マーヤはシンジュクゲットーでの戦いが終結したのを受けて、ルルーシュの手引きでブリタニア軍に気づかれないように東京租界に戻った。
両親を7年前の戦争で喪ったマーヤは、身元保証人であるクラリスという女性と暮らしている。クラリスはエナジーフィラーの研究で家を空けている事が多いが、昨夜遅くに帰ってきたマーヤの事を深く心配していたようだ。
そんなクラリスに対してマーヤは辛く当たっては自己嫌悪に陥ってしまう事が以前から度々あった。
その翌朝、クラリスが仕事で朝早くから家を出る事を知っているマーヤは、いつか謝らないとと思いながら昨日起きた出来事がニュースになっているはずだと考えてテレビをつける。
幾つかの無関係のニュースを流しているチャンネルを切り替えていく。すると、
『──。先ほど、政庁より発表がありました。犯人は有毒な化学薬品を盗み出し、毒ガスを精製。テロを計画していたものと思われ──』
「毒ガス……!? ウソ! レジスタンスが盗み出したのはC.C.さんで、そんなものは使われていない。ゲットーの人たちを殺したのはブリタニア軍じゃない!」
事実とまるで違う報道に、マーヤは胸の奥から怒りが湧き上がってくる。
「全部、なかった事にするつもりなの? 街を焼き払った事も、陽菜たちの死も……! ブリタニア!」
やはりブリタニアは壊さなければならない。マーヤは改めてそう誓うのであった。
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シンジュクゲットーで引き起こされた事実を隠蔽しようとする政庁に対してマーヤが慟哭していた頃、ルルーシュも仕事の拠点としているテナントで見ていたテレビから同じ政庁の発表を聞いていた。
(毒ガステロ未遂事件として隠蔽されている? クロヴィスの死を隠すという事は、混乱を防ぐためか? あるいは──)
ルルーシュは考えられる十数パターンの可能性を頭の中でシミュレートしながら、シンジュクゲットーで大量に消費されることとなった医薬品の発注を並行して進めていく。
クロヴィス総督(故)に出させた命令でシンジュクゲットーにいた者たちの救助・治療活動をブリタニア軍に行わせたものの、彼らによる治療行為はその場限りのものだ。生存者の中にはこれから長期にわたって治療を続けなくてはならない大怪我を負った者もいるはずだ。それに、死者の埋葬も速やかに行わないと伝染病の発生源となってしまいかねない。
「……はぁ、ナナリー」
ルルーシュは事後処理に追われながら、愛しい妹の名を呟く。
8年前の母が暗殺された事件で足を怪我して動かせなくなり、目も精神的なショックで開くことができなくなった事で光を失ったナナリーは今、自分達の後ろ盾でもあるアッシュフォード家が運営しているアッシュフォード学園の中等部として学生生活を送っている。
足が不自由である事から、ナナリーは他の生徒とは違って学園内のクラブハウスに住んで家政婦の補助を受けながら生活しているが、ナナリーだけ学園に通わせているのは、妹には一生に一度しかない青春をちゃんと謳歌してほしいと考えたからだ。それに、ナナリーがいつか自分の手を離れて自立しなくてはならない日が来ることを考えると、例え足と目にハンデがあっても学園を通して様々な事を学ぶことは必要不可欠だ。
本音を言えば、ナナリーにずっと付き添ってやりたいという想いはある。しかし、それはナナリーの自立と成長を妨げる事になり、かえって妹のためにならないので断腸の思いで起業した際に自分はクラブハウスを出たのだ。
ふと、ルルーシュはもう一人の家族たちだったある少女の事を思い出す。彼女もナナリーとは原因こそ異なるが足が不自由だったが、元気で明るく、それでいて責任感が強く優しい少女だった。彼女は足が不自由だった原因から解放されてから7年経過したが、ちゃんと歩けるようになっただろうか?
