コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:にゃるが

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特派救出作戦/特派強奪事件

 ロイド・アスプルンド伯爵を含めた特派のメンバーが逮捕された騒動から数日後。

 

『間もなくです。間もなく時間となります。ご覧ください、沿道を埋め尽くしたこの人だかりを! 皆、待っているのです! クロヴィス殿下殺害の容疑者、特別派遣嚮導技術部、通称『特派』が通るのを! 我らが神聖ブリタニア帝国の裏切り者を、今か今かと待ち構えているのです!』

 

 ブリタニア軍によって車両の交通規制が掛けられたトウキョウ租界の大通りを沿道に集まった観衆が見守る中、クロヴィス親衛隊残党がコックピットから姿を見せたまま乗るサザーランドに囲まれた車両が通る。

 

『見えてきました。特派の者たちを乗せた護送車が間もなくこちらに』

 

 護送車とレポーターは言っているが、その実態は大型の移送用車両の屋根に据え付けられた複数の十字架にそれぞれロイドやセシル達、特派の研究員が拘束衣を着せられた状態で磔にされている。その様子は罪人を処刑するための移送としか見えないものだ。

 沿道に集まった群衆から、怨嗟と怒りの声が護送車に次々とぶつけられる。

 

『怨嗟の声が、怒りの声が上がっています。殿下がどれほど愛されていたかという証です。裏切り者を裁く、正義の声なのです!』

 

 親衛隊が移送する車両のずっと後方を担当する事となった純血派、そのリーダーであるジェレミアは知っている。

 沿道に集まっている者の少なくない数が親衛隊が用意したサクラであることを。報道陣の中に親衛隊とズブズブに癒着している放送局がある事を。

 サクラが先頭を切って叫ぶ罵声に釣られて無関係な者たちも群集心理で罵声を浴びせていく様子を、親衛隊の息がかかったレポーターが特派にクロヴィス殿下殺害犯のレッテルを貼って断罪を扇動する言葉で視聴者の意識を誘導していく様子を、ジェレミアは冷めた目つきで嘲笑する。

 彼らはこの後の裁判で法の下、純血派が集めた証拠の数々によって親衛隊との繋がりが明らかにされるからだ。それに加えて特派のアリバイの証拠等も積み重ねれば、親衛隊の目論んだ責任逃れは破綻する。

 

(ふん、親衛隊の連中も詰めが甘い。だからこそ、クロヴィス殿下はテロリストによって薨御されてしまったのだ! やはり、純血派こそ神聖ブリタニア帝国を守る剣となるべき存在!)

 

 純血派のリーダーとしてはこれで軍部の実権を掌握できることに内心ほくそ笑みたいが、その切欠がエリア11の総督だったクロヴィス殿下が殺害された事実である事にジェレミアは歯噛みする。

 矛盾する二つの感情が、8年前の事件をジェレミアに思い出させる。

 あの時も、アリエス宮の警護を行っていながら敬愛する人物を守る事が出来なかった。あの経験と悲しみを二度と起こさせまいという想いこそが、純血派を結成するに至った切欠なのだから。

 

「ジェレミア代理執政官」

「どうした?」

「サードストリートから本線に向かう車両があります」

「なに? チェックはどうした?」

「それが……クロヴィス殿下の御料車でして……ノーチェックにございます」

「殿下の? ふざけた奴だ。かまわん。そのまま通せ。此方で対処する。全軍停止!」

 

 過去を思い返していると、兵士から通信で侵入車両の存在を報告される。今回の移送ではテロリストの介入も考えられたが、まさかクロヴィス殿下専用の御料車で乗り込んでくるとは。ほぼ確実に偽装した車両だろうが、妨害するにしてもあまりにも不敬である。

 親衛隊の抵抗でまだ軍部の実権を掌握しきっていないとはいえ、ジェレミアの立場はエリア11の代理執政官だ。本線に向かってくる車両への対処を考えて停止命令を発する位はできる。

