コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

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反抗作戦-ワルシャワ東部戦線

 皇歴2017年6月。ユーロ・ブリタニアに制圧されたE.U.の領土を奪還するための大規模反抗作戦がワルシャワ東部前線が主体となって実行に移された。

 主要な攻略対象は黒の騎士団から救援部隊として派遣された戦力が投入されるベラルーシの都市フロドナ、本作戦のE.U.軍側の陸上艦隊が中核となって多くの無人機が投入されるヴァウカヴィスク近郊にあるユーロ・ブリタニア軍の軍事基地、そして作戦開始に先んじてwZERO部隊による奇襲支援が行われているスロニムの三都市。

 その中で、ヴァウカヴィスク市街地近郊では既にユーロ・ブリタニアのKMF部隊との戦端が既に開かれており、E.U.軍側は多数の最新鋭無人KMFを投入し、ユーロ・ブリタニア軍のKMFと攻防を繰り広げていた。

 ユーロ・ブリタニア軍のパイロットが搭乗するKMFサザーランドが、対KMF用バズーカを構えて市街地の家屋から身を乗り出し、E.U.軍の最新鋭量産機であるパンツァー・マルダーに向けて砲撃する。本格的に市街地に入り込まれる前に、扱いにくい重武装な装備を使い切りながら敵砲撃戦力を削るためだ。

 放たれた弾頭は、狙われたパンツァー・マルダーを守るようにキュクロプスが盾となって直撃。しかしキュクロプスは進軍を止めず、装甲の一部が剥離したまま2機のパンツァー・マルダーの砲撃支援を受けながらアサルトライフルで反撃を行う。

 

「くそっ! あのユーロピアの新型機(サザーランド擬き)、動きはサザーランドより遅いが堅い! ぐあぁッ!!?」

 

 サザーランドのパイロットはそう愚痴をこぼし、砲撃をやり過ごすために既に住人の避難を済ませた市街地の家屋を盾にするように身を潜める。しかしパンツァー・マルダーは意にも解せず肩のキャノン砲と両腕で保持するアサルトライフルを掃射し、家屋ごと破壊して仕留める。

 サザーランドを仕留めたのを確認したキュクロプスは、そのままユーロ・ブリタニア軍のKMFに随伴していた装甲車両にアサルトライフルの照準を向けて銃撃し炎上させる。そして、次のエネミーを索敵しながら道中の歩兵を引き潰していく。

 E.U.軍は領土奪還のお題目で戦端を開いたが、現場の無人機にとってはエネミーと定義された相手の排除こそが至上命題だ。そこに躊躇いという()()などない。

 キュクロプスのファクトスフィアが、新たにユーロ・ブリタニア軍の車両を発見する。その車両は逃げ遅れていた現地住人を多数乗せており、避難させるために戦線から離れようとしていたのだ。

 キュクロプスにユーロピアの兵士が乗っていたならば、少なくとも攻撃を躊躇するなり優先度を下げて他のKMFを優先していただろう。しかし……無人機であるキュクロプスは、アサルトライフルの引き金を引いた。そこに良心の呵責もなどなく、30mm口径弾頭の雨が避難民を乗せた装甲車両に降り注ぎ、血煙をあげて炎上する。

 その様子はまるで、神聖ブリタニア帝国が侵略する時の様子を彷彿とさせていた。

 一方、ヴァウカヴィスク方面の旗艦であるE.U.軍陸上巨大戦艦ベヒーモス──同型艦であるリヴァイアサンと比較してKMFの運用のために改修されたこの戦艦において、パリにいるコンスタンティン議員は、ベヒーモスのディスプレイに映し出される戦況報告を画面越しに受けながら、無人KMFが齎す戦果に満足げに頷いていた。

 

『素晴らしい! このまま戦線を押しあげてユーロ・ブリタニアの連中を追い出すのだ!』

「了解。ご命令があればすぐにでも、ティフォンの投入も可能ですが……如何しますか?」

『ダメ押しに投入しろ。()()に気を取られて奴らの基地が手薄になっているうちにな。あぁ……奴らが恐怖に震える様子が思い浮かぶ』

「了解です。ティフォンを出撃させろ!」

 

