転移魔法による急な景色の変化によって動転するマーヤに、ルルーシュは近くに置いておいたミネラルウォーターのペットボトルを渡す。
「とりあえず、それでも飲んでひとまず落ち着くと良い」
「え、あ……分かった」
マーヤは言われたとおりにペットボトルを開けて口を付ける。ずっと走り続けていたので、カラカラになっていた喉を通る水が心地よい。
「落ち着いたか?」
「……ええ」
「それじゃあ、これからの事について話をしよう。マーヤはあそこで寝転がっているC.C.という女と一緒に租界まで脱出して欲しい。そのための手段とチャンスは俺とスザクで用意する」
「ルルーシュさんは? ルルーシュさんはどうするの?」
「俺は……レジスタンスと協力してブリタニア軍を撃退し、クロヴィス総督を……殺す」
「「ルルーシュ!!?」」
ルルーシュの言葉に、マーヤとスザクは驚愕する。
「ルルーシュ、ダメだ! 君がブリタニア皇族を……血の繋がった家族を殺しちゃいけない!」
「家族……ルルーシュさんが、ブリタニアの皇族!?」
「スザク! ……しょうがない、この際はぐらかさずに言おう。俺は神聖ブリタニア帝国の第11皇子にして、第17皇位継承者。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」
「……教えて、ルルーシュさん。どうして皇子である貴方が、同じ皇族のクロヴィスを殺すの?」
「このシンジュクゲットーで行われている虐殺はクロヴィス総督の命令で始まったものだ。これを止めるには、クロヴィス総督に作戦の停止を命令させた上で再命令されないように殺すしかない」
ルルーシュはクロヴィスを殺す理由を説明した後、「それに」と付け加えて話を続ける。
「皇族は次の皇帝の座を巡って争わされている。常に命を狙われ、隙を見せればすべてを奪われる。俺も、母を何者かに殺された。唯一の手掛かりは同じ皇族という事のみ。父であるシャルル皇帝は犯人を見つけ出す気がなく、俺達兄妹をこの日本へと人質として送った。……それでも俺はナナリーと孤児院の子供たちを養うためにブリタニアへの憎しみを、復讐心を心の奥にしまい水に流そうと思っていた。だが……! 奴らはそんな俺の想いを、精一杯生きていただけのあの子たちの未来を踏みにじった! 俺が甘かったんだ! 俺とその周囲の者たちだけでも安らかに生きていく事ができればなどと日和った考えをしていたから!」
「……ならばどうするの。クロヴィス総督を殺すだけで終わりではないのでしょう?」
「勿論だ。俺はブリタニアを……ブリタニアがこの世界に強いている弱肉強食の理を破壊する」
「ルルーシュ、その道は……」
ルルーシュの決意に、スザクは彼が辿るかもしれない破滅の未来を案じる。それでも、ルルーシュは止まらない。
「勿論わかっているさ。俺が進もうとしている道が果てしなく困難な修羅道であることは。だが、誰かがやらなければならないんだ。そうでなければ、いつまでたっても勝った国が負けた国を虐げ、強者が弱者を一方的に殺すような世界は変わらない。ならば……俺がやらなきゃいけないんだ。あのブリタニア皇帝の息子であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが」
「それが……貴方の戦う理由。……ルルーシュ、私も……戦う」
ルルーシュの覚悟を聞いたマーヤは、一度目を瞑って自らの心に問い返して、自ら戦う道を選ぶ。
「マーヤ……?」
「私は、純粋なブリタニア人じゃない。日本人の父とブリタニア人の母の間に産まれたハーフ。7年前に両親を、そして今度は陽菜達の未来を奪ったブリタニア軍が許せない。精一杯生きる罪のない人達を殺す人たちを許せない。陽菜達のような悲劇を起こさせないために、私も……ブリタニアを壊す!」
