極東で中立を謳う島国と、世界唯一の超大国ブリタニア。
両者の間には、日本の地下資源を巡る、根深い外交上の対立があった。
本土決戦においてブリタニア軍は、人型自在戦闘装甲機ナイトメアフレームを実戦で始めて投入。
その威力は予想を遥かに超え、日本側の本土防衛線は、ナイトメアによってことごとく突破されていった。
日本は帝国の属領となり、自由と、権利と、そして名前を奪われた。
「エリア11」その数字が、敗戦国日本の新しい名前だった。
それから7年の月日が流れ……。
魔王が生まれた日
エリア11シンジュクゲットー
先の戦争によって荒廃しつつも徐々に人が戻りつつある街の一角に、老朽化した周囲と比較して新しいつくりの建物がある。
ブリタニア様式を基本としながら随所に日本風の様式も取り入れているこの建物には『新宿慈善院』と日本語で書かれた看板が掛けられていた。
新宿慈善院は戦争によって親を喪い戦災孤児となった日本人──ブリタニアからはイレブンと呼ばれている──の子供たちを保護している孤児院だ。
そんな孤児院の玄関から、一人の少女が出てくる。
太腿まで伸ばした艶やかな黒髪に、透き通った青い瞳。ブリタニア系の顔立ちで学生服を着ている事から、どこかの学園の生徒のようだ。
「いつもありがとうね、お姉ちゃん!」
「マーヤさんには本当に感謝しております」
マーヤと呼ばれた少女を見送りに来た幼い少女と初老の女性が、それぞれお礼の言葉を口に出す。
「浅間おばさん……いえ、この孤児院を運営しているルルーシュさんに比べたら、私にはこのくらいしかできませんので。陽菜、次来るときには色紙とかも持ってくるから私にも折り鶴の折り方を教えてね?」
「うん! お姉ちゃんが次来てくれる時を楽しみに待ってるよ!」
「ええ、私も楽しみにしているわ。……それじゃ」
マーヤは浅間と陽菜に手を振りながら、孤児院を後にした。
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シンジュクゲットー近隣の租界のビルから、一人の若いブリタニア人の少年が外に出る。
「……ふぅ。これで今回の交渉は無事に成立だな。今回の取引によってナナリーの足を治療するためのコネクションはさらに強化された。この調子で行けば……」
見た目は10代半ばから後半辺りで黒髪と紫色の瞳をしたその身体の線は細い。その眉目秀麗な顔立ちに彼とすれ違った女性たちは振り返るが、本人はその事を気にせずに通りを歩いていく。
彼──ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、神聖ブリタニア帝国においては第11皇子・第17皇位継承者でもあったブリタニア皇族だ。
8年前に母であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが暗殺され、妹であるナナリー・ヴィ・ブリタニアも両足と光を失っただけでなく、それから間もなくして当時の日本に留学という体裁で人身御供として妹と共に送られた過去を持つ。
その上、神聖ブリタニア帝国は日本に宣戦布告して侵略を開始した際には、偶発的な事故から戦争とは関係ない
ルルーシュは器用に人混みを避けて通りを歩きながら、これまでの事とこれからの事を考える。
ルルーシュが起業したのは、元々はナナリーの足の治療法を探すため、そしていつか神聖ブリタニア帝国に反旗を翻す際の資金源兼コネクションづくりのためであった。
──母マリアンヌの死の真相を解明し、下手人に報復する。
──自分達を見捨てた父である第98代ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアに復讐し、ブリタニアが齎した弱肉強食の理を破壊する。
その想いは今、揺れ動いている。
決して恨みが消えたわけでもない。しかし、ナナリーの足を治療する目算が立ち始めている事と、ルルーシュが事業の一環で運営している孤児院の子どもたちを養うという目的が、ルルーシュから個人的な復讐心を抑え込む理性の鎖となっていた。
「あいつら……あれから元気にしているだろうか」
ルルーシュはふと呟く。ルルーシュがこの世界では行方不明になっていたある出来事で出会った、ナナリーの次に大切な血の繋がらない家族たちの事を。
あの時の経験や知識が、順調な今の事業を支えてくれている。
あの時の戦いが、誰かを守る大切さを教えてくれた。
