──赤道アジア某諸島内都市
中華連邦軍の主力KMF
機体性能と兵士の練度で圧倒するブリタニア軍に対し、地の利を活かしながら接近戦を避けて徹底的に物量戦による砲撃の雨で中華連邦軍は対抗しているが、戦線は一進一退の膠着状態だ。
そんな中、ブリタニア軍の最新鋭KMFであるグロースター─―正確には独自の改造が施されたグロースターのカスタム機が他の友軍から突出し、密集した
グロースターのコックピット側面に装備された2門の対艦用6連装ヘビーガトリングから放たれる弾幕が、破壊の嵐となって中華連邦軍のKMFに降り注ぎ残骸へと変えていく。
脚部が通常のグロースターよりも大型で、ランドスピナーがそれぞれの脚に2基ずつ装備されているとはいえ、これだけの重武装をしていれば、本来ならば相応に機動力が低下してしかるべきなのだ。にもかかわらず、このグロースターはそのような様子を見せるどころか通常のグロースター以上の速度で戦場を駆け巡る。
常軌を逸しているこのグロースターの胸部に刻印された翼のない竜に”5”の文字が刻まれたマーク。これは皇帝直属の騎士であるナイトオブラウンズの一人、ナイトオブファイブの乗機である証だ。
一方的な蹂躙劇を前に中華連邦軍の地上戦艦である
「ぬるい。この程度、子供だましにすらならん。これならばルキアーノのナイフ遊びの方が遥かにスリリングだ!」
グロースターのパイロットにしてナイトオブファイブであるヴィクトリア・ベルヴェルグは、黄銅色の瞳を細めて艦主砲の弾幕が降り注ぐ戦場をグロースターのランドスピナーで駆け抜けていく。
ヴィクトリアの周囲には黄銅色の奇妙な模様の陣が幾つも浮かんでいる。陣の回転が速くなるのと連動するようにグロースターも加速しながら、そのまま
「こ、これが……ブリタニアのラウンズの実力! 化け物か……!!?」
「これで終わりだ。無意味に無価値に、無様に死ね」
ハッチからナイトメアを出撃させようとする
「敵旗艦は破壊した! 残るは烏合の衆ばかりだ、殲滅し我らがエリアとして併合せよ!」
『『『イエス、マイロード!』』』
燃え盛る
最早戦いではなく一方的な蹂躙となっている戦況を尻目に、ヴィクトリアはエリア11に送り込んでいる部下エインリッヒが間者達から集めた情報を反芻する。
──クロヴィス総督の死
──特派強奪事件
──コーネリア第二皇女がエリア11新総督として就任
──そしてゼロ
「ゼロ……キヒ、キヒヒヒ……!!! ああ……懐かしい、そして忌まわしい!」
ヴィクトリアが思いだすのは7年前、存在を隠蔽していたはずの秘密研究所に襲撃を仕掛けてきた騎士たちだ。
彼女たちを指揮していた奴の所為で自分の計画が組織と共に水泡に帰し、追手を振り切るために元の身体を捨ててまで部下と共にこの世界まで逃げ込むはめになり、ほとぼりが冷めるまで数年の時を要した。
それから送り込んだ部下が得た情報では、ゼロはどこぞの管理外世界で発生した事件を最後に姿を消したそうだが、まさか私の存在に気が付いて追ってきたのか?
だが、此方としてもこうして復讐の機会があちらからやってきたのだから好都合だ。
「あぁ……ゼロ、ゼロ、ゼロ! 貴様の心臓にこの手で刃を突き立て、仮面を剥がして末後の表情を見る時が楽しみだ!」
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巷では「特派強奪事件」と呼ばれる一連の事件から数日。マーヤはアッシュフォード学園には向かわずに早朝からトウキョウ租界を歩きながら、ルルーシュ達が起こした出来事による変化を考えていた。
(ゼロとスザクの華々しいデビューから数日。あれ以来、この街の様子は一変した。連日、ニュースでは二人の事が報じられ、新聞、雑誌でも取り上げられている。日本最後の首相の息子と共に正体不明の仮面の人物がブリタニアの皇子を殺したというのだから当たり前だろう。支配する側のブリタニア人は勿論、ブリタニアへの反攻意識を持つ日本人にも影響を及ぼしたはず。ルルーシュは、既に次の動きを考えているようだけれども、今度は何をするつもりなのかしら?)