「……そういえば、スザクの奴は自炊とかできるのか?」
シンジュクゲットーでの一件の後、ルルーシュはレジスタンスとスザクをブリタニア軍に発見されないように別々のルートで撤退・潜伏させている。
そうそう見つかる事はないだろうし、見つかってもスザクの身体能力ならばどうにかなるだろう。しかし、いくら体力お化けのスザクでも日々の食事は必要不可欠だ。バランスの悪い食事は身体能力の低下を招き、自分達の計画に支障をきたしかねない。
「……しょうがない、アッシュフォード学園への搬入が終わった後に様子を見てくるか」
租界で購入しておく食料品の目録を頭の中にメモしながら、ルルーシュは起動していたパソコンの電源を落として外出の準備を進める。
頭の中では色々と理屈をつけて言い訳しているが、ルルーシュは身内と認定した相手には甘い男である。
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紅月カレンは扇の勧めで、シュタットフェルト家の令嬢であるカレン・シュタットフェルトとして久しぶりにアッシュフォード学園に顔を出していた。
一生に一度しかない青春を送らせてあげようと彼が気を使ってくれているのは理解できる。しかしブリタニア人と日本人のハーフとして日本で生きてきたカレンにとって、自分はブリタニア人ではなく日本人であるという意識は強く、出来る事ならば学園に通うよりもレジスタンスとしてブリタニアと戦っていたいのが本音だ。
「カレン、元気だった?」
「体は大丈夫?」
「ソフィちゃん、心配していたよ?」
シュタットフェルト家の令嬢としての自分を心配してくれる学園の生徒たち。レジスタンスとして活動するために病弱という設定で学園に通う頻度を減らしている弊害で、偶に来た時にはこうやって質問攻めにあうのだ。
彼・彼女たちの心配が上辺だけのものではない事は分かっている。しかし、
「うわっ、毒ガステロだってよぉ……」
「私、新宿で見た! あの煙、毒ガスだったんだ」
「やっぱ、イレブンって野蛮だよなぁ」
シンジュクゲットーで起きた出来事の真相を知らないまま、学生たちが口々にする差別や偏見の言葉は、カレンの心に波風を立てて苛立たせる。
しかし此処で怒りを面に出してしまったら今までの苦労が水の泡になってしまうので、カレンは周囲に上辺の笑顔を向けて相槌を適当に打つ。
そうして中庭で談笑していると、クラスメイトの女子たちが悲鳴を上げ始めた。何処からか入ってきた蜂が近くに飛んできたようだ。
「キャー!」
「蜂よ! 蜂が!」
「えっ?」
「カレンさん、逃げて!」
「「「キャーっ!」」」
ブブブッ! と羽音を立てて蜂が近寄ってきて一目散に逃げだす女子学生たち。
「こんなところに蜂だなんて……。蜂の巣でもあるのかしら」
カレンはそう思いながら、目にもとまらぬ速度で近寄ってくる蜂を叩き落す。
「ああ~イライラする! 病弱なんて設定にしなきゃよかった」
本来の性格や能力を、周囲の目がある時は隠さないといけないもどかしさとイラつきから、カレンは思わず悪態を口に出す。
そこでふと周囲に意識を向けると、自分を見ている若い男がいる事に気が付いた。
(ヤバ、見られた……!)
黒い髪と紫の瞳をした眉目秀麗な顔立ちに思わず見惚れてしまいそうになりながら、カレンがこの男が何者なのか考える。アッシュフォード学園の制服ではないことからこの学園の生徒ではなく、しかしこんな中庭まで堂々といる事を考えれば不法侵入者という訳ではないだろう。学園の卒業生かアッシュフォード家の関係者だろうか?
