コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:エヌット

48 / 49
アルヘシラス基地撤退作戦-タリファの旗は降りず

PM5:48 タリファ基地

 

「マヌエル中佐、このタイミングでその行為が何を意味しているか分かった上での発言と受け取っても良いか……?」

 

マヌエル中佐の言葉――タリファ基地からの希望者抽出とアルヘシラス基地に取り残された者たちの救援依頼の裏に秘めている意味を察した卜部が問いかける。

卜部は今の彼のような覚悟を過去に何度も見てきている。そう、日本が神聖ブリタニア帝国と戦争していた頃、撤退戦において友軍を一人でも多く逃がすために自らの意思で殿を務める将校や兵士たちが瞳に宿す覚悟だ。

 

「分かっている。カディス基地は既に墜ち、アルヘシラス基地は司令部が逃げて蛻の殻。主要な三つの湾港都市のうち二つがブリタニアの手に墜ちるのが確実となっている今、このタリファはなんとしても死守しなければならない事も。そして俺には貴方達に命令する資格などない事も」

 

情を廃した大局観に基づくならば、アルヘシラスに取り残された兵士達には犠牲になってもらい、その間にタリファ基地の守りを固めるのが正しいのだろう。湾港都市の陥落は、それだけ致命的なデメリットが数多くあるのだ。

 

「だが、たとえ貴方方から卑怯者と罵られても、あえて言わせてほしい。取り残された彼等の多くは、この地で日本人である或いはその血を引いているという理由だけでイレブンとして不当に蔑まれ市民権すらも奪われた者達なんだ。不当に奪われた市民権を再び得るために選択肢がなかったとはいえ、ユーロピアのために戦ってくれている彼らが、こんな報われない終わり方で良いはずがない!」

 

マヌエル中佐の悲痛な叫びが、通信室に響く。

 

「だが、実際問題としてどうやってアルヘシラス基地の兵士達や後方支援要員を撤退させる?少なく見積もっても数千人規模の人員が取り残されていると仮定した場合、彼等を運ぶ足が足りないぞ。この基地に残るトレーラーを総動員し、なおかつ限界まですし詰めにしても収容人数は数百人が関の山だ」

「そこは先の戦闘で中破し攻撃能力を喪失した軍艦を利用する。海路ならば、陸路と比べてより多くの人数をまとめて連れ出すことができる」

「無茶だ。それだけの人数を収容するとなれば、アルヘシラス基地に到着後も数時間単位で停泊していなければならない。その間にタンジェ基地から神聖ブリタニア帝国の艦隊がやってきて狙い撃ちにされるぞ」

「分かっている。だからこそ、ブリタニア艦隊を引き付け足止めする陽動作戦も考えた」

 

そう言って、マヌエル中佐はホワイトボードに図面を描き始める。ジブラルタル海峡を挟んだスペイン南部とモロッコ北部の簡単な地図だ。地図としての要所ををしっかりと押さえてわかりやすく描かれていく。先ほどの狼狽から速やかに思考の立て直しを済ませて救出策を考案できるその能力は、長年の経験によって培われたものだのだろう。

 

「敵は皇帝直属の騎士であるラウンズは勿論、その指揮下に入った現地の将も優秀だ。生半可な策では瞬く間に看破されてしまうだろう……()()()()()()。相手はこの短期間にE.U.に対して()()()()()。繰り返すが今回だけでもカディス基地はすでに陥落し、この基地も少なくないダメージを受けた。そこにアルヘシラス基地を無抵抗で手に入れられるかもしれないという状況も合わされば、確実に詰めていく安全策ではなく欲を掻く者もあらわれるだろう。だからこそ相手の優秀さに裏打ちされた傲慢さと強欲さによって、我々が付け入る隙が生じうる。そこに賭ける」

 

マヌエル中佐は、卜部たちにこれから行う作戦を説明する。マヌエル中佐は堅実策を積み重ねて有利を取っていく戦術・戦略を基本とする将校だ。そんな彼が初めて行う乾坤一擲の奇策。

 

「……ふむ。確かに成功すればアルヘシラス基地に取り残された者たちを助けるだけでなく、神聖ブリタニア帝国艦隊にも打撃を与えうるな。だが、はっきり言えば成功率は低いぞ?」

「それは分かっている。条件をすべて達成できるのは、高く見積もっても20%前後程だろう。失敗すればタリファ基地の守りが薄くなって陥落が早まる、リスクの大きい奇策だ」

