コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:にゃるが

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今回の話では、冒頭に独自設定の回想が入ります。
解釈違いの方もいるかもしれませんが、今作ではこのようにさせていただきます。


それぞれの変化

 C.C.は俯瞰した位置から、自らが眠りについている粗末なベッドを見下ろしていた。

 勿論、今の時代の現実の光景ではない。C.C.が見ている夢、百年以上は過去の記憶だ。

 少しして夢の中のC.C.が目を覚まし、気だるげにベッドから降りると、美味しそうな香りに惹かれて廊下を歩く。

 

 ──おはよう、●●●●●。

 

 廊下の先にある扉を開けると、家の主人であるこの地域では珍しい黒髪の青年が石窯の前で焼き加減を確認しながら、夢の中のC.C.に本当の名前で声をかけた。

 

 ──おはよう、レオン。今日の朝食は何だ? 

 ──ふふっ……もうお昼だよ。お隣から取れたてのトマトを分けてもらえたから、ピザを焼いているんだ。

 ──そうか、お前のピザは美味いからな。楽しみにしているぞ。

 

 夢の中のC.C.は微笑みながら、椅子に腰かける。

 ほどなくして焼き上がったピザは、ソースにしたトマト、チーズ、バジルの現代で言うマルゲリータに相当するものだ。チーズやトマトの焼けた香りは、膨らんだ縁の生地から香る香ばしさも相まって食欲をそそる。

 

 ──さあ、召し上がれ。

 

 レオンに促されて、夢の中のC.C.は嬉しそうにカットしたピザを口に運び頬張る。熱でとろけたチーズの塩気とトマトのほのかな甘みを伴った酸味が、バジルの爽やかな香りも相まってとても美味い。

 しばらく一緒に食べ進めていると、夢の中のC.C.はピザを食べる手をいったん止めて──と言っても既に大半は食べつくした後だが──紅茶を淹れているレオンに問いかける。

 

 ──なあ、レオン。お前は本当に良いのか? 

 ──なにがだい? 

 ──とぼけるな。お前はこの国の侯爵の隠し子だ。お前の能力ならばこんな寒村にこもるなんてことしないで、人望も能力もない侯爵の実子を押しのけて後継者になる事もできただろう。それこそ、私が与えた王の力(・・・)があれば、この国の王になる事だって──。

 

 夢の中のC.C.としては、レオンに野心を抱かせる事でギアスの力を乱用させ、コードを継承させる条件を満たさせようとしていた。

 

 ──●●●●●、僕はね……貴族になろうとは思っていないんだ。そんなものよりも、こうやって、愛する人と一緒に暮らしながらピザを焼く今の生活の方が、ずっと満ち足りているから。

 ──ならば、何故私と契約した? 

 ──それはね……愛する君からの贈り物が欲しかったからなんだ。君との確かな繋がりが欲しかった。君が侯爵夫人になりたいならば僕は精一杯頑張るけれども、そういう訳ではないだろう? 

 

 穏やかな表情で愛を口にするレオンに、夢の中のC.C.は言葉に詰まる。レオンは強い野心を持たないくせに本当に欲しいものは自然と手に入れてしまう男だ。

 C.C.の目的は押し付けられたコードを他者に継承させて不老不死を捨てて死ぬことだ。そのためには、相手に与えた王の力を暴走させてコードを継承させられる状態にする必要がある。

 だが……レオンといる間は、彼との穏やかな日々に浸っている間は、その意思が薄らいでしまう。彼といる間は、不老不死の苦しみから解放されているような気がした。

 今にして思えば、当時のC.C.()はレオンに惹かれていたのかもしれない。それまでの王の力や容姿を狙って欲に呑まれた、或いは欲に溺れさせてきた者たちと違う彼に。

 だが、そんな彼との生活は長くは続かなかった。

 

 ──土地を枯らす呪いを掛けた輩に罰を! 

 ──魔女を殺せ! 

 ──魔女を匿うあの男もだ! 

 

 数年後の凶作となった年の冬。飢餓に苦しむ領民の不満を領主から逸らすための生贄として、レオンと夢の中のC.C.は領地の騎士団から追われる事となった。後を継いだ新領主が見目麗しい彼女を手籠めにしようとして、そのために邪魔なレオンを始末しようという思惑もあったのだろう。

 森に逃げ込んだものの、騎士団に追いつめられる二人。

 

 ──このレオンが告げる! 時よ止まれ! 君は誰よりも美しいから! 