「……分かった。それで、スザクはどうするんだ?」
マーヤの決意を聞いたルルーシュは、スザクにも問いかける。スザクはブリタニア軍に所属する名誉ブリタニア人となっている身だ。今は生き延びるために共に協力しているが、本来ならば自分達を拘束する義務がある立場の人間なのだ。
出来る事ならばスザクとは敵になりたくない。スザクの強さとかの問題ではなく、親友と敵対したくないという心因的なものだ。
「……二人がそこまで決心しているならば、僕も戦うよ。僕には、その責任がある」
「スザク……?」
スザクが口にした責任という言葉に、ルルーシュは先ほどのブリタニア軍兵士の言葉をまだ気にしているのかと考えた。しかし、
「ルルーシュ……マーヤ、僕が犯した罪を聞いてくれるかい?」
「ああ」「ええ」
「7年前、僕は枢木ゲンブ首相を……父さんを殺した」
「「!!?」」
「枢木ゲンブは……父さんは、表では日本人に徹底抗戦を呼びかけていたけれども、裏ではブリタニアと内通していたんだ」
「そんな!? でも待って、ブリタニアと内通していながら徹底抗戦を呼びかけるのは矛盾していない!?」
「父さんは他の京都六家と対立していて、徹底抗戦を呼びかけてブリタニア軍に日本軍を消耗させる事で、日本が占領された後に京都六家が抵抗する余力を奪って自分がエリア化した日本を統治する目論みだったんだ」
「なるほど……日本の首相が内通していたならば、本土上陸まであっさり突破されたのも納得がいく。だが、日本を占領された後はどうやって統治者になるつもりだったんだ? ブリタニアからすれば枢木ゲンブは内通者とはいえ、日本の首相だ。占領したエリアをそのまま任せるなど普通はあり得ないはず」
「それを可能にする方法が……あの時、一つだけあったんだ」
「一つだけ……まさか!」
ルルーシュは枢木ゲンブがどうやって権力側に居座ろうとしたのかを理解し、苦虫を潰したような顔をする。その方法はルルーシュにとってあまりにも看過出来ない所業だったからだ。
「そう……ルルーシュの妹を、ナナリー・ヴィ・ブリタニアを自分の妻にする事だよ」
「そんな……」
「あの糞爺……!」
自分が行方不明となっていた間に、自らの権力のために最愛の妹を手籠めにしようとしていた男に対し、ルルーシュは思わず罵倒の言葉を漏らす。
思えば、あの男は自分とナナリーが留学という体裁の人質として日本に送られてきた時も、真面な家屋ではなくて土蔵に自分達を押し込めるような男だった。
「僕は……父さんが許せなかった。日本を裏切って、日本人に流血を強いて、なによりも……ルルーシュを失ったナナリーにそんな事をしようとしていた事が!」
「だから……殺したのか。実の父を」
「ブリタニアとの戦闘を止めるためには……ナナリーを救うにはそれしか方法はないって、頭の中がぐちゃぐちゃになっていて。気が付いたら……僕は父さんのお腹にナイフを。でも……戦争は止まらなかった」
「だろうな。既に始まってしまった戦争をあっさりと止める事などできはしない」
「うん。当時の僕はそんな簡単な事も分からなかったんだ。僕が間違った方法で結果を得ようとしたから、日本は……日本人は! 僕の……所為で!」
「それは違う「ぞ」!」
スザクの独白と罪の意識に対して、ルルーシュとマーヤは否を突きつける。
「スザク、確かにお前は親殺しの咎を犯したのだろう。だが、それによって日本は最悪の中の次善を選び取る事が出来た! お前が枢木ゲンブの凶行を止めたからこそ、日本は余力を残したまま降伏する事ができ、今の抵抗に繋がっている。お前は、消えるはずだった日本の燈火をギリギリのところで生き永らえさせたんだ!」
「そうよ! 悪いのはブリタニアとゲンブ首相であって貴方ではない。むしろ、貴方は被害者だ」
「ルルーシュ、マーヤさん……」
