コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

25 / 49
太陽の騎士、魔女の猫

 これまで黒の騎士団が預かっていたコーネリアの身柄が、キョウト保有の警備がより厳重な場所へと移送される日。

 移送用の護送車の中で最低限度の拘束に留められているコーネリアは、瞑想するように目を瞑りながら昨夜の一人のイレヴンから告げられた言葉を思い出す。

 コーネリアは当初、その男から非難や暴言を吐かれるものと考えていた。黒の騎士団が理性的なテロ組織とはいえ、自身は神聖ブリタニア帝国の皇族であり数多くのテロ組織を壊滅させてきた過去を持つ。中には憎悪を無理やり抑えているだけの団員もいるだろうと考えても不思議ではなかった。

 しかし、その男がコーネリアに対して告げた内容は予想外なものであった。

 

 ──ユーフェミア副総督への代わりといっては何だけどさ……一言礼を言いたくてさ。サイタマゲットーをラウンズから守ってくれてありがとう。

 

 その言葉を聞いた時、コーネリアの思考は一瞬停止した。テロリストからすれば自分は恨まれこそしても感謝される理由がない。

 コーネリアはその男に何故感謝しているのかを尋ねた所、彼はサイタマゲットーに拠点を置き、現在は黒の騎士団の下部組織となっているヤマト同盟のリーダーである泉という男だと分かった。

 ヤマト同盟はイレヴンとブリタニア人のハーフやクォーターといった混血児の権利を守るためという御題目を掲げている反ブリタニア組織だと、コーネリアは記憶していた。危険度こそ低いが規模はそれなりに大きく、他のより危険なテロ組織を壊滅させた後に対処しようと考える程度には優先順位が低い組織であった。

 以前のコーネリアであれば、烏合の衆な脆弱な組織の温い考えと一笑に付していただろう。だが、ナリタ連山での戦いで黒の騎士団に敗れたばかりか、ヴィクトリアに殺害されかけたところをゼロに救われた事で、若干の変化が生まれていた。

 

「私は……どうするべきなのだろうな。ユフィならば、黒の騎士団とも手を取りあおうとするのだろうか?」

 

 カワグチ湖で黒の騎士団に助けられたユーフェミア()ならば、自分と違って民衆のために黒の騎士団と協力する道を選べるかもしれない。

 身内同士であろうとも競い合い、争い、そして切り捨てて発展してきた本国とは異なり、弱い他者同士でも手を取り合い協力し合う事で強大な相手に立ち向かう黒の騎士団の考えは、コーネリアにとっては新鮮だ。

 だが、この経験は活かされることはないだろう。何処かは分からないがより警備が厳重な場所に移送され、二度と外の世界に出られない可能性だってある。そもそも、仮に自由になれたとしても本国に敗北者となった自分の居場所はもうないだろう。

 

「そういえば……あの時、ゼロはなぜアリエスの悲劇の事を尋ねた?」

 

 色々な事思い返す過程で、コーネリアはふとゼロが護衛を付けずに一人で尋問しに来た時の事を疑問に感じる。

 ゼロが初めて表舞台に立った特派強奪事件では、アリエスの悲劇に関わっている重要人物だと目されていた。だからこそ純血派のリーダーであり、マリアンヌ皇后の身辺警備を完遂できなかった過去を悔やんでいるジェレミア卿はゼロを捕縛する事に力を注いでいた。

 だが、自分をアリエスの悲劇当日の行動などを尋問していた時のゼロの様子は、今にして思えばそれ以外の尋問をする時とは様子が異なっていた気がする。そう、あれはまるで大切な者の死の真相を知りたい遺族のような必死さがあった。

 そこでコーネリアはある可能性を考える。もしもゼロが、アリエスの悲劇に関して犯人や共犯者ではなかったとしたら? むしろあの事件の被害者だったとしたら? 