ルルーシュに渡された連絡用の端末を取り出して眺めるが、特に何か反応があるわけではない。
「(ルルーシュからの次の連絡はまだない。租界の警備が厳重になった分、ゲットーの方は手薄になったようだから、行くなら今日かな)あの日、以来か……」
あの惨劇以来、ルルーシュと作戦を練るためにゲットーに忍び込むことはあっても、心の整理が出来ていなかったために孤児院があったあの場所に行くことは躊躇っていた。
一瞬、ナナリーも誘うか考えたがマーヤはその選択肢をすぐに取り下げる。ナナリーはアッシュフォード学園のクラブハウスに暮らしているため、今から向かったのでは自分がサボっていたことがばれてしまうし、ルルーシュもナナリーに学園をさぼらせるのは嫌がるだろうからだ。
「弔いの品、買ってこなくちゃ……「どいてくださーい!」ん?」
マーヤが孤児院に行くにあたって必要なものを用意しようと考えていると、頭上から女性の叫び声が聞こえてきて思わず上を向く。
すると、頭上から少女が一人、上から降ってきた。
「あぶなーい!」
「え? きゃぁっ!」
このままでは少女が怪我してしまうと考え、マーヤは降ってきた少女を抱きとめる。
危うくバランスを崩すところだったが、少女が軽かった事もあってどうにか転ぶことはなく互いに怪我する事もなかったのは幸いだった。
降ってきた少女の様子をマーヤは確認する。その少女は桃色の髪を長く伸ばしていて、愛らしさの中に気品を感じさせる。どこかの令嬢だろうか?
「えっと……危なかったけれども、怪我はない?」
「はい。ごめんなさい、下に人がいるとは思わなくて」
「ああ、いえ。私も上から人が落ちてくるとは思いませんでしたので……。何かあったのですか?」
本来ならば危なかったことを怒るべきなのだろうが、この少女と接していると不思議とそんな気持ちが失せてくる。
「はい、何かあったんです」
「へ?」
「私、実は悪い人に追われていて。だから、助けてくださいませんか?」
「え……あ、はい」
明らかに怪しい、何かの言い訳にしか思えないにもかかわらず、マーヤは思わず了承してしまう。
そうして少女に手を引かれ連れていかれた繁華街で、少女は何かを思い出したかのようにマーヤに話しかける。
「自己紹介がまだでしたね。私は……ユフィ」
「ユフィ……さん?」
「はい。ユフィって呼び捨てで構いません」
「そう、私はマーヤ」
「マーヤさん。良いお名前ですね」
「えっと……ありがとう。それで、嘘なんですよね? 悪い人に追われてるって」
このままではユフィにペースを握られっぱなしになると考え、マーヤは先ほどの彼女の嘘に関して切り込む。しかし、
「ニャー」
ユフィはネコの鳴き声で返答してきた。なんで?
いや、ちゃんと見るとユフィは近くにいた右目近辺が黒いぶち模様の猫に近寄って話しかけているようだ。何というか、自由過ぎないだろうか?
当然のごとくネコは見知らぬユフィに対して威嚇するが、ユフィがそれでも猫語で話しかけ続けていると、なんかあっという間に見知らぬ猫に懐かれていた。コミュニケーション能力高すぎない?
