ONE DAY   作:柴猫侍

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Ⅳ.二人と明日

 

 

 

 昔の話だ。

 

 まだ革命軍に拾われたばかりの頃。

 与えられた私室の雰囲気にも慣れず、代わる代わる部屋を人が訪ねて来る鬱陶しさにも辟易して部屋を飛び出した。その最中だった。

 

『───本当にあやつの面倒を見れるのか? ドラゴン』

 

 どこからともなく聞こえてくる声に足を止め、耳を傾ける。

 

『ルーナのことか? ハック』

『あぁ。ここしばらく様子を見てみたが、いくらなんでも狂暴が過ぎるぞ。トラブルに遭った者の中には目が合っただけで絡まれたと報告する者も居る』

『先に手を出された訳ではないんだろう? ならば、特に問題はない』

『しかしだな……』

『気にし過ぎだ。あいつの境遇を思えば、そうなってしまうのも致し方ない。革命軍(ここ)に居るにせよいずれ出て行くにせよ、必要最低限の倫理と教養を身につけさせる。それがあいつを拾い上げた我々の義務だ』

 

 諭すようなドラゴンの声に続き、ハックが唸る。

 それを聞くや、自然と足はその場から離れようとする───が、そんな時だ。

 

『───待っていよう』

『……ドラゴン?』

『おれ達があいつにしてやれる唯一の方法だ。人に歴史あり……時間と環境が今のあいつを生み堕としたと言うのなら、それを矯正していくにも長い時間と安らげる環境が必要だ』

『だからといって、無下にされる者達も堪ったものではあるまい』

『それを受け入れられるだけの器が出来上がっていないのだ。虐げられるのが当たり前で疑心暗鬼が常のあいつには、他人からの施しが害意か厚意かの区別もつかないのだからな』

 

 気づけば、縫い付けられるように留まっていた。

 前に進むことも後ろに引くこともない。床とつかず離れずの距離を保つつま先は、まるで何かを暗示するかのような様相であった。

 

『コアラやお前には苦労をかけるが、何とか面倒を見てやってくれ』

『ううむ、それについては吝かではないが……』

『どうした?』

『……口さがない者のせいで、あやつを天竜人の子だと良くない目で見ている者も居るのも事実だ。それについてはどうするのだ?』

『当然、箝口令を敷こう。我々の最終目標が天竜人……世界政府の打倒だが、あいつはただの一被害者。そんな者を虐げる者には、我々の大義に反する行為だと厳しく言い聞かせる必要がある』

『了解した。私も出来得る限りのことは努力しよう……ん?』

 

 怪訝な声を漏らした直後、開いた扉から魚人の男が顔を覗かせる。

 しかし、左右を見渡しても人の姿は見受けられない。魚人の男は首を傾げ、いそいそと部屋へと戻る。

 

『どうした』

『いや……誰かに聞かれていたような気がしてな』

『聞かれていたところで問題はない話だ』

『それはそうなのだが……いや、スマン。やはりこの身の上だと、そういうことに過敏になってしまうな』

 

 違いない、と顔に刺青を入れた男は目を伏せる。

 そして、重く据わった声色で独り言のように言い放った。

 

『……いずれ時は来る』

 

 

 

───お前にもわかる日が、きっと来るだろう。

 

 

 

 その言葉は離れ行く足音の主には届いていなかった。

 

 

 

 当時は、まだ……。

 

 

 

 ***

 

 

 

 轟音と同時に、王宮の壁に大穴が穿たれた。

 そこより飛び出す二つの影。三度、眩い閃光が交差する。刹那の合間に幾度となく武器を交えたルナとシキの二人は、そのまま広大な甲板へと降り立つ形で熾烈な死闘の場を移した。

 

「ジハハハハ!!! 死にかけの癖によく動くじゃねえか!!!」

「死にかけはてめェも同じだ!!! 老いぼれの死に損ないが……!!!」

「言うじゃあねえか!!! その大口がいつまで続くか見物だぜぇ!!!」

 

 舌戦も交えながら、両者の脚と拳が振り抜かれる。

 

「───斬波(ざんぱ)”ァ!!!

「───“エレ(クロ)”!!!

 

 激突する拳圧と剣圧。

 空気の壁を切り裂きながら疾走する斬撃は、落雷と見紛う速度で振り下ろされた爪撃によって霧散する。

 直後、強引に捻じ曲げられた大気は元の形へ戻ろうと周囲に一瞬乱気流を生み出す。

 風に煽られて露わになるルナは獰猛な獣の如く歯を剥き出しにし、シキを睨みつけていた。

 

 直感が叫ぶ───一瞬でも気を抜けば、奴は喉笛を食い千切りに飛び掛かってくると。

 

「ハッ!!! ここまではほんの小手調べだ……」

 

 しかし、相手の実力の一端は数刻前に一度目の当たりにしている以上、ここまでは予想の範疇だ。

 恐るるに足らないと宙へ舞い上がる彼は、余裕を湛えた笑みを浮かべてみせる。

 

「所詮お前ぇは地面を這い蹲るしかできねぇカスだってことを教えてやる……いくぜ」

 

 そう言うや、シキは何かを呼び寄せるかのように手招きを始めた。

 見覚えのある動きだ。攻撃の予兆を感じ取ったルナの考えは正しく、次第に周囲一帯が腹の底に響く唸り声を上げる。

 

「芸の無ェジジイが……」

「そいつは……凌いでから言うんだなァ!!!」

 

 王宮の周囲に広がる銀世界が、みるみるうちに巨大な獅子頭へと姿を変える。

 その数は一頭や二頭どころではない。確実に眼前の狂竜を咬み殺すべく、後方に控えさせた数も含めれば十頭を超える量だろう。

 以前の大地を巻き上げた攻撃を土砂崩れとするなら、今回は広大な雪原を自由自在に操り、雪崩を生み出したに等しい。

 

獅子威(ししおど)し“御所地巻(ごしょちま)き”ィ!!!

 

 一見土砂よりも攻撃性を欠くイメージの雪だが、押し固めれば堅い氷へと変わる以上、けっして油断できるものではない。

 そもそもこの質量だ。土砂であろうが雪であろうが、押し潰されればどちらも関係ない。

 

 それらを自在に操るシキは、地上からは手の届かない上空で悠々とほくそ笑む。

 

「ジハハハハ!!! さぁ……無様に地に沈めぇ!!!」

 

 取り囲む白銀の獅子頭の壁は高い。

 四方八方に立ち塞がっている以上、地上には逃げ場がない。

 

 それこそ、シキのように空中へ翔ぶしか───。

 

「誰が……地に沈むって?」

 

 バリッ、と地上に閃光が瞬く。

 悪魔の実の能力により、全身に電流を奔らせるルナ。それはただの電気の鎧などではない。彼の狙いは、人間に生来より備わっている生体電流を操作・増幅させることによる身体活性。これに伴って電気を纏ったルナの身体能力は通常時を遥かに凌駕する。

 

 故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 次の瞬間、ルナの立っていた甲板が爆音と共に陥没し、稲妻が空に向かって駆け上がる。

 

「───月襲(ムーンレイド)”!!!

「この程度で……なにっ!!?」

 

 自身の技から逃れた相手に驚く間もなく、宙に現れたルナの爪がシキの頬を切り裂く。

 寸前で受け止めたはずだ。武装色の覇気も纏っていた。にも関わらず表皮を切り裂かれた理由は、指先より迸る電流にあった。ただ受け止めたところでは不規則に暴れる高電圧の爪を防げない。

 頬から血が滴り落ちる感触と、一撃貰ってしまった事実に不快感を覚えるシキ。その顔には鬼のような形相を浮かべながらも、思考は冷静にルナの足元へと視線を向けてみせる。

 

(“月歩(ゲッポウ)”か……)

 

 海軍やCP(サイファーポール)といった政府に属する機関で広く使われる体術“六式”の一つ。強靭な脚力で空中を蹴って宙に浮くという、超人的な身体能力無くば為し得ない技であるが、“新世界”で鎬を削ってきたシキにとっては珍しい技でもない。

 むしろ、自身の浮遊能力に対抗するべく月歩を使ってきた相手を返り討ちにした経験は数知れない。

 

「小賢しい……おれに空中戦で勝てると思うなァ!!!」

「チッ!!!」

 

 お返しと言わんばかりにシキの掌底がルナを襲う。

 腕を交差させて受け止めようとするルナであったが、直接触れるより前に伝わってくる衝撃に物理的な防御は無に帰し、長い距離を弾き飛ばされる結果となった。

 幸い地面に激突する前に態勢を整えるものの、その間にもシキは周囲のありとあらゆる物体を操り、次々に滞空するルナへと襲い掛からせる。

 

「ジハハハハ!!! 相手の土俵で戦う馬鹿がどこにいる!!! 空の上は“フワフワの実”の独擅場だ……じわじわと磨り潰してくれてやる!!!」

 

 雪原、土砂、終いには巨大な山の岩肌をも抉り取って獅子頭を形成するシキ。

 三者三様の性質を有する猛攻に晒されるルナは、武装硬化した三本爪を獅子頭の眉間に突き刺しては爆散させる。

 だが、それだけではすべてをいなすことは叶わないと、襲い掛かる獅子頭すらをも足場にし、シキに圧倒的有利な空中においても何とかやり過ごしていく。

 牙を剥く獅子の口腔へ滑り込み、内部から爪を突き立てて破砕する。そうして飛散する肉片から飛び出した直後にやって来る獅子には、“竜の衝撃”で遠距離から核を射抜いて破壊。続いて迫る攻撃にも、己が持ちうる力と技のすべてを用いて対抗していく。

 

 これにはシキも苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「チッ……大口叩くだけのことはある。さっさと諦めりゃあ、楽に死ねるものを!!!」

「諦めついてりゃあ……地獄なんざ見てねェよッ!!!」

 

 怒声を上げながら、ルナが足を振り抜く。

 すれば横薙ぎが電撃と共に刃の如く飛び、眼前で聳え立っていた獅子に大穴を穿った。すかさず穴を潜るようにルナは宙を駆け上がっていく。

 

「ジハハ!!! そうかい、そいつぁ災難だったな!!!」

「てめェにも今すぐ見せてやるよ!!!」

「───残念だが、そいつゃ叶わねえ」

「あ゛? ……ッ!!!」

 

 刹那、ルナは直感のままにとんぼ返りする。

 辛うじてその場にとどまった彼の目の前を横切ったのは、これまた巨大な獅子頭。しかし、今までに襲い掛かってきた獅子とは明確に違う素材で形成されており、思わずルナは舌打ちする。

 

()だ……!!?」

 

 能力者にとって明確な天敵───“水”。

 千差万別の悪魔の実には多少操れる能力もあるとは言え、ここまでの規模感で水そのものを操る能力は極めて限られるであろう。

 シキの周りには、水で形作られた無数の獅子が佇んでいる。

 その光景は悪魔の実の能力者にとって───まさに地獄に等しかった。

 

「どうだ、驚いたか?」

「てめェ……」

「お前ぇが必死こいて空に上って来ようが、おれはその上から支配下に置いた水を操れる……忘れたか? メルヴィユはおれの支配下……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは紛れもなく“覚醒”の極地(ステージ)に辿り着いた者の為せる所業。

 

「お前とは能力の練度も規模も……すべて次元が違うんだよッ!!!」

 

 伝説の時代を生きた大海賊───“金獅子”もまた、その中の一人であるという証明に他ならない光景は、すぐさま牙を剥いてくる。

 群れになって迫りくる獅子の並びは、能力者に対する葬列と言ってもいい。

 

「野郎……!!!」

 

 無抵抗で居れば瞬く間に水の中へ閉じ込められることは明白。

 そして水中で能力者が無力であると知っているからこそ、対峙するルナの表情も一層険しさを増す。

 

「……舐めるんじゃ」

 

 しかし、無抵抗で居るはずもない。

 むしろ、彼は能力に関係なく水を制圧する手段を会得した人間の一人だ。手は“竜爪拳”のまま、構えは“魚人空手”の型を取る。

 

───対象物の核を破壊する“竜爪拳”と、一帯の水を制圧する“魚人空手”の融合。

 

「ねェよ!!! 竜爪拳───(りゅう)波動(はどう)”!!!