「それに、結果の成否にかかわらず、貴方にとって大切な存在を喪う事になる。それでもいいのか?」

 

C.C.と卜部は作戦の困難さと、それが彼に齎す喪失をマヌエル中佐に再確認する。彼が喪う物は、ある意味で彼の誇りであり人生の一部ともいえるものだからだ。

それに対して、マヌエル中佐は言葉ではなく頷くことで肯定する。今ここで言葉にしてしまえば、決意が揺らいでしまうかもしれないと思ってだ。

 

「……C.C.よ、俺個人としては、マヌエル中佐に協力したいと思っている」

『良いのか?求められている役割を考えると、お前にも相当にリスクが伴うぞ?』

「ああ、これが破れかぶれの報復行動ならばなんとしても止めていた。だが、彼は他の仲間たちを助けるために自らの誇りを捨てる覚悟でこの作戦にあたろうとしている。それは、軍人としては間違っているかもしれないが、一人の人間としては正しく尊い事だ。それに――」

「それに?」

「黒の騎士団は『正義の味方』だろ?」

「っふ、しょうがない奴だな。どのみち時間がない。ここであーだこーだ論争するよりも、急いで準備を進めるべきだな」

 

大真面目にそう答えた卜部に、C.C.は思わずふっと笑みを浮かべた。

 

「本当に、感謝する」

 

 

____________________

 

 

PM10:37 神聖ブリタニア帝国海軍艦隊タンジェ基地

 

先のタリファ基地攻略戦で被弾した箇所の応急修理や消費した弾薬・燃料そしてKMFを補給するべく、多くの軍艦が補給ドックで補給を受けて居たり順番待ちをしている湾港区画。弾薬庫やサクラダイト燃料庫から次々と物資がトレーラーやKMFによって補給ドックへと運ばれる様子は、夜にも拘らず静寂さとは無縁の光景だ。

忙しなく動く湾港区画を見下ろす様に建っている建造物こそが、かつてはE.U.によって市役所と大型デパートが併設されたビルとして建設され、神聖ブリタニア帝国が接収後に前線基地として簡易改修したタンジェ基地の司令部であり、現場に赴くことが非常に多いマリアンヌ(ミセス・グリント)に代わって司令部を任されているローゼンタール卿の実質的な住居にもなっている。

 

「タリファ基地を監視していた観測部隊から緊急の連絡です!タリファ基地より四隻の軍艦の出航準備を確認!」

「想定される航路を算出せよ」

「傍受した無線通信の内容から、航路は海岸沿いに東へ!目的はアルヘシラス基地の軍人の回収ならびにバルセロナへの撤退のようです!」

「夜闇に紛れてこそこそと向かえば気付かれないとでも思ったか?高速巡洋艦を出撃させろ。何隻動ける?」

「補給が完了した巡洋艦は3隻です」

「ふむ……本音を言えば後1~2隻は欲しかったが、仕方あるまい。3隻を出撃させてアルヘシラス基地に到着前に沈めてしまえ」」

「イエス、マイロード!」

「くっくっく……ラウンズがこの基地を離れた今のうちに、成果を出しておかねばなぁ~!」

 

スペイン南部の湾港都市の制圧完了が秒読みに入ったこともあって、ナイトオブツーであるマリアンヌ(ミセス・グリント)はアフリカ中部以南の制圧領域を拡大するためにタンジェ基地を出発済みだ。歴代のタリファ基地の司令官はE.U.にしては堅実で優秀な軍人が担当していたこともあって攻めあぐねていたが、ラウンズの策によって最早死に体だ。これまではラウンズの活躍が突出しすぎて自分達の成果が霞んでしまっていたから、此処で成果を上げたいという欲求もあった。

ローゼンタール卿の判断に欲という不純物が入り込んだ要因には、観測部隊が傍受した無線の内容も関係している。

一つ目は、タリファ基地から出港した四隻はいずれも中破していて攻撃能力が喪失、さらにそのうちリモート操作している二隻は機関部も不調気味で速力が15ノット*1程度しか出せない見込みである事から、巡航速度でも30ノットは安定して出せる高速巡洋艦ならばアルヘシラス基地へ到着する前に追いつくことができると判断したからだ。二つ目は、アルヘシラス基地への救援艦隊に黒の騎士団の四聖剣の一人である卜部 巧雪が乗船している事だ。黒の騎士団も逃がすためなのだろうが、此処で撃ち取れれば本国もさぞお喜びになるだろう。

