コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

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日本解放決戦-3

「ガ、ガガGa……お、おNoれレRerere……!」

 

 嚮団が潜伏しているシンジュクゲットーの地下施設において、機械人形(アンドロイド)枢木ビャッコが、音声出力や挙動に異常をきたしながら施設内を徘徊していた。

 ゼロがハッキングを用いる事はヴィクトリアを通して知っていた。魔法・物理両面でプロテクトも完璧だったはずなのだ。しかし現実としてゼロによるハッキングを許す事となり、無人機の権限を奪われただけでなく無人機統括のために端末に接続していたビャッコに対してウィルスプログラムまで流し込んできたのだ。実際はそれだけでなく、様々な情報や権限まで奪われているのだが、機械の身体を制御する頭脳(プログラム)がウィルスプログラムによって破壊されつつあるビャッコの思考ではそこまで意識が回らなくなっている。

 ビャッコが向かおうとしているのは、アルハザードの遺産を保管しているエリアだ。無人機統括のための機械人形(アンドロイド)の身体を捨て、アルハザードの遺産の力でもって生身の肉体を製造し自我を移植する事で生きながらえようとする浅ましい生存欲。

 しかしその願いは叶わない。ノイズ交じりのビャッコの視界に映ったのは、ナナリー・ヴィ・ブリタニアを誘拐した際に邪魔をしてきた篠崎家の女。白髪の様に見える痩せた長身の男。そして、嚮団の裏切り者(ロロ)と蒼い長髪の女。

 

「き、Ki様a、あAaらRa………」

 

 嚮団もビャッコも知る由はないが、ガウェインに搭載されているドルイドシステムを利用したハッキングによるシステム掌握の過程で、ルルーシュはシンジュクゲットーに作られた嚮団施設の見取り図も手に入れている。ロロからもたらされた情報と重ね合わせる事で、ナナリー救出班として送り込んでいた咲世子とマオ、ロロそしてギンガ・ナカジマの四名は嚮団の拠点の正確な位置を割り出すことに成功していたのだ。

 

「大人しく投降してください」

 

 管理局所属のギンガが、ビャッコに降伏を促す。AIで動く機械ではなく、アルハザードの技術で機械の身体に人間の記憶と人格を宿した存在だと認識しているからこその対応だ。

 しかし、ビャッコはそれを挑発と受け取り、身体を軋ませながら臨戦態勢を取る。

 

「それが貴方の答えですか……。では皆さん、此処は私が」

「いえ、此処は全員で一気に仕留めましょう」

「うわっ。もう思考がかなりズタズタになっちゃっているよ。どう暴れるか分かったものじゃないから、此処で確実に破壊した方が脱出する時に安全だね」

「畏まりました。では……御覚悟を」

 

 拳を握るギンガと、鉄扇を構える咲世子に対して、他の二人が協力を申し出る。マオは心を読むギアスを持っているが身体能力は高くなく、ロロは戦闘能力こそ高いが体感時間停止のギアスの副作用が重いため、他のメンバーと組むことを念入りに忠告されているからだ。

 

「Na、なNAnaMeるなa~ッ!」

 

 欠落していく感情の制御が出来なくなり、咆哮しながらビャッコは拳を振り上げる。

 それをマオとロロが手持ちの銃でビャッコのカメラセンサーを銃撃して意識を向けさせながら、ギンガが屈むような姿勢でローラーシューズ型のデバイスで疾走。左腕のアームドデバイス『リボルバーナックル』でビャッコの拳をかち上げるように振り上げて迎撃。

 

「今です!」

「はぁぁっ!!!」

 

 ギンガに力負けしてバランスを崩したビャッコめがけて突進する咲世子。折りたたんで厚みが増した鉄扇の先端をビャッコの腹部に突き立てる。装甲の継ぎ目を正確に貫き内部機構にまで届いた鉄扇の握手部分のスイッチを押す。

 鉄扇の先端から放たれたのは、対人装備としては明らかに過剰な、高出力の放電(スタンショック)

 

