コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

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奪還のロゼで色々と明らかになった情報をどうするか悩み、投稿が遅れてしまいました。
二次創作に匂わせ程度でも組み込みたい欲と、組み込まない方が良いという理性。
心が二つあるぅ~。


日本解放と宣戦布告

 嚮団が引き起こした生命収奪テロによって、ブリタニア軍が封鎖したシンジュクゲットー。

 さきほどまでどす黒く赤かった空が晴れ、太陽が地平線に沈もうとする空を飛ぶ一台のヘリコプター。それはHi-TVエリア11トウキョウ租界支局報道局の報道ヘリだ。

 

「それにしても、さっきの突風は何だったんだ?」

「危うくヘリが墜落しかけたけど、空も元に戻っているし局に戻った方が良いかも……」

「何を言っているお前たち、ボサボサするな! 特ダネを最前線で生中継する絶好のチャンスだぞ!」

「ディートハルトさん、これ以上は拙いですよ!」

「ギブソン! 何を腑抜けたことを言っている! カントウブロック全域で発生し我々も巻き込まれた謎の昏倒現象! シンジュクゲットーで発生した光の柱と染め上げられていた赤い空! これらはあのブリタニア軍が日本解放戦線及び黒の騎士団の二勢力と連携して事態の解決にあたるほどの異常事態だぞ? ジャーナリストとして真実を追求する責務があるだろう!」

 

 実際のところ、ディートハルト・リートにとって、真実の追求など自らの心を躍らせる出来事を見つけるための方便でしかない。黒の騎士団に情報をリークしているのも、完成された素材(神聖ブリタニア帝国)を揺るがすカオスを齎しうると期待しての意味合いが強い。

 ディートハルトは乗り気でない部下たちを叱責しながら、シンジュクゲットーで起こっている特ダネを見逃さまいとカメラを回す。

 

 ──倒壊し燃え盛るビル。ありきたりな光景だ。違う。

 ──所属を問わず散乱するナイトメアの残骸。戦闘の激しさを物語っているが、これも違う。

 ──ナイトメアを超えるサイズを誇る金色の大型機の残骸。どちらかの陣営の新型機かは興味深いが惜しい!

 

 ディートハルトはヘリから複数台のドローンカメラを飛ばし、真に心躍る特ダネとなる情報を草の根分けて探し始める。

 そうして見つけたのは、地下ブロックを構成する多層構造体ごと地上が半円状に綺麗にくりぬかれた場所だ。

 

「ディートハルトさん、これっ……!? いったい何があったんでしょう?」

「おぉっ! これは明らかに自然に発生したものではない! 目測だが抉れている半径はおおよそ1キロ。従来の兵器では不可能な痕跡だ! ギブソン、大至急あそこに──」

「ディートハルトさん! あっちを見てください!」

「なんだ!」

 

 あそこに降り立って詳細を調べて生中継で報道しよう。

 そう思ったディートハルトが指示を出そうとしたその時、部下の一人が驚いた様子で彼の言葉を遮る。

 折角の特ダネのチャンスを遮られて不機嫌になるディートハルトだったが、部下が指さした方を見て、その考えは吹っ飛ぶこととなる。

 

「あぁ、あれは! 間違いない、あそこに映し出されているのは、皇帝(神聖ブリタニア帝国第98代皇帝)陛下(シャルル・ジ・ブリタニア)じゃないか!」

 

 ギブソンが指差した方向にいたのは、黒の騎士団と相対し右腕部で大剣を構える大型のナイトメア。そしてそのナイトメアから展開されている立体映像によって8m近いサイズで映し出された、シャルル皇帝の姿であった。

 左腕部に何かを抱えている大型のナイトメアのすぐ脇には、墜落したと思しきオレンジ色の巨大な球状の機械が道路に横たわっているが、そんなことは目の前の光景と比べたら些末事だ。

 

「音声を拾え! 皇帝陛下とゼロの舌戦を生中継できるぞ!」

 

