コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

30 / 49
 色々な事が立て込んで、前回から大分間隔があいてしまいました。



日本解放決戦-1

「ゼロが来ました! 校門前です!」

「ジェレミア卿、ゼロを此方まで案内してください」

「イエス、ユア・ハイネス!」

 

 ユーフェミア総督代理の要請で、マーヤ・ディゼルが念話でゼロに取り次いで一時間ほどが経過した頃。張り詰めた空気の中、アッシュフォード学園の生徒会室を借りて待っていたユーフェミア達に、ゼロ到着の一報が届いた。

 複雑な思いを内心抱えているジェレミア卿に案内されたゼロは、枢木スザクを連れて生徒会室に入室する。

 

「お待ちしておりました、ゼロ」

「お待たせしました、ユーフェミア総督代理殿。こうして直接お会いするのは、カワグチ湖以来ですね」

 

 スーツと仮面を纏い素顔を晒さないままのゼロに、ジェレミア卿の表情は硬い。

 彼からすれば、ゼロはマリアンヌ皇妃暗殺事件に何らかの関りがある重要参考人。状況が許されるならば、今すぐにでもゼロを捕えて事件の真相を問い質したいほどだ。

 

「時間が惜しいので本題に入るとしよう。ギアス嚮団が引き起こした今回の未曽有の大規模テロに対して、協力して事態の解決に当たる代わりに其方は我々の要求を可能な限り受け入れるという話だったな」

「はい。ユーフェミア・リ・ブリタニアは、総督代理として黒の騎士団に事態解決の協力を要請します。その対価として、総督代理の権限でもって黒の騎士団の要求を受け入れる事を約束します」

 

 マーヤにも口にした黒の騎士団に対する事実上の降伏宣言を、ユーフェミアは宣言する。黒の騎士団の幹部級とはいえ構成員の一人であるマーヤにだけではなく、ゼロに直接宣言した事でその言葉が持つ責任の重みが一気に増した。

 沈痛な面持ちで、ギルフォード卿は事態の推移を見守る。もしもゼロが余りにも無理難題な要求をしてきた場合、この身を挺し泥を被ってでも主君であるコーネリアの妹(ユーフェミア)を守る事を胸に誓う。

 

「ならば……ユーフェミア・リ・ブリタニア。貴方には私が水面下で推し進めているある構想に協力して欲しい」

「その構想とは一体……」

「神聖ブリタニア帝国に一丸となって対抗するための、国家の枠組みを超えた連合体【超合衆国構想】。貴方には、合衆国ブリタニアの初代代表として参加して欲しい」

 

 ゼロからの要求は、エリア11の独立……ではなかった。よりマクロな視点で神聖ブリタニア帝国に対抗するための計画への協力要請。つまりは、父である皇帝と祖国に対する裏切り。

 

「なっ! その要求は!?」

「無論、神聖ブリタニア帝国の軍人であるあなた方にとっては到底許容できない内容である事は承知している。ですから、軍人であるあなた方(・・・・)が本国に帰還することを妨げないことを、このゼロの名でもって先んじて約束しよう」

 

 一見するとゼロが譲歩しているようにも聞こえるが、主君であるコーネリアの妹(ユーフェミア)を守りたいギルフォード卿、そして皇族を今度こそ守り抜きたいジェレミア卿にとっては何の意味も持たない上辺だけの譲歩だ。

 

「ユーフェミア総督代理。平和を願う貴方にとって、この提案はリスクは相応に大きいが悪い話ではないと此方は考えているが、如何かな?」

「……聞かせてください、ゼロ。貴方は神聖ブリタニア帝国との戦いの果てに、何を求めておりますか?」

「神聖ブリタニア帝国の打倒……といった当たり前の目的ではなく、その先に何を願っているか? という事を問いたいのでしょう?」

「はい。ゼロが抱いている祈り(想い)。もしも私の想像と違いがないならば、それは──」

「ならば答えよう。私の祈り(想い)。それは──」

 

