シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ   作:イマジンカイザー(かり)

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来たのは誰だ

 

「ベーターシステム試作第一号、点火までカウントダウン開始します」

 大戸島の中心地に向け、網目のように張り巡らされたパイプラインが熱を帯び、島周囲の外気を二度上昇させる。物々しい轟音が地表を揺らし、そこを根城としていた魚や海鳥たちが危険を察して飛び去ってゆく。

『それ』が何を意味するのか。人類だけが知らないのだ。いや、気付かないふりをしているのか。これから生物としてワンランク上に進む彼らにとって、多少の『予兆』は些細な問題であった。

 

「点火まで五、四、三、二、一……」

 エネルギー充填率百二十パーセント。遠く離れ赤の光を見守る研究者たちが、更にその奥に控える軍人たちにお伺いを立てる。結果は応。サングラス着用の旨が放送によって伝達されてゆく。

 最早それを止める者はいない。研究者たちはごくんとつばを飲み込み、カプセルに閉じ込められた『モルモット』に別れを告げる。

 

「ベーターシステム、点火!」

 

 押し留められていた電流が中心部の一極に集まり、渦を巻いた真紅の目映い輝きが島全体を覆い尽くす。

 この場に居た誰もが眩しさに目を瞑り、減光処理を施していたビデオカメラだけが『決定的瞬間』を目撃していた。

 モルモットをそこに閉じ込めていた強化ガラスが音を立てて砕け、その後順々に外側のガラスが『内側』から次々と割れてゆく。急激に質量を増やしゆく"それ"を、そこに留め置くことが出来ないからだ。

 

「成功――、成功です! ベムラー、規定数値まで巨大化に成功!」

 体長六十センチの実験動物が、たった数秒で六十メートルまで一気に膨れ上がった。膨張したというが、見た目にはなんら変化はない。ウルトラマンをイメージした赤と白の毛色に、ひくひくとさせる鼻。餌を求めて顔を右往左往させる様。金切り音のように周囲に反響するぷいぷい声。サイズ感が異なるが、どれもモルモットのそれだ。

 実際に生物が質量を倍化させると、質量の増加に骨の強度がついてゆかず、自重で潰れ死に至る。ないし、筋肉の質量が質量に対し足りなくなるため、まともに動くことさえかなわない。『巨大化』という浪漫にこれまで人類が手を付けなかったのは、そうした理由に依るものが大きい。

「スペシウム133、成分分析開始」

「やった……やったぞ。あとはこの元素構造を解析さえ出来れば」

 だが、ウルトラマンの身体を構成していた超重元素・スペシウム133を用いたベーターシステムにはそうした制約が無い。被検体モルモット・ベムラーは巨大化した己に疑問を持つことなく、急に狭くなった"ケージ"の中でぷいぷいと鳴き続けている。

 ベムラーの脊髄付近には、データ収集兼行動制御用のマイクロチップが埋め込まれている。巨大化という異常事態を経てもなお、逃げることなく半透明のドームの中に留まっているのはその為だ。

 

「嘘でしょ!? 本当に成功させちゃった……」

「職場でよく見たモルモットちゃんですが、この大きさになると……コワいですねぇ……」

 禍特対の面々も遠巻きにその様子を眺め、人類の技術発展の瞬間に目を剥いていた。技術供与があったからとはいえ、独力でそれを成し遂げた地球の頭脳たち。かつて外星人ザラブはウルトラマンに対し彼らホモ・サピエンスの危険性を訴えかけていた。それもまた一理あるのかも知れない。

 

「滝。お前どこを見てるんだ?」

 研究者や報道機関が歓喜の声を上げる中、滝明久の興味はベムラーではなく持参したノートパソコンの方に向いていた。彼はこの技術を最初に授けられた人間だ。その結果に興味がなくてもしようがないとも言えるが――。

「班長。観てください。ベムラーの更に向こう。海上数キロのこの地点」

「モニタ……」田村は促され、哨戒レーダーのリアルタイム画像に目をやる。「確かにヘンだ。なんで、『紅い』んだ?」

「しかもこの反応。ベーターシステム点火とほぼ同じタイミングで現れました。偶然だと思いますか」

 蒼い海に朱色のインクをこぼしたようについた『朱』のマーカー。見間違いと思いたかったが、それはほんの少しずつ大きくなり、その周囲で不気味に渦を巻いている。

「必然だな」それを傍で観ていた神永が即座に断言する。「滝、データを開発スタッフに共有。班長、我々も独自の警戒態勢を取るべきかと」

「あぁ。禍特対諸君、仕事だ。総員第一種警戒態勢!」

 だが、既に手遅れであった。田村が手を叩き、呆けた職員に喝を入れたその瞬間。紅く染まったレーダー状の染みが海を割り、その雄々しき姿を衆目に晒す。

 

「な……なんだ!? なんだ!?」

「大戸島近辺海上に巨大不明生物反応! この瞬間、現れましたッ!」

 海上哨戒中のドローンから、その瞬間の映像が中枢研究セクションに届く。あの朱は沸騰の証か。尋常ならない熱により、海水が瞬間的に千度近くまで沸騰している。

 

「ま、まさか……アレって……」

「今更、どうしてこんな時に」

 赤熱した海水が瘤めいて隆起し、水が弾け、そこに隠れた存在があらわとなる。

 溶岩めいて黒々とした体表。ごつごつとした皮膚組織。その合間合間に亀裂が走り朱のラインが縦横無尽に引かれた異形。

 彼ら禍特対は奴を知っている。いや、日本人ならばその殆どがその名前を識っている。この国が禍威獣大国になったその発端、当時の自衛隊が死力を尽くして討ち果たした最初の脅威。

 

「ゴメス……。なんで、ゴメスがここに!?」

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