 

 二人に向けて振り上げられる剣を前に、レオンはそれまで使う事が無かった自らの王の力の使用を決意する。

 レオンに発現していた王の力は、周囲の相手の体感時間を停止させる物だった。王の力で騎士団の動きを止めては逃げるのを繰り返す二人。

 このまま逃げ切れる。そう思った夢の中のC.C.に死角から騎士団の弓矢が放たれる。

 

 ──危ない! 

 

 それは咄嗟の事だった。レオンは夢の中のC.C.に覆いかぶさるように庇い、その背中に矢が突き刺さる。

 

 ──レオン! 

 ──●●●●●……! 早く……逃げて、くれ。

 

 レオンの呼吸が擦れ、顔色の見る見るうちに蒼褪めていく。何かしらの即効性の致死毒が塗られていたのだろう。不老不死のC.C.には苦しみ以外は無意味だが、生身の人間であるレオンには致命傷だ。

 置いていきたくないという感情とは別に、これまでの経験から来る冷静な部分の思考が、レオンはもう助からない事を理解させる。王の力が暴走していればコードを強制的に引き継がせる事で不老不死にする事も出来たが、残念ながらレオンの王の力は暴走には至っていない。

 

 ──レオン……言い遺す事は、あるか? 

 ──ほんの……一欠けらで良い。僕との思い出を……何かの形で、君の中に残して……。

 ──……分かった。さよならだ、レオン。

 

 夢の中のC.C.はレオンの唇に口づけを交わすと、既に動くことができない彼を置いて森の奥へと走り出す。

 逃げるC.C.を追いかけようとする騎士団の動きが、レオンの近くを通ろうとしたところでその動きを止める。命の灯が消えようとしているレオンが、最後の力を振り絞って王の力を発動させて騎士団の体感時間を止めているのだ。

 最後の王の力で足止めされた騎士団の時間はほんの数十秒ほど。だが、人の手が殆どはいっていない森の中へと入っていったC.C.の姿を見失うには、十分すぎる時間であった。