「な、何か用かしら?」
カレンは病弱な令嬢である事を取り繕いながら、男に問いかける。
「手は痛くないか?」
「えっ?」
「あの種類の蜂は刺されるとその部分が酷く腫れるからな。一応、保健室で診てもらったほうが良い」
「あ……心配してくれてありがとう」
「それじゃ」
カレンを気遣うような口ぶりをした男は、そのままその場を離れていってしまった。
「……何だったのかしら。……ん? あの声、どこかで……」
最近、どこかで聞いたことがある様な気がする声だったが、誰であっただろうか? カレンは首を傾げながら念のために保健室に行くことにするのであった。
カレンが首を傾げている一方で、中庭を出た少年──ルルーシュは、ある確信を抱いていた。
(間違いない。シンジュクゲットーでの赤いグラスゴーのパイロットの女だ)
ルルーシュはカレンがレジスタンスの人間であるという確信を抱き、次いでブリタニア人の令嬢である彼女がなぜそのような活動を行っているのかに対して疑問を持つ。
それに、先ほど簡易探査を行った事で判明した事だが、彼女にはリンカーコアが存在する。この世界の人間がリンカーコアを持っている事は非常に稀なので、興味深い。
「あのグループに関しては、一度調べておく必要がありそうだ。それよりも……」
カレンについては追々調べる事にして頭の片隅に追いやりながら、ルルーシュはこれからマーヤと合流してナナリーに伝えなければならない事を思い返す。
それは、シンジュクゲットーの孤児院がブリタニア軍に破壊され、孤児たちも職員も全員死亡してしまった事だ。
早朝から事後処理や今後の予定に思考を無理やり割くことで考えないように努めていたが、心の支えの一つを粉々にされた喪失感はやはり大きい。
ましてや孤児院の子供たちは、学園が休日の時に来訪するナナリーに懐いていたし、ナナリーもあの子たちと遊ぶのを楽しみにしていた。だからこそ、ナナリーに現実を教えなければならない事がとても辛い。
心優しいナナリーの事だ。孤児院に起きた出来事を知れば、自分自身に降りかかった悲劇のように悲しむだろう。知らなければ悲しむことはないかもしれないが、永遠に隠し通すことなど不可能だし、それは現実逃避でしかない。
ならばせめて、自分の口からナナリーに伝えてやりたい。
「本当に……世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだな。だからこそ、俺は……」
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「はあ……これからどうしましょう。ランスロットがテロリストに強奪されてしまった件をシュナイゼル殿下にどう釈明したら……」
クロヴィスの全軍への停戦命令が発令された翌日、特派の拠点でもあるヘッドトレーラーではセシルが悲観した表情で呟く。
ランスロットは特派の年間予算の殆どをつぎ込んで開発された、採算性を度外視して徹底的に高性能化を突き詰めた機体だ。そのような機体が初めての実戦でテロリストに奪われブリタニア軍に猛威を振るったという事実は、エリア11における特派の今後に大きな暗い影を落とすことになるだろう。
特派が冷遇されるようになる結果ならばまだマシだ。解体されてバラバラに閑職へ左遷されるかもしれないし、場合によっては責任を取らされて投獄されてしまう可能性だってある。
「ん~……、ランスロットを強奪した人間、何者なんだろうね~」
「ロイド主任、こんな時に何を考えているんですか!?」
「いや~、だってさぁ……僕が開発したランスロットは、はっきり言っちゃうとそんじょそこらの人間じゃ乗りこなせないじゃじゃ馬KMFだよ~。それを初めて乗ったばかりであれだけ動かせるって言う事は、その人間とランスロットの適合率はかなり高いって言う事。僕の予想だと適合率は85……いや、90%以上は確実にあるね~♪」
冷蔵庫からプリンを取り出し、食べ始めながらロイドは話を続ける。
「そして、僕がデヴァイサー候補として目を付けていた名誉ブリタニア人である枢木スザクのランスロットとの適合率は、事前の適正テストで計ったシミュレーター上ではあるけれども94%。当の本人は今回の作戦中に行方不明。これって、偶然だと思う?」
「……! まさか、ロイド主任は彼がテロリスト側に加担したと?」
「可能性の話だけどね~。それと、他にも気になる事があるんだ」
「他にですか?」
「うん。ランスロットのシステムに誰がどうやって介入したのかがね~」
