シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
『――中継で確認したよ。これまた、厄介な事案だな』
「現在即応策を検討中です。しばしお待ちを」
『――急いでくれよ。ただでさえ島民百五十二人の反感を買ってるんだ。ここから火が付き、反米に結びつくと大変なことになる』
禍特対の総元締め、宗像龍彦室長は霞が関の自身のオフィスから、中継映像を見やり、苦々しく電話口の田村にそう告げる。
『――しかし呉爾羅。ゴジラねえ。防災大臣は命名が出来ず悔しがるだろうな』
「でしょうね」
当たり障りのない会話で締め、田村は再び現場に戻る。禍威獣ゴジラは再び大戸島に上陸し、ゆっくりとベーターシステムの方へと向かって来ている。
「皆さん落ち着いて、ゆっくりと進んでください!」
「VTOLの数には余裕があります。慌てずに次を待ってください」
まるで平日ラッシュ時の都営線のような賑わいだ。研究員たちが資料の束を抱え、我先と飛行機に乗り込んでゆく。
「ゴジラは何故また島に向かって来てるんでしょう? ベムラーから上がってくるなと攻撃を受けたというのに」
「敵対するベムラーがいなくなり、それでもなおというのなら、ベーターシステムを狙ってるんじゃないですか?」
対して、常日頃禍威獣災害対策に追われる禍特対は冷静そのもの。退避は米科学者優先とはいえ、ゴジラが迫るその中でもキーボードを叩き、善後策への意見を出し合っている。
「狙いがベータシステムなら電源を切るのが先決だ。滝、電源を切れ」
「了解です」
外様だった滝が、こんな状況の時だけ駆り出され、無茶振りを任される。なれど滝に不平不満をこぼす様子はない。それが彼らの仕事だからだ。
「これ、相当複雑に入り組んでます。完全に消えるまで五分はかかるかと」
「五分か……」田村は迫るゴジラと装置、そして飛び立つ多発機群を交互に見やり。「時間が無い。我々も直ぐにここを離れるぞ」
「了解」
班長の決定に異を唱えるメンバーもいない。逃がすべき米の面々は既に空の上。国際問題になるかも知れないが、彼らに研究まで守り通す義理はない。
「待ってください班長……これと、これを……」
滝は脱出のついでと周囲のパソコンを探り、ハードディスク・ドライブをニ・三掴み、そのまま禍特対専用機に乗り込む。
「全員搭乗しました。お願いします」
あとは発進するだけ、だったのだが――。
「どうしたんですか。何故」
「無理です。震動で、スラストレバーが上がりませんッ」
覚悟を以て仕事に臨んだその姿勢が仇となったか。離陸出来ず迫るゴジラから逃げられない。
「まずい……!」
このままでは全員奴に踏まれてお陀仏だ。神永新二はシートベルトを外し、機外に飛び出した。
「待って神永さん、何を!」
「自分がベーターシステムを操作し、奴の注意を引きます。班長、その内に離陸を」
地響きが離陸を阻害するほどの距離だ。それが如何ほどの時間稼ぎになると言うのか。なれど神永は止まらない。機に留まり怯えているのもまた無駄以外の何物でもないからだ。
「無茶です神永さん! 戻って!」
「ゴジラが! ゴジラが来るっ」
女性陣の発言を右から左に流し、滝がシャットダウンしかけた装置を再びオンラインへ切り替える。
「く……っ!!」
装置の外郭を壊し、遂にゴジラがベーターシステム区画の中に乗り込んで来た。等しく総てを見下すその瞳は、どんな意思を宿しているのか全く判断できない。
「神永さん!!」
「神永、逃げろぉ!」
ゴジラはもう目と鼻の先。そんな叫びなど無駄だと分かっている。神永自身も何も出来ずただ見上げる事しかできなかった。
(これは……?)
窮地に立たされた神永は殆ど無意識に、スーツの胸ポケットに手を入れていた。どうにか出来ると? 彼はもういないというのに!
「え」
結果的にはそれが最適解となったのだが。訳のわからない衝動に駆られた神永は、彼から託されたベーターカプセルを『点火』。瞬間、朱の光と共に虚空に大穴が開き、巨大な拳がゴジラ目掛けて放たれた。
「今のは、一体……」
完全に不意を突かれたゴジラは、この一撃を喰って体勢を崩し、横倒しになって周囲の岩や土を爆ぜ飛ばしながら落下。再び海まで押し戻された。対して拳はどうか。完全に伸び切った赤と銀の腕は役目を終えたと共に泡と消え、虚空の大穴も即座に塞がった。
("彼"、なのか?)
ベーターカプセルに灯った朱の光は既に輝きを失い消えていた。同時に、オンラインのシステムは音を立てて寸断され、一斉にオフラインに変わってゆく。
「神永、何を呆けている!」
「乗ってください! 発進できます!」
ゴジラが大戸島から投げ出され、ようやく離陸の準備が整った。神永は困惑を抱えながらも班長らの檄を受け、駆け足で機内に乗り込んでゆく。
「どうしてあんな無茶したの! 貴方独り残ったってどうにか出来る状況じゃなかったでしょ!?」
「悪かったとは思っている」
戻った神永を待っていたのは蒼い顔をした浅見からの叱責だった。彼はそれを平と流しながら、右手に握ったベーターカプセルに目を向ける。
(さっきのは、夢か何かか……?)
あの瞬間、これは確かに『起動』した。今の今まで、研究機関に託されてなお一度も作動しなかったのに何故。出来ると感じたから? そんな根性論モドキで動くなら苦労はないし、
「班長、見てください! ゴジラが!」
多発機が島を離れ、危険域を脱したその瞬間。窓に張り付いていた船縁が裏返った声で叫ぶ。
殴り飛ばされ海に没したゴジラもまた、体勢を立て直しており、既にその半身を海水に沈め、沖へ向かって進んでいた。待てよ海水? ベーターシステムは島にある。奴の狙いはそれじゃないのか?
「まずい……まずいですよこれ」
膝の上にノートパソコンを載せ、ゴジラの様子を伺っていた滝は、深刻そうな声で話題に乗る。
「前提が間違っていたのかも知れません。あくまでベーターシステムが桁違いなだけで、奴を誘引するのはもっと別」
「別?」田村班長が問う。「つまり、何だ」
「ベーターシステムが消えた瞬間、奴は海に向かって動き出しました。恐らくゴジラは『エネルギー』の無い場所には興味がないんです。このまま直線状に進んだ先に何があると思いますか」
滝はモニタ上の日本地図を縮小し、ゴジラの予想進行ルートを指し示す。大戸島は東京都特別区の離島だ。エネルギーを求め動く禍威獣が次に向かう場所はただ一つ。
「『東京都心』……! 上陸して一切合切破壊しようっていうのか、ゴジラ……」