 そしてコーネリアは一つの可能性に思い至る。

 

「まさか……ゼロはルルーシュなのか?」

 

 それは、今はエリア11となっている日本で七年前に非業の死を遂げた腹違いの兄妹(きょうだい)の存在。そして妹であるナナリーは足を怪我して歩けなくなった以上、消去法で兄であるルルーシュとなる。

 ルルーシュ達が日本に送られた際、確か二人が預けられた先は、キョウト六家の枢木家。そして黒の騎士団のエースである枢木スザクは、当時首相であった枢木ゲンブの忘れ形見。

 ゼロの正体がルルーシュならば、可能性としては筋が通る、繋がってしまう。

 コーネリアには、この可能性が自分の心が予想以上に弱っていることによる只の妄想であって欲しいと願うしかできなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 キョウト六家からの要請で秘密裏にエリア11へと派遣された、中華連邦インド軍区の研究者であるラクシャータ。

 彼女は黒の騎士団が保有する倉庫に自身が持ち込んだモノの一つの前で頭を悩ませていた。

 それは、一体のKMFだ。それも無頼やサザーランドではない、タンザニアの遺跡でブリタニアから強奪したとされる最新鋭の試作機。だが、その機体は、様々な意味で不完全な機体であった。

 外装のカラーリングが統一されていないどころか装甲がないためにフレームが露出している点は、改めて装甲を付けてカラーリングも統一すればよい些末な部分だ。

 この機体の大きな問題は3点。

 一つ目は、最新鋭の試験技術の実戦運用における不完全さ。

 フロートシステムは、KMFに軽快な飛行能力を与え戦争を変えるだろう。この技術の問題はエナジーの消費量の問題を解決する位の完成度が高い技術だからまだ良い。

 両肩に内蔵されているハドロン砲は、収束・制御が未だに不完全なままで、このままでは兵器として照準が安定せず実用化には至らない。尤も、自分が研究しているゲフィオンディスターバーの技術を流用すれば、その点は改善できる見込みなのは幸いか。ハドロン砲の研究をしていたプリン伯爵ことロイドが悔しがる様が思い浮かぶ。

 ファクトスフィアの代わりに搭載されているドルイドシステムは、極めて高度な演算処理能力を有するが、スペックが高すぎて扱い難くKMFで運用するには宝の持ち腐れだ。

 どれか一つだけならば大したことはない問題だが、全てまとめてとなると相互に干渉しあう可能性もあり中々の難題となる。

 二つ目は、機体がサザーランドの二倍近い巨体を誇るため、従来機のパーツの流用が困難だという点。様々な技術を内蔵式という形で全て詰め込んだため、これほどのサイズになってしまったのだろう。

 しかも機体各部には本来のパーツではなく代替パーツを使ったような痕跡が多数見受けられる事から、本来のスペックを発揮するためにはその部分も改めて作り直さないといけない。

 そこに立ちはだかるのが、コックピット内部にある従来のKMFには存在しなかった謎の機構だ。構造から推測するにコックピット内の何かを取り込んで機体各所に送り込むようだが、何のためにそんな機構があるのかが理解できない。

 そして何よりの問題点が……、

 

「そもそも、こんなゲテモノを真面に操縦できるパイロットがいるの?」

 

 三つ目の問題は、先二つの問題を解決したとしてもこの機体を実戦運用できるパイロットのイメージが全く思い浮かばない事だ。

 余りにも多機能かつ複雑で、用途不明な機構も存在するこの機体。どうにか実戦運用できるように改修した場合の運用方法を仮定すると、

 

 ・ドルイドシステムによる戦場全体の情報管制・指揮

 ・フロートシステムとハドロン砲による空中からの砲撃戦

 

 の二つの用途が思い浮かぶが、どちらか一方だけでも担当する者の負担は大きいというのに、両方を同時並行で実行しようものならばパイロットの処理能力がパンクしてしまう。

 かといって、一方だけに注力するともう一方が齎す絶大なアドバンテージを放棄する事となる。

 

「はぁ、なんで単座式(・・・)なのよ……」

 

 せめて複座式ならば、操縦・砲手・指揮担当に分担する事でまだ実戦運用の見込みはあった。だが、この機体は単座式な上にコックピットをこれ以上拡張すれば、機体バランスが滅茶苦茶になってしまう。

 

「もういっその事、解体して個別に使ってしまおうかしら」

「えぇ~! そんな勿体ない!?」

 