幼かったからこその無鉄砲ともいえる行動力があの時はいい方向に働いて、本来ならば死ななくてはならなかった彼女を救う事ができた。
日本に送られてから出来た親友との出会いと同じように、彼女たちとの出会いはルルーシュにとって大切な宝物だ。
もしも自分が母の一人息子であったならば、この世界には戻らずにあちらに残っていたかもしれない。そう思えるほど、ルルーシュにとっては大きな存在であった。
「会いたいな。……っと、いかん。少し感傷的になっていた。気持ちを切り替え──あれは?」
過去を思い返して少しばかりホームシックになっていた心を切り替えようとしたその時、歩いていた先の建設現場に一台のトラックが突っ込むのを目撃する。
「おーい、こっちこっち」
「うひゃー、悲惨」
「なになに? 事故?」
「酔っぱらってんじゃないの?」
「おーい、誰か助けに行ってやれよ」
周囲にいた通行人たちが野次馬となり、緊張感がないまま口々に好きかって言って傍観する光景に、ルルーシュは苛立ちを覚える。
すると、トラックから微かに見覚えの有る様な気がする光が見えた。
(なんだ? あれの光に似ていたが……まさかな)
ルルーシュは一瞬訝しむが、この世界にあるわけがないものなので気のせいだろうと結論付ける。
それよりも、今は事故を起こした運転手たちの救助が優先だ。
「どいつもこいつも……。おい、大丈夫か?」
ルルーシュは野次馬をかき分け、事故を起こしたトラックに駆け寄って声をかけるが、反応がない。
ルルーシュが今いる位置からでは、運転席が見えず安否を確認できないため、上に昇って再び声を掛けた。
「おい、聞こえるか?」
その時、
(見つけた。私の──)
ルルーシュの心の中に確かに聞こえてくる女の声に、ルルーシュは驚愕する。
ルルーシュには語り掛けてくる女の声に聞き覚えはない。しかし、女が語りかけている方法には、身に覚えがあったのだ。
「(念話だと!? 何故この世界でこれを使える奴が? そうなると、先ほどの光は見間違いではなく……)うわっ!」
ルルーシュが思考している間にトラックはルルーシュに構わず再び動き出し、ルルーシュはトラックの荷台へと落ちてしまった。
「あっ、おい止まれ! まだ俺が乗って……!」
そしてトラックの運転手に聞こえないながらも悪態をつくルルーシュだが、そのままトラックは急発進してしまい、身体を壁に打ち付ける。
「くっ! 内側にも梯子を付けておけよ! 拙いな、出られなくはないが悪目立ちしてしまう。此処は身を隠して──」
『警告する。直ちに停車せよ。今ならば弁護人を付ける事が可能である』
ルルーシュがどうやって目立たずに脱出するかを思案している間に、外からは拡声器でトラックへの警告が行われ、間もなく発砲音が響く。
「撃たれてる!?」
『次は当てる。直ちに停車せよ』
「このまま出るのは危ないな。どうにか身を隠して──っ!?」
ブリタニアの治安機構にこのトラックが追われている事を知り、ルルーシュは騒ぎを起こさずにやり過ごすために身を隠す。すると、ほどなくして運転席側の扉が開いて一人の女が歩いてきた。
「アザブルートから地下鉄に入れる」
「カレン、此処であれを使ってしまおう」
「それじゃ虐殺よ!」
「ああ……そ、そうだな」
(あれを使う? 虐殺? それよりもあの女……何をする気だ)
ルルーシュは姿を隠してカレンと呼ばれた女が何をするつもりなのを注視する。すると彼女は荷台後部に隠されていたKMF──赤く塗装されたグラスゴーに乗り込んでトラックから発進してしまった。
「クソッ! 本物のテロリストじゃないか! いや、焦るな……。まずはここから気づかれずに出る方法を見つけないと」
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「なに、この音? ゲットーの上空にブリタニア軍の輸送機?」
租界にある自宅へ帰宅するためにシンジュクゲットーを歩いていたマーヤだが、上空を飛び交い始めたブリタニア軍の輸送機に不安を覚える。
「あんなにも兵隊が……。今更ゲットーに、どうして? ……何か嫌な感じがする」
マーヤが思いつく理由としては、レジスタンスがゲットーに逃げ込んだ等が挙げられる。しかし、これまでレジスタンス相手に軍がこれほどの大規模動員されることはなかった。そうなると、考えられるのはそれまでは無かった異常事態が起きたという事。
マーヤの脳裏に、先ほどまでいた孤児院が思い浮かぶ。
(陽菜たちをゲットーから脱出させないと!)
