コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

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幕間-お茶会-

「はふ、ほふぅ……♪」

 

 シャーリー・フェネットはバスケットに入った焼きたてのスコーンを手で横から半分に割って、お皿に取り分けたクロテッドクリーム*1を塗り、その上にストロベリージャムを更に乗せてから口に運ぶ。カロリーを気にして控えめに塗りそうになるけど、たっぷり塗るからこそ美味しいスコーンとなるからどちらもたっぷりだ。

 サクサクとした軽い触感、スコーンの熱でジュワッと溶け出したクロテッドクリームの濃厚な香り。そして甘酸っぱいストロベリージャムの味わいが口の中で一つになって広がり、たまらない美味しさとなって思わず顔の表情が綻ぶ。

 そこにすかさず紅茶が注がれたティーカップのハンドルを指先で摘まんで口に含むと、紅茶の熱と水分によってさらに溶けたクロテッドクリームとジャムも相まって、紅茶の芳醇な香りがスコーンと融合して素晴らしいハーモニーを奏でてくれる。

 アッシュフォード学園では生徒会のみんなや水泳部の部員たちとたまににお茶会で食べる事はあったが、これほど美味しいスコーンと紅茶を味わうのは初めてだ。許されるならば、夢中になって食べ続けていたいくらいだ。

 

「ふふ……♪ お口に合ったようで何よりです」

 

 お茶会の主催者の声が耳に入り、シャーリーは自分が置かれている状況を思い出してハッとなる。

 

「も、申し訳ありません、ユーフェミア代表!」

「そんなに緊張なさらなくても良いのですよ? 何でしたら、このお茶会ではユフィと呼んでいただいても……」

「ユーフェミア代表、彼女にそこまで求めるのはさすがに酷ではないでしょうか?」

「そうでしょうか?」

 

 わたわたするシャーリーに対してもっとフランクに接しても良いとユーフェミアは言うが、同席していたヴィレッタが苦言を呈する。

 

 エリア11が合衆国日本として独立し、総督府も合衆国ブリタニアとして本国から独立した一連の騒動でアッシュフォード学園でも一部の在籍学生の本国への帰国やそれを巡るトラブル対処に生徒会メンバーも追われる日々を送っていた。そんなある日、生徒会室でみんなと話をしていたシャーリーは東京政庁にある庭園でユーフェミアが主催する最後のお茶会に招待されていた。

 シャーリーにとっては自分がなぜ招待されたのか分からない、かといって断る事もできないまま参加する事となったが、ニーナも別件で東京政庁に呼ばれていて、東京政庁まで送る送迎車までは一緒だった。自分たちがいない間に、ミレイ会長がまた突拍子もない企画を進めないと良いが……。

 お茶会に参加するにあたって幸いだったのは、チャリティーイベントの時にルルーシュが用意してくれたドレスを流用できた事でドレスコードは問題なかった事だろう。

 お茶会の参加者に合衆国日本の代表となったキョウト六家の盟主である皇神楽耶がいる事は、このお茶会は非公式な秘密会談なのではないかと勘繰ってしまうが、それならば尚の事なぜ自分が招待されたのかが理解できない。

 マーヤやナナリーといった見知った顔がいる事は、緊張を若干和らげてくれる一助になっているが、そうでなかったら緊張でスコーンの味や紅茶の香りなど全く分からなかっただろう。

 

「シャーリー。私も急に招待されてびっくりしているけど、今回は普段通りに接しているくらいで大丈夫だから」

「そうです。普段のシャーリーさんの接し方ならば、ユーフェミアお姉さまも失礼とは思いませんから」

 

 同席しているマーヤとナナリーが、シャーリーにアドバイスを送る。ドレス姿の二人からは普段とは異なる気品を感じさせ、特にナナリーは目を開けられるようになった事でそれまでの儚げなものから利発そうなものへ印象が様変わりしていた。

 

「マーヤ、ナナちゃん。わ、わかりました。えっと、ユフィ……さん?」

「今だけは、合衆国ブリタニアの代表としてではなく、シャーリーさんと対等なお友達としてお話ししたかったので嬉しいです♪」

 

(私の反応の方がおかしいのだろうか?)

 

 お茶会におけるユーフェミア代表の護衛のはずがなぜか参加させられたヴィレッタは、表情には出さないように努めながら見守ることにする。

 

「お話したい事……ですか?」

「はい♪ 合衆国ブリタニアが拠点を北海道に移す前に、どうしてもあなたと直接お話ししたくて。シャーリーさん……貴方とルルーシュとの関係はどこまで進んでいますか?」

「……ぇ? ル、ルルと私の関係ぃ!?」

 

 予想だにしていなかった質問を投げかけられ、シャーリーは顔を赤らめてわたわたする。

 

「シャーリー様はルルーシュ様と交際しているとナナリー様からお聞きしておりますわ。なんでも、ナナリー様とルルーシュ様の三人でデートもしたとか。羨ましいですわ」

「ほほぅ? ルル(にぃ)も隅におけんなぁ~。こんな可愛くてスタイルも良い子とお付き合いしているんやね~」

 

 しかも神楽耶と同席している日本人、確か管理局という外の世界の組織に所属している八神はやてという女性まで話に乗っかって根掘り葉掘り聞いてこようとしてきている。

 

