シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
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『爆撃機、作戦可能空域に到着』
『同じく第八艦隊、東京湾に現着』
ゴジラが大戸島から海へと渡り、東京都心を目指し移動を開始してから間もなく三十分。命からがら逃げ帰った米の軍人らは横須賀・厚木の基地に迎撃を要請。米が誇る海・空の精鋭がこの地点に集結することになった。
「いやはや、普段傍観の立場の米軍が、まさか日本のために出動してくれるとは」
「日本のため、じゃないわ」船縁の言葉を、浅見が即座に訂正する。「あれは向こうの面子の問題。完璧な筈の計画に入り込んだ唯一のノイズ。他国に先駆けたプレゼンテーションの場を潰されたのだから、斃して体面を保ちたいってだけよ」
米の研究班から少し遅れ、大戸島から脱出した禍特対の面々は、物騒な武装とゴジラがかち合う様を見、他人事のようにそうぼやく。
ベーターシステムの原理がもたらされてから半年、世界は冷戦時代に逆戻りしたかのような開発競争に突入し、各国がしのぎを削っていた。結果レースの一番乗りを果たしたのがアメリカだ。実験の成否はそのまま世界への示威に繋がる。
この失態はゴジラの姿と共に全世界に実況生中継されてしまった。恥を濯がねば、アメリカという国の威信に関わるからだ。
「舐められたら殺すじゃないですけれど、米軍マジで本気っぽいですね」同じ画面で五つほどの作業を並行でこなしつつ、滝が彼女たちの言葉に乗っかる。「使用兵器の詳細来てます。発破用のD-03削岩弾五十、硬芯徹甲短距離巡行ミサイル百基、それにこれ……。絶対零度砲《アブソリュート・ゼロ》を積んだ軍艦ですって。ベーターシステムの次は新型兵器の実験かよって」
マイナスを取り戻すという意味ではこれ以上なくポジティブか。それを領海内でされる日本国はたまったものではないが。
「効果があると思うか?」田村は滝のモニタを覗き見つつ。「ゴメス事案の時は、自衛隊の総力を結集して排除できたが」
「エビデンスが少ないので何とも。体長はゴメスのほぼ倍。ベータ―システムに干渉し、握り潰せるほどの握力を持っている。僕たちが知っているのはそれだけですから」
「始まるぞ」ひとり、変わらずガラス越しに外を見ていた神永が無感情にそう呟く。「どう転ぶであれ、我々も早く陸に上がりましょう。フレンドリーファイアの可能性があります」
「そう、だな」あんなことがあったのに、神永はいつも通りの怜悧な顔か。何一つ動揺する素振りのない彼を見て、田村は心中そう独り言ちた。
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『D-03、発射!』
『発射!』
戦闘機群がゴジラを間合いに捉えた。搭載された弾頭を敵の下半身目掛けて解き放つ。
初弾十がゴジラの両脚に接地。取り付いた弾頭は内包された錐揉みドリルを展開。硬い固い表皮を貫き突き進む。
『D-03効果あり。ゴジラ、表皮から出血を確認』
百メートル強の巨体からすれば、多少蚊が刺したくらいのものではあるが。赤熱するゴジラの血液が零れ落ち、海水を瞬間的に湯立たせる。
『行けるぞ。『フルメタル・ミサイル』、発射!』
『発射!』
機がターンを描き射程を離れたその瞬間、甲板の砲塔から鈍色の弾頭がゴジラ目掛け放たれた。的がこれだけ近ければ外しようがない。ぎっちりと質量の詰まった弾頭が、ゴジラの腕や腹に突き刺さった。
ガボラ事案の後、米国が日本に売り付けるため開発した次世代の硬芯徹甲弾、通称『フルメタル・ミサイル』。爆薬の類は無く、純度の高い合金を敷き詰めた運動エネルギーミサイルであり、一発で厚さ十メートルの鉄筋コンクリートを二十枚貫通させられるだけの威力を誇る。
『フルメタル・ミサイル、全弾命中!』
『図体がデカくとも所詮は生物。表皮を貫くこの攻撃には耐えられまい!』
そう。
「滅茶苦茶でしょ、これ……」
モニタで米の攻撃を観察していた船縁は、ゴジラのサーモスキャナーを目に困惑の溜息を漏らす。
「どうした船縁」
「米国も可哀想に。これ、通常兵器でどうこうって話じゃ無さそうです」
船縁の感じた疑念は、遠く米艦隊司令部にも伝わっていた。尤も、彼らは同じデータを観ているだけではあるのだが。
『どういうことだ、これは』
『フルメタル・ミサイルが、効いてない……?』
D-03の時は着弾と共に表皮が剥がれ、赤熱した血液が流れていた。しかし今回は違う。どれだけ多くを撃ち込もうと、ゴジラは何のアクションも起こさない。
「見てくださいこれ。右が五分前。左がいま。硬い表皮が柔い皮膚に変質しています」
ぶよん、という音とともに、挿し込まれたミサイルが水面に次々落ちてゆく。穴の開いた箇所は即座に肉で埋められ、傷らしい傷は何処にもない。
「どういうことだ船縁」
「今はまだ仮説でしかないのですが」話す彼女も混乱した様子で言葉を返し。「定向進化、もしくは成長。削岩弾で表皮に穴を開けて来ると理解したから、自らを柔い身体に作り変え、無力化しようとしたのだと思います」
