コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

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大分先の設定や妄想は捗るのに、すぐ目の前の最新話の文章が中々練れない。
今回の話は中々に難産でした。


キョウト会談

 等間隔で設置されたライトによって明るく照らされた長いトンネルを、黒塗りの高級車が走る。車内の様子は内部から厚手のカーテンで仕切られており、外から窺い知ることはできず、周囲には全く同じ車がもう一台並走している以外には他に走る車はない。

 しばらく走り続けていたその高級車が行き止まりで停車すると、今度は車ごと搬送機で上へ上へと上がっていく。

 

「不自由をおかけしました。(あるじ)が皆様をお待ちです」

 

 搬送機が目的地に到着し、運転手の呼びかけに応じて車内から降りてきたのは、黒を基調として統一された服を着るもの達──黒の騎士団だ。

 一方の車からはロイドやセシルたち特派に所属していた技術者メンバーが。もう一方の車からは扇や玉城、カレンに加え、黒の騎士団の中核であるゼロと枢木スザク、C.C.に百目木(マーヤの黒の騎士団内における名前であり、父親の姓)が降りる。

 コーネリアの監視をシグナムやかつてヤマト同盟のリーダーであった泉に任せ、今回はキョウトとの会談のためにやってきたのである。

 

「ここ……まさかフジ鉱山!?」

 

 案内された先の窓から見える租界の光景から、扇が思わず呟く。

 

「嘘だろう、おい!? そんなところに来られるわけ……」

「でも間違いないわよ、この山! この形!」

 

 玉城も同様に窓ガラス越しに見える光景に驚き、カレンは日本人として印象深いその山を間違えるはずがないと答える。

 フジ鉱山は、神聖ブリタニアとの戦争の切っ掛けになったとも言われる重要な戦略物資でもあるサクラダイトの一大産地だ。侵入者は尋問無しで銃殺されるとも言われるほどその警備は厳しく、本来ならばブリタニアに対する反抗勢力である黒の騎士団が潜り込めるような場所ではない。

 

「こんなところにまで力が及ぶだなんて、やはりキョウトはすごい」

 

 扇はブリタニアによる監視がかなり厳しいはずのこの場所に、自分達を招くことができる影響力を行使可能なキョウトの権力()に感心していると、しわがれた老人の声が聞こえてきた。

 

「醜かろう?」

 

 老人の声に、黒の騎士団の面々が聞こえてきた方向へと意識を向ける。

 

「かつて山紫水明、水清く、緑豊かな霊峰として名をはせた富士の山も、今は帝国に屈し、成すがままに陵辱され続ける我ら日本の姿そのもの。嘆かわしき事よ」

 

 視線の先には鳥居があり、その下には護衛と思しき二人の男と日本解放戦線の藤堂、更に腕部にスタントンファーを装備した無頼が数機。そして彼らが守る様に囲っている輦輿(れんよ)の中にいる老人の姿は、御簾(みす)によってその姿を直接見る事は叶わない。

 

「顔を見せぬ非礼を詫びよう。が、ゼロ。それはお主も同じこと。わしは見極めねばならぬ。お主が何者なのかを。その素顔、見せてもらうぞ」

 

 複数の無頼が黒の騎士団のアサルトライフルの銃口を向ける。藤堂はその様子に苦渋の表情を見せていることから、彼の本心ではないのだろう。

 

「はっ、お待ちください! ゼロは我々に力と勝利を与えてくれました! それを……」

 

 カレンが必死に弁明する。ゼロの正体がブリタニア人であるルルーシュ・ランペルージだと知るカレンにとって、もしここでゼロが素顔を晒せば殺されてしまうのは自明の理だからだ。

 

「黙るのだ! 日本を取り戻すという悲願のため、黒の騎士団を信頼するに足る最後の証明が必要なのだ!」

 

 カレンの弁明を、老人は一喝して沈黙させる。

 