 ラクシャータの呟きに、聞き覚えのある声が聞こえてくる。黒の騎士団からロイドがセシルたち特派と共にやってきたようだ。

 

「ブリタニアにいた頃に僕たちが基本設計したガウェインが、こうして目の前にあるとはねぇ」

「ですが、私達が設計した時と比べて、色々と変わっているみたいですよ。元々は操縦者と砲手の複座型で設計していたのに、このガウェインは単座式になっています」

 

 そう言って、ロイドはラクシャータの脇と通り抜けてガウェインのコックピットを確認する。

 

「……やっぱり。ゼロも危惧していたけど、このガウェインには魔導技術が使われている痕跡があるね~」

「先に確認した資料の内容と照合すると、魔力を伝達させるパーツは通常のKMFの動力伝達素材に置き換えられているみたいですね」

「ならさぁ、デバイスを作成するのに使うあの素材で流用できるでしょ♪」

 

 ロイドとセシルの話に、ラクシャータは眉を潜める。

 

「なにオカルトな話しているのよあんたら。いつから神秘主義に傾倒したわけ?」

「あぁ……ラクシャータは来たばかりだからまだ知らないんだっけ。この世界には魔導師って存在がいる事」

「はぁ?」

「折角だから見せてあげるよ~♪ マーリン、セットアップ!」

 

 訝しむラクシャータに対して、ロイドは意気揚々と何かの起動を宣言する。

 

Stand by Ready. Set up.

「そんでほいっと!」

 

 聞こえてきた機械音声の後にロイドの眼鏡が変形すると、ガウェインのコックピット上部から跳び下りて重力を無視するように宙に浮かぶ。

 目の前の光景に、ラクシャータはポカンとした表情で固まっていた。

 

「ひひ~、おめでとう~♪ 新しい世界の扉にようこそ、ラクシャータ♪」

 

 ラクシャータの表情にご満悦なロイドはそのままゆっくりと降り立つと、周辺の端末を六つほど浮かせて周囲に浮かべ、ガウェインの解析に移る。

 

「ゼロや紅月君たちから収集したデータのおかげで僕用のストレージデバイスも出来上がった事だし、キョウトの支援で予算も潤沢だから研究開発が捗るぞ~♪」

「って、そんな技術があるなら私にも使い方教えなさいよ!」

「無・理♪ だってラクシャータさ、リンカーコアないもん♪」

「はぁ!? ……上等だよ、プリン伯爵。だったら私でも使えるようにしてやろうじゃないの! そんなもの必要なくてもね!」

「それ、良いですね♪ 私も手伝います。ロイド主任に差を広げられてばかりなのは癪ですから」

 

 ロイドの煽りに対してラクシャータが啖呵を切り、セシルもそれに乗っかる。他の技術者も自分達がロイドのように魔法が使えるようになれば研究・開発が捗るので特に止めはしない。

 この事が切っ掛けとなって立ち上げられた、ラクシャータとセシルを中核としたメンバーによる研究は、後の管理世界において非魔導師でも簡単な魔法ならば行使可能なデバイスの開発の礎となり、管理局に大きな衝撃をもたらす事となるのは割愛する。

 

「ラクシャータにはガウェインの改善案、もうあるんでしょ?」

「一応はね。ハドロン砲の制御はどうにかできる見込みよ」

「ぐぬぬ……僕が改良するつもりだったのにぃ」

「はいはい、そういうアンタにもあるんでしょ? ガウェインの改善案」

「勿論! コックピット内部にあった魔力伝達用の装置そのものは、取り外せなかったのか残っていたからね~。代替として使われている動力伝達素材を、デバイスに使っている魔力伝達素材に置き換えて調整してあげれば、このガウェインを製造した科学者が意図していた動きの一程度以上は再現できると思うよ♪」

「私も、フロートシステムの燃費改善のためのプランはありますし、単座式になった事で生じたユグドラシルドライブの高出力化とエナジーフィラーの大型化のおかげでエナジーと出力は共に余裕があります。折角だから機体全体に小型化したブレイズルミナスを装甲と一体化させて張り巡らせてみるのはどうかしら?」

 