そもそもランスロットが強奪されたのは、戦闘中にランスロットのコックピットが勝手に開き、テロリストに乗り込まれたことが原因だ。
ランスロットに使われているセキュリティは、特派が専用に開発した最新型。ハッキングで易々と突破できるようなものではないし、そもそもハッキングを受けたならば特派のメンバーが気が付かないはずがない。
しかし、現実にはランスロットはシステムに介入が行われた結果、強奪される切欠となってしまっている。
残りのプリンを頬張り、スプーンをタクトのように振りながら、推測する。
「僕としては、ランスロットのモニター画面にちらっと映った球体が怪しいんだよね~。ランスロットのファクトスフィアは勿論、他の計測機器でも観測できなかったステルス性に加えて、もしもあの球体がランスロットのシステムに介入した物体だとしたら、急いで対策しないと情報が筒抜けになっちゃうからさ~」
「確かに……。ですが、テロリストはそのようなものを一体どうやって──」
ロイドの考察に対してセシルが疑問を呈しようとしたところで、ヘッドトレーラーに衝撃が走った。
「きゃぁっ!」
「うわ~っ!」
ロイドたちは近くのものに掴まって転ばないように体勢を立て直しながらモニターを確認すると、複数のブリタニア軍所属のサザーランドと軍用車両が特派のヘッドトレーラーを取り囲みヘッドトレーラーにぶつかってきたのだ。
昨日の事があったとはいえ、ブリタニア軍の領域内だからと気が抜け過ぎていたようだ。
「まさか、ブリタニア軍に偽装したテロリストが!?」
「いや、これは……」
テロリストにここまで侵入されたのかと驚愕するセシルに、ロイドは外部モニターに映る軍用車両を指差して否定する。
軍用車両から出てきたのは、ブリタニア軍の兵士。それも、クロヴィス親衛隊であることを示す赤い軍服と帽子の兵士たちだ。
クロヴィス総督の死を切欠にその勢いが急速に失われている落ち目の勢力がこのような強硬手段に出る事実に、ロイドとセシルは背筋が寒くなる様な嫌な予感を抱くのであった。
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夜の世界となった外の月明かりも届かないシンジュクゲットーの地下。現在は廃棄された地下鉄網の一角に、ゲットーでは中々嗅ぐ事ができないような香ばしい香りが漂う場所があった。
香ばしい香りの中心には、スザクに説教しながら調理を進めるルルーシュの姿があった。
「まったく……用意しておいた非常食を早々に使い切る馬鹿がいるか!」
「あはは……ごめん、ルルーシュ。逃げる途中でお腹を空かせている子供たちがいてさ。その子たちに分けていたら自分の分が無くなっちゃって」
幼少期は自分本位で我儘な所が多かったスザクが、他人のために自分のものを分け与えるようになった事にルルーシュは7年間の月日による変化を感じながら、租界で購入しておいたカット野菜とこま切れ肉を使った野菜炒めの調理を続ける。
熱源はあの世界にあったカセットコンロを参考にしてこの世界の技術で再現した持ち運び可能な電動コンロ。自分が経営している会社が他のレジャー系の会社と提携して開発し販売している商品でもあるが、火を使う台所を用意できない環境でも利用できるので持ってきたのだ。
電動コンロに乗せたフライパンから、ジュウ……という肉と野菜が焼ける音が聞こえる。
「あぁ……良い香り」
「もう少し待て。それから途中で出会ったという子供たちの場所を後でリストアップしておいてくれ。後で保護しておく」
「分かった。でも良いの? 孤児院は……」
スザクが言おうとしている事は分かる。シンジュクゲットーで運営していた孤児院はブリタニア軍によって破壊されてしまったのに、受け入れる余裕はあるのかだろう。
「お前が言いたい事は分かる。だからといって諦めたくはないんだ。……ほれ、出来たぞ」
孤児院と共に喪われた命はもう戻らない。だからといってそこで諦めてしまったら、これから先の未来で救えたかもしれない命を救えなくなってしまうかもしれない。
ルルーシュはスザクと会話をしながら、野菜炒めを塩・胡椒で簡単に味を整えて二人分の紙皿に野菜炒めをよそっていく。
「いただきます」「いただきます」
「ん、少し濃い目に味付けをしたが、俺には塩気が強かったか」
「そう? 僕にはちょうど良い塩梅だけれども。あ、でもご飯は欲しかったかも」