 ディートハルトは部下に指示を出し、自らはカメラを向けてシャルル皇帝の立体映像とそれを見上げる形で相対する黒い大型ナイトメア(おそらくはゼロが搭乗している)の構図を画面に映す。

 

『ルルーシュ、コーネリア。儂の大願に協力するつもりはないのだな?』

「愚問だな。俺たちは未来(変わる明日)が欲しいんだ。世界の歩みを止めようとするお前に協力する謂れなどない!」

「たとえ陛下の大願であっても、その願いはユフィも私も受け入れることはできません。あなたの願いは、ブリタニアにとっても危険なものだ」

 

 音声を拾い始めての第一声が、シャルル皇帝陛下の問いに対してゼロとコーネリアが否定で返す内容だった。

 

「ルルーシュ? その名前って確か!?」

「エリア11として併合される前の日本に人質として送られ、極東事変の際に非業の死を遂げたとされる皇族だ。神聖ブリタニア帝国に仇名し、世界を変えようとする死んだはずの見捨てられた皇子。実にセンセーショナルだと思わないか?」

 

 ゼロの正体にざわめくスタッフに対し、ディートハルトは動揺することなくカメラを回す。

 ゼロの正体も特ダネだが、それよりもブリタニアの魔女と恐れられていた武人であるあのコーネリア第二皇女が、実の父である皇帝を否定するという構図が実に面白い。もっと早く生中継できていれば、コーネリアが否定する側に回るほどの何かを、皇帝本人の口から引き出せていたかもしれない。そう考えると、どうしてもっと早く到着できなかったのかと非常に惜しい気持ちだ。

 

『そのために、外の世界──時空管理局を味方につけたか。どうやって伝手を得たにしろ、小癪な真似を』

「本来ならば、この世界の問題に彼らを関わらせるつもりはなかった。だが次元犯罪者であるヴィクトリア・ベルヴェルグがブリタニアに深くかかわっているとわかった以上、野放しにするわけにはいかない! 奴をラウンズに引き入れたことが裏目に出たな!」

 

「時空管理局?」

「聞いたことあるか?」「いや、お前は?」

 

 時空管理局という聞いたこともない組織の名前が挙がり、スタッフたちは互いに首をかしげる。一方のディートハルトはここにきて新たな不確定要素の出現に、これからどのように報道すれば心躍るカオスを目撃することができるか胸を高鳴らせていた。

 

『どのみち既に儂とお前たちの道は違えた。これより先は、このシャルル・ジ・ブリタニアの大願を阻む障害として、全力でもって完膚なきまでに叩き潰してやろう』

「ほう、良いのか? 俺たちにかまけていたら、E.U.や中華連邦に隙だらけの横腹を食いつかれることになるぞ? 俺たちを倒すというなら、神聖ブリタニア帝国も諸共に道連れにされる覚悟でもって当たる事だ」

 

 ゼロの言葉は、一見すると黒の騎士団はブリタニア軍に致命傷を与えられるだけの力を持っていると喧伝しているような言い方だが、諸外国によるブリタニアへの横やりを意識させる事で大規模な兵力派兵を躊躇させる狙いがあるのだろう。

 

『ふん、言うではないか。だが、その挑発に乗ってやろう。E.U.と中華連邦(ほかの目障りな者たち)を全て平らげた後に、神聖ブリタニア帝国の総力でもって屈服させてやろう。それまでお主にこのエリア11を一旦は預けてやろう』

「それは不可能だ。なぜなら、エリア11は合衆国日本となって神聖ブリタニア帝国を打ち負かす! お前の野望を果たさせはしない!」

『儂とお主の大願の何方が、世界の未来を決めるか。その時に雌雄を決しようではないか!』

「望むところだ! 俺たちは神聖ブリタニア帝国を打倒し、『力あるものが弱者を不当に虐げる世界』を変える! 俺たちが望む未来(明日)のために!」

 

