幕間-日常の復興-
神聖ブリタニア帝国から独立したエリア11改め合衆国日本は現在、急ピッチで国土全体の復興作業が進められていた。被害が大きかった関東圏はもちろん、他の地域でもゲットーの様に再開発が急務となっている地域は多い。
今の合衆国日本において大規模な復興作業が不要なのは、神聖ブリタニア帝国から特別統治区として扱われ皇家の分家筋である皇重護が領主を務めている北海道くらいだ。
「オーライ! オーライ!」
復興作業用の物資を運んできた大型トレーラーを先導しているのは、民生用KMF「MR-1」に搭乗した作業員だ。型落ちになったグラスゴーの出力をさらに落とした上で装甲などを取り払った事で骨組みに近いフォルムは何とも言えない頼りなさを感じさせるが、他のKMFよりもコンパクトに畳んで現場まで運べる事から作業用として重宝されている。
そして作業に従事しているKMFはMR-1だけでない。グラスゴーやサザーランド、無頼も一緒に復興作業に従事している様子は、少し前ならば考えられなかった光景だ。
「う~ん、MR-1はグラスゴーと比べてバランスを崩しやすいのがネックだなぁ。重い荷物を抱える時とか危ない場面が時折な」
「仕方ないよ。MR-1はグラスゴーを民生用に出力落として再利用したデチューン品なんだから」
「かといって、グラスゴーに戻すのは掛かるコストは勿体ないぞ?」
「だよなぁ。バランス崩さないように気を付けるしかないか」
「おーい、お前ら! そろそろ昼飯の時間だぞ~! 集まれ~」
「わかりました!」
復興作業に従事している者たちに、キッチンカーに乗った玉城が声をかける。
キッチンカーは玉城が運転する車両の他にも複数台来ており、その中にはリフレイン事件の際にかつてリフレイン中毒者であったホットドッグ屋の店主が所有するキッチンカーも含まれていた。
玉城のキッチンカーで今回配給しているのは豚汁だ。豚肉は様々な部位のこま切れ肉を中心にバラ肉も少量加え、さらにジャガイモやニンジン・玉ねぎなどの根菜類や野菜がふんだんに使われている。かつての家庭の味を思い出させるのに加えてお腹が膨れることもあって、労働者から人気がある。
「炊き出しのノウハウは、俺たちに一日の長があることを見せる時!」
元日本解放戦線のメンバーが所有している炊事車がフル稼働し、片瀬少将のコネクションで用意した白米を次々と炊き上げては容器に盛り付け、用意した2~3種類程度の漬物と共に労働者たちに提供していく様子は実に手慣れたものだ。
その隣では白米になじみがないブリタニア人労働者のために、純血派を示す赤い羽根を象ったバッジを付けたブリタニア軍人がサンドイッチやライ麦パン、ランフォードスープ*1を提供していた。
「いやぁ、まさかこうやって温かいまともな食事に毎日ありつけるようになるなんてなぁ」
「以前はブリタニア人というと横柄で怖い印象があったけど、この国に残ってくれた人たちは違うのねぇ」
「お互い、今まで国是とかに縛られて相手をちゃんと見ていなかったんだなって痛感するよ」
かつてイレブンと蔑まれていた日本人が、かつてはイレブンを差別する側だったブリタニア人が、かつて名誉ブリタニア人となった日本人が、ともに同じ場所で食卓を囲んで食事をし語らい、互いのことを理解していく。
「そういや聞いたか?」
「何をだ?」
「北海道にある鉱山で、新たな高純度の鉱脈が見つかったって話」
「北海道もサクラダイトの生産地だから、新しい鉱脈が見つかってもおかしくはないだろ?」
「それが、サクラダイトじゃなくて、高純度で採掘されるのは珍しい別の鉱石らしいんだ。確か……エクゾニュウムとかいう金属の鉱石だったか?」
「へぇ~。まあ、本土で復興作業やってる俺たちには関係ない事だな」
「だな」
まだ完全に互いの隔意がなくなった訳ではなくても、相互不信と無理解による偏見は少しずつ解されていく。
「さぁて、そろそろ俺たちも飯にするか」
