コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

28 / 49
夢想の過去、夢想の未来

 シンジュクゲットー各所に銃声と爆発音、そして人間の断末魔の叫びが絶え間なく響く。

 ブリタニア軍によって繰り広げられているのは、シンジュクゲットーに住まうイレブンの虐殺だ。

 ブリタニア人の少年がゲットーの孤児たちを連れて租界へと逃げるため、廃棄された地下鉄構内を走っていた。

 

「~~~ッ!!」

 

 少年が孤児たちに何か叫びながら先導するように走る。内容は聞き取れないが、恐らくは急いでと叫んでいるのだろう。

 その最中、爆発音と共に少年は壁に叩きつけられて視界が暗転する。

 少年の五感が戻り、痛みに軋む身体を起こした少年の視界には、崩落した天井に押しつぶされた孤児たちの姿。

 

「ぁ……うあぁあぁぁ~~~っ!」

 

 瓦礫に押しつぶされて血だまりを沈む孤児たちの亡骸を前に、少年の絶叫が空しく地下鉄内に響いていた。

 

 ~~~~

 

「っうわぁっぁあぁ!!?」

 

 クラリスと同居している自宅の寝室で、マーヤは叫び声を上げて目を覚ます。動悸は激しく乱れ、全身から出ている不快な冷や汗によってパジャマも下着もぐっしょりと濡れてしまっていた。

 

「マーヤ! どうしたの!?」

「ううん、クラリスさん何でもない。ただ夢見が悪くて驚いちゃっただけ」

 

(今のは……本当に夢? 夢というには、余りにもリアリティがありすぎる。まるで、過去の経験を追体験していたみたい。それよりも……陽菜、まり……とも。どうして夢の中で迄あんな死に方をしなくちゃいけないの?)

 

 自分と同じ髪と瞳の色をした少年に起きた悲劇に、マーヤは自分自身が体験したかのような錯覚を覚える。恐らく、夢の中に出てきた孤児たちが陽菜たちだった事が大きいだろう。

 現実とは異なる、それでいてより救いようのない陽菜たちの死に方に、マーヤは涙目になりながら奥歯を噛みしめて嗚咽を飲み込む。

 普段ならばこんなアンニュイな気分の時は学校をサボるのだが、今日はそういう訳にもいかない。なぜならば、足の治療のために出国する体裁で退避させるナナリーを見送る学園イベントが明日に迫っているからだ。

 シャーリーを通してミレイ会長の耳に入り、急遽開催される事となったこのイベント。ルルーシュの協力者である身としても、生徒会役員としても、そして個人的にも、サボる気持ちにはなれない。

 

「陽菜たちが生きていたら、ナナリーを喜んで見送ってくれたかな……」

 

 既に喪われてしまった可能性、ナナリーにも懐いていた陽菜たちの未来を想い、それはもう叶わない事を再認識してマーヤはため息をつく。夢の中の少年の事が心の奥底に引っ掛かったままだが、マーヤはアッシュフォード学園に通うための準備を始めるのであった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「いつもありがとうございます、咲世子さん」

「此方こそありがとうございます、ナナリー様。メイドとしてこうしてお仕えするのもあと少しとなりましたが、この篠崎咲世子、それまで全身全霊をもってナナリー様にお仕えさせていただきます」

 

 時刻は夜深く。ナナリーは咲世子に介護してもらいながらベッドに入り、いつものように労いの言葉を口にする。

 咲世子は元々はアッシュフォード家に雇われているメイドであり、咲世子がナナリーの介護を任されているのは、ナナリーが目を開ける事が出来ずなにより足が不自由だからというところが大きい。ナナリーの足の治療が上手く行けば、咲世子はアッシュフォード家のメイドに戻る事になるのはある種当然と言えた。

 

「今夜はもう少しだけ、咲世子さんと色々な事をおしゃべりしたいです。例えば、カワグチ湖では聴くことができなかった咲世子さんの恋バナとか」

「ナナリー様、明日の学園はナナリー様が主役となられます。夜更かしはなさらないように」

「ふふ、それもそうですね」

 

(私のために四方八方手を尽くしてくれたお兄様。私の足の治療を我が事のように喜んでくれたシャーリーさん。エリア11を出国する自分を見送るため、学園のイベントを開催してくれるミレイ会長。マーヤさんやカレンさん、ニーナさんにリヴァルさんも私が歩けるようになることを望んで応援してくれている)

 

 これほどに祝福されている私は幸福な人間だ。歩くことができず、光も閉ざした私を支え続けてくれたお兄様や周囲の皆がいてくれたからこそ、私はこうして生きている。