 三人寄らば文殊の知恵ということわざがあるが、三人の天才科学者が一同に会した事でガウェインの改善計画が次々と湧き出てくる。

 

「──。改善する目途が立ったのは良いけれども、これを操縦できるパイロットはいるの? ただでさえパイロットに要求される処理能力が馬鹿みたいに高いのに、そこに魔導師だっけ? それの適性も必要なんでしょ?」

「ん~。まぁ、思い当たるのは一人いるかな?」

「ゼロしかいませんね。 ロイド主任」

「黒の騎士団のリーダー? 紅蓮やランスロットのパイロットじゃなくて?」

「その二人の場合、感覚で機体を使いこなしているからねぇ。求められる能力の方向性が違うんだよ。その点、ゼロならナリタで失った機体に代わる新しい機体という意味でも、ガウェインの能力を最大限活かせるという意味でもぴったりだと思うんだ」

「へぇ。そのゼロって奴にちょっと興味が湧いてきたわね」

「まあ、ガウェインに関してはゼロにも頑張ってもらうとして、他にも色々な機体を見ていこっかぁ♪」

 

 改造した後のガウェインはリーダーであるゼロに押し付ける事にしたラクシャータと特派一行。

 その後も持ち込んだ紅蓮の量産機である月下やその試作改造機である蒼月に関する話をしながら解析を進めていると、井上が慌てた様子で入ってきてラクシャータの下へ走って近づいてきた。

 

「仕事中にごめんなさい。ラクシャータさん、急いで医務室に来てほしいの!」

「どうしたのよ、そんなに慌てて。誰か大怪我したの?」

「はい! 正確には、ゼロの協力者のシャマルさんという人から重傷患者が運び込まれたんです。C.C.さんの知り合いみたいで助けたいのだけど、人手が足りなくて……」

「分かったよ、今から行く。あんた達、悪いけどガウェインの調整は一旦お願い」

 

 ラクシャータは紅蓮を開発した科学者だが、それ以上に医療サイバネティクス関連の技術の第一人者でもある。医者として求められているならばそれに応えるのも役目だ。

 ラクシャータは特派にガウェインを任せると、井上に案内されながら医務室にしている倉庫へと向かうのであった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 黒の騎士団が保有し、医務室として運用している倉庫のベッドの上で、一人の少年がゆっくりと目を開けた。その少年は長い銀髪の痩せた長身で、顔立ちからは中華系の出身である事が窺える。

 

「……ここは? 確か僕は……」

 

 少年──マオは、意識を手放す前の事を思い出そうとする。

 エリア11にC.C.の足跡を確認し、読心のギアスによって否応なく聞こえてくる人間たちの心の声に耐えながら資金を稼いでエリア11に渡航した事は覚えている。それからギアスの力で情報を集めていくと、C.C.の特徴と一致する緑髪の女性が黒の騎士団という反ブリタニア組織にいる事が分かった事も覚えている。

 ここまでは順調だったが、その過程でC.C.の事を実験体のCODE:R呼ばわりしている科学者の心の声も拾い、激昂して襲ってしまった所為で追われたんだった。

 ギアスのおかげでどうにかその場からは逃げる事ができたけれども、その過程で沢山撃たれて血だらけで路地裏で倒れたはず。

 

「生きてる? いやそれより……声が、聞こえない?」

 

 血を流しすぎた所為か脱力感が強く残る身体を起こして全身をペタペタと触ってみるが、触れた所がかすかに痛む程度しかない。

 だがそんなことは些末な事だ。ギアスによって自分を苛んでいた周囲の人々の心の声が、さっきから頭の中に聞こえてこないのだ。

 

「あら、目を覚ましたのね。良かった」

 

 マオが呆然としていると、扉を開けて一人の女性が入ってきた。

 金髪のショートボブカットのおっとりとした雰囲気の女性だ。顔立ちからはEUかブリタニア系の人だと思う。近くにいるのに彼女の声が聞こえてこないという事は、ひょっとしてC.C.と同じ? 