マーヤは一人で租界へと戻る選択をせず、先ほどまでの道を大急ぎで戻り始めた。
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シンジュクゲットー内に張り巡らされている地下鉄網を走行していたトラックが止まり、荷台が開いたのをチャンスと見て脱出を試みたタイミングで、ブリタニア軍兵士に発見されてテロリストと勘違いされてもみ合いになるルルーシュ。
ブリタニア軍兵士の正体が幼少期の親友である枢木スザクであると知り、スザクもルルーシュに気が付いて手を止めたその時、荷台に積まれていたカプセルがひとりでに開封され始めた。
「なっ、拙い! 逃げろスザク!?」
「ルルーシュ、君を置いていけない!」
スザクが言っていた話が本当ならば、あのカプセルの中身は毒ガスだ。ある方法で防ぐことができる自分と違い、見たところスザクには防毒装備は明らかに不十分なものだ。毒ガスの散布が始まってしまったらスザクの身が危うい事になる。
そのために逃げるように告げたルルーシュだが、スザクはルルーシュのためにそれを拒否した。
(クソッ! こうなったら目立ってしまうが
ルルーシュは悪目立ちすることを覚悟の上でスザクを連れて脱出するための方法を使おうとしたが、カプセルの中身を目撃してその手が止まった。
それは毒ガスなどではなく、拘束具を付けた緑髪の女であった。
「毒ガスじゃ……ない?」
「答えろよ、スザク。毒ガスか? この子が」
「しかし、ブリーフィングでは確かに……」
疑念の言葉を投げかけるルルーシュに対し、スザクは事前に与えられていた情報と違う事態に困惑する。
その時、ルルーシュとスザク、そして緑髪の女を照らすようにライトが当てられる。
「あっ……隊長!」
スザクが隊長と呼んだ人物は右頬に古傷があり、もみ上げとヒゲと赤い帽子を被った男だった。
「この猿! 名誉ブリタニア人にはそこまでの許可は与えられていない」
スザクの事を猿と呼ぶ辺り、この男はブリタニア軍人の中でも生粋の差別主義者のようだ。
ルルーシュは親友をそう呼ばれたことに苛立ちを覚えつつも、冷静に状況の把握に努める。
(拙い……外に漏れれば、スザクの主人たちの立場が危うくなるという意味では確かに猛毒だ)
目立たないように脱出の機会を窺った事が仇になってしまった事を理解し、スザクと隊長の会話から自分をテロリストとして始末させようとしているのをスザクが拒否している事に危機感を覚える。
(何をしている、スザク! そんなことをすればお前が殺されるんだぞ!? ……ええい!)
隊長がスザクを撃とうとした時、ルルーシュはこの世界に戻ってからずっと隠していた力を初めて使った。親友を守るために。
隊長とスザクの間の地面に、正三角形に剣十字の紋章が浮かび上がり、放たれた銃弾を不可視の何かが弾いてスザクを守る。
「なっ!? なにが起きた!」
「スザク! 逃げるぞ! このままだと殺されるぞ! 俺も、お前も!」
「でも僕は……うわぁっ!」
スザクが逡巡する間にトラックが爆発を起こし、轟音と共に三人の姿をブリタニア軍の兵士たちから隠した。
「こっちだ、スザク!」
「あ、うん」
爆風によって視界が遮られている中、スザクはルルーシュの声を頼りにその場から走り出す。
ルルーシュ達がどうにか走り抜けたすぐ後ろの岩盤が爆風によって崩落し、ブリタニア軍人たちと三人の間の道を塞がれる結果となった。
地下鉄構内を歩きながら、ルルーシュはスザクに語り掛けるように状況を言葉にする。
「……ふぅ、ひとまず追っ手は振り切ったが、状況は限りなく最悪と言っていい。恐らくは何かしらの機密であるこの子を目撃した以上、あの男たちは俺達を決して逃がそうとしないだろう。テロリストを追跡していたことを考えれば、ゲットー周辺が封鎖されていても可笑しくはない」
「ルルーシュ……ごめん」
「お前が気にする事じゃない。それより……お前、あの時俺に念話で語り掛けてきた女だな?」
「……!?」
ルルーシュの言葉に、女は目を見開いてルルーシュを見る。
「やはりな。どこの次元からの漂流者かは分からないが、この世界には存在しないはずの力……魔法を使える女となれば、ブリタニアが躍起になって確保しようとするのも頷ける」
「ルルーシュ……君は何を言って?」
