの機体にもランスロットの技術が使われている。だとすれば、有効打になるのはMVSか最大出力のヴァリスによる零距離射撃! ならば、此処は無理をしてでも近づく!」
サイタマゲットーで戦ったヴィクトリアのグロースターが、ランスロットのスラッシュハーケンでは十分なダメージを与えられなかった異常なまでの耐久力を念頭に、スザクはブレイズルミナスで被弾を防ぎながらキャスパリーグ・ヘンウェンに近づいていく。
対艦用6連装ヘビーガトリングの弾丸が尽きる様子を見せないのも、恐らくは転移魔法の類で弾倉を補充しているのだろう。ひょっとしたら、エナジーフィラーも同様の方法で戦いながら交換できるのかもしれない。
もしもそうならば、相手のエナジー切れや弾切れを狙う持久戦は愚策だ。ランスロット自体、エナジーの燃費が悪い事もあって此処は危険を冒してでも短期決戦に持ち込むべきだとスザクは判断してのものだ。
キャスパリーグ・ヘンウェンの砲撃の嵐を躱しながら、ランスロットとキャスパリーグ・ヘンウェンの距離が縮まっていく。ランスロットはMVSを、キャスパリーグ・ヘンウェンはシールドからMVSを展開して斬り結ぶ。
一瞬の拮抗の後に、スザクはランスロットを下がらせてキャスパリーグ・ヘンウェンの前脚に装備されている電磁クローを躱す。
ヴィクトリアの機体はグロースターの頃からランスロットを凌駕するパワーを有していた。グロースターよりもさらにパワーがある事が容易に想像できるキャスパリーグ・ヘンウェンを前に、スザクは正面からのパワー勝負には持ち込まずに隙を窺いながらヒット&アウェイを繰り返す。
ランドスピナーの
「あれだけの巨体なのに、
「このままお前と遊び続けるのも良いが、遊び相手は多い方がもっと楽しいからなぁ? 遊び場所をより相応しい所に変えさせてもらおう」
「行かせないといったはずだ!」
「お前に拒否権は……無い!」
スザクのランスロットも巻き込む形で、キャスパリーグ・ヘンウェンを中心として大地に円陣が展開されて正方形の紋様が回転する。
「ゼロの所へご案内ってね、キヒヒヒ……!」
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ダールトン将軍のグロースターが担いでいる大型キャノン砲による日本解放戦線の装甲車への砲撃を、マーヤはサザーランド・リベリオンの左腕に装備されているシールドに搭載されたブレイズルミナスで逸らす様にして弾く。そして日本解放戦線の無頼との連携で動きを止めさせた別のグロースターの頭部を、右腕に装備された大型のスラッシュハーケンで抉り飛ばす。
「よし、また一機撃破……! このままブリタニアの指揮官も!」
マーヤは撃破したグロースターが携行していたアサルトライフルをついでに強奪し、ダールトン将軍のグロースターに牽制射撃も忘れない。
「おのれ、あのサザーランドの改造機のパイロットに良いようにされてしまっている……! 目の前に日本解放戦線の片瀬がいるというのに!」
ダールトン将軍は、目の前の相手の技量と連携に苦戦している事実に焦りを覚える。通常のサザーランドよりも強化された改造機なのもあるが、正規の訓練を受けたものとはまた違う、周辺の崖や木々を利用した三次元立体機動と、日本解放戦線からの援護を駆使してブリタニア軍を翻弄してくる。
それでも作戦開始当初の物量であれば対処そのものは十分に可能だったはずなのだ。途中で突如出現した、大量の自爆する無頼に加えて強力な通信妨害によって、各個分断・撃破されて数を減らされてしまった事が大きな痛手だ。
もしも、ダールトン将軍が率いる部隊が山崩れなどで壊滅状態であったならば、あるいは目の前に片瀬少将が乗る装甲車が居なければ、ダールトン将軍はこの場は引いてコーネリア総督と合流する事を選んでいただろう。