 

『此処で停止するというのは予定にありません。何かのアクシデントでしょうか?』

『此方は第5地点です。そちらに向かう車があります』

『こっ、これは……クロヴィス殿下専用の御料車です!』

 

 特派を磔にした車両を遮ろうとするように向かってくる御料車に、親衛隊達は困惑したように互いの顔を見合わせる。只の車両や装甲車であれば、物理的に排除してそのまま進むのだが、亡きクロヴィス殿下専用御料車である事が判断を大きく鈍らせていた。

 

「(愚か者が! 本物の御料車の訳ががなかろう! そこは率先して殿下の御料車を偽装し汚す不届き者を排除するべきところではないか!)出てこい! 殿下の御料車を汚す不届き者が!」

 

 親衛隊が中々行動に移さない優柔不断さに苛立ちを募らせたジェレミアが、後方から怒りの声を上げる。

 すると、御料車の後部の垂れ幕が端から燃え上がる。一瞬、火事か! と観衆はどよめくが、垂れ幕が一瞬で燃え尽きるのみに留まった。そして、燃え尽きた垂れ幕の中から、二人組の姿が現れた。

 

「んっ!?」

「僕は、枢木スザク」

「そして私は、ゼロ」

『ゼロ!?』

 

 一人はイレブンの少年。枢木スザクという名は、シンジュクゲットーで行方不明になった名誉ブリタニア人のリストに含まれていた名前だ。エリア11がまだ日本という名前の国だった頃の最後の首相の息子という立ち位置もあったので、親衛隊の虚偽を断罪した後にジェレミアがクロヴィス殿下暗殺犯に仕立て上げようとした人物でもある。

 もう一人は、黒と紫が基調のスーツとフルフェイスの仮面をかぶった等の人物。ゼロと名乗った正体不明の人物は、声は男のものだが機械的な処理が施されている様な響き方である事から女性の可能性もありうる。

 サザーランドに乗っているヴィレッタもゼロという名前のテロリストに聞き覚えが無いらしく、困惑している。

 

『なっ、何者でしょう!? イレブンと共に自らをゼロと名乗る者が護送車の前に立ちはだかっています。テロリストなのでしょうか? しかし、だとすればあまりに愚かな行為です』

 

 何をするつもりか分からないが、そんな暇は与えない。ジェレミアはそう考えて部下に合図を送り、ナイトメアVTOLで空輸していた純血派のサザーランドを降下させて御料車を包囲させる。

 

「もう良いだろう、枢木スザク、ゼロ。君達のつまらないショータイムはおしまいだ」

『ジェレミア代理執政官! 何を勝手に仕切っている』

「貴様らがテロリストを前に何も行動しないから代わりにやっているのだ!」

 

 親衛隊からの抗議を、ジェレミアはゼロへの視線を逃さないまま一蹴する。

 

「さあ、まずはその仮面を外してもらおうか、ゼロ。枢木スザクも無駄な抵抗はよしたまえ」

 

 すると、ゼロは何か考え込むそぶりを見せた後に片手を大きく上げて指をパチンと鳴らす。すると、ゼロとスザクの背後にあった荷台部分が開き、内部に格納されていた物が露わになった。

 

「なにぃ!?」

『ジェレミア卿、あれは!』

 

 ジェレミア達が見たもの、それはテロリストによって研究所から盗み出された毒ガスのカプセル。

 これが盗まれたからこそクロヴィス殿下はシンジュクゲットーの壊滅作戦を発令したのだ。

 さらに、ジェレミアはシンジュクゲットーでの戦いではテロリストのグラスゴーと強奪されたランスロットに合わせて二度敗北し脱出を余儀なくされた苦い経験がある。

 報道では毒ガスはテロに使われたことになっているが、実際は使用や破壊がなされた痕跡などは見つかっていなかった。それがよりにもよってこんなところで姿を見せるとは。

 