「定向進化って」滝が即座に話に乗る。「攻撃が始まってまだ何分ですか。幾ら何でも早すぎますよ」
「そう、『早すぎる』」船縁は大真面目な顔で首肯し、「ほんと、常識ハズレの禍威獣だわ。我々人類や原生生物とは適応力がダンチなんでしょう。このまま『学習』させ続けたら、それこそ何も通じなくなる」
『我々の攻撃がまるで通じないとは』
船縁の疑念と同じところに至ったか定かではないが、米側司令部にも緊張が走る。即断即決はリーダーの特権だ。彼は無数の勲章が付いた帽子を被り直すと、部下らに無線にて檄を飛ばす。
『絶対零度砲《アブソリュート・ゼロ》準備。今より他船舶は速やかにその場から退避せよ!』
下命を受け、甲板の実に半分を占める超巨大砲塔を載せた戦艦が、ゴジラの前に立ちはだかった。砲は既に充填体勢に入っており、蒼色の輝きが大型合成ダイヤモンドの砲口に集束されてゆく。
『奴を氷漬けにしてやれ! アブソリュート・ゼロ! 発射ぁ!』
直径十メートルほどに収縮された蒼の輝きが、砲塔からゴジラ目掛け解き放たれた。艦の舳先が、直線を進むその軌跡が、南極の氷めいた足場を生成していく。
マイナス273.1の冷気を光弾として放つ米の新兵器。船の動力総てを犠牲にする金食い虫だが、そうするだけの価値はある。
『アブソリュート・ゼロ、命中!』
『目標、凍結を確認!』
着弾したゴジラの体が瞬時に固まり、その周囲の海水に美しい氷華を形作った。如何に柔軟な身体とて、絶対零度の一撃には耐えられまい。
「やばいです……ヤバいやつですよこれ」
だが、傍でそれを見守る禍特対は誰一人として安心していなかった。氷結し、動きを止めたその中で。ゴジラのサーモグラフが真っ赤に染まっていたからだ。
「ゴジラの体内に高エネルギー反応……。ガボラの時と同じパターン……」
「じょ。ジョーダンでしょ!?」滝が素っ頓狂な声を上げ。「マジで? まじで来るの?!」
「でも、たぶんそういう事よ、これ」船縁が頭を掻いて嘆息し。「来るわよ、たぶん。だってそうとしか考えられないもの」
『なんだ……何が起こっている!?』
『表面温度急激に上昇! 一体、何をするつもりなんだ……?』
氷漬けにされたゴジラの胸部が紅く発光し、冷え固まった身体に亀裂が走る。氷結が長く保たないのは誰の目にも明らかだった。凍っていたはずの表皮はぱらぱらとめくれ、湯気となって消えてゆく。
――GRR……AGGGAAAAAA!!!!!!
胸から順に首、頭と氷結が溶け、自由になったと同時に、腹の底に響くような恐ろしい叫び声を上げる。何かの威嚇か? 否、既に威嚇で済むフェーズではない。不揃いの背びれがストロボめいた発光を繰り返し、ゴジラの喉元に『なにか』が集束し始める。
ゴジラの目が黒い瞬膜に覆われ、開いた大口がコブラめいて左右に割れた。そこから数えてほぼ二秒後。ゴジラの口内からどす黒い煙が噴き出し、それを起点に炎が着火。奴の体長を遥かに超えるバーナーへと変貌する。
『ひ、火!?』
『火が! ああ、火が!』
無論狙いは敵艦隊。噴き出した火を甲板に放射し、右端の戦艦から順に焼いていく。焼かれて機能不全に陥った『だけ』の船は幸いだ。炎は徐々に範囲を狭めて引き絞り、紫色の光線へと形を変えた。
『メーデー! メーデー! メーデー!!!!』
それはまるで、何でも焼き切るレーザーバーナーのよう。光線の前には如何な装甲も用をなさず、動力源を撃ち抜かれて大破炎上。再起動まで残り五分を控え、静かにその時を待っていた旗艦は、無用の長物と化したアブソリュート・ゼロと共に爆破。残る船は陣形を崩し、各々がパニックの中逃げ惑うが、最早たどる運命は皆同じであろう。
面目を保つどころか、恥の上塗りとなった訳だが、それを責める国はどこにもあるまい。アメリカの最先端戦力ですら留め置くことさえ出来なかった前代未聞の禍威獣。世界はモニタ越しにこの恐怖を目の当たりにすることとなった。
「あの。こんな時に何ですが」
滝は、この惨状に蒼い顔をしつつも、現実逃避のように持論を述べる。
「米軍の見立ては間違ってなかった。あの時、大戸島には生物と言う生物が近寄れなかったのは確かです。さっき接収したデータがそれを裏付けてます」
「じゃあ、アレはなんだって言うの」なんとなく、先が読めて来た気がする。浅見ははっきりとした解を求め、滝に疑問をぶつけた。
「僕たちは『彼』からもたらされた式を基にベーターシステムを作り上げました。彼が知る範囲のね。『彼』は自身の本体をプランクブレーンに隠し、ベーターカプセル点火すると共に、それをこの世界に一瞬現出させていた――」
「だから、それが……?」
「米は功を焦るあまり、『完璧に』トレースしてしまったんです。起動とともにプランクブレーンを開き、こことは違う異世界を開いてしまった……」
完全に僕の仮説ですけど、と彼は言う。だが、それを否定するものは誰もいなかった。否定できるわけがない。こんな事ができる禍威獣など、この世界には存在しないのだから。
「じゃあ、何か?」田村が驚いた顔で問う。「ゴジラは、我々が異世界から、呼び寄せた……と」