「ナリタ連山における戦いにおいて、日本解放戦線を助けてコーネリアを捕縛し、ラウンズの一角を討ち取ったその功績は、藤堂よりわしも聞き及んでおる。それでもキョウトの者の中には、日本最後の首相枢木ゲンブの忘れ形見でありながら一時とはいえ名誉ブリタニア人となり軍部に籍を置いていた枢木スザクに対して、懐疑的な目を向けるものが未だにおる。そのスザクが認めたゼロという謎の仮面の者にもだ」

「なるほど。私達がブリタニア皇族内部の派閥争いのために派遣された、レジスタンスの皮を被ったスパイと疑っている者がいるという事だな。キョウトの代表、桐原泰三」

 

 老人が語る、未だにくすぶるキョウト内からの疑惑に対し、ゼロは彼らが懸念している内容について言及する。目の前の老人の正体も添えて。

 

「なっ……! 御前の素性を知るものは、生かしておけぬ!」

「待て!」

 

 護衛の男達が黒の騎士団に銃を向けようとし、無頼も追随しようとしたのを、藤堂が止めさせる。

 

「何故止めるのですか!」

「お前たちには分からんのか! ゼロは既にお前たちを無力化する準備を済ませていることを!」

「何を……なっ!?」

 

 藤堂の反応を見聞きして訝しむ護衛の男達だが、次の瞬間、周囲の無頼たちが突然その機能を停止したのを見て驚愕する。機能停止した無頼の周辺には、淡い光を放つ鳥の羽のような物が付いた球体が貼り付いている。

 さらに、黒の騎士団がいる場所の床面には正三角形に剣十字の紋章が浮かび上がり、彼らを囲う様に半透明のドーム状の結界が張られていた。

 

「あの一瞬で、此方のした事に気が付くとはな」

「ゼロがナリタ連山で見せた魔法という存在。そしてゼロが関与したこれまでの戦場でKMFを傷つけずに鹵獲した数々の記録から、黒の騎士団には従来のプロテクトが無意味な強力な遠隔ハッキングを行う方法があると推察したまでだ。それに、キョウトから無頼が黒の騎士団にも提供されていて、そちらには優秀な技術者もいる以上、無頼のシステムが解析されていてもおかしくはない」

「流石は『厳島の奇跡』を演出して見せた戦術家なだけはある」

「ゼロ、厳島の奇跡が演出された物ってどういうことだよ!?」

 

 藤堂とゼロの会話に対して問いかけた玉城に、ゼロが答える。

 

「簡単な事だ。ブリタニアに対して敗走を続けていた当時の日本は、少しでも日本人にいつか祖国を取り戻せるという希望を与え余力を残しながら降伏するために、何としてもブリタニアに対する局所的勝利が必要だった。そのために軍部は厳島の戦いにおいて徹底した情報収集と戦力や物資を投入し、勝利を掴んだ。その時の現場責任者だったのが藤堂だ」

「……」

 

 ゼロが導き出した答えに対し、藤堂は沈黙を持って肯定する。

 

「さて、話を戻すとしよう。桐原泰三。サクラダイト採掘業務を一手に担う、桐原産業の創設者にして、枢木政権の影の立役者。しかし、敗戦後は身を翻し、植民地支配の積極的協力者となる。通称、売国奴の桐原」

「貴様! 御前を愚弄するか!」

「やめい!」

 

 ゼロが口にした、巷における桐原泰三の風評を嗤っていると考えた護衛が憤慨するが、当の桐原がそれを止める。

 

「しかし、その実態は、日本全国のレジスタンスを束ねるキョウト六家の重鎮。自らの誇りを捨ててでも面従腹背の姿勢でもって可能性を未来に繋いできた」

 

 ゼロはそう断言するとともに、自らの素顔を隠す仮面が解れるように光の粒子となって消え始める。

 

「貴方が御察しの通り、私は、日本人ではない! そして、いまからあなた方に私の素顔をお見せしよう!」

「「ゼロ……いや、ルルーシュ。やっぱり正体を見せるんだね」」

 

 スザクとマーヤの呟きと合わせるように、仮面に隠されていたゼロの素顔が晒される。眉目秀麗な顔立ちをした、10代半ばから後半辺りで黒髪と紫色の瞳をしたブリタニア人の少年の素顔が。