『テレビの前の皆さん、見えますでしょうか。何らかの機械と思われますが、目的は不明です。テロリストと思われる人物の声明を待ちますので、しばらくお待ちください』

(こっ、こいつめ……。ここに居るブリタニア市民を丸ごと人質に取った。それも、人質に気づかせないまま)

 

 テロリストの狡猾さに苦虫を嚙み潰したような表情をするジェレミア。それに対して、親衛隊も気が付いたようだが、慌てたようにカプセルにサザーランドのアサルトライフルの銃口を向ける。

 

「撃ってみるか? 分かるはずだ。お前達なら」

『くだらない真似を!』

「ばっ、馬鹿者! 無暗に刺激するな!? あれの中身が漏れ出たら、どうなるか分かっているだろう!」

『ジェレミア代理執政官! 先ほどは行動しろと急かしたではないか! どけ!』

 

 ゼロの挑発に対して銃口を向ける親衛隊のサザーランドの暴挙を止めようと、ジェレミアは自らのサザーランドを間に割り込ませて制止する。

 ジェレミアからすれば、毒ガスが詰まったカプセルの中身が漏れ出れば沿道にいる多くのブリタニア市民が犠牲になるにもかかわらず、寧ろ破壊しようとする親衛隊の正気を疑う状況だ。

 

「ゼロ……要求は何だ!」

「交換だ。こいつと、特派の者たちを」

『笑止! こいつらはクロヴィス殿下を殺めた大逆の賊徒ども。引き渡せるわけが無かろう!』

「貴様らは黙っていろ!」

『一体、何が起こっているのでしょうか、ジェレミア代理執政官とクロヴィス殿下親衛隊隊長代理──が言い争っているようです』

 

 ジェレミアと親衛隊の間に広がる不和に、レポーターや沿道の観衆が不安そうな表情をしながら注目が集まる。

 そんな中、ゼロが告白した内容に、周囲から一瞬言葉が失われた。

 

「違うな。間違っているぞ、親衛隊隊長代理殿。犯人はそいつらじゃない。クロヴィスを殺したのは……この私だ!」

 

 それは、クロヴィス総督殺害の自供。

 

『なっ、何と言う事でしょう。ゼロと名乗る仮面の男が……いや、性別は分かりませんが……。ともかく自ら、自ら真犯人を名乗って出ました! では、今捕まっている特派の者たちはどうなるのでしょう?』

「無関係な者たちを解放するだけで尊いブリタニア人の命が大勢救えるんだ。悪くない取引だと思うがな」

 

 むしろ親衛隊にとっては非常に都合が悪い提案だ。ゼロを名乗る人物の背後にある機械は明らかに毒ガスのカプセルに偽装したハリボテだ。だが、真実を知らないジェレミア達純血派がいる事によってゼロの嘘は塗りつぶされて真実に脚色される。

 しかも責任転嫁のために証拠を偽造し報道局に根回しもしたこの一件が冤罪だった事も明るみになれば、親衛隊は良くて投獄、下手すればその場で処刑されても可笑しくない。

 

『虚言を弄した上に殿下の御料車を偽装し愚弄した罪、その命で贖え!』

「いいのか? 闇に葬られるぞ、アリエス宮の真相が」

 

 親衛隊隊長代理はゼロの虚言の一つに過ぎないと考えてアサルトライフルの引き金を引こうとしたその時、ジェレミアのサザーランドがスタントンファーでアサルトライフルを砕く。

 

『ジェレミア代理執政官! 何のつもりだ!?』

「それはこちらの台詞だ! 我が身可愛さに観衆が巻き込まれるのを承知の上で毒ガスごと闇に葬ろうなど!」

 

 ジェレミアはゼロが口にした「アリエス宮の真相」という言葉に対して、このままゼロを始末されるのは拙いと反射的に行動してしまったが、咄嗟の行動の言い訳にした発言と状況の拙さに気が付いて自らの不覚を悟る。

