コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:にゃるが

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シンジュク事変終結

「ランスロットが……」

『ぼ、僕のランスロットが~!』

 

 投入したランスロットが奪われた事でブリタニア軍が取り戻しかけていた勢いを再び失っていた。

 ランスロットの奪還に向かわせたサザーランドの部隊が、当のランスロットによって次々と撃破されていく状況に、G1ベースではクロヴィスが絶句するのは勿論、通信機越しにランスロットの開発主任であるロイドが絶叫を上げている。

 

「……ふ、ふざけるな! これまでの功績を鑑みてチャンスを与えてやったというのに、二度ならず三度までも失態を犯したまま死におって! 奪われるくらいならばせめて自爆して道連れにしろ!」

『ちょっと!? そんな理由でデヴァイサーを選出したんですか~!!?』

「黙れ! そもそも、パイロットを選ぶような欠陥機を作ったお前たちの責任だろう!」

 

 ロイドからの非難の声に、クロヴィスは体裁を取り繕う事も出来ないまま責任転嫁する。

 親衛隊隊長に任命していた男は、汚れごとを躊躇なく行える貴重な人材だったことから重宝していたが、今回の作戦では失敗を何度も塗り重ねていた。

 

── 一度目はC.C.を拘束しているカプセルを発見しながら、目撃者である若いブリタニア人と命令違反した名誉ブリタニア人の兵士を取り逃がしたこと。

── 二度目はシンジュクゲットー壊滅作戦後に拘束された状態で純血派のヴィレッタに発見された事。しかも自分達の意識を奪い拘束した者たちの事は覚えていないという体たらく。

── そして三度目が今、折角貸し与えたランスロットをみすみす奪われて死亡した事。

 

 クロヴィスは知らない事だが、歩兵部隊として捜索していた親衛隊隊長がルルーシュとスザクに倒された際、ルルーシュに仕込まれた魔法によって直近の記憶があやふやで夢心地な状態にされてしまっているのだが、その事実を知る事はすでに不可能となっている。

 

「クロヴィス殿下、今は喧嘩をなさっている場合ではございません!」

『そうですよ、ロイド主任! 今は奪われたランスロットをどうにかしないと!?』

「そ、そうだ! ロイド、遠隔操作でランスロットを自爆させることはできないのか!?」

『はぁ!? ランスロットを自爆させるなんてありえないですよ~! ランスロットの開発に予算を掛け過ぎちゃいまして、脱出装置も搭載していないんですから~! そもそも、ランスロットのシステムが既に掌握されているみたいでして~、此方からのコマンドを受け付けなくなっていますね~♪』

 

 ロイドの驚愕と好奇心に満ちた言葉に、クロヴィスは先ほどから痛みが鳴りやまないような気がする頭を抱える。

 

「クソッ! となると残存KMF部隊をランスロットに全てぶつけるか? いや、それでは他のテロリスト共がG1ベースまで素通りになってしまう。ならばテロリストを包囲して殲滅? ……駄目だ、それではランスロットに戦線を食い破られる。ど、どうしたら……」

「殿下、テロリスト共のKMFがG1ベースへ向かってきております! 御決断を!」

 

 クロヴィスが狼狽している間にも、ブリタニア軍のKMF部隊からの信号が一機、また一機と消失していく。

 クロヴィスに残された時間は短い。浅く荒い呼吸を繰り返しながら思考したクロヴィスの選択、それは──、

 

「じゅ……純血派の部隊をテロリストとランスロットの迎撃に充てて時間を稼がせながらG1ベースは後退する! 残りのKMF部隊はG1ベースの護衛に戻れ!」

 

 臆病風に吹かれて、シンジュクゲットーから離れる事を選択したのであった。

 作戦を中止したわけではない。しかし攻勢に出る事も徹底して守りを固める事もせずに戦線から離れようとするその姿勢に、クロヴィス総督からは戦うものとしての姿勢は見られなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 レジスタンスを圧倒していたランスロットの鹵獲の一報は両陣営の戦意に大きな影響を与えていた。

 

「おっしゃあああっ! ブリキ野郎どもが散り散りになっていやがるぜ!」

「このままG1ベースまで乗り込んでやる!」

 

 ルルーシュの軍略とスザクのランスロットによる一騎当千の活躍によってレジスタンス側の勢いは大いに活気づき、

 