 

 ~~~~

 

「ん……。夢……か」

 

 夢の中の過去を見終えたC.C.が目を覚ましたのは、黒の騎士団が拠点としているゲットーの倉庫の一つ。その中に作られた寝室だ。

 風化していたと思っていた過去の記憶を夢として見たのは、数日前のナリタ連山での戦いで、ルルーシュが自分を庇った事が夢の中の(レオン)と被って見えたからだろう。

 髪の色以外は似ていない二人なのに、身内と認識したものを助けるために危険を顧みない処は妙に似ていると思う。

 ルルーシュと接触したのも、当初は王の力──ルルーシュはギアスと呼んでいる力──をルルーシュに与え、コードを継承できる状態まで使わせることが目的のはずだった。

 結局、ルルーシュはギアスの契約を結ばないどころか自分も知らない異世界の魔法の力で危機を乗り越えている。

 自分の目的を考えれば、本来ならば頃合いを見て離れて新たな契約者を探すべきなのだろう。しかし、

 

「不思議なものだな……。あの童貞坊やの行末を見てみたくなるとは」

 

 ギアスに頼ることなく、仲間にした者たちと共にブリタニアに抵抗するルルーシュが、どのような運命を辿るのか興味が湧いてきた。

 

「C.C.起きてたんだ」

「ああ、ついさっきな」

 

 扉が開き、マーヤが部屋の中に入ってくる。

 

「ゼロから今後について皆に話す事があるから集合だって」

「分かった。だがその前に……ピザを食いたい」

「もう……C.C.ってば、本当にピザが好きよね」

「私はC.C.だからな」

 

 

 ────────────────────

 

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝直属の騎士であるナイトオブラウンズ。その一角がエリア11で戦死したという一報は、瞬く間に世界に広がった。

 戦死したラウンズは”殲滅機兵”の二つ名を持つナイトオブファイブのヴィクトリア・ベルヴェルグ。中華連邦との戦いを中心として、殲滅戦を最も得意とした人物だった。

 世界有数のサクラダイト生産拠点であるエリア11最大規模の反抗勢力、日本解放戦線を討滅する作戦において、作戦を指揮していた総督のコーネリア・リ・ブリタニア第二皇女がMIAとなった事も重なって、エリア11のブリタニア政庁及び軍部におけるパワーバランスの変化と、それに伴う混乱の渦中に叩き落とされる事となる。

 最も影響力を失ったのは、コーネリア総督の側近であるダールトン将軍と、直属の騎士であるギルフォード卿だ。作戦に従事していながら、総督を守る事が出来なかったという結果は余りにも大きい。

 加えて、エリア11の担当となる前に征服したエリア18からの救援要請によって人員をそちらに回さなくてはならなくなったことも、影響力の低下に拍車をかけている。

 

「エリア18で大規模な反乱だと!? 姫様が行方知れずとなったと知って抑えが利かなくなったか!」

「ギルフォード卿はこのエリア11に残ってユーフェミア様を補佐してくれ。エリア18への救援には、私が向かう!」

「ダールトン将軍……分かった。御武運を」

 

 次いで影響力を失ったのが、ヴィクトリア一派。旗頭であったラウンズの戦死は、その実力に大きな疑問を与える事となった。

 不気味なのは旗頭を失ったにも関わらず、目立った動きを見せていない事だ。

 影響力が失われた二つの勢力とは反対に、影響力が増した勢力も存在する。それは純血派だ。

 エリア11におけるブリタニア三大派閥の内、唯一大きな被害を被らずにユーフェミア副総督を守り切った事が評価されてのものだ。尤も、これは周囲が影響力を失った事による相対的な物であり、単独でエリア11の方針を決定できるほどの影響力はない。

 

「くぅ……前総督であるクロヴィス殿下の指示であったとはいえ、エリア11の地下鉄網・鉱山道そしてゲットーの管理が曖昧な状態が恒常化していた事が、テロリストをここまで育ててしまう事になるとは……。コーネリア皇女殿下、申し訳ございません」

 

 クロヴィス前総督は、イレヴンを強く締め上げる事で内乱が誘発し、中華連邦に付け入るスキを与える事を恐れ、厳格な管理を行っていなかった。

 その結果、放置されたままの地下鉄網や鉱山道、そしてゲットー各所の所有者が不明瞭な物件などがテロリストの拠点や逃げ道に利用されることが頻発し、今も反政府活動が活発なままとなっている。

 本来、日本解放戦線を壊滅させるとともに、彼らを支援していると噂されている組織の尻尾を掴むことがあの作戦の要であった。しかし結果はラウンズを含めた多数の戦力を失い、総指揮官であったコーネリア総督もMIA。しかも日本解放戦線は拠点こそ失ったものの戦力を残したまま姿を隠し、黒の騎士団の足取りはつかめていない。