 ____________________

 

 

 ヴァウカヴィスク近郊に建造されているユーロ・ブリタニア軍の前線基地に、警報が鳴り響く。E.U.軍側による都市攻撃に対し、基地内の駐留戦力が動員されて手薄になっている所に奇襲を仕掛けてくることは予想されていた。

 

「ユーロピア軍のKMFシグナルの接近を確認! 数はキュクロプス(サザーランド擬き)が8機! ……待ってください! 敵部隊の後方より大型の熱源反応が1機来ます!」

 

 基地の防衛部隊が展開している観測機越しに目にしたのは、こちら側のKMF部隊を見下ろす様に()()しながら接近する巨大な兵器であった。人型であるKMFから逸脱した、カブトガニのような甲殻類を思わせる黒いボディに腕部と逆関節の二脚が生え、ボディからはみ出るほどに長大な二連装の砲塔が二門背負ったようなフォルム。KMFの5倍を優に超える巨体は、明らかに対要塞規模の攻城兵器だ。

 こちら側の攻撃有効射程範囲の遥か先で、巨大兵器がキュクロプス(サザーランド擬き)を侍らせるようにしながら着陸する。

 

「ヴォプロス隊はサールイス隊と共に敵巨大兵器の破壊に回れ! あれを基地に近づけるな!」

「イエス! マイロード!」

 

 基地の司令官がKMF部隊に迎撃を指示する。指示を受けて速やかに基地から出撃するユーロ・ブリタニアのKMF部隊。数はグロースター・ソードマンが2機のサザーランドが8機。合計10機のKMFが、ランダム軌道でE.U.が投入した巨大兵器を破壊するために突貫する。

 しかし、彼等の勇敢な進撃が届く前に、巨大兵器が背負う様にマウントしている二門の二連装砲がバチバチと赤黒い放電を始めたかと思うと、其れは膨大なエネルギーの奔流となって接近するユーロ・ブリタニアの部隊の7割を消し飛ばし、そのまま前線基地を二本の線で裁断する様に薙ぎ払った。

 

「司令部! 応答を! 司令部! 司令部!?」

 

 ヴォプロス卿配下の騎士バントリウス卿は、突然の事態にパニックに陥りながら基地司令部に被害状況の確認を行う。しかし、基地司令部からの応答はない。

 

「バントリウス卿! 貴殿はG1陸戦艇まで撤退し、状況を報告してくれ! ヴァウカヴィスクの前線基地が、ユーロピアの巨大兵器によって壊滅した事を伝えるんだ! その間、私とサールイス卿であれの進軍をわずかにでも食い止める」

「単騎での過酷な任務を強いる事になるが、どうか赦してほしい」

「……イエス、マイロード」

 

 先ほどの赤黒い破壊の奔流に呑み込まれなかった二人の部隊長は、部下に撤退命令を告げる。バントリウス卿のサザーランドが走り出したのを確認し、二人は愛機であるグロースター・ソードマンのコックピット内で自らの死の運命を悟りながら、それでも貴族としての矜持と責任を胸にヒートソードを抜剣して巨大兵器に立ち向かう。

 巨大兵器は撤退するサザーランドを無視して基地へと進軍すると共に、上面から発射した多数のミサイルの雨で防衛機能を喪った基地を更に蹂躙しながら進軍する。

 

「これ以上、やらせはせん!」

 

 サールイス卿は、巨大兵器の随伴機であるキュクロプス(サザーランド擬き)の1機が振り下ろした斧を愛機のヒートソードで逸らし、すれ違いざまに胸部を両断しながら巨大兵器に肉薄しようとする。中東地域の国家で運用されているバミデス(ナイトメア擬き)の様に、火力こそ申し分ないが接近すればどうとでもなるになる事を祈りながら。