「は、話が違う! シンジュクゲットーのテロリスト狩り(ごみ掃除)のはずだったのに!? ぐわああっ!!!」

「グエンがやられた! イレヴン如きに我らブリタニア軍が……うわああああっ!」

 

 ブリタニア軍側が統率が大きく乱れて分断され、レジスタンスたちに各個撃破されていく。

 ランスロットが二機のサザーランドをすれ違いざまにスラッシュハーケンで撃破した所で、両肩を赤く塗装したサザーランド二機を引き連れたサザーランドが向かってきた。

 

『今こそ、純血派の力を奴らに見せる時だ!』

「ヴィレッタ、キューエル卿! 私がランスロットを相手する。支援を頼む!」

 

 リーダーであるジェレミアを筆頭とした純血派ブリタニア軍人が、ランダム機動で狙いを定めさせないようにしながらランスロットに接近する。なお、純血派の機体は両肩が赤く塗装されているが、ジェレミアの機体だけは既に一度撃破されてから再出撃しているため、通常仕様のサザーランドだ。

 ランスロットはヴァリスではなく、先ほど撃破したサザーランドから強奪したアサルトライフルを撃ちながら、ジェレミア達から逃げるように走る。

 

『あの新型機は性能こそサザーランドを大きく凌駕するが、その代償にエナジー消費の激しさから稼働時間が短いという欠点があると開発者は証言していた。破壊力に勝る新武装ではなく、わざわざサザーランドから奪った兵装を使用している事が、残りエナジーが乏しい証左だ!』

「ランスロットを奪われたパイロットがその前に惜しみなくエナジーを使用していたからな。決して逃がさずに追いつめるぞ!」

 

 ランスロットが突き当りの丁字路を左に曲がる。ジェレミア達もランスロットを追って左に曲がる。すると、眼前には陥没した道路を跳躍して跳び越えるランスロットの姿が。

 陥没地点までの距離とサザーランドの速度では、先頭を走っていたジェレミア卿のサザーランドは急停止しても止まり切れずにそのまま落下してしまう。

 生半可なブリタニア軍人であったならば、対応できずに陥没した道路へと落下していただろう。しかし──、

 

「なにぃ! 舐めるなぁっ! 届け、わが忠義ぃ!!!」

『『ジェレミア卿!?』』

 

 ジェレミアはサザーランドをさらに加速させ、跳躍しながらスラッシュハーケンを陥没した先に続くビルの壁面に打ち込んで巻き取る事で、落下を免れた。辺境伯の地位をその武力でもって勝ち取っているゴットバルト家の軍人だからこその機転と決断力だ。

 尤も、それによってヴィレッタ達とは陥没した道路を挟んで分断され、向き直ったランスロットと至近距離で相対する事になってしまう。それでも、ジェレミアは臆することなく跳躍による加速をつけたままスタントンファーを展開し、ランスロットに白兵戦を仕掛ける。

 

 一手目。サザーランドのスタントンファーを、ランスロットは腕部で下からかち上げて逸らす。ランスロットのパワーでかち上げられたサザーランドの腕部が悲鳴を上げて軋む。

 二手目。ランスロットの反対側の腕部についたスラッシュハーケンとサザーランドのスタントンファーが激しくぶつかり合い、数瞬の拮抗の後にサザーランドの腕部が切り落とされる。

 三手目。ランスロットがその勢いのまま回し蹴りを放つ。サザーランドは二基のスラッシュハーケンを一方は相殺目的でランスロットの足に当て、もう一方は反対側の壁面に打ち込んで巻き取る事でスラッシュハーケンを一基喪失しながらもギリギリで回避する。

 

 ランスロット相手に機体性能で劣るサザーランドで、それもランスロットが有利な状況での白兵戦で数手の打ち合いを演じた事は、ジェレミア卿のパイロットとしての実力の高さを証明していた。

 しかしたった三手でジェレミアのサザーランドは満身創痍となり、ランスロットは無傷。しかもヴィレッタとキューエル卿の方を見れば反対側の道路の陥没部分に隠れ潜んでいたと思しきテロリストのサザーランド達による奇襲を受け、無事コックピットの脱出機能こそ働いているもの陥没した道路にサザーランドが落下している。

 その現実をいち早く受け止めたジェレミアは、手動で脱出装置を起動させサザーランドを時間差自爆させることで道路をさらに崩落させてランスロットの足止めを行う事を優先した。