 

「ど、毒ガス!?」

「嘘よっ、そんなの!」

「でも、シンジュクゲットーでは実際に毒ガスが使われたってニュースで聞いたわ! 大勢の犠牲者が出たって!」

「ほ、本当に毒ガスだとしたら……」

 

 俄かにざわめき始める観衆たち。疑念は不安となり、不安は恐怖となる。

 そしてゼロはこうなる事を見計らっていたのか、袖から取り出したボタンを押したのと連動して背後の機械が稼働して中から毒々しい色の煙が噴出した。

 ゼロとスザクは勿論の事、彼らを包囲していたサザーランド、そして特派を磔にしている車両や沿道の観衆を煙は纏めて包み込む。

 

「毒ガスよ! シンジュクゲットーで使われた毒ガスよ! 逃げて! 吸ったら死ぬ!」

「ひっ、逃げろー!」

「嫌だぁっ! 死にたくないぃ!!!」

 

 観衆の中から一人が逃げ始めたのを切っ掛けに、周囲に恐怖が伝搬してパニックを引き起こした。

 

『視界が!?』

「ぐあっ!」「ごふっ!」

 

 煙に巻かれたサザーランドの視界が遮られ、ゼロとスザクを見失う親衛隊と純血派。

 すると、煙の中で兵士たちの悲鳴と倒れる音、そしてバキッ! ベキッ! と立て続けに何かを破壊する音が聞こえる。

 

「テロリスト共、まさかこの騒ぎに乗じて特派を攫うつもりか!?」

 

 ジェレミアはコックピットに乗り込むと煙に遮られたサザーランドのモニターをセンサーに切り替えてファクトスフィアを展開する。

 この状況で特派を攫おうとしているという事は、この煙は毒ガスではないのは明白だ。だからこそ親衛隊は躊躇わずに破壊しようとしたのだろう。

 だとすると、なぜあれが毒ガスではないと親衛隊は知っていた? 恐らくはクロヴィス殿下から本当の中身を教えられていたのだ。

 ならば、なぜ親衛隊にだけ本当の中身を教えたのか。考えられるのは、明るみになれば毒ガスよりも彼らにとってより危険な何かが入っていた可能性。それが一体何なのかは分からないが、親衛隊以外からそれを聞き出せるであろう人物がいる。

 それは偽の毒ガスカプセルで脅してきたゼロだ。

 ゼロはカプセルの本当の中身を知っていて、親衛隊と純血派があのカプセルに抱いている認識の違いを利用して隙を生み出したのだ。

 周囲ではゼロ達を逃がさないため発砲しようとする親衛隊のサザーランドと、逃げまどう観衆が巻き込まれないために必死にそれを止める純血派のサザーランドという、混沌した状況が生まれている。

 

「今の内だ、行くぞ!」

 

 ゼロの声とともに、煙から何かが飛び出して陸橋から落ちていく。

 

『飛び降りた? やはり仲間が!』

「キューエル卿! この場を鎮めるのは任せる! ヴィレッタは私と共に逃げたゼロを追うぞ! ただし、ゼロは生かして捕らえろ!」

『『イエス、マイロード!』』

 

 キューエル卿にその場は任せて、ジェレミアはヴィレッタを連れて陸橋を飛び降りたゼロを追いかける。

 陸橋の下には民間に払い下げられたKMFであるMR-1がいつの間にか一機おり、バランスを崩しながらも陸橋基部に撃ち込んだハーケンによって衝撃吸収材が展開されていた。その下には盗難車と思しきトレーラーがあり、今まさに走り出すところであった。

 

『卑劣なイレヴンめ! 逃がすものか!』

「ヴィレッタ、直撃はさせるなよ。タイヤを狙え!」

 

 MR-1を速やかに破壊してからヴィレッタのサザーランドと共にアサルトライフルで逃走するトレーラーのタイヤを狙い発砲。狙いは誤らずにトレーラーのタイヤを破壊して横転した。