「幸い、此処から脱出さえできればお前をブリタニアの手が及ばない所へ連れていく伝手が俺にはある。魔導師ならば管理局の存在位は知っているだろ? お前が次元犯罪者でないならばそこに保護してもらうように取り計らってやる」
「ま、待て! お前は何を言っているんだ!? 魔法? 管理局? お前は……何を知っているんだ!?」
慌てた様子でルルーシュを逆に問いただす女の様子に、ルルーシュは予想と違う事に首をかしげる。
「なに、違ったのか? だが、あの念話は確かに古代ベルカ式魔法の形式で発せられたものだった。となると……この世界には古代ベルカ式をベースに独自の発展を遂げた魔法が存在する可能性があるという事か」
「えっと、ルルーシュ……お取込み中悪いんだけれどもさ、僕にもわかるように話してくれないかな?」
「あ、ああ。すまない、スザク」
置いてけぼりを受けていたスザクからの問いに、ルルーシュは気を取り直して説明し始める。
「まず前提として、俺達がいるこの世界以外にも様々な世界が次元世界という区分で存在する事を信じてほしい」
「お前な……そんな空想の物語みたいな「分かった、信じるよルルーシュ」──信じるのか」
「助かる。魔導師というのは次元世界に存在する魔力素というものを取り込んで体内のリンカーコアと呼ばれる特殊な器官で魔力に変換、それを用いて様々な現象を起こす者の事で、管理局は様々な次元世界を全てのではないが管理・維持している組織だと考えてくれれば良い」
「えっと……つまりルルーシュもその魔導師で、隊長が僕を撃った時に守ってくれたのはその魔法のおかげって言う事?」
「その通りだ。俺は七年前、ブリタニアと日本が戦争をしているさなかに事故でこの世界の外に押し流されてしまった時期があってな。漂流した先で保護してくれた人たちから魔法を教わったんだ」
「そんなことが……だからナナリーだけしかいなかったんだね」
「ああ……。幸いしばらくして俺はこの世界に戻れる機会があったからナナリーと再会する事ができたが、それまでは驚きの連続だったぞ。魔法もそうだが、何より俺が漂着した先の世界はこの世界に似通っていたにもかかわらず、ブリタニアが存在せずに代わりにアメリカ合衆国という民主主義国家が存在したんだからな」
「ええ!?」
「驚いてくれたようだな」
スザクが大きく驚いたことにルルーシュはにやりと笑う。そして、改めて今後について話始める。
「それよりも……今はどうやってこの場を切り抜けるかだ。俺だけが只この場から逃げるだけならば手段はいくらでも存在するが、俺にはナナリーだけでなく守るべき者が存在する」
「守るべき者……」
「このシンジュクゲットーで俺が運営している孤児院の戦災孤児たちだ。あの子たちに危害を加えさせないためにも、大至急、孤児院に向かわなければならない」
「だったら……僕がおと──」
「おまえが囮になるのは却下だ。俺にとってお前は親友で、死んでほしくない相手だ。そうでなければあそこで魔法を使ったりなどしない」
「ルルーシュ……」
「現在地さえわかれば、そこから逆算して孤児院まで転移することもできる。そのためにも一度地上に出る必要がある」
ルルーシュはスザクたちを連れて地上へと向かって歩き始める。
途中、地上から響く爆発音や銃撃音に不安を感じながら地下鉄構内を探索し、しばらくしてようやく地上に繋がっていると思しき工場に到着した。
「此処から地上に出られそうだな」
「ルルーシュ、僕が見てくる」
「俺も行く。女、お前はここで待ってろよ」
「……」
ブリタニア軍がいないかを確認するために、ルルーシュとスザクはこっそりと工場から地上の様子を確認する。すると、工場の外で先ほどの隊長たちに射殺される日本人たちを目撃する事となった。
「どうだ?」
「イレヴンしかいないようです」
「むぅ……この辺りなんだな? 出口の一つは」
「はい。旧市街の地図は照合済みです」
どうやら先回りされてしまったらしい。ルルーシュは見つかる前に地下に戻ろうとしたが──、
「うえええええん!」
射殺された女性が我が身を盾にして庇っていた赤子が泣き始め、それに苛立ったブリタニア軍兵士が銃口を向けたのを目にした事で、その考えは彼方へと吹き飛んだ。
「「やめろおおおぉっ!」」
奇しくもスザクとルルーシュは同じタイミングで叫びながら飛び出し、ルルーシュが空間に展開した魔法陣から伸びた鎖で赤子を射殺しようとしたブリタニア軍兵士を周辺の兵士諸共に拘束。スザクがその範囲外にいた隊長に肉薄して拳で顎を打ち抜いて昏倒させた。