「「弱者が不当に虐げられる事がない世界の創造」」

 

 ゼロとユーフェミアの言葉が、鏡合わせの様に綺麗に重なった。

 ユーフェミアは悲しみと喜びがないまぜになった表情を浮かべ、ゼロもユーフェミアが自分の正体に確信を抱いた事を理解する。

 

「ゼロ、やはり貴方は……」

「……やっぱり気づいたんだね、ユーフェミア総督代理。いや、ユフィ」

「ならば、君の前で仮面を被っている必要も最早ない」

 

 ゼロが指を鳴らすと、自らの素顔を隠す仮面が解れるように光の粒子となって消え始め……。

 

「なっ!」

「ぁ……まさか、そんな!」

 

 ゼロの素顔を見たギルフォード卿とジェレミア卿が、驚愕の表情を浮かべる。ゼロの素顔がブリタニア人である事は、可能性としては考慮されていた。しかし、この顔立ちは7年前にこの地で非業の死を遂げたとされ、少し前にユーフェミア総督代理によってジュリアス・キングスレイとして生きていると打ち明けられたルルーシュ殿下そのものだ。

 それに対して、ユーフェミアは想定していたのか動揺は少ない。

 

「ルルーシュ。……やはり貴方がゼロだったのですね」

「ああ、そうだ。俺がゼロだ。ユフィ、君の答えを聞かせて欲しい」

「はい。ユーフェミア・リ・ブリタニアは、黒の騎士団の要求に応じます」

 

 

 ────────────────────

 

「殿下……ルルーシュ殿下が、ゼロ。では、私は……」

 

 ルルーシュが正体を見せ、黒の騎士団とユーフェミアとの間で契約が締結された。

 嚮団が引き起こした未曽有の事態を打開するために互いの情報共有が行われる中、ゼロの正体が敬愛するマリアンヌ皇妃の忘れ形見(ルルーシュ)である事を知り、ジェレミア卿は狼狽していた。七年前に非業の死を遂げたと思われていたルルーシュが生きていて、ジュリアス・キングスレイという偽名で黒の騎士団に協力していると知った時よりも彼の狼狽具合はかなり大きい。何よりエリア11に赴任してからずっと近くに忘れ形見の兄妹がいたというのに、自分は気が付くこともできなかった。これでは道化そのものだと自責の念に駆られているのだ。

 

「ルルーシュ殿下。私はあの日、マリアンヌ様の警備を任されていながらお守りする事が出来ませんでした。私がお守りする事が出来ていれば……!」

「ジェレミア卿、俺は既に廃嫡された身で、さらに父である皇帝に対する反逆者だ。それに、俺はそもそもブリタニア皇帝の座に興味はない。だから謝罪は不要だ」

「ですが……」

「それでも俺達兄妹に対して負い目があるならば……頼む。ナナリーを助け、ユフィを守ってくれ」

「っ! 了解しました。このジェレミア・ゴットバルト、全力で!」

 

 皇族への了解を指す『イエス、ユア・ハイネス』ではないのは、ルルーシュの意思を汲み取ってのジェレミア卿の精一杯の配慮だ。

 

「しかし……嚮団の嚮主が母さんを殺した犯人か。それだけじゃない、奴らの目的である神殺しとやらの儀式のために生贄としてナナリーを……!!」

 

 双方の情報共有の中でユーフェミアからルルーシュに齎された情報によって、ナナリーが攫われた理由が推測から確信に変わる

 言葉の上では平静を装っているが強く握った拳は震え、感情の激発をどうにか抑え込んでいるのが周囲からも見て取れるほど、ルルーシュは自らの中で荒れ狂う復讐心を律するのに苦労していた。

 自分の中で背負う存在がもっと少なく感じていたならば、復讐とナナリーの救出を最優先にしてこの場を放り出してしまうような醜態を犯していたかもしれない。

 