ユフィのコミュニケーション能力の高さに戦慄していると、アッシュフォード学園のミレイ会長からボッチ認定されて生徒会に入れられたことを思い出し、マーヤは少し落ち込む。
(いや、ルルーシュ達と協力する以前からサボり癖があったから自業自得と言われたらそれまでなんだけれどもね……)
「えへっ」
警戒心を解いた猫を抱きあげたユフィが、マーヤが近づいてきた。マーヤは猫の喉元をくすぐる様に撫でる。
「ニャァ~♪」
猫はマーヤの指で撫でられ気持ちよさそうにしながらゴロゴロと喉を鳴らす。
その様子に、マーヤも顔を少し綻ばせた。
「ふふっ、マーヤさん、この子を少し抱いててもらえますか?」
「良いですよ」
ユフィはマーヤに猫を渡すと、ポケットからハンカチを取り出して猫が怪我をしている足に包帯のように巻き付けた。
猫はハンカチが気になるのかしきりに嗅いでいるが、嫌がって外そうとしたりはしていない。
マーヤは改めてユフィに猫を返すと、改めて先ほどの質問をする。
「ユフィ、さっきはどうして悪い人に追われているって嘘をついたの?」
「私の事、気になりますか?」
「えっと……はい」
「じゃあ、もう少し私に付き合ってくださいな」
「えっ、あ……」
本当はシンジュクゲットーの孤児院に行く予定があるが、法律で禁止されていないとはいえこの状況でゲットーに用事があるから無理と言う訳にもいかず、マーヤは流されるようにユフィの提案に乗せられてしまう。
繁華街の様々な店や施設を見て回っていくユフィとマーヤ、そしてユフィに抱えられている猫。
「こうしていると、ブリタニアにいるのと変わらないですね」
「ユフィは本国から来たの?」
「はい。学生でした。先週までは」
「先週までって……じゃあ、今はどうしているの? 私と同じくらいの年代だから、高校生だよね? 観光ならばいつだってできるでしょ?」
マーヤから見たユフィは、自分と同じくらいの年代の少女だ。学生だったというからには高校生辺りが妥当だろうが、本国の人間がこの時期にやってきたという事にも疑問を抱いて矢継ぎ早に質問する。
「えへへ。質問攻めですね」
「あっ、ごめんなさい」
「ああ、そんなつもりじゃ……。その、今日が最後の休日で……。だから見ておきたかったんです。エリア11を。どんな所なのかなあって」
ユフィの言葉に、マーヤは胸の内にずきりと痛みを感じる。
ブリタニアの人にとってエリア11で、日本で見たい景色というのはブリタニアが支配する安全な租界なのだろう。彼女のような優しそうな人でも、ゲットーのような場所は見てもらえない、気にかけてもらえない。
「それだったら、私よりも……」
「いいえ。良かったです。貴方で」
「……そうですか」
「マーヤさん。無理を承知で、もう一か所だけ案内していただけますか?」
「私で行ける所ならば良いけれども……」
次の一か所を案内したらユフィと別れて孤児院に行こう。マーヤがそう思っていると、
「では、シンジュクに」
「えっ!」
「私にシンジュクゲットーを見せて欲しいのです。マーヤさん」
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日本解放戦線。ブリタニアによって名前と誇りを奪われ11番目のエリアにされた国家である日本に存在する最大規模のレジスタンスであり、旧日本軍に所属していた者が構成員多くを占める事から他のレジスタンスとは質・量共に比較にならない組織。
日本解放戦線の拠点では、後ろ髪が上向きにはねて顎髭を生やした軍人である草壁がもう一人の軍人、藤堂に協力を呼び掛ける。
「力を貸してくれ、藤堂! ゼロによってブリタニアは混乱している。一度は名誉ブリタニア人としてブリタニアに与した枢木スザクも反抗を示した今こそ、我々日本解放戦線が立ちあがるときだ!」