「そ、それは! ふ、ふふ……ふしだらな関係は誓ってありません!」

「顔真っ赤にして、可愛い反応やねぇ~♪」

「それより!? はやてさんこそルルとはどのようなご関係なのでしょうか!」

「ルル(にぃ)との関係?」

 

 必死に弁明しながら訪ね返すシャーリーの問いかけに対し、はやてはにんまりとした笑みを懐かしむような微笑みに変えて振り返る

 

「私にとってはお兄ちゃんみたいな人で、離れ離れになるはずだった家族を救ってくれた恩人や。詳細は話せんけど、ルル(にぃ)がいてくれたから私達はこうしてお日様の下で暮らしていけるんよぉ」

「ルル……昔から優しかったんだね」

 

 はやての話を聞いて、シャーリーとマーヤは紅茶に口を付ける。

 

「しかし……一番関係が進んでいるシャーリー様でも肉体関係がないとなると、ルルーシュ様との合瀬の機会は、まだ当分先になりそうですわ」

「「ぼふっ!!?」」

 

 神楽耶の発言に、シャーリーとマーヤが咽る。ユーフェミアとナナリーはまぁ……と口元を手で押さえる程度の反応だ。

 

「げほっげほっ! 神楽耶様!?」

「おや? 後世に血を残す責務がある皇家としても、ルルーシュ様を愛する一人の女としても。あの方の種を授かりたいと思うのはおかしい事でしょうか? ご安心を、正妻の席は私がいただきますが、側室の座はご用意しております♪」

 

 咽て咳き込みながら、シャーリーは神楽耶がルルーシュをめぐる恋のライバルであり、なおかつ相手はこちらを取り込もうとしていることを察する。

 

「神楽耶代表、ユーフェミア様の前でそのような話題は……」

「懐かしいわね、ナナリー。本国の離宮にいた小さい頃、ルルーシュのお嫁さんになるって二人でルルーシュを取り合って喧嘩することもあったあの頃を」

「そうですね、ユーフェミアお姉様。私達でお兄様の両手を引っ張って困らせてしまっていましたね」

 

 そんな神楽耶にヴィレッタが注意しようとするが、ユーフェミアとナナリーはその光景に昔の話で花を咲かせていた。そもそも二人の父親は108人の妻がいる皇帝(シャルル)だ。二人からしたら身近な話の一つで、そういった話は割と耐性はある。

 

「ルルーシュ、小さいころから苦労人だったのね……」

「ルル(にぃ)はモテモテやねぇ~」

「そういうはやてさんはどうなんです?」

「ん~? 私の場合、お付き合いしたい異性のタイプは年上で父性がある人やからねぇ。それにルル(にぃ)に対して向けているのは家族愛やし」

「なるほど」

 

(家族愛か……思えば、私が貴族になろうとしていたのは育ててくれた両親や兄弟の生活を楽させてやりたかったからだった。家族の身の安全のためにこちらに呼んだ時は、両親や兄弟たちは快く受け入れてくれた。しかし……今でもこの選択が本当に正しかったのか考えてしまう事がある)

 

 これからの事について考えを巡らせるヴィレッタ。今更本国に帰るのは論外だ。ここまで来たら合衆国ブリタニアに未来というチップを全賭けするしかないのだが、戦争が終わった後のことを考えるとどこかのタイミングで人生のパートナーを探す必要もあるだろう。

 そう考えていると、ユーフェミアから話を向けられた。

 

「そういえば、ヴィレッタは恋人や好きな方はいるのですか?」

「私……ですか? 今のところは恋人はございませんが」

 

 嘘をつく理由もないので素直に話す。するとそこにマーヤが疑問を呈する。

 

「あれ? でもこの間、扇さんと仲良さそうに話してなかった?」

「黒の騎士団の扇とはそういう関係ではない。確かに彼は優しく気配りが利く人物で、黒の騎士団と純血派の連携強化にあたって相談した際に親身になってくれたが……あまり悪くは言いたくないが、恋愛対象としてはヘタレなのがな」

「ああ……確かに。扇さんは我を通すタイプの人じゃないもんね。リーダーの才は無いけど王佐の才に優れてた、上司と部下の緩衝役に必要な人材だってルルーシュも言ってた」

「まあ、真面目だから異性の相談相手としてならば頼れる人物だとは思っている。ただ、私としてはもっとグイグイとリードして欲しいというか……もどかしくてな」

 

(これ、相談重ねていくうちに絆されて、いつのまにかくっつきそうやなぁ)

 

 ヴィレッタの返答に対してはやてはフラグ乙と内心思う。尤も、互いに距離が近くなりすぎて最早熟年夫婦のような空気を醸し出している、幼馴染のなのはとユーノのような関係に収まる可能性もあるが。あの二人、互いに相手に恋人ができたら素直に祝福しそうなんだよなぁ。じれったくていやらしい雰囲気に誘導しても特に効果なかったのは戦慄した記憶がある。

 そういう意味ではまだ相手を異性と意識しているルル(にぃ)が誰かと結ばれる方が先になるかもと、はやては思うのであった。

*1
バターと生クリームの中間のような、脂肪分の多い牛乳を煮詰めて作った乳脂肪分60%前後のクリーム




スコーンにクロテッドクリームとジャムを塗る順番は、地域によって異なるそうです。
今回はイギリスのデヴォン州における食べ方を採用しました。
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