 

 津波の如く押し寄せる巨大な水獅子に対し、ルナは全力で覇気を纏った三本爪を叩きつける。

 次の瞬間、水獅子の眉間が大きく凹んだかと思えば、その衝撃は全身へ波紋となって広がっていく。ものの数秒で全身へと及んだ波紋は、たちまちに巨体を粉々に霧散させる。

 

 並みの能力者であれば為す術なく殺される一手を覆すルナ。

 そのまま彼は霧散した水の一部を掬い取り、放り投げるようにシキを“撃水”で狙撃する。

 

「猪口才な!!!」

 

 凄まじい速度で迫りくる水滴を、シキは片腕の一振りで叩き落してみせる。

 魚人空手の達人クラスならば、遠方に佇む人間を“撃水”で撃ち抜く芸当はできるであろうが、如何せん今のルナは満身創痍な上、足場も悪いときた。

 そのように苦し紛れと見て取れる一撃を前に、やられる自分ではない───そう言わんばかりに語気を荒げるシキであったが、直後に痺れと激痛が全身を駆け巡る。

 

「なに……ッ!!?」

 

───体が、動かない。

 

 たった一瞬ではあったが、全身を硬直せしめた衝撃の余波───否、“撃水”に纏っていた電撃が目に付いたシキは、己がしてやられたと理解する。

 

「小癪な真似を……!!!」

「おおおおお!!!」

「この程度で……おれを仕留められると思い上がるなァ!!!」

 

 しかし、隙と言える隙は一瞬。

 すぐさま硬直を解いたシキは、その間に空中を蹴って迫ってきていたルナに対し、新たに持ってきた水を操作して壁を作る。

 数メートルにも及ぶ幅の水の壁は、押し寄せてくる勢いもあってか、迫力も威力も津波そのものだ。

 即席とは言え、能力者相手には十分な防壁である。直接突っ込んで来られない以上、相手は何かしらワンアクション踏んでくるはずとシキは踏んでいた。それを見聞色で読み取ってから動けば、十分回避に移れる時間は確保できるとも。

 

「───借りるぞ」

 

 けれども、これは能力者相手に限る話。

 大剣豪が相手なら水壁ごと切り伏せてくるように、障害物越しに攻撃できる手段を持った相手には、期待する効果は持てない盾に過ぎない。

 

 故に、()()()()()()()()事実を真っ先に警戒しなかったシキへ、水の塊を手に取ったルナの一撃は───突き刺さった。

 

「───“武頼貫(ぶらいかん)”!!!」

「ぐ、ぅおおッ!!?」

 

 巨大な水壁へ拳と共に叩きつけられる水の塊が轟音を奏でる。

 広がる波紋は広く、そして、荒々しい。水壁そのものに荒波を立たせる衝撃は、そのまま分厚い壁を突き抜けていき、シキが湛えていた余裕の笑みごと彼の体を撃ち抜いた。

 骨肉と臓腑に激震が奔り、堪らずシキも吐血する。

 

「この……ガキがァ!!!」

 

 だが、まだ倒れるには至らない。

 彼が元四皇クラスの実力者であるとはいえ、“武頼貫”は魚人空手の『奥義』の一つだ。長いブランクを抱える彼が、必殺級の一撃を喰らったにも関わらず立てている理由は至極単純。

 

(……流石に威力が下がるか)

 

 いかに魚人空手を修めているとはいえ、ルナが能力者である事実に変わりはない。

 拳に纏う程度の水の塊でも、ほんの僅かに脱力する分は威力が下がってしまう。平時は電撃を付随することで威力の向上を図ってはいるものの、こうも電気が拡散してしまう水壁に阻まれてしまえば、純粋な膂力と技量が物を言う世界に入ってくる。

 

 それでも手痛いダメージであった事実に変わりはない。

 最初こそ強者としての余裕を湛えていた目も、だんだんとその色が変わる。滲み出ていた色は、まさしく憤怒。手傷を負わせられたこともそうだが、海の支配者としての堂々たる居住まいを崩してまで相手しなければならない───自尊心に傷をつけられた事実に、シキは怒りに震えていた。

 

「小手先の技でおれを倒せると思ったら大間違いだァ!!!」

「その手慰みで逝きかけたのはどこのどいつだ、あぁ!!?」

「そこまでして死にてぇか!!? なら望み通り殺してやる……!!! 楽に死ねるなんて思うなよっ!!!」

 

 しかし、怒りに震えるのは竜も同じ。

 竜と獅子。互いに一歩も譲らぬ中、夜明け前の最も暗い幕の下で、二匹は幾度となくぶつかり合う。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 轟音を打ち鳴らし、何度も瞬く閃光。

 それを追うように、一つ分の人影が甲板を走り抜けていた。

 

「ルナ……!」

 

 それは王宮から飛び出したノアだ。

 最早戦える兵が残っていない以上、金獅子海賊団は彼女の脱出を止められはしない。

 しかしながら、彼女の頭に逃げるという選択肢はこれっぽっちも浮かんではいなかった。ただあるのは自分の為に戦っている青年を見届けようという一途な思いのみ。

 

 息が切れようが全力で駆けていく。そうして酸素の行き届かなかった足が縺れ、派手に転倒したところで、すぐさま起き上がっては光の下を目指していく。

 

 空には、厚い暗雲が立ち込めていた。日が昇っていた時とは一変、怪しい空模様だ。辺り一帯に重く圧し掛かる湿った空気が、間もなく襲い掛かる悪天候を予感させる。

 少し前まで覗いていた月も、今となっては欠片も望めない。

 

 だが、暗闇に輝くただひとつの光。

 それを見失わない為には、今目の前を覆う闇にさえ感謝できる───ノアは万感の思いに満たされる胸より溢れ出す声を紡ぎ出す。

 

 

「ルナ! 貴方にっ、伝えたいこと……あるのっ……!」

 

 

───謝罪の言葉も、感謝の言葉も。

 

 

「まだっ、いっぱい……話したいことも、あるの……!!」

 

 

───辛い思い出も、明るい未来も。

 

 

「だから、お願い……!!!」

 

 

───彼とだからこそ、語り合える。

 

 

 ノアは祈る。

 祈って。祈って。それでも祈り続ける。

 

 彼のように理不尽に逆らうように戦ってきた訳ではない以上、自分が非力であることは痛いほど理解していた。

 それでも、これまでの人生の中で人々を助けていた徳に力が宿るとするならば、ここで使わずしていつ使うのだろうか。

 

 

「神様ァー!!! 居るんならルナを守ってよ!!! 今まで私が酷い目に遭った埋め合わせ、ここできっちりつけやがれぇー!!!」

 

 

 バッキャロー!!! とノアは叫ぶ。

 彼女の柄でもない荒々しい口調。それだけ感情的になっている証拠でもあるが、喉が張り裂けんばかりの声量で空まで届かせようとする声に、ぽつりと青年は呟いた。

 

「……バカはてめェだ」

 

───どこまで行っても、他人の心配ばかり。

 

 償いなんて元々関係ないくらい、彼女の根っこはお人好しだ。

 それを理解したルナは目の前の光景を鼻で笑う。雪や土砂、果てには水より生み出された獅子の群れが乱舞する地獄絵図をだ。

 

 次の瞬間、一斉に雄たけびを上げる獅子に空が震える。

 質量に物を言わせる巨大な獅子頭ではなく、サイズこそ実物大ではあるが、その代わり生み出される数は圧倒的と言う他ない。制空権をシキが握っている以上、単純な物量で責められれば一たまりもないだろう。

 

「この(そら)にお前の椅子はねえんだよっ!!! ましてや、翼を捥がれた竜には尚更だ!!! ───獅子(しし)千切谷(せんじんだに)”!!!

 

 シキの剣───“桜十”と“木枯し”が振り抜かれて放たれる斬撃の嵐も一緒になって降り注いでくる。数多もの海賊や海兵を海の藻屑と化した技だ。

 先に繰り出した獅子の群れと相まって、目の前は混沌と呼ぶ他ない程の殺意に彩られていた。彼と契約を交わした悪魔が増幅させた悪意の顕現。力なき者が立ち塞がれば、瞬く間に肉は食い散らされ、骨の一片までも細切れにされることだろう。

 

 ただ、悪魔との契約は彼だけのものではない。

 

「このくらい、神に祈るまでもねェよ」

 

 地獄に等しい極限を生き抜いた代償に覇気を得たように、海に嫌われる代償に得た能力があればこそ、強大な悪魔を打ち破る力を得られるというもの。

 全身に力を込めるルナ。

 するや、体表を駆け巡っていた翡翠色の雷光はみるみるうちに膨れ上がる。

 

 そして、

 

「───ぉぉぉおおおおおッ!!!」

 

 荒々しい咆哮と共に、竜の尾を髣髴とさせるように電撃が薙ぎ払われ、一斉に飛び掛かって来た獅子の群れは粉々に打ち砕かれる。

 シキの読みとは外れ、能力自体で対処を図ったルナは、当然両手は空いたままだ。

 武装硬化で頑丈さを増した両手は、降りかかる斬撃の嵐を一つ一つ掌底で弾くことで対処する。弾かれて軌道を逸らされた斬撃は、そのまま地表に深い刃の跡を残し、それらが無数に重なることで底の見えぬ谷を生み出すに至った。

 

 しかし、依然としてルナは健在。

 嵐を掻い潜った雷は、上空に吹き荒ぶ強風を物ともせぬままシキの眼前へ肉迫する。

 

「舐めるなッ!!! 近づいたからおれに勝てるとでも!!?」

 

 怒り狂った語調で叫ぶシキが剣を振るう。

 覇気を纏った刃は黒く輝いており、黒刀化は一目瞭然であった。例え覇気で身を守ろうとも、相手が込めた覇気に押し負ければ防御は無に帰す。対峙するものが肉体と刀剣であれば尚更だ。

 

 だが、それはルナも承知だ。

 迫りくる刃を見極めるや、その場で跳躍するように斬撃を飛び越える。両膝を畳んだまま前方へ倒れ込んだ彼は、シキの脳天に突き刺さった舵輪を掴んでみせる。

 何をするのかと警戒するシキは叩き落そうと掌底を繰り出すも、腕力に物を言わせて舵輪ごと揺さぶってくる相手に狙いを定めることができず、攻撃は空振りに終わる。

 

「お前えッ……!!!」

「おぉ───らぁッ!!!」

「がっ!!?」

 

 苛立つシキの顔面に、直後、ルナの膝が突き刺さった。

 舵輪を力尽くで引き寄せた上での一撃。しかも武装色の覇気と電撃のオマケつきだ。鼻っ面を中心に顔面が陥没せんとする威力に、シキの口からは苦悶の声が漏れる。

 

「この……若造があああああ!!!」

 

 怒号を上げて飛翔するシキ。

 その勢いに任せてルナの体勢を崩し、強引に引き剥がしてみせた彼の顔は真紅に彩られていた。頭頂部より流れ出でる血だけではない。腸が煮えくり返るような憤怒もまた、彼に施された血化粧の鮮やかさに拍車をかけていた。

 

 血の入り混じった唾を飛ばすシキは、赤みがかった顔も相まって、赤鬼の如き形相で迫りくる。

 

「もう若気の至りじゃ済まねえぞおおおッ!!! このおれの20年の計画を、お前のような若造が潰せると思うなァ!!!」

「ハッ!!! オレも二十歳だ、クソジジイが!!!」

「ッ……馬鹿を言えェ!!! お前の20年とおれの20年!!! その二つが等価値な訳ぁねえだろうが!!!」

「あぁ、そうだ!!! てめェの20年は、()()()()()()()()()()に潰される程度のゴミってことだよッ!!!」

「ほざけェェェエエ!!!」

 

 ぶつかり合う覇気が、暗雲立ち込める天を唸らせる。

 

 それはまるで、揺れる天秤をどちらに傾かせようか悩んでいるかのようだった。

 

───空を自在に疾駆する大地か、竜の如く空を舞う雷か。

 

 しばしの間、空で繰り広げられる死闘は全くの互角の様相を呈していた。

 互いに一歩も譲る気のない攻防。牙を剥き出しにし、爪が欠けようが振るい、夥しい量の血液が滴り落ちようが、寧ろ両者の死闘は加速度的に白熱していく。

 

 そして、ついに───天秤は傾き始めた。

 

「ぶっ飛べぇえええッ!!!」

「ぐッ───!!?」

 

 ルナの突き出した拳がシキの頬を捕らえる。

 鈍い音が響くと共に、シキの巨体は弾かれるように宙を奔っていく。フワフワの実の能力で制止を掛けたはいいものの、それよりも早く背後に浮かんでいた岩壁にシキの体はめり込んだ。

 

「このぉ……調子づきやがってェ……!!!」

 

 怒りに焠ぐシキは、岩壁の一部を握って砕かん勢いで身を起こす。

 だが、思考に関しては至って冷静だ。シキが“金獅子”として海賊・海軍に恐れられた理由は、無法者らしからぬ用意周到さに裏打ちされた知略と忍耐にある。

 

 何度も攻撃を受け、冷静に分析を行うシキ。

 そうして彼は、この戦況の変遷をルナが身に纏う電気と見た。

 

(さっきよりも……電気の量が増えていやがる!!?)

