コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

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驚愕のチャリティー・イベント~後編~

「では、まずは白の駒(先攻)である私からいかせてもらうよ」

 

 シュナイゼルが1手目の兵士(ポーン)の駒を動かし、対局が始まる。

 今回のチャリティーイベントにおけるチェスの試合は、回転率を上げるために各プレイヤーの持ち時間が短いラピッドが採用されている。その中でも今回のルルーシュとシュナイゼルの対局では、持ち時間10分という互いに否応なしに早指しが求められる。

 にもかかわらず、二人は自らの持ち時間を殆ど使わずに次々と手を打っていく。しかも互いに考えなしに打っているのではなく、数十手先の展開を何パターンも見越して互いに相手の思考を読み解きながら打っている。

 極めてハイレベルな判断力に基づいた早指しの応酬は、現地の観客だけでなく配信の視聴者も自然と魅入ってしまうものであった。

 

「ふ……二人とも、チェスやってるのよね? チェスってこんなにハイテンポで進むものだったっけ?」

「二人とも、どこまでこの対局の先が見えているんだろう……」

「まさに、レベルの違いを見せつけられているわ……」

 

 カレンも、マーヤも、ミレイも。二人のチェスという目まぐるしく動くチェス盤(戦場)の戦況に困惑する。

 

(シュナイゼル兄上……俺が本国にいた時よりも更に強くなっている! マルチタスクを動員しても攻めきれない!)

 

 ルルーシュがシュナイゼルの盤面(守りの布陣)を突破するのに苦労している一方で、

 

(ふむ……これまで仕込んだブラフは全て見破られているか。ジュリアス・キングスレイ、面白い(・・・)ね)

 

 シュナイゼルの方も、この会場での対局においてこれまでの相手が引っ掛かった様々な布石を見破られ潰されていることに楽しみを感じていた。

 

(となると……この盤面ならば、これはどうかな?)

 

 シュナイゼルは数手先の盤面を予測し、十七手先のチェックメイトのために新たな布石を打つ。今までの布石とは異なる、人生でたった一人にしか使わなかったとっておきの布石を。

 

(隙ができた? いや、あのシュナイゼル兄上がそんなことを見逃すはずがない。それにこれは……)

 

 シュナイゼルの打った手に、ルルーシュは初めて長考を行う。

 一見すると、白のナイトの駒(シュナイゼルの駒)を取り、更にそのまま二十七手先のチェックメイトに持っていける絶好の好機。普通ならば、シュナイゼルが攻め急いでミスをしたと受け取るだろう。

 だが、ルルーシュにはこの行動に懐かしい既視感があった。

 

(これは、幼少期の俺がシュナイゼル兄上にチェスを挑んだ際に、逆転負けを喫する時のシチュエーションそのものだ! 此処でこの白のナイトの駒(シュナイゼルの駒)をとれば、最終的に負けるのは俺だ。かといって、此処で下手な動きをすればそのまま一方的に蹂躙される嫌らしい手筋だ。ならばここは……)

 

 過去のシュナイゼルとの対局という思い出が無ければ、チャンスをつかむために白のナイトの駒(シュナイゼルの駒)を取り、シュナイゼルが仕掛けた罠に嵌って敗北していただろう。

 ルルーシュは、”勝てるかもしれない一手”という目先の利益を捨て、”負けないための一手”を打つ。

 

(ほう……この布石も躱したか。しかし気が付いて対処しても、私が有利になる事に変わりはない)

 

 シュナイゼルの眉が、僅かに動く。とっておきの布石を躱された事は少し驚いたが、そのためにジュリアスの布陣に綻びが生まれた。

 この布石の悪辣な所は、どちらに転んでもシュナイゼルは有利をとれるという所だ。相手に理不尽な二択を迫る事で、約束された敗北に自ら飛び込ませるか、相手に自ら守りを崩させるかを強要する。

 事実、盤面の天秤はシュナイゼルの有利へと傾いていく。徐々にジュリアス(ルルーシュ)の手駒は減っていき、追い詰められていく。

 それこそが、ジュリアス(ルルーシュ)が見出した活路。

 ルルーシュが、最後まで生かしていた黒のクイーンを動かす。放置すれば白のキングを討ち取れる一手。勿論、シュナイゼルもそれは把握している。だが……

 