 だからこそ、もしも歩けるようになったら私は自分の心の傷とも向き合えるようになりたい。

 私の瞳が光を閉ざしたのは、お母さまを喪ったショックによる心因性のもの。ものを見る機能そのものには問題ない。正直に言えば、まだ怖い気持ちはあるけれども、皆さんがくれた想いが、私に未来を見る勇気を与えてくれる。そんな気がするのだ。

 お母さまを喪った悲しみを忘れるわけではない。過去に縋りついて立ち止まったままでいる事から卒業するだけだ。

 それにお兄様から話を切り出された時、お兄様の手に触れていた私は理解してしまった。ゼロの正体はお兄様で、何を想って戦っているのかを。

 私のために立ち上がった。でもそれだけじゃない。正しく前を向いて歩みを進めようとする人達が正しく生きられるようになるために、お兄様は立ち上がったのだと理解した時、私の胸の中には寂しさや悲しみよりも安堵があった。

 

 ──優しい世界でありますように。

 

 シンジュクゲットーにあった孤児院で、昔の私が七夕に綴った願いを、お兄様は叶えようと戦っている。きっと、スザクさんもそんなお兄さまを支えるために一緒に戦っているのだろう。

 

「お兄様……私、頑張ります。だから、お兄様も──」

 

 ──あの時の想いを忘れないで、歩みを止めないでください。

 そう呟こうとしたナナリーの言葉を遮るように、クラブハウスの玄関から何かが叩きつけられて破壊される大きな音が響いた。

 そしてドタドタとクラブハウス内へと侵入する足音が、ナナリーがいる部屋へとよどみなく近づいていく。無軌道な強盗目的の襲撃とは異なる、明確なターゲットがいる襲撃に、ナナリーはアリエス宮で母親が暗殺された日の記憶を思い出して小さく悲鳴を上げる。

 

「あ……ぁ……」

「ナナリー様に危害を加える不遜な輩を排除してまいります。しばしお待ちください」

「咲世子さん、駄目……逃げて」

「それはできません。ナナリー様をお守りするために、私はお仕えしているのですから」

 

 ナナリーの手を握っていた咲世子の手が離れる。ナナリーには、それが今生の別れになってしまうのではないかと不安で仕方ない。

 部屋の前で侵入者が立ち止まり、扉の鍵がメキメキと悲鳴を上げて破壊される。そして扉が力づくでこじ開けられた瞬間、咲世子は構えていた苦無を侵入者めがけて次々と投擲するとともに突撃! 

 咲世子には考えがあった。侵入者は高い確率でナナリーを生きたまま誘拐するために襲撃したのだと。ナナリーの殺害が目的ならば、窓の方から複数人で一斉に銃撃する方が手っ取り早い。

 誘拐にしても単独で侵入してきたことには咲世子も疑問は抱いているが、今は侵入者を一刻も早く撃退することが重要だ。故にこその初手からの全力。相手に余計な行動をさせる前に仕留める。

 咲世子にとって計算外があったとするならば、侵入者が生身の人間であると想定していた事だった。

 投擲した苦無が金属音を立てて弾かれると共に、その姿が明らかになる。咲世子の視界に入った侵入者は人の形はしていた。ただし金属の装甲で全身を覆った機械人形(アンドロイド)であった。

 

「っ!? っはぁああ!」

 

 既に加速した咲世子の身体は止められない。それでも、咲世子は苦無を構えて寧ろさらに加速! 

 機械の肉体相手にこの速度で正面衝突などしたら、如何に篠崎流を修めている咲世子でも只では済まないだろう。だが、自らの命を護衛対象と天秤に掛けるなど、SPとして前提から有り得ない。

 咲世子の全身全霊の一撃を込めた苦無による突きが侵入者の胸に当たる部位に突きたてられる。しかし──、

 

『その技、篠崎の者か』

 

 ──、侵入者の胸部装甲によってその一撃は防がれ、逆に苦無の方が衝撃に耐えられずに折れてしまう結果に終わった。

 機械音で構成された重低音の言葉が、侵入者から発せられる。そしてそのまま無造作に振るわれた拳が、咲世子の横腹を殴りぬいた。

 

「かはっ!」

 

 咄嗟に自ら跳ぶことで威力をある程度相殺した咲世子だったが、それでも壁際に勢いよく叩きつけられて肺の中の空気を根こそぎ吐き出させられていた。もしも威力を相殺できていなかったらと思うとぞっとする話だ。

 咲世子の意識に一瞬の空白が生まれる。侵入者はその隙を逃すほど甘くはなく、咲世子に対して追撃のボディーブローを振るう。

 当たれば致命傷は免れない一撃を前に、咲世子は意識よりも先に身体が反射的にその拳よりも身をかがめて回避! 拳は轟音を立てて壁を貫いた。

 咲世子はそのまま転がる様に跳躍して侵入者の脇をすり抜けナナリーの所へ向かわんとする。

 

『逃がさん』

「ぁぐぅっ!」

 

