コードギアス‐魔導のルルーシュ   作:にゃるが

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嵐の前の騒めき

 トウキョウ租界から離れた地方にあるゲットーの一つ。その近くにある今は枯れて廃棄されたサクラダイト鉱石の鉱山に繋がる山道では、ブリタニア軍とレジスタンスの戦闘が繰り広げられていた。

 

「はぁっ!」

 

 ジェレミアが乗る両肩が赤く塗装された純血派仕様のサザーランドがスタントンファーを振るい、レジスタンスのグラスゴーのコックピットを破壊する。

 整備不良なのかコックピットの脱出機能が作動しなかったグラスゴーが沈黙したのを確認すると、ジェレミアは次のグラスゴーを獲物に定める。

 今相手にしているグラスゴーの数は、先ほど撃破した分も含めて4機。これがレジスタンスがサザーランドに乗っているならば、ジェレミアでも同時に来た場合は多少厳しい戦いになる数だ。しかし機体もパイロットも相手が格下ではジェレミアを止める事はできない。

 

 ──グラスゴーはサザーランドより古い世代のナイトメア。──シンジュクの赤いグラスゴーは単騎で自分と僚機の追撃を耐え凌いで見せた。

 ──数の利を碌に活かせないまま各個撃破される戦略性のなさ。──シンジュクでは、圧倒的物量差を様々な戦略で覆され押し返された。

 ──此方の攻撃に反応すらまともにできない素人。──シンジュクのランスロットのパイロットには機体性能差を差し引いても一矢報いる事もできずに敗北した。

 

 シンジュクでの敗北がジェレミアの脳裏にちらついて苛立ちを募らせる。

 普通ならばそのような精神状態では戦闘どころではないはずだが、そこは武門の名家であるゴットバルト家の軍人にして純血派のリーダーを勤めている男。残る3機のグラスゴーも危なげなく撃破する。

 

『ジェレミア卿、テロリストの拠点の制圧が完了しました』

「ご苦労、そのまま証拠品の押収を進めろ」

『イエス、マイロード!』

 

 テロリストのナイトメアを引き付けている間に突入した他の純血派に追加の指示を出し、ジェレミアはサザーランドのファクトスフィアを展開して索敵を行いながらため息をつく。

 ゼロが表舞台に立って以降、エリア11においてテロリストの活動が活発化している。今回の掃討作戦も、複数のテロ組織が糾合した事で規模が膨れ上がったテロリスト連合がこれ以上大規模化する前に叩くためのものだ。

 これがゼロの知略によるテロリストの集結・大規模組織化なのか、それともゼロが生み出した勢いに乗った偶発的なものなのか。戦闘を行わずにブリタニア軍を手玉に取って特派強奪事件を起こしたゼロならば、テロリストを糾合させる事も可能であると考えられるだけに、それを確かめる意図もある。

 

「頭の痛い話だ。ゼロめ……何としても生きたまま捕らえてアリエス宮の真相を吐かせて見せるぞ!」

 

 頭が痛くなる話と言えば、他にもある。それは先日行われた純血派によるクロヴィス親衛隊の一斉検挙の結末についてだ。

 親衛隊がクロヴィス殿下を守る事ができず、その責任をロイド・アスプルンド伯爵を含めたエリア11の特派に押し付けるという暴挙は、アスプルンド家を始めとした特派に関わる貴族からの強烈な反発を本国で引き起こした。

 この時点でクロヴィス親衛隊は既に詰んでいたが、裁判を無罪に持ち込んだ上で冤罪であったことを親衛隊の者たちが謝罪していれば、本人はともかく彼らの家柄に傷がつかずに済む可能性もあっただろう。

 しかし、ゼロによって特派の者たちが誘拐された事で特派の者たちは行方不明となり、特派に関係する貴族達の怒りが一層激しくなってしまった。

 中にはシュナイゼル殿下に直訴した貴族たちもいたようで、今頃はクロヴィス親衛隊に所属していた貴族の家系は爵位や領地の剥奪も含めた大変な事となっている事が容易に想像できる。

 

「ラ家の方々にとっては不幸な出来事としか言いようがないな」

 

 派閥争い、権力争いは貴族の常とはいえ、ここまで大事になって本国が荒れる事は皇族の権威に傷がつく事になりかねず、好ましくない。

 だからこそ、当初の予定を変更してまで家の無事を願うならば自ら拘束されて降伏し沙汰を待つ事を親衛隊に勧告したが、それを拒否した一部の親衛隊がナイトメアまで無断で持ち出して反旗を翻してきた。そうなってしまったら、最早外部に漏れる前に純血派の手で粛清せざるを得ない。