部下のグロースターによるアサルトライフルの連射が、装甲車に随伴する無頼──ナイトポリスが使用するシールドに改造を施した物を装備した機体──がブレイズルミナスを展開して防ぐ。
「くっ……特派の技術がこうも厄介な代物とは! 姫様……どうかご無事で!」
ダールトン将軍がマーヤに足止めされている頃、コーネリア総督の騎士であるギルバート・G・P・ギルフォードも、藤堂と四聖剣を相手に苦戦を強いられていた。
ギルフォードのグロースターを包囲しようとする無頼改と、包囲されないように立ち回り各個撃破を目指すギルフォード。下手に足を止めれば包囲され、他のサザーランドやグロースターのように切り刻まれる。
「くっ! 黒の騎士団と日本解放戦線がこれほどの連携を行えるとは!」
藤堂が乗っている機体が、無頼改ではなく黒の騎士団のカレンが使用していたサザーランド・リベリオンである事が、ギルフォードに勘違いを起こさせる。
もしもサザーランド・リベリオンに乗っているのが藤堂だと分かっていれば、コーネリア総督もギルフォードに違う対処を取らせていた可能性はあった。尤も、藤堂と四聖剣を相手にして攻めあぐねているで済む段階で、ギルフォードの技量は優れている事の証左でもあるのだが。
「ええい。このままではコーネリア殿下が!」
自爆する無頼に加えて、黒の騎士団と日本解放戦線によって、ギルフォードはコーネリア総督とは分断され、通信妨害によって周囲の友軍の詳細を知る事もできない。
コーネリア総督は無事なのか。コーネリア総督を護衛している軍人は残っているのか。敵は後どれだけ残っているのか。それらの情報が一切入ってこない状況はギルフォードに焦りを生み出していく。
そして、ダールトン将軍とギルバートからその安否を心配されているコーネリア総督は……。
「これでチェックメイトだ。コーネリア」
ルルーシュが率いる黒の騎士団及び、合流したカレンの紅蓮によって絶体絶命の状況に陥っていた。
グロースターの両腕は破壊されて脱落し、胸部のスラッシュハーケンも片方が損壊している。更に脚部のランドスピナーの右足側が破損しているため、KMFとしての機動力も大きく削がれている。
その状態で前方には紅蓮、さらに崖の上にはルルーシュを含めた黒の騎士団のサザーランド・リベリオンと無頼がコーネリア総督を包囲している。
それでも、コーネリア総督から戦意は失われていない。
「私は投降はせぬ。皇女として最後まで戦うのみ!」
武人としての矜持を胸に徹底抗戦の姿勢を見せるコーネリア総督。コーネリア総督からすれば、機体の損壊に加えて不可思議な軌道を描く閃光弾によってファクトスフィアの光学センサーが麻痺して使い物にならなくなっても、自らの矜持を投げ捨てて良い理由にはならない。
「言っただろう? チェックメイトだと。貴方にはここで戦わずして捕虜となってもらう」
ルルーシュはコーネリア総督のグロースターの近くに潜ませていた不可思議な軌道を描く閃光弾──ルルーシュが魔法で展開したフェアリーサーチャー──を機体に接触させ、あるプログラムを送信した。
「なっ! 脱出装置機能が誤作動だと! ぐぅぅっ!」
それはナイトメアの脱出装置を外部から強制起動させるプログラム。鹵獲したサザーランドをサザーランド・リベリオンへと改修する過程で、サザーランドに採用されているOSを基にルルーシュが魔法で送り込むプログラムとして開発したものだ。
このプログラムを搭載したフェアリーサーチャーの機動力やプログラムを順番に機体に複数回接触させないといけないなど、実際の戦闘では実用性は低いと判断されていた。しかし、今回の様な状況では強敵を殺さずに無力化できる点で役に立つ場面がある事をルルーシュは再確認した。
強制的に機体からコックピットが射出され、しかし本来ならば安全圏まで飛んでいくはずのコックピットはその推力を落としてルルーシュのサザーランド・リベリオンの前に落下する。ルルーシュはサザーランド・リベリオンの左腕でコーネリア総督が乗るコックピットを抱える。