 

 時折、体表を駆け巡るスパーク。

 その量が当初よりも圧倒的、それでいて荒々しく迸っている事実を、シキは見逃さなかった。

 

(時間が経つにつれて勢いづくタイプか!!!)

 

 面倒だ……、とシキは毒づく。

 能力が千差万別である以上、相手が食した悪魔の実の性質を見抜くには時間が掛かる。加えて相手がスロースターターであるかどうか等、実際に戦ってみなければわからないものだ。

 伝説の大海賊と呼ばれるまでの古強者であるシキも、老いさらばえた事実までは否定できない。戦いの時間が長引けば長引く程に劣勢となる分、寧ろ力を高めていくルナとは相性が悪かった。

 

(このおれが……負けるだと……!!?)

 

 一瞬過った思考を、頭を振って否定する。

 

「ふざけるな……おれは、天からこの海を統べる男だ!!!」

 

 そう言うや、背後の岩肌はみるみるうちに形を変えていく───いや、それは島の一部分と言った方が正しい規模感であった。

 宙に浮かぶ島の一部を抉られて誕生した獅子は、主の怒りに呼応するかのように自身に仇名す敵へと咆哮を飛ばす。

 

「貴様如き若造にィィイイイ!!!」

 

 今日の中で最大規模の“獅子威し”がルナへと襲い掛かる。

 無論、威力も最上級。泣いて許しを請う者を、その骨肉の一片までをも磨り潰す無慈悲な一撃だった。

 

電圧(ボルテージ)も上がってきた……そろそろ終いにしてやるよ!!!」

 

 それでも、宙を蹴り上げてくる青年の足は止まらない。

 しかも、あろうことか獅子の口の中へと飛び込むではないか。すぐさま、飛んで火にいる夏の虫と鋭い牙を咬み合わせる獅子。

 だがしかし、直後に岩石で形成された獅子の体表から、眩い電光が溢れ出す。2、3回と閃いた電光は全身を駆け巡り、頑強であった獅子の肉体に大きな亀裂を広げてみせる。

 

 次の瞬間、爆音と共に獅子の肉体はバラバラに砕け散った。

 体内より現れ出でるルナに新たな傷は見受けられない。竜爪拳の構えを取った彼は、内部から衝撃と電撃を爆裂させ、無傷で“獅子威し”を突破したのだ。

 

 即興で生み出せる規模では、最早彼を食い止めることはできない。

 そう悟ったシキは、電光を瞬かせながら迫りくるルナから身を守ろうと腕を交差させる。

 

「───ッ!」

 

 と、その時だった。

 不意に何かに勘付いたルナがとんぼ返りし、バラバラになって墜落する瓦礫の上へと戻り、爪を突き立てて破砕する。

 そうして手に取った石ころを一つ投擲してはみるものの、流石に距離の離れた投擲をわざわざ受け止めるほどシキの見聞色も衰えてはいない。

 

 突き出した片手で掴んでみせたシキは、突然のルナの行動を訝しんだ。

 あのまま攻め立てていれば、いくら自分とは言え厳しい状況に追いやられていたというのだから、相手からすれば好機を捨てる理由はないはずだ。

 

(あの小僧……まさか)

 

 砕かれた瓦礫の落ちる先を見遣る。

 

───やはり。

 

 確信を得たシキ。

 その顔には酷く歪んだ───それこそ邪悪と呼んで差し支えない笑みが浮かんでいた。

 

 悪辣で、狡猾で、残虐な……己に歯向かう相手を絶望の淵に陥れる謀略が閃いた男は、浮足立つままに躍り出る。

 

「どうした? 急に尻込みしやがって。何か忘れ物でもあったかァ?」

「……あぁ?」

「ジハハハ! 後先考えず突っ込んでくる馬鹿が一番怖えとは言うが、そいつは失うモンが何もねえ奴に限る話だろう?」

 

 シキの何かを示唆するような口振りに、ルナの眉間に皺が寄る。

 気づいている───そう察するにはあからさまな態度であった。遥か真下の地上では、バラバラに砕け散った岩石が、音を立てて地面に激突していた。

 巻き起こる砂煙。それが晴れると同時に覗く陥没した地面を見れば、衝突のエネルギーがどれほどのものか想像は難くないであろう。

 

 しかしながら、一人佇んでいる女の周りだけは綺麗に被害が及んでいない。始めから墜落する先を予測し、破片が退かされていたと言わんばかりの光景だ。

 

 守るものが明確であればこそ、浮かび上がる弱点もまた明確。

 

「てめェ……!」

「恨むんなら自分の愚かさを恨むんだな。我が身を犠牲にすりゃ他人を守れると信じたメルヘン女と、共に散りに来た無謀な大馬鹿野郎……そんなお前達にお誂え向きな最期をくれてやる!!!」

 

 制止する間もなく手を振り翳すシキ。

 直後、地響きと共に無数の獅子が浮島の岩壁から逆さに生み堕とされる。翼も持たず生まれたにも関わらず宙に浮かぶ百獣は、目の前に佇む竜には目もくれず、ある場所へと向かって一斉に駆け抜けていった。

 

 

「え?」

 

 

 標的として見定められたノアは、呆気に取られた声を漏らす。

 

「───クソがぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 憤怒に塗れた声を上げるルナは、一目散に彼女の下へと向かって進む。体中に帯びた電光の尾を引きながら駆け抜ける彼は、その大気を蹴り飛ばす際の轟音も相まって、落雷の如き様相で地表に舞い降りた。

 

「ッ……ルナ!!?」

「散れえええッ!!!」

 

 迫りくる百獣を前に、ルナの全身から迸る電撃が荒々しく牙と、爪と、そして尾となって敵を一蹴する。

 ノアを仕留めようと放たれた百獣は、数こそ多いが大きさはそこまでだ。ルナによる大放電を受け、群れのほとんどは壊滅。残った数体も手ずから頭を粉砕されて沈む。

 

 舞い散る砂埃の中、肩で息をするルナは蒼褪めた顔のノアへと呼びかける。

 

「オイ!!! 悠長に眺めてんじゃねェぞ、逃げろ!!!」

「いや……ダメ……」

「聞いてんのか、お前……!!!」

「違うの、ルナ!」

「あ?」

 

 焦燥に駆られるがまま声を荒げるノアは、徐に明後日の方向を指差した。

 その先を視線で追えば、王宮のある島よりも上空に浮かんでいた浮島がゆっくりと墜落する光景が広がっていた。ただし、あくまでそれは遠近感が生み出す錯覚であり、実際の落下速度は相当なものだろう。

 

 あの島が何だと言うのか───その疑問をルナが口にするより前に、今にも泣き出しそうな顔のノアが必死に訴える。

 

()()()()()()()!!! あいつの狙いは───」

「……!!!」

 

 

 

 ***

 

 

 

「エバーお姉ちゃん!」

「シャオ! よかった、無事で……」

 

 夜も更けきて中、メルヴィユに唯一存在する村にて一組の姉妹が抱き合っていた。

 その傍らにはシャオの母と祖母も居り、久方ぶりに再会できた家族の姿に涙を禁じ得ない様子だ。

 しかし、再会を喜び合う者は彼女達だけとは限らない。つい先程帰還したばかりの村人を取り囲むように、その家族と友人は大いに歓喜に沸き立っていた。

 

 二度と会えないと絶望していた中での再会は、感動も一入。

 大粒の涙を流すシャオは、久々に抱きしめられる姉の温もりを感じつつ、満点の笑顔を咲かせてみせる。

 

「ようやく帰って来られたんだね……!」

「うん……! 王宮の海賊が村を壊滅させたって話してた時はゾッとしたけど、本当に無事で良かった……!」

「お姉ちゃんが帰ってきたってことは、シキもやっつけられたの!?」

「? それは知らないけど、私達は王宮の騒ぎに乗じて逃げ出してきただけだから……なんでも、襲撃者が侵入したって」

 

 突拍子もない、それでいて信じられない内容に首を傾げるエバーであるが、瞳を爛々と輝かせるシャオは語る。

 

「だったら、それお兄ちゃんだよ!」

「お兄ちゃん?」

「うん! 私を助けてくれたお姉ちゃんを助けに行ったお兄ちゃんが居るんだよ! すっごく強いから、シキなんかやっつけちゃうんだ!」

「嘘……!」

「嘘じゃないよ! ホントだもん!」

 

 子供の嘘にしては純真な瞳を輝かせるシャオに、頭ごなしに否定できぬまま、エバーは母と祖母を見遣った。

 すると家族は一瞬ばかり神妙な面持ちを浮かべた後、困ったように笑って頷いた。

 それから祖母を背負った母が口を開く。

 

「なにはともあれ、あんた達が帰ってきて本当に良かったよ……! 村はシキの手先に襲われてボロボロだけど、人だけは無事さ。こうなったら村は捨てて安全な場所に逃げよう」

「そんな! 折角帰って来られたのに……!」

「命以上に大切なものなんてないさ! 今は逃げて……それでも故郷が恋しくなったら、シキが居なくなってから帰ってくればいい!」

 

 たとえ自分が生きている間に帰られずとも、子供の世代だけでも。

 そのような覚悟を湛えた瞳を前に何も言い返せずに居ると、不意に辺りがどよめき始める。

 村人達はこぞって空を見上げ、愕然とした様子でその場に立ち尽くしていた。

 

「あっ……あぁっ……!?」

「どうしたの、シャオ?」

「あっ、あれ……」

 

 姉に抱きしめられるシャオもまた、村人が指差す方向を見上げて絶句する。

 まんまると見開かれた少女の瞳には、次第に迫りくる物体を映し込むや否や、みるみるうちに絶望に染まっていく。

 

 彼らは夢にも思っていなかった。

 まさか日常に溶け込んでいた当たり前の存在が、これほどまでに恐ろしい存在に昇華するなどとは。

 

 

 

()()……()()()()()()()

 

 

 

 ()()が落ちてくる。

 彼らの生きてきた世界が終わる瞬間は、もうすぐ目の前まで迫っていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「どうしよう、ルナ!!? 村にはシャオ達が……!!!」

「まだあいつの村に落ちると決まったワケじゃねェ!!!」

「でもッ……!!!」

「いいから落ち着け!!!」

 

 錯乱寸前のように取り乱した様子のノアを宥めすかしながら、ルナは地響きを立てて落ちていく浮島を見据える。

 失念していたつもりはない。シキの能力や言葉の端々を聞いた時から、頭の片隅には常に『もしかすると』と懸念を置いていた。

 ここまでそれが現実にならないように短期決戦に臨んでいた訳ではあるが、どうやら一足遅かったようだ。

 

「ジハハハハハハ!!!」

 

 天高くから嘲笑うシキが『傑作だな!!!』と二人を見下ろす。

 

「これがおれに刃向かった“罸”だ!!! あの村の連中には一足早くあの世にいって見物してもらうぜぇ……」

「このっ……クソジジイがァ!!! あいつらは関係ねェ!!!」

「関係ねェ、か……だが、どちらにせよ奴らは用済みだ。そもそもてめえのせいで処分が先延ばしになっただけで、連中が殺される運命に変わりはねえ。獣に食い殺されようが島に押し潰されようが、どっちみち死ぬことにゃあ変わりねえだろうが!!!」

 

 そう言って掌を突き出すシキ。

 すると、グンッ、と大気を押し退ける音が響いた。シキの能力の後押しを受けた島はみるみるうちに落下速度を増していく。それはすなわち、シャオの居る村の住民の命が落とされるまでの刻限が早まったのと同義。

 

シキの所業に怒り狂うルナの頬にも、一筋の汗が伝った。

 

「てめェからブッ殺されてェようだな……!!!」

「ジハハハハ!!! そんな暇があるならやってみなぁ!!! もっとも、おれを殺したところで島が落ちる現実は天地がひっくり返ろうが変わりゃしねえ!!!」

「くっ!!!」

「精々てめえの無謀のせいで大勢が無惨に死ぬことになったことを絶望するんだな!!!」

 

 徹頭徹尾弱者に絶望を味わわせ、それを嘲笑うことに悦楽を覚える男の言葉だ。

 それを聞いたルナは反吐が出ると言わんばかりに、口の中に滲み出ていた血液ごと地面に吐き捨てる。

 

(どうする?)