 

「私はシャマル。貴方は?」

「えっと、僕はマオ」

「マオっていうのね。あなた、とても危ない状態だったのよ? 全身銃創だらけで出血多量。おまけにリンカーコアが暴走して身体から魔力が溢れていたもの」

「リンカーコア? 魔力……?」

「ええ。信じられないかもしれないけど、貴方には魔導師になる素質があるの。でも、確かギアスだったかしら? その力が暴走していて常にギアスを使い続けている状態になってしまっていたの。そのままだと治療する時に何が起こるか分からなかったから、一時的にリンカーコアを抑えさせてもらったわ」

「じゃ、じゃあ……もう心は読めないってこと?」

 

 シャマルと名乗った女性の言葉で、マオはどうして心の声が聞こえないのかを理解した。そして今までずっと聞こえていた心の声が聞こえない事による、相手の内心が分からない不安に駆られる。

 今まで、マオは心の声を読んで生き続けてきた。だからこそ、今になってそれを取り上げられて心細くなってしまっているのだ。

 頭を抱えて怯えるマオを、シャマルが優しく抱擁する。

 

「心を読むギアスが暴走してから、ずっと、聞きたくない周りの人達の声も聞き続けてたのよね。怖かったわよね。苦しかったわよね。それと同じくらい、今は他の人の事が分からなくなって心細いわよね」

「ぇ……」

「大丈夫。今の貴方は心を読むのをお休みしているだけ。リンカーコアが元に戻ったら、また心を読めるようになるわ。その時までに、今度はその力が暴走しないように制御する方法を勉強していきましょう?」

「ぁ、ぁぁあ……!」

 

 マオの瞳から涙が零れる。こうやって他の人に抱擁されたのは、どれほど前だっただろうか? C.C.以外とのかかわりを拒絶し、C.C.がいなくなってからも彼女を求めて生きてきたマオにとって、シャマルからの励ましと抱擁は温かく心に染み入ってくる。

 

「泣いて良いの。一杯泣いて、心の中のもやもやを吐き出して良いの」

「どうして、どうしてC.C.は僕を置いていったの? どうして……!」

 

 マオの口から漏れ出た言葉はC.C.に対する想い。恨みや憎しみではなく、悲しみの感情。

 嗚咽を漏らしながら疑問を口にし続けるマオの背中を撫でながら、シャマルはその言葉をずっと聞き続ける。

 ずっと泣き続けて、泣けるだけ泣き続けて。マオはゆっくりと顔を上げる。

 

「楽になった?」

「少しだけ……。あの、その……ありがとう」

「どういたしまして」

 

 マオの中でC.C.の事を吹っ切れたわけではない。ただ心の奥底に溜まっていた悲しみの澱みは大分綺麗になった事で、マオは少しだけ前を向くことができるようになった。

 

「そういえばC.C.さんの事だけど」

「C.C.の居場所、知っているの!?」

「ええ。貴方が倒れている時に彼女の名前を呟いていたから、病院じゃなくて此処に連れてきたの。私だけじゃなくて他にも貴方を助けるために頑張った人たちがいるから、その人達にもお礼を言ってあげてね」

「うん」

「それでC.C.さんは、今……私と一緒に貴方を治療したラクシャータさんからお説教を受けている最中です」

「……なんで!?」

 

 マオにとっては訳が分からない事態だ。

 

「C.C.は悪くない! 僕の前からいなくなったのだって、きっと大きな理由があって……」

「確かにどうしようもない理由があったのかもしれない。実際、C.C.さんは貴方に対して罪悪感を抱いていたみたいだし。でもね? どんな理由であれ、保護して実の子のように育てていた子供の前から何も言わないで居なくなってしまうのはいけない事なのよ。だから、どうして離れ離れにならないといけなかったのか、今度はちゃんと話し合わないと。そうじゃないと、ずっとすれ違ったままになってしまうから」

「そ、それは……そうだけど」

「大丈夫、まだやり直せるわ。C.C.さんと一緒にこれからの事を話し合いましょう? 私も付いてあげるから」

「……うん」

 

 以前のマオであれば、シャマルのお節介を鬱陶しく感じて排除しようとしていただろう。かつてのマオにとって世界とは、C.C.と自分そしてそれ以外の耳障りで邪魔なナニカだったのだから。

