コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

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幕間-世界が動く時-

 復興という再開発が進む元シンジュクゲットー、現在は新宿区の一角。ルルーシュが神聖ブリタニア帝国への反逆を決意する切欠となったシンジュク事変で、孤児たちがその幼い命を落とした孤児院跡地。マーヤはそこで弔いの花と折り鶴をお供えして鎮魂の祈りを捧げていた。

 

「……陽菜、まり、とも……。──、浅間おばさん。みんな……あの時と状況は大きく変わっちゃったけれども、日本を神聖ブリタニア帝国から取り戻すことができたよ」

 

 この地で亡くなった子供たちや職員の名前を一人ずつ口にして、マーヤは近況を報告する。

 まだまだやるべき事は沢山あって、難題も数多くある忙しい日々だ。だからこそ、今でなければ墓参りに訪れる事ができる機会がいつになるかわからない。

 自分が来た時には既にあった、お供え物をちらりと見る。誰がお供えしたかは書かれていないが、子供たちが好きだった食べ物や、自分よりも綺麗に折られている折り鶴などからルルーシュとナナリーがお忍びで墓参りにきてくれていたのだろう。

 本当はユフィも弔いに行きたかったと話していた。しかし、合衆国ブリタニアの代表という立場になった彼女が訪れてしまうと、望む望まざるにかかわらずこの場所は政治的な意味を持ってしまう。黒の騎士団に協力しているディートハルトという記者は、合衆国日本と合衆国ブリタニアの結びつきを深め、更に神聖ブリタニア帝国に対する国民の戦意高揚を図るためにも大々的に行うべきという提案をしたらしいが、騒がしくせずに安らかに眠らせてやってほしいというルルーシュの意向で却下されたことは記憶に新しい。

 

「次は神聖ブリタニア帝国との戦いに決着をつけてルルーシュやナナリー……皆と一緒に来るから。だから少しの間、待っててね」

 

 鎮魂の祈りを捧げ終えたマーヤは、約束を交わす。亡くなった孤児たちと、そして未来の自分との約束を。

 決意を新たにしたマーヤはその場を後にして、新宿区を歩き出す。復興は始まったばかりで、これまでの傷跡はいまだ多く残っている。それでも、時を経るにつれてこれらの傷跡は覆いかぶさって見えなくなっていくのだろう。悲劇の痕跡を遺し続けるべきだとは言わない。それでも少しばかりの寂しさは感じてしまう。

 すると、マーヤの向かう先に1台の車が止まった。クラリスさんの車だ。

 

「クラリスさん?」

「マーヤ、やっぱり此処にいたのね。その……乗っていく?」

「うん」

 

 一言、二言の短い言葉を交わし、マーヤはクラリスの好意に甘える形で車に乗り込む。

 

「……」

「……ねぇ」

 

 走る車内で、しばしの沈黙の後にクラリスはマーヤに向けて口を開いた。

 

「マーヤ、ルーベン理事長から話は聞いたわ。貴方がアッシュフォード学園を休学するという話」

「うん、本当は黒の騎士団の活動に専念するために、そして今まで騙してきていたことのけじめとして自主退学するつもりだったけれども、生徒会のみんなと理事長に止められて」

「当り前よ。黒の騎士団に入ったことは貴方の選択だから尊重するわ。でも、貴方自身の未来の選択肢を狭めてほしくないの。亡くなった先輩──あなたのご両親も、きっとそう思うはず」

「クラリスさん……ありがとう。心配してくれて」

「だから……必ず生きて戻って来てね。マーヤはあの人たちの娘なのだから」

「うん、約束する」

 

 以前であれば、互いに感情的になって言い争いになっていたかもしれない。そう考えると、互いに少し歩み寄れたんだなとマーヤは実感する。

 そうしている内に、新宿区を出て元は租界であった隣の区の大通りにたどり着いたマーヤ達の目に映ったのは、設置されている大型街頭ヴィジョンの画面に【緊急生放送!】という表示とのテロップで、ペンドラゴン宮で行われている最中の神聖ブリタニア帝国皇帝の演説の様子であった。

 

「クラリスさん!車を止めて!」

「マーヤ?わかったわ」

 

マーヤの頼みでクラリスが慌てて車を止めると、マーヤは車から降りて演説の様子を映し出した大型街頭ヴィジョンを睨みつける様に注視し始めた。

 

 

 ____________________

 

 

 神聖ブリタニア帝国、中華連邦と並ぶ列強国とされているユーロピア共和国連合。民主主義国家を標榜するユーロピアを統治する四十人委員会*1は、全世界に生中継されている神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの演説を聞いて、混乱に陥っていた。

 

「これはどういう事だ! 事前の想定と違うではないか!」

「落ち着くのだ、○○議員。これはブリタニアの卑劣な盤外戦術に違いない。浮足立っては奴らの術中に嵌ってしまうぞ」

「奴らの目的は虚言によって我が国を惑わし、足並みを乱れさせることに決まっている」

 