「惜しかったな、コーネリア。あの所属不明の無頼の軍勢が介入してこなければ、或いは日本解放戦線は壊滅させられたかもしれないというのに」
「っぁぐ、ゼロ……っ!」
「これで此方の勝利条件はクリア。後は日本解放戦線と共に撤退するだけ──ん? あれは……」
大地に円陣の中を正方形が回転する魔法陣──ルルーシュが知るミッド式魔法が展開される。
「ゼロ!?」
「これは……魔法による転移!? 何か来るぞ!」
魔法陣から現れたのは、ランスロットと異形のKMFだ。ランスロットはバックステップで異形のKMFから距離を取り、二本のMVSを構える。
「スザク、無事か!」
「ゼロ! この機体は、ヴィクトリアの専用機だ! ランスロットの技術も使われている!」
異形のKMFはルルーシュのサザーランド・リベリオン、そしてその腕に抱えているコックピットに視線を移すと、通信機越しに嘲るように口を開く。
「これはこれは、コーネリア総督殿。黒の騎士団に捕らわれてしまいましたか。ブリタニアの魔女も、存外大したものではないのですね」
「っく……ヴィクトリア卿。貴様、私を嗤いに来たのか。そもそもどうやって姿を現した!?」
「いえいえ。私はゼロを仕留めに来ただけですよ? まあ、コーネリア総督殿が助けてくださいと跪いて私に縋るならば、助けますが?」
「ヴィクトリア卿、貴様!」
コーネリアのプライドを逆なでにするヴィクトリアの発言に、激昂するコーネリア。そこにルルーシュが割り込む。
「初めからコーネリアを始末するつもりの癖に心にもない事を言うものだな、ヴィクトリア・ベルヴェルグ。7年前に私が貴様の所属する犯罪組織を潰した時以来だな」
「……キヒ、キヒヒ! やはり、やはり貴様だったか! ゼロ! それにしても、いつから気が付いていたのかなぁ!?」
「確信を持ったのは、自爆する無人機無頼の軍勢を見た時だ。戦闘機人に肉体を乗り換えようとも、貴様の性根は何一つ変わっていない。いや……むしろ残虐さは悪化しているな」
「手に入れた力を思うままに振るうのは、楽しいぞ? 力無き愚物を蹂躙し滅ぼすのは実に心地良いものだ! 7年前の脆弱な肉体だった私にはなかった快楽だ!」
「これが……ヴィクトリア卿の本性?」
「いや、7年前よりも下劣な上に精神も不安定になっている」
狂気を孕んだ笑みを浮かべ嗤うヴィクトリアにコーネリアが怖気を感じている一方で、ルルーシュは7年前の科学者だった頃のヴィクトリアとの違いから、無理な肉体の移し替えが精神に悪影響を与えている可能性を考える。
事実、ヴィクトリアはゼロが7年前に所属組織を壊滅させた者と同一人物だと確信した事で、凶暴性が制御困難な状態となっている。
「ヴィクトリア・ベルヴェルグ。お前は、この黒の騎士団が裁く!」
「やれるものならばやってみろ! どのみち、コーネリア殿下には虜囚の辱めを受ける事を良しとせず、黒の騎士団及び日本解放戦線との戦いで名誉の戦死を遂げた事にする予定だったからなあ! 纏めて葬ってやるよぉ!」
日本解放戦線の装甲車に随伴していた無頼が使用したブレイズルミナス搭載シールドは、シールド裏面にバッテリーとジェネレーターを搭載する事でどんな機体でも本体のエナジーを消費しないで使用できるようにした試作装備です。
バッテリーとジェネレーターを積んだ弊害でシールドは大型化し、マニピュレーターで直接保持する必要があるので小回りは利きません。
その代わり、サザーランド・リベリオンのものより高出力のブレイズルミナスを(マニピュレーターで保持できるならば)どんな機体でも運用可能という利点があります。
ちなみに、スザクがヴィクトリアと遭遇せずに進んでいた場合、ヴィクトリアの陣営が設置した転送装置などの場所に到達する可能性がありました。