 しかし、その祈りは踏みにじられることになる。巨大兵器の腕部が切り離されて独立飛行し、随伴機と連携して包囲網を構築。飛行する腕部にマウントされた小型のシールド──それでもKMFをすっぽり覆えるほどに巨大なそれの先端から砲身が生えているリニアライフルが随伴機の火砲と共に火を噴き、サールイス卿のグロースター・ソードマンを瞬く間にハチの巣にした。

 

「サールイス卿!? せめてあれだけでも!」

 

 ヴォプロス卿は、キュクロプス(サザーランド擬き)を踏みつけながらグロースター・ソードマンを跳躍させ、巨大兵器の飛行する腕部にヒートソードで斬りかかる。これまでの戦闘経験の集大成ともいえる立体機動の妙技。だが、振り下ろしたヒートソードの一撃は、腕部のシールドから展開されたエネルギーフィールド──ブレイズルミナスの輝きに阻まれる。

 そのままもう一方の飛行する腕部からの射撃で大地に叩き落されたヴォプロス卿が最後に見たものは、巨大兵器の脚部によって愛機と共に踏みつぶされる光景。

 

 後に、ベラルーシ中部に展開していたG1陸戦艇まで撤退したサザーランドのパイロットが、焦燥した様子で、こう語る。

「あれは騎士でも兵器にもあらず。あれは……神話の怪物の様に暴れ狂う災害そのものでした」

 

 

 ____________________

 

 

 一方その頃。

 フロドナではマーヤとカレンがE.U.軍の部隊に先駆けてユーロ・ブリタニアのKMF部隊を相手に大立ち回りを演じていた。

 マーヤの蒼月改が、サザーランドの対KMFランスを左肩のシールドで弾くようにいなしながら廻転刃薙刀で胴体を一閃。廻転刃によって両断されたサザーランドは、コックピットの緊急脱出機能を作動させながら爆散する。

 

「これで七機目!」

「やるじゃない、マーヤ!」

 

 蒼月改の進軍ルート上には、先程両断されたサザーランドだけでなくユーロ・ブリタニアの二足歩行戦車型無人機リバプールの残骸が四機と、蒼月改の()()()によってショートし機能停止している二機のサザーランドが横たわっている。

 一方のカレンも、紅蓮弐式改の機動力を活かしてユーロ・ブリタニア軍の部隊を翻弄し、ヒートソードを振るうグロースターを右腕部で掴み輻射波動で爆散させる。

 

「カレンもね!」

「この調子で、ユーロ・ブリタニアのナイトメアを倒してくわよ!」

 

 カレンとマーヤに求められている役目は、E.U.軍の部隊がユーロ・ブリタニアと本格的に接敵する前に敵KMFを撃破する露払いだ。その意味では、二人はその役割を滞りなく真っ当している。

 また、二人にとって幸いだったのは、フロドナ奪還を担当しているE.U.軍将校であるロメロ・パルクレイ将軍が彼女たちに対して比較的好意的だったことだ。そのおかげで、二人が有人機のパンツァー・マルダーによる砲撃支援を受けながら戦闘をスムーズに進める事が出来ている。

 

「(神聖ブリタニア帝国と比べて、ユーロ・ブリタニアのナイトメアが占める戦力比率は若干低い。その分、装甲車両やあの二足歩行型戦車で補っているようね。装備や意匠も、こちらの方が騎士であることを意識している)」

 

 マーヤは戦闘の合間に、思考のマルチタスクで砲撃支援を行ってくれているパンツァー・マルダーにユーロ・ブリタニア側の戦力配置情報を適宜送りながら、神聖ブリタニア帝国とユーロ・ブリタニアの軍事力と占領地域における現地住民の扱いの違いを考える。

 

「(何より違うのは、占領地域での現地住民の扱い。神聖ブリタニア帝国にとってはナンバーズに堕としたもの達は差別と搾取の対象。でも、ユーロ・ブリタニアにとっては過去に先祖が喪った故郷を取り戻す戦争である以上、臣民として扱う傾向が強い。ならば、E.U.とユーロ・ブリタニアの戦争を講和まで持ち込むことができれば、或いはユーロ・ブリタニアを対神聖ブリタニア帝国包囲網に引き込むこともできるかもしれない!)」