 侵入者の腰部が開閉し、内部から鋭くとがったサブマニピュレーターから三本の爪が展開されて咲世子の脹脛に深々と突き刺さった。

 激痛にバランスを崩して転倒する咲世子。侵入者は咲世子の首を掴んでゆっくりと締め上げ始めた。

 

「っかぁ……っく!」

「咲世子さん!」

『我らアルハザードの末裔の悲願を前に、面倒事は増やすな』

「止めて! 咲世子さんを殺さないでください!」

 

 目が見えないナナリーでも、咲世子の苦悶の声とミシミシと骨がきしむ音から咲世子が絶体絶命の状況だと理解する。

 ナナリーの叫びに、侵入者は冷淡な声で拒否する。

 

『これは我らの悲願の邪魔になる。殺す理由は数あれども、殺さない理由はない』

「理由なら……あります。咲世子さんを殺したら、私は舌を噛み切って自害します!」

『「!?」』

 

 ナナリーの言葉に、咲世子も侵入者も驚きの感情をあらわにする。

 ナナリーは震えながら、咲世子を助けるために奮起する。

 

「貴方は、私を攫いに来たのでしょう? 恐らくは、あなた方の悲願のために私が生きたままである事が必要なはずです。ならば、ここで私が自ら命を断ったらその悲願は叶えられない。違いますか?」

『……ふん。貴様のその無謀に免じて、その挑発に乗ってやろう』

「ナナ……リー、様……いけま……せん」

「ごめんなさい、咲世子さん。お兄様には代わりに謝ってください」

 

 侵入者は咲世子を放り捨ててナナリーに近づき、サブマニピュレーターの爪を畳んでからナナリーを掴む。そしてナナリーの車椅子を巻き込む形で壁を無造作に叩き壊してクラブハウスから出ていった。

 

「……ぁ、ナナリー様。ナナリー様ぁ!!?」

 

 守るべき相手を守るどころか、逆に守られてしまった事実に、咲世子は泣きはらしながら慟哭するしかできなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ルルーシュは運営している孤児院の一室で一人の少年と対峙していた。

 

「間に合って良かったよ、兄さん。今夜は会社で寝泊りすると思っていたから、孤児院の方に出向いているって気が付いて急いで来たんだ」

 

 華奢に見える身体に紫色の瞳、そして短く揃えられた薄茶色の髪をしているその少年は、初対面のはずなのにルルーシュの事を兄と呼んで非常に好意的だ。

 そこまでならば、ルルーシュがジュリアス・キングスレイとして活動している慈善事業に感銘を受けた少年と考える事もできるだろう、特殊部隊の様な装いの襲撃者たちを、この少年が一人で全員殺害していなければだが。

 そもそもルルーシュはこの日、ナナリーのために開催されるアッシュフォード学園のお祭りイベントを翌日に控え、孤児たちからナナリーへの感謝のメッセージ動画を送りたいという要望を叶えるために孤児院に訪れていた。

 本来は動画を撮り終わり次第会社のテナントに戻る予定だったが、孤児たちがナナリーに伝えたい事が沢山あって動画撮影に予定よりも時間がかかった事と、今夜は一緒に居たいと孤児たちが強請った事もあり、ルルーシュは孤児院に泊まり込むことにしたのだ。

 その夜に起きた、孤児院への襲撃。自分だけならば撃退するのは容易かったが、孤児や職員たちを守りながらとなると長丁場になると考えていたところに現れたのが、目の前の少年だ。

 突如現れた少年によって、襲撃者は首をナイフで掻き切られて全員死亡。孤児や施設の職員たちに怖い思いをさせてしまったものの、怪我はなかったのは幸いだったとしか言いようがない。

 

「孤児院を襲った者たちを撃退してくれたことには感謝する。その上で確認したい。お前は何者だ? なぜ俺を兄と呼ぶ? 俺が記憶している限りでは、俺が運営している孤児院から出所した子供の中にお前はいなかったはずだが」

 

 ルルーシュは相手の意図を読み解くために少年に問いかける。

 強盗目的にしては武装が充実した、しかしプロと呼ぶにはお粗末な部分が有った襲撃者達を少年が皆殺しにしたことで、奴らが何処からの差し金なのか尋問できなくなったのは手痛い。

 何故か自分に懐いている様子のこの少年は、これまでの口ぶりから襲撃そのものは予想外だったが襲撃者たちの事は知っている節がある。

 

「僕はロロ。兄さんの手助けをしたくて、嚮団から逃げてきたんだ」

「嚮団?」

「兄さんがギアスと呼んでいる能力の研究を行っている秘密組織。最近ニュースになったでしょ? ナリタで児童養護施設を隠れ蓑にした人身売買と人体実験を行っていたカルト宗教の摘発」

「ああ。その口ぶりからすると、お前が純血派やメディアにリークしたんだな」