炊き出しに集まる人たちへの配給がひと段落した頃合いを見計らって、玉城は他のメンバーと交代制でキッチンカーから降りる。
「よっ! 俺もこのパンとスープもらっていいか?」
「ああ、良いぞ」
今日の玉城が選んだのは、純血派のブリタニア軍人が提供しているライムギパンとランフォードスープ。前回は元日本解放戦線のメンバーが用意した白米とその時に自分のところで用意していた総菜類だったので、当面は続くだろう炊き出しのバリエーション研究も兼ねている。
「玉城、そろそろランフォードスープ以外のスープも用意してローテーション組もうと思うんだが何がいいと思う?」
「そうだなぁ。野菜を多く入れたコンソメスープやミネストローネなんかどうだ? コンソメは本格的なのじゃなくてコンソメスープの素とか使えば手間減らせるし、計量もキューブタイプなら簡単だしよ」
「なるほど。普段宿舎の食事や外食ばかりで自炊した経験がなかったから助かる」
「なぁに、良いってことよ」
玉城はランフォードスープをスプーンで掬って飲みながら、最近馴染みになった純血派軍人からの炊き出しの相談に答えたり雑談を重ねる。
「玉城、俺たちのところに配給を受け取りに来る日本人はまだ少ないけど、黒の騎士団のお前さんが時折来てくれるおかげで、みんな少しずつ興味を持ってくれているんだ」
「確かに、昔の俺だったら意地張って来なかっただろーよ。今は俺も色々と変わったんだぜ」
「なるほどな。そう考えると俺たちも変わってきているんだな。まあ、それが認められなくて本国に帰国した同僚もそれなりにいるんだが」
純血派という派閥は、『軍内部の人員は、騎士ではない一般兵に至るまで純血のブリタニア人が務めるべき』という思想と目標の下でジェレミア・ゴットバルト辺境伯を結成者及びリーダーとしてエリア11で活動していた者たちだ。
その性質上ナンバーズに対して差別的な言動・行動が多かった彼らがこうして日本人とともに炊き出しを行っているのは、先の嚮団が起こした事件の影響が大きい。
実は集まった若手軍人の中には軍内部で上にあがるための手段として純血派への加入を選んだ者たちも多く、派閥内で孤立しないように周囲に合わせていた者も相応にいたのだ。
勿論、生粋の差別主義者も相応に所属していたし、彼らが純血派を離脱し本国へ帰還した事で、純血派の規模は四分の三程度まで落ち込む結果となっている。
「ましてや、本国の家族が心配だけれど立場的に戻っても出世できるあてがないからこっちに残った者もいるからなぁ」
「あぁ、所謂板挟みってやつか。大変だなぁ」
「俺は男爵家の四男坊だからまだ自分が選んだ道を進みやすかったけど、ソレイシィ卿の様な著名な貴族の長男だと尚更なぁ」
「そういう意味では、合衆国日本として独立を宣言した後に真っ先に馳せ参じたダールトン将軍と、彼の養子達であるグラストンナイツは思い切った事したよな」
「なんでも、『
「だよなぁ! 俺もそう言う格好良いこと言ってみたいぜ!」
玉城と純血派末端軍人達との駄弁りは初めからこのようにスムーズだったわけではない。最初の頃は互いにどう接するべきか手探りな部分もありそわそわした雰囲気があったが、炊き出しで何度も顔を合わせていくうちに今では意気投合する者も出てきていた。
「そうだ、折角だからあんたらも俺たちの飯食ってみろよ。豚汁と白米の組み合わせは美味いぞぉ~」
「それは……そうだな。俺も日本の食事というものにも興味が湧いた。折角だからいただこう」
後に神聖ブリタニア帝国との戦争終結後に玉城が開店した喫茶店には、この時意気投合した純血派軍人達も足しげく通う様子が見られたというが、それはまた別のお話。
エクゾニュウム……「コードギアス ロストストーリーズ」が名称として初出の物質。「コードギアス 奪還のロゼ」において、シトゥンペバリアによる出力低下を防ぐ目的でカムデンなどのネオブリタニア製KMFの動力のコーティングに採用されている。