シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ   作:イマジンカイザー(かり)

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Q:米国って設定のはずなのに、みんな日本語で喋ってませんか?


A:空想と浪漫です。





禍威獣第九号・『』

 

『テレビを御覧の皆様、あの異様が見えますでしょうか。世紀の実験を行うこの大戸島海上に、突如禍威獣が出現しました! 』

 

 溶岩めいてごつごつとした体表。その節々から縦横無尽に駆け巡る朱のライン。波しぶきを上げて舞い上がる長い尻尾。どれもこれも、かつて日本を騒がせた巨大不明生物、ゴメスの特徴と合致している。

「待ってください。ゴメス……。あれ、本当にゴメスですか?!」

 誰もそうであると信じて疑わない中、禍特対所属の生物学者・船縁由美がただ一人異を唱えた。長らく禍威獣と関わっていた彼女は、モニタ越しであっても微妙な『違和感』に気付いていた。

「この画像と見比べてください。額の角、胸部・腹部の体毛。奴にはそのどちらもありません」

 第一印象に歪められ、そうだと思いこむことは往々にしてあり得ることだ。禍特対メンバーは船縁の端末に保存された画像とカメラ映像とを見比べ、その差異を理解する。

 

「それに……」船縁の目は映像ではなく実際に奴が現れた海岸に向かう。大津波で周囲に築かれた防波堤ブロックを根こそぎ流し、今まさに大戸島への第一歩を踏み出す瞬間であった。

「私達の識るゴメスは六十メートルほどでした。目算ですが、あれは既に百メートル近くあります」

 大戸島は海辺から彼らの座す研究区画まで多少勾配のある丘を登って行かなくてはならない。あの禍威獣は上陸直後からその不気味な頭を地平線の向こうに晒している。六十メートル級ではありえない事態だ。

 

「好都合だ」

 もたらされた情報が研究チームに行き渡り、研究者らが慌てふためく中、軍事顧問らしいヒゲを蓄えた男性が、ニイと口元を吊り上げそう呟く。

「我々の技術力が試される時が来た。禍威獣に勝てなくて何がベーターシステムだ。やってやろうじゃないか」

「顧問。一体何を」

「ベムラーに下命せよ。あの敵性大型生物を斃せとな。あれはウルトラマンと同じカラダぞ。何を恐れることがある」

 

「班長。あんなことを言っていますが」

「まったく。米国サマはお気楽なことで」

 国土を目の敵にされたことがないからそんなことを言えるのだ。浅見と田村は彼らの決定を傍で聞き、危機意識の薄さにため息を一つ。

「あちらの名誉がどうあれ、研究者たちはすぐにこの場を離れてもらいましょう」

「ですね。あの巨体、たとえ斃せたとしてサンプルやデータは吹っ飛ぶでしょうし」

 幸か不幸か、ベーターシステムで巨大化した人間がどれだけ強固な存在なのかのデータはある。同じ体表を持ったウルトラマンがネロンガやガボラといった禍威獣を相手に傷一つ付かなかったのも事実だ。

 ならば米国の面子を潰すだけのオピニオンはこちらには無い。退去を促し、お手並み拝見。外様たる彼ら禍特対に出来ることはそれしかない。

 

「ベムラー、攻撃態勢に入りました」

「よろしい。奴を海中に追い返せ」

 マイクロチップから脊椎に興奮作用が発せられ、モルモットの目に闘志が宿る。毛が逆立ち、固い前歯をかちかちと摺り合わす。

「突撃!」

 半透明のドームが左右に開き、いきりたつモルモットが解き放たれた。短い前後の脚で道を塞ぐ岩石や廃屋を荒々しく踏み鳴らし、今まさに海岸へ上がった禍威獣の元へ駆けてゆく。

 

「ベムラー、突貫!」

 四つ足で地面が陥没するほど地を蹴って、モルモットの身体が弾丸めいて飛んだ。狙い澄まし放たれた文字通りの肉弾は、禍威獣の腹部に突き刺さり、奴を海岸から水まで押し戻す。かの禍威獣はゴスと違い、体格の割に腕がほっそりとしており、腹に刺さったこのモルモットに触れることさえ出来ていない。

「良し、行けるぞ」

「行けベムラー、そのまま畳みかけろッ」

 スペシウム133で強化されたその体は、タックル程度ではびくともしない。やつも所詮はでくの坊。ゴメスが何だ。デカいのが何だ。こちらはベーターシステムを掌握したのだ。何を恐れることがある。

「ベムラー、錐揉み回転!」

「行ける……行けますっ、奴め為す術もありません」

 米国の軍人や科学者たちは勝利を確信し、拳を突き上げ歓喜の声を上げる。だが、ここがピークであった。海に押し戻されつつあるこの禍威獣は、錐揉みで皮膚を削られながらも、身体の内側でメキメキと不可思議な音を立て続けていた。

 

「なんだ……? 何が起こった?!」

「ああ、そんな! ベムラー!」

 それはまるで、蛹の羽化を早回しで見ているかの如し。ほっそりとしていた禍威獣の腕に筋繊維がまとわり付き、あっという間に丸太のように太い腕が生成されてゆく。

「退避、退避だッ」

「駄目です。抑え込まれました!」

 攻めている間は完全に無防備。勢い込んで禍威獣を海に追いやらんとしていたモルモットは、逆に両腰部をがっちりと掴まれ、尋常ならざる圧力を押し付けられている。

「ああ、あぁ……ベムラー……!」

「こんなことが、あり得ない!」

 圧を受け、上下に伸びたセンベイと化したモルモットは、閾値(いきち)を超えてその頂点から紅い輝きを噴き出した。瞬間、空気の抜けた風船めいてスペシウム133に支えられた身体がしぼんでゆく。

 ばん、と禍威獣が掌を突き合わせた。六十メートルの巨体はもうどこにも無く、小さな小さな素体モルモットが指の間をすり抜けて落下し、荒れ狂う波に攫われていった。

 

「こんな……馬鹿な……」

「この周辺海域には、今の今までクジラ一匹、イルカ一匹いなかったと言うのに……」

 あの高揚は何処へ行ったのか。米国研究員、軍関係者の誰もが口をつぐみ項垂れている。きょうこの島は人類革新の第一歩となる筈であった。事実実験は成功し、十分なデータが集まるはずであった。その結果がこれだ。あれは何だ。ゴメスでないなら何だ。我々は一体、何にやられたというのだ!

 

「『呉爾羅』」

 米側の重苦しい空気も物ともせず、ひとりキーボードを叩いてデータ検索を行っていた船縁が声を上げる。

「やっぱりあれはゴメスじゃなかった。見てください、大戸島に古くから伝わる伝説。海より現れ、気まぐれに嵐の如き災禍を起こし人々を襲う海神呉爾羅。黒々とした皮膚にギョロッとした目。身体中に引かれた燃えるような赤の荒縄。特徴が合致しています」

 船縁が皆に見せたのは、千年近く前に記されたとされる古文書の一頁だ。墨と血で荒々しく書き殴ったそれは、今目の前に居る禍威獣の姿と一致する。

「禍威獣第九号、海神・呉爾羅(ゴジラ)か……」

 田村班長は液晶画面と今目の前に映るそれとを見比べ、苦々しくそう呟いた。

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