「その通り、流石兄さん。嚮主V.V.の計画が実行される前に逃げられるタイミングは、あの時を於いて他になかったからね」

 

(V.V.だと? 確かC.C.がもう一人のコード保有者として名前を挙げていた人物。こいつ、俺の事をどこまで知っている?)

 

 アースラでC.C.が話した情報の中にあった、皇帝()と深い繋がりがあるギアス研究組織の嚮主も同じ名前だ。C.C.にはまだ何か隠している情報があるようだが、あの時の彼女の様子は自分の事を案じてあえて話していない様子だった。

 ロロと名乗った少年がその組織の構成員だという事を知り、ルルーシュの中で警戒レベルが上がる。襲撃者たち全員を文字通り一瞬で殺害した能力は、確実にギアスに纏わる能力だろう。

 V.V.の計画も気になるところだが、まずは目の前のロロの本当の立ち位置を明確にしなければならない。

 

「ロロ、V.V.が実行しようとしている計画によりも先に聞きたい事がある。お前は、俺についてどこまで知っている?」

 

 ロロが知っている情報、そして嚮団と共有している情報次第では、このまま帰すわけにはいかなくなる。

 ロロが虚偽を話したとしても、一挙一動の僅かな情報から真偽を読み取り全てを明らかにするつもりでルルーシュは意識をロロに集中させる。

 

「そうだね……まずは兄さんが黒の騎士団のリーダーであるゼロにして、神聖ブリタニア帝国の廃嫡された皇族であること。それから──」

「待て、待て! その情報、一体どこで手に入れた! まさか……嚮団もこの事を既に──」

 

 様子見のジャブが来るかと思ったら、いきなりド直球なストレートを投げ込んできやがった。ルルーシュは自身の顔から血の気が引いていくのを感じ、焦りを覚えてそれ以上話すのを止めさせようとする。

 その時、自分と繋がっている魔力のパスから信号(シグナル)が送られてきたのを感じ取った。それは、ナナリーの車椅子に組み込んでいる宝石に仕込んだもので、車いすを通してナナリーの居場所が分かるようになっている他に車椅子が破壊された場合にも魔力的な信号(シグナル)が自分に対して送られるように設定していた。

 

「いや、嚮団も嚮主V.V.もこの事は知らな……兄さん、どうかしたの?」

「ナナリーの方にも襲撃犯が向かっているかもしれない!」

「……そうだ! 兄さんに襲撃を仕掛けたならば、ナナリーの方にも襲撃を仕掛けない道理がない! 少なくともV.V.ならばやる!」

「学園の近くに転移する。お前も一緒に来い!」

「っ! うん、分かった」

「言っておくが、まだお前を信用したわけではないからな? 此処にお前を置いていくよりも、目の届くところにいてもらった方が都合がいいだけだ!」

「今はそれで構わない。行こう!」

 

 古代ベルカ式の魔法陣をその場で展開し、ルルーシュはロロと共に学園近くの裏路地へと転移する。ロロの本当の立ち位置が確定しないうちに魔法を使う事になったのは痛手だが、それよりもナナリーの安否が最優先だ。

 裏路地への転移を終えた瞬間、ルルーシュは路地裏から学園が見える表通りへと走り出す。

 

(ナナリー! どうか、無事でいてくれ!)

 

 ルルーシュの悲痛な想いはクラブハウスに近づくほど大きくなり、ナナリーの部屋に風穴があいたクラブハウスを目にした事で叶わなかった事を理解させられてしまった。

 

「誰か! 誰かいないのか!」

「ルルーシュ……様」

 

 ルルーシュの呼びかけに、咲世子が負傷した足を引き摺りながら姿を現す。そこにロロも遅れて到着する。

 

「咲世子さん! その足……」

「貴方は? それよりも、ルルーシュ様……申し訳ありません。ナナリー様をお守りする事が出来ず、誘拐されてしまいました」

「そんな……。相手の要求はなんだった!」

「わかりません。ですが、相手は機械仕掛けの人形でした。そしてアルハザードの末裔であり悲願の達成にナナリー様が必要になるようです」

 

 ルルーシュからの問いかけに咲世子は首を横に振りながら、それでも相手が言い残した情報をルルーシュに伝えた。

 

「アルハザード? 確かV.V.の協力者がそれについて遺跡を色々調べていたはず……」

 

 ロロの反応の薄さに対して、一方のルルーシュはというと、

 

「アルハザード……今、アルハザードと言ったのか!?」

 

 激しく動揺しながら咲世子の肩を掴んで問いただしていた。

 

「は、はい」

「なんてことだ……寄りにもよって最悪レベルの案件が絡んできているじゃないか!」

「兄さん、そのアルハザードというのはそれほど拙い代物なの?」