 声を荒げる議員を別の議員が窘め、更に別の議員がそれを肯定しながら、用意された紅茶を優雅に一口含む。

 

「しかしね、△△△議員……私達としては、ユーロピア市民の安全を守る立場にいるのだから……。でなければ私は次の選挙で落選してしまう」

「そうだ! ()()()1()1()の反乱と陥落という失策を覆い隠すために、ブリタニアは我が国に攻め入ろうとしているのだぞ! 例えポーズだけだったとしても、何も対策を講じないのでは次の選挙が危うくなる!」

 

 四十人委員会が大騒ぎになっている原因は、神聖ブリタニア帝国皇帝が演説の中で宣言した、ブリタニア本国の軍によるユーロピアへの遠征だ。

 シャルルによる演説は、新たなラウンズの任命から始まった。

 ミセス・グリントと呼ばれ新たに任命されたラウンズは、目元を仮面で隠しウェーブがかった長い黒髪の女性。参列していたブリタニア皇族の多くが任命された女性の声を聴くと恐れ戦いていた事を考えると、ブリタニア国内では恐れられている女傑なのだろう。

 問題は、その後である。エリア11で起こった黒の騎士団による反乱。それに現地総督及び副総督の皇族が関与し本国に反旗を翻した事。何より黒の騎士団の首魁であるゼロが死んだと思われていた皇族ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである事。ここまではすでに報道されている内容であり四十人委員会も把握している。だからこそ、合衆国日本を正規の独立国ではなくブリタニア国内の内戦であると見做し、当面の間ブリタニアはエリア11への対処に手を取られると判断したからこそ、四十人委員会も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に静観する方針だった。

 だからこそ、そのような楽観論が大勢だった四十人委員会の耳に届いた、ユーロピア遠征の宣言は寝耳に水であったのだ。

 ブリタニア軍がどの程度の規模を、どのタイミングで遠征させるのかは明かされていないが、ユーロピア市民も視聴しているこの宣言への対応を誤れば、次の選挙で勝てなくなる恐れがある。

 

「連合軍の展開と維持にも安くない税金が投入される事になる。市民が納得してくれるかどうか……」

「ならば首都の防衛戦力増強を優先するべきだ! ユーロブリタニアと挟み撃ちになる可能性があるのだぞ! ユーロピアの首都が落とされてしまったら、民主主義はおしまいだ!」

「しかし其方に目を向けすぎて、サクラダイト鉱脈があるアフリカ圏の領土を奪われてしまったら、税金を上げなくてはならなくなるぞ! そうなったら市民の反発は必至だ!」

 

 会議は踊る、されど進まず。口先だけで各々の利益の事しか考えない、議論の体を成してない喧々囂々の騒ぎの中、直近の選挙で当選した一人の若手議員が発言する。

 

「連合軍で最も税金がかかっている費用は、人件費です。大勢の人を動かすというのは、それだけで莫大な金を消費しますからね。まずはその問題を解決しましょう」

「しかしどうやって? 軍人への給料を減らしては、不満が高まってしまうぞ」

「ええ、ですから……新たに無人兵器を開発・導入するのですよ。新機軸の有機コンピューターの開発によって、パンツァー・フンメルを含めた機動兵器に搭乗するパイロットの教育を含めた人件費を大幅に圧縮可能です」

「しかし、性能の方はどうなのかね?」

「そこも心配ございません。すでに実戦を想定したテストでは、同一機体に搭乗したパイロットと遜色ない性能を発揮できております。量産の暁には、ユーロブリタニアは勿論、ブリタニアも中華連邦も、我々の軍門に下る事となるでしょう。そう、民主主義による『革命』が再び産声を上げるのです!」

 

 自身に満ち溢れた若手委員の言葉に、四十人委員会の議員達はユーロピアのさらなる繁栄を想起し気分が高揚する。

 

「ですので、新機軸有機コンピューターの量産を円滑に進めるための法案及び予算審議への便宜をお願いしたい所存です。ユーロピア市民が危険にさらされるリスクを低減し、膨れ上がっている人件費を圧縮し、連合軍の軍備の増強にも繋がる。素晴らしい提案だと自負しております」

 

 

 ____________________

 

 

 シャルル皇帝の演説がユーロピアの四十人委員会を混乱に陥れたように、神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴンの地にて、現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの皇居であるペンドラゴン宮に召集されていた皇族たちの多くにも驚きの表情があった。

 演説が終わり、新たにナイトオブツーに任命されたミセス・グリントと呼ばれた女性──信じられない事だがその声はあのマリアンヌ皇后そのもの──が皇帝陛下と共に壇上を離れてしばしの時が流れるまで、その場にいたものの張り詰めた緊張は解けずにいた。

 やがて、報道陣も撤収したのを確認した皇位継承権の低い若い皇族の一人が口を開く。

 