 

「マジかよ……。日本人じゃないって言えるわけねえから、そりゃ顔見せられねえはずだ」

「……あ~、なるほどね~♪ 彼も思い切った事をするもんだ」

「何一人で納得してるんだよ、ロイド。俺達にも説明しろよ!」

「すぐにわかると思うよ?」

 

 黒の騎士団の面々がざわざわと騒ぐ中、桐原公は別の反応を見せる。

 

「んん、お主……!」

 

 それは過去に喪われたはずの存在に対する驚愕。

 

「……こうして会う事となった相手が、貴方で良かった。お久しぶりです、桐原公」

「やはり、八年前にあの家で人身御供として預かった」

「はい。ルルーシュです。当時は何かと世話になりまして」

「まさか、ゼロの正体が君だったとは……。確かに君ならば、スザク君が協力するのも頷ける」

 

 穏やかな口調で桐原とゼロもといルルーシュは過去の出会いを懐かしむ。藤堂も、ゼロの正体を知って納得がいったようだ。

 

「……ん? ちょっと待って? 八年前に来日したブリタニアからの人質って言ったら!?」

 

 カレンは過去の記憶にあった当時のニュースと、ルルーシュという名前の繋がりから、ルルーシュの出自を察する。そしてそれに伴って彼の妹であるナナリーの出自も。

 当時のニュースでは、ブリタニアの幼い皇族が留学のために日本に来日した事を少しだけ報道されていた。

 

「紅月は気が付いたみたいね。そう、ゼロの正体は……」

「私……いや、俺は、実の父に捨てられた神聖ブリタニア帝国の第11皇子にして、第17皇位継承者。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」

「「「えぇ~!!!」」」

 

 ルルーシュの言葉に扇や玉城達、カレンも含めた黒の騎士団の面々は驚愕する。驚いていないのは、初めから知っていたスザクとマーヤ、C.C.にルルーシュの顔を見た時に察したロイド位だ。

 

「確かに、父親に見捨てられたお主がゼロならばブリタニアへの敵意を抱いてもおかしくはない。あれほど贖罪の念に囚われておったスザクが一度選んだ道を捨ててでも、お主の下に行くのも頷ける話ではある」

 

 桐原は八年前に人質として日本に送られたルルーシュとナナリーが、当時ガキ大将で悪童だったスザクと紆余曲折あった末に友情を育んだことを、藤堂を通して知っている。そして、7年前のブリタニアとの戦争でスザクが起こした出来事の事も。

 この時点で桐原としては既に納得のいく答えを得ているが、万が一という事もある。だからこそまだ聞かなければならない事がある。

 

「しかし解せんな。今までその素顔を見せてこなかったお主がなぜ此処で真名と共に見せた?」

「それにはいくつか理由があります。一つは此処で正体を明かすか否かによる今後のリスクとリターンの違いを判断した結果、リスクを冒してでも正体を明かしてキョウトから協力を取り付けるべきだと判断したから。もう一つは、仲間たちへの責務を果たすためです」

「ほう、責務とな」

「俺の素顔と正体を知っていたのは、スザクと百目木(マーヤ)、そしてC.C.の三人だけです。扇や玉城たち黒の騎士団の初期メンバー。そしてロイドやセシルを中心とした特派。彼らは素顔も正体も分からないゼロとしての俺に協力してくれました。相手が歩み寄ってくれているというのに、自分はいつまでも正体を見せないのは不義理というものでしょう? まあ此方に関しては、俺のミスで紅月に表向きの正体がばれた事で、いつ正体を明かすか悩んでいたのがある意味で吹っ切れたという部分もありますが」

「ほう、ゼロがミスとはな。紅月よ、ゼロはどのようなミスをしたのだ? 申してみよ」

 

 正義の味方を標榜する智略の怪物という印象があったゼロが、自ら失態を犯したという内容に桐原は興味を抱く。

 一方、カレンの方は突然話題を振られ、内心頭を抱えながら答える。

 