「ルルーシュ……大丈夫?」

「大丈夫……だ、俺個人の復讐を優先はしない。優先するべきは、今回の事件の解決とナナリーの救出だ」

 

 スザクが心配する中、ルルーシュは自らの必死に復讐心を抑え込んで気丈にふるまう。

 Cの世界から得た情報という事は、C.C.もこの事を知っていた可能性がある。言わなかったのは、自分が感情を激発させてしまうのを避ける為だろう。

 事実、マルチタスクで思考を並行処理していなければルルーシュは怒りで我を忘れていたかもしれないのだから。

 

「兎に角、ユフィと協力関係を結んだことで少なくとも純血派との三つ巴の戦闘になる事態は避けられる。問題は、嚮団が引き起こしている儀式の影響範囲外にある関西や東北に配備されているブリタニア軍がユフィの命令にどこまで従ってくれるかだが……」

 

 ユーフェミアは軍事に関しては疎い皇族だ。ましてやブリタニアからしたらテロリストである黒の騎士団との共闘に、事態の深刻さを把握していない地域の現場が何処まで従うかが不透明な部分がある。

 軍部の動きで考えられる中で困るのが、ユーフェミアの行動を本国への背信行為と認識して反乱を起こす可能性である。

 

「その事についてなのですが、一つ提案があります」

「提案?」

「はい。戦う力を持たない私にブリタニア軍の方が従わないならば、従ってくれる方を味方に付ければ良いのです」

 

 

 ────────────────────

 

 

 ──嚮団による大規模生命力収奪が始まって24時間が経過した頃──

 

 嚮団が潜伏しているシンジュクゲットーの地下施設では、同心円状に何層にもわたって配置されているカプセルに子供達が一台につき一人ずつ格納されており、そのうちいくつかは内部は淡い光の粒子で満たされていた。

 

「『フィンブルヴェトル』の最終シークエンスまで、残り70時間を切りました」

「蒐集した生命力の魔力への変換効率、79.3%で安定」

「魔力充填が完了したカプセルよりギアス擬きの因子抽出を継続。疑似コード構築の進捗は、現在28.6%。構築位階を第二ステップへ移行」

「Cの世界へのゲート接続準備。蒐集した魔力より砲身(バレル)の構築開始」

 

 この淡い光は、シンジュクゲットーを中心に関東圏の住民から収奪した生命力だ。

 かき集められた生命力は魔力に変換され、魔力はカプセルに格納された子供たちの左眼に宿る羽が欠けた不死鳥の紋様(ギアス擬き)の力を増幅し、濃縮し、そして溶解させていく。

 充満した高密度の魔力内に溶けだしたギアス擬きの因子は、カプセルと繋がったケーブルを通って中央の玉座に座っている意識の無いナナリーが被っている冠のような装置にへと送り込まれていた。

 

「蒐集範囲外の各勢力の動きは?」

「日本解放戦線が戦力を関東方面に向かわせているようだが、先んじてヴィクトリアの部下……エインリッヒが扮した将軍の命令で軍部を動かして足止めに向かわせている」

「それで良いよ。日本解放戦線は黒の騎士団と協力しているだろうからね。範囲内に入った瞬間、刻まれる刻印(マーキング)で動けなくなるとはいえ合流される可能性は潰しておかないと。それで、他の国の反応は?」

「中華連邦とE.U.は事態を正確には把握していない。所詮は占領されたエリアで起きている対岸の火事と静観の一手を決め込んでいる」

「所詮は私利私欲だけを追求する愚図と、衆愚の御機嫌取りしかしない烏合の衆だね」

 

 想定していた通り、範囲外からの介入は発生しないという結論に、V.V.はほくそ笑む。

 

「それにしても、ヴィクトリアが齎した『生命力を効率よく魔力に変換する技術』は素晴らしいな。七年前と違って関東圏のみで儀式に必要な生贄が賄えるし、なにより態々殺さずとも吸い上げる事ができる。おかげで、自爆特攻を推進するようなプロパガンダを行う余計な手間も省けるというものだ」