 シャルル皇帝とゼロが、互いに宣戦布告を行う。

 世界を手中に収めんとする皇帝と、世界を変革しようとするゼロ。最高の対比になる図式だ。

 

『わが騎士ビスマルクよ。ルキアーノと共に本国へ帰還せよ。エリア11での目的は果たした』

「イエス、ユア・マジェスティ!」

 

 シャルル皇帝の立体映像を映し出していた大型のナイトメアのパイロット(ナイトオブワン)が、皇帝の命を受けて機体を浮上させてその場を飛び去って行く。

 背中を向けたナイトオブワンを、黒の騎士団は追撃しない。黒の騎士団が見逃すのではなく、ナイトオブワンに見逃して貰ったという形が妥当だろう。

 

 決して長い生中継ではなかったが、ディートハルトは緊張からくる強い疲労感とこれまで経験したことがないほどの高揚感に包まれていた。

 

「どんな方向に進むにせよ、世界は大きく変わるぞ」

 

 

 ────────────────────

 

 

 後に『日本解放決戦』あるいは『ブラックリベリオン』と呼ばれる事になるシンジュクゲットーでの嚮団に対するエリア11に駐屯していたブリタニア軍と黒の騎士団及び日本解放戦線の共同戦線、そしてシャルル皇帝に対するゼロによる宣戦布告から一週間が過ぎた。

 この事件による犠牲者は、イレヴンもとい日本人とブリタニア人を問わずカントーブロック全体で生命力収奪による直接的・それに伴ういくつもの事故などによる間接的なものを含めて100万人を超えると目されている大惨事となった。

 エリア11は皇神楽耶を初代代表とする『合衆国日本』と名前を変え、神聖ブリタニア帝国から独立を宣言。

 一方でエリア11の総督と副総督であったコーネリア・リ・ブリタニアとユーフェミア・リ・ブリタニアは、シャルル皇帝による廃嫡に合わせてユーフェミア・リ・ブリタニアを初代代表とする『合衆国ブリタニア』の建国を宣言。神聖ブリタニア帝国が推し進める世界制覇に対して合衆国日本とともに連携し立ち向かうことを表明した。

 これによってブリタニア軍は指揮系統が混乱。本国を離反し合衆国ブリタニアに合流した部隊や貴族派閥も複数出てきたこともあって、日本列島から軍を一時撤退することを強いられ、サクラダイトの一大供給拠点を失ったブリタニア軍部は今後の戦略の見直しを迫られることとなった。

 

 合衆国日本の各地でナイトメアも動員した復興作業が急ピッチで進められる中、今後の復興計画や黒の騎士団の作戦活動、外交の根回しなどに関するその日の午前中の会議を終えたゼロは、送迎車両で次の目的地へ向かいながらスザクと打ち合わせを行う。

 

「合衆国日本の外交は、初代代表となった神楽耶を含めたキョウト六家と俺が主体となるが、場合によってはスザクにも動いてもらう必要がある。今後のためにお前にも(まつりごと)を覚えてもらうぞ」

「交渉とか苦手なんだけどなぁ。まぁ、しょうがないか」

 

 ルルーシュからの提案を、スザクは困り顔でため息をつきながらも了承する。日本最後の首相の息子にして黒の騎士団のエースの一角という肩書がどれほど影響を及ぼすかを理解しているからだ。

 本音を言えば政治はルルーシュ達に任せてパイロットに専念したいが、その身を投げ打ってシンジュクゲットーを救った(もう一人の自分)の最後の願い、未来(明日)を掴むためと考えれば頑張れる。

 

「当面は外交によって諸外国と連携を深め同盟を結ぶ事で対神聖ブリタニア帝国包囲網を構築しつつ、ナイトメアのさらなる開発・配備と団員の練兵による組織的な戦力強化が急務だ。そのためにも、黒の騎士団と合流した日本解放戦線のメンバーとの認識のすり合わせと連携強化が必要となる」