「……ふぅ、しまったね。勝てない(・・・・)か」

「ええ、ギリギリですが、間に合いました」

 

 二人の会話に、一部を除いた周囲は訝しむ。

 盤面は白の駒(シュナイゼル)が圧倒的に有利。黒のクイーンさえ討ち取れば、後は動けなくなったポーンが数駒と動けば何かしらの駒に取られる包囲された黒のキングのみ。どう見ても、一見するとシュナイゼルの勝利は揺ぎ無い盤面だからだ。

 

「っ! ステイルメイトだ……」

 

 シュナイゼルに敗れていたプロチェス選手の一人が、盤面の状況を見て呟く。

 ステイルメイト。それはチェスにおける引き分け(・・・・)となる条件の盤面の一つを指す。その条件は、『自分の手番で動かせる駒が全くない時』

 ルルーシュは、約束された敗北を与える布石を躱す時点で、このチェスではシュナイゼルに勝利する事を捨てて負けない(・・・・)事を優先した。そのために、ルルーシュは黒の駒で攻め込んでは返り討ちにさせ、シュナイゼルが対処するための手番を奪いながら動ける駒を削っていた。

 実際のチェスの試合でも、対局に負けないために意図的に引き分けとなる盤面に持ち込んで仕切り直すことはよくあるが、実際にできるかは別問題だ。だが、ルルーシュはそれをやり遂げて見せた。

 

「如何しますか、シュナイゼル殿下?」

「そうだね……ジュリアス、此処は君に敬意を表して認めるとしよう。ステイルメイト」

 

 ジュリアス(ルルーシュ)の問いかけに対して、シュナイゼルは黒のクイーンを取り、ステイルメイト(引き分け)を宣言する。

 引き分けという形で決着がついた対局に、周囲からは歓声が巻き起こっていた。

 

「ジュリアス・キングスレイ。実に素晴らしい対局だったよ。次にチェスをする機会があれば、是非とも君に勝ちたいくらいだ」

「此方こそ胸躍る対局でした、シュナイゼル殿下。次までにさらにチェスの腕を磨き、御身から勝利を勝ち取らせていただきます」

 

 互いに席を立って笑みを浮かべて握手し、健闘を讃え合う。その様子を、対局を配信していたテレビ局が配信する。

 一見すると非常に絵になる二人の爽やかな場面だが、ルルーシュの心の内は悔しさで溢れていた。

 

(まだ、俺はシュナイゼルに届かないのか! 今回はチェスの盤面だったが、もしもこれが実際の戦場における戦況だった場合、完膚なきまでに負けていた!)

 

「殿下、そろそろお時間です」

「分かったよ、カノン。では私達はこの辺りで帰らせてもらうとするよ。ジュリアス、次の機会を楽しみにしているよ」

「ギルフォード卿、シュナイゼルお兄さま方のお見送りをお願いします」

「イエス、ユア・ハイネス!」

 

 ユーフェミアからの命令を受けたギルフォード卿に先導されて、シュナイゼルがカノン達を連れて会場を後にしたのをルルーシュは見送る。

 

「二人とも、凄かったよ!」

「ありがとう、シャーリー。本当は、勝ちたかったんだけれどもね」

 

 シャーリーに対する返答は、ルルーシュの本心だ。

 目立たないように動くならば、対局中にさりげなく負けるのが一番穏当だった。だが、ルルーシュにとってシュナイゼルは越えるべき壁であり、わざと負けるなど到底許容できるものではない。

 だからこそ、公の場で目立つリスクを加味した上で勝ちにいったのだ。

 それに、シャーリーの前で情けなく負ける様子を見せたくなかったという個人的な感情もある。

 いくらルルーシュが恋愛感情に対して鈍感とはいえ、自分を慕うシャーリーからの好意に気が付かないほど愚鈍ではない。復讐とナナリーにだけ目を向けて生きていたならば、その事にさえ気が付かなかっただろうが……。

 シャーリーが自分に対して向ける好意の感情が、憧れや敬意の類なのか、それとも思慕や恋慕の類なのかまでは分からないが、自分がゼロとならず復讐の道も選んでいなければ、ひょっとしたらシャーリーと恋仲になっていた可能性があったかもしれない。