「エリア11がテロリストの手に堕ちて以降、他の矯正エリアでも反乱が活発化している兆候があると聞く」

「それは大変だ。より一層取り締まりを強化して反乱分子の芽を詰まねば。E.U.への対応が強硬策となる以上、中華連邦への対応はどうなるだろうか?」

「確かなことは言えないが、中華連邦への対応は懐柔策となるやもしれん。あそこを攻めるには、エリア11の立地が邪魔過ぎる」

「E.U.への対応は今までは主にユーロ・ブリタニアに任せていたが、現地制圧の歩みが遅い。だからこそ本国も本格的に関与する必要があると陛下も判断したのだろう」

 

 話題の多くは、演説でも触れたエリア11及び、ユーロピアに対する物が多い。新たに任命されたラウンズの話題がほとんど無いのは、意識的にしろ無意識の内にしろ避けているのだろう……。

 

「それにしても、よもやユーフェミアだけでなくコーネリア姉上までテロリストに与しようとは……」

「ユーフェミアの方は甘すぎる程に優しい子だったから、絆されてしまったのかもしれません。だが、かのブリタニアの魔女と恐れられてきたコーネリアお姉様まで……」

「それに、皇族への忠誠篤いかのジェレミア・ゴットバルト辺境伯まであちら側に付くとは」

「何より、死んだはずのルルーシュがナナリー共々生きていて、しかもテロリストの首魁であった事が問題だ」

 

 離反したコーネリアとユーフェミア、そして死亡していたと思われていたルルーシュとナナリーの話題に触れる事にもなる。

 

「それにしても驚いたねぇ。ルルーシュ達だけじゃなくて、マリアンヌ皇后も生きていただなんて。ルルーシュとナナリーも、お母さんが生きていた事を喜んで態度を軟化してくれると嬉しいのだけれど」

「そうですね、オデュッセウス兄上。ですが皇帝陛下に反旗を翻した以上、昔のように一緒にというのは難しいでしょう」

「そうなんだよねぇ」

 

 神聖ブリタニア帝国第1皇子にして、皇位継承権第1位であるオデュッセウス。そして第2皇子にして、帝国宰相の地位に就くシュナイゼルに、他の皇族たちの視線が集まる。一部の皇族からは、マリアンヌの名前を口にしたオデュッセウスに驚きの視線を向ける者もいる。

 

「オデュッセウス兄上、シュナイゼル兄上。此度の招集で陛下からどのような演説をなされるのか、お二人はご存じだったのでしょうか?」

 

 皇位継承権が低い、若い皇族の少年が、二人に尋ねる。

 

「いやぁ、私も寝耳に水だったよ」

「私は一応、新たなラウンズが任命される事は把握していたよ」

「そうでしたか……それにしても、陛下はどのような深い考えがあってエリア11奪還よりもE.U.への派遣を優先したのか。未だ未熟な私ではその真意を理解することができずもどかしい気持ちです。それに……」

 

 本音を言えば、暗殺されたはずのマリアンヌ皇后が生きていた上に、ラウンズとして抜擢される事に不安を抱えている。神聖ブリタニア帝国に仇名す逆賊ルルーシュの母という立場もそうだが、あの破天荒が擬人化したような自由奔放な性格かつ庶民出身の彼女を、皇帝直属の精鋭部隊であるラウンズという誉れある地位に再び就かせて良いのかという反発心が根底にあった。

 

「……皇帝陛下の人事に不服かい?」

「い、いえっ! そのような事は!」

「ミセス・グリントの実力を疑問視するならば、血の紋章事件の記録を詳細まで閲覧すると良い」

「血の紋章事件……」

 

 血の紋章事件は、現皇帝であるシャルル・ジ・ブリタニアが皇帝に即位した際に勃発した、当時のラウンズの多くが反旗を翻した内乱である。結果として少数派だったシャルル一派が勝利した事で、大粛清の末に内乱に呼応した殆どラウンズだけでなくその直属の手勢や組織、ラウンズ候補といった人員が一掃されて組織の弱体化を招いたとされている。シャルル一派に付いたラウンズは、当時ナイトオブファイブであった現ナイトオブワンのビスマルク・ヴァルトシュタイン郷とナイトオブシックスであったマリアンヌ・ランペルージの二名のみとされているが、それほど激しい戦いだったのだろうか?

 

「今の彼女は当時よりも強いと、私が太鼓判を押しておくよ」

 

 シュナイゼルの言葉に、当時を知る一部の皇后が過呼吸を起こす様子を見た若い皇族の少年は、息を呑んだ。そして、のちに血の紋章事件にまつわる情報が記載されたアーカイブを閲覧した彼は、自分の不安がいかに無知ゆえの浅慮であったことを思い知るのであった。

 

*1
現在の委員数は二百人を超える




「アイエェェ~ッ!!?マリアンヌ!マリアンヌなんで!!?オバケ!アババアァーッ!!!」

MRS(マリアンヌ・リアリティ・ショック)を受けた多くの皇后と皇族は、しめやかに失禁失神!
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