 

───普通に考えてみろ。無理だ。

 

 自分の中の悪魔が囁く。

 

(けど……)

 

 脳裏に過るシャオの顔。

 短い間だが、共に旅を共にした少女の笑顔が消し去ろうにも焼き付いて離れない。ノアの時と同じく、自分を信じてくれた彼女の信用に応えたいと、胸の中の“熱”が声を上げているのだ。

 

(……一か八か……!!!)

 

 自身の拳を見つめ、ルナは落ちていく島へ眼光を閃かせた。

 その時、宙ぶらりんになっていたもう片方の手を、じんわりとした温もりが包み込む。

 振り返れば、目尻に大粒の涙を拵えながらも落ち着きを取り戻したノアが、こちらの心情を慮るように微笑みかけてくる。

 

「ルナ! ……私は、大丈夫だよ」

「……あ?」

「だから、行ってあげて!」

「お前……」

「お願い! 早く!」

 

 そこには“不可能”という言葉は介在する余地さえなかった。

 全幅の信頼をルナに寄せるノアは、ギュッと一度ばかり手を握りしめた後、送り出すように彼の背中を押した。

 ととと、と数歩前に押し出されるルナは、やれやれと言わんばかりに頭を掻き上げる。

 

「……あいかわらず、人使いの荒ェ奴だ」

「ごめんね!」

「冗談じゃねェぞ、ったく……」

 

 呆れた口調で零すルナは、ビリッ、とスパークを爆ぜさせる。

 

「───待ってろ」

 

 端的に告げられた言葉に、ノアは力強く頷く。

 刹那、青年の姿は彼女の前から消える。一筋の電光となって突き進む彼は、あっという間に落下する島の真下へと回り込んだ。

 そして、眼前の岩壁に両手を突き立てるや、極限まで研ぎ澄まされた眼力───見聞色で見抜いた核に、武装色の覇気を流し込む。

 

竜爪拳……“竜の息吹”!!!

 

 バゴンッ!!! とけたたましい轟音が響くや、島の岩壁の一部が剥がれ落ちる。

 かなりの面積が剥がれ落ちたが、それでも島全体の大きさを考えれば薄皮もいいところだ。それをわかっているからこそ、さらに奥へと爪を突き立て、ルナはもう一度“竜の息吹”を叩き込む。

 

「ジハハハハ!!! おいおい、まさか本気で止めようってつもりじゃねえだろうなぁ~!!?」

 

 その光景を嘲笑う声が聞こえるが、無視して破砕を進める。

 しかし、いつまで経っても天からの嘲笑は止まらない。

 

「てめえがいくら抗おうが無駄なんだよ!!! どこに逃げようと、皆殺しの運命に変わりはない!!!」

「……ッ!!!」

「一匹狼気取りが今更他人を守れるなんぞ思い上がるなぁ!!! てめえは所詮、誰一人守れず無駄死にする端役の一人……この大海賊時代の舞台に上がるのも烏滸がましい外野に過ぎねえんだよ!!!」

「うる……せえ……なァ!!!」

「違うか!!? 大した信念も野望もねえ……夢も希望も見られねえ浮浪児風情がッ!!!」

 

 追い打ちをかけるように、シキが更に力を込めてくる。

 ここまでに何度も爪を突き立ててきたルナも、思わず全身から悲鳴のような軋んだ音が鳴り響く。指先からは既に何度も岩肌に突き立てたせいか、血がしとどに滲み出している。

 

 それでもルナは敢然として立ち向かう。

 歯を食い縛りながら、眼前の絶望を打ち砕かんと力を振り絞る。この身に残された力がどれほどのものかはわからないが、すべてを出し尽くさんと、ルナは気炎と共に血反吐を吐いていた。

 

「おおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

 島を丸ごと破砕するなど考えていない。

 最低限村を守れれば、()()()()いい。それだけの為に命を賭し、それだけの為に力を振るう等とは、かつての自分からは考えられない姿であった。

 

(それでも……!!!)

 

───ずっと思い悩んでいた。

 

 自分が生まれた意味がわからなかった。

 だから、自分を守る為の力の価値もわからなかった。

 

 それを間違っていると言われ、一度は激高した。だが反論したはいいものの、けっして自分にとって気持ちのいいものでもなかった。

 

 それはきっと、心のどこかで誰かに諭されたかったのだと思っていたからだ。

 明確に、正しい道を教えてほしかった。それだけの話だった。

 

 かつての自分はそれを素直に受け取る余裕がなかった以上、『何を今更』と軽蔑されてもいい。

 今も尚、対峙している海賊には無駄だと馬鹿にされた。嘲笑われている。その通りだ。過去の自分なら同じく一笑に付した。

 

 けれど、今は違う。

 

(他人を踏み躙るクソ共より……あいつらが笑っていられる方が正しい方なんだって、オレは思ってんだよ!!!)

 

 指し示された道は、こんなにも明るく光り輝いている。

 太陽のような笑顔が、その温もりが。凍てついていた心を溶かし、温めてくれた。過去に与えられていたものが、自分を慮る厚意だと気付かせてくれた。

 

 世界は案外、捨てたものじゃないと教えてくれた。

 

 そんな人たちが生きる世界に気付いたからには、見捨てられない。

 どうしようもないお人好しに感化された心が、今見捨てれば本当に自分がクズのカス以下になってしまうと檄を飛ばしている。

 

 だから、もう二度と違わない正しい力の使い道───それを極める為に、今のルナは奮い立つ。

 

「もう少し……もう少しでッ……!!!」

 

 状況は芳しいものではない。

 島が墜落する軌道は依然として変わらず、ましてやバラバラに破砕するなどまだまだ遠い話だ。

 

 それでも譫言を呟いているルナの瞳には、一筋の光明が見えていた。

 

「もう少しで、()()()……!!!」

 

『ガオオオオオオオォー!!!』

 

「ッ……なに!!?」

 

 しかし、それをただで見過ごす“金獅子”ではない。

 悠々と天空に座すシキは、間もなく地表へと激突する島を眺めながら、新たに取り出した葉巻に火をつける。

 

「ジハハハ……てめえが何を考えているかは知らねえが、絶望の前には希望を与えておくもんだ。より高いところから落ちる奴の引き攣った顔は格別だからな。まあ、今回ばかりは直接見られねえのが残念だが良しとしよう」

 

 そうして紫煙を薫らせるシキは、ルナの下へと仕向けた獅子の群れに命令を下す。

 

「───さぁ、殺れ!!!」

 

 牙を剥く獅子は、シキの振り下ろされた手に応じて獲物の下へと押し寄せた。

 ルナは落下する島に両手を突き立てて無防備ではあるが、それでも先は電撃で一蹴した実績がある。今回も安泰───かと思いきや、帯電したまま反撃に応じないルナは、一瞬ばかり逡巡する様子を見せ、そのまま無視を決め込んだ。

 

「殺れるもんなら……殺ってみやがれえええぇーッ!!!」

 

 あろうことか無防備のまま破砕を続けるルナ。

 それを好機と言わんばかりに、獅子は彼の体へ食らいつかんと牙を剥く。既に長時間の死闘で満身創痍の肉体は、本人が思っているよりも限界に近い状態だ。仮にこれ以上肉を抉られ血を流そうものならば、たちまちに彼の命は終わりへと近づく。

 

 それでも尚一切抵抗する素振りも見せず、一心不乱に破砕へ注力するルナは、今にでも襲い掛かる痛みに備えて覚悟を決めた。

 

 

 

「───クワァーーーーーッ!!!」

 

 

 

 雄たけびの直後、衝撃が襲い掛かる。

 ただし、それは青年にとって痛みに値するものではない。寧ろ全身に活力が満ちていくような感覚と、払われた死の予感に振り返った瞬間───彼は目撃する。

 黄色い羽毛に間抜けな顔つき、そしてビリビリと爆ぜる電気。

 

 しかしながら、ここぞとばかりに現れた乱入者は自信と覚悟に満ち満ちた精悍な顔つきであった。

 

「てめェ……ビリーか!!?」

「クワァー!」

 

 ノアが名付け、少しの間行動を共にしたメルヴィユ生まれの雷鳥・ビリー。

 彼はルナへと襲い掛かろうとした獅子を自慢の電撃、さらには身を張った体当たりで迎撃し、完璧な援護をこなしてみせたのだ。

 

「傷も治ってねェ内によくも……!!!」

「クワッ、クワァー!」

「抜け駆けすんなってか? そいつは……悪かったなァ!!!」

 

 何かを訴えるビリーと言葉を交わすルナは、今一度岩壁に深々と突き刺さっている爪を押し込む。そうすれば爆音と共に、岩壁が大きく剥がれ落ちた。

 その衝撃で岩壁には亀裂が走り、さらなる崩壊が加速していく。ここまで来てようやくルナの努力が実を結んだ光景であった。

 

「この調子で……!!!」

「クワァー!!!」

「ビリー!!! てめェは露払いと……オレに電撃をブチかませ!!!」

「ク……クワッ!!?」

()()()()()()()()!!! ありったけをオレに寄越せ!!!」

 

 ルナの言葉に、ビリーの円らな瞳が見開かれる。

 

「……クワァー!!!」

 

 意図までは汲めない。

 けれでも、その真摯な言葉だけで自分の為すべきことを理解したビリーは、全身全霊で放電を開始した。尾羽を広げ、孔雀のような絢爛な模様を見せつけながら放たれる電撃は、言われた通り襲い掛かる獅子の群れを散らす。

 それでもすべての獅子を倒すには至らず、時折噛みついてくる獅子に、ビリーの体からは血が流れ出す。

 

 慣れない痛みに顔を歪め、思わずビリーは涙を滲ませる。

 放たれる電撃も、次第に弱弱しく細くなっていく。

 

「ク、クワァー……!」

「ビリー!!!」

「クワッ!!?」

「生きるか死ぬかだ!!! できなかったなんて未来なんざねェ!!!」

「クワ……クワァー!!!」

 

 ルナの一喝を受け、弱気になっていたビリーも奮起するに至った。

 尻すぼみになっていた電撃も勢いを取り戻し、分厚い暗雲が広がる空に眩い電光を瞬かせる。

 

「おおおおおっ!!!」

「クワァーーー!!!」

 

 爆ぜる電光。

 それに呼応し、墜落する島を破壊する速度も増していく。広がる亀裂には二人より溢れる電光が迸る、まるで血管が脈打つかのように断続的な発光を繰り返す。

 

「若造が……」

 

 見物を決め込んでいたシキも、当然繰り広げられる光景を目にしていた。

 

「往生際の悪い……いい加減、てめえらには端から希望なんざありゃしねえんだよ!!!」

 

 最後の一押しに、シキもまた全身全霊を込める。そうして急激なエネルギーの変化が訪れた岩壁は、亀裂の入った一部が耐えられずに崩れ落ちていく。

 それでも尚、村を潰すには十分過ぎる質量弾は最後の加速により、絶望的なまでの破壊力を得ることとなった。

 

 最早、止めることは不可能だ。

 勝利を確信したシキは、口元を邪悪に歪める。そして、散々自分に屈辱を味わわせた襲撃者への嘲笑と共に、積もりに積もったうらみつらみを吐き出す。

 

 

「絶望のうちに───死ねぇぇえええッ!!!」

「頑張れえええええええええええええッ!!!」

「っ……ああ!!?」

 

 

 あらんばかりの憤怒と憎悪を込めた言葉が、別方向から上がる声に塗り替えられる。

 

「負けないで、ルナァーーーーーーーっ!!!」

 

 血を吐き出す勢いで叫ぶノア。

 今、自分にできることはこれだけだ───信じることしかできない。

 ならば、最後まで信じ抜くだけだと、その一心で彼女は叫び倒す。

 

 その声にシキの顔は歪む。

 水を差されたと言わんばかりに不快感を隠さない表情は、すぐさま苛立ちに染まり上がっていく。

 

「小娘……耳障りだ!!! てめえから先に死にてえか!!?」

「私知ってるよ!!! 貴方がどんな逆境からでも立ち上がる強い人だって!!!」

「っ……そうか。───よっぽど死にてえみたいだなァ!!!」

 

 シキが次なる標的に狙いを定める。

 しかし、それでもノアが向き合う方向は変わらない。

 

 

「私───信じてるよ!!! 貴方を信じたいって……心から、そう思えたから!!!」

 

 

 届けようとする想いは変わりなく、この広がる闇の中でも澄んで響く。

 一瞬の静寂。一拍を置き、額に青筋を浮かべたシキは、いよいよ仕留めに掛かろうとノアの方へ掌を翳す。

 

「いいだろう、望み通りに……───?」

 

 

───ドン───

 

 

 刹那、響き渡る轟音。

 

「───ジ、ジハハハハハ!!! ようやく落っこちやがったか!!! どうだぁ、聞いたか!!? てめえが信じると抜かした奴が潰される音だぜ!!!」

 

 響き渡る轟音を島が墜落した音と考えたシキは、腹を抱えながら大笑いする。

 その間にも地響きは断続的に空を揺らす。鈍く、そして全身を震え上がらせる大きな鼓動のように。

 

 

───ドン───

 

 

「所詮法螺を吹くだけの若造だったってワケだ!!! まあ、このおれを相手によくやったと褒めてぇところだが……死んだ奴に言ったところで仕方ねえよなぁ?」

 

 

───ドン───

 

 

「そういうワケだ。つまり……てめえがあの世に持ってってやるんだな!!!」

 

 

───ドン───

 

 

「……?」

 

 

───ドン、ドン───

 

 

「なんだ……? やけに長ぇ……」

 

 

───ドン、ドン───

 

 

「……いや、」

 

 

───ドン、ドン、ドン───

 

 

「そんな……!!!」

 

 

───ドン、ドン、ドン、ドン───

 

 

「まさか……!!?」

 

 

 思わず視線を下に向けるシキ。そこには見るまでもなく墜落する島に押し潰されている村が───あるはずだった。

 しかし、そこには脈打つかの如く迸るスパークに覆われる島の姿があった。

 早鐘を打っていたのは、墜落する島そのもの。シキの見立てとは大きく外れ、依然として島は墜落には至っていなかった。

 

 それどころか、信じられない光景が目に飛び込む。

 

 

ドォーーーーン!!!!!

