シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
※ ※ ※
「凄いわぁ、首が三つに倍以上の肥大化、脳はどうなってるのかしら。指揮系統は」
「あの頭それぞれに脳があるとすれば、何らかの形で連携を乱すなり、どれか一つでも妨害すれば統率は総崩れになるんじゃないかと」
もう間もなく羽田空港付近。大戸島を離れ、都を目指す道すがら。VTOLに乗り込んだ船縁と滝はライブカメラで送られてくる六本木の映像を見、それぞれの知見から意見を出し合っていた。
必死の思いで喚び出したウルトラマン――、神永新二が更にその上を往く禍威獣に襲われ、窮地に陥っていることは知っている。知っていてそこに触れないのだ。匙を投げたのではない、絶望する時間すら惜しい。自分たちの叡智を駆使し、あそこで命を張る神永を救うのだ。
「班長に意見を具申しましょう。誘導弾なら即応出来る筈です」
「班長は良くても、室長は渋りそうですけどね……」
意見の出し合いが上への具申に変わりつつある中、二人は通過し行く外の様子を思わず二度見。この場所に留め置かれたはずの『それ』が、枷を失い動き始めている。
「班長、班長、班長! 動いてます! なんか動いてますけどおおお!?」
出すべき意見も忘れ、今見えている光景を熱を持って伝える。
『――承知の上だ』
だが、電話口の答えは納得づく。口調にあるのは絶望でも諦念でもない。
『――少しばかり長い話になる。いいから早く戻ってこい』
「いいから……?」滝は離れゆくその光景に釘付けになりながら、出された指示に困惑し。
「そうは言っても、やばいでしょ……これは……」
※ ※ ※
(なんとしても、ここで止める!)
ウルトラマンは体勢を立て直すと同時に、ギドラの元へと突っ走る。あの重力操作に再び囚われたら勝ち目はない。近接戦に持ち込み、奴の首を掻き切るのみ。
向こうの光波を右に左に躱しながら懐に潜り込み、体重の乗った右チョップを放つ。水風船が壁にぶつかって破裂するかのような音が鳴り響くも、ギドラの身体は小揺るぎもしない。
(重……いッ)
たとえるなら、聞き分けのない子どもが大人に駄々をこねるようなものか。急所たる首にはまるで届かず、握り拳で胴を打とうとも、蹴りを首根に放とうとも。その痛みが禍威獣の根に届くことはない。
やがて、ギドラの側から頭を垂れ、苦心するウルトラマンを睥睨《へいげい》し始めた。それが何であれ有効打のチャンスと考え、垂直ジャンプからの薪割り手刀を繰り出すが――。
(な……にっ!?)
その腕は脳天を衝くことなく勢いを殺された。これが狙いだったのか。左端の首がウルトラマンの腕にぐるりと絡みつき、がら空きになった脇腹に噛み付いた。
(ぐっ……、おぉお、お!)
鋭利な牙の奥から身を引き裂かれるようなエネルギーが流れ込む。スペシウム133とは水と油、ひたすらに注ぎ込んで内側から分解させる気か。
(接近戦さえも、奴の方が上手……なのか……!?)
そうはさせるかと拳を入れるが響かない。渾身の回し蹴りは右端の首に咬み付かれ、威力を丸ごと殺された。
右と左。三つ首のうちふたつがウルトラマンに絡みつき、自由を奪い持ち上げる。遠距離でも近距離でも勝ち目はないのか。抜け出さんと体を揺するも、子と親ほどの体格差は覆せない。
ウルトラマンの体を走る赤のラインが足先から緑色に変色し始めた。彼の身体を構成するスペシウム133はヒトとの融合時には急激に消耗する。ただでさえ技を連発した上、こうも一方的な戦いでは肉体の維持さえ困難だ。
(何か……手はないのか……?)
ウルトラマンという超常の力を持ってなお。皆に背を押され、ここまで喰らいついて来てなお。宇宙禍威獣との戦力差はあまりにも遠い。神永新二は。帰ってきたウルトラマンは、このまま何も成せず、禍威獣の餌食になってしまうのだろうか――?