「え!? あ、はい……。ゼロは騎士団の拠点で手料理を作る事がよくあるのですが……百目木(マーヤ)が熱を出した際、私は彼女のお見舞いに向かいました。その時に、ゼロも表向きの名前で看病をしておりまして……そこで彼が料理を作った際、身に着けていた手製のエプロンやキッチンミトンが全く同じものでした」

「ちなみにその時は卵雑炊を振舞ってました」

「えぇ……」

 

 カレンの返答とルルーシュの補足説明に、桐原は思わず額に手を当てた。

 あのゼロが手料理を振舞う光景や、卵雑炊を適度に冷まして食べさせる光景が頭の中にイメージされてしまい、その絵面の珍妙さから思わず笑ってしまいそうになるのを堪えるのに必死だ。桐原が周囲をチラ見してみると、護衛は背中を向けて小さく震えている。

 

「ほう、そう言った細かい心配りもできるようになっていたのか」

 

 藤堂が真面目に感心している様子が、笑ってしまいそうになるのを後押ししてきてお腹がしんどい。桐原は笑いをこらえて鎮めるのに時間をかけ、それでも頬が引きつりそうになるのを堪える。

 

「そして最後の理由ですが、それはブリタニアの危険性が此方の想定を大きく上回っている可能性が高い事です。これについては藤堂を含めた日本解放戦線も御存じの筈です」

「魔法とギアスの存在か」

「ギアスという名称は私が暫定的に名付けたものですがね。実際、ナリタ連山の戦いでは、ナイトオブファイブの部下が変身魔法で日本解放戦線の幹部に化け、ギアスで認識を歪めて違和感を消して潜入していました」

「……何と恐ろしい力よ」

 

 危うく全ての情報がブリタニアに漏れてしまうかもしれなかった超常の力に、桐原は眉をしかめる。そのタイミングで、C.C.が一歩前に出て口を開く。

 

「ギアスは人を孤独にする王の力だ。使い手の深層心理や願いに応じた精神干渉を、左目に浮かぶ赤い不死鳥の紋様を介して行う」

「そこの女はギアスとやらに詳しいようだな」

「彼女はC.C.と名乗っていて、クロヴィス前総督によって不老不死の研究目的で監禁され人体実験を受けていた不老不死の女性です。そのため、ギアスについても多くを知っていて、俺も彼女からギアスの存在を知りました」

 

 ルルーシュはC.C.に関して意図的に情報を選んで説明する。C.C.がギアスを与える事ができる存在だという情報は、間違っても知られてはならないからだ。

 

「不老不死……。多くの権力者が求めてやまぬ夢か」

「そうか? 私としてはこんなものは早く誰かに押し付けたくてたまらないのだがな。多くの人と出会い、相手だけ老いて死ぬのを看取るのはもう沢山だ。時代によっては魔女狩りで生きながら焼かれたりもしたしな」

「空想の中の不老不死よりも、良いものではなさそうだな」

「ああ、それに私のは不老不死になった時点の肉体で固定される。老人の肉体で不老不死になっても碌にその生を謳歌することはできないだろう?」

「それもそうだな。わしもまだ死ぬわけにはいかんが、永劫の命は求めておらん。人として生き、人として満足して死にたい」

 

 桐原が不老不死に執着していなかった事は、ルルーシュにとっても安心材料だ。

 

「それにしても……キョウト六家の中でも門外不出とされていた古の巫女の御業が、よもや魔法という名でお主やブリタニアが使っておったとはなぁ……」

「ほう……その話、詳しく聞かせてもらえますか?」

「語っても良いが、その前に問わなければならない事がまだある」

 

 この場にいる本来の目的から逸れていた状況を、桐原は仕切り直す。

 

「ゼロよ。お主はこの戦いの果てに何を望んでおる? ブリタニア皇帝の座か?」

「いいえ。皇帝の座には興味はありません。俺が望むのは、神聖ブリタニア帝国の崩壊、そしてブリタニアが世界に強いた不当に弱者を虐げる世界の変革です」

「世界の変革……、大きく出るではないか。そのような事、できるというのか? お主に」

「できる! なぜならば、俺には、それを成さねばならぬ理由があるからだ!」

「……なるほど、血の繋がった妹か」

 