「なにより……お前のおかげでナナリーはあの男の毒牙にかかる事を免れた。お前がいなかったら、俺が戻った時に枢木ゲンブを怒りのあまり殺していたかもしれない。本当に、感謝する」
恨まれると思っていた。憎まれると思っていた。自分はそれだけの罪を犯したし、裁かれなければいけないと、死を持って償わなければいけないと思い続けていた。
でも、そんな自分を肯定してくれる人がいる。許してくれる人がいる。感謝してくれる人がいる。
裁かれて死にたいという想いが軽くなり、彼らのために生きたいという想いが強くなる。
ああ……自分は何と身勝手な男なのだろう。それでも──、
「あ、ありがとう……」
この瞳から流れる涙は、想いは否定したくなかった。
「それにしても、よくもまあ3人が3人とも他の者たちには知られたくない過去を自分から語ったものだな」
「そうだね。……あれ? ルルーシュさんのはスザクが話したからじゃ?」
「うっ……ごめん、ルルーシュ」
「気にするな。寧ろ胸の内がすっきりした。それに、これで俺達は共犯者なんだ。今更だよ」
「「共犯者?」」
「ああ。ブリタニアを……弱肉強食の世界の理を壊し、弱者でも生きていく事ができる新しい世界を創造する共犯者だ」
「なるほど。確かに共犯者だね」
「ええ。私達は共犯者の契約を交わした」
ルルーシュの言い回しに納得がいったスザクとマーヤ。
「おい、私が抜けているぞ」
3人の間に、C.C.がにゅっと顔を出す。
「私と契約すれば、お前たちに人の理から外れた王の力を与えてやれるぞ。尤も、その対価として私の願いを一つ叶えてもらうがな」
「お前も聞いていた以上、俺達の共犯者になる事は認める。だが……力の契約は断る」
「なに?」
ルルーシュから力の契約を拒否されたことに、C.C.は怪訝そうな表情を浮かべる。
「お前の話が本当だと仮定した場合、お前には相手に新たな能力を付与する、或いは秘めている
「言い回しはともかく察しが良いな。だが、それだけに解せん。お前たちには力が必要なのだろう? 何を断る必要がある?」
「簡単な事だ。俺は力に溺れたいんじゃない。力無き者でも生きていける優しい世界を創造したいんだ」
「戯言だな。何かを成すためにはそれにふさわしい相応の力が必要だろう?」
「目の前にぶら下げられた力に跳びついて、後で代償で泣きを見たくないからな。それとも……お前の契約では、どんな力を得られるか、どんな代償があるかを事前に教えてくれたりでもするのか?」
「それは……」
「これで少なくとも、お前は自らの意思で相手に与える力の内容を制御できない事は分かった。ならば、なおのこと契約できんな」
バッサリと拒否するルルーシュに、C.C.は表情を険しくする。
「それならばお前たちはどうなのだ? ルルーシュの奴は魔法が使えるからこう言えるが、お前たちはそうではないだろう?」
「僕はいらないかな。僕だと安易に力に頼って皆に迷惑を掛けてしまいそうだから」
「悪いけれども私もいらない。陽菜達は特別な力なんかなくたって必死に生きてきた。私は、あの子たちに誇れる自分でありたい」
「そうか……」
「随分と振られてしまったな、女」
「うるさい」
スザクとマーヤにも、力の契約を断られてC.C.はため息をつく。
「では、反撃の時間といこうか」
ルルーシュの言葉に、一同は深く頷いた。
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『LOST』『LOST』『LOST』『LOST』
シンジュクゲットーの壊滅を指揮しているクロヴィスが登場するG1ベースで、戦況モニターに友軍機の反応消失が次々と映し出される。
「ラズロー隊の反応消失!」
「ええい、他のKMF部隊は何をしている! テロリスト共の戦力は中心部に集中しているのだぞ! 包囲して叩き潰せ!」
