ナルヴァ帰還祝賀パーティをほどほどの所で抜け出し、日付が変わる前にマーヤはクラリスと共にセーヌ川沿いの駐車場に停めていたトレーラーに戻っていた。着用していたドレスを脱ぎ、黒の騎士団の制服に着替えたマーヤはカレン及び卜部と合流すると、定期報告を早速開始する。
今回の定期報告は、
・ルルーシュやコーネリアそして神楽耶が主体となった対中華連邦組
・藤堂やダールトンそして桐原やユーフェミアが主体となっている超合衆国防衛組
・マーヤが主体となった対E.U.組
が、映像通信を用いたリアルタイムで行う事になっている。魔導技術も導入した映像通信は、従来の技術よりも高い秘匿性を有しているため、外部から盗聴されるリスクは低い。フェイトと合流したC.C.とマオは、遅れて参加予定だ。
ルルーシュ達からは、神聖ブリタニア帝国が中華連邦を懐柔するために、交渉役としてオデュッセウスとシュナイゼルそして彼等の護衛として数名のラウンズを筆頭とした使節団が既に来訪している事。そして彼等と大宦官側が交渉の席に指定した朱禁城で遭遇した事が報告された。
大宦官の思惑としては、超合衆国と神聖ブリタニア帝国間の緊張状態の度合いを確認・刺激しつつ、相対的に中華連邦の……正確には自分たち大宦官の価値を高め、より高い価値を見出した陣営に自分達を売り込む算段だろう。大宦官に誤算があるとしたら、オデュッセウスがルルーシュに対して怒りを見せる様子がなく、疎遠になった家族を心配するような素振りすら見せるというブリタニア皇族らしくない対応を見せたことで、一触即発の空気が霧散した事だ。
『オデュッセウス兄上は軍事・政治共に凡庸だが、シュナイゼル兄上とは別の意味で、敵に回したくない相手だと再認識したよ。知っているか? 超合衆国で採用されている社会復帰のための更生プログラム、あれはオデュッセウス兄上が組んだものが雛形になっているんだ。あの人の才能は、社会福祉に特化している』
『オデュッセウスお兄様は生まれた国と時代が違えば、補佐する人次第で稀代の仁君として名を馳せたと思います』
ルルーシュとユーフェミアが、オデュッセウスの人柄を端的に言葉にする。神聖ブリタニア帝国という弱肉強食の差別主義国家、其れも権力闘争が絶えない皇族において、皇族の誰からも嫌われずに慕われているというのは、稀有な才能と言えるだろう。
一方の藤堂達合衆国連合防衛組からは、国土防衛のためのインフラ整備の他、神聖ブリタニア帝国の新型量産機のロールアウトを見据えてのラクシャータと特派によるKMFの研究・発展及びKMFの技術を既存兵器に転用・強化する計画の進捗などが報告される。
月下及びサザーランドのコンポーネントをベースとした新型量産機、【暁】と【サザーランドⅡ】の開発及び量産体制の整備は順調な一方で、KMF用フロートユニットの開発は、エナジー消費の効率化に若干手間取っているようだ。
そして、マーヤが挙げた報告内容の主題は、
・E.U.の首都ともいえるパリの実情
・道中で襲撃してきた”日本革命軍”を自称する、かつての日本解放戦線から離脱した構成員を含む野盗集団
・遭遇したE.U.の特殊部隊と思しき『wZERO部隊』のKMFとパイロット
についてだ。日本革命軍を名乗る野盗集団の話が出た時には、藤堂が顔を覆う一幕もあったが詳細は割愛する。
「~。以上の事から、E.U.は全体としての危機感は未だに希薄です。KMFのアップデート及び無人機の導入が進んだ事で、自分達の血を流して戦争をしているという意識はさらに薄れる危険性もあります」
『無人機か。パイロットとKMFの質が共に劣るE.U.においては、物量で補うために神聖ブリタニア帝国に対抗する手段としては有効ではある。新宿における嚮団との戦いでも、無人機は対策できるまでは猛威を振るったのも事実だ』
『しかしそれも無人機を統率する指揮官が有能であってこその脅威だ。そこを疎かにしてただ並べるだけでは、戦争には勝てんぞ』
『何より、意志を持たぬ木偶人形ではラウンズを筆頭とした神聖ブリタニア帝国の特記戦力相手には対処できん。ユーロ・ブリタニアの様に無人機は支援に徹させるべきだというのに、嘆かわしいばかりだ』
普段と異なり丁寧な言葉で説明するマーヤ。今回の報告は音声記録として保存されるため、ため口は色々と拙いからだ。
藤堂が無人機が持つ有用性の一面には理解を示す一方で、ダールトンは藤堂が言い出しにくかったE.U.側が抱えている問題に起因する無人機の欠点を指摘した。コーネリアに至っては無人機の安易な運用に一刀両断だ。これは自ら命をかけて戦う事を一種の美徳とする騎士としての考えも少なからず影響しているが、E.U.の戦術運用が拙い事に対する苛立ちも含まれていた。