「AGAがgaガヵ゛~~~っ!」

 

 内側に流し込まれる膨大なエネルギーの電流が、ウィルスプログラムによって自我が崩壊寸前だったビャッコの思考回路に致命的なダメージを叩き込む。

 放電が終わり、咲世子は突き刺した鉄扇を引き抜きながら、崩れ落ちたビャッコがまだ動ける可能性を考慮して残心も忘れない。

 5秒、10秒……20秒。

 30秒経過してもビャッコが再起動する様子がないのを確認し、ようやく咲世子は残心を解いた。一方のギンガはビャッコへの黙祷を手短にだが行う。

 

「皆さん、ありがとうございます」

「かまいませんよ。さ、早く行きましょう」

「このままナナリーがいる儀式の中心点まで向かいましょう」

 

 礼もそこそこに次へ進もうとする三人を、ギアスで何かを察知したマオが難しい顔をして制止する。

 

「ん~、どうやら、そう簡単にはいかなさそうだね」

 

 曲がり角を指差した先から現れたのは、先程倒した枢木ビャッコと瓜二つの機械人形(アンドロイド)が三体。ボディは機械だが、人間だった存在の魂をインストールされていると判断されてかマオのギアスで心を読めるのはありがたい話だ。

 

「アルハザードの遺産がある限り、我らは不滅だ」「無駄な抵抗なのだよ」「まだまだボディのストックはあるぞ? 耐えきれるかな?」

 

 先程撃破した機械人形(アンドロイド)は枢木ビャッコの一体に過ぎない。枢木ビャッコという人格自体がアルハザードの遺産に登録されたデータだからこそ同一人格による物量戦が成立する。

 普通に考えれば撤退するべき状況だが、ギンガはリボルバーナックルを構えて臨戦態勢だ。最早躊躇いは無い。

 

「どうしますか、ギンガさん」

「そりゃ勿論……正面突破よ!」

「畏まりました」

「しょうがないか」

 

 ギンガの提案に、咲世子が真っ先に乗り、ロロとマオも承諾して武器を構えた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 時はルルーシュの策が発動する少し前に遡る。

 

「ヴォルケンリッター! これ以上、貴様らに私の計画を邪魔されるわけにはいかないのよ!」

 

 八神はやて及びヴォルケンリッターとの連携で嚮団の無人KMFの軍勢を撃破しながら進軍していた藤堂たちの前に、新手が立ちふさがる。

 

「あのKMF、細部が異なるがナリタ連山でゼロが戦ったラウンズか!」

「つまり、ヴィクトリアも前線に出てくるほど追いつめられているという訳やね」

 

 一目で正体を看破した藤堂の月下が制動刃吶喊衝角刀(せいどうやいばとっかんしょうかくとう)を、四聖剣の月下も同様に廻転刃刀(かいてんやいばとう)を構える。

 はやてとシグナム、ザフィーラも七年前に取り逃がしてしまった次元犯罪者を今度こそ捕えるために臨戦態勢だ。

 

「くたばりなさいっ!」

 

 ヴィクトリアはナリタ連山の時よりも更に武装火力を増強したキャスパリーグ・ヘンウェンの砲門をすべて開放する。

 機体下腹部のハドロン砲は勿論、対艦用6連装ヘビーガトリング砲だった両肩の武装はより高火力なハドロン砲に換装されている。合計三門のハドロン砲に加えて両腕の攻盾システムに装備されたヴァリスも含めた一斉射撃は、獣の咆哮を上げながらまき散らされる破壊の奔流そのもの。単独で町を破壊する事が可能なほどの、KMFや人に向けるには過剰と言って良いほどの破壊力だ。

 しかし、今この場においてそれは悪手でしか無かった。

 量産機ながらに紅蓮やランスロットに比肩し得る機動力を有する月下の、それも四聖剣と藤堂という少数精鋭にとって、照射に僅かながらチャージが必要なハドロン砲は目の前で撃たれても躱すのは容易だ。寧ろより広範囲に弾幕をばら撒き続ける対艦用6連装ヘビーガトリング砲の方が厄介な位だ。