 

「二度も敗走するとは、何たる屈辱! 次に相まみえた時こそ討ち取ってみせるぞ! ランスロットのパイロット! 赤いグラスゴーのパイロット!」

 

 

 ────────────────────

 

 

 純血派のサザーランド2機と腕利きのサザーランド1機を撃破したスザクとマーヤ達。通信からはレジスタンスの歓喜の声が次々と上がっていく。

 

『やったあああ! ブリキ野郎どもが逃げていくぜ!』

『ブリタニア軍を……俺達が退けたんだ!』

『本当に生き残れるだなんて……!』

 

 失われた命はもう戻らない。住民の多くを殺されたシンジュクゲットーは街としての機能は近いうちに失う事となるだろう。

 それでも、守れた命がある。取り戻せた誇りがある。

 

『お疲れ様……S1』

「K1もお疲れ」

 

 マーヤとスザクは互いに健闘を讃え労う。

 

『なあ、S1。ちょっといいか?』

 

 シンジュクゲットーを拠点とするレジスタンスのリーダー、扇要がスザクに通信を繋ぐ。

 

「はい、こちらS1。どうかしましたか?」

『ブリタニア軍は撤退を開始したが、追撃したほうが良いか? それに、俺達にナイトメアを提供してくれた上に戦闘を指揮してくれていたゼロを見ないんだが』

「これ以上のブリタニア軍への追撃は不要です。各員はナイトメアの隠匿をお願いします。ゼロは……今回の戦いを終わらせるための最後の一仕事をしに行きました」

『それはどういう……?』

 

 扇が疑問の言葉を投げかけようとした時、全周波通信をKMFの通信機が受信する。

 

『全軍に告ぐ! 直ちに停戦せよ! エリア11総督にして第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアの名のもとに命じる! 全軍、直ちに停戦せよ。建造物などに対する破壊活動もやめよ。負傷者はブリタニア人、イレブンに関わらず救助せよ。──』

 

 それはクロヴィス総督による停戦命令。

 シンジュクゲットーの壊滅命令を出した者とは思えない内容に、レジスタンスは首をかしげ訝しみながら、スザクは呟いた。

 

「よし……。ゼロは上手くやったみたいだね」

 

 

 ────────────────────

 

 

「貴様……誰だ!? なぜCODE-Rを連れている!」

 

 照明の光を失ったG1ベースのメインブリッジでは、ヘルメットによって素顔が見えない兵士と困惑した様子のクロヴィス、そしてC.C.が相対していた。

 クロヴィスの周囲には他に意識がある者はいない。我が家に戻ってきたかのような気楽な雰囲気でメインブリッジに入ってきたC.C.が、クロヴィス以外の者たちにショックイメージを叩きつけた事で、他の者たちは全員意識を失ってしまった。

 そしてクロヴィスが狼狽している間にこの兵士が入ってきて、銃を突き付けて停戦命令を出すように脅迫してきたのだ。

 言われるままに停戦命令を出させられる屈辱に甘んじたが、何者なのかを何としても問いたださなければならないとクロヴィスは考える。

 父である皇帝陛下に不老不死の秘密を献上しようとしてC.C.を捕らえて秘密裏に研究材料としていたのだから、一兵士がその事実を知るわけがない。十中八九、どこかの反抗勢力が背後に付いているはずと考えての事だ。

 クロヴィスの問いに兵士はふっと嗤うと、ヘルメットを外して名乗りを上げる。

 

「お久しぶりです。兄さん。今は亡きマリアンヌ皇妃が長子、第17皇位継承者──ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」

「しかし、お前は……」

「死んだはず……ですか」

 

 ルルーシュは戦況を表示する立体モニターに手を掛けながらクロヴィスに言葉を返す。

 

「戻ってまいりました。殿下。全てを変えるために──」

 

 死んだはずの腹違いの弟との再会に、クロヴィスは震える声で喜びの言葉を紡ぐ。

 

「う、嬉しいよ。ルルーシュ。日本占領の時に死んだと聞いてたから。やあ、良かった。生きていて。どうだい? 私と本国に──」

「また外交の道具とする気か。お前は何故俺達が道具になったか忘れたようだな」

「うっ……!」

「そう……母さんが殺されたからだ。母の身分は騎士候だったが、出は庶民だ。他の皇女たちにとってはさぞや目障りな存在だったんだろうな……。しかし、だからと言って、テロリストの仕業に見せかけてまで……母さんを殺したな!」