 

「梃子摺らせおって。さあ、8年前にアリエス宮で起きた事を……マリアンヌ様の死について知っている事を吐いてもらおうか、ゼロ!」

 

 ジェレミアは自らが純血派を立ち上げた起源であり、敬愛する人物の死の真相を知っている可能性があるゼロを捕縛するために、トレーラーの後部荷台をサザーランドのパワーでこじ開ける。

 

「……なっ!?」

『ジェレミア卿、どうしました。……これは!?』

 

 荷台をこじ開けたジェレミアが見た光景。それは、荷台にいるはずのゼロやスザク、特派達の姿……ではなく、無造作に転がっている幾つものマネキンであった。その数はちょうど特派の面々と同じな辺り、変な所で芸が細かい。

 

「囮……だとぉ!?」

『運転手もいない!? 自動運転か!』

 

 ヴィレッタはせめて運転手だけでも拘束しようとするが、運転席には誰もおらず、座席に設置された機械とそれと連動して動くハンドルしか無かった。

 この様子では、先ほど破壊したMR-1も遠隔操縦だろう。

 

「よ、よくも私を嵌めたな……! ゼローッ!!!」

 

 最後までゼロに良いように踊らされた事に気が付き、ジェレミアの怒号の叫びがサザーランドの機内に響きわたった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 シンジュクゲットーにある劇場廃墟に集合した扇グループはテレビに映されていたゼロの逃走劇に驚かされていた。

 

「まさか、本当に助け出すなんて」

「それにしても、どうやってここまで逃げ延びたんだ? あいつらは」

 

 杉山はゼロの見せた結果に驚愕し、吉田はあの包囲網をどうやって抜けだしたのかに疑問を覚える

 

「バカバカしい、あんなはったりが何度も通用するかってえの」

 

 一方の玉城は懐疑的な視点だ。今回は親衛隊と純血派の間に大きな溝があったからこそ成立した作戦だ。あのブリタニアがそう何度も今回のような無様な醜態を晒す事など無いだろう。

 

「しかし、認めざるを得ないだろう」

「えっ?」

「彼以外の誰にこんなことができる? 助け出す必要性の問題もあるが、日本解放戦線だって無理な事を成し遂げたんだ。それに、皆が無理だと思っていたブリタニアとの戦争だって……やれるかもしれない。何より、枢木首相の息子である枢木スザクも協力しているんだ。彼は……本気だ」

 

 今回の作戦で、扇グループは正体不明の男であるゼロに僅かだが手を貸している。いや、借りた恩を僅かだが返したというべきか。

 ブリタニア軍によるシンジュクゲットーでの虐殺では、彼の指揮が無ければ自分達も皆殺しだった。それに彼がどうやってかブリタニア軍から鹵獲したサザーランドのおかげで、戦力も大きく増強されている。

 それに対して今回、扇たちがゼロに提供したのは、毒ガスの偽物を入れるカプセルマシンの作成と偽装した御料車の運転手役としてのカレン、そして遠隔操縦されていたMR-1を扱う事くらいだ。

 ゼロはテロではブリタニアを倒せないと言い切った。そして敵はブリタニア人ではなくブリタニアという国家であり、民間人を巻き込むテロではなく戦争を行う覚悟を決めろと言った。

 実際に救出に成功した今でも、特派を助ける利点が何処あるのかは扇にはよく分からない。他のメンバーもそうだろう。だが、自分達には見えていない何かがゼロには見えているのかもしれない。

 

「俺達も……覚悟を決めるべきなのかもしれない」

 

 扇たちの間でゼロとの関係をどうするか話し合っている一方で、話題の中心となっているゼロもといルルーシュはと言うと、

 

「ロイド・アスプルンド伯爵。ブリタニアを倒すために貴方の……特派の方々の力をお借りしたい」

 