 桐原は、幼少期のルルーシュが妹を溺愛していた事を思い出し、戦う理由に思い至る。

 

「はい。母を暗殺された場に居合わせたナナリーは、足に大きな怪我を負って後遺症で歩くことができず、ショックから目を開くこともできず光を失った。妹がいつ現れるかもわからない刺客に怯えずに前を向いて生きるためには、ブリタニアを倒さなければならない。……俺が戦う理由としては大きいですが、それだけではないんです」

「ほう?」

「俺は、シンジュクゲットーに孤児院を建てて運営していました。孤児院の子供たちはブリタニア人である俺やナナリーにも優しく接してくれて、あの頃の俺はブリタニアに対する憎しみを捨ててナナリーや孤児たちのために生きようと考えていました。しかし……、前総督の義兄クロヴィスは、己の保身のためにシンジュクゲットーを壊滅させ、孤児院の孤児たちも皆殺しにした!」

 

 喪われた過去を懐かしみ、それを奪われた理不尽に、ルルーシュは感情を露わにする。

 

「ブリタニアのきまぐれで、弱者は謂れのない蹂躙を受けて殺される。そんな理不尽は正さなければならない! 理不尽を世界にばらまいている父、シャルル・ジ・ブリタニアを止める責任が、俺にはある!」

「それが、お主の戦う理由か。相手がわしでなければ、キョウトを従わせるための人質にするつもりだったのかな?」

「まさか、私には、ただお願いする事しかできません。力づくで従わせるのでは、それはブリタニアと変わりませんから」

「八年前の種が花を咲かすか。それも、進む道を迷い続けていたあの悪童を正しい道に戻してだ。──カッカッカッ……!」

 

 桐原は、八年前の無力だった少年がブリタニアを揺るがす源泉となって大きなうねりとなっている事に破顔する。

 

「では最後に問おう。コーネリアを此方に引き渡す気はないか?」

「此方としても、姉上をそちらに引き渡すことに否はありません。その代わり、条件を二つほど」

 

 今はコーネリアも静かにしているが、隙を見せれば逃げられる可能性がある以上、黒の騎士団で無理して監視するよりもより規模の大きいキョウトに預けた方が良い。その一方で、ブリタニア憎し、皇族憎しから危害を加えられたりしないようにルルーシュは注文を付ける。

 

「言ってみるが良い」

「一つは姉上に対して国際法に則った人道的な待遇と配慮を。もう一つは、此方から選出した人員も数名、護衛につかせていただきたい」

「護衛? 監視ではなくてか?」

「捕虜である以上、監視の役割も当然あります。ですが、姉上はラウンズであったヴィクトリア・ベルヴェルグによって謀殺されるところでした。皇帝直属の騎士であるラウンズがそのように動いた事を考えれば、ブリタニアとの交渉のカードとするよりも、姉上をこちら側に引き込めるように立ち回った方が良いでしょう」

「ふむ……分かった。その条件を飲もう」

 

 桐原としては、当初の目論見では日本を取り戻すことができた際にブリタニアに対して有利に交渉を進めるためのカードと考えていたが、ルルーシュの言葉が事実ならばその前提が崩れる恐れがある。ならば此処で意地を張って黒の騎士団と険悪になるよりもそれほど重くない要求を飲んだ方が得だという勘定が働いた。

 

「扇よ!」

「は、はい!」

「この者は、偽りなきブリタニアの敵。これまで素顔を晒せなかった訳も得心がいった。このわしが保証しよう。今後もゼロについていけ。情報の隠蔽や拠点探しなどは、わしらも協力する」

「ありがとうございます!」

「藤堂、お主は黒の騎士団と日本解放戦線を繋ぐパイプ役となってくれ」

「承知しました」

「感謝します、桐原公」

 

 御簾(みす)を自ら上げて、桐原公はルルーシュに問いかける。

 

「行くか? 優しき世界とせんがために修羅の道を」

「この意志を持つ者が俺だけだったなら、我が運命として受け入れていたでしょう。ですが、俺にはスザクが、そして皆がいる。修羅道に堕ちずに成し遂げて見せますよ」

 