 

 マーヤは今後を思考しながら、並列して目の前の敵を屠っていく。脱出機構が作動した敵は追わず、敵戦力の無力化を優先していく。

 しかし、戦闘を継続していくうちにユーロ・ブリタニアの動きに乱れが生じ、カレンは好機と見て突っ込んでいく中、マーヤはある事に気が付く。

 

「拙い! 私たちを分断するつもりだ! 戻って、カレン!」

 

 敵の位置情報を逐次確認しE.U.軍側に共有し続けていたからこそ気付いた違和感。それは戦列の乱れと見せかけた誘導だった。

 紅蓮弐式改が敵KMFを追って橋を渡り終えた直後、橋が爆破されて崩落。マーヤとカレンの分断は相成った。

 

「しまった。誘い込まれた! マーヤ、そっちは大丈夫?」

「私は平気、カレンは?」

「私も紅蓮もまだ大丈夫。でも……」

 

 そう言ってカレンが向いた先にいたのは、威容を放つ外観の深紅のKMFだった。ガウェインよりは小型だが従来のNFよりは大型で、複眼型ファクトスフィアと口部から牙のように伸びたセンサーアレイが一対。胴体も腕部も脚部も、すべてが太く厚く、かなりの重装甲であることが外観からも窺える。サザーランドの対ナイトメア用ランスとも異なるより大型のランスを保持しているが、何よりも特徴的なのは両肩から延びている巨大な一対のバインダーだ。

 

「ユーロ・ブリタニアの新型。エースのお出ましね」

「カレン! 私も今からそっちに──」

「大丈夫。こいつは私が相手する。だからマーヤは作戦を継続して! それに……」

 

 普通に考えれば、此処は紅蓮の機動力で敵を振り切って合流しなおすべきなのだろう。

 

「どうしてかわからないけど、わたしはコイツから逃げちゃいけない。そんな気がするんだ」

「……わかった。その代わり、絶対に生き延びて」

「勿論よ。エクスプロード! 全力で行くわよ!」

……Understood, Karen. But do not forget to prioritise survival as agreed with Maya.(……了解です、カレン。ですが、マーヤとの約束通りに生存を優先する事は忘れずに)

「勿論よ」

 

 エクスプロードの一瞬のレスポンスの遅れ、そしてわざわざ生存を優先するように進言する様子を見せた理由にカレンは気付かないまま、眼前の強敵との戦いが始まった。

 

 

 ____________________

 

 

 カレンの紅蓮弐式改と相対する深紅のナイトメア──フシャスラワルヤのコックピット内で、ギュンター・シュタットフェルトは、自分の策で誘導され仲間と分断されてもなお戦意が衰えないカレン()に対して、複雑な心境を抱いていた。それは娘が立派に育ってくれたことへの嬉しさ、娘が敵として相対する事となった悲しさ、そして娘の決意をこれから自分の手で手折らなくてはならない罪悪感。

 

「許してくれ……とは言わない。すべてが終わった後、私はお前に裁かれよう。だが今は、祖国に救われた恩を返すためにお前を止める!」

 

 ギュンターはコックピット内で誰に聞かせるでもなく言葉を漏らす。それは決意表明だ。貴族としての矜持と責任、神聖ブリタニア帝国から追われた自分を匿ってくれたユーロ・ブリタニアへの恩、そして……娘を死なせないために娘の決意を踏みにじる覚悟。

 先手を取ったのはカレン。紅蓮弐式改の右腕から照射される輻射波動の熱線が、フシャスラワルヤを襲う。ブラックリベリオンの時は魔法で行われていたそれは、ラクシャータを中心とした黒の騎士団のKMF開発スタッフによって更なる改良を遂げ、これまでの近接照射及び防御障壁の展開だけでなく、輻射波動機構単独での長距離照射や広域照射も可能となっていた。特に長距離照射の破壊力は、ガウェインのハドロン砲にも匹敵する。