「なぁっ! がぁっ!?」
「隊長! な、なんだこれは!?」
「う、動けない!?」
突然の事態に、ブリタニア軍の兵士達はもがくが、鎖の細さに反して一向にその戒めが解かれる様子はない。
「お前たち……なぜ無関係な日本人を殺している!?」
ルルーシュは拘束したブリタニア軍兵士の一人に対して問い詰める。
「日本人? イレヴンの事か。クロヴィス総督からの命令だ! シンジュクゲットーを壊滅せよとな!」
「そんな、クロヴィス総督が……」
「貴様らが悪いのだ。あの場で大人しく殺されていれば、このような無駄な手を煩わせられることもなかったというのにな!」
「僕は、また……僕の、所為で……」
「ああ、そうだ。枢木スザク一等兵。貴様が命令を遵守しなかったばかりにこうなったのだ。貴様が、このシンジュクゲットーのイレヴンどもを皆殺しにする引き金を──」
「ふざけるな!」
「──ぐあぁぁっ!」
ルルーシュが手に力を込めて魔法の鎖で拘束しているブリタニア軍人を締め上げて言葉を中断させる。
何人かの兵士の手足から、ゴキリッと骨が折れる音が聞こえてくる。
そうして全員の意識を奪ったあたりで魔法の鎖による戒めを解除し、工場内にあったロープで意識を失ったブリタニア軍兵士たちを隊長と共に縛り上げる。
そして彼らに何か魔法を仕掛けた後に、泣き疲れたのか眠ってしまった赤子を抱えるとルルーシュはスザクの方へと向き直った。
「スザク、あいつらの戯言を真に受けるな。お前は悪くなんかない。悪いのは……クロヴィス総督とブリタニア軍だ」
「でも……」
「第一、隊長を殴り倒した時点で軍人としては失格だろ? だが、そうしなければ、この赤ん坊は殺されていた。お前はこの赤ん坊を確かに救ったんだよ、スザク」
「あ……」
スザクの目元から、一筋の涙が落ちる。
「それよりも、こいつらの言った事が本当ならば、拙い事になった。このゲットーに住まう者たちがすべて殺害対象となった以上、すぐにでも孤児院に向かって脱出させないといけない。幸い、地上に出た事で現在地は把握できた。あの女を呼んできてくれ。一緒に転移する」
「……分かった」
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「ブリタニア軍に見つからないように遠回りになっちゃったけれども……この地下通りを越えれば、もうすぐ孤児院に!」
マーヤはKMFや歩兵による銃声、爆発音が響く地下通路を走る。
既に地上や地下道ではブリタニア軍による攻撃が始まっており、ゲットーに住む多くの日本人が逃げまどい射殺されている。
──どうか無事でいて欲しい。
──どうか逃げのびていて欲しい。
──どうか生きていて欲しい。
──どうか、どうか……!
ブリタニア人と日本人のハーフでありながらその素性を隠してブリタニア人として生きている卑怯者の自分なんかよりも、両親を失っても精いっぱい生きている子どもたちに、そしてそんなあの子たちに手を差し伸べてくれた
そんな想いを胸に走り続けるマーヤ。その想いは地下通路を抜けて孤児院に続く通りの角を曲がった先の──、
「あっ、あぁぁ……っ!」
──原型を留めないほど破壊された孤児院を目にした時、裏切られてしまった事を突きつけられた。
僅かに残る壁面には、KMFのアサルトライフルによって抉り取られた痕跡が生々しく残っていて、孤児院の瓦礫の下には夥しい量の血だまりが出来上がっていた。
「……ぇちゃん」
「その声……陽菜! どこ、何処にいるの!?」
かすかに聞こえた聞き間違えるはずのない声に、マーヤは必死になって孤児院だった瓦礫が散乱する現場から探し回る。
そして──、
「おねえ……ちゃん……」
「陽菜!? その……身体」
マーヤはかつて食堂があった場所で陽菜を見つける事はできた。しかし、陽菜の下半身と左腕は他の孤児達の亡骸諸共、大きな瓦礫の下敷きになっていて、既に原型を留めていない。陽菜だけまだ生きていたのは、彼女を丁度浅間おばさんが庇う形になった事でほんのちょっとだけ即死を免れたからにすぎなかった。
「よかっ……た。おねえちゃん……ぶじ、で」
「陽菜! 今助けるから!」
口ではそう言っていても、冷静な部分の理性が、陽菜はもう助からない事を確信している。
だがそれがどうした。もう助からないから見捨てる? ふざけるな!
