シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ   作:イマジンカイザー(かり)

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たった一つの冴えたやり方

 

※ ※ ※

 

(ギドラがいなくなったものな。あとは僕を狙うしかない)

 先程まで肩を並べ戦っていた禍威獣ゴジラが、こちらを睨み唸り声を上げている。奴にとってはギドラも自分も等しく自身の歩みを止めるものでしかない。加えて、奴は『協力』してくれていた訳でもない。被害が街に及ばぬよう、気を回し注意を向け続けただけだ。

 ウルトラマンは改めて己を見やる。核エネルギーを起点とするあの強化は未だ残っている。このまま正面切って打ち合えば、斃すことも出来なくはないだろう。

(それも時間さえあれば、の話だが……)

 神永には分かっていた。元気の前借りはさっきの光波熱線で底を尽き、後は下ってゆくだけだと。対するゴジラは今尚健在。持久戦を持ち掛けたところで一分と持つまい。

(だからと言って、逃げる訳にもゆかない)

 自分が背負うのは都心に住まう約1400万人の人々だ。いま自分が背を向ければ、ゴジラは躊躇いなく彼らの営みを蹂躪することだろう。

(あぁそうだ、そうだとも。成せばなる。成さねばならぬ、何事も)

 これは、力を手にした者の責務だ。誰にも肩代わりさせられない。神永は弱い自分を心中で律し、眼前の脅威に抗うことを決める。

(さぁ、来い!)

 残りどれだけ持つか分からないその状態で、ウルトラマンはゴジラ目掛けて駆け出した。たとえその身を犠牲にしたとしても、この騒乱をここで終わらせてみせる!

 

※ ※ ※

 

「ウルトラマン、禍威獣に突撃……」

「無茶だ! もう、時間がない!」

 たとえ言葉を発せなくとも、禍特対の面々にもこの行動が蛮勇のそれであることは理解できた。彼が動かなければ都が、日本が滅ぶ。だからこそ彼は、どれだけ満身創痍であろうとその足を止められない。

「神永さん……。私たち、こんなこと、望んでない。望んでないわ」

「どうして、彼にばかり……こんな……」

 他に手はない。たとえ対戦ヘリや戦車隊が間に合ったとして、ゴジラ相手に人類が無力なのは米国が証明した通りだ。むしろ下手な攻撃は気を散らし、戦場に立つ彼の邪魔になる。故に、彼ら禍特対の面々は眼前で起こるこの光景を、ただ指を咥えて見ていることしか出来ないのだ。

 

 

「本当に……そうでしょうか」

 誰もが悲壮感を漂わせ見守る中、船縁だけが普段と同じトーンで言葉を紡ぐ。一足先に液晶画面に映る『違和感』を見つけたからだ。彼だけに総てを押し付けたと嘆く彼らは、ゴジラに立ちはだかるウルトラマンが、捨て鉢になったと思いこんでいたのだ。

 

「船縁さん。どういうことなの」

「神永さんはヤケになんてなってないみたいですよ。観てください、彼の『手』を」

 そう言われ、小さな画面を三人で凝視。誰もが単に握り拳を作っていると思い込んでいた。言われるまで気付かなかった。彼は、ウルトラマンは、右の手に何か、棒状のものを握っているではないか。

 

※ ※ ※

 

『GUORRRRRR……』

 ゴジラの身体を走る赤のラインが紫に変色し、口内に熱核エネルギーが集束されてゆく。熱線放射まで秒読みスタート。逃げることも、躱すことも許されない。かと言って、正々堂々打ち合って、相殺出来る力もない。

 それでもなお、駆けるその足が止まることはない。大丈夫、なんとかなる。してみせる。祈りのように心中でそう呟き、今まさに熱線を放たんとするゴジラの身体にしがみついた。

 かのパワーアップでなんとか喰らいついているが、親と子ほどの体格差に変わりはない。遠ざけたいのならば力不足だ。

『R……OARRRRR!!!!』

 背びれが物々しい輝きを放ち、遂に口内から熱線が解き放たれた。都に住む人々が諦めから目を伏せたその瞬間、ウルトラマンは右手に握った『それ』のスイッチを素早く二度押し込んだ。