 影響力が増したことで忙しくなったジェレミアが、各種資料に目を通し指示を出しながら、ナリタ連山でのブリタニア軍の大敗を思い出し、歯噛みする。

 エリア11のブリタニア軍は再編成を否応なしに迫られる事となる。それだけの被害をナリタ連山の戦いで被ったのだ。

 それもこれも、全てはゼロの登場から始まった事だ。

 黒の騎士団のリーダーにしてクロヴィス前総督の殺害犯。そして、敬愛するマリアンヌ様が暗殺された七年前の事件にも関りがある事を示唆しているあの男は、何としても捕らえなくてはならない。

 そのためにも、黒の騎士団にこれ以上付け入る隙を与える前に軍の再編成を完了させなくてはならない。

 しかし人員の数を確保する事もそうだが、黒の騎士団に対抗するためのより強力なKMFの開発と、それを運用する騎士の育成。やる事が余りにも山積みだ。

 そして、黒の騎士団によって捕縛されたコーネリア本人は……。

 

「……」

 

 黒の騎士団が保有するゲットーの倉庫に作られた捕虜監禁用の部屋で、ベッドに腰掛けたままナリタ連山での出来事を思い返していた。

 コーネリアは黒の騎士団に捕らわれた当初、捕虜の辱めを受ける位ならば自ら死を選ぼうとしていた。しかし、父親であるシャルル皇帝の直属騎士、ナイトオブラウンズの一人であるヴィクトリアによって始末されそうだった時にゼロに助けられたことで、その意識は大きく揺らぐこととなった。

 ブリタニアに対する反抗勢力である黒の騎士団に協力するつもりはない。しかし、危険を顧みずに自分を助けた相手に対して、自死を選ぶというのは、武人として恥の上塗りではすまされない。

 何より、黒の騎士団は自分を尋問する際にも、非人道的な手段をとらずに行っているし、食事もちゃんとしたものが提供されている。ゼロによる団員の教育がしっかりと行き届いているのだろう。

 というか、一度だけとはいえ午後三時に焼きたてのスコーンとジャム、ローズティーが提供されたのは本当に驚いた。しかもユフィが開くお茶会で出てくる物と、遜色ない味だった。

 このままでは黒の騎士団の思う壺だと判断し、思考を妹であるユーフェミアに関する事に切り替える。

 自らがこうして捕虜となった以上、政庁の権限は形の上では副総督であるユフィに移る事となる。ユフィは優しい子だが、それ故に甘い所がある。そこを事なかれ主義の文官などに利用されないか不安だ。

 

「……ユフィは無事だろうか? 政務をちゃんとこなせているだろうか? 体調管理はちゃんとできているだろうか?」

 

 こんな時、政庁であればユフィが拾ってきた猫のアーサーのお腹に顔を埋めて気を紛らわすこともできるのだが……。

 

 

 ────────────────────

 

 

 C.C.とマーヤが集合場所に指定された部屋に到着すると、既に他の黒の騎士団の幹部たちや特派の面々が集まっていた。

 

「スザク、身体の調子はどう?」

「今はもう大丈夫。心配かけてごめんね?」

「さっきバイタルを確認したけど、身体に異常はなかったわ。運び込まれた当初は著しい疲労状態だったのも、今はまさに健康体そのもの」

 

 マーヤがスザクに声をかけると、スザクの返答だけでなくセシルからも太鼓判を押される。

 

「それにしても、まさかスザクも魔法を使えるようになるだなんてよ~。俺もかっこよく魔法を使えるようになりたかったぜ」

「しかも生み出せる魔力量だけで言えば、ゼロを遥かに凌駕していたもの。リンカーコアがないままなのに、一体どうやっているんだか気になるわ」

「僕としてはあんな機能付けていないのにランスロットのスペックが一時的にカタログスペックを凌駕するほどに発揮された事も含めて、色々と調べたいかなぁ。あぁでも、その前に想定を大きく超える過負荷でボロボロになったランスロットを細部まで調べ直してメンテナンスしないと……」

 

 玉城のぼやきをきっかけに、カレンやロイドも思い思いに気になった事を口に出す。

 

「ゼロやカレンみたいな魔法という訳じゃないんだけどね。確か……『ワイアード』って言っていたかな?」

「ワイアード?」

「うん。僕もまだよく分かってはいないんだけど、意識だけ飛ばされた先にいた人の話では、世界と繋がる力って言ってた」

 

(世界と繋がる力……。ギアスやコードと何か関りがあるのか? もしもシャルルやV.V.がこの事を知ったらどう動く?)

 

 C.C.もワイアードという力はこれまでの人生の中で聞いた事が無い。他の面々も知らず、首を傾げるばかりだ。

 

「ふ~ん、なんだか凄そうな力ね」

「あと……集合無意識とか、世界線とか。色々な事を言っていた気がする」

「なんというか、魔法を知った時もそうだが、この世界は思ってた以上にオカルト染みた力が存在するんだな」

 