『E.U.はその成り立ちから、王政・貴族性に対する反発と民主主義の思想が根強い。それぞれが自由を勝ち取るために協力し合い切磋琢磨する方向に向かっているならば良かったが……残念ながら今のE.U.は事なかれ主義と
ルルーシュの言葉からは、E.U.に対する失望感が感じ取れた。ルルーシュが目指している世界は、弱者が不当に虐げられる事がなく手を取りあって前に進んでいける世界だ。神聖ブリタニア帝国は知っての通り弱肉強食の差別主義。中華連邦も大宦官による民の搾取が横行しており、民主主義を標榜するE.U.がこの体たらくであることを改めて突き付けられた形だ。
「でも、悪い話ばかりではありません。例えば報告に挙げたwZERO部隊の様に、ユーロ・ブリタニアとの戦争に一石を投じようとする動きもあります」
『確か、E.U.が新型機のロールアウトを公表したニュースでは取り上げられていなかったKMFとそのパイロットだったな』
「はい。卜部さんの話ではそのKMFは変形機構を有しているそうで、運動性・機動性においては月下を凌駕、場合によっては第七世代KMFにも比肩すると推測しています」
卜部の月下の映像記録から吸い出した、wZERO部隊が運用している新型KMFに関する推定データと映像を見せる。それは既存のKMFが想定している挙動から逸脱した、まるで生きた昆虫が縦横無尽に跳ね回るような動きで翻弄し、日本革命軍のグラスゴーのコックピットを的確に破壊する様子は、短い時間でありながら見る者に少なからず衝撃を与えた。
『この動きは……まるでKMFそのものが生きているような動きだ』
『スザク君のランスロットの立体挙動とはまた異なる、生物的な動きだな』
『ギルフォード。仮にお前が同じ機体を与えられたとして、此れと同じ動きをするのにどれほどの習熟が必要になると考える』
ダールトンと藤堂がE.U.製新型KMFの有機的な挙動に驚く中、コーネリアはある種の確信を持って自らの騎士であるギルフォードに尋ねる。
『姫様、申し訳ありませんが、
『やはりな。そうなると、パイロットかあるいは操縦システムに相応の改造が施されているとみていいだろう』
ギルフォードの返答に、コーネリアは確信を深める。E.U.が新型KMFとして公表していないことも含めて、公表できない何かしらのシステムによるものだろうと。
『この新型KMFの秘密に関しては、後ほどラクシャータと特派にも映像を見せて推測してもらうとしよう。マーヤ、wZERO部隊の指揮官について私見を聞かせてほしい』
「はい。wZERO部隊の指揮官はレイラ・マルカル中佐。E.U.の未来を真剣に憂い、軍人として何ができるか、何をするべきかを考え実行できる人物です。その半面、社交界に対する意識がやや薄い部分があり、政治的な工作は不得手だと推測できます」
レイラの過去に関しては、説明を後回しにする。先に説明して彼女に関して色眼鏡を掛けられるべきではないとの判断だ。
『この若さで階級が中佐というのは、相当な才女だな。マーヤから見て、彼女は協力するに値する人物と判断できるか?』
「はい。これまで出会ったE.U.の政府・軍部関係者の中では、最も現状の危機的状況を理解している人物です。それに、日本人に対する差別感情もありません」
『なるほど。だからこそ部下に日本人……日向アキト中尉を躊躇することなく起用しているわけか。続いて彼についてだが……おっと』
続けて新型KMFのパイロットについて尋ねようとしたとき、新たにログインしたものがいる通知音が鳴る。
『待たせたな』
『C.C.か。フェイト執務官はどうした?』
『問題なく合流できた。フェイトは今、時空管理局への報告書を急ピッチで作成している所だ。よって、私とマオが代わりに参加する』
『わかった。それで、C.C.の方から報告する内容は他にあるか?』
『ああ、あるぞ。合流前にフェイトが保護した少女についてだ。彼女は嚮団に拉致されギアスを与えられた上で実験を強要されていた』
C.C.からの簡潔な報告に、画面越しに一同が眉を寄せる。V.V.の手がE.U.にも及んでいると考えたからだ。尤も、その考えはそのすぐ後のC.C.の行動によってすぐに覆されるわけだが。
『そういう訳だ。彼女の今後のために、この場で顔合わせをしてもらうぞ。色々とな……』