日本最後の首相の息子、枢木スザク。そして謎の反逆者ゼロ。この二人が初めて表舞台に立った特派強奪事件によって、エリア11のブリタニア軍内におけるクロヴィス親衛隊と純血派の溝は決定的なものとなった。
親衛隊派閥は早晩消滅する事となるだろうが、純血派もリーダーであるジェレミア・ゴットバルトがゼロを取り逃がす失態を犯したことから、ブリタニアの様々な機関との連携に綻びが生じているらしい。
また、ゼロの登場をきっかけにエリア11の各所でレジスタンスによる反ブリタニアのテロが発生するようになり、レジスタンス活動の勢いに大きな波が来ていると判断しての事だ。
「焦るな! キョウトが紅蓮弐式をゼロに与えるというのは確定情報ではない。ゼロにこだわりすぎると、足を掬われるぞ」
「ふんっ! 奇跡の藤堂ともあろう者が、随分と臆病だな」
奇跡の藤堂。この呼び名は7年前のブリタニアとの戦闘で唯一日本側が勝利した戦いである「厳島の奇跡」の立役者となった藤堂につけられた二つ名である。
この勝利があったからこそレジスタンスは7年もの間、抵抗する意思を失わずに戦い続けている。
「奇跡と無謀を履き違えるつもりがないだけだ」
ブリタニアに対する反抗作戦において、藤堂の存在の有無はその成否に大きな影響を与える。作戦立案や実行、本人の強さもそうだが、何よりもあの奇跡の藤堂がいるという安心感が他の者たちに与える影響が大きいのだ。
だからこそ、奇跡の藤堂の協力を取り付けたという誰の目にもわかる安心材料が草壁は欲しいのだ。
深く息を吸った草壁の左目に、片翼が途中から欠けた赤い鳥の紋様が浮かぶ。
「藤堂よ、私の考えは理解しているだろう? どんな手を使ってでも、ブリタニアを排除して日本を取り戻さなければならないのだ」
「……」
「このまま奴らに我等の国を好き勝手されるわけにはいかん」
「……っ!?」
「なあ、藤堂……。お前の奇跡を、私のために役立ててくれないか?」
左目に浮かんだ紋様が消え、草壁は再び深く息を吸う。彼にはこれで藤堂も協力するという確信があった。数年前に自らの瞳に宿った邪法を使って、同志とならなかった者はいないのだから。
だからこそ、
「……断る!」
「なっ!?」
藤堂が拒否するという結果に草壁は驚愕した。
「な、何故だっ!?」
「草壁中佐……貴方が日本の未来を憂いている事はよくわかった」
「ならば……!」
「だが……だからこそ! 目的のために出所の分からない邪法に手を染め、外道に身を堕とした貴方の、無関係のものを犠牲とする提案には頷けない!」
「っ……!」
藤堂が発する気迫に、草壁は思わずたじろぐ。
草壁は日本解放戦線の中でも最も過激なグループのリーダー格だ。
軍属でない市民であってもブリタニア人や名誉ブリタニア人であれば拉致・拷問し処刑する事も厭わず、日本人が祖国の誇りを取り戻すために戦いその命を燃やすことを当たり前とするその思想は、例え日本奪還という同じ思想があったとしても、藤堂の思想の根幹とはあまりにもかけ離れていた。
思想の大きな違いと意志力の差。これが草壁に用いた邪法に藤堂が染まらなかった理由である。
「っくぅ……、もう良い! 貴様の手は借りずとも、私達だけでも奇跡を起こして見せる!」
藤堂と思想が相いれない事を突き付けられた衝撃か、或いは彼が意志力でもってこの邪法に屈しなかった事を認めたくない自尊心か。草壁は藤堂に捨て台詞を吐くとその場を離れる。
その様子を、藤堂は悲しげな表情で見送る事しかできなかった。
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クロヴィス総督が発した命令によって住民の多くが殺害されたシンジュクゲットーには、幾つかの場所に犠牲者を悼む慰霊碑が作られていたり、行方不明者を探しているビラが貼られている。
そう言った場所をマーヤとユフィは順番に巡っていき、その地で何があったのかをマーヤは説明していく。