 雑談を交わしているしている内に、ルルーシュが部屋に入ってくる。

 

「全員集まったようだな」

「おせえぞー、ゼロ」

「すまない、彼女達との情報の共有が想定以上に長引いた。……入ってくれ」

 

 玉城のぼやきにルルーシュはそう言って部屋の中に入るように促す。入ってきたのは、茶色の長袖の制服を着た二人の女性。

 一人は鮮やかなピンク色の長髪をポニーテールにして纏めている、二十歳前後の凛々しい容貌の女騎士を思わせる。

 そしてもう一人は紺藍の長髪を紫色のリボンで留めている10代半ば頃の明るい雰囲気の少女。

 

「二人とも、自己紹介を」

「私はシグナム。此処にいるものは既に知っていると思うが、七年前にゼロとともに活動していた魔導師の一人だ。現在は時空管理局航空武装隊の二等空尉を務めている」

「時空管理局陸士隊所属のギンガ・ナカジマ二等陸士です。MIAとなっていた首都防衛隊所属のカリン・コウヅキ二等陸尉が所有するデバイスからの救難信号を受け、地上本部より来ました」

 

 ルルーシュに促されて、シグナムとギンガがそれぞれ自らの所属を含めて黒の騎士団の面々に自己紹介する。

 

「二等陸尉。お母さんがこの世界に流れ着いたのが二十年前だから……お母さん、十代後半でそんなに階級高かったの!?」

「お母さん? と言う事は、貴方がカリン二等陸尉の娘さん?」

「あっはい。紅月カレンと言います。このデバイスはお母さんから託されました」

「へぇ。貴方のお母さんは元気? 職務上、MIAだった期間について本人から確認を取りたいのだけれども。それと私のお母さんがカリン二等陸尉の後輩だったって話だから、昔話とかも聞きたいわね。それからね──」

「ちょ、ちょっと質問が多いわよ!? まずは順番に……」

 

 ギンガはカレンに興味を持ったらしく、矢継ぎ早に次々と質問を重ねていく。質問に答える前に次々と押し寄せるギンガからの質問に、カレンはたじたじだ。

 

「管理局所属っていうからお固い雰囲気があると思っていたけど、こうしてみると結構子供なんだなぁ」

「でも、彼女達は中々すごいよぉ? 特にシグナムという魔導師、魔力量に関してはゼロ以上だし」

「マジかよ。すっげぇ」

 

 黒の騎士団の面々にとって、知っている魔導師の中で一番強いのは誰かと言われたら、真っ先に挙げられるのはゼロだ。黒の騎士団内に魔導師がほとんどいない事もあるが、カレンとの魔導師としての模擬戦ではあらゆる搦手で完封勝利を収めていた事からも、ゼロの魔導師としての実力の高さが窺える。

 

「シグナムをリーダーとしたヴォルケンリッターは、私の魔法の師匠でもあるからな」

「とはいっても、魔法を教えていたのは主にシャマルとザフィーラで、私は肉体の基礎的な鍛錬くらいだったがな」

「はは……古代ベルカの騎士基準での基礎だから、あれは正直死ぬかと思った。あれだけ鍛えたというのに、スザクには肉弾戦で全く勝てないし……」

「ほぅ……それは興味深いな。ぜひともその実力を確かめてみたい」

 

 ルルーシュのぼやきに、バトルマニアの気質があるシグナムが目を細めてスザクに興味を持つ。

 

「ゼロ。彼女たちを俺達に引き合わせたという事は……彼女たちも協力してくれると考えていいのか?」

「ああ。と言っても管理局のルールの都合上、今のところは限定的にならざるを得ないがな」

「管理局としては、本来ならばロストロギア──過去の遺失文明が遺した高度な技術が用いられた遺産──の存在が確認されていない管理外世界の事柄に対して積極的な介入は良しとしていない。しかし、この世界に流通している物が他の次元世界に流入してその世界の脅威となっていることもあって、表立っては無理だが黒の騎士団に協力して解決にあたる事となった」

「他の世界に流入している脅威……ひょっとして!」

 

 シグナムの言葉から、マーヤは管理局が重い腰を上げようとしている理由を推察する。

 

「ああ。この世界独自の兵器であるナイトメアフレームと、リフレインという麻薬だ」

「特にリフレインは、新種の麻薬として広まり始めているだけでなく、管理局のお膝元である首都ミッドチルダの上水道設備への薬物汚染テロ未遂事件でも使われました。幸い、首都防衛隊と陸上警備隊の尽力によって最悪の事態は免れましたが……」

「私達が過去に制圧したリフレイン密売所の一件。そして先のナリタ連山の戦いで討ち取ったナイトオブファイブ、ヴィクトリア・ベルヴェルグの次元犯罪者時代のやり口を考えると、奴はこの世界を隠れ蓑にしながら管理局に対する攻撃を続けていた様だ」

「ひっでぇ……。でもよ、その主犯格は俺達が討ち取ったんだろ? そうなると、管理局って組織的にはめでたしじゃねえのか?」

 

 苦い顔をしながら、玉城は思った事を質問する。本当に管理局という組織が協力してくれるのか不安に思ったからだ。

 