「奇跡の藤堂も無様だよね。一矢報いるための局地的勝利が、儀式の生贄を増やすためのプロパガンダに利用されていたんだからさ」

「尤も、それも枢木スザク(バカ息子)が余計な事をしたせいで失敗に終わったがな。今度こそ、我らの悲願の邪魔はさせん」

 

 今回こそはと気炎を上げるゲンブに、ビャッコからの通信が入った。

 

「こちら枢木ビャッコ。黒の騎士団のKMFによるシンジュクゲットー南西部からの侵入を確認した。これよりKMFによる迎撃を行な……なに? ブリタニア軍が北部からシンジュクゲットーに侵入か。これは……純血派だな」

 

 シンジュクゲットーには現在、ヴィクトリアが他の次元世界の秘密工場で製造した多数の簡易量産型キャスパリーグ──キャスパリーグ・アングルシー──が多数投入されて施設の防衛に当たっている。

 ──頭部に装備されていたブレイズルミナスのオミット

 ──同じく頭部に格納されていたハドロン砲の小型・小出力化

 ──背部マルチウェポンラックの武装をサザーランドなどの従来機の携行武装と共通規格化

 といった簡略化によって生産性を向上させた本機は、ナリタ連山で投入された先行試作機と比較して弱体化こそしているものの、それでもサザーランドやグロースターなどの従来機を凌駕するスペックを持っている。

 黒の騎士団の無頼や純血派のサザーランドと、キャスパリーグ・アングルシーの軍勢の戦いの映像を確認しながら、どういうことなのかを確認する。

 

「偶々……にしては出来過ぎだな。純血派の陣営に赤兜に酷似したフレームの蒼い機体がいる事を考えれば、両陣営が協力しているのだろう。黒の騎士団かユーフェミア、或いは双方の発想が想定よりも柔軟だったようだな」

赤兜と同じフレームの黒い機体(・・・・・・・・・・・・・・)もランスロットや赤兜と一緒に前線にいるね。アレがゼロかな?」

 

 V.V.達は二方面からの同時攻撃に対しても動じず、冷静に相手の戦力を洞察する。

 黒の騎士団が更に新型機を投入してきたことは少々予想外だが、それでも彼らは此方の優位性を疑ってはいなかった。

 相手戦力は第四世代であるグラスゴーのデッドコピー機である無頼と第五世代のサザーランド及びその改修機が大半だ。注意しなくてはならないのは、

 ・ジェレミア卿のサザーランド・シグルド

 ・枢木スザクのランスロット

 ・赤兜(紅蓮弐式)

 ・詳細不明の新型機位だ。

 新型機の性能をランスロットや赤兜と同等と仮定しても、第七世代相当の性能を持つキャスパリーグ・アングルシーの物量を突破できるとは考えていない。

 何より──、

 

「ならばバカ息子の機体(ランスロット)は儂が相手をする。エクウスで出撃するぞ」

「ゲンブよ。今度はしくじるなよ?」

「無論だ、ビャッコ。アクイラも同伴させる」

「じゃあ、僕はジークフリートで出撃するよ」

 

 何より、嚮団にも、まだ隠し札はあるのだから。

 特にアクイラとジークフリートは制空権を一方的に奪う強力な試作KMFとKGF(ナイトギガフォートレス)だ。負ける要素などどこにもない。

 故にこそ、純血派が率いるブリタニア軍のG1ベースからの全周波通信から聞こえてきた声は、予想外な物であった。

 

『エリア11総督にして第二皇女、コーネリア・リ・ブリタニアの名のもとに貴官らに命じる! ブリタニア軍よ、直ちに日本解放戦線及び黒の騎士団との戦闘行為を中止せよ!』

「……は?」

 