 それに対し、ギュンターはフシャスラワルヤの両肩にマウントされたシールドプライヤーユニットを機体正面に向けつつブレイズルミナスを展開。ブレイズルミナスを停滞させたシュロッター鋼製の装甲との相乗効果で熱線を防ぎつつ正面から接近する。

 

「輻射波動を正面から受け止めるなんて! だったら直接ぶち込む!」

 

 カレンは敵機の堅牢さに驚きながらも紅蓮弐式改を走らせ、こちらからも接近して距離を詰める。

 相手は見た目からわかるほどに重装甲かつ白兵戦に特化している。ここは近付かせずに引き撃ちに徹するのが定石だろう。だが、カレンはあえてその定石を捨てて相手の土俵で戦う選択をした。

 いくつが理由はあるが、そのうちの一つが、相手が堅牢すぎて悠長に戦っていたら紅蓮のエナジーが先に尽きる危険性がある事。目の前の相手とのタイマンを選んだのは自分だが、だからと言ってこの一戦に全てを掛けるという事はできない。だからこそリスクを冒してでも最も火力を出せる接近戦による短期決戦を選んだ。

 そしてその選択を、ギュンターは予測済みだった。

 

「カレン、幼いころのお前の性格とこれまでの戦闘記録から、こういう時に短期決戦を選ぶことは分かっていた。そして、次の一手をどうするかも」

 

 カレンは目の前の敵機との正面衝突直前に、紅蓮弐式改のランドスピナーによるスピンターンで背後に回り込もうとするが、ギュンターはそれに対してフシャスラワルヤを反対方向にスピンターンさせながら大型ヒートランス「アジ・ダハーカ」を紅蓮弐式改の脚部に振るう。

 カレンは咄嗟に紅蓮弐式改を跳躍させて躱すが、それによって無防備になった一瞬を突かれ、敵機のバインダーが変形した鋏状のアームに右腕部を掴まれる。

 

「まずは、最大の武器を奪わせてもらう!」

 

 ギュンターはシールドプライヤーユニットを変形させたクローアーム「ヴァジュラ」で掴んだ紅蓮弐式改の輻射波動機構を破壊しようと高出力アクチュエーターが唸りを上げる。

 

「拙い!」

 

 カレンは直感に従って、咄嗟に紅蓮弐式改の輻射波動機構に魔力を流し込んで耐久力を強化しながら輻射波動を敵機のクローアームに叩き込んで反撃。

 爆発的な熱波が双方を襲いながら、互いに弾かれるように距離を取る。

 

「やはり、戦闘センスと機体の反応性はカレンの方が上か」

「あのナイトメアのパイロット、強い! 下手すると、新宿で戦ったラウンズに匹敵するかもしれない」

 

 先ほどの一瞬の攻防で、紅蓮弐式改は右腕部が歪んで輻射波動の出力が若干低下するダメージを負った。一方のフシャスラワルヤも、至近距離からの輻射波動によって右肩のクローアームが若干融解を起こしている。それでも、互いに戦闘力も戦意も失ってはいない。

 その後も市街地の路地を転戦しながら二人は何度もぶつかり合い続ける。

 フシャスラワルヤが数度目のアジ・ダハーカを振るった際にそれまで見せていなかった柄部の伸縮展開機能を用いて紅蓮弐式改の左腕を小破させる。紅蓮弐式改はお返しと言わんばかりにカレンの習得している魔法ブレイズマッドボムをフシャスラワルヤの足元に起爆し、粘着性の炎で拘束しながら輻射波動を叩き込んで半ば融解していた方のバインダーを破壊する。

 繰り返される攻防の中で互いの装甲に細かい傷跡が重ねられていくが、致命傷は避けながら激しい白兵戦を繰り広げる。互いのエナジー残量が心もとなくなり始めたその時、ギュンターに緊急通信が届いた。

 

「──。なんだと? 撤退命令? ヴァウカヴィスクの前線基地が破壊されただと!? わかった」

 