 

 ────────────────────

 

 

 キョウトとの会談を無事に終えたルルーシュは、桐原公が先ほど口にした『古の巫女の御業』について質問する。

 

「桐原公、改めて聞かせてください。先ほど話に出た『古の巫女の御業』について、その詳細を」

「良かろう。護衛の者達や無頼がおぬしらを狙った時にお主が床に浮かべた紋様。あれは伝承に語られている巫女が奇跡の御業を行使する際、大地や空中に浮かべた紋様と同じじゃった」

「なるほど。C.C.も知らなかったとはいえ古代ベルカ式の念話魔法を使っていた事を考えると、その巫女は古代ベルカ時代の王族かその血縁なのかもしれないな」

「その古代ベルカという文明との関係は分からんが、この世界には、様々な国や地域に古代文明の遺跡が点在しておってな。それらの遺跡はこの世界ではない異界より来訪した神々の使徒──わしが先ほど巫女と言った存在が建てたものと言い伝えられておる。日本では『有覇里(ありはのさと)』」、EU圏では『アルヴァ・サルト』という具合に似通った呼び方である事から、元は同じ文明の遺跡が、長い歴史の中で訛って伝わったのじゃろう」

「ふむ……そうなると、この世界にも古代ベルカが関与しているロストロギア……その中でも大規模災害級の魔法技術遺産が眠っている可能性があるのか。頭が痛くなってくる話だな」

 

 桐原から話を聞いたルルーシュは、最悪の可能性を考えて内心頭を抱える。

 ルルーシュにとって、ロストロギアの基準は幼少期に関わった闇の書だ。あれはロストロギアの中でもかなりの危険度を誇る存在であり、闇の書を無力化して管制人格であるリィンフォースを救い出すことができたのは奇跡としか言い様がないほどだ。

 魔法の収集の過程で偶発的に遭遇した、ヴォルケンリッターに匹敵するポテンシャルを誇る同年代の二人の魔法少女。

 闇の書の犠牲となった管理局員の遺族でありながら、理性的な対応でサポートしてくれた管理局所属の少年と母。

 無秩序な情報の墓場となっていた無限書庫を稼働させ、闇の書の真実を明らかにした少年。

 そして、多大な犠牲と悲しみを生み出してきた闇の書を封印する事に心血を注いできた管理局の重鎮とその使い魔たちが、闇の書の主に選ばれた八神はやてを救うために協力してくれたことも大きい。

 これらがどれか一つでも欠けていたら、闇の書は今も災いをもたらす破滅の魔導書のままだった可能性もあった。

 あれほどの危険はない可能性だってある。しかし、もしもあった場合、果たして自分はそれをどうにかする事ができるだろうか? そうルルーシュは自問自答する。

 

「大丈夫だよ、ルルーシュ」

「スザク……何を根拠に言っているんだ?」

「だって、僕とルルーシュが組んで、出来なかった事なんてないだろ?」

「……ふっ、そうだな。俺達二人が手を組めば出来ない事は何もない。ましてや、今は頼れる仲間たちもいるんだ。存分に頼らせてもらうぞ」

 

 スザクの楽天的ともとれる発言だが、それにルルーシュは勇気を貰って顔を綻ばせる。

 

「ゼロ様がこちらに来ていると聞いて急ぎ来てみたら、まさか貴方だったとは」

 

 桐原の輦輿(れんよ)の後ろにある扉が開き、高い声で話しながら姿を見せたのは……和服を着た黒髪長髪の少女だ。

 

「神楽耶じゃないか」

「スザク、最後に会った七年前のあの時より随分とマシな顔をするようになりましたわね」

「そういう君も、お転婆だったあの頃より少し御淑やかになった」

 

 彼女は皇神楽耶。キョウト六家の盟主という立場にして、かつてはスザクの婚約者でもあった少女。ルルーシュにとっても、幼少期に一度だけ顔を合わせ話をした相手だ。

 そしてルルーシュはある事に気が付く。

 

「お久しぶりです、神楽耶様」

「神楽耶で構いませんわ♪」

「それでは神楽耶。先ほど、桐原公から古の巫女の御業についてのお話をお聞きしたのですが……貴方はその御業を使えますね?」

「その通りですわ。一目見るだけで見通すとは、流石でございますわ」

 

 ルルーシュが気が付いた事。それは、神楽耶がリンカーコアを有しているという事実。それも魔力量に関してはルルーシュを凌駕する! 