当初の予定にはなかった高速巡洋艦の出撃。しかしこの地にいる神聖ブリタニア帝国の軍人は、最前線だけあって優秀な人材が揃っている。先んじて準備を進めていたタリファ基地の軍艦四隻の出向から遅れる事数分で、三隻の高速巡洋艦が揃って追撃のために出撃した。

神聖ブリタニア帝国の高速巡洋艦が出撃し、E.U.軍の軍艦を追跡して20分が過ぎたところでそれは起こった。スペイン南部の海岸沿いを航行していたE.U.軍艦のうち、海洋側の二隻、巡洋艦と駆逐艦が一隻ずつが、想定される航路からずれ始め、航行速度も徐々に落ちていくのを、追跡中の高速巡洋艦が観測したのだ。

 

「あの二隻、何を狙っている?こちらに気づいて身を挺して妨害に来たか?」

「それが……傍受した無線の内容から、どうやらあの二隻はエンジントラブルで航路から逸れているようです。もう二隻がリモート操作で立て直そうとしているようですが、あれではもう無理ですね。沈めますか?」

「……いや、一旦放置だ。反撃もできず間もなく止まるガラクタよりも、加速し始めた残り二隻を先に沈めに向かうぞ。念のため、通りすぎる際はいつでも撃てる様にしておけ。わずかでも怪しい素振りを見せたら、躊躇なく撃て」

「イエス、マイロード」

 

他二隻から沖合側へ離れるように徐々にずれていき、航行速度も13ノット、12ノット……11ノットと速度が落ちていく二隻の巡洋艦と駆逐艦(ガラクタ船)を無視し、二隻の脇を通り過ぎる事を選ぶ。

それでも万が一の奇襲を艦長は警戒し、高速巡洋艦の主砲の砲身を巡洋艦と駆逐艦(ガラクタ船)に向けながら通り過ぎる。巡洋艦と駆逐艦(ガラクタ船)の破損した主砲やミサイル発射管が動く様子はない。甲板にKMFや戦闘車両が姿を見せる様子もない。甲板に出たこちらのサザーランドの一機が、相手の反応を窺うためにバズーカを巡洋艦に撃ち込むが、被弾しても巡洋艦は無抵抗だ。ならば駆逐艦の方はと考えもしたが、其方は生憎と巡洋艦が遮る形になって狙えない。それでも駆逐艦も無反応なのは、ある種の不気味さを感じる。

 

(考え過ぎか……?)

 

何かが引っ掛かるような違和感を覚えつつも、巡洋艦と駆逐艦(ガラクタ船)を通り過ぎたのを確認した艦長は意識を進行方向の先にいる二隻の軍艦へと向け直した。

その一分後……、レーダーで索敵を行っていた高速巡洋艦の観測種が、異常を察知する。

 

「これは……艦長!先ほどの二隻が再び航路を変更して急加速しています!」

「後ろを取りに来たか!KMFを後部ハッチに向かわせ――」

「いいえ!想定航路は……タンジェ基地です!二隻とも、既に20ノットを超過!さらに加速しています!」

「何ぃっ!!?まさか、軍艦でカミカゼをやろうというのか!?基地司令部に大至急伝達すると共に、追撃を中断してあの二隻を沈めるぞ!」

 

艦長が目を見開いて驚愕し、アルヘシラス基地へ向かうE.U.軍艦を捨ておいてでも先の二隻をタンジェ基地到達前に沈める判断を下す。その理由は、神聖ブリタニア帝国がかつて日本を侵略した際に作戦に参加していた彼は、日本人によるサクラダイト爆薬を用いた自爆テロに遭遇したことがあったからだ。個人所有の自動車に積載できる量の自作爆弾でもKMFを破壊できるほどの威力を発揮したそれが、もしあの二隻に大量に積載されているとしたら……タンジェ基地に到達し自爆した際の被害は計り知れないものとなる。その恐怖が、高速航行中の急旋回という無茶無謀を命令させる。

航行中の船舶にとって、急旋回は非常に危険な行為だ。それが転舵のために30ノットという高速航行のまま行おうとすれば、慣性が強すぎて最悪の場合は転覆する危険さえある。そのため、三隻の高速巡洋艦は速度を落としながら旋回を行う羽目になる。そう、海岸沿い陸地に対して、その()()()()()()になるその意味を、間もなく思い知る事となる。

 

「総員、獲物が腹を見せたぞ。思う存分食い破れ」

 

