シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
※ ※ ※
『禍威獣ギドラ、六本木エリアに侵入!』
『避難、間に合いません!』
奴が武蔵小杉駅に降着してから、まだほんの三十分程。黒の体表を白の鎧で包んだ禍威獣は、間もなく首都圏ど真ん中に達しようとしている。
この緊急事態に、自衛隊は何故手をこまねいているのか? その桁外れな速度と戦闘能力を前に、即応可能な手段がないのだ。
ようやくと追い付いた対戦ヘリ部隊は足止めすら叶わず全滅。あれの移動範囲が一直線であることから、首都中心地の人々を圏内に遠ざけることしか出来ない。それもあくまで推測だ。もし他に何か狙いがあるとしたら。ここまで全てが我々を嘲笑うだけだとしたならば。もう人間に打つ手はない。
『URRRROOOOOO……!!』
どっぷりと日の落ちた夜の街に、禍威獣の白い外殻が反射する。紅い目は地上に住まい逃げ惑う人々を睥睨《へいげい》し、不気味な唸り声を上げて威嚇する。戦車大隊が準備を整えるまで最低でも残り二十分。奴がすべてを破壊し尽くすには十分な時間だ。
禍威獣の両肩とガッと開いた大口が金色の輝きを発し始めた。
武蔵小杉で対戦ヘリ部隊を一掃したあの光波か。今あれを地上に向けて放たれたなら……。
霞が関に取り残された政治家たちも、今そこで逃げ惑う人々も、街を守るべき自衛隊も。あまりにも突然に訪れた終焉にもう無理だと目を伏せる。
そうだ。他に誰がこの状況を切り拓ける? 誰にだって不可能だ。そう、
「あれ……?」
だが、この一撃で失われた命も、壊された建物も無い。そんな馬鹿な、夢でも観ているのか? 無論これは夢ではない。光波の放たれたその場所に、横回転する紅く輝く巨大な球体が陣取り、そのすべてを弾き飛ばしていた。
「あれは……」
「ネットで見た事ある」
「けど、もう居ないんでしょ? なんで……?」
やがて、赤い球体は粒子を空に散らせつつ、一つの形を成してゆく。我々はこの存在を知っている。知らない者などここにはいない。立膝を取ったヒト型のそれは静かに上体を起こし、荒れ狂う禍威獣の前に立ちはだかる。
「ウルトラマン」
銀の身体に赤のライン。柔和な笑みをたたえた鉄仮面のような顔。半年前、ゼットンの脅威から人類を守った外星からやってきた戦士。『彼』が、再びここに戻ってきてくれた。
『GRRRRRROOO』
我が物顔で街を蹂躙していた禍威獣は、自分と同じ背丈の巨人を目にし、威嚇の唸り声を上げた。ウルトラマンは当然意に介さない。道路三つ分の距離の中、一瞬のにらみ合いの後。両者は互いに間を詰める。
(良し……やれる)
ウルトラマン――、神永は乳白色の目で鍔迫合う黒白の禍威獣を見やる。先の球体も、ここまでの飛行も、彼自身の意思次第で思いのままだ。
未知の存在相手に多少の不安はあったが、組み付いてみてよく解った。この程度、公安時代に行った実戦より容易い。
鍔迫り合いはやがて力士のまわしの取り合いめいた挙動に変化。ウルトラマンはギドラの力を逆に利用し、大外刈りで地表に叩きつけた。
『G……GAHHHHH!!』
ギドラはだからなんだとばかりに起き上がると、自慢の尻尾を振り回し、ウルトラマンの背を狙う。それを見越していた彼は軽やかなジャンプで横薙ぎの尻尾を躱し、戻り際のそれを両手で掴む。
(少しでも、人の居ない場所へ)
ウルトラマンはその膂力でギドラを持ち上げ、ジャイアントスイングの要領で二度、三度と回転させる。手足をばたつかせ抵抗するギドラだが、その腕力に遠心力が加わり、回転を止めることは叶わない。