 廃棄劇場のホールで救出した特派を勧誘していた。

 

「あの、ゼロ。助けてくださったことは感謝しますが……私達、シュナイゼル殿下の直轄組織ですので──「うん、良いよ~♪」──ロイド主任!?」

「だって、もうそれしか選択肢はないじゃん? 断ってもゼロは危害を加えないだろうけれども、ゼロが僕たちを助けに来た時点で、軍からしたら僕たちはテロリストに内通していた裏切り者扱いさぁ~。……今更、戻れると思う?」

「うっ……」

「そ・れ・に! ランスロットのデヴァイサー候補だった枢木スザク一等兵が彼に協力しているんだよ~! 命令系統の違いから実戦運用ができるか分からなかったランスロットの生の戦闘データを取れるとなれば、躊躇う必要が何処にあるんだい?」

「それは……そうですが。……はぁ、しょうがないか」

 

 ブリタニア軍に戻る選択肢が既に残っていない事を伝えつつ、研究者としての利点もあげてセシルを説得するロイド。セシルも多少悩んだ末に了承した事を切欠に、他の特派研究員も了承していった。

 交渉はもっと難航するだろうという予想に反してあっさりと了承されたことにルルーシュは困惑しながらも、気を取り直す。

 

「えっと……一時期名誉ブリタニア人だった僕が言うのもなんですけれども、愛国心とかはないのかな……?」

「違うな、間違っているぞスザク。この手の者たちにとって、自分達がしたい研究を滞りなくできる環境を整えてくれる場所こそが自分達の居場所なのだ」

 

 ルルーシュは知っている。研究者の中には、自分の研究のために国家や勢力を問わずに活動する変人や犯罪者が世界を問わずにいる事を。

 7年前、もう一つの家族を救うために次元犯罪者をターゲットに戦っていた時にも、そういったマッドサイエンティストと遭遇する事はたまにあった。特派の者たちは彼らと違って倫理感の一線を越えてはいないので遥かにまともな類ではあるが。

 

「そ、そういう……ものかなぁ」

「よくわかっているね~。そういえば、幾つか質問いいかな?」

「答えられる範囲ならば良いだろう」

「『アリエス宮の真相』と言っていたけれども、君は何を知っているんだい?」

「あれはただのブラフだ。純血派のリーダーであるジェレミアの過去を調べた際に、8年前のアリエス宮で起きたブリタニア皇后暗殺事件の時に警備を行っていた一人だったことが判明してな。あの事件以降、ジェレミアは純血派を結成した事から強い後悔の念を抱いている可能性に行き着いた。そこで今後の布石を兼ねて親衛隊と純血派の間にある亀裂を広げるために利用させてもらった」

「なるほどね~。彼のトラウマを刺激したってわけか~」

 

 ロイドには初めから分かっているように言っているが、実際はジェレミア達の行動に応じて対応が変わる場面であった。

 真相を明らかにさせないために此方を始末しにかかるならば、それを利用して皇后殺しに加担した疑惑を持たせて純血派を分裂・弱体化させる布石に。

 今回のように殺さずに捕まえに来たならば、今後の戦いにおいて純血派──正確にはジェレミアが自分達を安易に殺しにくくなる枷として機能する。

 そして無反応だった場合でも、それはそれで特にこちら側に問題が起きるわけではない。

 クロヴィスから聞き出した、コーネリアとシュナイゼルが知っているという情報をばらす事でジェレミアに皇族へ疑念を抱かせる案も検討はしていたが、これは流石に出鱈目だと判断されるか此方の正体を気取られる可能性があったので却下した。

 

「それじゃ、僕たちを陸橋からあっという間にここに連れてきたの、どうやったんだい?」

「それについては企業秘密だ……と言いたいところだが、仲間になる以上は何もかも隠し続けるのは不合理というものだな。端的に言えば、魔法による空間転移だよ。技術の出所は伏せさせてもらうがね」