海岸沿いの岩場や岬に隠れ潜んでいたE.U.軍の旧式機であるパンツァー・フンメルが総勢20機、共に潜んでいたC.C.の零陽炎(黒の騎士団の指揮官機)の指揮の下で姿を現し、固定火砲であるキャノン砲を神聖ブリタニア帝国の高速巡洋艦に向け、一斉に火を噴いた。

パンツァー・フンメルはナイトメア擬きと称される旧型(第四世代相当)のKMFだ。その性能はブリタニアの現行量産機(第五世代)であるサザーランドと比較して機動性・運動性・白兵戦だけでなく汎用性にも劣る。だが、勝っている点も存在する。それは固定火砲の火力と()()()()だ。

 

「無理に撃沈を狙わなくていい。最低でも一隻を航行不能にするだけで構わん。それで三隻とも足止めできる」

 

パンツァー・フンメルのキャノン砲の火力が、高速巡洋艦の側面に降り注ぐ。多数の砲弾は高速巡洋艦の装甲を突き破り、ハッチを、砲門を破壊し、遂には一隻の機関部も損傷させて艦内に火災を引き起こす。甲板にでていた少数のサザーランドが応戦しようとするが、狭い足場ではその運動性を発揮することはできず、有効射程距離の差で一方的に砲撃に晒されて反撃も碌にできないまま撃破されていく。

航行不能に陥り航路が大きくずれ始めた高速巡洋艦との衝突を避けるため、残り二隻もそれぞれ更なる急旋回を余儀なくされる。その結果、ただでさえ急転舵を強いられていたところに更なる旋回と減速が重なり、被弾も相まって再加速までに大きなタイムラグが生じた。

 

「時間だ。これ以上の深追いはせず、各員は直ちに持ち場を離れてアルヘシラス基地へ向かうぞ。後はマヌエル中佐の相棒である()()()()の最期の任務が上手く行くことを祈ろうじゃないか」

「「「イエス、サー!」」」

 

予定時刻を過ぎ、C.C.は臨時で率いていたE.U.軍の兵士達にアルヘシラス基地へ合流するように命令を出す。彼等には生き延びてもらい、この先も戦ってもらう必要があるからだ。

パンツァー・フンメルが持ち場を離れてアルヘシラス基地の方向へ向かうのを確認したC.C.が独り言ちる。

 

「やれやれ、とんだ救援作戦となったものだ。だが、存外悪くない。私にもあの童貞坊やたちの甘さが移ったか?」

 

残る高速巡洋艦も被弾によって少なくないダメージを負い混乱に陥っている間に、アルヘシラス基地へと向かう船も、タンジェ基地へと向かう船も、そして奇襲を仕掛けたパンツァー・フンメル部隊も、神聖ブリタニア帝国の高速巡洋艦の追撃から悠々と逃げ切ったのであった。

 

 

____________________

 

 

PM11:53 神聖ブリタニア帝国海軍艦隊タンジェ基地

 

残るは楽な事後処理程度の感覚だったタンジェ基地は今、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。アルヘシラス基地救援のために向かったと思われていた四隻のE.U.軍艦のうち二隻が踵を返してこの基地に高速で向かってきているという一報が原因だ。

 

「動ける船は残っていないのか!」

「即座に戦闘行動が可能な艦船は補給を終えたばかりの駆逐艦が二隻のみです!残りは旗艦を含めてドッグでの補給中或いは補給待ちで、下手に移動するとほかの船と衝突する恐れが!」

「なんとしても衝突前に沈めるんだ!巡洋艦規模の質量で旗艦がいるドッグに体当たりなんぞされたら、只では済まなくなるぞ!?」

 

所々から黒炎と火花を上げながら35ノットでタンジェ基地へ全速前進中の巡洋艦と駆逐艦(二隻)を何としても沈めるため、基地の迎撃システムだけでなく出撃可能となった駆逐艦も投入する決断を下すローゼンタール司令官。二隻を沈めるべく基地の迎撃システムが、補給を済ませていた駆逐艦の主砲と魚雷が火を噴く。真っ先に狙われたのは大型で衝突時の被害が大きい()()()の方だ。駆逐艦の方は巡洋艦が射線を遮る形となって十分に火砲を向ける事ができないため、早々に巡洋艦を仕留めてから駆逐艦を撃沈する方針になったためだ。

しかしその巡洋艦はどれだけ被弾しても、各所から爆炎と黒煙が噴出しても、一向に沈むそぶりを見せない。その巡洋艦の名はインヴィンシブル。マヌエル中佐の相棒ともいえる二隻のうち一隻であり、()()を守り通すための()はそう易々と沈みはしない。まだ沈むわけにはいかないと主張するかの如く、もう一隻の相棒でありこの作戦の()()()を守りながら突き進む。

