些細な事でウマ娘と剣呑な雰囲気になるトレーナー 作:クロウ・プルムヴァーゴ
今回はゴールドシチー
「…」
「なぁ、俺が悪かったからいい加減口聞いてくれよ。」
放課後のトレーナー室。開幕早々不機嫌全開で此方を一向に見ようとしない
この不機嫌の始まりは努力家な彼女の性格が起因…まぁ、過度な自主練を咎めたらかなり反抗的な態度を取られてそのまま言い合いになってしまったのである。
それで機嫌を悪くしてこの有様……練習指示には従ってくれるが一切の会話拒否のガン無視。此方からの会話に一切応じず辛うじて尻尾の動きで此方の問いかけへの可否を伺うことで練習を成り立たせているのだが…
「シチー?さっきも説明したけど今回の練習メニュー理解した?」
彼女の綺麗な尻尾が一回横に振れる。なるほど、理解してるとのことらしい。
「そっか、ついでにそろそろ口聞いてくれないか?」
今度は二回振れる…NOとのことらしい
「いや、このコミニュケーション方法は俺がずっとお前のケツを凝視するとかいう重篤な欠陥があるから勘弁して欲しいんだけど…。」
今度は尻尾が縦に振れた…「ぶっ殺す(意訳)」とのことらしい。
「いや、もう五日はこれだよ?ヘソの曲げ方にも限度ってもんがあるんじゃない?」
そう、口論の翌日から始まったこの社会的な死を招きかねないコミュニケーションも遂に五日目に突入してしまい一向に改善の余地が見えないのである。このまズルズルとこの関係を続けていると取り返しのつかないことになりかねない。
こうなったら無理矢理にでも口を聞いてもらおう…俺は軽く溜息をついて
「そうか、そっちがその気なら此方にも考えがある…。」
そう言って部屋を後にした。
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「……あー…やっちゃった…」
ダメだ完全に謝るタイミングを見逃した。
トレーナーがアタシのことを考えて叱ってくれてたのは頭では理解している。でも、
皐月賞で二着、続く日本ダービーでは四着。勝ちたかったレースで勝てなかった。それなのに上がる歓声。
「やっぱりゴールドシチーは綺麗だ。」
「綺麗なだけじゃなくて走れるなんてすごい。」
「モデルなのにすごい。」
歓声に混じるその声がアタシを苛立たせた。
そんな苛立ちや不安を少しでも和らげようとこっそりと自主トレをしてるところをトレーナーに見つかってしまい叱られてしまった。
『焦る気持ちは分からんでもないが、そんな体を痛めつける様なことせずにしっかり休んでろ。』
とぶっきらぼうに言い放ったアイツの一言に募ってたモノが一気に爆発しそのまま口論になってしまった。
一応、アイツからはその翌日に謝罪の言葉があったのだが…アタシの方はまだ怒りが収まってなくてアイツと一切口を聞かなかった。
『あー…黙ってないでせめてイエスかノーか尻尾でも振ってくれよ。これじゃ練習にもならねぇ。』
そしてその一言で始まった尻尾コミュニケーションが今まで続いてしまっているというわけだ。
なんだかんだで一年ほど共に歩んできただけあってこんな形でも意思疎通ができてしまっているから恐ろしい。
…一年かぁ…。そういえばアイツに声を掛けられてからそんなに経つんだ。
あの時、模擬レースを終えたアタシに色んなトレーナーが声を掛けてきた。そんな中にアイツもいたんだっけ。
『根性ある走りをするじゃねぇか。どうだ?俺と組んでみないか?そしたらアンタを勝てるウマ娘にしてやる。』
正直ムカついたけど、アタシをモデルじゃなくて一人のウマ娘として…しかも走りを見てもらったことが嬉しかった。そして何よりもその真っ直ぐで力強い目を見て「この人だ」と直感して担当トレーナーに選んだんだ。
『…え?モデルなの?後ろの人は…え?マネージャー?事務所?なにそれ恐い。』
まぁその後、アタシがモデルだって分かってマネージャーから名刺を渡された瞬間逃げ出そうとしたから首根っこ掴んで引きずっていったんだけど…。
『…クソネミ』
…あの時の力強い目も半年程ですっかり濃い隈が刻まれてるけど…。
なんか思い返せば思い返すほど笑えてくる。
そうだ、アイツはアタシを勝たせくれると約束してくれたんだ。だったらそれを信じよう。だからさっさと頭下げ謝ろう。大丈夫、アイツなら笑って許してくれる。
そうと決まれば善は急げ。そう決心した直後、ドアが開いてトレーナーが戻ってきた。
トレーナー、意地張っててごめん!アタシが悪かった!