 

 憎悪の瞳を滾らせるルルーシュに、クロヴィスは数歩後退りながら弁明する。

 

「私じゃない! 私じゃないぞ! 本当に私じゃないぞ! やらせてもいない!」

「なら、知っている事を話せ。誰だ、母さんを殺したのは?」

「そ、それは……第2皇子シュナイゼルと第2皇女コーネリアならば知っているはずだ!」

「あいつらが首謀者か?」

「そ、それは分からない! 本当だ! 信じてくれ!」

 

 クロヴィスは役者のように立場を演じる事を得意としているが、切羽詰まった弁明からは彼が嘘をついている時に出てしまう微かな癖は一切見られない。

 

「こいつの言っている事は本当だぞ、ルルーシュ」

「なぜおまえがそう断言できるのかは置いておくとして、信じよう。しかし……」

 

 これ以上は情報を得られないと判断したルルーシュは、クロヴィスの額に銃口を突きつける。

 

「や、やめろ! 腹違いとはいえ、実の兄だぞ!」

「兄さん……俺はね、今日の昼頃まではブリタニアへの復讐心を捨てるつもりだったんだ」

「ル、ルルーシュ……?」

「俺はこのシンジュクゲットーに孤児院を建てていてさ、そこで戦災孤児を養っていたんだ。子どもたちは皆素直で、ナナリーとも良くしてくれていた。俺はナナリーと孤児院の子供たちのために、母親の敵を討つ道を捨てて穏やかに生きていこうと思っていたんだ」

 

 ルルーシュの一人語りに、クロヴィスは少しずつルルーシュが自分に銃口を突きつけている本当の理由を悟る。

 

「だが……ブリタニア軍はその孤児院を、子どもたちを皆殺しにした! クロヴィス兄さんが命令した、シンジュクゲットーの壊滅指令でだ!」

「ま、待ってくれ! 悪いのは私じゃない! 悪いのはテロリスト共だ! 毒ガスを盗み出してテロを起こそうとしたテロリストを潰すために仕方なく!」

「ふ、ふふふ……毒ガスか。この女のどこが毒ガスなんだ? 答えてくださいよ、兄さん?」

「魅力的な女には、男を狂わせる毒があるものだからな。まあ、童貞坊やには分からないだろうがな」

「童貞は関係ないだろう! 童貞は!」

 

 これから殺す相手とはいえ、肉親の前で童貞であることをバラされたルルーシュは思わずC.C.に反発する。

 

「……へ? まさか、親衛隊が発見した若いブリタニア人というのは!? それと、ルルーシュ……まだ童貞なのか」

「孤児院に通っていたというあの女なんかどうだ?」

「俺を憐れむな! それとマーヤとはそういう関係ではない!」

 

 クロヴィスを殺す雰囲気が削ぎ落され、ルルーシュに迷いが生まれる。それでも、銃口はクロヴィスに突きつけたままだ。此処で銃口を降ろしてしまったら、クロヴィスを殺す決心がにぶってしまうだろうから。

 そうしている間にクロヴィスは、何故こんな事になったのかを走馬燈を介して思い返す。そして、

 

「……あ、あいつだ。あいつが私に不老不死の話を吹き込まなければ!」

「あいつ? 不老不死? 何の話だ、答えろ!」

「そこの女、C.C.は不老不死の魔女だ! 私は、父上に……皇帝陛下に不老不死の秘密を献上するために研究していたんだ!」

 

 この世界の事しか知らなければ、ルルーシュはクロヴィスの話を苦し紛れの作り話と一笑に付していただろう。しかし、自分が7年前に流れついた先の世界──より正確にはその世界を介して知った他の次元世界──では、過去の文明の権力者は不老不死を疑似的に実現していたという。その方法は、記憶と人格を継承したクローンの製造。

 あの皇帝がそのような方法で納得するとは思えないが、それでも不老不死の魅了に跳びつく者は数多くいるであろうことは容易に想像できた。

 