「ああ、規模次第では、この世界を滅ぼしかねない」

「ルルーシュ様、御冗談は……」

「冗談なんかじゃない! 咲世子、ロロ……本格的に巻き込むことになってすまないが、俺と一緒に来てくれ。俺よりももっと詳しい人物を知っている。彼女たちの協力を仰いで、ナナリーを救出するぞ!」

「畏まりました」「わかったよ、兄さん」

 

 

 ────────────────────

 

 

 シンジュクゲットー某所。

 人間一人が入れる大きさのカプセルが同心円状に何層にもわたって配置された部屋で、アッシュフォード学園のクラブハウスを襲撃した機械人形(アンドロイド)が、V.V.と会話していた。

 

『V.V.よ。此方の依代は確保したぞ。もう片割れの方はどうだった?』

「それがさぁ、行方不明になっていたロロが裏切っていたみたいで全滅しちゃったんだよ。まあ、ナナリーの方を確保できたなら儀式は問題なく行えるから良いけどさ」

『あれの兄は障害とはならないのか?』

「軍需産業の社長や軍の高官だったならばともかく、たかだか福祉関係の社長だよ? どうにかできると思う?」

『ふっ、それもそうだな。よしんば黒の騎士団に助けを求めた所で、あれの出自を知れば助けようとするわけがないな』

 

 機械人形(アンドロイド)が冷笑しながら眺めているのは、部屋の中心に配置されている玉座に座らされているナナリーだ。

 玉座殻はケーブルが各々のカプセルと接続されていて、頭に冠を思わせる造形の装置を被せられているナナリーの意識はない。

 

『そうなると、障害となりうるのは黒の騎士団と純血派か』

「そうだね。そのためにも儀式が始まり次第、君には無人機の統率を任せるよ」

『無論だ。我らの悲願達成のためには、この儀式の成功が前提条件なのだからな』

「あのバカ息子が余計な事をしなければ、七年前のあの日に我らが悲願を果たす第一歩を踏み出せたというのに」

 

 機械人形(アンドロイド)の返答に、新たにやってきた別の男の声が聞こえてくる。それは、男の恨みの篭った言葉。

 

「一度死んでいるだけに、実感がこもっているね。枢木ゲンブ(・・・・・)

「当たり前だ。アルハザードの遺産に儂の記憶と人格を保存していたから最悪は免れたものの、気取られないよう肉体の再構築と再起動を済ませるのに5年もかかったのだぞ。おまけに、生贄も捧げ直しと来た」

 

 七年前に枢木スザクによって死んだはずの男──公的には自害した事になっている日本最後の首相──の名で呼ばれた男が、不機嫌そうに答える。

 

「セイリュウ殿も準備が整ったそうだ」

「分かった。それじゃあ、お互いの悲願のために利用し合おうじゃないか、枢木ビャッコ(・・・・・・)

『「そう、アルハザードの末裔たる枢木家の初代当主枢木セイリュウ殿から続く悲願、【アルハザードの再興】のために」』

「僕とシャルルの悲願、【この嘘っぱちの世界を壊して、嘘のない世界を創る】のために」

 

 

 ────────────────────

 

 

 Cの世界が私に夢を見せる。

 

 ──私達を全力で見逃せ! 

 

 ゼロのギアスによる絶対順守の命令は、この世界ではない私を一夜にして絶望の失意へと追いやった。

 身に覚えのない疑惑によって軍部からは冷遇され、同胞からは処刑されかけ、黒の騎士団との戦いでは敗北を喫して死の淵に瀕した。

 

 背中に接続された電極が、私に未来()を見せる。

 

 繰り返しの異常。繰り返しの歪み。繰り返しの悲劇。この繰り返しは絶たれなければならない。

 

 Cの世界が私に夢を見せる。

 

 瀕死の重傷を負ったこの世界ではない私は人体実験に使われた。

 黒の騎士団による大規模反乱。ゼロとの戦い。そして海底へと沈む我が機体。

 

 背中に接続された電極が、私に未来()を見せる。

 

 世界を呪い、世界を壊すことを悲願とする嚮主の狂気。そして嚮主を終末思想へと狂わせた存在。

 アレ(・・)を止めなければならない。解き放ってはならない。成就させてはならない。

 

 Cの世界が私に夢を見せる。

 

 嚮団によって回収され、この世界ではない私はさらなる改造を受けた。

 ゼロの正体を知り、あの方の真意を知り、あの方の最期を見届けた。

 

 オレンジ色の液体に浮かぶ私とガラス越しに、現実を認識した(見た)

 

 この世界の私が現れた事。これは千載一遇の好機である。

 (自分)が長くは保たないことは、私自身が良く知っている。

 だからこそ……

 

「おはようございました」

 

 ……言語機能は正常であってほしかった。

 

