シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ   作:イマジンカイザー(かり)

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過ぎたるは及ばざるが如し

 

 

『ウルトラマン。そんなに人間が好きになったのか』

 

『いいだろう。君の願いを叶えよう』

 

『さあ、君と神永の身体を分離するぞ』

 

 こんなに永く眠っていられたのはいつぶりだろうか。公安警察という職を得て、それを誇りと働き始めたあの日から、枕を高くして眠れる日は無かったように思う。

 

 

「神永さん!」

「神永!」

「よかった、無事でよかった……」

「おかえりなさい」

 抜けるような青空の下、今自分が籍を置く禍特対(カトクタイ)の面々は、どうしてだか僕を囲み、涙目で目覚めを待ってくれていた。右端にいる女性は誰だ。見覚えがない。新たに他の部署から出向して来たのだろうか。ここにいる誰よりも涙を浮かべ、僕の顔を見つめている。

 

「班長。滝。船縁さん。"ネロンガ"はどうなりました。そこにいる彼女は誰です。状況は」

 自分としては、今ある疑問をストレートに述べたつもりだった。故に不思議でしようがない。そう告げたその瞬間、彼らの顔から涙が失せ、困惑の感情が上書きされていったのだから。

 

「お前、何を言っているんだ」

「はは、悪い冗談ですよ神永さん。ネロンガ。ネロンガって」

「あの。これって、もしかして……」

 この温度差は何だ。禍威獣(カイジュウ)第七号・ネロンガの襲撃。逃げ遅れた子どもを救いに出掛け、山林で気を失って……。そこから何があったのだ。

 

「神永さん」ひとり、見覚えのない女性が僕を前に驚きを以てこう続ける。

「憶えてないの? ウルトラマンとして戦った、今までのことを」

 

 ここにいた四人の顔が、一斉に僕ではなく僕の右手に集中する。何か、握っていたみたいだ。ペンライト――、だろうか? こんなものを買った・貰った覚えは無いのだが。

 けれど、今問い質すべきはそんな粗末事ではない。

 

「ウルトラマン、とは……何者ですか?」

 

 純粋な疑問から発したその言葉を耳にして、彼ら四人は再び顔を曇らせる。僕ひとりがその理由を知らぬまま。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

『正午となりました。東京のスタジオから本日のニュースをお伝えいたします。米国政府は日本国大戸島に建設したベーターシステム再現区画にてまもなく、初の巨大化実験を行われます。世界初の一大実験に大きな期待が寄せられています』

 

 東京湾から陸地を離れ千キロ弱。東京都特別区の離島・大戸島。高齢化が進み、住まう人々が二桁に留まるこの場所全土を、大仰な発電設備が覆い尽くしている。

 

「まさか、半年ぶりの出動が社会科見学とは。世も末ですね」

 彫りの深い米国の軍人や科学者らの島から少し離れた一区画。『SSSP』と文言と流星マークが印されたテーブルを囲う日本人の男女たち。各国から招待された報道班。その内のひとり、黒のスーツを若干着崩した若い男――、滝明久がうんざりとした顔でそう呟く。

「腐るな滝。米国はこの為だけに日本からこの島を買い取ったんだ。俺たちが口を挟んで止まる状況じゃない」

 彼の上司、精悍な顔つきの総元締め、田村君男班長がそんな彼の言葉をたしなめる。

「落ち込む気持ちはわかります。けど、『彼』はそれも含めて人類に託したんです。私達にはどうしようもないでしょ」

 滝の向かいの席、長い黒髪を後ろで纏めた眼鏡の女性、船縁由美がそこに続く。

「それに。成功すれば他の有象無象への抑止にもなる。悪いことばかりじゃ無いと思うけど」

 斜向かいに座す快活な女性、浅見広子が最後にそうまとめ、滝の言葉を封殺する。

「わかってます。わかってますよ、でも」

 ウルトラマンが天体制圧用最終兵器・ゼットンを異次元の彼方に追いやってから半年。人類が生き残るため、彼から託されたベーターシステムの計算式を、滝は世界中の頭脳に開示した。大国はもたらされたその情報を持ち帰り、各々が研究を重ね、一番乗りを果たしたのが米国だった。

 パイプラインや電線のジャングルを抜けた先には、直径百メートルはあらんかという半透明のドームが設けられ、百八十あるサンド式装甲板の中心地では、全長六十センチほどの赤毛のモルモットが、草を食みぷいぷいと鳴き声を上げている。

『ベムラー』と名付けられたそれが、ベーターシステム巨大化実験の礎となる被検体だ。

「僕たちは、こうならない為に頑張ったんじゃあないんですか。彼だって言ってたでしょう。現人類にベーターシステムはまだ早いって」

 滝はゼットンへの対抗策を導き出した張本人だ。「彼」がどれだけ人類に尽くしてくれたのかも知っている。こうなることは薄々勘付いていた。解っていて自分以外の頭脳に助けを求めた。そうでなければ我々は今ここにはいない。

 彼はその命を懸けて戦ってくれたのに。助けられた我々は彼の犠牲に泥を塗らんとしている。当事者としてそれが許せないのだ。

 

「いいんだ。滝。君のせいじゃない」

 

 自己嫌悪で渋い顔をする滝の肩をぽんと叩き、気にするなと声をかけた男がいる。整った容姿にピンと伸びた背筋。のりの効いた黒のスーツ。胸元に刺した流星マーク。

 彼こそが、かつてウルトラマンだった男・神永新二である。

「これ以上の事が起こらない・起こさない為にここに居る。オブザーバーとしての我々の役目はそれだけだ」

「神永さん」

 彼がいまもウルトラマンだったなら。なんの躊躇いもなく首を縦に振れただろう。けれど『彼』はもういない。いまこうして神永が自分たちとともに仕事に従事出来るのは、度重なる検査の末、彼の中にウルトラマンがおらず、『なれない』と証明されたからだ。

「そう、ですよね……」

 完全に納得していないが、他に出来ることなどなにもない。彼はウルトラマンじゃないが、発した言葉に反論するすべを滝は持っていなかった。

 

「今はただ見守ろう。総てはそれからだ」

 機械という機械が駆動を始め、島の中心部が紅く輝き始めた。いよいよだ。この星の文明をワンランク引き上げる世紀の実験が、間もなくはじまろうとしている。

 それが、ゼットンに続く地球規模の危機の引き金になろうとは、想像できる者などいようはずもなかった。

 

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