 

 

「なん……だとォ!!?」

 

 一際大きな轟音───否、雷鳴が響いた瞬間、落下する島が縦に分かたれたではないか。

 そうして真っ二つとなった島と島は、綺麗に村が佇む島を避けるように左右へ逸れていく。まるで強大な何かに退けられたかのように強引な軌道であった。

 

「馬鹿な……一体どうやって!!?」

 

 

 ドン!!!!!

 

 

「はっ───!!?」

 

 刹那、眼下で閃く電光にシキは身構える。

 そして、その表情を驚愕に引き攣らせた。

 

(おれが……反応し切れなかった、だと!!?)

 

 駆け上ってきた電光の正体は、背後に佇んでいた。

 

 シキの支配下に置かれていた島の岩壁に、彼はさかさまに張り付いていた。

 体を支える岩肌に突き立てられた爪の黒色は、みるみるうちに幾何学な紋様となって全身に及んでいく。

 稲妻が奔るような電紋───『リヒテンベルク図形』とも言われる紋様に覆われた青年は、今までにないほどの強大な覇気に身を包んでは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな彼の脳裏に呼び起こされる一つの思い出があった。

 

 

───おぉ……興味深い技だぞ、ルナ! 気に入った、おれが命名してやる!

───いらねえ世話だ。

───ミンク族にはだな、『月の獅子(スーロン)』っていう奥の手が……。

───オレはミンクじゃねェ。話はこれで終いだ。

───あっ、待て! 名前つけさせろォー!

 

 

「……“獅子”を名乗んのァ、癪だからな」

「あぁ……!!?」

 

 訝しむ声を上げるシキ。

 そんな彼を睨みつけるのは、隈取のように目元まで黒い電紋が奔った瞳だ。

 

 次の瞬間、ルナの背中から放射状に電光が迸った。

 眩い電光が翼のように広がる姿は───さながら、竜が如く。

 

 

 

最高電圧(マックスボルテージ)───月の天竜(クーロン)”!!!!!」

 

 

 

 地獄に生み堕とされ、ようやく天へと爪をかけた天竜の落胤。

 彼は、そう名乗るのだった。

 

「っ……舐めるな、この若造があああああ!!!」

 

 身を翻したシキの“斬波”が宙を駆け抜ける。

 並みの大砲を上回る破壊力を持つ一閃は、浮島の岩壁に大きな一文字を刻む。直撃すれば上半身と下半身が泣き別れになるであろう攻撃であったが、既にその場に青年の姿はなかった。あるのは微かな電影の残滓のみ。

 

「な───にぃい゛ッ!!?」

「うおおおおっ!!!」

 

 驚くよりも早く顔面に叩きこまれた掌底が、声だけを置き去りにしてシキを弾き飛ばす。

 弾かれた先で制止を掛けたシキは、流血も厭わず周囲に見聞色を張り巡らせる。が、一向に急襲した相手の姿を捉えることはできない。

 

「ぐぅ……どこだ!!?」

「───っらあ!!!」

「がっ!!?」

 

 前でも右でも左でもない。

 背後───シキの肉眼を、そして見聞色ですら捉えられぬ速度で後ろに回り込んだルナの蹴りは、再び宙に浮かんでいた巨体を大きく弾き飛ばしてみせた。

 

───速い。いや、速過ぎる。

 

 鳥型の動物系や特殊な自然系ならば、これほどの移動速度も理解できる。

 しかし、目の前の男には人並み外れた脚力が生み出す推進力でしか空中を移動する手段がない。にも関わらず、これほどまでの速度で自在に宙を動き回るなどとはにわかに信じがたかった。

 

「ふざけるのも……大概にしやがれぇ!!!!!」

 

 “獅子・千切谷”を繰り出すシキ。

 だがしかし、“月歩”───否、“剃刀(カミソリ)”と呼ばれるもう一段階上のスピードと、キレのいい俊敏性を発揮するルナを仕留めることは叶わない。

 ドン!!! と雷鳴にも似た宙を蹴る轟音が響く度、ルナの体からは電光の残像だけが取り残され、それが尾となって彼の軌跡を描いていく。

 

 

「すごい……」

 

 

 地表から見上げるノアが、思わずと呟いた。

 

 本当に短い間しか閃かない電光が、一条となって繋がりゆく。それは極限まで電力を溜め込んで到達する超身体活性化───彼が『月の天竜』と名乗った奥の手が為せる軌跡であった。

 

 そうして描かれる光景は荒々しくも、幻想的で。

 まるで天を自由に駆ける竜そのものだと、ノアは思わず感嘆の息を漏らしながら、夜空を舞い上がる姿に心を奪われていた。

 

 

「オオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 

 咆哮の如き雄たけびを上げるルナは、果敢にシキの攻撃を掻い潜るや懐に潜り込み、強烈なアッパーカットを鳩尾に叩き込む。

 

「ごばぁ!!?」

「まだ……終わらねェぞ!!!」

「がっ───!!?」

 

 肺から空気を1㏄残らず絞り出され、心臓の血液も全て血管の方へと押し流される激痛がシキを襲う。

 だが、それに蹲る暇を与えることのないルナは、息も吐かせぬ猛攻を仕掛けていく。

 宙を蹴り跳び上がり、高さを合わせた上での膝蹴りがシキの蟀谷に叩き込まれる。そうして弾き飛ばされた先では、すでにルナが両手を組み終えており、そのまま飛来するシキへと振り下ろした。

 電気と覇気を纏った強烈な一撃。これには顔面に食らったシキも、一瞬視界が明滅し、意識も遠い場所へ消えかけた。

 

「ッ……ぐぅううう!!! こんなッ、こんなッ、こんなッ!!! こんな馬鹿げた話があってたまるかァ!!! このおれが空で遅れを取るなんざ……!!! ましてや、海賊ですらない若造にィ~……!!!」

「空はてめェのモンじゃねェ!!!!!」

「くっ!!?」

 

 気がつけば、不俱戴天の仇は目の前に居た。

 

「ご、ぁぁぁあああ!!?」

 

 その直後、構えられていた“爪”はシキの頭蓋を握ってみせる。

 ミシミシと悲鳴を上げる頭蓋。流し込まれる電流も相まって、苦悶の声を禁じ得ないシキであるが、ルナの逆襲はこれだけでは終わらない。

 宙を蹴って連行するルナは、そのままシキの後頭部を浮島の岩壁へ叩きつけた。これで終い───であるはずもなく、岩壁を壁走りする形で全力疾走するルナは、叩きつけたシキを力の限り押し付けながら引き摺っていく。

 

「がっ、あ゛ぁ、アアアアア!!!!?」

「おおおおおおおおおおおお!!!!!」

「この、ガキッ、いい加減にぃい゛!!!!!」

「おおお……らぁ!!!!!」

「お、おおお!!!!?」

 

 シキが抵抗せんと手を出す直前、ルナは引き摺っていた巨体を放り投げる。

 錐揉みしながら宙を舞うのも束の間、体勢を整えたシキは青年を睨みつけ、額に浮かぶ血管がはち切れんばかりの怒気を露わにして吼えた。

 

「おのれがァァァアアアアア!!!!!」

 

 最早、強者としての佇まいなど知ったことではない。

 剣を振るい、拳を振るい、支配下に置いた大地や大海を操れるだけ操り、目の前に迫りくる狂竜を殺さんと躍起になる。

 

「よくもおれをここまで虚仮に……!!!!! 絶対に……絶対に許さんぞ若造ォォオオオ!!!!!」

「許さねェは……こっちの台詞だァァァアアアアア!!!!!」

 

 竜と獅子の激突に、天は一度啼く。

 

 電光と紫電が赤黒い火花を散らすのも一瞬。

 押し負けた片方が猛スピードで弾き飛ばされるや、それを上回る速度で追いつく電光が爆裂した。

 

「お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!!!!」

「があ゛あ゛ッ!!!!?」

 

 電気と覇気を纏った拳がシキの顔面に突き刺さる光景は、ほんの序の口。

 すかさず拳を振り翳すシキだが、これを掌底で弾かれるや、渾身の正拳突き───“鮫瓦正拳”が腹に突き刺さった。

 脊髄に突き抜ける衝撃と電撃に血反吐を吐くシキだが、立て直す暇を与えられないことを知っているからか、強引にでも足の剣を振り上げて反撃に移った。

 

 武装色を練り固め、黒刀と化した一閃。

 それを脇腹目掛けて振るうシキ───しかし、それを見据えていたように黒々と鈍い光を放っていた三本爪は、いとも容易く受け止めてみせた。

 

「この……畜生があああああ!!!!!」

 

 しかし、もう一振り残された剣もある。

 そちらも体を捻って振るうシキだが、間もなく剣に衝撃が奔った。まさか、と視線を向けた先では、これまたルナの三本爪が、もう一振りの剣を握って離さない絵面が広がっているではないか。

 

「ぐっ……放せェ!!!!!」

「おおおおお……!!!!!」

「てめえ、一体何を……!!!!?」

 

 両刃の剣を握って放さないルナ。

 そのまま腕に力を込めたかと思えば、黒刀化した名刀の二振りがミシミシと嫌な音を立て始める。

 

「まさか……やめろォ!!!!!」

「おおおおお───ら゛あ゛ッ!!!!!」

「なあ!!!!?」

 

 万力のような握力に握られて拉げ始めていた剣は、シキの制止も虚しく全体に亀裂を広げた次の瞬間、内部から弾けるように砕け散った。

 長年用いた愛剣の喪失にシキは呆然とする。

 しかし、感傷に浸る時間も与えない追撃が彼を襲う。鍔だけが残った脚を掴まれ、その場でグルグルと振り回された挙句、遠心力で放り投げられては浮島の岩壁へと叩きつけられる。

 

「ぐ、ううう!!!!!」

「シキぃーッ!!!!!」

「っ……来るか!!!!!」

 

 あろうことか叩きつけたシキから距離を取るルナだが、何も先のようにノアや住民を守る為の撤退ではない。

 確実に相手を仕留める為の準備───助走をつける彼は、何十、何百、何千と宙を蹴り、みるみるうちに加速していく。やがて緑色の電光とは別に、赫々とした光を迸らせるに至ったルナの両手は、今にも火を噴きそうなほど赤熱と化していた。

 

 

───次が最後の一撃だ。

 

 

 己を睨みつける眼光からそう悟ったシキは、背後に浮かぶ島に力のすべてを注ぎ込む。

 始めに形成された獅子頭は、徐にシキの体に喰らい付いた。しかしこれは絶望による自殺行為などではない。獅子の内部に入り込むことにより、外部からの攻撃に対して守りを固めたのだ。