「あの男が不老不死になるなど、身の毛がよだつな。それで、兄さんにその話を吹き込んだ奴というのは誰なんだ」

「ラ……ラウンズの一人、ナイトオブファイブだ! ナイトオブファイブのヴィクトリア・ベルヴェルグが私にこの話を……!」

「ラウンズ……とんだ大物が出てきたな」

「あの男は嫌いだ。此処の奴ら以上に私を実験動物(モルモット)としてしか見ていない」

 

 皇帝直属の騎士であるラウンズの名前が出てきた事に、ルルーシュは出来る限り早い段階で纏まった戦力が必要となる事を実感する。それも、ブリタニア軍に負けないような強力な戦力が。

 

「な、なあ……ルルーシュ。復讐なんてやめないか? 死んでしまった孤児だって、ルルーシュが人殺しになる事は望まないはずだ」

「……」

「ルルーシュ達の事は皇帝陛下には一切伝えない。生活だって保障する。これからはイレブンにも優しい政策を心がけるようにする。だ、だから──」

「兄さん。決心が付きました」

「じゃ、じゃあ……!」

「俺が復讐を諦めるという選択肢は、貴方がシンジュクゲットーの壊滅命令を出したあの時に失われてしまった。俺は……止まるわけにはいかないんです」

 

 ルルーシュの言葉とともに、一発の銃声がメインブリッジに響き、クロヴィスが崩れ落ちる。その額には銃弾による穴が開いていた。

 クロヴィスが復讐を諦めるように言わなければ、表舞台からこそ退場してもらうが別人として生き残れる道はひょっとしたらあったかもしれない。

 しかし、そうはならなかった。クロヴィスは自らの余計な一言の所為で、自らの人生に幕を引くこととなってしまったのだ。

 

「……あの世で子どもたちに詫び続けてください、クロヴィス兄さん」

「良かったのか? クロヴィスが総督のままの方が、色々と裏で動きやすかっただろう?」

「今回の一件でクロヴィスはどのみち終わりだ。それに、全てを失いながら惨めに生きていけるような人ではないんだよ。だったら、此処で殺してやるのが慈悲というものだ。それに、この戦いを終わらせるためにクロヴィスを殺すと、あいつらにも約束していたからな」

「随分と甘ちゃんなんだな」

「うるさい。さて……G1ベースの監視カメラや照明の機能はダウンさせておいたが、クロヴィスの話が本当ならば万が一にもデータが残されてしまっているかもしれん。念のために記録をクラックしておくか」

 

 ルルーシュは、サーチャーを数個展開して周辺のコンソールに取り付かせ、保存されている記録をでたらめに改竄していく。これで自分とスザクに関する目撃情報の痕跡を消し去って時間を稼ぐことができる。

 時間を掛ければG1ベースの機能そのものを掌握することもできるかもしれないが、情報量が多すぎておそらく数日単位で時間がかかる上に、隠す場所がないなどのデメリットがメリットを遥かに凌駕しているのでその案は却下する。

 

「それにしても……。よりにもよってあの二人か……。しかも別件でラウンズも介入してくる可能性がある。一筋縄ではいかない相手だな」

 

 ルルーシュは今後の動きを思考のマルチタスクで並列思考しながら、再びヘルメットを被り兵士になりすましてG1ベースを脱出する。流石にこの姿で転移してレジスタンスにブリタニア軍と間違われるのは御免被りたい。

 母を殺した者と関りがある可能性が出てきた第2皇子シュナイゼルと第2皇女コーネリア。方向性は違うもののシュナイゼルは軍略家、コーネリアは軍人としてブリタニア皇族の中でも屈指の実力を持つ人物だ。

 出来れば直接関与することなく無力化出来れば最高だったが、真偽も含めて問いたださなければならない以上。避けては通れない相手でもある。

 それに、クロヴィスが言い訳としてレジスタンスの存在を挙げていたが、彼らにも責任の所在がある事はルルーシュも理解している。

 生きるために支配者側が犯罪であると定義している行為を実行した経験は、ルルーシュにもある。彼らの行動を否定する事は、ルルーシュの今を形作る過去を否定することに他ならない。

 だからこそ、孤児院の子供たちが殺される遠因を生んだレジスタンスに対しては複雑な感情を抱きながらも、今回は共闘したのだ。

 