 ~~~~

 

 純血派による摘発の一件から一週間。トウキョウ租界にある政庁は、朝から晩まで毎日のように対応に追われていた。補助金の不正受給や人身売買の類が行われていると思われていた児童養護施設の実態が、カルト宗教による人体実験施設だと明らかになったからだ。

 特に世間へのインパクトが大きかったのは、辺境伯であるジェレミア卿のクローンである量産試作体Jの存在だ。

 ウィリアム・ビッシュというブリタニアの科学者が研究していた人間を複製する技術であるクローニング。倫理観や技術ハードルの高さから凍結されていたこの研究がカルト宗教によって極秘裏に進められており、クロヴィス・ラ・ブリタニア前総督の側近であったバトレー・アスプリウス将軍も関与していた事から、ブリタニア軍及び本国にもこのカルト宗教が根深く巣食っている事が窺える。

 ワイドショーはこの事件を連日報道し、政庁関係者への強引な取材なども頻発しているため、政庁の処理能力はパンク寸前になっていた。

 そんな中、連日のマスメディアへの対応をどうにか一区切り付けたユーフェミアは、アーサーと最近少しやつれてしまったような気がするギルフォード卿を連れてバトレー将軍の尋問を続けている純血派の所へと向かう。

 

「ユーフェミア総督代理。御自ら出向かなくても、彼らを呼べばよかったのではないでしょうか?」

「いえ、元はと言えば私が彼らに指示を出した事で明らかになった騒ぎです。彼らも私たち以上に対応に追われている以上、此方から出向いた方がより確実に話を聞けるでしょう。それに、巷ではジェレミア卿のクローンと目されている彼を、無暗に好奇の目に晒したくありません」

「……畏まりました」

 

 ユーフェミアの慈愛の心から来る行動だが、周囲からすれば頼むから大人しくしていてほしいというのが本音である。

 ギルフォード卿の心境を余所に、ユーフェミアはバトレー将軍を拘留している区画の警備を行っている純血派(キューエル卿)と挨拶を交わし、扉を開けさせる。

 扉の先にいたのは、何やら話している量産試作体Jと憔悴しきったバトレー将軍、そして彼との対話に四苦八苦しているジェレミア卿とヴィレッタの姿であった。

 

「──だからもう少し言葉を分かりやすく明確にだな……っあぁ! ユーフェミア総督代理! 出迎えの者を用意せずに申し訳ございません!」

「いえ、今回はジェレミア卿以外にも保護した彼からも直接話を聞きたかったので、こうして此方から来ました」

「ユ、ユーフェミア皇女殿下……」

 

 ユーフェミアに気が付いたジェレミア卿とヴィレッタが慌てて臣下の礼をとる。バトレー将軍も、ばつが悪そうにしながらも臣下の礼を取る。

 一方の量産試作体Jはユーフェミアを見ると、涙を流して喜びながら歓喜の言葉を口にした。

 