それでも限界は訪れる。ただでさえ超過駆動によって火を噴きながら焼き尽く寸前だったエンジンが限界を迎えたのだ。これまでの船体へのダメージもあって神聖ブリタニア帝国海軍タンジェ基地艦隊旗艦が補給を受けているドッグから僅かに逸れた巡洋艦は、ドッグの入り口を塞ぐ形で乗り上げ、岸壁を抉りながら座礁した。

駆逐艦の方に至ってはタンジェ基地湾港内に入り込んだ時点でエンジンが焼け付いて止まってしまった。

 

「あ、危うかった……。あの船を撤去しなければ旗艦を出すこともあのドッグを利用することもままならんが、旗艦とドッグが大破する最悪の事態は避けられた。しかし、此れではアルヘシラスへの追撃は諦めざるを――」

 

最善には程遠いが最悪は免れた。ホッと安堵した様子のローゼンタール司令官の意識は、閃光と共にこの世から消えさる事となる。

ローゼンタール司令官は読み誤ったのだ。マヌエル中佐のタンジェ基地攻撃の本命が質量弾としての巡洋艦(インヴィンシブル)ではなく、()()()()()()()()()と化していたもう一つの相棒である駆逐艦(アルマダ)の方であったことを。

 

 

____________________

 

 

翌AM0:13 タリファ基地

 

「マヌエル中佐!タンジェ基地の大規模な爆破炎上を確認!作戦は……成功しました!」

「アルヘシラス基地より入電!タリファ基地を出港した二隻が到着し、避難民を含めた人員の収容中とのことです!」

 

対岸のタンジェ基地で発生した大爆発とそれに伴う大炎上を観測した観測種からの報告。そしてアルヘシラス基地への救援が届いた事に歓声が上がる()()()()()。その中でマヌエル中佐は黙祷する様に静かに目を瞑る。

 

「インヴィジブル……アルマダ。本当に、よくやってくれた。今までありがとう。これで、アルヘシラス基地の者たちは逃げ切れる」

 

マヌエル中佐にとって、巡洋艦(インヴィンシブル)は士官学校を卒業後に初めての赴任先の頃から立場を変えながらも20年以上の月日を共にした古参の巡洋艦だ。そして駆逐艦(アルマダ)は彼が少佐になった時に艦長を初めて任されてから巡洋艦(インヴィンシブル)と共に戦場を駆け抜けた。どちらも「相棒」と言って差し支えないほどの愛着がある二隻を、マヌエル中佐は今回の作戦の要にした。先の戦闘で戦闘能力を喪失した二隻をこのまま何もできないまま終わらせたくないという感情だけでない。大切だからこそ、神聖ブリタニア帝国からすれば司令官が愛着を持っている軍艦を捨て駒にはしないだろう考える事を計算したうえで、E.U.の未来を繋ぐために相棒たちの最後の旅路(ラストミッション)としたのだ。

 

「乾坤一擲の策を弄した作戦は大成功だ。ブリタニアの手が止まっている今の内に、残る我々も撤収を始めるぞ。取り残されている者がいないかの確認も怠るなよ?」

 

マヌエル中佐は作戦が()()()を収めた時に基づいた行動指針を基地内に残った者たちに通達すると、脳内で今回の作戦の分岐点(ターニングポイント)を思い返す。

1つ目は、この基地を出発しアルヘシラス基地へ向かう船を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここでブリタニア側が気が付かない或いは迎撃の判断が遅かった場合、迎撃用の戦力が基地に残るので後の相棒たちの特攻は早々に撃沈されて意味を成さなくなっていただろう。だからこそ、ブリタニアがやったようにわざと無線を傍受させたのだ。

2つ目は、意図的に航路をずれていった相棒たち(二隻の軍艦)を、ブリタニア側が一旦放置するか否か。ここで念のために沈めておく判断が下されていた場合、作戦は破綻していたし、KMFによる攻撃が行われた時にはもうだめかと天を仰いだくらいだ。だからこそ、卜部殿が乗船していた方の二隻が途中で20ノットに加速することで高速巡洋艦の注意を引いて後回しにすることができた。