 

「さすがは私の夫となるにふさわしい方。幼き頃に私が家を抜け出して山で迷い、そこでルルーシュ様と初めてお会いした時も、口では厳しく突き放しながらもこのままでは私が皆から見放されてしまう事を指摘してくださいましたね♪ あの時の事があったからこそ、私は自分を律する事を学びました」

「それは良かった。……ん? 夫?」

 

 幼少期に出会った、我儘なおてんば娘であった神楽耶の変わり様に、ルルーシュがしみじみと懐かしんでいたが、彼女が言っていた言葉を思い出して首をかしげる。

 

「はい♪ ふふ……日本解放の旗頭となる方との婚姻ならば、日本人も大いに喜ぶことでしょう♪ もしもルルーシュ様に他に好いている女性の方がいるのでしたらば、その方のための側室の座もご用意いたします。英雄色を好むと言いますし、成人男性の生理を考えれば──」

「ちょっと待った! 待って!?」

 

 ルルーシュなりのロジックで言えば、キョウト六家の女性との婚姻は、政略結婚としては有りなのだ。自由恋愛万歳という訳でもないし、愛情は後から互いに相手の事を知って育めばいい。寧ろ恋愛ありきでの結婚よりも、政略結婚やお見合い結婚の方が夫婦仲が長く続くというパターンもあるらしい。だが、夫となる者と複数人の女性との婚姻関係を、本妻になろうとしている女……それも自分より年下の少女が進んで許容するというのは、なんか違うのではないだろうか? 

 何より、108人の妻を娶った神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、実の父であるシャルル・ジ・ブリタニアの存在が脳裏にちらついて、そう言ったハーレムには抵抗がある。

 このまま話を進めようとする神楽耶をなんとか止めようと、ルルーシュが急いで策を巡らせていると、スザクがルルーシュの肩に手を置いて口を開く。

 

「ルルーシュ」

「スザク! 神楽耶をいったん止めて──」

「応援するよ!」

「スザクぅぅ! お前、神楽耶の婚約者だろうが!? 良いのか!?」

「スザクとの婚約は、七年前にとっくに解消されておりますわ♪」

「逃げ道がふさがれただと!?」

 

 まさかのスザクによる(無自覚の)追撃で、ルルーシュは頭を抱える事となる。

 

「カッカッカっ! ブリタニアに苦杯を舐めさせてきたゼロも、女の色恋には敵わぬか!」

「あの童貞坊やはモテモテな癖に自分への好意に鈍感だからな。要するに経験値が足りないというやつだ」

「……まあ、ブリタニアを倒せるなら、それはそれで。ルルーシュも本気で嫌がっている訳でもないならいいんじゃないかな」

「マーヤ、あんたってこういう時、割と薄情よねー」

 

 少し前までの緊張した空気は弛緩し、各々がざわざわと話す。

 結局、神楽耶とゼロの婚約は一旦保留となり、日本を取り戻すことができてから改めて話し合う事となった。要するに結論の先送りである。




かなりリスクがある選択ですが、本作のルルーシュはこの段階で自分から正体を見せる事となりました。これが吉と出るか凶と出るか。
魔法やギアスに関しても、ブリタニア側が利用している以上、離さない選択肢が消えていたという要素もあります。

ルルーシュの一人称が状況によって「私」と「俺」で異なりますが、これは『ゼロ』としての側面で動いている時は「私」。『ルルーシュ』としての感情が昂っている時は「俺」になる傾向によるものです。

神楽耶についてですが、彼女は特殊な古代ベルカ式儀式魔法に特化した適正と教育を受けているため、魔導師としての単純な比較は難しいです。
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