 そう考える位には、ルルーシュはシャーリーの事を異性として少しだけ意識するようになっていた。

 だが、その未来はありえない。何故ならば自分は神聖ブリタニア帝国に対する反逆者ゼロなのだから。シャーリーを巻き込まないためにも、彼女と結ばれることはあり得ない。

 

「お見事です、ジュリアス社長。おかげで会場も配信も大盛り上がりです♪」

 

 声をかけてきたのは、ユーフェミアだ。彼女としては本心からそう言っているのだろう。

 

「お力になれたなら幸いです、ユーフェミア総督代理」

「この後、連れ添いの方々を抜きに少しお話がしたいのですが、ジュリアス社長の方は宜しいでしょうか?」

「私は構いませんが……」

「ありがとうございます♪ ではこちらへ……」

 

 ユーフェミアに連れられて、ルルーシュは会場の奥にある個室へと案内されていく。

 その様子に騒めく周囲の参加者たち。

 

「……ふぇっ!? 会長! これって、ひょっとして!」

「い、いや……ひょっとしたらシュナイゼル殿下に健闘したジュリアス社長を労うにあたっての相談かもしれないし……」

 

 普段こういう時に煽ったりするミレイが、珍しくシャーリーを諭す。ルルーシュとユーフェミアの関係──腹違いの家族であり、ルルーシュは死んだことになっている皇族だという秘匿されている情報を明らかにするわけにもいかないため、冷や汗を垂らしながらどう落ち着かせるか頭を悩ませていた。

 

(ルルーシュ……もし何かあったら念話で伝えて。部屋に乗り込むから)

(そうなると私は警備に対して目を光らせておくべきね)

 

 マーヤとカレンは念話で連携して万が一の時にルルーシュの脱出をアシストする事にしていた。

 一方、個室へと案内されたルルーシュはというと。

 

「……っふぅ。随分と大胆な事をするな、ユフィ。周囲が大騒ぎになるぞ」

「でも、こうでもしないとあなたと二人っきりでお話しする時間を作れないと思ったの、ルルーシュ」

 

 ユーフェミアがルルーシュと呼んだので、ジュリアス・キングスレイの仮面(ペルソナ)を外し、ルルーシュとして向かい合う。

 

「護衛も付けないで、もし俺が襲い掛かってきたらどうするつもりだったんだ?」

「ルルーシュはそんなことしないって信じているから♪」

「それはそうだが……はぁ。それより、態々人目を避けるという事は、公の場では聞くことができない事を聞きたいんだろう?」

 

 小言を続けそうになるルルーシュだが、その言葉をぐっと堪える。今はユーフェミアの要件が先だ。こっそりと、探知魔法で盗聴器の類が無い事は確認済みである。

 

「ねえ……ルルーシュは、黒の騎士団の事をどう思っている?」

「っ……! 確かに、それは公の場では尋ねられない質問だな」

「私は……凄く複雑な気持ちなの。クロヴィスお兄様を殺めたゼロに対する怒りはある。でも、クロヴィスお兄様は自己保身のためにシンジュクゲットーの人達を虐殺した。私もカワグチ湖でゼロに助けられた。多くの民も彼らのおかげで助けられた。お姉様はナリタでの戦いで行方不明になってしまったけれども、黒の騎士団に囚われたのだとしたら酷い事はされていないだろうって信じられる。私は……黒の騎士団を相容れない敵だと思えないの」

「ユフィ……そういう事は、無暗に話しちゃいけない。君の立場や命が危うくなる」

 

 ブリタニア本国の人間に聞かれたら危険な内容に、ルルーシュは打算も何もなくユーフェミアの身を案じていた。

 

「ごめんなさい。でも、いずれ新しい総督が任命されて私が自由に動けなくなる前に、この事をあなたに話したかったの」

「ユフィ、君はひょっとして……」

「ルルーシュ、貴方がゼロと会ったら伝えてほしいの。どうかルルーシュとナナリーの事を守ってほしいって」

 