「クインシー隊、エルス隊も合流地点で反応が途絶えました!」
「くっ!」
一方的に次々とKMF部隊の信号が途絶えていく戦況に、クロヴィスは内心狼狽しながら思考する。
「(誰だ……私は誰と戦っているのだ……。こいつ、まさか藤堂よりも……)ロイド!」
「あ、は~い」
「こういう時のためにお前が弄っている新型の玩具はあるんだろう!」
「フッ……殿下。ランスロットとお呼びください」
ランスロット。
アーサー王伝説において円卓最強の騎士と呼ばれ、同時にアーサー王と円卓を破滅に追い込んだ裏切りの騎士とも呼ばれる存在。
そのような不吉な名前を新型KMFに与えている事にクロヴィスは強い不安を覚えながら、明らかに不利に傾いた戦況を立て直すために強く立派な総督を演じる。
「ランスロットを出撃させろ!」
「あ~、それは無理ですね~」
ロイドの出撃拒否に、クロヴィスは激昂する。
「なんだと! 総督の命令が聞けないのか!」
「いや~、特派はシュナイゼル殿下の部隊ですし~、そもそもランスロットを使いこなせるデヴァイサーがいないんですよね~」
「デヴァイサー?」
「ええ~。ランスロットは徹底的にハイスペックを求めて僕が開発した機体なのですが、その所為で反応がピーキーすぎて扱うデヴァイサーをかなり選ぶ機体になってしまったんですよ~」
「……それは、そもそも動かせないという意味か?」
「いえ~。ランスロットのポテンシャルを発揮するのに必要という意味ですね~。特にランスロットの特徴である機動力が──」
「そうか……ならばフルスペックを発揮できなくても構わん! ランスロットを出せ! パイロットはこちらで用意する!」
「はぁ~! いやいや~、そんな事を──」
クロヴィスの決定に抗議するロイドの声を無視してクロヴィスは通信を一方的に切る。
「宜しかったのですか、殿下? シュナイゼル殿下との関係に軋轢が生じかねませんが」
「この際仕方あるまい、ここで負けてしまったら私は終わりだ! シュナイゼル兄上と特派には、戦闘データも付けて返せばまだ弁解は出来る。それよりも、回収したあいつをランスロットに乗せろ! こうなった責任を取らせるのだ!」
「イ、イエス、ユア・ハイネス!」
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ルルーシュは今、KMF「サザーランド」に乗り込んでいた。
この機体は少し前にブリタニア軍に奇襲を仕掛けて
同じようにして手に入れた機体は他にも複数あり、スザクとマーヤ、C.C.だけでなくシンジュクゲットーのレジスタンスにも提供している。
ルルーシュにとって予想外だったのは、スザクとマーヤがブリタニア軍のKMFを三次元立体機動という無茶を実行しながら容易く撃破した事だ。
サザーランドで三次元立体機動をすること自体も可笑しいが、スザクは軍属だったのだからあのでたらめな身体能力ならばわからなくもない。しかし、マーヤは初めてKMFに乗ったにもかかわらずそれを実行して見せた事には驚きを隠せなかった。
通信装置から、ブリタニア軍のKMFの撃破に成功して歓喜の声をあげるレジスタンスの声が聞こえてくる。
『敵を撃破!』
『こっちもだ!』
『ブリタニアの連中、慌ててやがる!』
合流地点の足場を崩落させることでブリタニア軍のKMF隊を纏めて撃破してから、戦況はレジスタンス側へと傾いている。
七年前の戦いで共に戦ったもう一つの家族と比べれば連携は拙いが、死にたくないという想いが姿を現していない自分の指示をちゃんと聞く原動力となっているようだ。
だからこそ、クロヴィスが落ち着きを取り戻す前にチェックメイトを掛けなければならない。