 はやてやヴォルケンリッターにとっても、ザフィーラならば主はやてを守りながら防ぎ反らすことができるし、シグナムは弾幕を掻い潜りながら接近することができる。

 はっきり言えば、戦闘機人でなくなった科学者としてのヴィクトリアが彼・彼女らを相手取るならば、キャスパリーグ・アングルシーの軍勢も随伴させてサザーランドの群れを嗾け、遠距離からの砲撃に徹するべきだった。

 

「紫電一閃!」

「バルムンク!」

 

 シグナムがキャスパリーグ・ヘンウェンの右肩ハドロン砲を切り裂き、キャスパリーグ・ヘンウェンがバランスを崩した所ではやてが放った八方向からの魔力刃による滅多打ち。

 戦闘機人でないために反応が遅れ、攻盾システムに装備されているブレイズルミナスの展開が間に合わず、機体各所が損傷していく。

 

「ヴォルケンリッタァーっ!」

 

 焦りと怒りから絶叫するヴィクトリア。V.V.に言い含められた手前、逃走するわけにもいかない彼女の意識は、はやてとヴォルケンリッターに向かう。必然、自分達への注意が散漫になった藤堂たちの月下が何もしないはずなどなく……。

 

「旋回活殺自在陣で行くぞ!」

「「「「承知!」」」」

 

 ヴィクトリアの隙を突いて、四聖剣と藤堂の月下がキャスパリーグ・ヘンウェンを包囲するように旋回しながら制動刃吶喊衝角刀(せいどうやいばとっかんしょうかくとう)廻転刃刀(かいてんやいばとう)で損傷した箇所をすれ違いざまに斬り飛ばしていく。

 今のキャスパリーグ・ヘンウェンに、ナリタ連山の時のような異常な耐久性は備わっていない。あの耐久性は、戦闘機人としてのヴィクトリアが有していたIS(インヒューレント・スキル)で獲得したものだからだ。

 まずは右前脚が藤堂機の制動刃吶喊衝角刀(せいどうやいばとっかんしょうかくとう)によって両断される。バランスを崩したキャスパリーグ・ヘンウェンの右腕を続けざまに朝比奈機が、右後ろ脚を千葉機が、廻転刃刀(かいてんやいばとう)で切断。そのまま左後ろ脚と左前脚も卜部機・仙波機が斬り落とし、下腹部のハドロン砲ごと上半身を藤堂機が斬り飛ばして締め。

 キャスパリーグ・ヘンウェンは、藤堂たちと接敵してから三分、旋回活殺自在陣で包囲されてからは一分と経たないうちにコックピット周辺のみ残されて達磨にされるという無惨な結果となった。

 

「ば、馬鹿な……機体性能は、此方の方が遥かに上のはずなのに……!」

 

 科学者としてのヴィクトリアは、目の前で起きた現実を直視できていない。彼女にとっての怨敵であるゼロや管理局のはやて達ばかりを警戒し、この次元世界の住人である藤堂たちの実力を軽視していた事が今回の惨敗を喫した原因である事に気が付けない。

 

「僕たちを眼中に入れなかったのが、アンタの敗因だよ」

「四聖剣とは虚名にあらず」

「ゼロから得ていた情報と映像よりも動きが鈍く脆かったな。同一人物の動きとは思えん」

「中佐、トドメを刺しますか?」

 

 四聖剣や藤堂にとっても、此処まであっさりと倒せてしまったのは予想外だった。彼らが想定していたのは旋回活殺自在陣でヒット&アウェイを繰り返しながら少しずつ削り、大きな隙を晒したタイミングで斬撃包囲陣で一気に仕留める算段だったのだ。

 

「いや、ヴィクトリアは管理局に引き渡す」

「「「「承知!」」」」

「それで良いだろうか、八神はやて二等陸佐」

「藤堂中佐、御配慮のほどありがとうございます。次元犯罪者ヴィクトリア・ベルヴェルグは此方で拘束しておきます。シャマル」

 