 

(と、ど、け、ぇええええええ)

 夜空を染める紫の輝きと、突如現れた目映い真紅の輝きが混ざり合う。悍ましい色同士が渦を巻いて拮抗し、光ばかりが拡散してゆく。もう、誰も目を開けて視てなどいられない。夜の空を昼よりも明るく照らすその輝きは、十数秒で破砕した。

 それはまるで、後の祭りと呼ぶに相応しい光景だった。絢爛たるビル群はどれも斜めにそり立ち、アスファルトはぐしゃぐしゃに抉れ、たくさんの車がビルの上階に突っ込んでいる。

 そこに、これらを形作った者たちの姿は無い。ゴジラもウルトラマンも、まるで元から居なかったかのように東京の街から忽然と消え失せた。

 

 

※ ※ ※

 

「ベーターカプセルの二度点火、プランクブレーンの開放……」

「ゴジラを、こことは別の次元に押し出した……?」

 この異常事態を、彼ら禍特対は驚くほど冷静に受け止めていた。ベーターカプセルを二度点火し、発生した異次元(プランクブレーン)に対象を押し込む。ゼットンを斃すために、滝ら人類が頭脳を結集し、導き出した計算式。スケールこそ違えど、やったことはその延長線上のものだ。

「でも、なんで神永さんが」

「今、彼は”どちら”なんだ?」

 だが、その計算式を教えたのはウルトラマン”だった”頃の神永だ。「そうでない」神永にはこのことを話していない。『彼』があの戦いから戻ってきた時、彼は元の神永に戻り、”ウルトラマン”は消えていた。だとしたら、今の神永新二は一体何者なのか。

 

「彼が、教えてくれたんですよ」

 

 液晶画面を見て困惑を浮かべる禍特対の面々に、外部から声をかける者がひとり。

 ウルトラマンになった男・神永新二。彼が傷一つなく、なれど左足を引きずりながら、仲間たちの元へと歩を進めている。

 

「神永!?」

「神永さん!?」

「えっ、えっ? プランクブレーンは、ゴジラは?! どうして神永さんだけ!?」

 戻ってきた同僚に、仲間たちは目を白黒とさせワッと言葉を浴びせかける。

「もう手が無いと、諦めかけていたところに、”彼”の言葉が響いてきたんです」なれど、神永は皆のことなどお構いなしと、自身の言葉を更に続け。「恐れることはない。答えならもうあると。だから、一か八か賭けに出ました。ゴジラが熱線というエネルギーを解放するその瞬間に、このチカラすべてを集中させて」

 そう話す神永の言葉は早口で、どこか取り留めの無いように聞こえる。理由は直ぐに解った。そこが限界だった。一世一代の賭けに勝ち、命からがら仲間の元に戻った神永は、役目は終えたとばかり、まるで糸の切れた人形めいて崩れ落ちた。

 

「神永さん!? 待って! 死んじゃ嫌!」

「落ち着いてください浅見さん、息はしてます。ヒトの身体でウルトラマンに成ったフィードバック、しかもあんな反則技で締めたんですから……」

「とにかく! 救急車! 救急車を呼んでくれ、早く!」

 東京の街に自衛隊のヘリが到着し、シェルターや地下鉄に潜んでいた避難民が少しずつ外界に戻り始めている。抉れかえったアスファルトの上を、車たちがピープー音を鳴らしながら無理矢理に駆けてゆく。

 ウルトラマンが苦心して押し留めたとはいえ、地価、風評被害、これから数えられるであろう逃げ遅れの人数――。被害総額の試算は想像もつかない。

 すべてはこれからだ。喜びも悲しみも、怒りも嘆きも発奮も。きっと全部この先必要になる。

 この国はスクラップアンドビルドで成り上がってきた。きっとこのままじゃ終わらない。日本は。ここに住まう人々は、こんなことではへこたれない。

 




これまでご覧いただきありがとうございました。
たぶん、次回のエピローグを描いて完結です。
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