 それは、心の成長を止めていた少年が、一歩踏み出した瞬間でもあった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「ふむ……C.C.正座」

 

 数時間後、会議室の席でルルーシュも合流してシャマルから話を聞くと、有無言わさずにC.C.を正座させる。この場にいるのはルルーシュとC.C.の他にはマオと付き添いのシャマルだけだ。

 

「ま、待つんだゼロ。私は既にラクシャータにこってりと叱られている。そこに更に罰を加えるのは正義の味方としてどうなんだ?」

「C.C.……俺は今、大分怒っている。何故か分かるか?」

 

(あ、これは対応間違えたら本気でブチギレるやつだ)

 

 ルルーシュがゼロとして振舞う際の”私”ではなくて”俺”になっている辺り、本人の自己申告以上に怒っている事をC.C.は察した。

 

「そ、それは……お前たちと結ぼうとしたギアスの契約で、劣化ギアスでなくても暴走する危険を説明しなかったから?」

「それは確かに含まれているが本題ではない」

「じゃあ、昔契約したマオの事を黙っていたからか?」

「全く無関係ではないな。だがズレている。ヒントは、俺の表の立場で行っている慈善事業」

「……マオを置いていった事か」

「正解だ」

 

 孤児院を運営しているルルーシュにとって、孤児であるマオを引き取っていながら勝手に行方を晦ましたC.C.の過去の所業は、激怒してもおかしくない程に怒りを募らせる行為だ。

 もしもマオが黒の騎士団やルルーシュの関係者に危害を加えていたならば、割り切って容赦はしなかった。幸いな事に、ルルーシュにとってもう一つの家族というべき八神家のシャマルが保護したおかげで、そんな事はありえなくなっているが。

 

「ま、待ってゼロ!? C.C.は悪くないから! きっとどうしようもない理由があったんだ!」

 

 本来ならばC.C.を責める権利があるマオが、ルルーシュからC.C.を庇う。まるで虐待やDV被害に遭っている子どもが、親や恋人を庇うように。

 

「マオはこう言っているが、どうなんだC.C.? ここまで来て沈黙や論点ずらしは許さないからな」

「C.C.さん。マオにちゃんと向き合ってあげて? マオは貴方に会いたくて国を渡ってきたの。その想いを汲んであげて?」

 

 言えない。実はオーストラリアに購入した静かな別荘にC.C.を連れていくため、チェーンソーでトランクケースに収まるようコンパクトにバラバラにしてから運ぼうとしていた事を。聞いていたマオは少し目が泳いでいた。

 

「C.C.……」

「分かった。そんな顔をしないでくれ、マオ。ちゃんと話す」

 

 不安げなマオを諭すように、C.C.は動機を語り始める。

 

「マオの心ではギアスを制することができないと判断したからだ。ギアスが暴走し、コードを持つためにギアスの影響を受けない私以外の他者を拒絶したマオの心は、『自分の望みのためにギアスを使う』のではなく『ギアスに自分の望みを決められる』生き方に徹するようになってしまった」

「そんな……」

「すまないな、マオ。私は薄情な魔女なんだよ。元々私はお前を利用するために──『違うな、C.C.。間違っているぞ!』ゼロ!」

「確かに嘘は言っていないだろう。だが、お前は本心も語っていない。キョウトとの会談の席で、お前は不老不死の力を指してこう言っていた。『こんなものは早く誰かに押し付けたくてたまらない』と。これまでの情報を整理し推察すると、お前の不老不死の力は他者に押し付ける事ができるがそれには条件がある。その条件はおそらく、契約によって与えたギアスが暴走している事。正確には、ギアスが一定以上の段階に至っている事か?」

「っ!」

 

 コードを継承する或いは継承させるための条件を言い当てられて、C.C.は言い澱む。

 

「沈黙は肯定と受け止めるぞ。その点で言えばマオは既に条件を満たしている、あるいは満たし得る段階に至っているにもかかわらず、お前は彼の前から姿を消した。C.C.……お前は不老不死によって自分が味わってきた苦しみを、マオに味わわせたくなくて去ったのではないのか?」