 キューエル卿は抵抗せず降伏を受け入れた親衛隊も厳しく処罰するべきだと言っている。確かに親衛隊に対して責任ある処罰は必要ではあるが、ここまで大事になってはもはや本国の決定を待たなくてはならない。

 それに、どうにも引っかかる部分があるのだ。

 降伏した彼らは困惑した表情で、「あの時はどういう訳か、彼の言い分が正しいように感じてしまった。なぜあのような言い分を信じてしまったのかが分からない」と特定の親衛隊隊員に唆された事を証言している。

 最初は我が身可愛さの身勝手な言い訳だと考えていた。しかし、調べていく内に親衛隊以外の者たちの中からも似たような証言が相次いでいることが判明したのだ。

 

 ──あいつの言葉は根拠がないのに信じたくなる。

 ──話を聞いていたらいつの間にか奴の言葉を信じていた。

 ──特派をスケープゴートにする計画もあいつの提案だったが、今思えばなぜあんな提案を自分も含めてみんな信じたのかが分からない。

 

 キューエル卿は「おかしいのは貴様らの頭の方だ! そんなにおかしいと言うのなら、自分の頭の中でも調べて貰ったらどうだ!」と怒りを露わにしていたが、一部が本当に頭部の検査を受けた結果……大脳部分に軽度の障害が発生していた痕跡が見られたのだ。

 その結果を受けて急遽関係する者たちに同様の検査を行ったところ、全員に同様の障害の痕跡が発見されたという報告を受け取った時は、キューエル卿も流石に困惑し真顔になっていた。

 そして、問題の親衛隊隊員の亡骸の左目に刻まれていた、羽が欠けた鳥のような赤い紋様。目に刻むタトゥーという物は、少なくとも私は聞いた事が無い。

 あの瞳を見た瞬間に感じた、身体が全力で危険を知らせるような嫌悪感。あれはいったい何だったのだろうか? 

 

「まったく、いつからこの世界は御伽噺のような不可思議な事が起こるようになったのだ」

 

 コーネリア第二皇女殿下が新総督として赴任する日はもう目前に迫っているというのに、ジェレミアの心は晴れない。

 

 

 ────────────────────

 

 

 数日前、ルルーシュはマーヤから偶発的にユーフェミア第3皇女と出会った事を聞かされた。

 本国で学生の身だったユーフェミアが副総督となるのは、新総督となるコーネリア第2皇女の意向でまず間違いないだろう。コーネリアと彼女の親衛隊が率いる部隊によって中東の国が併合されてエリア18となったのは記憶に新しい。

 武人として名を馳せているコーネリアならば、新たに赴任した情勢不安なエリア11に対してどのような行動をとるかを考えると、かなりの確率でエリア11のブリタニア軍を再編してレジスタンスの壊滅に力を入れるであろう事は容易に想像できる。

 加えてブリタニア皇帝は今回、ラウンズの一人であるナイトオブファイブ──ヴィクトリア・ベルヴェルグをエリア11へ派遣する事も決定している。

 ヴィクトリア・ベルヴェルグは数年前に姿を現し、傭兵としてブリタニア側についてから瞬く間に中華連邦軍の都市・要塞を幾つも攻略した手腕を買われてラウンズに任命された異色の経歴を持つ国籍・人種が不明の男だ。

 彼が関わった戦いのほぼ全てにおいて、相手が撤退・降伏も許されずに殲滅されている機械のような冷徹さから「殲滅機兵」の二つ名で恐れられている、

ブリタニアの魔女(コーネリア)」と「殲滅機兵(ヴィクトリア)」。

 二人の相性が未知数だが共に脅威である以上、この二人がエリア11に到着して動き出す前に基盤を固めなければレジスタンスは各個撃破されて反抗の目は潰されてしまうだろう。

 戦略で戦力差を覆すにも限度がある。だからこそ、コーネリア達がエリア11に到着して動き出す前に協力者を増やして集結させる必要がある。

 そのためにルルーシュはスザクと共にまずは関東圏を中心とした様々なレジスタンス組織に接触を図ったのだが……。

 

「クソッ!」

「随分と荒れているな、ルルーシュ」

 

 シンジュクゲットーでの攻防戦以降、ブリタニアとの戦いに備えて新たに用意した隠れ家の一つで、ルルーシュは机に拳を叩きつけて悪態をついていた。

 その様子をC.C.はピザを食べながら眺めている。

 