そして3つ目は、本命である駆逐艦(アルマダ)が敵基地司令部を含めた重要施設を自爆の有効射程範囲内に収めて大きな損害を与える事ができるか。

1つ目が達成できなければタンジェ基地に損害を与えられずに失敗。2つ目が達成できないと残る二隻を巻き込むことになるので大失敗。3つ目は最悪この基地に注意を向ける事ができればいいので達成できなくても仕方なかったが、その場合は自分達はここに残って死ぬまで抵抗するつもりだった。

 

「黒の騎士団には、本当に感謝しなくてはならないな。この基地を死に場所と決めた私に、生きる希望を与えてくれたのだから」

 

大別するだけでもこの3つの条件をすべて達成しなくては大成功には至らないか細い糸を手繰り寄せる事ができた奇蹟は、決して無駄にはしない。

だというのに……すぐにでも動かなくてはならないというのに、目から涙が漏れ出てくる。

 

「マヌエル中佐?」

「自分の(相棒)達を、自らの判断で沈めるというのは……こうも苦しいものなのだな。だが、此処で立ち止まってしまっては、どやされてしまう。インヴィンシブル、アルマダ……本当にありがとう」

 

心にぽっかりと穴が開いたような喪失感は辛く苦しい。艦長として再び船に乗るには、心の整理をつけるためにもしばらくの時を要するだろう。それでも、相棒たちが齎した希望は確かに繋がったのだ。

数時間後、タリファ基地は陸路で、アルヘシラス基地は海路で撤退が完了した。この二つの基地は撤退時にその機能を全て喪失しており、一週間後に部隊を再編して上陸し占領した神聖ブリタニア帝国は、二つの基地跡地の前線基地化並びにタンジェ基地の復旧に多大なリソースを費やす事となる。

 

____________________

 

 

AM6:27 中央アフリカ戦線チャド南部司令基地

 

「まさかタンジェ基地が木っ端みじんに吹き飛ぶなんて思わなかったわぁ。これなら、タリファとアルヘシラスの占領が完了するまで残っていた方が良かったかしら?」

 

チャドに建設された司令部に到着して早々にタンジェ基地の顛末を聞かされたマリアンヌ(ミセス・グリント)が、呆れた様子で端末に話しかけていた。ローゼンタール卿は前線を任されるだけあって能力そのものは優秀な将校だったが、武勲を上げる機会を虎視眈々と狙っていた部分があった。それはこの国(神聖ブリタニア帝国)シャルルの建前(国是)を考えれば上昇志向が強い事になるので良いのだが、彼の場合は目の前にぶら下げられたそれに目が移って足元が疎かになってしまう部分があった。そういう意味では、自分とアーニャが働き過ぎて活躍の場を奪ってしまった事で焦ってしまったのかもしれない。

 

『あら、珍しいわね?マリアンヌ(あなた)が赤の他人を思いやるだなんて』

 

端末には、赤毛の妙齢の女性が映っており、気だるげで艶っぽい掴み処のない態度は彼女がマリアンヌ(ミセス・グリント)の正体を知ったうえで交友がある事を暗に示している。

 

「あら、私が居れば防げたミスで出た損害だもの。ローゼンタール卿(副司令官)もあそこの兵力も、極論すればブリタニアの全ては皇帝陛下(シャルル)()()()よ?あの人の持ち物が減っちゃったと考えるとね……」

 

「ま、立て直し(リカバリー)は利く範囲だし、反省は次に活かせばいいのよ。それより()()()()、フロドナの方はどうだったかしら?お目当ての子に出会えた?」

 

マリアンヌ(ミセス・グリント)はそんな彼女の態度を当たり前のように受け取りながら、逆に問いかける。すると、カーリーと呼ばれた赤毛の女性は狂気的な笑みを浮かべた。

 

『ええ。とても良かったわ♪エリア11を併合した際に死んでしまったと思っていた()()()と再会できて、しかも一杯戦う(踊る)事ができたもの。惜しむらくは、ユーロ・ブリタニアの連中が不甲斐無かった所為であの子を連れて帰る前にお開きになっちゃったことね』

「そこは逆に考えるのよ。また踊り明かすことができるって。折角の再開を一回きりで終わらせてしまうなんて勿体無いわ」

『それもそうね。ありがとう、マリアンヌ《ミセス・グリント》。それに、あの子と再会できたお陰で、運命はいつだって私に味方してくれるって改めて実感できた。次に会う時のために、マグダラをもっとドレスアップしなくっちゃ♪だから……今度は逃がさないわよ、()()()?』

*1
1ノット=時速1海里(1852m)




今年最後の投稿となります。
投稿ペースは不安定ですが、来年も、よろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。