考え得る最悪な展開は、クロヴィスが部隊を完全に引き上げさせ、シンジュクゲットーを包囲しての航空部隊の増援による空爆だ。いくらナイトメアでも、空の領域では絶対的な兵器ではない。
『おい、Bグループがやられたぞ!』
『連中なら俺達のすぐ近くのはずだ。だけど、敵なんてどこにも──う、うわああ!』
『嘘だろ、何だあのナイトメア……見た事がない新型だ! うわあああっ!』
「J1! 敵の新型の映像情報をこちらに送れ!」
『わ、分かった!』
レジスタンスのKMFが次々と撃破されていく事態に、ルルーシュはまだ撃破されていない現地のレジスタンスに情報を提供させる。
ルルーシュのモニターに転送されたKMFの映像は、今まで見た事がない機体であった。紫色がベースのサザーランドと違い、その機体は白を基調として金色をアクセントにしている戦闘兵器とは思えないカラーリングをしており、ボディもサザーランドよりスタイリッシュな仕上がりとなっている。
これだけならば皇族が参加する式典のための儀礼用KMFとも思えるが、複数のサザーランドのアサルトライフルによる掃射を腕部から展開した半透明の障壁で防ぎ、マニピュレーターで保持している青色のライフルはサザーランドを一撃で撃破しているのだから、非戦闘用のお飾りなどではない事は明らかだ。
「クソッ! クロヴィスめ、こんな隠し玉を持っていたのか! N4、N5、B3は新型機を囲むように散開! 絶えずアサルトライフルで攻撃して反撃させるな!」
「りょ、了解!」
悠々と歩いて接近する新型機に苛立ちながら、ルルーシュはレジスタンスに足止めを命令する。
「クロヴィス殿下は一度ならず二度までも失態を犯した私に名誉挽回のチャンスを与えてくださったのだ。このランスロットで猿どもを皆殺しにしてくれる!」
ルルーシュが新型機ランスロットの対応に追われている中、デヴァイサーとなった男──ルルーシュ達に一度は拘束されたクロヴィス親衛隊隊長は、クロヴィス総督から貸し与えられた新型機の性能に高揚していた。
「猿どもめ、このランスロットの火力と防御力の前ではそのような小細工は無意味と知れ!」
ランスロットを包囲し遠巻きに攻撃してくるテロリストの非力さを嘲笑しながら、親衛隊隊長はマニピュレーターで保持するライフル「ヴァリス」でテロリストが操縦するサザーランドを一機撃ちぬく。
相手の攻撃はこちらに届かず、此方の攻撃は一撃必殺。まさに神聖ブリタニア帝国の圧倒的な力を体現する機体だ。
親衛隊隊長がランスロットの性能に酔いしれながらテロリストのKMFに応戦する中、ランスロットを開発した特派スタッフを乗せたトレーラー内の空気は非常に悪かった。
「は~、ランスロットの強みを全然活かさないで戦っているよ~」
「しょうがないですよ。ランスロットとの適合率31%では、サザーランドと同等レベルの機動性までリミッターを掛けなくてはいけなかったのですから」
「クロヴィス殿下もさ~、もっとランスロットを扱えるようなデヴァイサーを用意してくれないと~」
特派の主任を務めるロイド・アスプルンドがデヴァイサーになった男のランスロットが本来想定する戦い方とは全く異なる運用に愚痴をこぼす。
ランスロットは従来機とは隔絶した攻撃力・防御力を保有しているが、何よりの武器は圧倒的なまでの運動性。
グラスゴーやサザーランドといった従来機は脚による歩行やランドスピナーによる滑走など地面上の二次元移動が前提の機体だが、ランスロットはその有り余る機体出力を活かして跳躍等の三次元機動も容易に可能なのだ。
しかし今回デヴァイサーとなったクロヴィス親衛隊隊長のランスロットとの適合率は僅か31%。本来意図している機動などさせようものならば瞬く間に機体バランスを崩して転倒するのがオチなため、遺憾ながら運動性に突貫でリミッターを掛けて運用する事となった。