「主犯格を討ち取っただけで終わる簡単な話ではないという事だ」

「ああ。現在もなお、ナイトメアを利用した犯罪組織の動きは収まっていない。一介の次元犯罪組織の科学者が、戦闘機人となってブリタニア皇帝の騎士の一人となっていた事を考えれば、ブリタニア内部に他の次元犯罪勢力が紛れていてもおかしくはない。ナイトメアは、質量兵器としてだけでなく魔導兵器としても運用できる強力な兵器だ。量産機だというサザーランドでさえ、複数機を同時に相手とれば一部のトップエース級以外は武装隊員でも危うい」

「そうでなくても、サクラダイト──と言った? 常温で魔力と電流を高効率で伝導させるこの物質は、あらゆる勢力が喉から手を伸ばすほどに欲しがるだろう」

「そうだったのか……分かった」

 

 シグナムの説明に、黒の騎士団の面々は一応は納得した顔を見せる。その一方で、自分達の世界では文明の基礎となっているサクラダイトが他の世界では夢の素材の様に扱われていた。ブリタニアとの戦いに勝利できても、今度は別の世界との戦争が始まるかもしれない可能性に不安も募ってしまう。

 

「先の事を考えても仕方がない。今はブリタニアから日本を取り戻すことに専念するんだ。コーネリアの捕縛とナイトオブファイブの討伐に成功した戦果は、キョウトにとっても決して無視できるものではない。必ず近いうちにあちらからアクションが来るだろう」

 

 

 ────────────────────

 

 

「日本解放戦線の拠点が襲撃を受けたと一報が入った時は、日本の燈火は消え去ってしまうと危惧したが……」

「よもや皇帝直属の騎士を討ち取っただけでなく、ブリタニアの皇女も捕虜とする事に成功しようとは」

「黒の騎士団。初めは本気でブリタニアと事を構える気があるのかと疑っておったが、これほどの結果を見せられては疑う余地はなさそうですな」

「ゼロの正体が未だに掴めぬのが不気味だが、少なくともブリタニアと内通していることはなさそうだ」

「何より、ゲンブの忘れ形見が憎きブリタニア皇帝の騎士を討ち取ったというのが良い」

 

 暗い室内で、炎を囲む5人の老年の男たちが密談を交わしている。

 

「聞くところによると、藤堂のために送った紅蓮弐式は黒の騎士団の手に渡ったようだが……」

「それは藤堂が出撃前に負傷した事を受けての、現場の判断によるものらしい」

「流石は奇跡の藤堂だ。黒の騎士団から紅蓮弐式を使いこなせる者を咄嗟に見出すとは」

「しかし日本解放戦線と黒の騎士団は、草壁中佐の一件で関係は険悪だと思っていたが……」

「それを鑑みた上で、藤堂は黒の騎士団と組むことが上策と判断したのだろう」

 

 5人の男達は藤堂を褒め称えながら、今後の方策を話し合う。

 

「であれば、黒の騎士団との会談の席を設けるべきであろう」

「そこでゼロの正体を確認するとともに、コーネリアの身柄の引き渡しを求める……と言う事ですな?」

「左様、そして我らも腹を括るべきだ。1年も経たぬうちに同じ地で異なる総督が二度も破れる事態を経験し、更には皇帝直属の騎士も討ち取ったという戦果。この現実に対してブリタニアがこのまま座して待つなどという甘い考えは捨てるべき」

「となると、調整中であった蒼月を月下と共に黒の騎士団へと送るべきでは?」

 

「ふふ……これまで慎重策ばかりを選んできた御老公達がこれほど積極的になるとは。流石ゼロ様ですわ!」

 

 炎を囲む5人の後方、御簾の奥で御座に座る少女──日本の象徴とする皇族の娘、皇神楽耶の高い声が、割って入る。

 普段は密談に滅多に参加しない神楽耶が口を挟んだ事に、5人の男の一人──桐原は目を細める。

 

「枢木の息子以上に、ゼロに対してご執心のようですな」

「女の感が告げているのです。ゼロは私の夫となるにふさわしい器の持ち主だと!」

「「「「「……」」」」」

 

 ゼロの正体が明らかになったならば、神楽耶と婚姻を結ばせて日本独立の旗頭にすることは悪くない事もあって、神楽耶の発言に桐原たちは何も反論する事はなかった。




 ちなみに懐柔目的でコーネリアにお出しされたスコーンとジャムはルルーシュの手作りです。ローズティーはコーネリアの好きな飲み物だとルルーシュは知っていたので、一緒に出しました。


「ヴォルケンリッター……」
「どうした、扇?」
「確かヴォルケンリッターは、ドイツ語で『雲の騎士』とか『雲の騎士団』……。ゼロ、ひょっとして『黒の騎士団』の元ネタって……」
「……(そっと顔を逸らす)」

 過去回想に登場したレオンのギアスは、R2のロロと同じ体感時間停止のギアスですが、ロロと違って心臓停止などの代償はありません。

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