シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
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僕が意識を失った数週間。この星には『ウルトラマン』なる超常の存在がいたらしい。マッハの速度で空を飛び、禍威獣たちをも圧倒するパワーの赤と銀の巨人。彼は決して驕らず、見返りを求めることもなく、人類に味方をし、その果てにいのちを散らしたのだと。
その時のことを、僕は何一つ憶えていない。当然だ。僕はその間『彼』だった。死せる僕と融合した『彼』は、神永新二として人間社会に溶け込んでいたのだから。
どうして彼はそんな風に振る舞えたのだろう。どうして自らを犠牲にしようと思えたのだろう。人づてからでは要領を得た答えは貰えなかった。
僕はそれが知りたい。一介の外星人だった『彼』が、どうしてそこまでヒトに肩入れするようになったのか。
…
……
…………
『ベーターシステム、再稼働準備完了』
『カウント、60より開始します』
東京都特別区離島・大戸島。本日正午過ぎ、ゴジラの接近によって世紀の大発明に泥を塗られたこの場所に、再び米の科学者たちが集まっている。
不幸中の幸いと言うべきか、襲撃を受けてなおシステム自体には傷一つついておらず、簡単なシステムチェックを終えた後、装置は問題なく再稼働に向け動き出した。無論それは現場に携わる技術者たちが、日本国禍特対の無茶な要請を受け、とんぼ返りをしてくれたからなのだが。
『神永さん、準備は整いました』
「了解。こちらもいつでも行ける」
かつてウルトラマンだった男・神永新二はベーターシステムの中心地に立ち、右手にベーターカプセルを構え、その時を待っている。人事を尽くして天命を待つ。滝らスペシャリストは固唾を呑んでこの先の展開を見守っている。
彼を、地球を守ってくれたかの英雄を。ヒトの技術と知識でこの場に呼び戻す。その瞬間を。
※ ※ ※
「さっきから何をしてたかと思ったら、そう来たか……」田村は呆れ顔で、なれど否定はせずにそう応え。
「でも滝君。米国も、勿論この国も。ベーターシステムの本格実験前に、神永さんを招聘しての召喚テストは何度もやっていたのよ?」浅見は改めてそのことを蒸し返し、駄目だったじゃないと理解を求める。
『彼』がゼットンを斃して数週間後。戻って来た神永新二は米国の医療機関をたらい回しにされ、ありとあらゆることを調べさせられた。ベーターカプセル起動実験もそのひとつだ。米国監視下で幾度となくカプセルのボタンを押し込んだが、あの巨体が再び現れることはなかった。
「そりゃあ、呼び出すには力と設備が足りなかったからですよ」なれど、滝の目に諦念はない。
「以前、浅見さんはこれを『彼』から託されたと言ってましたよね。試しに押してみたけど、それ以上何も起こらなかったとも」
「え、ええ」あの時触れて分かったのは、中に超小型化されたベーターシステムが仕込まれていた、という事だけだ。
「"これ"は『彼』が呼び出すことを前提にしたアイテムなんです。彼が解析ではなく、式を開示したのも、ただそのまま模倣したってどうにもならないと解っていたから」
だからこそ、神永新二は禍特対に留め置かれ、ヒトとして仕事が出来ている。ウルトラマンになれないのなら執着する理由もないからだ。
「けど、それは今までの話で」滝はかなり興奮した様子で話を継ぎ、「人類は彼の助言からベーターシステムの試作機を開発しました。結果は散々でしたが、実験自体は成功だった。そこに、神永さんとベーターカプセルです」
「つまり、その」ここで船縁が口を挟む。「彼と融合していた神永さんを媒介に、プランクブレーン内のウルトラマンを喚び出す……と?」
「有り体に言えば、そうです」
人類は、不正確ではあるがプランクブレーンの扉を開けることまでは出来た。あとは道標があればいい。あの機械を丸ごと流用し、神永があの装置の中でベーターカプセルを点火。さすれば今もどこかで眠るウルトラマンの元へ辿り着ける。滝が提唱しているのはこういうことだ。
「ですが、その……」捲し立てるだけまくし立て、ようやっとテンションが戻って来たその只中。滝は神永の顔を見、後ろめたさを抱えながら言葉を継ぐ。
「人類のベーターシステムは、今しがた動物実験が成功しただけの危険なシロモノです。これだって言ってしまえばただの仮説、そんなものに、神永さんを巻き込んでしまうのは」
結果を急ぐあまり、安全を顧みなかったことは否定しない。うまくいくという確約もない。だが足を止めて検証している時間はない。だからこその逡巡なのだが、神永は俯く滝の手を取って、
「構わない」と、一言そう告げる。
「君と、人間の技術を信じるよ。それに僕も、『彼』に逢って見たい」
「神永さん……」
こう言われてしまえば、後はもう実行するしかないじゃないか。危険なのはあなたの命だと言うのに!
「それに」駄目押しとばかりに浅見が後ろから滝の肩を叩き。「不安だって言うなら二枚張ればいいんじゃない」
彼女は自らが手に持つ携帯端末を皆に見せ、「防災大臣も言ってたでしょ。あの禍威獣は外星人の意のままだって。ほらこの写真。隠し撮りらしいけどばっちり映ってる」
いけ好かない外星人がネズミーのカチューシャをつけ、右手に収まっているのがコントローラーか? 画像は粗いが、オン・オフをレバー操作するのは見て取れる。
「外星人を押さえ、禍威獣を我々の制御下に置く……と言う訳か?」田村が真剣な面持ちで問い。
「こちらも確証はないですが、即応性はあります」浅見はハッタリをハッタリだとした上、で強く進言する。
「避難も攻撃も後手後手。米や他国からの支援もアテに出来ないなら、現場で出来ることに全力で取り組むべきと考えます。いかがですか、班長」
「にっちもさっちもぶっつけ本番か……」渋い顔こそするが、既に田村の腹は決まっていた。
「二手に分かれよう。滝と船縁はVtolで大戸島に向かえ。浅見は俺と来い。陸自の連中をネズミーランド前にかき集めろ。もうじきエレクトロニカルパレードの時間だったな。来場者が集中しているそこを狙う」
霞が関の独立愚連隊、ここに極まれりと言ったところか。こうした判断を下すために集まったのが彼ら禍特対と言われればそこまでだが。最早一刻の猶予もない。自分たちを家畜と舐めてかかった外星人に、ヒトのチカラで一泡吹かせてやろう。
「良し。禍特対、全員出動!」
※ ※ ※
『カウント、20、19、18……』
『エネルギー、集束率250%』
だだ広いドームの中で赤の光が渦を巻く。この中で待つ神永の為に、間に合せで準備を整えた皆のチカラだ。
『神永さん』
彼らの中心に立ち、あれこれ指示を飛ばしてきた滝が、最後の最後でドーム内の彼にコンタクトを取ってきた。
リスクは話した。それを承知で応と答えた。ならば、ネガティブなことなどいいっこなし。不安で押し潰されそうになる己を噛み殺し、明るい声で待機する彼に言う。
『彼に、宜しく伝えてください』
「あぁ。行ってくる」
3、2、1、ゼロ。カウントが終わり、集束されたエネルギーが一気に放出。神永新二はその瞬間、真っ直ぐな瞳にぴんと伸びた背筋で、その手に持ったベーターカプセルのスイッチを押し込んだ。
・次回、『君に託す』。ご期待ください。