 ユーフェミアはルルーシュが黒の騎士団のメンバーである事を見抜いている。恐らくは理論だった証拠はなく、彼女自身の直感でだ。

 自分とゼロが同一人物ということまでは気が付いていないようだが、彼女がいつまでも気が付かないままだとは思えない。

 

「……そこは、黒の騎士団との交渉の席とかを求めるとかじゃないのか?」

「だって、そこまでお願いしてしまったらルルーシュに迷惑をかけてしまうもの」

「わかった。ちゃんと伝えておく。だから、この事は他言無用で頼む。俺の会社や孤児院、そして君自身にも迷惑が掛かる」

「うん」

 

(甘いな、俺は。だが、この想いを捨ててしまったら俺は修羅道に堕ちる事になるだろう。そうなってしまったら、俺は犠牲になった者達に顔向けできない)

 

 本来ならば、ユーフェミアの意識を眠らせ、記憶を弄るべきなのだろう。だが、あくまで自分達の身を案じてくれているユーフェミアに対してそのような事は、ルルーシュにはできなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 シュナイゼルとルルーシュが対局を始めた頃に、時を遡る。

 観客達が皆、二人の対局の行方に意識を向けている中、ニーナはユーフェミアにどう話しかけようか悩んでいた。彼女にとっては知り合いのチェスの対局よりも、敬愛するユーフェミアにどう話しかけるかの方が重要な事なのだ。

 そんな彼女に話しかけてくる者が一人。

 

「流石はシュナイゼル殿下というべきだが、あの少年も相当だねぇ。君もそう思わないかい?」

「えっ……? あ、はい。貴方は?」

 

 話しかけてきたのは、紫色のミディアムヘアの男だ。金色の瞳はどこか狂気的なナニカを宿しているような恐ろしい雰囲気を感じさせる。

 

「私かい? 私はシュナイゼル殿下に雇われている科学者さ。君と此処で出会えるとは思ってもいなかったよ、ニーナ・アインシュタイン」

「私の事、知っているんですか?」

「勿論だとも。君が研究している論文を読ませてもらったが、非常に興味深い。サクラダイトに代わる新たなエネルギーの研究。その根幹であるウランの濃縮と分裂反応の制御技術が完成すれば、人類は新たなプロメテウスの火を手に入れる事となるだろう」

「ぇ……理解して(わかって)くれるんですか!?」

 

 ニーナの研究は、サクラダイトが文明の基礎となっているこの世界においては非常にマイナーだ。似たような研究を進めている者は彼女の知る限りでは他におらず、研究の価値を理解してくれる者も殆どいなかった。敬愛するユーフェミアでさえ、ぼんやりと凄い技術だと思うくらいでその内容をちゃんと理解しているとは言い難い。ニーナの研究は、前を走るものがいない独りぼっちの闇の中を手探りで進めてきたものだ。

 

「特定の資源に著しく依存した文明は、それが枯渇した瞬間に急速に衰退・滅亡してしまうリスクが付きまとう。サクラダイトに著しく依存したこの世界の文明はまさにそれだ。君の研究はまだまだ粗削りだが、人類を飛躍的に進歩させる可能性を秘めている! 君は、この世界の発展と救いの天使となるかもしれないんだよ」

「私が……」

 

 誰も理解してくれなかった研究を絶賛する科学者()に対し、ニーナはその勢いに若干引きつつも嬉しく思う。

 それから、ニーナは目の前の科学者()と自らの研究について語り合った。科学者()はニーナの意見を単純に肯定や否定するだけでなく、現在浮かび上がっている課題や問題点に対して、具体的な改善案を提示したりもしてくれた。

 もし研究用のノートPCを持ってきていれば、この場で科学者()に見せてより詳細な意見を聞きたかったくらいに、ニーナにとって充実した一時だった。

 そんな一時も、終わりを迎える。

 

「ドクター、シュナイゼル殿下の対局が終わりましたので、ご準備を」

 

 声をかけてきたのは、薄い紫色のウェーブがかった髪の女性だ。瞳の色もドクターと呼ばれた科学者()と似ており、恐らくは家族か親戚なのだろう。

 