 巨大な獅子は、ただ存在するだけで攻撃にも防御にもなりえる攻防一体の巨城。

 だが、それだけでは眼前の狂竜を止められないと知っているシキは、砕け散った刀身の欠片を集め、もう一度剣の形に押し固める。

 

 

「いいだろう……受けて立ってやる!!!!!」

 

 

 そして、もう一度剣に覇気を込める。

 武装色ではない───ましてや見聞色でもない三つ目の覇気を込めた刀身は、無理に押し固めたことが判る亀裂から、赤黒い稲妻を迸らせた。

 

 そうこうしている間にも、獅子は完全体へと姿を変えた。頭部だけではなく、胴体や尻尾に至るまで───相当量の土砂や木々を巻き込んで誕生した空の怪物は、眼前に迫りくる狂竜に向かって獅子吼する。

 

「かかってこい!!!!! 叩き落してやるゥ!!!!!」

「叩き落されるのは……てめェの方だ!!!!!」

 

 気炎を上げるルナに呼応し、()()()()()()()()()()

 赫々とした炎を爪に灯したまま、飛び掛かってくる獅子に眼光を向ける。

 

「がああっ……!!!!!」

 

 火を噴く爪は、最早爆炎と呼んで差し支えない莫大な熱量を爪先に宿す。

 それでも尚、眼前に巨大な獅子が振り下ろす爪に対し、武装色の覇気と超絶とした電気を纏ったルナは、ただの突撃だけで頑強な土砂の塊を破砕するように突破した。

 その勢いのまま上下から挟み込んでくる牙すらも砕き進めば、後は身中に潜んでいた親玉を叩き潰すだけで終わる。

 

 飛び込んだ獅子の内部には───居た。

 未だ空に嵩取ろうとする、傲岸不遜な獅子の王が。

 

 

 それを引き裂く為の爪を、ルナは振るう。

 

 

「海賊は……海に帰れェ!!!!!」

「ここで確実に殺してやる!!!!! “獅子(しし)神誅(しんちゅう)”!!!!!」

「竜爪拳───“(りゅう)火爪(ひづめ)”!!!!!」

 

 

 爆炎を迸らせる爪が黒刀と化した剣に触れた瞬間、黒い稲妻が周囲に迸る。

 その光景に一瞬目を見開いたシキであるが、すぐさま頭を振り、目の前の男諸共現実を斬り伏せるべくありったけの覇気を刀身に流し込む。

 それによって生まれる破壊力は、破片を押し固めたとは思えないほど超絶としたもの。

 

 突き出した両手が激突しているルナも、ほんの僅かでも気を緩めれば斬り殺される威圧感を肌身に感じていた。

 震える両手は自身が限界に近いと知らせてくる。

 

 それでも退くことはできない。

 傷つき、血を流し、今にも消えてしまいそうな命の炎を激しく燃やし、全身全霊の覇気を両手に注ぎ込む。

 

「おおおおおッ!!!!!」

「はああああッ!!!!!」

 

 己を鼓舞するような雄たけびに、負けじとシキも口角泡を飛ばす勢いで咆哮を上げる。

 超絶とした覇気のぶつかり合いから数秒。案の定、内部では急速な崩壊が始まった。両者を中心に駆け巡る黒い稲妻は、それだけで絶大な殺傷力を宿した刃であり、獅子の完全崩壊までの刻限を加速度的に早めていく。

 

 その煽りを食うルナの肉体にも、次々に細かな裂傷が刻まれる。

 武装色で鎧っても尚、血が流れる衝撃波の余波は想像を絶していた。常に極限に等しい世界を生き抜き、覇気の総量だけであれば“新世界”の怪物にも並び立つルナでさえ、今にも全身が砕け散りそうな激痛に歯を食い縛る。

 

 次第に、ルナの視界が白く染まっていく。

 頂点を迎える怒りで煮え滾る血に脳が茹でられた所為か、それとも単純に肉体が限界を迎えている所為か。

 

 しかし、その先に浮かび上がる光景があった。

 赫々と燃える、それは───。

 

 

 

───どうしたの? そんな背中じっと見たりなんかして……。

───あぁ? 別に……。

───あっ、()()が気になるの? そうでしょ!

───……烙印か?

───うん。大分昔のだけどね。何かわかる?

───……“太陽”か?

───まあ、それも違わないけど。

───違わないけど、なんだ?

───これはね、シンボルなの。

───シンボルって……何のだ?

───“解放”と、あと……。

 

 

 

───“自由”───かなっ!

 

 

 

 はにかみながら言い放たれた言葉が、遠い記憶の彼方から呼び起こされる。

 

(コアラ……てめェ、よくもオレの前でそんなこと言いやがったな)

 

 かつて革命軍の人間から教えられていた。

 だが、覚えるつもりなく聞き流していた真実がある。

 

 彼女が“シンボル”と紹介した太陽は、奴隷だった烙印を覆い隠すべく焼き付けられた紋様だと。

 “天駆ける竜の蹄”───天竜人の奴隷だった過去を隠すような代物だと。

 

 それを彼女は誇らしげに語っていた。

 あろうことか、天竜人の血を引いている自分の前でだ。

 

 初めて真実を耳にした時、正気ではないと感じた。何を思って彼女が笑っていたのか、今思えば恐怖と感じていたのだろう。

 

 だが、今ならば少しわかるような気がした。

 

 彼女達はずっと、上を見ていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 陳腐な言葉でしか言い表せないことを歯痒く思いながら、ようやくたどり着いた答えに納得したルナの口元には、自然と笑みが浮かび上がっていた。

 

 あの日、あの瞬間。

 屈託のない笑顔を咲かせた彼女が向けた想いは、なんてことはない───とても単純で───それでいて真っすぐな願いだったというのに。

 

『はじめまして! 私の名前はコアラって言うの! これから仲良くしようね!』

 

 それだけの意味を理解する為に、こんなにも長い時間を掛けてしまった。

 

 

(───ありがとう)

 

 

 熱い。

 熱い。

 熱い。

 この胸が、熱くて堪らない。

 

 心の中に湧き上がるたった一つの想い。それがどうしようもない“熱”を胸に宿して燃え上がらせる。

 ドクンッ、と鼓動が高鳴れば、送り出される心血によって全身に灼熱が宿った。

 

 この熱さだけは何者にも負けない───それこそ、太陽のような熱に突き動かされるルナは、過去の言葉より炙りだされた想いによって力を振り絞った。

 

 刹那、刃と交わっていた爪先から紅炎の如く爆炎が噴き上がる。

 赫々と周囲を照らし上げる炎は、幻覚などではない本物。故に触れる刀身に熱を伝え、みるみるうちに鈍い黒を赤熱へと色を変えさせる。

 

 そしてついに、シキにとって最後の盾であり、最後の剣を───打ち砕いた。

 

「なッ……!!!!?」

 

 

 

「───『火炎(かえん)』“竜王(りゅうおう)”!!!!!」

 

 

 

 

()ッ、づあああああがああああアアアアアッッッ!!!!?」

 

 剣を打ち砕き、守るもの全てが消え去ったシキの土手っ腹に、心火より発する爆炎を宿した竜の爪が捩じ込まれる。

 衝撃と熱量、そして覇気の三拍子が揃った一撃の威力は超絶そのもの。直撃した部位より巻き起こる大爆発は、白を超えた蒼の爆炎と成り、焼き尽くした獅子の肉片を空中にバラバラと四散させた。

 

 渾身の一撃を受けたシキは、炎の尾を引いて吹き飛ばされる。

 放物線を描き終えた後も微動だにせず、重力の悪魔に手を引かれるがまま、下へ下へと導かれていく。

 

 斯くして天空から蹴り落とされ獅子は完全に沈黙した。

 その陰謀渦巻いていたドス黒い腹にも、怒り狂う竜の蹄の痕が痛々しく焼き付いている。それはまさしく“天駆ける竜の蹄”と呼ぶべき代物だ。

 

 だが、赫々と燃え盛る蹄が刻んだ紋章は───“太陽”に似ていた。

 “支配”ではなく、“自由”のシンボルを。

 

「スゥーーー……フゥーーー……!!!」

 

 爪先に灯った火を握って潰したルナ。とうとう豆粒ほどにしか見えなくなったシキを見届けるや、振り返った先に佇む人影の下に降り立った。

 ノアは祈るように手を組んで立ち尽くしていた。

 しかし、目の前に降り立ったルナの姿を見た途端、絡み合っていた細い指を一つ一つ解いては、ゆっくりとそれらを彼の体の方へと近づける。

 

 やがて、指先が体に触れた。

 指先からはトクントクンと脈打つ感覚が感じられる。ただ、それがどちらのものであるかは、様々な想いが綯い交ぜになっていたノアには判別つかなかった。

 

 辛くて、苦しくて、悲しくて、ムカついて。

 それでも一つだけ、間違いなく言い切れる言葉があった───それをノアは口にする。

 

「っ……()()()()()……!」

「……お前」

「ホント……ホントよかったよぅ……! 生きててくれて……それだけで、もう……!」

 

 零れる涙を拭ったところで、堰を切ったように溢れ出した感情の波は次々に頬を濡らす。

 恥も外聞もない泣きっ振りだ。乙女にあるまじき嗚咽も交えながら肩を揺らす姿は、声を掛けるのも憚られる光景である。

 ただ、良い意味でも悪い意味でも遠慮がわからないルナは、人並みに悩んだ上で彼女の肩に手を置いた。

 

「……怪我、ねェか」

「! ゔんっ……ないよっ!」

 

 『おかげさまで!』と、グシャグシャに歪んでいた泣きっ面に笑顔が咲く。

 

「……そうか」

 

 過去に曇り、血の雨に濡れ、それでもやっと覗いた晴れ間。

 それを目の当たりにしたルナは、自然と頬を緩ませていた。笑顔と呼ぶにはまだぎこちない不器用な表情。他人が見たところで笑顔とは悟られない微妙な変化だ。

 

 しかし、目の前のノアにはひしひしと伝わっていた。

 心の“声”ではなく、ただ、なんとなく。

 それだけの理由しか持ち得ないが、それだけの理由で十分だと思える感情に、今のノアの心は満たされていた。

 

 すると、そこへ……。

 

「クワァー!」

「ビリー! 貴方も無事だったんだね!」

「クワ、クワァー!」

 

 勝利の立役者の一人であるビリーが、満面の笑みを浮かべてやって来た。

 安否がわからなかった彼の無事に大喜びした彼女は、勢いよくビリーの羽毛へと飛び込む。

 

「オイ、待っ……」

 

 

「ぎゃあああ!!?」

 

 

「……バカか、てめェは」

 

 ビリーは電気を放つ鳥である。迂闊に触れば、ご覧の通りの有様だ。

 卒倒するノアに取り乱すビリーと、状況は一気に混迷を極める。余りにも救いようのない光景に、ルナはやれやれと頭を掻き上げた。

 

「はぁ……オラ、起きろ。さっさと帰るぞ」

「はっ!? そうだった、シャオの村にも顔出さなきゃね!」

「そっちかよ……まあ、この際どっちでもいいか」

 

───帰る場所と思えたのなら、どこであろうとも。

 

 その答えに至ったルナは、静穏な面持ちを湛えて村に残してきたシャオを思う。

 彼女には随分と心配をかけただろう。自分の無事を報せなければ、目の前の女のように他人の死に責任を感じるかもしれないし、自身にとっても不本意だ。

 自分でも驚く程に村への帰還に乗り気なルナは、意気揚々とビリーの背中に乗ろうとするノアへと目を移す。

 

「……?」

 

 そんな時だった。

 妙な胸のざわめきを覚え、何の気なしに振り返る。見上げる空は、依然として厚い雲に覆われている。

 

───流れが、速い。

 

「どうしたの、ルナ?」

「……下がってろ」

「え……?」

 

 徐にノアとビリーの前に立つルナは、もう一度全身に覇気と電気を纏い、“月の天竜”へと変貌を遂げる。

 唐突に臨戦態勢へ移ったルナに困惑するノア。

 しかし、彼女の耳は徐々に聞き取り始める。

 

「なに? この……()……?」

 

 遥か遠く。

 大地の底から───否、今居る場所が空に浮かんだ島である事実を考えれば、さらに下に広がる海からだろうか。

 

───何故、この島は浮かんでいる?