その所為で本来の強みである運動性はサザーランドと同程度まで低下し、更に親衛隊隊長の慢心もあって積極的に動かずに携行している可変弾薬反発衝撃砲「ヴァリス」による攻撃と、サクラダイトによって発生したエネルギーを利用したエナジーシールド「ブレイズルミナス」による防御しか行っていない。
それでもじわじわとレジスタンスを追い詰めているのだからランスロットの機体性能の高さを証明しているのだが、ロイドとしてはもやもやする気持ちが消える事はない。
「はあ~、誰かもっとランスロットにふさわしいデヴァイサーが現れないかな~」
「ランスロットの前に新たなテロリストのKMFが二機。……ロイド主任! これを見てください!」
「ん? おやおや~」
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話はルルーシュがブリタニア軍の新型機をレジスタンスに包囲させた辺りに遡る。
「くっ! サザーランドのアサルトライフルがまるで効いていない! 何だあの化け物は!」
大半の攻撃を新型機が腕部から発生させているシールドに防がれ、偶に機体に着弾しても碌にダメージを受けない新型機の堅牢さに、ルルーシュは頭を痛めていた。
「考えろ……。無敵のKMF等ありはしない。何か弱点があるはずだ」
『ゼロ、あの新型機についてなんだけれども』
「どうした、S1」
ゼロというコードネームは、ルルーシュが7年前にある戦いの最中で正体を隠すために使っていた偽名だ。S1はルルーシュがスザクに与えたコードネーム。レジスタンスと同様のコードネームとすることで、特別視している事を隠蔽し、レジスタンスとの協力関係に罅が入るのを防ぐためである。なお、マーヤはK1、C.C.はC2を割り当てている。
『あの新型機、どうにも動きがぎこちない。多分、パイロットが機体の動きに適応できていないんだ』
「何だと、それは本当か?」
『うん。だから……上手くいけばあの機体を奪えるかもしれない』
「……リスクは高いが、試す価値はあるか。どのみち、このままでは此方がチェックメイトを掛けられる。……頼めるかS1」
『勿論、やって見せる!』
『私がS1を支援する!』
「分かった。S1とK1は連携して敵新型KMFへの攻撃を開始! 残存している他の機体は敵新型KMFを迂回してブリタニア軍のG1ベースへ進行せよ!」
『『了解!』』
スザクとマーヤのサザーランドが、ランドスピナーによるローラーダッシュでランスロットへ接近を試みながらアサルトライフルで牽制する。
「ふん! イレヴンの猿は学習能力がないようだな。このランスロットを倒す事など不可能だというのに!」
親衛隊隊長はブレイズルミナスで弾幕を防ぎながら、ヴァリスの銃口を右側から接近するサザーランド──スザクの機体──に向けて発砲。
それをスザクは反対側のビル壁にスラッシュハーケンを打ち込んで跳躍する事で回避。
マーヤも同様にしてスザクとは反対側のビル壁へと跳躍し、更にビル壁を蹴りつける事でさらに加速しながら接近していく。
「なに!? 猿の分際で生意気な芸を!」
ヴァリスを回避されたことに激昂した親衛隊隊長は繰り返しヴァリスを発砲するが、ランスロットに近づいている側を優先して撃っている事を看破されて尽く躱される。
「クソがっ! 大人しく撃ち殺されていればいいものを!」
のこり100mを切ったところまで距離を詰められたころで、親衛隊隊長はランスロットの頭部ファクトスフィア周辺に、何かが浮遊している事に気が付く。
それは、淡い光を放つ鳥の羽のような物が付いた球体だった。全長は凡そ10㎝前後。ランスロットのファクトスフィアはそれを検知する事はできておらず、モニターに映像が映ったから視認できたにすぎない。
何か嫌な予感がして接近する二機のサザーランドを引き離すことも兼ねてその球体から離れようとしたその時、ランスロットの頭部正面に移動したそれは、激しい輝きを発した。