「交渉のために向かった先で、嫌なものを見る事になっちゃってね……C.C.を連れていかなくて良かったよ」

「接触したレジスタンスの半数近くが、ブリタニア人の排斥を掲げる極端な民族主義にあそこまで染まりきっていたのは想定外だった。良くも悪くも扇グループの反応を基準にしていた様だ」

「誰もがルルーシュみたいに理性や理屈で行動できるわけではないからね。とはいえ、あの時のルルーシュの行動は間違っていないよ。あんな事は許してはいけないから」

 

 スザクは出向いた先のレジスタンス組織で行われていた惨状を思いだし、顔をしかめる。

 ルルーシュ達が目撃したのは、レジスタンスが拉致したブリタニア人市民や名誉ブリタニア人及び、彼らと関係していたゲットーの人たちを拷問・殺害している現場であった。

 ブリタニアに祖国を奪われた以上、恨む気持ちは分かる。しかし、それを免罪符にして無関係な者たちにまで危害を加えるのは話が違う。あれではブリタニア側の弾圧に正当性を与えてしまう。

 だというのに彼らは、

 

 ──我々は奪われた物を取り返しているだけだ! 

 ──我等にはブリタニアへの報復の権利がある! 

 ──ブリタニアに首を垂れるものみな滅ぶべし! 

 

 正体の知れない仮面の男ゼロとしての交渉が難航する事は予想していたが、交渉どころか理性的な話すらできなかったのは、正直予想外であった。

 こんな組織が接触した9つのレジスタンス組織の内4つ。その中でも後半に接触した2つは拉致した者たちの臓器を密売して資金源としている有様だった。

 この2つに関しては最早レジスタンスというのも烏滸がましい犯罪組織と化していたので、その場でルルーシュとスザクが壊滅させが、その際に気が付いた事もある。

 

「スザク……合計4つの過激派と犯罪組織に関してだが、彼らにはある共通点があった」

「共通点?」

「ああ、それぞれの中心的存在だった者たちは、何者かの魔力的な干渉を受けた痕跡があった事だ」

「なんだって!? それじゃあ、彼らは操られていたって言う事?」

「確証はない。だが、それにもう一つの共通点を当てはめると、首謀者と思しき人物が浮かび上がる。それがこいつだ……」

 

 ルルーシュはスザクとC.C.にノートパソコンに表示した画面を見せる。そこに映し出されていたのは、後ろ髪が跳ね上がり顎に髭を生やしている軍人であった。

 

「草壁……徐水? どんな奴なんだ?」

「草壁徐水。日本解放戦線に所属する軍人でのレジスタンスで過激派の中核的存在だ。日本解放戦線が起こした行動の中で凄惨な被害を出しているものは、十中八九この男が関与していると言って良い。彼らは共通してこの数年以内にこの男と接点がある。特に犯罪組織の方は草壁とつい最近もかかわりがあったようだ」

 

 C.C.の質問に、ルルーシュは彼が主導して起こした可能性が高いテロによる、民間人を含めた被害を記した記事の画像を見せながら説明する。

 もしも草壁が魔法的な方法で他人を操ってこのようなテロを引き起こしているのだとしたら、何かしら対策を取らなければ此方が仲間にした者たちが本人の意思に反して寝返ったり獅子身中の虫となりかねない。

 

「日本解放戦線の軍人がこんな事を……藤堂先生は、大丈夫なのかな」

「そこは安心していいだろう。奴らが残した通信データの中に、藤堂が草壁からの協力要請を拒否した事から俺達が潰した犯罪組織に協力を要請する趣旨の内容があった。こんな通信データを残しておくなど、管理が杜撰であるにもほどがある」

「良かった……」

 

 スザクの幼少期における武道の師であった藤堂鏡志朗が外道の思想に堕ちていない事に、スザクは安堵する。

 

「草壁が首謀者と推定される案件の調査と対策は今後も継続する必要があるが、もう一つの問題も重要だ」

「もう一つの問題……あぁ」

「お前も実感していただろう。過激思想に染まっていなかったレジスタンス組織の脆弱さだ」

 

 ルルーシュは草壁のプロフィールをいったん閉じると、今度は扇グループを含めた6つのレジスタンス組織に対する評価をグラフ化した画像を見せる。

 各項目の評価点は扇グループを基準としているが、他の5グループは殆どの項目で扇グループを下回り、特に戦力の項目が著しく低い。

 