 

 そこでノアは思い至った。

 メルヴィユは本来海に浮かぶ島だ。それが空に浮かぶ島となっている理由は他でもない、悪魔の実の能力に依るもの。

 

 だが、当の能力者は倒したはずだ。

 

 そこまで辿り着いた瞬間、得も言われぬ不安と恐怖を覚えたノアを、激しい海鳴りが襲い掛かった。同時に地面を揺るがす激震もやって来る。

 刹那、天を衝くように竜巻が空へと逆巻いて昇った。

 夢と見紛う程の大きさだ。それはまさしく“天災”と呼ぶに相応しい光景。

 

「う……そ……」

「……下がってろ」

 

 言葉を失うノアに対し、ルナは勇むように一歩前へと躍り出た。

 吹き荒れる強風から二人を守るように身を挺し、轟々と渦巻く空を見上げる。

 

 余りに現実離れした光景の中、それでもルナは姿を現した獅子を睨み上げた。

 

 黄金の鬣を靡かせる、この天の支配者を騙る男───“金獅子”のシキを。

 

「往生際の悪ィ野郎だ」

「……ジハハハ。お前え達の蛮勇と愚行に敬意を表そうと思ってな」

「あ?」

 

 しゃがれた笑い声を漏らすシキ。その瞳に生気はなく、代わりに狂気が宿っていた。長い歳月を経る中で膨れ上がっていた囚われの感情は、かつて何度も殺し合ってきた男の面影を、眼下に佇む金髪の女に重ね合わせる。

 

「小僧、たしかにお前えの言う通りだ。おれはこの20年という時の流れを少々甘く見積もっていたらしい……」

「だったらなんだ」

「礼には礼を、って言うだろう? だからよォ……このおれの2()0()()を、てめえにぶち込むことに決めた!!!!!」

 

 怒れる獅子は、そうして蓄えた力をその身に還す。

 20年もの間食い物にしてきた島々を、広がっていた自然もそこで暮らしている生き物もお構いなしに取り込むという形で、だ。

 島の破片である岩石や木々と共に、巻き上げられた海水も徐々に一頭の悪魔の形を成していく。ひたすらに貪られ、食い尽くされ、最後は骨肉の一片までも腹の中に収められる。

 

 やがて空には一頭の獅子が姿を現した。開かれる顎は島一つを丸々噛み砕き、呑み込めそうなほどの大きさだった。

 

 

「ジハハハハ!!!!! どうだ、圧倒的だろう!!!!? こいつが“力”だ!!!!! この海を……いいや、全世界を!!!!! このおれが“恐怖”で支配してくれるッ!!!!!」

 

 

 両腕を広げてみせるシキに、天に居座る獅子が吼える。

 ビリビリと周囲に撒き散らされる覇気は悍ましい威圧感を伴っており、絶望的なまでの力の差を叩き込むことでノアたちの膝を折ろうとしてきた。

 

 ただし、それが通じるのはあくまで誰にも守られない弱者に限る。

 

 今、ノアの目の前には一人の竜が立っていた。

 満身創痍ながら、その両足はしっかりと地面を踏みしめている。嵐のように強風が吹き荒ぶ中でも、一歩も退く素振りは見られない。

 

「ルナ……」

「……ノア」

「うん?」

「怖ェか?」

 

 唐突に投げかけられた問いに、ノアは瞳を見開いた。

 一瞬、逡巡する。

 

 はたしてそれは、()()()()()()()()()

 

 しかし、すぐさまノアは頭を振った。

 どちらでもいい、と。

 何故なら、どちらであっても答えは一緒だ。それならば答えるのに悩む必要も迷う必要もない。

 

 うん、と頷いたノアは、背中を向けたままのルナへとこう答えた。

 

 

「怖くないよ!」

「……」

「だって、ルナを信じてるから!」

 

 

 満面の笑みを湛えた顔は、太陽のように輝く。

 

 

「……そうか」

 

 

 だからこそ、月もまた光り輝けるのだ。

 

 

「なら……とっととケリつけるぞ!」

 

 

 この戦いにも、過去の因縁にも。

 

 

 そう意気込んだルナは、全身に覇気と電気を漲らせる。

 生半可なパワーでは空に居座る獅子を倒すことは叶わない。なればこそ、一撃で全てを決めるしかないだろう。

 

 ビリビリと音を奏でる覇気と電気は、天から降りかかる覇気とぶつかり合い、眩い火花を散らし始める。

 

 しかし、まだだ。

 シキの圧倒的な覇気に対抗するには───ノアを守り抜く為には、この程度の力ではまだ足りない。地獄という極限を這いずり回って身に着けた覇気のすべてを出し尽くしても。

 

(いや、まだだ)

 

 己に言い聞かせるルナは、天へ手を翳した。

 

(まだ……振り絞れんだろ!!!!!)

 

 その瞬間───ルナは手を掛けた。

 

 

 直後、()が拉げる音がした。

 

 

「っ……なんだと?」

 

 妙な違和感に眉を顰めるシキが目を凝らす。

 眼下で身構える青年の姿は依然変わりない。にも関わらず、次第に景色が歪んでいくような錯覚に襲われる。

 

───これは、まさか。

 

 徐々に大きくなる拉げる音。

 そんな空間が歪む重低音と共に、景色を刻む()()()()()()()()()()が姿を現した。一瞬だけではない。時が経つにつれて激しさを増す稲妻は、降りかかる覇気に抗うように天へ向かって昇るような兆候さえ匂わせる。

 

「あの時のは見間違いじゃなかったか……!!!!!」

 

 何度か予兆はあった。

 覇気をぶつけ合った時、武装色の覇気同士の激突とも違う感触はあった。ただ、長年のブランクと『そんなはずはない』という先入観が、()()をけっして認めようとしていなかっただけだ。

 

 しかし、今となっては認めざるを得ない。

 彼もまた、()()()()()を持って生まれた男だと。

 

()()()()()()……てめェも持っていやがったか!!!!!」

 

 青年がまだ奥の手を隠していた事実に反吐を吐くシキ。

 だが、それは少しばかり的を外れていた。本当にルナが覇王色を扱えていたのなら、もっと早くに力を見せていたはずだ。

 

 それを絶体絶命の土壇場で発動した理由はただ一つ───ようやく、“器”が成ったからだ。

 

 心を押し殺して生きてきた彼には、他者を受け入れる『意志』が欠けていた。

 覇気とは『意志の力』。素養があったところで、本人にその気がなければ永遠に花開くことはない。

 

 だが、革命軍やノア達と触れ合ったことで変わり始めた。

 鼓動を止めていた心が───そこに閉じ込められていた『意志』が、自らの殻を破ろうとし始めたのである。

 

 そして、『彼女を守る』という確固たる意志により、覚醒の時を迎えた。

 

「───ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!!!!!」

 

 ルナの迸らせる稲妻のすべてが、()()()()()()()

 ぶつかり合う覇気の間から赤黒い稲妻が迸り、それは覆りようのない真実へと昇華した。しかも、どちらかが一方的に気圧されている訳でもない。互角と言って差し支えのない均衡は、空に浮かぶ雲に裂け目が刻まれる───天が割けるという形で如実に現れた。

 

「ッ……今更いくら足掻こうが、てめえらが死ぬ運命に変わりはねェ!!!!!」

 

 その事実はシキを大いに怒らせた。

 覇王色は武装色や見聞色とは違い、鍛錬ではなく人間としての“格”が物を言う力。大海賊時代が始まる前から偉大なる航路を戦い抜き、多くを支配してきたシキにとっては覇王色の覇気こそが己の力と格を誇示できる唯一無二の武器であった。

 

 だが、現実はどうだ?

 

 相手は名を上げた海賊でもなければ、海兵でもない。

 究極的に言えば、ただの一般人───にも関わらず、己と拮抗し得るほどの覇王色を放つとは、にわかには信じ難かった。今も尚、夢ではないかと現実を疑うほどだ。

 

 しかし、その悪夢を終わらせようとシキは奮い立つ。

 

「これで全部終いにしてやる!!!!! てめえらを……ロジャーのクソったれが遺した、このくだらねえ時代諸共なァ!!!!!」

「終わらねェよ。オレ達はまだ……始まったばっかなんだよ!!!!!」

「ほざけェ!!!!!」

 

 シキの振り下ろす手と共に、天空の獅子がルナに向かって飛び掛かる。

 

 

「───獅子威(ししおど)し“天地巻(あめつちま)き”ィ!!!!!」

 

 

 大地と海そのものが降りかかる、まるで天地がひっくり返ったかのような光景。

 

 そんな中、しっかりと地に足をつけるルナは固く握った拳を解き……もう一度、固く握りしめた。

 

 電気と覇気───彼の持つ力のすべてが、一条の天雷へと収束する。

 

 

「行っけェーーーーー!!!!! ルナぁーーーーーッ!!!!!」

 

 

 背中を押す声が鼓膜を叩く。

 その瞬間、一頭の竜と成った天雷は、高く高く天へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

「───“我竜天晴(がりょうてんせい)”!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 雷鳴の如き咆哮を上げ、竜は天空より来襲する獅子に喰らい付く。

 莫大な電気と覇気の集合体である竜と、同じだけの覇気に圧倒的な質量を有する獅子。両者の激突に、周囲からは悲鳴のような地鳴りが止まらない。

 浮かんでいる島々も、その衝撃の余波で地割れが巻き起こり次々に端の方から崩れ落ちる。

 

 しかし、その頂上決戦も遂に決着を迎える。

 

 山の如き牙を剥き、竜へと喰らい付いた獅子。

 だが、その全身に赤黒い稲妻が象る爪が突き刺さった瞬間、爆音と共に巨大な体のあちこちに亀裂が走る。それから崩壊まではさほど時間を要しなかった。

 一瞬にして亀裂を全身に広げた獅子は、大地が震えるような悲鳴を上げて爆砕。バラバラの破片となって海へと帰っていく。

 

「なっ───」

 

 声を上げる間もなかった。

 

 シキの目と鼻の先。

 そこには既に天をも吞み込まんと顎を広げる竜が迫っていた。

 

(おれが、負ける?)

 

 最早、逃げる場所も時間もない。

 そんな刹那の中、シキは回顧する。

 

 どこから歯車が狂ったか?

 どこから道を誤ったのか?

 

 思い当たる節があるとすれば、ただ一つ。

 

(ロジャー……!!!!!)

 

 曇りなき眼で空を見上げる女。

 彼女の被った麦わら帽子が、かつての好敵手と重なる。

 

 奴と出会ってからだ、海賊として───いや、シキという人間の人生を狂わされたのは。

 

 そして今日もまた、一つの野望が潰える。

 

 海賊王の死と共に始まった新時代。

 その激動の中を生きてきた者達の手によって。

 

 

 

(終わっちまったのか。おれ達の……黄金の時代は)

 

 

 

 ふと瞼を閉じれば、その裏に映り込む生涯の好敵手が、憎たらしいくらいとびきりの笑顔を浮かべ───こう言い放った。

 

 

 

───バカ言え。始まったのさ……()()()()()()()()()

 

 

 

 ***

 

 

 

 天空に浮かんでいた島が揺れる。

 吊るし上げていた糸がプッツリと切れたように、悪魔の実の支配から解放された兆候であった。

 

「クワァーーー!!!」

 

 大きく揺れる島から一羽の鳥が羽搏く。

 それは背中にルナとノアを乗せたビリーだ。自らも手負いの体でありながら、二人を脱出させようと奮起する彼は、その大きな翼を広げて悠々とメルヴィユの周りを旋回する。

 

「島が……落ちてく」

 

 島が墜落する様を眺め、呆然と呟くノア。

 人生で二度と目にする機会はないであることもそうだが、何よりも20年の呪縛より解き放たれた光景を前に、得も言われぬ感慨が押し寄せているのも理由の一つだった。

 

「……そうだ! シャオは!?」

 

 呆けていたのも束の間、ふと村に帰した少女の安否が心配になった。

 重力に引かれて落下し続けているメルヴィユだが、このままの流れでいけば当然海に落ちる訳だ。

 

 しかし、雲にも届くような高所から落下した衝撃は計り知れない。

 

「早く避難させないと……!」

「いや……その心配はいらねェだろ」

「でも……!」

「見ろよ」

「え? ……あ」

 

 とある方角を指差すルナ。

 その指先を辿ったノアは、驚きと感嘆が入り混じった声を漏らす。

 

 彼女の瞳には、美しい編隊を組む鳥の姿が映っていた。白い翼を広げ、優雅に大空を舞っている。その姿はまるで自由を謳歌しているようだった。

 

 だが、よく目を凝らせば彼らの正体が見えてくる。

 その姿を見た途端、泣き腫らした顔に再び涙が零れ落ちた。

 すると、彼女の存在に気づいてか否か、編隊から抜け出してきた()()()()が近づいてくる。

 