 こっそりとコックピットから逃げ出そうとしていたヴィクトリアを後方で姿を隠していたシャマルが魔法で拘束する。

 

「ぬぐぁっ! 離せぇ!」

「今まで多くの人たちを苦しめてきた罪を償うときが来たのよ。観念なさい」

「かひゅぅっ!?」

 

 藤堂たちの視点からはよく見えなかったが、シャマルが何かして暴れるヴィクトリアを大人しくさせる。何をやったかは聞かないでおこう。

 

「よし、それじゃゼロ兄ぃと合流してこの事件を解決するとしましょうか」

「……ゼロ、兄ぃ?」「ぶふっ!」

 

 はやての口からもれたゼロへの可愛らしい愛称に、千葉がポカンとして朝比奈が思わず噴き出す。仙波と卜部も少々困惑気味だ。

 そんな中、ゼロの正体がルルーシュと知っている藤堂は、七年前に行方不明となっていた彼が異なる世界の日本人に助けられ一緒に住んでいた話を思い出す。

 

(そうか、彼女たちのおかげで、彼は心歪まずに生きる事が出来たのだな。感謝する)

「そうだな。黒の騎士団の所に戦力が集中しているはず。嚮団の横合いから奇襲を仕掛けて援護するとしよう」

 

 口にこそは出さないが、藤堂ははやて達に感謝しながら迅速な行動を促そうとするが、

 

「はやてちゃん、その前に伝えておかないといけない事があるの」

 

 拘束したヴィクトリアを運ぶ準備をしていたシャマルが待ったをかける。

 

「どうしたん、シャマル?」

「アースラからの報告によると、シンジュクゲットー周辺の次元が不安定になってきているわ。恐らく嚮団が引き起こしている儀式の影響だと思うけれども、気を付けてね」

「ありがとな、シャマルも気を付けてな」

「ええ、それじゃ私はヴィクトリアを移送しに──」

 

 シャマルがそう言いかけた時、シンジュクゲットーに地響きが起こる。それと同時に、先程まで感じていた圧迫感を伴った魔力──嚮団による生命力収奪の儀式魔法──が急速に消えていくのをはやてたちは感じ取った。

 

「おっ、ゼロ兄ぃが上手くやったみたいやね」

「これで、此方に向かっている日本解放戦線の戦力がギアス刻印に蝕まれる事もないだろう」

「良かった。これで安心して……ちょっと待って次元の歪みが、どんどん大きくなっている!」

 

 

 ────────────────────

 

 

 ヴィクトリアが藤堂たちと接敵した頃、一方のV.V.は本来ならば量産試作体Jを組み込む予定だった試作KGFジークフリートに乗り込んでいた。

 オレンジ色と緑色を基調とした楕円状の巨体は果物のオレンジを彷彿とさせるが、機体各所から生える鋭い棘のような大型のスラッシュハーケンが機体の禍々しさを際立たせる。

 

「ゲンブが南西部の黒の騎士団、ヴィクトリアが南東部の新型機と魔導師を相手するとなると、僕は北部の純血派を蹴散らすとしようか」

 

 行先を決めたV.V.が、ジークフリートを起動させる。するとジークフリートはその巨体に見合わぬ軽やかさで浮上し、圧倒的な推力で空を飛び始めた。

 機体の制御が極めて複雑なジークフリートは、本来ならば『神経電位接続システム』というパイロットの神経信号を直接機体に伝達することで操縦者の『意思』のみで機体のコントロールが可能となる操縦システムが前提だ。しかしそれを用いずにジークフリートを扱っているのだから、V.V.のパイロットとしての技量はかなり上位にあると言って良いだろう。

 V.V.が目指す先は北部から攻め込んでくる純血派の司令塔であるG1ベース。新型機をいちいち探し出してプチプチと潰していくよりも、大本を叩いて潰走させてしまった方が手っ取り早いと判断したからだ。

 

「僕たちは間違っていない。間違っているのはあいつらで、この嘘ばかりを繰り返す世界の方だ。もうすぐ、もうすぐ世界は正される。だから……邪魔しないでよ」

 