「シンジュクゲットーにおいてサザーランドを複数鹵獲した事で扇グループは戦力増強出来た事を抜きにしても、他のレジスタンス組織のナイトメアの保有数はすべて合わせても老朽化したグラスゴーやMR-1が1機ずつ。ナイトメアを保有していないレジスタンスの方が多く、扇グループが紅月カレンという特記戦力の存在を抱えている事もあって戦力差が著しい」

「扇グループの人たち、レジスタンスの中でも結構戦える方だったんだね」

「玉城とかいうやつは弱かったがな」

「ああ、そこは俺にとっても誤算だった。危うく他のレジスタンスにも扇たちと同レベルの働きを求めてブリタニア軍と戦う可能性もあったからな」

 

 例え話になるがコーネリアが大規模な掃討作戦を実行するとして、ターゲットとなったレジスタンスの戦意や意識の低さから来る命令の不実行や敵前逃亡などが、この事実を知らないまま実行されていたら非常に拙い事となっていただろう。

 想定しているトラブルならば事前に対策を行う事もできるが、想定していないトラブルに対しては場当たり的な対応を強要される事になり、作戦の成否に大きな影響も与えかねない。

 

「そうなると、主力になるナイトメアの確保と練度の向上が急務だね」

「そうだ。俺達に必要なのは数だけの烏合の衆ではない。ブリタニアに負けない組織と戦力だ。そのためにも、バラバラに活動しているレジスタンスを纏め上げた上で質の向上も図る必要があったが、そのために思想が致命的に噛み合わない者たちを懐に入れるわけにはいかない」

「問題が山積みだな。戦力になりそうな者たちとは思想が相容れず、協力の余地がある者たちは現状では戦力にならない。戦闘訓練など受けてすらいない一般人だった者たちを軍人と戦えるレベルまで引き上げるのは困難だぞ」

「だが、やり遂げなければならない。そうでなければ俺達の夢は、ナナリーや子供たちが健やかに生きていける優しい世界には届かない」

 

 今後の課題が浮き彫りにするC.C.の言葉に、決意を新たにするルルーシュ。

 そしてルルーシュはC.C.に対して前々から思っていたことを口にした。

 

「それはそれとしてC.C.ピザだけじゃなく野菜もちゃんと食え」

「何を言っている? ピザソースにはトマトが入っているし、トッピングでも野菜も食べているだろう?」

「明らかに野菜の量が不足しているし、チーズの量が過剰なんだよ!? 太るぞ!」

「安心しろ、私は魔女だからな。太らん」

 

 先ほどまでの真面目な会話から一転してC.C.の不摂生な食生活で口論する二人に、スザクは苦笑いを浮かべつつもルルーシュの緊張がこれで少しでも解れるならば良いかなと思うのであった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 夕日も沈み、星明かりが夜闇を照らすアッシュフォード学園の敷地内にあるクラブハウス。ルルーシュの妹であるナナリー・ランペルージはベッドの中で涙を流していた。ナナリーにとって悲しい出来事が連続して起こり、悲しみをこらえる事が出来なかったのだ。

 一つ目は、敬愛するお兄さまが運営していた孤児院の子供たちが皆亡くなってしまった事。休日にはお兄さまやアッシュフォード家のメイドである篠崎咲世子さんと一緒に遊びに行っていた楽しい思い出の場所。それがシンジュクゲットーで起きた悲劇によって壊れてしまった現実に、悲しみに暮れてばかりだ。

 二つ目は、お兄さまの親友であった枢木スザクさんがテロリストとなってしまった事。7年前、祖国(神聖ブリタニア帝国)が日本に侵略戦争を仕掛けてきたとき、お兄さまは地震のような揺れの後一時期行方不明となっていた。当時、お兄さまを喪ったと思って心の平衡を乱し暴れていた私を、自身が怪我する事も厭わず抱きしめて落ち着かせてくれたのが彼だった。お兄さまが戻ってくるまでの数か月、あの人がいなかったら今の私はなかっただろう。だからこそ、ラジオであれから行方不明だった彼の名前が出てきた時には、予想だにしていなかった事もあってとても驚いてしまった。

 そして三つ目は、スザクと一緒にいたゼロという人物の正体に気が付いてしまった事。理屈ではない。証拠もない。ただの直感でしかない。でも、私にはわかる、わかってしまった。ゼロの正体はルルーシュお兄さまだと。

 優しかったお兄さまがテロリストに身を堕とした理由も容易に想像出来てしまった。お兄さまは私や孤児院の子供たちのような犠牲者をこれ以上出さないために、ゼロという仮面を被って祖国に敵対したのだ。