「お姉ちゃーん!」

「シャオ! よかった……無事だったんだね」

「うん! お兄ちゃんが助けてくれたから平気だったよ!」

「そっかぁ……!」

「村のみんなも無事だよ! ありがとう!」

 

 満面の笑みを咲かせて感謝を告げたのは他でもない───シャオだ。

 編隊を組む鳥達も、シャオと同じメルヴィユの住民。彼らは両腕に携えた翼を以て、この解き放たれたメルヴィユの大空を舞っていたのだった。

 

───自由に、何者にも囚われることなく。

 

 その姿を目の当たりにしたノアは、思わず感極まって涙ぐむ。

 後ろから眺めていたルナは、そんな彼女に穏やかな眼差しを向けながら口を開いた。

 

「よかったな」

「ゔんっ……! これも、ルナのおかげだよ……!」

「……あいつ連れてきたのはお前だろ」

「ずびっ……じゃあ、私達のおかげってことで!」

「……それはそれで図々しくて腹立つな」

「ふふっ!」

「……ハッ」

 

 鼻水を啜りながらおどけてみせたノアに、ルナもつられて笑みを浮かべた。

 実に穏やかな空気が場を包む。それからメルヴィユが海に落ちた光景を見届ければ、他に空を覆うものは何もなくなった。

 

「……あっ」

「どうした?」

「ねえ見て、ルナ!」

 

 空を指差すノアが告げる。

 

 

「───夜明けだよ!」

 

 

 雲の切れ間から覗く日の出が、煌々と二人を照らし上げる。

 

「……」

 

 しばし、ルナは言葉を失っていた。

 長い夜と数多もの死闘を超え、覇王色の激突が天を割り、その上で切り開いた空の先に迎えることができた太陽は───金色に彩られているように見えた。

 

「っ……」

「ルナ?」

「……ちゃんと見えてるよ」

「そっか! こんな空の上から見ることなんてめったにないもんね! ホントに綺麗……」

 

 景色に見入るノアの後ろから、ああ、と同意するようにルナの声が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに……綺麗だったんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え……?」

 

 振り返れば、ルナの視線とかち合った。

 太陽を見つめているはずなのに、彼の瞳の中には一人の女が映り込んでいた。それは紛れもない、泣き腫らした顔に満面の笑みを咲かせる自分の姿だ。

 次の瞬間、たまらなく恥ずかしくなったノアがそっぽを向く。俯いて表情こそ窺えないが、真っ赤に染まった耳までは隠し切れない。

 

「そそそ、そうだね! 綺麗だね、太陽!」

「……なにテンパってんだ、お前」

「テンパってなんかないから! 気のせい気のせい!」

「……まあ、別にどうでもいいけどよ」

「うん! 気にしなくていいから! ホント気にしなくていい! ……いや、でも、ちょっぴりくらいは……」

 

 ぶつぶつと独り言つノアを怪訝に思いながらも、ルナはもう一度昇り行く太陽を目に焼き付けようと顔を上げる。

 

 こんなにも美しい朝焼けは未だかつて見たことがない。

 ましてや、これほどまでに清々しいと思える朝を迎えたこともなかった。

 

 

 

 だからこそだろう。

 

 

 

「今日は……いい日になりそうだな」

「……うん!」

 

 

 

 心から───そう思えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 天気は晴れ。

 燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びながら、二人は始まりの町を目指す。

 

 その道中でのこと……。

 

「ねえねえ、ルナ」

「なんだ?」

「あのね、私の名前のことなんだけど……実は他に名前があるんだ。ポートガス・D・ア───」

「どうでもいい」

 

 言い切る前にバッサリと切られ、ノアも思わず素っ頓狂な声を上げた。

 すると、

 

「お前はノアだろ。いまさら違う方覚えろなんか言われても面倒だ」

 

 ぶっきらぼうに彼は言い放つ。

 それが彼なりの優しさだと勘付くノアの頬は自然と緩み、そっか、と端的に返す。

 

「あっ! じゃあルナの名前はどうなの? お父さんがつけたの? お母さんがつけたの?」

「……母親の方だ」

「へぇー、お母さんなんだ! どんな人だったか覚えてる?」

「……金髪で、目が青くて……」

 

 あと……、と口にした途端、ルナの脳裏に記憶が蘇る。

 

───そう言えば、よく似ている。

 

 金糸のように波打った綺麗な髪も。

 地獄に居ても笑顔を絶やさぬ姿も。

 目の前の彼女と、()()()()()()()()はよく似ていた。

 

 

 

 

 

『───いつか、私は死んじゃうけど』

『この愛だけは……変わりはしない』

『ありがとう。生まれてきてくれて』

『貴方の存在が何よりも嬉しかった』

『私は、心から───幸せだった』

 

 

 

 

 

「……」

「ルナ?」

「……ああ、悪ィ。ボーっとしてた」

「ふふっ! ルナでもボーっとなんかするんだ」

「おかげさまでな」

「おっと? それはいったいどういう意味なのかな?」

 

 おどけるノアを一笑に付し、穏やかな笑みを湛えながらルナは告げる。

 

 

 

「───星みたいな名前だったよ、あの人は」

 

 

 




☆あとがき

 こんにちはこんばんは、柴猫侍です。
 この度は『ONE DAY」を読んでいただき、誠にありがとうございました。天竜人の子供と海賊王の子供による血縁の呪いをテーマにした作品でありましたが、いかがでしたでしょうか?
 長い間構想を練りに練り、執筆している最中や、果てには投稿を予約した後にも書き直したりもしましたが、かねがね自分の満足いく形に収まりました。
 オリジナルのキャラも多く、読者の方々にどう受け取っていただけるかは不安でありますが、自分の『好き!』をこれでもかというくらいに詰め込んだ作品でもありますので、この作品を一つの作品として完成させられただけでも、私にとっては大きな宝になることでしょう。

 さて、作品のタイトルについてですが、察しの良い方はお気づきの通り、アニメONE PIECEのOPの一つ『One day』を持ってきた形になります。ちょうど作中の時間軸においてもそのぐらい……というのと、個人的にテーマとなる曲を決めると書きやすいというのもありまして、これをタイトルにさせていただきました。全部読んでいただいた方には、一度そちらの方を聴いていただけると本作とリンクする部分があるかもしれませんので、ぜひ……。

 また、挨拶の後にちょっとしたオマケを書き残していきますので、そちらも楽しんでいただけたらと思います。
 それでは改めてになりますが、『ONE DAY』を読んでいただき、誠にありがとうございました! また別の作品でお会いしましょう! 柴猫侍でした!

Q.各オリジナルキャラの名前の由来は?
A.下記の通り
ルナ(ルーナ)→『月』のイタリア語
ノア→『自由』のハワイ語。また、綴りが『No “A”』であることから『“A”じゃない』という意味
シロガネ→白銀
シャクドウ→赤銅

Q.各キャラのオリジナル技の詳細・由来は?
A.
ルナ
・竜の衝撃(りゅうのしょうげき)
 くまの圧力砲や熊の衝撃を参考に生み出した大気の核を砕く技。
・竜の逆鱗(りゅうのげきりん)
 見聞色の覇気で相手の核を見切った上で、カウンターとして繰り出す技。
・竜の波動(りゅうのはどう)
 魚人空手の水を制圧する特性を利用した“竜の息吹”の水に対して行う版。
・竜の火爪(りゅうのひづめ)
 悪魔旋脚やゴムゴムの火拳銃と同じ原理で“竜の鉤爪”に炎をエンチャントする技。このまま“火炎「竜王」”に繋げられる。
・月の天竜(クーロン)
 身体活性化に必要な電力を最大まで溜めた、ルナの最強形態。腕や顔に現れる武装色のリヒテンベルク図形と、背中から迸るスパークが竜の翼のように見えること。そして強化の程度が名前の由来となった「月の獅子」に勝るとも劣らないことから、リンドバーグが名付けた。本作中においては空中戦において一過言あるシキを翻弄する速度の“剃刀”で移動するなど、圧倒的な速度やパワーを見せつけた。
 名前の由来は電荷の単位『C(クーロン)』。また、『スーロン』は中国語だと『四龍』に置き換えられ、それを上回る意味で『九龍(クーロン)』となる言葉を選んでみました。
・我竜天晴(がりょうてんせい)
 『月の天竜』において、全身の全電力に覇王色の覇気を纏わせ、一匹の竜の形として解き放つ大技。本作においてはシキが最後に放った大技、『獅子威し“天地巻き”』を破砕した。
 名前の由来は『画竜点睛』。威力の規模感としてはエネルの『神の裁き(エル・トール)』やモリア(影取り込み状態)やバレットの島を叩き割る威力のパンチレベル。

シロガネ
・空銃(エアガン)
 覚醒したウテウテの実の能力で周囲の大気で銃を形成する技。煙も埃もない場所で生み出せばほぼ不可視に等しい為、放たれる弾丸は高度な見聞色がなければ発見するのも困難。シロガネはこれと未来視を併用し、手に持った銃から放った弾丸の軌道を変えたりするといった芸当をこなした。
 技名の由来はそのまま『エアガン』。

シャクドウ
・圧砕夢(ミロナイト)
 流し込む覇気による攻撃。技名の由来は宝石の『ミロナイト』から。
・壊家夢(カイヤナイト)
 周囲に地震を巻き起こす攻撃。技名の由来は宝石の『カイヤナイト』から。
・捥夢(モガナイト)
 捥ぐ攻撃。技名の由来は宝石の『モガナイト』から。
・天剃夢(アマゾナイト)
 蹴り攻撃。技名の由来は宝石の『アマゾナイト』から。
・暴雨夢(ボーナイト)
 乱打攻撃。技名の由来は宝石の『ボーナイト』から。
・白夜夢(ホワイトナイト)
 微睡みを誘う煙を辺りに撒く。技名の由来は白夜を意味する『ホワイトナイト』から。
・睡生無死“悪魔夢”(すいせいむし“ないとめあ”)
 相手の夢の中に入り込むことでその内容を操る。夢の中で起きた事象は現実にも反映され、傷を負ったとすれば本体にもダメージがフィードバックする。これを用い複数人に分身した自分で殴りかかったシャクドウは、全員反撃に遭ったことで倍以上のダメージを負った。
 技名の由来は酔生夢死(意味:酒に酔ったように生き夢のように死んでいく)という四字熟語と、悪夢(ナイトメア)から。

シキ
・獅子・神誅(しし・しんちゅう)
 自身を獅子威しで鎧った上で、獅子が呑み込んだ相手を体内で覇王色の覇気を纏わせた斬撃で一閃する技。
 技名の由来は『獅子身中の虫』。
・獅子威し“天地巻き”(ししおどし“あめつちまき”)
 島一つに匹敵するほどの土砂や樹木、海水をごったまぜにした最大規模の獅子威し。その圧倒的規模から、相手は天地がひっくり返ったかと錯覚を引き起こす。
 技名の由来は『天地(大空と大地)』から。

Q.ルナは魚人空手を使えるけどどの程度の威力が出るの?
A.だいたい八千枚瓦ぐらい。ただし、膂力で強引に威力を出しているだけであって、技の練度やキレ的にはコアラやハックに劣る。今後鍛えていけばちゃんと師範代になれるくらいには成長するはず。

Q.ルナの強さは?
A.本作中においては四皇幹部(通常時)~準四皇級(月の天竜時)。ただし、本作中はずっとストレス&寝不足のガリガリで、デバフもいいとこな状態なので、本編後のおいしいものたくさん食べて健康体になった状態なら、バレットぐらいの立ち位置になる。

Q.作中は原作だとどのくらいの時期?
A.麦わらの一味がスリラーバークからシャボンディ諸島に渡っている途中辺り。

Q.ルナが人間不信気味なのに、当初ノアの買い物に付き合っていた理由は?
A.無意識の内に安心してたから(見た目と雰囲気が母親に似てた)

Q.味も臭いもわからないのにちゃんと分けられたものを食べたのはなんで?
A.ルナ「こいつ美味いって言ってるから食っても大丈夫だと思った」

Q.ルナとノアの好きなものは?
A.ルナ「アイス(ノアと一緒に帰った後に食べたから)」
ノア「おいしいもの全般!(とゴニョゴニョ……)」

Q.二人は本編後何してる?
A.ローグタウンに戻った後は酒場で豪華な宴会。その後、ノアの世界旅行にルナに付き合わされてあっちゃこっちゃの海を渡り歩く。その道中で劇場版級のトラブルが二、三度くらい立て続けに起こるけれどまた別の話。
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