「おおぉ……ユーフェミア皇女殿下の生存、僥倖! 致命的な悲劇と破綻の回避!」

「おや、それはどういう事でしょうか? 私に教えていただけませんか?」

 

 歓喜する量産試作体Jの様子に、ユーフェミアは具体的な内容を聴こうと尋ねる。

 

「嚮主は、生贄に皇族を求めましたです。世界の破壊、再構築のために」

「皇族を生贄にだと!?」

「な! なぜおまえがその事を知っている!」

 

 量産試作体Jの発言は荒唐無稽といえるものだったが、バトレー将軍が狼狽した事から事実である事が裏付けられる。

 

「それはカルト宗教がユーフェミア総督代理の暗殺を画策していたという事か?」

「否定、生贄が文字通り。トウキョウ租界の命を焚べた、偽りの不老不死(コード)の依代と神殺しの人柱」

「あ、あぁ……終わりだ。粛清されてしまう……」

 

 量産試作体Jの言葉は支離滅裂だ。しかし彼の鬼気迫った表情は、ユーフェミアやジェレミア達に自分の知る知識を必死に伝えようとしている事を窺わせる。

 話が本当ならば、嚮主という存在はトウキョウ租界で破滅的な何かをしでかそうとしている事になる。突拍子もない話だが、相手がカルト宗教となると常識が通じない怖さがある。

 何より、バトレー将軍が頭を抱えて呻いていることが、少なくともカルト宗教は本気で実行しようとしていることを証明していた。

 

「もし本当ならば、拙い事になる。黒の騎士団や日本解放戦線だけでなく、カルト宗教によるテロまで警戒しなくてはならないぞ」

「心配ご無用。嚮団は、嚮主は黒の騎士団の敵は必定!」

「黒の騎士団が掲げているお題目を考えればそうなるだろうが、しかしな──」

「嚮主は、ゼロの仇なのでした」

 

 正義の味方を標榜している黒の騎士団からすればこのカルト宗教と敵対関係になるのは当たり前だと思っていたギルフォードやジェレミアに対して、量産試作体Jは敵である理由を更に話す。

 

「嚮主は嫉妬心・猜疑心・危機感からゼロの母を殺めました。嚮主もゼロもまだ知らない事実、Cの世界はそれを私に閲覧させました」

「ゼロの母を殺めた張本人が嚮主……」

 

 量産試作体Jの話を聞いて、ユーフェミアは唐突にルルーシュとナナリーの顔が脳裏に思い浮かべだ。

 物的証拠の無い飛躍した論理だが、もしも自分の予想通りなのだとしたら、ゼロの正体は──。

 ユーフェミアがゼロの正体に思い至ったその時、廊下から純血派所属のブリタニア軍人がドタドタと駆け込んできた。

 

「ジェレミア卿、大変です!」

「何があった!」

「シンジュクゲットーに於いて、光の柱が! それと空の色も赤く染まって!」

「はぁ? 何を言って、ぅぐぅ……」

 

 要領を得ない部下の言葉にジェレミア卿が立ち上がろうとしたが、突然全身から力が抜け落ちるような感覚に襲われて膝をついた。

 見れば、ジェレミア卿だけでなく周囲の者達も強い脱力感に襲われているようで、それぞれに左腕には紅い鳥を模した紋様が浮かび上がっていた。

 

「これ……は?」

「そんな……早すぎる。皇女殿下を確保していないというのに、もう計画を実行に移したと言うのか……」

「身体が、思うように動かない……」

 

 身体の奥から活力とも生命力ともいえる力が抜けていく感覚に、一同は危機感を覚える。そんな中この場においてただ一人と一匹、例外がいた。

 

「にゃぁ……」

「ギアスの呪詛を振り払うは、私の使命! 私の、ギアスキャンセラーが!」

 

 心配したアーサーが、ユーフェミアの頬を舐める。

 量産試作体Jの左眼に刻まれている上下反転した青い鳥の紋様(ギアスキャンセラー)が、まばゆい輝きを放つ。

 その場にいた者たちの左腕に浮かび上がった紋様が消えうせると共に、彼らの身体を蝕んでいた脱力感が消え去った。

 

「っくはぁ! はぁ、はぁ……。何だったんだ、今のは?」

「量産試作体J……その力は未だ完成には至っていなかったはず」

「それよりも、早く外に! 先程報告に上がった異変と関りがあるとしか思えません!」

 