 瞬く間にG1ベースが目視できる距離まで近付いた所で、純血派のサザーランドによる一斉射撃を受けるが、全面に施された電磁装甲によって弾幕を全て弾きながら突っ込んでいく。

 

「おぉ~! 我が忠義! 我が愛機! 届かせません、皇女殿下の所へは!」

 

 量産試作体Jが乗るのは、カワグチ湖コンベンションセンターホテルのライフラインで運用されていた日本解放戦線の雷光を鹵獲し改修を加えた機体、サンダーボルトだ。

 G1ベースとの有線接続によってエナジーを確保した超電磁式重砲が、ジークフリートめがけて火を噴く。大型キャノン砲でもジークフリートには無意味だと甘く見ていたV.V.だが、発射された弾頭はジークフリートの目の前で開いて拡散した対ナイトメア捕縛用ネットが、電磁装甲によってバチバチと灼ける音を出しながらもジークフリートのボディに絡まっていく。

 周囲の純血派たちも、同様に対ナイトメア捕縛用ネットを撃ち出す大型キャノン砲を発射し、四方八方から絡めとる事でジークフリートの動きを封じようと躍起だ。

 

「そんなのでこのジークフリートを止められるとでも?」

 

 しかし、普通のKMFならばまだしも規格外のサイズとパワーを有するジークフリートを完全に拘束するには、そもそものパワーが足りなさ過ぎた。ジークフリートが空中で錐もみ回転し、捕縛用ネットを引き千切っていく。動きを止められるのは長くても数秒が限界だ。

 

「覚悟ぉ!」

 

 それでも幾重もの捕縛用ネットを引き千切るためにジークフリートが足を止めた僅かな隙を突き、ジェレミアのサザーランドシグルドがランドスピナーでビルを上りスラッシュハーケンをジークフリートに絡まったネットに打ち込んで跳躍。格納型MVSを展開しながらジークフリートに肉薄する。

 狙うは装甲ではなく機体各部に設置されているバーニア。まずは推進装置を破壊して叩き落とさなければ戦いにならないと判断したジェレミアの状況判断だ! 

 

「無駄だよ」

 

 V.V.はそれ単体で通常のKMFに匹敵するサイズを誇る棘状のスラッシュハーケンの接続部位をレールに沿って移動させ、ジェレミア機(サザーランドシグルド)を迎撃するために撃ち出す。

 しかしそれを察知したジェレミアは打ち込んでいたスラッシュハーケンのうち一方を途中で分離する事で、軌道を変えてギリギリ回避する。

 

「喰らえ、我が忠義の一撃!」

 

 そのまま加速してバーニアめがけて振り降ろされたMVSの切っ先は──、

 

「無駄だって言ったよね?」

「何ッ!? 堅い!」

 

 ──、ここにきてジークフリートが展開したブレイズルミナスに阻まれてしまった。

 V.V.はサザーランドシグルドを振り落すためにジークフリートの高速回転を始め、ジェレミアは振り落されまいとサザーランドシグルドでジークフリートのボディにしがみついてMVSで繰り返し切りつける。

 

「総員、私にかまうな! このデカブツに一斉砲撃をぉっ!」

「ジェレミア卿!?」

「くっ! ジェレミア卿の覚悟を無駄にするな! 総員、キャノン砲の弾頭を徹甲炸裂焼夷弾(HEIAP)に切り替えろ!」

「マイオリジナル! 貴方の覚悟! 忠義を了承!」

 

 ヴィレッタが咄嗟に決めあぐねる中、キューエル卿が決断して指示を出し、量産試作体Jも号泣しながら照準を向けて再砲撃。

 

「ええい! 純血派にはマリアンヌみたいにイカレタ連中しかいないのか!?」

「貴様ぁ! マリアンヌ様への侮辱、許さぬぞぉっ!!!」

「とっとと落ちろよ!」

 