 それは、ユーロ・ブリタニア軍の一時撤退の指示。E.U.軍の攻勢に対し、ユーロ・ブリタニア軍はヴァウカヴィスクの前線基地が壊滅した事によって生じた戦列を立て直すために戦線の一時後退を決定したのだ。

 

「待て! 逃がさないわ!」

Karen! the aircraft's wear and tear is reaching dangerous levels. Perhaps we should withdraw from here as well.(カレン! これ以上は機体損耗が危険域に達します。ここはこちらも退くべきかと)

「うっ……それもそうね。わかった」

 

 先ほどまでの猛攻が嘘のようにカレンの紅蓮弐式改に背中を向けて撤退する敵機を追いかけようとするカレンを、エクスプロードが叫んで止めた。我に返って紅蓮弐式の状況を確認すると、エナジー残量だけでなく機体各部に過負荷がかかっている状態だ。修理は問題なくできる範疇だが、それだけ激しい戦闘だったことが窺える。

 

「次は、私が勝つわ」

 

 フシャスラワルヤ(深紅のKMF)との再戦を誓い、マーヤとの合流を急ぐカレン。

 マーヤの蒼月改のシグナルを追って合流した先では、左肩のシールドごと左腕部が脱落している蒼月改の姿があった。周囲に敵影はないが、あちらも相当な激戦が繰り広げられていたのだろう。

 

「マーヤ! 大丈夫!?」

「私は……平気。蒼月も修理できる範疇よ。カレンの方は?」

 

 マーヤはカレンを心配している様子だが、その声は若干震えているようにも思える。あのマーヤが何かに恐怖している? 落ちついた場所で改めて確認を取った方がいいとカレンは判断する。

 

「こっちも修理できる範囲の損傷で済んだけど……ごめん、取り逃がした」

「ユーロ・ブリタニアも侮れない相手がいるとわかった事が収穫ね。アフリカ北部戦線に赴いたC.C.達が無事だと良いけど……」

「そこは三人を信じましょう。後はユーロピアの軍に任せて、私たちは戻りましょうか」

「そうね。エナジーの残量も心もとないし」

 

 都市からユーロ・ブリタニア軍が後退し、E.U.軍が猪突猛進気味にそれを追撃する様子に若干の不安を覚えながら、役割は十分に果たしたと判断した二人は帰投の準備を始めるのであった。




ティフォンの見た目は、ガンダムSEED DESTINYにおけるデストロイガンダムのMA形態がモチーフです。イメージBGMは同作品のサウンドトラックに収録されている「狂気の果て」


機体名称フシャスラワルヤ型式番号RZX-4MH-Z
分類第7世代型相当KMF所属ユーロ・ブリタニア
全高5,67m重量13,84t
動力エナジーフィラー推進機関ランドスピナー

武装スラッシュハーケン×2胸部左右
 柄部伸縮式ヒート・ランス 「アジ・ダハーカ」
 シールドプライヤーユニット「ヴァジュラ」×2両肩部
 パイル・スマッシャー×2腕部左右
 ハンドガン×2腰部ホルスター

備考
見た目モチーフは、「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ ウルズハント」に登場する「ガンダム・ザガン」をKMF仕様にコンバートしたもの。
ブレイズルミナスを装甲表面に停滞させることができるシュロッター鋼による圧倒的な防御力に目を付けたユーロ・ブリタニアが、アフラマズダ(RZX-4EH)の基本フレームをベースとして近接・白兵戦特化型へシフトさせた試作派生機。ベース機であるアフラマズダと異なり第七世代なのは、動力となるユグドラシルドライブをより高出力のモデルに換装すると共に、試験装備を多数導入した試作機であるため。
開発当時のコードネームはゾロアスター教の悪神「アンラ・マンユ」だったが、ギュンター・シュタットフェルトが受領した際にゾロアスター教で「望ましき王国」あるいは「善き統治」を意味する善神「フシャスラワルヤ」に改名される。
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