「──。ああ、もうそんな時間か。分かったよ。ニーナ・アインシュタイン、君との楽しい語らいの時間もどうやら終わりのようだ」

「──。ぁ……」

「それにしても……あのジュリアスという少年も相当やるとは思っていたが、まさかシュナイゼル殿下と引き分ける(・・・・・)とはね。いや、これは少年が劣勢だったのをどうにか引き分けに持ち込んだというべきかな?」

 

 二人の熾烈を極めた対局が終わった盤面を一目見て、ドクターはどのような展開があってどのような決着を迎えたのかをあっさりと読み解く。

 ニーナにはチェスの事はよくわからない。展開を見ていない対局となればなおさらだ。それよりも、目の前の科学者()との語らいが終わってしまう事を残念に思っている位だ。

 

「では、帰る前に君に一つ忠告しておいてあげよう」

「忠告……ですか?」

「どんな技術にも、必ず光と闇の側面がある。プロメテウスの火は人類を寒さや飢餓から救い叡智をもたらしたが、同時に凄惨な争いの火種ともなった。君の技術も、悪意ある者が悪用すれば致命的な悲劇を招く事となるだろう。その事は心しておくように」

「……はい。肝に銘じます」

 

 ドクターはニーナにそう言い残し、会場を出ていく。

 

「あ……そういえばあの人の名前、聞いてなかった」

 

 ドクターたちが会場を出てしばらくしてから、ニーナはドクターの名前を聞き忘れている事に気が付いて凹んでいる一方で、ドクターはシュナイゼルと共にギルフォード卿に見送られてチャリティーイベント会場から離れ、高速道路を走る御忍び用の高級車に乗っていた。

 空間上に展開されたパネルウィンドウの画面を操作しながら、ドクターがシュナイゼルに問いかける。

 

「最後の対局が引き分けに終わってしまったにもかかわらず、ご機嫌なようだね? シュナイゼル」

 

 それは帝国宰相であり皇族であるシュナイゼルに対しての発言としては、不敬としか言いようがない。しかし、この場にはそれを咎める者はいない。

 

「おや、そう見えるかい?」

「ああ、他の者たちを圧倒していた時は淡々とした作業だったが……ジュリアスという少年との対局以降、表情には出していないが生き生きとしているよ。それほど心躍る相手だったのかな?」

「……そうだね。ジュリアスとの対局はとても面白くて、ついつい彼を思い出してしまったくらいだ。表層は冷静さを保ちながら、その内には勝負ごとになると燃え盛る様な混沌の炎を宿していた腹違いの弟のルルーシュをね。あの頃の様なチェスがしたいと常々思っていたが、ジュリアスはその願いを叶えてくれただけでなく、予想を半歩越えてきた。その事が、私には本当に嬉しいんだろうね」

 

 シュナイゼルが言う予想の半歩越えとは、対局中にジュリアスに対して行った相手の行動を誘導する一手だ。シュナイゼルに次いで聡明だった腹違いの弟であり、このエリア11で非業の死を遂げたとされるルルーシュならば、性格的に引っ掛かっていたであろう一手。

 実際、ジュリアス(ルルーシュ)もその一手に危うく引っかかるところだったが、駒を持つ寸前の所で思いとどまって罠を回避しつつ負けないための一手を完璧に選びとって見せた。その様子に、シュナイゼルは”もしもルルーシュが生きていて成長していたら”という可能性に想いを馳せていた。

 

「なら、彼を勧誘するかい?」

「ふむ……いや、止めておこう。彼は内側に引き込むよりも、他人同士であった方が面白そうだ」

「成程、君と渡り合える好敵手(ライバル)でいてほしいという訳か」

「そういう事だ。彼と再び相まみえる時が来ることを、楽しみにしているよ」

 

 トウキョウ租界の景色を窓越しに眺めながら、シュナイゼルは無意識に笑みを浮かべる。

 

「そういえば、タンザニアの遺跡で調査用に使用していたプロト・ガウェインが強奪された報告が上がっている。そちらへの対処はどうするかい?」

「あれは通常のKMFとは異なる操縦系統かつ魔導師でなければ十全に扱えない試作機だ。加えて魔力炉心や魔導装甲といった魔導技術関連は撤去済み。強いて言えばドルイドシステムが少し勿体ないくらいだが、あれも本来の性能を発揮するには使い手を選ぶ。焦る必要はないよ」