 

 片瀬少将率いる日本解放戦線は、日本解放に伴って組織としての役割を終えたとして黒の騎士団に吸収される形で円満解散となり、黒の騎士団は合衆国日本が有する軍事組織として再編成されることとなった。

 草壁中佐のような過激思想の軍人がまだ潜んでいる可能性は考慮するべきだが、正規軍人だった日本解放戦線を取り込む事で、黒の騎士団の戦術・戦略的行動を効率よく行うための実践的訓練のノウハウが得られるのは非常に大きい。

 藤堂中佐は『奇跡の藤堂』のネームバリューを活かすために軍事部門総指揮官として、片瀬少将は日本軍時代の軍官僚としての能力を活かすために兵站部門総指揮官を任せる予定になっている。

 

「それと並行して、外国に散逸してしまった三種の神器の内二つの回収も並行して進めなくてはいけない」

「桐原公から話を聞いた時は驚いたよ。まさか『古の巫女の御業』の中に含まれている世界との対話に必要とされた三種の神器が、いわゆる限定的にだけど管理者権限を有するデバッグツールだったなんて」

「桐原公が持つ過去の文献だけでなくマーヤがCの世界から持ち帰った情報もあって初めて判明した情報だ。神聖ブリタニア帝国がこの事に感づく前に回収する必要がある」

 

 7年前の日本と神聖ブリタニア帝国の戦争では、日本側の多くの文化財が空爆や砲撃によって焼失し免れた物もその大半が美術品として略奪され非合法なルートで諸外国へ売り捌かれた。三種の神器である「八咫鏡」「天叢雲剣*1」「八尺瓊勾玉」の中で外国に散逸する前にキョウト六家が回収することができたのは、皇居に安置されていた「八尺瓊勾玉」のみ。残る二つはブリタニア軍の貴族によって美術品として略奪され、現在はE.U.に「天叢雲剣」が、中華連邦に「八咫鏡」が存在するところまでは把握している。

 

「そういえば、ゼロの正体がルルーシュだって世間に知られて一週間経ったけど、思っていたよりも反発され無くて良かったね」

「あの戦いで俺とナナリーの正体が神聖ブリタニア帝国の廃嫡された皇族だと知った黒の騎士団員やブリタニア軍人は多い。むしろ生中継を介して国民に俺の正体と共に神聖ブリタニア帝国とは袂を分かったことを表明できた事で、皇族内の権力争いに矮小化される危険を避けることができたと考えるべきだ」

「そうだね。きっと、これまで積み重ねてきた黒の騎士団の活動と、生中継で皇帝に堂々と啖呵切ったのが良かったんだと思うよ」

 

 この時点のルルーシュとスザクは知る由もないが、ゼロの正体がルルーシュであると明らかになってからのゼロを支持する声は、正体不明であった頃よりもむしろ1割程度増えている。勿論ルルーシュがブリタニア人それも皇族であることに反発する声もあったが、キョウト六家とディートハルトによるメディア戦略によって、

『皇帝である父と祖国の蛮行を止めるために戦いに身を投じる、母を喪い廃嫡された眉目秀麗のプリンス』

 という必ずしも間違ってはいないが些か美化されている偶像を速やかに作り出した事で、日本人に限らず反侵略派に属するブリタニア人たちからも支持を集めることができた結果だ。

 

「それよりも問題は、世間に時空管理局と魔法の存在が露見した事だ」

「日本国内では目立った問題はまだ報告されていないけど、他の国々でもそうだとは言えないもんね」

「特に民衆によるヒステリックな魔女狩りの歴史があるE.U.の動きが読めん。……それにしても、この短い間に色々なことが立て続けに起こっているな」

 