この時点では、ルルーシュもコーネリアも、桐原もC.C.の勝手な行動に眉を潜めつつも、嚮団に関する情報が何かわかるかもしれないと怒るのは後回しにしていた。その結果、
『な……っ! ライ、ラ……!?』
『ライラ、なぜお前がそこにいる』
『コーネリアお姉さま、ゼロ……いえ、ルルーシュお兄様。お久しぶりです』
ルルーシュとコーネリアは、
____________________
画面越しに集った一同の空気が固まる。
ライラ・ラ・ブリタニア。ルルーシュとコーネリアと同じ神聖ブリタニア帝国の皇族であり、エリア13で公務中に事故死したと言われていた皇女。そして、コーネリアの前に当時はエリア11だった日本を治めていた
「彼女が、クロヴィスの妹……」
『よもや、このような形で顔を合わせる事となるとはのぉ』
マーヤも思わず敬語が抜ける。桐原公にとっても予想外のサプライズだ。
「最初はライブラと名乗っていたが、マオが気付いてな。V.V.の一件も含めて、早いうちに伝えた方が良いと判断した」
だからと言ってこんなサプライズの形でいきなり伝えないで欲しい。この場の一同はそんな気持ちでC.C.をジト目で見ていた。ライラ本人もジト目だ。
『C.C.さんがご迷惑をおかけしました』
『お前も大変だったのだな、ライラ。お前が生きていると知ったら、ナナリーとユフィも喜ぶ』
『日本人はクロヴィスの件があるから複雑な感情があるだろうが、詳細を暈してカルト教団の実験体にされていた事を公表すれば、同情心を煽る形にはなるが敵意は向けられにくくなるだろう』
ルルーシュとコーネリアは、ライラの生存に驚いてこそいたが同時に喜んでもいる。特にルルーシュにとっては、皇族時代にナナリーと仲が良かったことと、クロヴィスの一件という負い目もある。
『ルルーシュお兄様、聞きたいことがあります』
『……なんだ』
『ルルーシュお兄様が、クロヴィスお兄様を殺したと言いう話は、真実でしょうか?』
『ああ、俺が殺した。ライラ、俺が憎いか?』
『……憎くないと言えば嘘になります。ですが、お兄様が命を落とす切っ掛けになった出来事は、お兄様自身の行動であり過ちです。お兄様が嚮団に目を付けられなければ、或いはあのような事を行わなかったかもしれないと考えると、ルルーシュお兄様を恨むのは筋違いだと……』
『ライラ……君の本心を言ってくれ』
ライラが無理をして、自身が抱く恨み憎しみに蓋をしようとしているのを見て、ルルーシュはいてもたってもいられなくなっていた。余計な火種になる事は分かっていたのに、ライラの本心に蓋をさせてはならないと思った。
『……うぅ、どうして。どうしてルルーシュお兄様がクロヴィスお兄様を殺さなければならなかったのですか!? 半分とはいえ血を分けた家族なのに! クロヴィスお兄様は、お兄様は……』
ライラが蓋をしていた感情が溢れ、涙を流しながら慟哭する。理屈は理解しているのだ。ルルーシュにとって神聖ブリタニア帝国は敵で、
それでもライラは、そうなる前に和解できた可能性があったのではないかと、もしもの可能性を考えてしまう。それだけ肉親への情が深い少女なのだ。例えその可能性を踏みにじったのが、他ならぬクロヴィスの側だとしてもだ。
『ライラ……』
コーネリアは何も言えない。自分の場合、ユフィが殺害されたとしたらば悲しみに暮れながら即座に下手人を一族郎党だけでなく周囲ごと滅ぼす報復に走るであろうことは容易に想像できるからだ。そう考えると、ライラが優しい子でよかったと思う。
一方のマーヤにとって、クロヴィスは陽菜達の死の原因を生んだ相手だ。それでも、たとえ皇族であっても陽菜達より少し年上なくらいの少女がこうして泣き腫らしている様子は胸を締め付ける。日本独立のために必要な一歩だったし、間違っていないとは思っていても、罪悪感を感じるかどうかとは別問題だ。だからこそ、内心は複雑だ。
ある意味、この場にいる者たちが理性的だったのは幸いだったと言えるだろう。ここに感情的な人物或いは神聖ブリタニア帝国への嫌悪を隠さない人物がいたならば、激しい口論の応酬に発展していたかもしれない。
『ライラ、此れからお前はどうしたい? 神聖ブリタニア帝国との戦いが終わった後ならば、他の者たちに危害を加えずに俺個人に復讐を行うならば、俺はそれを否定しない』
「ルルーシュ!?」
『何を言っているのだ』
『勿論、俺は抵抗するだろう。しかし、ライラには俺に復讐する権利がある。その権利を一方的に取り上げる事は、俺はしたくない』
ライラの慟哭が終わった頃合いを見計らって、ルルーシュは問いかける。もちろん、周囲はそれに驚き翻す様に促していく。