「ぐあああっ! 目、目がぁっ!?」
親衛隊隊長の視界が白く染まる。視界を失ったのはほんの数秒程度だが、その数秒間の無防備がスザクとマーヤのサザーランドの接近を許す。
左右からサザーランドがランスロットの腕部に組み付き、その動きを封じる。
「くっ! 猿どもめえええっ!!! っなぁ!?」
無様を晒したことに激昂する親衛隊隊長。しかし次の瞬間、突然コックピット上部が開き、上空から降り注ぐ太陽の光を遮る影が一つ。
反射的に見上げた視線の先には、ランスロットの腕部に組み付いたサザーランドから脱出しランスロットに跳びついたスザクが、親衛隊隊長めがけて拳を振り下ろす姿があった。
「ま、まっ! はぎゃぷっっっ!!?」
スザクに鼻っ柱を全力で殴られ、一撃で意識を失う親衛隊隊長。今日だけで二度も同じ相手に意識を奪われる事となった。
尤も、彼に三度目の機会などありえない。スザクは意識を失った親衛隊隊長をコクピットから引きずり下ろすと、そのままコックピットから数m下の道路へと叩き落としたのだ。
鈍い音を立てて動かなくなった親衛隊隊長だった肉の塊を無視してスザクは奪い取った機体のコンソールとシステムを確認する。
そして、携行していた通信機で仲間と連絡を取り始めた。
『上手く言ったわね、S1』
「うん。このKMF……ランスロットっていう名称なのか。すごい! なんでかリミッターが掛けられているから今の運動性はサザーランドと同程度だけれども、機体出力が段違いだ!」
『扱えそう?』
「うん。後付けされているリミッターを外せば……たぶんいける。ゼロ!」
『よくやった、S1。機体を解析してリミッターを解除する。S1はその機体を使ってくれ』
「わかった。お願い」
ルルーシュが操縦するサザーランドがほどなくして到着し、周囲に先ほどと同じような球体が複数個出現してランスロットに取り付く。
これはルルーシュが魔法で生み出したサーチャーだ。このサーチャーには攻撃能力こそないが、先ほどの視界を潰す発光能力の他にある能力が付与されている。
それはルルーシュが持つ卓越した処理能力でこのサーチャーが接触した魔法や機械のプログラムを解析し、それらに様々な介入を行うプログラムを作成する事で干渉するプログラム介入機能。
勿論、あまりにも情報量が多すぎるプログラムの処理には時間がかかるし、魔法的なプロテクトの強度次第では弾かれることもあるため過信はできないが、魔法的なプロテクトが施されていない機械に対しては圧倒的なアドバンテージを得る事ができる。
先ほどの戦いでランスロットのコックピットが勝手に開いたのも、この機能によってブリタニア製KMFの共通OS部分にあるコックピット部分の機能に介入して『コックピットのハッチを開け』という命令を打ち込んだからである。
サザーランドを強奪する際に一通り解析していたことが、ランスロットの奪取に繋がったのである。
ジェレミアですが、原作と同様の展開だったので描写を省略しました。ただし、純血派仕様でないサザーランドに乗り換えて再出撃しています。
ヴィレッタに関しては、タイミングの都合もあってルルーシュに強奪されていないため、まだ純血派仕様のサザーランドで戦闘中です。
○フェアリーサーチャー
ゼロ(ルルーシュ)が使用できる魔法の一つ。
直径10㎝前後の淡い光を放つ球体に、鳥の羽が一対付いたような形状の消費型端末で、通常のサーチャーとしての機能のほかに、
・ステルス機能
・発光機能
・魔法・機械のプログラム解析機能
・魔法・機械に外部から介入するプログラムを打ち込む機能
等が組み込まれている。
ただし、プログラムの解析や介入にはサーチャーが対象に接触する必要があるため、基本的に使い捨てる事となる。