ひょっとしたら、マーヤ本人も無自覚なユフィへの当てつけだったのかもしれない。あるいは、何も知らない本国のブリタニア人にこの地でどのような悲劇が起きたのかを知ってほしいという心の叫びだったのかもしれない。
途中、あまりの惨状にユフィは顔を青ざめていたが、ユフィ本人の希望で中断されずにマーヤによる案内と説明は続けられていく。
そして、太陽が傾いてオレンジ色の夕日となり始めた頃、マーヤがシンジュクゲットーを案内する最後の地に選んだのが……、
「此処が、シンジュクゲットーの孤児たちを保護していた孤児院だった場所です」
「ここが、孤児院……」
ブリタニア軍のナイトメアによって無惨にも破壊され、マーヤたちがブリタニアに反逆するきっかけとなった孤児院だ。
マーヤはまだ細かい瓦礫が散乱する敷地内に建てられた小さな慰霊碑に近づきしゃがむ。
「陽菜……。まりととも、浅間おばさんも、来るのが遅くなってごめんなさい。やっと、警戒封鎖が解けて来ることができたの。これ、何の弔いにならないかもしれないけれど……陽菜からもらった鶴を真似て折ってみたの」
取り出してお供え物として置いたものは、色紙で折った折り鶴だ。ただし、陽菜たちが折った折り鶴と比べて、ところどころに皴が寄ったり、バランスが少し悪かったりしている。
「でも、全然ダメだった。皆みたいに上手く折れなかった。今の私には、これが精いっぱいだった。でも、待ってて……」
(……私達は必ずブリタニアを倒す。そして、この国をブリタニアの支配から取り戻す。その時こそ、皆に胸を張って会う事ができると思うから……。だから、それまで待ってて)
その先の言葉はユフィがいるから言葉にはできない。それでも、マーヤは心の中で誓う。
「マーヤさん、シンジュクにこんなにも亡くなられた方がいたのですね……」
「はい。老若男女問わず、多くの人が殺されました。最近までは少しずつ人が戻り始めていたけれども、シンジュクゲットーはもうおしまいです……」
「……」
「ニャァ……」
ユフィは関係ないと分かっているけれども、マーヤの言葉に棘が少し混ざってしまう。
ユフィに抱きしめられている猫が、悲しげにしている彼女を慰めようとしているかのようにペロペロとユフィの指先を舐める。
その時、どこかからカシャッ、カシャッとシャッター音が聞こえてきた。
「あーあ。やっぱイレヴン相手じゃRGは使ってないか」
「おいこっち、サザーランドのアサルトライフルの跡じゃないか? あっ、ちょっと撮って」
「わかってるよ」
「次、俺な!」
どこかから入ってきた学生と思しきブリタニア人が我が物顔で敷地内に踏み込むと、犠牲者の墓標代わりとなっている小さな石を踏みにじりながら惨状の跡を楽しげに写真に収めていく。
「ったく、この石っころ……邪魔だな! ……これで良し」
学生の片割れが、撮影の邪魔になっていた小さな墓標を無造作に蹴りどかす。
死者の眠りを妨げその尊厳さえも冒涜する少年たちに、マーヤは頭の中が沸騰したように怒りが湧き上がった。
「貴方達……、何をしているの! ここは犠牲になった人達が眠っている場所なのよ!」
「ん? 何言ってんだよ。
「そうだ、そうだ。そんなどうでもいい事よりも、僕らの趣味の方がずっと大事だろ。イレヴンなんて、とっととこの世から消えたほうが世のため人のためってね」
こいつらはなにを言っているの?
勝手にくたばっただけ? 陽菜たちは必死に生きていたのに!
消えたほうが世のため? 人のため? あの子たちは生きる事も許されないとでもいうの!?
「どうせお前だって、『死んじゃった人たちを慰霊する自分はなんてすばらしいんだろう』って自己陶酔しているだけだろう? キモいんだよ!」
「あ~、やだやだ。こういう勘違いした奴がいるから、いつまでたっても名誉にもなれない役立たずのイレヴンが身の程知らずのまま歯向かってくるんだよ」
許せない……。
許せない、許せない……。
許せない、許せない、許せない……。
ゆるせない、ユルセナイ、許せない……!