『……ふざけないでください。そんなことしたら、クロヴィスお兄様の死が只の復讐の連鎖の始まりになってしまいます。そんなこと、私は許せない』
『ならば、お前はどうする』
『
『わかった。ゼロの名において、約束しよう。弱者が不当に虐げられることのない、優しい世界を作りあげてみせると』
ライラの想いに応えるため、ルルーシュはゼロとして約束する。周囲は最悪の事態を避ける事ができて、安堵した。
____________________
『C.C.殿はライラ嬢が嚮団でギアスを用いた実験をさせられていたと言っておったが、E.U.でどのような実験が行われていたのか、証言してもらえんかの?』
ライラと
『それが……E.U.の遺跡で実験を行っていたのではありません。
ライラは左目のカラーコンタクトを外し、左目に浮かんだままのギアスの紋様を見せる。暴走しギアスを引っ込める事が出来なくなったその瞳は赤く輝いている。
『そうだったのか。その人たちは今どこに?』
『それが、犯罪シンジゲートによる報復にあって、私達を逃がすために応戦して……。その目で最期を見たわけではありませんが、犯罪シンジゲートは
『そうか、すまない事を聞いた』
ライラが口ごもる様子を見て、生存を信じたいけれども難しいだろうと理論的に考えてしまう。この話を続けても、彼女の心の傷を刺激してしまうだけだと判断して、話題を嚮団絡みの内容に戻す。
『ライラ、嚮団の拠点の場所について、なにか思い当たる情報は持っていないか?』
『そういえば、【ジャオ様】と呼ばれた身なりの良い太った中華系の男の人が嚮団を訪れたことがあったのを覚えています。嚮団に便宜を図る代わりに、何かの場所を探させている様子でした』
『……ライラ嬢。ひょっとしてそのジャオという太った男というのはこんな男ではなかったかの?』
桐原公が、画面越しにライラに一人の男の写真データを見せる。それは三蔵法師の様な服装をした、顔に赤い入れ墨をした太った男だ。
『はい! この人です!』
『桐原公、確かこの男は……』
『うむ。中華連邦の大宦官の一人、
嚮団と大宦官の繋がりが明らかになったが、自己保身に長けている大宦官がリスクを冒してでも見つけ出そうとしている何かが中華連邦内にあるという事実は、大宦官に対する警戒度を一層高める。
『嚮団絡みとなると、やはりギアスの遺跡か?』
『いえ、其れならば嚮団が既に遺跡を保有している以上は探す様に催促する必要はない。そうなると、もっと別の何かの可能性もあり得る。例えばだが、ギアスとは別口のアルハザードにまつわる遺跡とかな』
推測するにしても、確度を高めるための情報が未だに足りていない現状では推論の域を出ない。かといって、E.U.や中華連邦の領内で勝手に遺跡の探索や調査を行う訳にもいかない。せめて相手から正式に許可を取る必要がある。そういう意味では、合衆国国内の遺跡はそういった制約なく調査できるのは幸いだ。
『どちらにしろ、中華連邦とE.U.の動向にも注視して対応するべきであることには変わりないわけだ。マーヤ達はユーロ・ブリタニアの動向にも注意を払ってくれ』
「分かりました」
『それでは、この辺りで今回の定期報告を終了する』
ルルーシュが今回の定期報告終了の音頭を取り、映像通信が途切れる。
「っふぅ、考える事がどんどん増えていくなぁ。まずはC.C.達と合流して、皆にライラの紹介もしないと。それに──」
マーヤは目頭を指で押さえ解しながら、これからの事を考えていく。
E.U.との共同戦線を含めた、対神聖ブリタニア帝国包囲網の構築。合衆国日本の国宝である天叢雲剣の回収。ライラの事もあるし、できる事ならばE.U.圏のアルハザードの遺跡に関する情報も集めておきたい。
定期報告の中では主題ではなかったが、C.C.の話によるとE.U.圏は現在、様々な次元犯罪組織が現地の犯罪シンジゲートと絡み合う様に結びつき、裏社会は群雄割拠の時代を迎えているそうだ。
フェイトさんがE.U.に来てから私たちと合流前に潰した次元犯罪組織及び犯罪シンジゲートは既に4つ。中にはギアス擬きを使う者もいたようで、管理局の方も大忙しらしい。
ああ、やるべき事の多さに対してどこもかしこも人手が足りない。マーヤは世界の不条理の一端を、改めて体感するのであった。
リョウ達は生存して原作通りwZERO部隊に組み込まれましたが、ライラ視点ではその事を知る由もないので彼らは死んでしまったと落ち込んでいます。
>>やるべき事の多さに対して人手が足りない
某ブリタニア帝国宰相「わかる」