 地上から徹甲炸裂焼夷弾(HEIAP)に切り替えたキャノン砲による砲撃に耐えながら、V.V.はジェレミア機(サザーランドシグルド)を振り落そうと滅茶苦茶な軌道で飛行し続ける。

 純血派によるしばらく砲撃は続いていたが、途中で地上からの砲撃が止んだ。弾切れでも起こしたのかと思ったところで、V.V.の下に嚮団員からの悲痛の声を伴った通信が届く。

 

『嚮主様! 大変です! シンジュクゲットーに張り巡らせた術式が寸断され、範囲内からの生命力の自動蒐集術式が機能停止しました!』

「今こっちはそれどころじゃ……はぁっ!? なんで!?」

『ゼロです! ゼロによって近隣のシステムが掌握され、地下に術式が刻まれている区画ごと複数箇所パージされました!』

 

 拙い、拙い、拙い! 

 生命力の自動蒐集術式は神殺しの儀式に必要なエネルギーを得るため必要不可欠な要素だ。アレがあったからこそ、コストを関東圏に絞る事が出来たし、当初の予定よりも早めて決行する事も出来たのだ。

 まだエネルギーが十分に溜まっていない状況で機能停止したとなると、今回の計画の前提が崩壊してしまう。

 

「……ふざけるなよ」

 

 五年前、神根島の遺跡から繋がるCの世界にあった記憶の図書館で見たこの世界の真実を思い返す。

 本来の在り様から歪められ改竄された嘘っぱちの世界。

 幾たびもの悲劇。幾たびもの殺戮。幾たびもの破滅。

 何度も繰り返されては弄ばれ、飽きたら無かったことに(リセット)される神々の盤上遊戯。

 悲劇と断末魔、惨劇と嘘が何十層にも積み重なってバグだらけとなったこのくそったれの世界を嘘のないあるべき世界へと正す。それこそが自分達兄弟の使命であり悲願だと確信したあの日を。

 

「システムをオートからマニュアルに切り替えろ! 生贄を直接殺して蒐集するんだ!」

『しかし、それでは魔力への変換効率が……!』

「そこは数で補うんだよ! 範囲をエリア11全域にして、ブリタニア軍にイレブンの虐殺命令を出すんだ!」

『総督も副総督も敵なのにどうやって!』

「そっちは僕が始末する! コーネリアも、ユーフェミアも! 空白になったところを、インペリアルセプターでごり押ししろ!」

 

 矢継ぎ早に指示を出すと、V.V.は纏わりついているサザーランドシグルドを振り払うために、ジークフリートを近場の廃ビルへと突進させる。

 

「何ぃ!? ぐああぁっぁあぁ!!!」

 

 ジェレミアは咄嗟にスラッシュハーケンを離してジークフリートから離脱を試みたが、ビルとの衝突こそ避けられたものの崩落するビルに巻き込まれる。

 

「ジェレミア卿!」

「私に……か、うな! 総員! G1ベー……おわすユーフェミア副……守れ! 嚮団……主は……フェミア副総……とコ……リア総督を……殺害しようと……!」

 

 ジークフリートに接触していた事でV.V.と嚮団員の通信を聴くことができたジェレミアは、瓦礫に押しつぶされ激痛が走る身体に構わず、ノイズ交じりになった途切れ途切れの通信で純血派一同に通達する。イレブンの虐殺命令を出そうとしている事やインペリアルセプターの件を伏せたのは、万が一にも同調し離反する者が出るのを避けるためもあるが、そもそもそこまで悠長に伝える余裕がない。

 

「僕とシャルルの悲願のため、そしてこの世界のために……死んでよ」

 

 廃ビルをぶち抜いてV.V.がジークフリートをG1ベースに向けて突進させる。

 G1ベース周辺の純血派が、ユーフェミアを守るために決死の迎撃陣形を構築する。しかし、ジークフリートの無慈悲といえるほどの堅牢さを前に、純血派が保有する火力では対処することはできない。

 このままジークフリートはG1ベースのブリッジを貫き、ユーフェミアを亡き者にする──はずだった。

 

世界そのものが軋み、悲鳴を上げる。

 