 聞こえてきたのは、ナリタ連山でMIAとなっていたエリア11の総督であるコーネリアが発した、テロリストへの攻撃中止命令。

 何故コーネリアがいるのか。なぜそのような命令を出しているのか。V.V.はその理由が分からずに思考が一瞬停止する。

 ゼロがギアスを保有していたなら、洗脳系のギアスで言う事を聞かせているのだろうと予測する事はできた。しかし、ゼロはギアスを有していない事は、コードによってギアスユーザーの存在を大まかにだが把握できるV.V.が理解している。

 ならば協力者に洗脳能力を持つギアスユーザーがいるのか? 或いはC.C.が他の人間にギアスを新たに与えた? 

 様々な可能性を思考するV.V.を余所に、状況はどんどん進んでいく。

 

「嚮主様! Hi-TVの全局で、コーネリア総督による声明が放送されております!」

「日本解放戦線、エインリッヒが足止めに向かわせたブリタニア軍を放置してカントウ方面への進軍を継続!」

「エインリッヒに軍に命令させろ! あの放送はでっち上げの偽者だと!」

「それが、ハンマー担いだ幼女にどつき倒されて誘拐されたという報告がたった今……」

「何その状況!?」

「まさか……ヴォルケンリッターの『鉄槌の騎士』ヴィータが!?」

 

 状況の激変に困惑するV.V.と、かつて苦渋を味合わされた相手の仲間がここにきて盤面に現れた事に苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるヴィクトリア。

 更に──、

 

「っ! 南東部からもナイトメアの反応が出現だと!? まさか、ゲットー内に張り巡らされた地下鉄網を通って! 此方は少数だが全て新型機だ! それに……ヴィクトリア、交戦状態に入ったキャスパリーグ・アングルシーが記録している映像だ。敵ナイトメアに随伴している空戦魔導師達のデータを教えろ!」

「どれどれ……っくぅ! こいつらは、私の所属していた組織を壊滅させたヴォルケンリッターの『剣の騎士』シグナムと『盾の守護獣』ザフィーラだ! シグナムは魔力を炎に変換する剣士、ザフィーラは防御に秀でている! ……待て! 『湖の騎士』シャマルはいないのか! ──」

 

 ビャッコからヴィクトリアの端末に送られた映像を確認し、七年前にゼロが従えていたヴォルケンリッターがここに来て招集されたと考えた。

 この時ヴィクトリアに失態があるとすれば、ゼロへの憎悪を滾らせながらある種のトラウマにもなっていた事で、ヴォルケンリッターとゼロにばかり意識を向けていた事だ。だからこそ、シグナムとザフィーラが前衛に立って守っている後衛の本当の主である魔導師の少女の正体(八神はやて)に意識が向くのが遅れてしまった。

 尤も、気が付いていたとしても対処できていたかと言われるとNoと言わざるを得ない。何故なら──、

 

「刃()て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」

 

 正三角形に剣十字の紋章(古代ベルカ式)の魔法陣から放たれる血の色をした短剣がキャスパリーグ・アングルシーに超高速で放たれる。その本数、21発! その全てが様々な軌道を描きながら、複数のキャスパリーグ・アングルシーの関節部を的確に貫き爆裂した。

 武装と関節部を破壊されて横転し、戦闘力を喪失したキャスパリーグ・アングルシー。残る数機も新型機たちはすれ違いざまにチェーンソー状のブレードで両断して機能停止させながらどんどん進んでいく。

 

「八神はやて。あの女まで……」

「ヴィクトリア、君も出し惜しみしないであれをどうにかしてよ」

「も、勿論。私もキャスパリーグ・ヘンウェンで出撃します……」

 

 冷たい視線を向けるV.V.からの命令を受けて、ヴィクトリアは急いでその場を後にする。管理局とゼロへの恨みを募らせ、リフレインでもって管理局を蝕み続けていた代償を払う時がヴィクトリアに来た。

 

 

 ────────────────────

 

 

