シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
※ ※ ※
「禍威獣第十号ギドラ、ウルトラマンと交戦中、新たな姿に変貌……。攻守が完全に逆転……」
コントローラーを奪った今、外星人の脅威は完全に阻止したものと思っていた。滝らの目論見が成功したと言うのに、それを一切喜べない。
ウルトラマン復活の報と、それと相対する禍威獣の変質の報は、田村の元にほぼ同時に届いた。そしてそれが、まず間違いなく自分たちの手によるものであることも。
「この……やめ、やめなさいよ! この期に及んで、禍威獣を止めなさいッ」
「管理棟に連絡。音楽を止めてくれ」
どうにも間抜けな状況だが、背に腹は代えられぬ。呻き苦しむ外星人を抱き起こし、なんとかしろと身体を揺する。
『はは……無駄だ……滅びろ……』
だが、それすらも一手遅かった。かの音はこの存在にとって致命の一発だったらしい。どこまでも憎たらしい顔付きで抱き起こす浅見を愚弄したエックスは、そのまま緑色の液体に変貌。彼女の手をすり抜けて、ネズミーランドの床に融けて行った。
「ウソでしょ……。何よ、何なのよ!」
音楽が止まり、エレクトリカルパレードがあるべき姿を取り戻す中。浅見は手に残ったネズミーのカチューシャを放り、行き場のない苛立ちに握りこぶしで床を叩く。
「なんて……奴だ……」
自由にならないなら総て滅ぼして終わらせると言うのか。田村もまた、どうにもならない状況に、何も出来ず立ち尽くしていた。
※ ※ ※
『GRRRROARRRRRRRRRR!!!!』
三つ首それぞれが威圧的に吼え、もたげた首がウルトラマンを見下ろす。変化前は同じくらいだった背丈は既に倍近く、親と子ほどの差がついている。
(悩んでいても仕方がない、か)
ウルトラマンは両腕を胸の前で水平に構えた後、右手を勢いよく後ろに引いた。瞬間、青色のチャクラムめいた物体が生成され、手裏剣めいた挙動でギドラにそれが放たれる。かつて外星人ザラブを一撃のもとに斬り捨てたあの光輪だ。当たれば奴とて無事では済むまい。
そう、
目を凝らしてよく見れば、奴の口から稲妻めいた光波が放たれているのに気づくだろう。光輪は光波に押し留められ、これ以上の進行を許さない。
(まずい……!)
光波に留め置かれた光輪の色が青からオレンジに変化した。勘で危機を察し、咄嗟に飛び退いたウルトラマンのすぐ隣を『戻って来た』光輪が通過する。回避出来たか? 否、間に合わなかった。鋭利な光輪はウルトラマンの肩口を掠め、傷口からスペシウム133の紅い輝きが微かに漏れ出した。
『ROARRRRR!!!!』
しかもそれで終わりではない。ギドラの三つ首はそれぞれ稲妻めいた光波を吐き、ウルトラマンの足、腹部、首に絡みつく。触れようとしても触れられず、張力は尋常じゃなく強い。彼は体勢を崩し、仰向けに転ばされた。公園の一帯に震度三程度の揺れが起き、周囲の木々が左右に振れる。
(こ、れ、は……!?)
先のジャイアントスイングの意趣返しか。ギドラの首の動きに従い、ウルトラマンの身体が寝たまま滑るように『飛ばされた』。
スペシウム133で構成された肉体の前では、人類が造った建造物など砂の城に等しい。右に滑れば綺羅びやかな表参道が、左に滑れば繁栄の象徴たる赤坂の市街が、ウルトラマンの意図しない激突で粉砕されてゆく。
(重力に……干渉しているのか……!?)
横移動はいつしか縦に変わり、浮き上がったウルトラマンが市街に何度も打ち付けられている。抵抗を試みるが暖簾に腕押し、柳に風。こちらからの
上昇と激突の間隔は徐々に大きくなってゆき、六度目の落下直後、急加速をかけ一気に昇り始めた。秒もかからずスカイツリーを越え、東京全域を見下ろせるほど視界が拓け、三十秒で関東一帯を一望出来るまでになった。
(まずいぞ、このままでは……)
雲海を抜け、空気の層が大分薄くなって来たところで、遂に上昇が落下に転じた。今までは多少痛いくらいで済んでいたが、こうも高高度から激突すれば東京はどうなる、関東はどうなる。でたらめな縦揺れが日本の都市機能を襲い、誰一人として助からないだろう。
(そういうやり口か、外星人!)
そうはさせんとウルトラマン、蹴伸びの姿勢を取って身体を固定。縦回転をかけ、ギドラの反重力光波からの離脱を試みる。さながら、この姿は糸に絡まった虫といったところか。自らを縛り付けるこの光波を弾き飛ばし、その勢いのまま体当たりを打ち込んでくれよう。
(くっ……!)
そんな神永の目論見は、縦回転が無理矢理抑え込まれた時点で水泡に帰した。奴の力を甘く観ていた。これほど遠くに離れていてなお、奴の光波はこちらの重力制御を抑え込めるのか。最早この姿勢に意味はない。ウルトラマンは即座に体勢を立て直し、落下しゆく自分の真下を両の手で四角く囲う。
それはまるでパントマイムの一芸か。囲ったその先に半透明のバリアが発生し、地球の重力に引かれ墜ち行くウルトラマンを受け止める。無論、この落下速度と光波の誘引を防ぐまでには至らない。バリアは即座に破砕し、地上激突へのカウントダウンは止まらない。
(数だ、もっと数を……!)
ここでへこたれる訳にはゆかない。割っては作りを繰り返し、絶え間なくバリアを生成し続ける。守りに割く余裕はない。全身を伝う激痛は神永自身が堪えるしかない。地図は再び狭まってゆき、落下までは秒読み段階。
それでもなおウルトラマンは諦めない。何十何百のバリアを割り続け、ようやく減速がかかってきた。
(これで、最後だ!)
激突までコンマ数秒。ウルトラマンは体内のスペシウム133を掌に集め、瞬間的にこれを開放。地表にダメージを与えないぎりぎりのタイミングで、その爆風による逆噴射を伴い、激突を『着陸』にまで抑え込んだ。
『GUORRRRRR』
なんとか危機を脱したが、相手が無傷であることに変わりはない。見通しが甘かった。変身さえできれば、禍威獣など物の数ではないと思っていた。
(だが、諦める訳にはゆかない)
自分が背を向け逃げ出せば、この禍威獣は都民を皆殺しにするだろう。何より、自分を信じ送り出してくれた滝たち技術者らを裏切ることになる。それだけは絶対に出来ない。ウルトラマンは遠距離戦を諦め、勢い込んで駆け出した。たとえそれが、更に無謀な手段とわかっていながら。
※ ※ ※
「あの……班長、見てください」
禍威獣を操る外星人が消滅し、残されたのはネズミーのカチューシャと、奴が纏っていた黒のコートだけ。途方に暮れていた浅見は、その周囲にもう一つ、別のリモコンが転がっているのに気づく。
「班長。奴は脅迫に先んじてゴジラを捕縛してましたよね」
外星人からリモコンを奪い、ギドラを解き放ってなお、奴は羽田付近で静止したままだ。そこから導き出せる結論はひとつ。
「おい、浅見……まさか」
「私も半信半疑なんですけど、恐らくは」
これを使えば、拘束されたゴジラを解き放つことが出来るかもしれない。浅見と田村はごくんとつばを飲み込み、もう一つのリモコンを拾い上げた。