 

 ルルーシュは今回の作戦で自分達と共に特派のメンバーをここまで移動させた方法──魔法による転移を伝える事にした。

 この手の研究者は興味を持った内容に関しては危険を顧みずにあらゆる手段を使って調べようとする傾向がある。手札を隠すことで解明しようと躍起になられる位ならば、ある程度公開してしまった方がその方向性を誘導できる。

 

「へぇ~、魔法……かぁ。な~るほどねぇ」

「ほう、信じてくれるのだな」

「まあね~。考古学は専門じゃないけれども、この世界の遺跡には遠く離れた似たような場所を繋ぐ門があるなんて言う伝承があるからね~」

「……なに?」

「さっきまでは眉唾な話だと思っていたけれども、こうして体験した以上は、古代人は本当に君みたいに転移する事が出来たのかも知れないね~」

 

 ロイドから告げられた内容について、ルルーシュは会話を続けながら並行して思考を続ける。

 

(C.C.の件から考慮はしていたが、やはりこの世界には表沙汰にこそなっていないが魔法が存在する。遺跡はおそらく大規模な転移を行うための装置。そしてベルカ式魔法を基にしたこの世界の固有魔法によって与えられるギアスも、魔法の一形態或いは人為的に発現させた稀少技能(レアスキル)の類だろう。そうなると、厄介なのはブリタニア軍に魔導師あるいはそれ相当の存在がいる可能性か)

 

 もしもブリタニア軍に魔導師がいる場合、ルルーシュが持っている魔法というアドバンテージが消える可能性がある。

 なにせ単純な戦闘力だけ見ても、7年前の自分と同程度の年齢で戦術・戦略級の破壊力を発揮可能な攻撃を出しうるのが魔法なのだ。さらに自分のように直接戦闘は不得手でも搦手を得意とする魔導師がいるだけでも、今後の作戦の難易度は大きく上昇する事になる。

 魔法を使えるアドバンテージの維持と管理局からの介入を避けるために魔法の存在はあまり知らせたくないのだが、そうも言ってられない可能性が出てきた。

 

(カレンとマーヤに関しては、最低限度でも魔法の知識と対処法くらいは学ばせるべきか? だがデバイスの確保をどうするべきか……)

 

 魔法の扱いに関して予定を変更することを検討していたルルーシュだが、まだ話していたロイドの言葉は聞き逃せなかった。

 

「──それに、ラウンズの中には現代技術で解明できていないサイボーグもいるって話だしね~。SF世界の住人がいるならば、魔法使いのようなファンタジー世界の存在がいたって可笑しくないさ~」




ルルーシュがロイドの反応で思い返したマッドサイエンティストですが、某JSさんではありません。名前は知っているかもですが、遭遇はしていません。
それでも、あの世界はJSに限らずマッドサイエンティスト系の次元犯罪者は結構いると判断して描写しました。
ちなみに、ゼロスーツはこの作品では仮面も含めてベルカ式魔法における騎士甲冑です。なのでスーツや仮面を個別に用意して着替える必要がありません。

○今回の特派救出作戦における各々の分担。
・ゼロ(ルルーシュ)
作戦立案
挑発による親衛隊及び純血派の行動誘導
転移魔法による離脱

・スザク
警備の兵士の排除
特派を拘束する拘束具の破壊
ルルーシュが転送した囮用のマネキン(流石に1体)を陸橋下へ投擲。他のマネキンは予めトレーラー内に配置。
名前と顔を出すことにより、日本最後の首相の息子というネームバリューを今後の布石として活用する準備

・マーヤ
沿道で偽の毒ガスの散布に合わせた発煙筒の使用
観衆に毒ガスと誤認させるために恐怖を煽る。

・カレン
偽装御料車の運転

・扇グループ
偽の毒ガス散布装置の組み立て
囮用MR-1の遠隔操縦

・孤児たち
車両を御料車へと偽装する組み立て

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