シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
※ ※ ※
『――間もなく、パレードが開始いたします。ご観覧の皆様は中央を空けて、ネズミーたちとは触れ合わずご鑑賞ください』
空から明るさが失せ、どっぷりと夜になって来た頃。ランド中央、シンデレラ城周囲がざわつき始めた。キャストたちがゲストたる来場客に理解を求め、パレードの通路を確保する。
『あれは光の星の……まさか、こんなところで出逢おうとはな』
皆がパレード開始を固唾を呑んで見守る中、その中に紛れた黒コートの外星人は、遥か遠く、離島の側を仰ぎ見てそう呟く。
『奴らがこの星の連中に肩入れしていると言う噂は本当だったのか』
"裁定者"ともあろう者がなんたるえこひいきか。外星人は買って来たチュロスに齧りつき、苦々しくそう呟く。
尤も、その口調自体に焦りはない。
「見つけたわよ!」
「外星人エックス! そこを動くな!」
ひとり空を仰ぎ見る外星人の元に、人だかりを割って、迷彩服の一団が駆けてくる。その中心に立つのは禍特対の田村と浅見だ。他と同じく銃を構え、いつでも撃てると引き金に指をかけている。
『その様子。俺様と交渉するつもりはないらしいな』
「総理が言った筈だ。この星の人間は、誰もお前には批准しないと」
「いま街で暴れている禍威獣、あんたが動かしてるんでしょう? 痛い目に遭いたくなきゃ、さっさと止めて貰いましょうか」
誰も彼もが大真面目に銃を手にそう訴えるが、外星人は一瞬の静寂の後、そんな彼らに嘲り笑いで応える。
「何よ。何がおかしいわけ」
『何もかもさお嬢さん。術さえあればもう全能か? 屈しなければ負けじゃないか? 馬鹿馬鹿しい。お前達は無力な家畜だ。この力関係は絶対に揺るがない』
瞬間、エックスはしなる右手を斜め上方に振り、次いで左にも同じ動作を仕掛ける。一体何をした? ヒトには目視出来ないが、この瞬間黒い『筋』のような何かが発射され、現場の指示を待っていた狙撃班ふたりの
『無知無策で突っ込んできた、その勇気だけは認めよう』
エックスは赤熱させた両掌を無造作に振るう。銃を構えた屈強な男たちが、右から順に胴から上を袈裟ないし逆袈裟に割かれ、驚愕の表情のまま崩れ去ってゆく。
『それで? ここから先はどうする気だね。何をしようと容易くねじ伏せてやるだけだがな』
共に戦おうと志願した隊員たちは根こそぎ倒され、発案者の田村と浅見を残すのみ。一緒くたに倒さなかったのは、自らの力を示威するために他ならない。何をしても無駄、人類は自分の要求を呑むしかない。為政者たちにそう伝えるために。
「次……そう、次ね」
自分たちが生き残ったのは『運』だ。予め隊員らには説明をしておいた。この先、誰が生き残ってもいいように。
「まあ、そう焦るな。すぐに終わる」
『お、わ、る……?』
元々勝算なんてカケラもない最後の抵抗だ。使えるものは何でも使う。彼らの呼び出した人員はこれで終わりではない。自分たちはうまく行けばそれで良しの『陽動』。本隊はネズミーランドの管理地区に潜入し、強権を以て準備を整えていた。
「どうやら、時間稼ぎも済んだようだ」
田村は鳴り響く携帯端末に出、ゴーサインを求める現場員に応を返した。ランドの端から光り輝く綺羅びやかな大屋台とネズミーたちマスコットがやってくる。
「何よこの音……」
「ねぇ、何これ、キモチワルイ……」
「スタッフ! スタッフーッ! バグだよ! 絶対おかしいって!」
『なんだ……オイ、なんだこれは!』
だが、それに乗って流れる音楽はネズミーらしい楽しさ溢れるそれとは全くかけ離れている。リズムが無ければ音階なんてものもない。いわば音と音の喧嘩だ。前の音と次の音が噛み合わず、不協和音と化している。
これは、機械がランダムに音を鳴らしているのか? ただひたすら無秩序に、音楽らしきものを生成し続けている。
『ふざけるな! なんだ、なんかのだこの音! 音! 音ぉおおお!?』
人類にとっては不愉快な『音』でしかないが、外星人たるこの存在にとっては頭が張り裂けそうになるくらい苦しいらしい。あれだけ自信に満ちていた態度は何処へやら、このランダム生成された"音楽"に耳を塞いで身を捩っている。
『やめろ! 止めろ、この音を! 止めろぉおおおぅああああ』
メフィラスは言った。奴はある一定の音波に弱いと。禍特対はこの言葉に一縷の望みをかけ、パレードの音声をあの動画のそれに切り替えた。確かに効果てきめんだ。近遠両方に強いこの外星人が、音ひとつで何の抵抗も出来なくなるとは。
「よし! リモコン、確保ぉ!」
奴のコートの下からリモコンらしきものがこぼれ落ちた。浅見はすかさずそれを拾い上げる。
「人間サマ舐めんじゃないわよ外星人! とっととこの星から出て行きなさい!」
即座に上がったままのレバーを引き下ろす。常に青く輝いていたリモコンの光が消えた。街で暴れる禍威獣もこれでジ・エンドか。
『うう……あう……クソぉ……』
だが、奴はそれを取り返す様子はない。如何に苦しかろうと、侵略の要たるリモコンを奪還しないものなのだろうか?