「我儘を言うな。こんな所で米を美味しく炊くのにどれだけ労力が必要だと思っているんだ。それに租界だと米は供給が少なくて貴重なんだよ」
「確かに、僕が軍にいた頃を思い返しても、ブリタニア人でお米を食べている人は見かけなかったなぁ……名誉ブリタニア人がぼやいてるのはよく聞いたけれども」
「奴らにとって、よその国の文化は否定し塗りつぶすものだからな」
二人は雑談を挟みながら野菜炒めを完食して腹を満たす。そしてルルーシュは持ち込んだノートパソコンを起動して、複数の画面で情報を収集しながらこれまで集めた情報のアウトプットを始めていた。
──マーヤ・ディゼル
アッシュフォード学園の生徒で成績は優秀だが不登校気味。
戦争以前から日本で暮らしていた日本人の父とブリタニア人の母の間に産まれたハーフ。両親はブリタニアによる日本侵略の戦争の際に死亡。
現在はエナジーフィラーの研究を行っているクラリスという女性が身元引受人となって一緒に暮らしている。
サザーランドで立体機動戦闘を可能とする技量の持ち主だが、KMFの訓練経験は無し。リンカーコアの存在を確認できたことから魔導師としての適正もある事が推測できる。
──カレン・シュタットフェルト。
アッシュフォード学園の生徒で成績は非常に優秀。学園を休みがちなのは身体が弱いからという事だが、レジスタンス活動に身を置いている事からそれは
シュタットフェルト家の令嬢だが本妻の娘ではなく、シュタットフェルト家のメイドとして働く日本人が母親のハーフ。本名は紅月カレン。
所属するレジスタンスは扇グループ(仮称)。グラスゴーでサザーランドと渡り合える高い技量の持ち主で、リンカーコアの存在を確認できたことから魔導師としての適正もある事が推測できる。
──扇要
レジスタンス扇グループ(仮称)の現リーダー。以前は紅月カレンの兄である紅月ナオトがリーダーの組織で、ナオトが死亡して以降は勢力図が縮小傾向にあった。
性格としては自ら物事を決めるタイプではなくもっぱら調整役。組織のリーダーよりもその補佐に配置してこそ能力を発揮できるタイプ。
元教師である事から同グループ内の若い構成員の教育なども担当している用だが、教材の不足や教育環境が劣悪であることから成果は芳しくない模様。
次々と調べた情報を打ち込んでいくルルーシュの脇から、スザクが画面を覗き見する。
「へえ……。このカレンっていう子とマーヤ、魔導師の適性があるかもしれないんだ」
「ああ、この世界の人間はリンカーコアを保有する事は稀な上にその規模も大半が小さいが、彼女達は戦闘に耐えうる規模のリンカーコアを有している。この世界でなければ、優秀な魔導師になれたかもしれないな」
「それじゃあ、僕にはそのリンカーコアっていうのはあるの」
「無い」
「そっか……」
魔導師の才能がない事をバッサリと告げられたスザクはちょっとだけ残念そうにする。
「それに、魔導師がその力を発揮するには、ごく一部の例外を除いてデバイスという端末が必要だ」
「つまり、魔導師の素質がある人を見つける事が出来ても、それを活かすための武器が用意できないって言う事?」
「そうだ。適性のある魔導師を探した上で魔法の行使に耐えうるデバイスを作るのに都合がいい素材も探して製造、さらに魔導師としての教育も施すとなると、時間と労力に対してリターンが釣り合わない」
「ルルーシュみたいに魔法を使う事ができる人が増えれば、もっと楽になると思ったんだけれども、ダメだったかぁ」
「多数の魔導師を抱えている管理局でさえ慢性的な人材不足なんだ。魔導師に限らず欲しい人材が不足しているという話はどんな世界・業界でもよく聞く話だよ」
「世知辛いなぁ……」
魔導師というものに日本がブリタニアに侵略される前の幼少期に見たアニメの魔法使いをイメージしていたスザクが、現実との落差に落胆する。
「そういえば、ルルーシュ。C.C.はどうしているんだい?」
「ああ、あいつか。あいつなら今頃、俺が渡した金でピザでも頼んでいるだろうさ。全く、毎食ピザを寄越せなど、栄養管理が全くできていないぞ!」
「あ、あはは……大変だね」
「C.C.の話を信じるならば、幸いなのはブリタニアの中でもあいつを探しているのはごく一部。クロヴィスとかかわりが深かったバトレー将軍の部下か、海外にいるナイトオブファイブ位だそうだ。俺は試す気は毛頭ないが、ナイトオブファイブがクロヴィスを唆して不老不死であるC.C.の研究を行わせていたらしい」
ルルーシュはパソコンの画面をスザクに見せながら、纏めておいた情報を指さす。
──C.C.