 

「私の……所為なのでしょうか」

 

 クロヴィスお兄さまを殺したのがゼロならば、ルルーシュお兄さまが殺したという事になる。つまり、半分とはいえ血がつながった家族を殺すという業を背負わせてしまった事になる。

 自分がいなければ、お兄さまもスザクさんもテロリストとならずにすんだのではないか? もしも、たらればの話だが、そんなことを考えてしまう。

 本当は、お兄さまを問いただすべきなのかもしれない。なぜゼロとなったのか、どうしてこんなことをしているのかを。けれども、可能性を確定させてしまう事が怖くて、今までの幸せを壊してしまう事が怖くて、前に進む勇気がない。

 

「ナナリーは……意気地なしです」

 

 お兄さまは未来を変えるために、明日を掴むためにゼロとなった。スザクさんも同じ想いなのだろう。それなのに、私は過去と現在にしがみついてしまっている。

 それではいけないと頭では分かっているのに、お母様を喪ってから臆病になってしまった心が変わる事を拒絶する。

 

「お兄さま、マーヤさん、スザクさん。私は……どうしたら」

 

 心の中の大切な人達に問いかけても、答えは返ってこない。

 ナナリーは、涙を流しながらその夜も眠りにつくのであった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 過去に流れ着いたロストロギアの暴走によって文明が滅びてしまったある管理外世界。

 荒廃し見捨てられた大地では、次元犯罪組織の構成員と管理局員との戦闘が繰り広げられていた。

 

『なんとしても、生かして返すな!』

 

 一方は全高4~5m程の人型の二足歩行兵器が3機。紫色のボディに頭部後方に伸びた二本の角のようなパーツが特徴だ。両腕にはトンファーが装備されていて、脚部からアーム上に突き出たホイールによって大地を滑るように移動しながら、携行する対人用ライフルを繰り返し発砲している。

 もう一方の管理局員は鮮やかな桃色のロングストレートをポニーテールに括った、手足や腰に騎士を思わせる甲冑をつけた女性だ。

 一見すると女性側が余りにも無謀な戦いのように見えるが、女性は片刃の長剣を手に飛翔し、対人用ライフルの弾丸を時に躱し、時に長剣で弾きながら相手に接近していく様子からはそうは感じさせない。

 

「はぁっ!」

『くぅっ! これならどうだ!』

 

 女性の長剣から繰り出される斬撃が1機の人型兵器の片腕を切り裂き、対人ライフルを取り落とさせる。片腕を破壊された人型兵器は胸部に装備されている2基のワイヤーアンカーを撃ち出して迎撃しようとするが、女性はそれも体を捻って回避するとワイヤーを二本とも斬り飛ばす。

 

「陣風!」

 

 女性が握る長剣から放たれた衝撃波が人型兵器の胸部をひしゃげさせる。破壊されたことで機体の脱出機能が働いたのか、背中のコックピットが射出されるのを確認すると、女性は撃破した機体から飛び退いて対人ライフルの十字砲火を回避する。

 

『くそ! ミッシェルがやられた!』

『だったらこいつでどうだ!』

 

 人型兵器の内1機が、腰部アーマーから取り出した筒状の物体を後方へ下がりながら女性に向けて放り投げる。

 

「っ! パンツァーガイスト!!!」

 

 女性の周囲を薄紫色の光が包んだ瞬間、人型兵器が放り投げた筒状の物体の中央が開いて中から夥しい量の散弾が女性に向かってばらまかれた。数秒にわたって散弾はまき散らされ続け、周辺を蜂の巣にしていく。

 

『生身でケイオス爆雷を喰らえば、如何に魔導師と言えども! ……っなぁ!?』

 

 壁や床が蜂の巣にされたことで舞い上がった粉塵が晴れると、光に包まれて無傷の女性が姿を現す。

 

『う、嘘だろ!? 直撃すればこの機体だってただじゃすまないケイオス爆雷を防ぎきりやがったのか!!?』

「終わりだ、紫電一閃!」

 

 女性を包む光が解け、長剣に炎が宿る。そして2機の人型兵器を一閃。

 たったそれだけで2機の人型兵器は纏めて両断されてコックピットが強制的に射出される。

 射出されたコックピットが他の管理局員によって回収されパイロットも拘束されるのを確認した女性は、破壊した人型兵器を確認して呟く。

 