此処で騒ぎを起こせば、ルルーシュ達に迷惑をかけると理性が必死に警笛を鳴らす。それでも、マーヤの怒りは目の前の少年たちに報復をしろと叫び続ける。
最後の理性の糸が切れる寸前のマーヤを止めたのは、ユフィの行動であった。ユフィは猫を降ろすとおもむろに少年たちに近づいてそれぞれに平手打ちを浴びせる。
「痛ぁっ……! 何するんだよ! って、僕のPrime-GとLX4が……!」
「これ高かったんだぞ、どうしてくれるんだよ! 弁償しろよ!」
「黙りなさい!」
先ほどまでの優しい少女とは思えない気迫に、学生たちがたじろぎ数歩後退る。
「これ以上、この方とこの地に眠る方たちを侮辱する事は許しません! 我が名において、命じさせていただきます!」
「はあっ!? あんた何様のつもりだよ!」
「私はブリタニア第3皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアです!」
「えっ……ユフィ?」
「皇女……殿下!!?」
「となるとあっちの女は、まさかSP!? や、やべえ……殺される前に逃げないと!」
「ま、待てよ。俺を置いていくなよ~!」
ユフィが本国のユーフェミア第3皇女である事を知った学生たちは、皇族に対する不敬を行ったことを恐れて一目散に逃げ去っていく。
これがもしも他の皇族に対して同様の事を行っていたならば、この場で有無を言わさず処刑されていても可笑しくない。少なくとも市民からはそう思われるほど、皇族との間には隔絶した差があるのだ。
学生たちが逃げ去っていったのを見届けた後、マーヤはユーフェミアに近づいて謝罪する。
「ユーフェミア皇女殿下、知らなかった事とはいえ、失礼いたしました」
「マーヤさん……いえ、マーヤ。あなたがこの孤児院の子供たちを喪ったように、私も腹違いの兄クロヴィスを喪いました」
「それは……」
「兄がこの地に多くの犠牲をもたらした事は、マーヤさんが教えてくださいました。それでも……だからこそ、私はこれ以上、皆が大切な人を喪わなくて済むようにしたいのです」
「という事は、ユフィ……ユーフェミア皇女殿下がこのエリア11の新しい総督に?」
「いえ……総督となるのは私の姉、コーネリア第2皇女です。私は副総督としてこのエリア11と関わる事となります」
コーネリア・リ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国において皇族でありながら自らナイトメアに乗って戦う騎士でもある「ブリタニアの魔女」の二つ名を持つ女傑である。
マーヤは、ルルーシュがシュナイゼル第2皇子とコーネリア第2皇女が彼の母親が殺された日の秘密を知っているとクロヴィス第3皇子から聞き出したと言っていた事を思い出す。そして、コーネリアはユーフェミアにはとても甘いという事も。
彼女を利用すれば、ルルーシュ達の計画を達成する一助になるかもしれない。理屈で言えば、彼女を最大限利用してしまうのが良いのだろう。けれども……そんなことはしたくないと思っている自分がいる。
理屈と感情で板挟みになっているマーヤに、ユーフェミアが尋ねる。
「そういえば、マーヤさんにお聞きしなければならない事がありました」
「な、何でしょうか」
まさか、何か感づかれたの? もしも、ゼロとの関りだとしたら、私は……。
「マーヤさんは……学校には通っていないのですか?」
「……え? えっと……その、すみません。今日はさぼりました」
「駄目ですよ、私と違ってマーヤは学校に通えるのですから」
「はい……。申し訳ありません」
「ニャァ~」
「ほら、アーサーもサボりは良くないって言っていますよ」
ユーフェミアの正論によるお叱りに、マーヤはバツが悪そうにしながらも緊張が抜けてほっとする。というか、この人はいつの間に野良猫に名前を付けたのだろうか?
そういえば、生徒会の事も含めてクラリスさんには言っていない事・言えない事がどんどん増えているなぁ……。
スザクが反逆デビューした事で租界に堂々といるわけにはいかなくなったので、ユーフェミアとの出会いはマーヤとなりました。
草壁が保有しているのは、何者かがギアスを基に開発した劣化版のような物です。
本来のギアスと比較すると、
・素質が低くても安定して発現そのものはする。
・ただし影響力が低く、条件や意志力次第で抵抗される。
・能力ごとに使用する際に必ず何かしらの代償がある。
等と言った差異があります。
○ナイトオブファイブ専用グロースター
・武装
内蔵式対人機銃
対ナイトメア戦闘用大型ランス
アサルトライフル
対艦用6連装ヘビーガトリング×2(コックピット両側面)
スラッシュハーケン×2(胸部)
・備考
本作におけるナイトオブファイブであるヴィクトリア・ベルヴェルグの専用機。
当時としては超重火力のカスタマイズが施されているグロースター。
脚部は大型化し、ランドスピナーもそれぞれの脚に2基ずつ採用されるなど、機体バランスが悪くなっている本機を支えるための措置もとられている。
重武装化による機体重量の増加にもかかわらず、なぜかヴィクトリアが運用する場合に限っては機動性が損なわれるどころか通常のグロースターよりも高い機動力を発揮する謎の現象が発生する。