と、謝ろうとたけどトレーナーの姿を見て言葉を失った。
キツめな蛍光色のスニーカー
元は黒かったんだろうけど色落ちして灰色っぽくなったダメージジーンズ
どう和訳しても碌な意味にならない英文がデカデカとプリントされたTシャツーしかもサイズが大きくて腰下近くまで隠れてるし
そしてトドメを刺す様にその上に羽織ったチェック柄のシャツー緑地に赤のチェック柄が季節外れのクリスマス感を演出している
もう…なんだろ、なんというか『ダサい』という言葉の擬人化がドアの前で仁王立ちしていた。
ダメだ、頭痛くなってきた。
「ト、トレーナー?」
「どうだ、シチーよ?このゴールドシップ嬢直々のコーデは?」
あの破天荒、人のトレーナーになんてことしてくれてんだ。
「流石の俺もこのファッションセンスがイカれてることぐらいは理解してるさ。理解した上で言おう。」
そう言って一呼吸置くトレーナー
ダサい格好と相対的に真っ直ぐと力強い目ーあの日、アタシに声を掛けてくれた時と同じだ
「ここ五日間ヘソ曲げてたことを謝りな!さもないと次の菊花賞…この格好で関係者席に座るぞ!」
「はぁ!?」
あの日と同じ目でとんでも無いことを言わないで欲しい。せめて思い出くらいはキレイなままにしときたんだから…
「なにバカなこと言ってんの!?そんなくだらない脅しで謝るわけないじゃない!」
ちょっと前まで素直に謝ろうと思ってた気持ちはどこへやら…というかこんなバカな脅しに屈して謝るのもなんか嫌だ。
「ていうか、トレーナーもしかして怒ってる?」
「…別に」
怒ってるんだ…それで我が身を顧みずこんな真似を…なんか少し可哀想に思えてきた。
「おい、なんだその憐みの目は、やめろ!そんな目で見るな!」
そう言ってトレーナーは手を後ろに回して…
「こっちの要求を呑まないっていうなら、更にコイツを足してやるか…」
どこから知らないがウエストポーチを取り出した。
「トレーナー…待って…それを足すって何?」
分かってても聞いてしまう。それだけは…それだけはやってほしくない。今のトレーナーの格好にこれ以上何かを足すなんて…。
「青ざめたな。モデルのお前なら大体察したようだな。」
アタシの問いに不敵な笑みを浮かべながらそう答えて、ウエストポーチを腰に巻く
「ウエストポーチだ、当然腰に巻くのが流儀だよなぁ?」
ダサさとダサさが悪魔合体した哀しきモンスターがそこにいた。
「当然、ポーチの中身を出し入れしやすいように…」
「ごめん!トレーナー!アタシが悪かったから!!お願い!!それ以上はやめて!!」
こうしてアタシはトレーナーに謝って、なんやかんやでトレーナーと仲直り(?)することが出来た。
…出来たんだけど…
『いや、まぁ、あんな手段を選んだ俺が言うのもなんだけど…。』
「…うん。」
受話器越しに聞こえるトレーナーの声に相槌を打つ。
『倒れて二日寝込むくらいに嫌だったの?あの格好?』
あのやり取りの翌日から軽い熱が出てアタシは自室のベッドで横になっている。元々の疲れもあったのか二日ほど寝込んでようやく起き上がれるくらいに回復したのだった。
「モデルやってるからかな…ちょっとした職業病ってやつかも…。」
だって未だにあの格好を思い出す度に全身に嫌な寒気が走るし…
『ごめん。次からはもう少し冷静に話し合う方向で行こっか。』
「うん。そうしてくれると助かるかな。」
二人して力無く笑い合う。
菊花賞まであと一週間…こんな調子で勝てるのだろうか?
ゴールドシチー:モデルとしての自分じゃなくて一人のウマ娘として見てくれたトレーナーを結構気に入ってる
トレーナー:最近、ゴールドシチーのマネージャーの電話番号を着拒した
ちなみに寝込んだことで強制的に体を休めることに成功し、菊花賞には勝てた。