「なあ、ルルーシュ……」

「なんだ?」

「本当に魔法は何でもありだな。他の奴らにも教えて仕込んでやればいいんじゃないのか?」

「便利なのは確かだが、使い手は先天的な適正に加えて才能と努力が相応に求められるからな。それでいて、KMFを破壊できる威力となると、必要となる魔力量も相応に大きくなる。俺が知っている魔導師にそれができそうな人物は……割といるが、彼女たちは上澄みの中の上澄みだ。KMFの相手はKMFで行う方が、遥かに安全で確実なんだよ」

 

 魔法を使うためには、先天的にしろ後天的にしろ「リンカーコア」と呼ばれる特殊な器官が必要となる。さらに魔法を効率よく運用するためにはその魔導師に合ったデバイスを作る必要もある。デバイス無しで高度な魔法を使えるルルーシュが非常に珍しいのだ。

 

「ならば、管理局とか言う組織の力を借りるのは?」

「愚問だな。この戦いはこの世界の中で完結するべきものだ。ブリタニアが次元犯罪者と結託でもして他所の世界に侵略を仕掛けてでもいない限りは、俺たち自身の手でどうにかするべきだ」

「ほう……意外と手段をえり好みするのだな」

「目的のために手段を択ばないという言葉があるが、選んだ手段の所為で目的を達成できなくなっては本末転倒だ。俺は管理局をこの世界の管理者にしたいわけじゃない。俺はこの世界を弱者にも優しい世界にしたいんだ」

現実主義者(リアリスト)の皮を被った理想主義者(ロマンチスト)という訳か。童貞坊やらしいと言えばらしいか」

「だから童貞は関係ないだろう……」

 

 状況的に怒鳴るわけにもいかず、ルルーシュは小さく項垂れる。クロヴィスの相手をしていた時よりも、C.C.の相手をする方が何倍も疲れるような気がする。

 いや……ひょっとしたらC.C.は気を使ってくれているのかもしれない。自分の表面上の体裁は繕えているはずだが、内面は半分は血を分けた兄弟をこの手で殺したことでぐちゃぐちゃだ。

 胃酸が喉にこみ上げて吐きそうになる感覚を必死に押しとどめる。こんなにも自分は神経が細かったのかと自嘲する。

 だが、これは自分が生涯に渡って背負わなければならない業だ。それくらいしなければブリタニアを倒すなど夢物語なのだから。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ──エリア11。キュウシュウ某所深夜

 

 ゲットーの一つにある廃倉庫では、数人の男が取引を行っていた。

 中華系の顔立ちの男たちから商品を受け取った若々しい男が、複数のトランクケースを開けてその中に満載された紙幣や貴金属類を相手に渡す。

 

「では、商品はいつもの手はずで。またのご利用をお待ちしております」

「ええ。今後ともよき取引を」

 

 男たちが取引している物は麻薬。リフレインと呼ばれるエリア11でイレブンを中心に蔓延している薬物で、使用者に過去の幸福だったころの幻覚を見せる常習性が強い危険な代物だ。

 中華系の男たちが立ち去ったのを確認し、男もその場を離れようとした時、男の携帯端末が静かに震えた。男は携帯端末を取り出して相手を確認すると、そのまま通話を始める。

 

「私だ。CODE-Rに何か変化が起きたか?」

「──、──」

「なに? CODE-Rを奪われただと? それに、クロヴィスが暗殺されたと。犯人は? ……そうか、まだ不明か。ヴィクトリア様には此方から連絡を入れておく。お前はバトレーの下で情報を集めろ」

 

 エリア11のブリタニア軍内部でもごく一部しか知らないはずの情報を、眉一つ動かさずに聞きながら指示を出してそのまま通話を切る。

 

「まったく、クロヴィスめ。ヴィクトリア様の期待を尽く裏切りおって。これで新たに赴任する新総督が優秀な人物だったら、此方の取引もやり難くなるぞ。まだあの地(・・・)へのリフレインの浸透は不十分だというのに」

 

 忌々し気にそう吐き捨てながら、男は今回の取引で得たリフレイン──その量は400㎏相当──を積んだ多数のセメント袋に偽装した複数の袋とともに、忽然と姿を消したのであった。




原作では空席であったナイトオブファイブにオリキャラのヴィクトリアを追加。彼がクロヴィスを唆してC.C.の不老不死の研究を行わせていた事に。
そしてエリア11には彼の手のものがどうやら複数いる模様。
男性なのにヴィクトリアであることは、今後の伏線に……なるかも。

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