儀式によって蒐集され奪われた生命に宿る無念が、魔力に変換された者達の怨嗟が応報を求めて可能性を呼び寄せる。

 

神殺しを成就せんと集合無意識(Cの世界)に繋がった門は、僅かにだが既に開かれていた。

 

故にこそ、報われぬ魂の呼び声に応える存在が招かれた。

 

 G1ベースとジークフリートとの間に挟む空間に、突如として大きな亀裂が入る。不安定になった次元の歪みが、亀裂として可視化されたものだ。

 直感的な恐怖を感じたV.V.は、咄嗟にジークフリートの軌道を右に反らす事で空間の亀裂に衝突する事態を避ける。

 

「なんだ……あれは?」

 

 V.V.の疑念は、この場にいた全員が同様に思っていた事だ。もしもこの場に管理局の者達やルルーシュがいたならば、敵味方問わず全軍に即刻退避を呼び掛けていただろう。

 しかし、疑念に答えるものが現れる前に更なる変化が起こる。空間にできた亀裂の罅が広がり、空間の亀裂から何かが滲み出始めたのだ。

 それはドロドロとした粘着く漆黒の液体の様なナニカ。ナニカはどんどん滲み出るが、地上へと滴り落ちる様子はない。空中に留まって球状になって大きくなっているのだ

 純血派の者達も、アレが何か起こす前に撃ち落とすべきなのか。そもそもあれは何なのか分からずに困惑している。V.V.も同様に対応を決めかねていた。

 そうしている内に六m程の大きさ球体にまで膨張したナニカが今度は徐々に収縮していくと──、

 

「あれは……ランスロット? だが、黒い。それに、背中の装備は一体……」

 

 キューエル卿が呟いたように、ナニカから姿を現したのは黒の騎士団のトップエースである枢木スザクのKMFランスロットと酷似した、漆黒と金色が基調のKMFであった。

 ランスロットと違うのは、背中にXの形に配置された先端が桜色に輝く二対の赤い主翼がのびている点だ。あの装備によって、中に浮遊しているのだろう。更にコックピットの上部に位置する箇所から後ろへと伸びた折り畳み式のこれまた赤い大型ランチャーと思しき物が装備されている。そしてG1ベースにいるユーフェミアからは、そのランスロットの後ろ腰にも単発式の手持ちランチャーを備えているのが見えた。

 

「あれ……は?」

「副総督、早くお逃げ下さい!」

 

 G1ベースを預かるブリタニア軍人がユーフェミアに避難を促すが、ユーフェミアの視線と意識は目の前の黒いランスロットに釘付けとなっていた。

 明らかに異常事態で初めて遭遇する相手のはずなのに。謎のKMFのパイロットが誰なのかもわからないのに、ユーフェミアの胸の内には悲しい別れをした大切な誰かと再会したような複雑な感情が宿る。

 

「何処の誰かわかんないけどさ、僕の邪魔をしないでよね」

 

 苛立ちを募らせたV.V.が、ジークフリートのスラッシュハーケンの照準を黒いランスロットに向ける。しかし、黒いランスロットがそれよりも早くジークフリートに向かって高速飛翔し、ブレイズルミナスをコーン状に展開した手刀が、ジークフリートのスラッシュハーケンと火花を散らしながらその先端を抉り飛ばした。

 

「なぁっ!?」

 

 今まで純血派の猛攻に晒されても傷一つ付かなかったジークフリートに手傷を負わせた黒いランスロットへの警戒度を、一気に数段階引き上げる。

 相手の機動力と攻撃力を勘案すると、スラッシュハーケンによる射出攻撃は悪手。此処はジークフリートそのものを質量弾とした体当たりに徹するべき。

 そう判断したV.V.はジークフリートを高速スピンさせて黒いランスロットに向けて突進。

 黒いランスロットはジークフリートをG1ベースから引き離すよう誘導しながら空を飛んで回避すると、機体を空中で上下反転させた体勢でコックピット上部の折り畳み式ランチャーを展開してヴァリスと連結。そのままジークフリートに向けて砲撃。