 ルルーシュはシャルル皇帝()に宣戦布告を行ったあの日のことを思い出す。

 黒いランスロットの自爆特攻によるシンジュクゲットーの半径1キロ圏が()()した一件は、クロノ提督が率いるアースラスタッフによる緊急調査が行われている。黒いランスロットに乗っていたもう一人の枢木スザク──平行世界の様々な可能性が混ざり合った魔力生命体に類似した存在はアッシュフォード学園に通うニーナ・アインシュタインを早急に保護するようにスザクに伝えていた。

おそらくは平行世界の彼女が開発に深く関わった兵器による現象なのだろう。彼女が物理学の分野で賞を受賞したことは覚えているが、今はどのような研究をしているかまでは把握していない。どのような原理であの結果を引き越した兵器なのかはまだわからないが、あのような破滅的な代物が神聖ブリタニア帝国の手に渡ってしまう事はなんとしても避けなくてはならない。

 

 次に嚮主V.V.が操縦していた大型機動兵器──KGF(ナイトギガフォートレス)を墜落させていた帝国最強の騎士(ナイトオブワン)、ビスマルク・ヴァルトシュタインとの邂逅。ガウェインと同系列のフレームが採用された大型KMFまでロールアウトしているのは驚異だと言える。

KGF(ナイトギガフォートレス)こそ黒の騎士団が回収し解析中だが、V.V.は確保されてしまったのは残念だ。……いや、あのシャルル皇帝()がV.V.に対して向けていた怒りの感情を考えると、V.V.はもう御終いだろう。

 V.V.の正体がシャルル皇帝()の兄だったことも驚きだが、それ以上に俺の感情を揺さぶったのは俺とナナリーを日本に送った理由が俺達兄妹をV.V.から守る為だった事。そしてマリアンヌ(母さん)が近いうちに蘇生する手筈が整うと打ち明けられた事だ。前者はナナリーが本当の記憶を思い出した事で、後者はマーヤがCの世界で出会った母さんの欠片の存在という裏付けによって嘘偽りでない事を信じざるを得なくなった。

 

 そして、この世界がかつて古代文明アルハザードによって遊び場として用意された世界だったという話が俺達を悩ませている。

 シャルル皇帝()とV.V.の真の目的が、幾たびも世界を繰り返す神──Cの世界の中枢管理機構の破壊と、人類を集合無意識に接続することによる『嘘のない世界』の実現にあるという話。

 前者に関しては最低限その機能を停止させる必要があるからともかく、未来(明日)に目を背けて過去(昨日)しか見ない世界を是とする後者は絶対に許容する事ができない。

 タイムリミットは長くても数年。神聖ブリタニア帝国との戦いと、この世界を巻き戻してやり直し(ロールバック)を行おうとする中枢管理機構の機能停止。この二つを並行して進めつつ、少なくとも中枢管理機構の機能停止をタイムリミットまでに完了させなくてはならないのだから、当面の間はスケジュールをかなり詰め込むことになるだろう。

 

「やることが、やることが多すぎる」

「ルルーシュ、そろそろ次の目的地に到着するよ」

 

 考え込んでいるうちに、次の目的地──ジェレミア卿が入院している病院の近くまで到着していたようだ。

 

「わかった。すぐに準備する」

 

 

 ────────────────────

 

 

「失礼する。ジェレミア卿、あれから調子はどうだ?」

 

 トウキョウ租界にある病院の一室──ジェレミアに割り当てられた個室に、ルルーシュが入室する。スザクは病室の外で待機だ。

 

「おはようございます、ルルーシュ様。医者とバトレー将軍の見立てでは、あと数日で退院できるだろうとのことです。せめて今から書類仕事だけでもと思いましたが、キューエル卿やヴィレッタに怒られてしまいました」

「それはそうだ。私も皆から働きすぎだと怒られている」

「おや、ルルーシュ様もでしたか」

 

 入院服を着ているジェレミアは、ベッドに横になったまま苦笑する。彼の左目に量産試作体Jから移植されたギアスキャンセラーの機械パーツが正常に稼働する。

 

「私は、多くの方から託されました。Cの世界でお会いしたマリアンヌ様からはルルーシュ様とナナリー様を。そしてJからは力と忠義、命を」

 

 あの時、瀕死の重傷を負ったジェレミアの命を救ったのは量産試作体Jの自己犠牲による献身であった。

 

 ──私の命、風前の灯火。不完全なクローニングによる脳の寿命がすでに限界間近。故に……私の生きた証をマイオリジナルの救命に利用・活用を懇願!