 日本解放戦線の本隊から四聖剣を連れて先行し、老朽化や損壊によって神聖ブリタニア帝国から放棄された地下鉄網を通ってシンジュクゲットーに姿を現した藤堂たち。

 ゼロの要請で管理局から日本解放戦線に新たに派遣された局員は四人。それぞれヴィータ、ザフィーラ、アインス、そして八神はやてと名乗っていた。

 隊長格である八神はやては二十歳に満たない少女で、管理局における階級は二等陸佐。本人は魔導師ランクによって下駄を履いた階級だと謙遜していたが、若くして二等陸佐という異例の出世を重ねている事実は、彼女がそれにふさわしい努力と活躍を重ねてきたことを窺わせる。

 事実、彼女が魔法を放つ度に、ナリタ連山で苦しめられた四足歩行型KMF(キャスパリーグの簡易量産型)を次々と複数機まとめて撃破しているのだから、その実力は確かなものだ。

 無頼に替わる新型量産機としてラクシャータが開発した五機の月下に随伴する三人の魔導師──シグナムとザフィーラ、そして八神はやての活躍に、黒く塗装し頭部に「衝撃拡散自在繊維」と呼ばれる赤い髪状のユニットを装備した月下に搭乗している藤堂は、若い世代がこうして戦わなくてはならない事に申し訳なさを感じつつも、頼もしく思っていた。

 

「これほどの破壊力、見事だ」

「いえいえ。皆さんが守ってくれているから、私も安心して攻撃に集中できるんです。それに、建物の損壊や人的被害を出さないように配慮して、これでも魔法は選んで使っていますから」

「「「「さらに強力な魔法があるのか……」」」」

 

 ナイトメアを単独で殲滅できる火力が彼女が使用できる魔法の中では小規模な魔法である事実に、四聖剣一同は驚愕する。

 

「悔しいけれどさぁ、僕たち要る?」

「そう卑下するな、朝比奈。彼女たちはあくまで外部からの協力者。力を借りる事はあっても、日本を取り戻すのはあくまでこの地に住まう者の手でなければ意味がない」

 

 朝比奈の愚痴に対し、仙波が苦言を呈する。

 

「その通りだ。この様な状況になっていなければ、ゼロも管理局の力は極力借りない方針だった」

「実際、次元犯罪組織がこの世界に入り込んでいた事とアルハザードの遺産が眠っていたことが判明していなければ、管理局としてはこの世界に過度の干渉は行わない方針でしたし」

 

 藤堂とはやてが、仙波の言葉に補足を付け加えると、卜部がはやてに尋ねた。

 

「そのアルハザードの遺産という物は、管理局という組織が動かなくてはならないほどに危険な物なのか?」

「はい。管理局が保管・管理を勧めているロストロギアと呼ばれる技術や魔法の大半は、失われた超高度文明だったとされるアルハザード時代の遺産が大半です。ロストロギアの暴走で滅びた文明や次元世界は過去に幾つも存在し、場合によっては複数の次元世界が巻き込まれることもあるんです」

「そんな代物が、私達の世界に……」

「少なくとも、次元犯罪組織と嚮団そしてアルハザードの再興を目論む何者かが協力して今回の事件を引き起こした事は確かです」

「ともあれ、一刻も早く奴らを止めなければ。関東圏内……下手すればこの日本で生きている者達が皆殺しにされてしまう。日本人も、ブリタニア人も関係なくだ」

 

 藤堂が抱いている危機感に、その場にいる全員が頷いて進軍を再開した。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ──エリア11。ホッカイドー地区──

 

 普段は中華連邦に対して睨みを利かせつつも、トウキョウ租界にある総督府から遠い事である種の弛緩した空気があったこの地区の駐留軍に、これまでにないほど緊迫した空気が張り詰めていた。