出身・年齢不明の女性。
クロヴィスに実験材料として監禁されていたが、封印していたカプセルを毒ガスと偽装していたことが災いして扇グループによって強奪された事を切欠に自由を得る。
クロヴィスの言葉を信じるならば不老不死の魔女であり、実際に相手に強烈なイメージをたたきつける古代ベルカ式の特殊な魔法を使える。
他にも相手と契約を結ぶことで「王の力」と呼ばれる特殊な能力を付与する事が可能な模様だが、詳細は不明。契約した相手によって能力の内容は変化する可能性から、契約者の精神状態や願望などが影響している可能性あり。
C.C.の証言ではこの「王の力」──暫定的に「ギアス」と命名。を得たものは能力の発動時に瞳に赤い鳥のような紋様が浮かび上がるとの事。
リンカーコアを有しているが、通常のリンカーコアと異なる部分が多々あり、詳細を調べるには専門的な機関の助力が必要。
「不老不死かぁ……」
「いつの時代も、時の権力者は自らの権勢を維持するために不老不死を求めるものだ」
「それにしても、ギアスって?」
「『王の力』という呼び名ではつまらないと思ってな」
「ルルーシュって、そういう細かい所でかっこつけるよね」
「同じものでもダサいよりかっこいいほうが良いだろ?」
「それもそっか」
不老不死やギアスの話題をさらっと流す二人を見れば、それらにかかわる者たちはその力の偉大さに気が付かない愚か者となじるか、或いは特別視していない事を恐れるだろう。
事実、魔法という力を持つルルーシュにとっては不老不死とギアスは絶対的なものではなく、スザクにとってもルルーシュが特別視していないならばそれほど重要ではないだろうという認識だ。
「ん? ルルーシュ、ラジオで政庁からの新しい発表があるみたい」
「ああ、ネット配信も行われているようだ。今チャンネルを開く」
パソコンを操作して政庁からの発表を行う動画の配信を確認するルルーシュ。
『速報です政庁よりクロヴィス殿下が
「ついにブリタニアが動き出したか。発表したという事は犯人の逮捕もセットにしているだろうが、誰をスケープゴートにした?」
クロヴィス暗殺の実行犯であるルルーシュは、偽りの報道で終わらせようとする政庁の発表を冷ややかな目で注視する。ましてや発表者がクロヴィス親衛隊の者となると、どの面下げて顔を出せるのだろうか。
『クロヴィス殿下は薨御された。卑劣なイレヴンとの戦いの最中、隊長と共に平和と正義のために殉死なされたのだ! 我々は遺されたものとして悲しみを押して、その遺志を継がねばならない!』
『たった今、新しい情報が入りました。実行犯とみられるグループが拘束されました。発表によりますと、逮捕されたのは特別派遣嚮導技術部、通称『特派』の研究主任ロイド・アスプルンド容疑者。シュナイゼル第二皇子の直轄組織である特派の研究主任ロイド・アスプルンド伯爵を中心とするKMF開発研究グループの模様です」
原作ではジェレミアが政庁を掌握してから発表していたクロヴィスの死が、一足先に親衛隊残党によって発表される事態に。
どの面下げてメディアに顔を出しているんだとジェレミア卿も憤慨している事でしょう。
なおこの発表を秘匿している研究所で知ったバトレー将軍にとっては寝耳に水です。