 

 ユーフェミアは当初、二人共助かる道はないかを探そうとした。しかしジェレミア卿の容体が逼迫していたことと量産試作体Jの脳的寿命が残り短い事をバトレーも証言したことで、選択肢は残されていないことを悟ったユーフェミアは緊急移植手術を了承。その結果、ジェレミアは量産試作体Jからギアスキャンセラーだけでなくサイボーグとしての肉体も一部移植されて息を吹き返した。

 

「ルルーシュ様。私はナナリー様の騎士となることを目指します」

「それは母上への負い目からか?」

「負い目がないと言えば嘘となるでしょう。ですがそれ以上に、Cの世界でマリアンヌ様に約束したのです。今度こそ守って見せると。我が忠義を曇らせはしないと。それこそが、この歪みを抱えた世界を正す助けになると信じて」

 

 嚮団嚮主V.V.との戦闘で倒壊したビルに巻き込まれて瀕死の重傷を負ったジェレミアの精神は、偶発的にCの世界へと迷い込んでいた。

 美術館に飾られる展示品のように様々な場所の風景が額縁に収められ映し出されていた不可思議な空間の中で、敬愛するマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアとの邂逅はジェレミアに大きな衝撃をもたらした。

 アリエス宮の悲劇と呼ばれるあの日の出来事の真相と、この世界の裏側の真実の一端。そしてシャルル皇帝が目指している本当の目的。

 それらを知り、それまで『皇族』という枠組みで妄信的に忠義を捧げていたジェレミアは、どうするべきなのかを考え続けていた。

 

「……もし負い目だけで目指そうとしていたなら、俺はお前をナナリーの騎士にするつもりはなかった。何故ならそれは過去に縛られた生き方だからだ。過去を振り返るのは良い、たまに立ち止まるのだって良い。だが、過去に囚われて止まったままでは、未来へ進むことはできない」

「はい。忠義という言葉に縋り、未来(明日)を見ずに止まっていた私の時間。それを動かすときが来たのです。そのための私自身にへの誓いであり覚悟なのです」

「言っておくが、あくまでナナリーの自由意思を優先するからな?」

「勿論です」

 

 ルルーシュの問いに対して、ジェレミアは迷うことなく答える。

 

「わかった。ナナリーに話は通しておく」

「感謝します。ルルーシュ様」

 

「話は聞かせていただきました」

 

 天井の壁の一部が突如回転し、壁にしがみついているメイド服姿の咲世子がエントリー!

 

「ぇ……」

「この篠崎咲世子。ナナリー様の身の回りのお世話と護衛を任されていた先達として、ジェレミア卿の容体が万全になり次第、ナナリー様にお仕えするにあたって必要な事柄や心構えをレクチャーしたいと思います」

「咲世子殿、それは助かる。このジェレミア・ゴットバルト、必ずやあなたの期待に応えて見せましょう。全力で」

「それは頼もしい限りです。それでは私はこれで」

 

 天井の壁の一部が再び回転し、佐代子は天井裏へと戻っていく。

 ルルーシュは呆然としながら天井を見上げて呟いた。

 

「……この病院にあんな仕掛け施した覚えはないんだが」

「なるほど。ジャパニーズニンジャ、侮りがたし」

「ジェレミア……違う、色々と間違っているぞ……」

*1
「草薙剣」と呼ばれることもある




今回の話で第一部~日本解放編~の本編は完結となります。
最後をギャグ調にしたのは、筆者がここ最近かけなかったギャグシーン欠乏症の反動だと思います。
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