 ヴィレッタの提案で、一同が部屋から出ると、廊下や他の部屋でも先程の自分達と同様に左腕に紅い紋様が浮かび上がって倒れ込んでいる者達が散見していた。

 

「Jさん、皆さんを!」

「イエス、ユア・ハイネス!」

 

 量産試作体Jのギアスキャンセラーが数度繰り返し輝き、その度に彼の視線の先にいた者に浮かび上がった紋様が消えて彼らは活力を取り戻す。しかし、

 

「っぐぅ!」

 

 何度目かの輝きの後、量産試作体Jは左目を押さえて呻いた。

 

「無茶をするな! ギアス擬きを基に開発したその力を短時間に乱発などしたら、お前の脳が焼き切れてしまうぞ!」

「そんな! 一度止めてください!」

「イエス、ユア・ハイネス……」

 

 ギアスキャンセラーを尚も発動しようとしている量産試作体Jに対して、バトレー将軍が諫めてユーフェミアも慌てて指示を出す。

 そして、一同は廊下を走って窓から外を確認すると、シンジュクゲットー方面から桜色の巨大な光の柱が上空へと放たれ、そこを中心に空を不気味に赤く染め上げていた。

 

「バトレー将軍、いい加減知っていることを洗いざらい話してもらうぞ」

「ああ、此処に至っては最早隠す意味もなくなった。あれは嚮主の協力者が提供した技術、人間(・・)の命を吸い上げるための魔法儀式だ。私にはあれが嚮主と皇帝陛下の悲願を叶えるのに必要な代物だという事、そしてヴィクトリアもこの計画に関わっている事までしか知らない」

「皇帝陛下の!? その悲願とは一体何なのだ! 世界制覇ではないのか!」

「私も詳しい事は本当に知らないんだ! だが、嚮主は『この嘘っぱちな世界の神を殺す』とは話していたのを何度か耳にした覚えがある」

 

 バトレー将軍の話を聞いて、ジェレミア卿には迷いが生まれていた。

 敬愛するマリアンヌ皇后が暗殺されてから、ジェレミア卿は今度こそブリタニア皇族をこの手で守るために純血派という派閥を作った。だが、その皇帝陛下が実の娘も巻き込んだ虐殺を行おうとしている疑惑が上がってきたからだ。

 これが軍事的な作戦に基づいた計画的な虐殺ならば、軍人として従っていただろう。しかし、これは明らかに軍事的なものではなく宗教やオカルティズムに則った虐殺だ。

 自分はどうするべきなのか、皇帝陛下への忠誠を優先するべきなのか。それともこの虐殺を止めさせるべきなのか。

 

「……皆さん、この虐殺を止めるために力を貸してください」

「ユーフェミア総督代理」

「陛下の、お父様の悲願がどういったものなのかはわかりません。ですが、この虐殺を見過ごすことは私にはできません! 例え本国に逆らう事になろうとも、このエリア11を預かるものとして、民衆を救う責務があります!」

 

 ユーフェミアの言葉に、周囲の者達の心が突き動かされた。

 

「イエス、ユア・ハイネス。このジェレミア・ゴットバルト、微力ながら御身の力となりましょう。全力で!」

「イエス、ユア・ハイネス。姫様もこの状況では同じ選択を取るでしょう。そもそも、嚮主とやらが本当に皇帝陛下と繋がりがあるのかも怪しい所です」

「にゃぁ~♪」

 

 ──猫であるアーサー殿も協力しようとしているのだ、我らもユーフェミア総督代理のために動かねば、純血派の名折れだ! 

 ──エリア18の反乱を抑えたダールトン将軍とグラストンナイツがエリア11に帰還するのは早くても四日後。それまで待っていたらどれほどの被害が出るかもわかりません。

 

 次々とユーフェミアへの協力を表明する者たち。

 

「みなさん……ありがとうございます!」

「しかしそうなると、ラウンズであったヴィクトリア卿が死亡していても彼の派閥が保有する新型機(キャスパリーグ)への対処は必要不可欠となるな」

「ギルフォード卿、その事についてなんだが……ナリタ連山で戦死したヴィクトリア卿は戦闘用に改造された影武者なのだ。本物は、今もなお科学者として健在だ」

「なんだと!?」

「それについては考えがあります。そのためにも、連絡を取りたい相手がいます」

「その相手とは一体?」

「……ジュリアス・キングスレイ、いえ……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」




ナナリーの誘拐方法が二転三転して、投稿が遅れちゃってぇ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。