「それは良かった。私としても、パトロンの機嫌を損ねる事はできるだけ避けたいからね」

「個人的な研究を優先する君がよく言うよ。それで、君の方はどうだったのかな? 会場に入る前は無表情だった君が、帰る頃には上機嫌だったけれども」

「ああ! 私と近いレベルで話ができる相手がいてね。彼女の研究について少しアドバイスをしながら話を咲かせていたんだよ。私にとっては興味も意味もないパーティだと思っていたが、予想外の収穫だった」

「ほう、君がそういうほどの人物か。ぜひとも聞かせてくれないかな? わが友、ジェイル・スカリエッティ(・・・・・・・・・・・・)

「勿論だとも! まずは──」

 

 

 ────────────────────

 

 

 エリア11に存在する政庁からも秘匿されている地下研究所では、クロヴィス総督時代の将軍であったバトレーが研究員に指示を出し、自身もコンソールを操作して作業に没頭していた。

 バトレーはかつてクロヴィス総督の死を切っ掛けにジェレミアによって拘束され、本来ならば本国で幽閉されているはずの男だ。しかし、バトレーの研究者としての能力を買っていたヴィクトリアが秘密裏に引き取ったのだ。

 

「量産試作体Jの状態はどうだい?」

「はい、脳への情報転写処理時のバイタルは正常域で安定、反応も想定以上の数値を叩き出しております。ですが、排熱と言語機能に未だに問題が……」

「此方の命令を聞ければさしたる問題ではない。性能を維持したまま量産するための課題点を洗い出すように」

「イエス、マイロード!」

 

 ヴィクトリアの命令を受け、バトレーを含めた研究員たちが慌ただしく作業を再開する。

 研究員たちの視線の先には、オレンジ色の透明な液体で満たされた巨大な水槽。そしてその中に浮かぶ、ケーブルが背中に何本も繋がっている男の姿。

 薄緑の髪、浅黒い肌、そしてオレンジ色の瞳。左半身が半ば機械化しているが、知っている者がその姿を見れば、純血派のリーダーであるジェレミア卿だと答えるだろう。

 だが、それは有り得ない事だ。何故ならばジェレミア卿は今、ユーフェミア総督代理が主催するチャリティーイベントの警備主任として全力で活動している真っ最中なのだから。

 水槽に浮かぶジェレミア卿らしきナニカのデータを収集するヴィクトリアに対し、背後から話しかける声が二つ。

 

「ヴィクトリアよ。例の計画は2か月後のトウキョウ租界で行う事に決まった」

「僕とシャルルの悲願の達成。それを大幅に短縮できるかがこの計画に係っているからね。素材が足りないなんてことは避けるべきだろう?」

 

 それは灰色の瞳と生え際がやや後退した茶髪の日本人男性を連れたV.V.だ。

 ブリタニアが支配するエリア、それもそのエリアを統括する総督や政庁にすら秘密の施設にイレヴンがいるという異常な光景だが、ヴィクトリアは気にしている様子もない。

 

「ようやく準備が整ったか。私も技術を提供したかいがあるというものだ。それで、今回の計画では中核に何を添えるのかな?」

「幾つか候補を考えたけれども、黒の騎士団に気取られないようにすることを考えたら、ユーフェミアを使おうと思っているよ」

「ああ、あの日和見主義者で脳内お花畑の総督代理ね。くくく……良いねぇ」

 

 戦闘機人の方のヴィクトリア(自分)も不倶戴天の敵と考えていた皇女の名前が上がり、ヴィクトリアの口角がつり上がる。

 あの女が絶望に染まり苦しみながら消えていく様子を想像するだけで、笑いがこみあげてくる程だ。

 悍ましい計画を企てている三人の様子を、バトレーは戦々恐々としながら見過ごすしかなかった。




Q:ルルーシュとシュナイゼルのチェスの試合展開の詳細は?
A:作者にはチェスの詳細な知識や能力は無いのです……。付け焼刃の知識で詳細を描写するよりも、要点だけ描写するほうが良いのだ!
  →いつのまにかシュナイゼル陣営にスカリエッティがエントリーしました。

どうして……。

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