「知識として知っている物よりもさらに小型かつ軍事用に特化してはいるが、何故こんなところにナイトメアフレームが?」

「シグナム二等空尉。次元犯罪者の拘束が完了しました!」

「ああ、分かった。お前たちはこの質量兵器も回収して先に帰還してくれ。幾つか気になる事があるから、私はこの近辺の調査を継続する」

「了解しました!」

 

 この1、2年の間に、一部の次元犯罪者の間で「ナイトメア」と呼ばれる人型質量兵器が使われ始めている。

 この質量兵器の厄介な点は大別して三つ。

 一つ武装が施された装甲車などよりも高い戦闘力を発揮しながらも、その気になればガレージなどに隠すことができ、中型トレーラーで運搬可能な程隠匿性が高い事。

 もう一つが、脚部につけられているアーム状に突き出たホイールによって、戦場を択ばずに戦えること。

 そして最後の一つが、魔導師のデバイスとしても機能する事。これは魔力と電流を常温で高効率で伝導する特殊な鉱石で作られていることが大きい。

 今回の相手は魔法を使ってこなかったが、他の事件で確認したデータにはナイトメアと魔法を併用して武装局員を殺傷した凶悪犯もいたらしい。

 シグナムは7年前、闇の書に浸食されていた主を救うために共に魔力を収集していた少年、ルルーシュの事を思い出す。

 自分達の主であり家族であるはやてと同年代でありながら非常に聡明な彼は、自分達が管理局に目を付けられにくく・手出しされにくくするために魔力を収集する相手を次元犯罪者や危害を及ぼす魔獣の類に限定する事を提案してくれた。はやてのために罪を犯す事も厭わないほど精神的に追い詰められていた自分達だけでは実行できなかった策だ。

 最初は効率が落ちる事を危惧していたが、襲う獲物を絞る事で結果的に調べる内容をより狭く深くする事ができ、相手が組織であればリスクは増えるが一気に魔力蒐集を行う事もできた。

 更に万が一のために闇の書の今代の主に偽装した仮面の魔導師ゼロとして行動する事で、はやてに責が及ぶのを防ごうともしてくれた。

 そして何よりもルルーシュがいてくれたからこそ、古代ベルカの長い歴史の中で繰り返し改変され続けた事で致命的なバグを抱えた闇の書の闇を解析して切り離し、本来ならばバグと共に消える運命であった管制人格リィンフォースを救う事もできた。

 ルルーシュは今、元気にしているだろうか? 再会を望んでいた妹と出会う事はできただろうか? 

 

「っふぅ、いかんな。これではアインスの事を笑えないぞ」

 

 いつの間にかルルーシュの事ばかり考えていた事を自嘲し、調査を再開する。

 ナイトメアが流通している裏ルートはいまだ不明だが、ルルーシュ達がいる管理外世界が関わっている可能性は高い。問題は、ルルーシュ達がいる管理外世界の座標が分からない事だ。

 ルルーシュが元の世界に帰ったときは、闇の書の闇がルルーシュを取り込んだ際に見せていた記憶を利用した片道の一方的な転送だったため、闇の書の消滅と共にその座標情報も消えてしまった。

 いつかまた会えるとルルーシュは言っていたが、この事件を調査していけばルルーシュがいる管理外世界を見つける事ができるだろうか? 

 

「ルルーシュ、お前が帰った世界で一体何が起こっている?」




※死亡した親衛隊の隊員が保有していた劣化ギアスの能力は、「一定範囲内にいる自分の言葉を聞いた相手に、その内容を信じさせる」というものです。
・射程距離は約50m程度。
・相手が肉声さえ聞いていれば成立する。
・一度の影響力は小さく、時間経過によっても効果は減衰するので定期的に重ね掛けが必要となる。
・この劣化ギアスの影響を受けたものは、僅かながら大脳にダメージを受ける。
・発動時の代償は「心拍数の時間経過に伴う上昇」
・あくまで信じさせるまでなので、「信じはするけれどもそれはそれとして……」という感じで突破されることは普通にあり得る。
なお、シンジュクゲットーの際には現場にいなかった隊員でした。

管理外世界に流出しているサザーランドですが、プレシアが時の庭園に保有していた傀儡兵よりは弱いのでシグナムならば余裕です。(一般武装局員にとって余裕とは言っていない)
幼少期のルルーシュが扮したゼロは、変身魔法で現在の時間軸と同じくらいの背丈に偽装しています。
リィンフォース・アインスは闇の書もとい夜天の書の機能の大半を喪失代わりに生存しました。ツヴァイも原作通り誕生しています。



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