六度ほどの回転を加えた後、ウルトラマンはその運動エネルギー全てを解き放つ。禍威獣はなすすべなく上方に飛ばされ、六本木市街から青山公園まで移動させられた。
『GGG……ROARRRRR!!』
これにはギドラも痛みを感じたらしく、苦悶の声を上げながら立ち上がる。同時に金色のエネルギーも充填しており、立った瞬間、口・両肩からエネルギー光波を吐き出した。
(問題ない)
『彼』と一体となり、戦っていた時の記憶が神永の脳内にフラッシュバックする。彼は迫る光波に際し、両の掌にエネルギーを集中し、パントマイムの動作めいて四角い壁を張り出した。
半透明の壁はギドラの光線を物ともせず四方に散らす。ウルトラマンはそれを盾代わりにして接近。青山公園に足を踏み入れ、ギドラに十分に近づいた後、盾にしていた壁を蹴り飛ばす。
『GAHHHHGH!!』
壁はバラバラに崩れ、光の粒子となって消えてゆく。予期せぬ不意打ちに仰け反ったギドラが、背筋で突っ張って身体を起こさんとしたその瞬間、ウルトラマンの右ストレートが禍威獣の顎に突き刺さり、公園の緑が激しく揺れた。
※ ※ ※
「どうも。お久しぶりです。皆々様お元気そうでなにより」
慇懃無礼を絵に書いたような顔と言動。上着も黒、シャツも黒、ネクタイも黒。上から下まで黒ずくめの奇怪な男。今から半年前、人類に自らに隷属するよう迫った悪辣なる外星人、彼がそのメフィラス本人だ。
「白々しい挨拶を。今度は一体何のつもりだ」
「何を、とはそれこそご挨拶な」メフィラスは柔和な笑みを少しも崩さず、「見ての通りの観光ですよ。この時間帯のネズミーはイルミネーションが美しいですので」
その目、その顔、その態度。どこにも嘘をついている気配はない。まさか本当に余暇を楽しむためにここに来たのか? あり得なくは無い、ないが――。
「そんなことはどうだっていい。あたしたちの行動を勇み足と言って止めた、その理由は何」
これが意図的だろうが通りがかりだろうが、彼が自分たちの前に現れ、忠告した事実に変わりはない。メフィラスは少しも表情を変えることなく、『そうですね』と切り返す。
「あの連中……外星人エックスでしたか。あれは人類を食物としか見ていない下劣な輩です。この美しい星をそんな輩の牧場にされてしまうのは私としても我慢ならない」
自身も侵略行為を行っていただろうに、この人類の味方面をした言動は何なのだろう。
「つまりそれは」田村が恐る恐る問いかける。「我々の作戦に加担してくれる、と」
「まさか」メフィラスは首を横に振ってそう応え。「星間協定に与する者は他星の侵略行為に口を挟む事ができませんので」
「なんなのよ、それ」期待したこっちが馬鹿だった。浅見は不愉快そうな表情を隠そうともせず、「じゃあ何しに来たってのよ」
「だから何度も言っているでしょう。レジャーだと。非番の刑事が休暇中に事件に出くわす、あぁいう推理小説と似たようなものです。もう、よろしいですか?」
本当に、余暇に娯楽を楽しむ、その為だけに来ていると言いたいのか? いよいよもって訳がわからなくなってきた。
「なので、これも軽く聞き流して頂きたいのですが」困惑する田村らに踵を返し、入場門に進み行く中で、メフィラスはふと思い出したように振り返り。
「かの外星人はある特定の『音』を嫌がる習性があります。武力制圧で状況を変えたいと言うのなら、参考にどうぞ」
では、と言いつつ正門に向かい、『おとな一枚』と律儀にチケットを買い、ランドの中へと消えてゆく。
「これは……」
浅見がふと手にしたスマホを見やると、開いた覚えのないサイトに繋がり、ひとつの動画がリピート設定で再生されている。
「班長、まさか」
「