 放たれたのは、なんとハドロン砲だ。

 

「くっ!」

 

 ハドロン砲が着弾した電磁装甲とブレイズルミナスの二重防御で防ぐが、ジークフリートに多大な負荷がかかって本体は弾き飛ばされる。キャスパリーグに搭載されていたハドロン砲よりも高火力である事に、V.V.は戦慄する。

 

「ふざけるなよ……どいつもこいつも僕の邪魔ばかりしてぇ!」

 

 V.V.は叫びながら、冷静な思考では拠点へ一旦撤退する事を決める。少なくとも、ジークフリート単騎ではあの黒いランスロットを捉える事はできないと判断したからだ。

 黒いランスロットも、逃げる分には構わないのか追撃してこないのは、V.V.にとって僥倖だったといえるだろう。

 

「皆さん、ジェレミア卿を含めた怪我人の回収と治療をお願いします! それと──」

「副総督、あの黒いランスロットへの対応は如何しますか……」

「相手の思惑は不明ですが、助けられた以上お礼を伝えたいです。通信を繋いでください」

「イエス、ユア・ハイネス!」

 

 ジークフリートが去って、慌てながらも指示を出すユーフェミアにブリタニア軍人の一人が尋ねる。

 少なくとも嚮団の敵であるのは確かだが、此方の味方であると見做すには情報が不足しすぎている。優先順位が下だっただけで此方を襲ってこないとも限らないのだ。

 それでも、ユーフェミアは命を救われた礼を述べようと短距離の全周波通信で回線を繋がせる。すると、

 

「ぇ……スザク、さん?」

「ユ……、ユフィ……。俺は、君を……」

 

 映像に映し出された黒いランスロットのパイロットは、アッシュフォード学園で出会った黒の騎士団の枢木スザクと瓜二つであった。

 しかし、記憶の中の彼と違う所もある。目の前の彼は右頬に大きな古傷があるのもそうだが、何よりも絶望と失意に染まった虚無的な悲しい瞳をしていた。そもそも、黒の騎士団のスザクはユーフェミアに対して愛称で呼んだことはない。

 

「貴方がどうしてスザクさんと同じ姿をしているかは存じません。ですが、この度は助けていただきありがとうございました」

「ユフィ……」

「お願いします。どうか、力を貸してください。この地に住む人々を、ナナリーを救うために。ゼロ(・・)と共に──」

「ナナリー……。ゼロ? ゼロ、ゼロぉ! 俺は、俺はぁ……!!!」

「!?」

 

 ゼロという言葉を聞いた瞬間、スザクによく似た相手は苦しみだしてその場から逃げ出すかのように黒いランスロットでその場から離れてしまった。

 何が起きたのかと訝しんだユーフェミアの脳裏に浮かんだのは、ジェレミア卿が保護した量産試作体Jもといジェイさんが話していたCの世界なる過去・現在・未来を問わない集合無意識が集う世界。

 

 もしも、目の前の(枢木スザク(?))がこの世界とは異なる可能性を歩んだ彼だったとしたら? 

 もしも、自分と彼が親しくなった世界があったのだとしたら? 

 もしも、その世界で彼が大切な誰かを喪っていたのだとしたら……。

 

 荒唐無稽、自意識過剰な妄想と言われたら否定できない、根拠などない推論だ。しかしユーフェミアには、この推論が大きくは外れていないと確信を抱く。

 もしそうならば……彼が向かった先は……。




 様々な条件が重なった結果、業スザクが顕現しました。
 なお、厳密には業スザクという在り様を中核に、様々な世界線の可能性を部分的にまぜこぜして顕現した主無き魔力生命体。
 そのため、ランスロット・カルマにも本来は存在しない装備が有ったり。
※業スザクとは、『Genesic Re;CODE』という現在はサービス終了したソシャゲに登場する、IF世界の枢木スザクです。ランスロット・カルマは同作で登場する飛翔滑走翼装備のランスロットコンクエスターとでも言うべき機体。
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