「何を根拠に!?」

「お前は多くの者たちと出会い、その死を看取ってきたとも言っていた。親しくなった相手、大切な相手との永遠の別れは辛いものだ。それが深い情を抱いている相手であればなおさらな。お前は死にたがっている一方で、親しい相手に同じ苦しみを味わってほしくないという優しさも備え持っている。そんな人間が、薄情な魔女な訳があるか!」

 

 ルルーシュの言葉に、C.C.は夢の中で見たかつての契約者達との日々を思い返す。

 多くの契約者が道半ばで自分に対して怨嗟が籠められた呪詛の言葉を投げかけて果てる末路を迎えていたが、レオンのように穏やかな日々を共に過ごした契約者もいた。

 

 ──もう苦しみたくない(死にたい)

 ──彼らとの日々を無駄にしたくない(生きたい)

 ──同じ苦しみを味合わせたくない(愛したい)

 ──ずっと一緒にいてほしい(愛されたい)

 

 幾つもの感情がC.C.の中で繰り返し反芻される。あの女ならば、こんな苦しみを感じることなく我が道を行くのだろうが。

 だが、C.C.という女は本質的には情に脆く、弱い女だ。

 

「ゼロ、お前は酷い男だ。私にとってはマオに恨まれる方がずっと楽だったというのに。その方が、マオも私への執着を捨てて生きる事ができたかもしれないのに」

 

 無意識のうちに、C.C.の瞳から一筋の涙が流れる。

 

「ゼロ! C.C.を泣かせたな!」

「ま、待て! マオ! 俺が悪いのか!?」

「はいはい、C.C.もゼロもちゃんと謝りましょうね」

「シャマルまで!?」

 

 マオはこんな自分のために怒ってくれてる。シャマルも後の心の蟠りとならないように気を使ってくれている。

 

「ごめんね、マオ……本当にごめんね。私の都合でお前を苦しめ続けてしまって。本当に、ごめんなさい」

「C.C.に嫌われたわけじゃなくて良かった……。本当に、良かった」

「俺も、C.C.が知られたくなかったであろう事を本人の前で暴露してしまってすまない。配慮が足りなかった」

 

 C.C.とマオが泣きながら抱きしめ合い、ルルーシュもバツが悪そうにしながら謝罪する。

 

「(ごめんね、ルルーシュ。損な役回りをさせてしまって)」

「(気にしなくて良いさ、シャマル。実際、俺も今回の一件では感情的になっていたから助かった)」

 

 シャマルとルルーシュは、C.C.とマオの様子を見ながら念話で話をする。C.C.とマオの関係を修復するために一芝居打った訳である。

 

「(それで、はやてたちは元気にしているか?)」

「(ええ。はやてちゃん、今は特別捜査官として色々な難事件を解決したりして活躍しているし、アインス……リィンフォースの今の名前なんだけれどもね、彼女も無限書庫で力を発揮しているわ)」

「(俺としてはせめて高校を卒業する位までは学生生活を謳歌してほしかったが、元気そうで良かった)」

「(ええ。ルルーシュのおかげで私達はこうやって前を向いて生きていくことができるの。本当に感謝しているわ)」

「(良いって事さ。家族だろ? 俺達)」

「(そうね。久しぶりに再会できた家族だもの、私達)」

「(ナナリーにも近いうちに紹介してやりたいな)」

「(皆、貴方の妹(ナナリーちゃん)と会うのを楽しみにしているわ)」

 

 今のエリア11の情勢を考えると遅くても半年、早ければ数か月もしないうちに日本奪還のための決戦が行われる事となるだろう。その前に、ナナリーをブリタニアの手が届かない安全な場所へと避難させなくてはならない。

 そのためにも、ナナリーを八神家に預けたいとルルーシュは考えていた。




ガウェイン、複座型→単座型となった影響でC.C.の席がハブられるの巻。
ガウェインが単座式に変わったのは、スカリエッティの影響が大きい模様

ロイドの眼鏡型ストレージデバイス「マーリン」の見た目イメージは、遊戯王ZEXALに登場したDゲイザーの眼鏡バージョン的なのです。

マオがシャマルの母性にバブみを感じたようです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。