『やめておけ……制御が……くぉおお!!!!』
※ ※ ※
(大丈夫。これならやれる)
神永――、ウルトラマンは禍威獣に組み付き、持ち前の膂力でギドラを圧する。この短い間に打ち合ってわかった。奴は自分の敵ではない。力でも、技術でも自分は向こうの上を行っている。
『GUOHHHHHHHHH』
劣勢のギドラが苦しげに声を上げ、稲妻めいた輝きを放つ。あの光波を無防備な胸部に浴びせ、攻守を入れ替えようとの魂胆か。
(無意味だ)
最早かわす必要さえない。ウルトラマンは鍛え上げられたその胸筋で光線を受け止め、体重の乗った前蹴りでギドラを撥ね飛ばす。
『GRUUUOHHHHH』
奴の目が、両肩の突起が、金ではなく赤の輝きをバチバチと散らせ始めた。充填の後の必殺の一撃と見た。神永もまた、記憶を辿り最適解を導き出す。
(これ、か?)
"記録"を辿るうち、彼は自らの両上腕が熱く燃えているような感覚に気が付いた。この衝動には覚えがある。『彼』の得意技だ。これが現状の最適解か。
神永は左の腕を垂直に、右の腕を水平に構え、それらを併せ十字に組む。腕が熱い。上腕に集束したエネルギーが行き場を求めて暴れている。
『GRRRAHHHHH!!!!』
奴の放つ紅い稲妻状の光波に合わせ、彼もまた行き場を求めたエネルギーを解き放つ。エネルギーは青色の輝きへと変換され、ギドラのそれとは違う直線状の光波として放射された。
ウルトラマンの身体を構成する重元素・スペシウム133。これを体内から切り離し、超高熱の熱線として解き放つ大技。言うなればスペシウム133光波熱線。かつての彼が最も得意とした大技だ。
『GG……GRRRORRRRRRR!!』
熱線と熱線がぶつかり合い、青と赤の光が冬の夜空をこの二色に染め上げる。拮抗はウルトラマンの側に軍配が上がった。赤の稲妻は次第に押し負け、ギドラの体がどんどん後ずさってゆく。
青の光線がギドラに届いた。守るすべを失ってのクリーンヒット。もんどり打って弾け飛び、その体は頭から周囲のビルにめり込んでゆく。
(おかしい)
神永が違和感を覚えたのはこの時だ。いや、先程まであったものがカタチになったと言うべきか?
これだけの攻撃を浴びせてなお、向こうもよろけるなどするけれど、決定打を取った気がしない。奴の力は自分よりも弱い。それは間違いない。ならば何故、この力を以てして、奴を完全に滅し得ないのか?
『GA……GUGGGGGGG、ROARRRRR!!』
砂埃を払って現れたギドラは四つん這いのまま静止し、全身を小刻みに揺らしている。一体何故? 答えはすぐに分かった。奴の白骨めいた外郭にヒビが生じ、首と接着していた両肩が『千切れ』、あるべき場所へと戻ってゆく。
あの紅い窪みは『装飾』じゃないのか? 首から離れた両肩はそれぞれ肥大化し、互いに別の『顔』を形作ってゆく。
現場で戦う神永には知りようのないことではあったが、時を同じくし浦安ネズミーランドでは、これを操る外星人が倒れ、コントローラーが浅見の手に渡っていた。枷が外れ、二足歩行のこの禍威獣は、あるべき姿に戻らんとしていた。
(まさか、こいつは……)
神永の疑惑が確信へと変わった。奴は最初から本気など出してはいなかったのだ。弱いのではなく様子見。ここからが奴の本気という訳か。
四つん這いになった身体が肥大化し、四足歩行に適した形に変化。それぞれ分かたれた肩は天を衝くように伸び始め、左、中、右の三つ首に成ってゆく。
『GRRRROARRRRRRRRRR!!!!』
肩甲骨『だった』部分から一対の翼が生え、天を仰ぎ悍ましい声で吼える。既に体長は先程の倍。白かった体表はかの内部筋繊維と一体となり、黒と金の威圧的な色に変貌。
三つ首にそれぞれ二本角。身体より大きな翼。あれがギドラの真の姿か。