※ ※ ※
「浅見……おまえ、正気か?」
「他に、即効性のある手段はありますか?」
外星人エックスが落としたもうひとつのリモコン。ひとつはギドラを操作するものとすれば、もうひとつがなんであるかは考えなくたって解る。レバー式だった前者と違い、こちらはボタンのオン・オフで起動するようだ。ユニバーサルデザインというやつか。ヒトの姿で生活するなら不自由はないが。
「だからって、あれがウルトラマンの味方をするとは限らないんだぞ」
外星人ならともかく、ヒトと禍威獣との間に会話が成立した事例はない。そもそも、自分たちはあれを排斥しようとしていたのだ。よしんば聞いてもらえたとして、助力してもらえる可能性は万に一つもない。
「ですが。『敵』に対し、攻撃を仕掛けてきたのは確かです」
浅見は、真っ当な田村の返しに事実を持って切り返す。
「米軍が産み出したベムラー、海軍……。ゴジラに攻撃を加えた者は、その報いとばかりに破壊されてきました。確かに、神永さんの味方にはならないかも知れません。けど」
「あれ程の巨体が、ゴジラを放っておくとは限らない……という訳か」
敵の敵は味方。少なくとも、禍威獣一強の状態は崩せる。こちらの手にどうこうできる状態じゃないなら、互いにぶつけて共倒れを狙う。
「班長。イチかバチかもう一枚、張ってみませんか」
浅見は真剣な面持ちで右手を差し出し、現場責任者にGOを求める。即断即決を信条とした禍特対専従班班長は、数秒の逡巡の後、出された手を握り返した。
「いいだろう。俺も、彼『ら』を信じる」
田村は即座に電話を取り出し、宗像室長に連絡。事の次第を説明し、お伺いを立てる。
『――事情は解った』宗像もまた、しばらく逡巡した後、他に手はないと半ば諦め。『内に潰されるか外に滅ぼされるかの違いか。ならばまだこの星の問題で済んだ方が気持ちは良い』
何より、今自分の座す霞が関近辺でウルトラマンが戦っている。ひとりの人間として、危機に際し再び体を張ってくれた彼に応えたい。
『――事務処理は任せろ。現場はお前たちに任せる』
「了解です」
電話を切り、だそうだと伝え、ゴーサインが遂に出た。浅見はリモコンのボタンに指を乗せ、ごくんとつばを飲み込む。
「怖いか」
「いえ、そんなことは」
なれど、押し込むというただ一つ動作に至れない。神永を、ウルトラマンを救うためとはいえ、その彼すら持て余す禍威獣を再び自由にしてしまうのだ。まともな人間の神経では決断しきれまい。
だからこそ、班長の田村は彼女の指に自分の指を重ね。
「班長……?」
「気に病むことはない。この場にいて止めなかった俺も同罪だ」
さあ、行くぞ。
ふたりは覚悟を決め、一息の後にスイッチを押し込んだ。
遠く羽田空港のすぐ近く。海上で立ち往生をしていたゴジラの身体から、全身に走る赤の鎖が外れてゆく。最早、かの禍威獣を縛り付けるものは何もない。
※ ※ ※
(駄目だ……身体を……維持……できない)
緑の侵食は腹部から胸部に達し、抵抗する力さえ無くなってゆく。送り込まれているだけでなく『吸収』されているのか、腕を十字に組んでなお、かの光波熱線は発動しない。
手立てを探せば探すほど、神永に伸し掛かる『打つ手無し』という事実。現場で抗う彼ですら、この現実に屈してしまわんとした、まさにその時。
(な……なんだ……!?)
視界の総てが青白い閃光に覆われ、そこからワンテンポ後、自身を拘束していたギドラの首が急に緩む。ウルトラマンはこの隙を逃すまいと蹴りを入れ、横回転を伴って着地する。
だが、何故今になって? あの閃光は何だったのか。彼の抱く疑問は、背後に響く重々しい足音が解決してくれた。
『GUORRRRRR……ROARRRRR!!!!』
自分たちの遥か後方、品川近辺に『それ』はいた。
火山岩のようにごつごつとした皮膚に、その隙間から漏れ出す赤紫の光。ギドラとほぼ同等の巨体に長い尻尾。何を考えているのかわからない怖ろしい目つき。ついさっきまで、羽田空港近辺で拘束されていた筈の禍威獣第九号ゴジラ。奴が上陸し、雄叫びを上げて迫って来ている!