わが身が可愛いのであったならば、初めから此処に戻ってなんかいない。例え自己満足でしかないと理性が警告していても、見捨てる事なんてできない。
此処で見捨ててしまったら、私は卑怯者ですらなくなってしまうから!
「おねえ……ちゃん。わたしの、最後のお願い……聞いてくれる?」
「お願い、陽菜! 最後だなんて言わないで!?」
「おねえちゃんに……あげた折り鶴。開いて……見て?」
「陽菜……?」
陽菜の目から光が徐々に失われていくのが感じられる。
マーヤは陽菜に言われたとおり、陽菜を掘り起こす手を止めて貰った折り鶴を破かないよう開いていく。するとそこには……、
『おねえちゃんだいすき』
「これ、は……」
折り鶴の内側に書かれていた言葉に、マーヤは言葉を失う。
「おねえ……ちゃん、だい……すき、だ……よ」
陽菜のその言葉を最後に、彼女の幼い命の灯は消え去った。
「そんな、孤児院が! 誰か、誰かいないのか!」
悲しみに暮れるマーヤの耳に若い男の声が届く。
転移魔法で近くまで転移してから走ってきたルルーシュだ。
「君は……マーヤ、マーヤ・ディゼル!」
「ルルーシュ……さん?」
「孤児院のみんなは……まさか」
「陽菜……まり……とも……、浅間おばさん……みんな、みんな! うぁあぁ、あぁぁぁあぁ……!!!」
感情の防波堤が決壊したマーヤがルルーシュに縋りつき涙と嗚咽を流す。
ルルーシュはマーヤの背中をさすって慰めていると、
「ルルーシュ! あっちからKMFが近づいてきている! これ以上は危険だ!」
「分かった。マーヤ、一度ここから離れるぞ。一緒に来てくれ!」
「あ……うん、分かった。でもどうやって?」
何故ルルーシュがブリタニア軍兵士の日本人と一緒にいるのか。隣の赤子を抱えた緑髪の女は誰なのか。疑問は尽きないが、マーヤはルルーシュの言葉に従ってついていく。
ルルーシュの下に他の2人も集まると、ルルーシュが何かを唱えたと同時に正三角形に剣十字の紋章が大地に浮かび、その瞬間マーヤの視界は変わった。孤児院だった瓦礫から、どこかの廃工場内部と思しき建物の中へと。
「え、ええっ!?」
マーヤはありえない光景の変化に目を丸くして、驚く事しかできなかった。
○ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア(本作仕様)
神聖ブリタニア帝国と日本が戦争中の幼少期に、偶発的な次元漂流によって第97管理外世界”地球”へと流れつき、八神はやてに拾われた。
リリカルなのはA's編をヴォルケンリッターに味方する謎の魔導士ゼロとして経験し、闇の書の闇を倒した後に自分がいた世界に帰る。
その際、リィンフォース・アインスに巣食うバグを無力化した事で彼女が死ぬ運命を覆している。
魔導士としてはデバイス無しで高位の魔法を行使できるなど非常に優れた能力を保有する。
魔導士としてのバリアジャケットはゼロスーツで、原作と異なり仮面も含めて自前で用意する必要がない。
ギアス世界に帰還しナナリーと再会した後は、”地球”で集めた知識やノウハウ、そして闇の書に魔力を蒐集する過程で襲撃した次元犯罪組織が保有していた資産を元手に医療・福祉関係の会社を起業し、ジュリアス・キングスレイの名でそれなりの稼ぎを得ている。
また、シンジュクゲットーに戦災孤児を保護する孤児院を立てており、その縁でマーヤ・ディゼル(ロストストーリー女主人公)とも面識がある。
ナナリーの足を治療する研究を進める目途が立ち、自分を慕ってくれる孤児たちを養うために自らの復讐心と決別しようとしたルルーシュ。
しかし、皇歴2017年にクロヴィス総督の命令によって引き起こされたシンジュクゲットーでの虐殺によって、孤児院の子供たちは皆殺しにされてしまう。
その日、ルルーシュの背に魔王が宿った。