 理由は二つ。

 一つはエリア11の本州を包む半透明な正体不明の障壁によって流通が分断された混乱。

 現地のブリタニア軍は知る由もないが、エリア11の本州を包むように展開された大規模魔力障壁は、外部からは内部への侵入は物質的な阻害がメインで一定以上の実力を持つ魔導師ならば通り抜ける事も可能だが、内部から外部への脱出は物質的・魔力的共に徹底的に妨げる監獄として機能している。

 障壁をどうにかしようと、KMFの大型キャノン砲を立て続けに撃ち込んではいるが、障壁に穴どころか罅一つはいる様子がない。

 そしてもう一つが──、

 

「キハハ、よもやヴァルトシュタイン卿が私に声をかけるとはねぇ」

「ブラッドリー卿、今回の事態の解決において、私の同伴者とするのに最も適していると判断し招集した」

 

 皇帝直属の騎士であるナイトオブラウンズが二人、それぞれのKMFから降りて障壁を観察しているからだ。

 ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン。『帝国最強の騎士』と名高いナイトオブラウンズのトップであり、彼専用機である『プロトギャラハッド』は未だ未完成でありながら単騎で敵の軍勢を蹂躙する一騎当千の活躍を内外に知らしめている。通常のKMFの1.5倍近い全高を誇る巨体から繰り出される一撃は、ビスマルクの技巧と組み合わさる事で敵にとっては絶望的な脅威そのものとなる。

 ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー。EU圏を中心に『ブリタニアの吸血鬼』と畏れられている殺戮の天才。彼が乗る最新鋭試機である『プロトヴィンセントカスタム』は、ナイトオブラウンズをテストパイロットとした次期主力KMF群のうちの一機を独自にカスタマイズしたものだ。

 

「ふむ……なるほど、これが嚮団とやらが展開した魔力障壁。確かに普通(・・)の方法では突破できないのも頷ける。基地の雑兵をぞろぞろと連れて行く必要はないな」

「この魔力障壁を外から突破できるのは、魔力炉心(・・・・)を搭載したラウンズの機体か、卓越した実力を持つ魔導師や魔導技術を有する科学者くらいだな」

「では、早速突入するとしようか」

 

 ルキアーノが片腕を突き出して魔力障壁に触れ、バチバチと音を立てて肉が灼ける音を出しながら弾かれる。しかし、ルキアーノの焼けただれた片腕は、映像を逆再生したかのように見る見るうちに元の状態へと戻っていく。

 その様子を見ていたビスマルクの表情に変化はない。淡々と突破法を口にするのみ。

 その一方で、腰巾着のように二人のラウンズに随伴していた駐留軍基地司令と駐留軍の表情は蒼白だ。目の前で起きた現象もそうだが、自分達が不要とされてしまっては、ラウンズの前で武功を上げて覚えを良くしようとする目的が潰えてしまう。寧ろ、何もできないまま戻ってしまっては無能の烙印を捺されてしまいかねない。

 

「ヴァルトシュタイン卿! 我らも共に向かいます!」

「不要だ。貴公らは基地に戻り、中華連邦の動向への監視の目を光らせておけ」

 

 基地司令の言葉をビスマルクが一蹴し、ルキアーノの姿がぼやけて霧散して消え、ビスマルクの姿も一瞬で消える。

 すると、プロトヴィンセントカスタムとプロトギャラハッドが動き始め、それぞれが魔力障壁に向けて武器を構えた。

 プロトヴィンセントカスタムの右腕に取り付けられた四本のクローを、右腕部を取り囲む様に展開して高速回転させて魔力炉心から引き出した魔力を纏わせて魔力障壁を突き破る。

 プロトギャラハッドは背部に装備された大剣に、本地のエネルギーだけでなく魔力炉心から引き出した魔力を伝導させて魔力障壁を切り裂く。

 そうして空いた穴がふさがる前に、共に魔力障壁の内側へと突入していった。




 八神はやて、アインスとユニゾンした状態で参戦。なお本来はナナリーを迎えにアースラまでやってきていた模様。
 なお、ラウンズ強化フラグと機体強化フラグ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。