シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ   作:イマジンカイザー(かり)

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弱肉強食

 

※ ※ ※

 

「また外星人案件か?」

「ええ。総理と話がしたい。それまで交渉の席につくつもりはないと」

 首都東京の政治的中心地・霞が関。内閣総理大臣の大隈は既知の官僚や護衛の黒服たちらに連れ添われ、建物前に待機していた乗用車に乗り込んだ。

 車は日比谷から銀座に向かい高速道へ。海沿いをひた走る中、大熊は東京湾にちらと目をやる。

「あの禍威獣をたったひとりで抑えつける技術力……。末恐ろしいものだ」

 ゴジラが羽田空港直前で活動を停止してからまもなく四時間。夕暮れ時の茜色が空の彼方に染め始め、推定百二十メートルの巨体を不気味に際立たせる。俗世への馴染み具合はまるで、昔からそこにあったようにさえ思える。ゴジラの拘束に伴い、米が決めていた核攻撃も棚上げとなった。

 たとえ危険な存在であっても、四時間も動かないのであれば『もう大丈夫』と普段通りの活動に戻ってしまうのがこの国だ。その精神性が幾度となく襲来する禍威獣災害という危機を経てなお、国という『カタチ』を保っていられる理由なのだが、あれは駆除された訳ではない。その証拠に、今なお奴に目を向けると、目玉だけがギョロリとこちらに目線を返してくる。もしまだ動き出したとなれば――。考えるだけでもおそろしい。

 だからこそ、向こうの求めに応じ、官邸を出た訳なのだが。大隈総理はただでさえ深い目元の皺を寄せ、うんざりと溜め息を一つ。

「冗談だと思いたいがね。まさか、家族サービス以外でこんなところに寄ることになるとは」

「堅苦しい場は嫌いなのでしょう。いいじゃないですか、無礼講ってことで」

 などと、いい加減なことを宣ったのは防災大臣の小室だ。そういう飄々とした性格故に設立から今まで庁の長に居る訳だが、流石にこれは無神経すぎた。睨みの効いた大隈の目を見、『失言でした』と頭を下げる。

 尤も、冗談だと思いたいのはここにいる誰もが同じ思いなのだが。総理ら官僚を載せた数台の車は、『浦安ネズミーランド』の正門前で停車し、律儀に入場券を買い込んだ。

 

『やあ諸君。随分と遅かったじゃあないか。お蔭でしっかり堪能させてもらったが』

 アトラクション群やすれ違う人々の奇異の声には目もくれず、指定されたシンデレラ城前フードコートにスーツ姿の男女が集う。

『はじめまして日本国首相とその取り巻き共。俺様が、お前たちの言うところの、『外星人・エックス』だ』

 ドリンクを片手に逆立った黒髪の上からネズミーマウスのカチューシャを無理矢理被った、黒尽くめのそれはそれは怪しい男の姿がそこにあった。

 

 

※ ※ ※

 

「あのエックスって外星人、どうにもいけ好かないのよね」

「そりゃあ、ここに居る誰もが同じ思いだろ」

 政府の面々が外星人と接触したその最中。彼をネズミーランドまで送り届けた禍特対の面々はランドの外苑に機を降ろし、下命もなく手持ち無沙汰にしていた。

 浅見は自分たちが外されたことに憤慨し、田村と神永は周囲の警戒。船縁はゴジラとパソコンとを見比べ、滝は誰とも話さず、ひたすら自らのパソコンに向かい、『何か』をし続けている。

『お前達小物に用はない。総理とやらに取り次げ』。彼はそう吐き捨て、ネズミーランドの人の波の中へと消えた。

「なーんか距離感掴みにくい外星人ですよねえ」船縁は気怠げに嘆息しながらそう呟く。「本当にネズミーが好きなのか、政府間交渉という行為自体を馬鹿にしてるのか」

「まあ、順当に考えればランド丸ごと人質に取るってことだろうな」神永はどこを見るでもなくぼんやりとそう話し。「だが、それだけとも思えない。このパフォーマンス自体がなにかのカモフラージュだとしたら」

「それ、たぶんファクトです」船縁が空を仰ぎ、神永にそう告げる。「見てください。あそこだと……多摩川近辺でしょうか」

 船縁の言葉に、滝を除く全員が空を見た。どうして今このタイミングまで気付かなかったのか。青く、内側で発光する巨大な『風船』が、東京の空に浮いていたというのに!

 

※ ※ ※

 

「それで……今回はどのようなご用向きで」

 何も知らない人間が見たらどんなバラエティ番組の撮影かと困惑するだろう。フードコートを黒服たちがぐるりと囲んで封鎖をかけ、その中ではネズミ耳の星人男性を囲い、日本国総理が低姿勢で彼に話し掛けているこの絵面。とてもこの国の情勢を左右する会議の場とは思えまい。

 

『"恩と奉公"、この国の人間はその価値観を大事にしているそうだな』外星人はドリンクに口を付け、ふてぶてしい態度でそう返す。『あのデカブツ……ゴジラとか言ったな。あれをあそこに釘付けにしてやったのは俺だ。お蔭でお前たちは今もこうしてのうのうと生きていられる』

「話が見えて来ませんが……」大隈総理は引きつった笑みで続きを促す。

『それを踏まえて』エックスは口に含んだ唾を足元に吐き出す。ドリンクを着色していた緑色だけが綺麗に分解されていた。

『我々の種族は生存の為、"ミトコンドリア"を定期的に摂取し続けなければならない。だが我らの棲む天体では、ミトコンドリアを含んだ生物は非常に少ない』

 そこへ来て、お前たちはどうだ? バイザー越しにニヤリと笑い、彼は総理ら官僚たちにそう問い掛ける。

『星間協定に批准した星はむやみやたらな侵略行為が許されない。何かあれば"裁定者"が我が同胞を根絶やしにするだろう。それは困る。非常に困る』

 エックスはドリンクの蓋を開け、中の氷を残らず口に放り込むと。

『そこで恩と奉公だ。俺はお前達を危機から救った。それに対し見返りを要求する。まず手付けとして五百。年間で百。どこの国からでもいい。どんな人種・年齢だって構わん。生きた人間を俺たちに引き渡せ』

 

 侵略行為は許されないんじゃなかったのか。これが侵略じゃなくて何だというのか。ここに居る誰もがそう思い、口に出せず息を呑む。見返り。あれだけのことをやってのける外星人だ。相応の条件を提示するとは思っていたが……。

「もし。もしですよ」官僚たちが押し黙る中、いち早く声を上げたのは大隈だ。「私たちが首を横に振った場合は」

『聞いてどうなる。お前らは解き放たれたゴジラによって滅びるのみ。無益な結末だ』

 無益。彼は無感情にそう切り捨て、テーブルに置いておいたチュロスを齧る。

『顔が暗いな。何を迷うことがある。この星には六十億の人間が居るのだろう。そこから三桁の人間が減ったところで大した違いはあるまい』

 数字にしてみればそうだ。この星に棲まう六十億。家族や顔なじみ、顔見知りなんてその中の一割にも満たない。それでゴジラ被害を防ぐことが出来るなら――。

 

『あぁ、そうだ。俺はこう見えて忙しい。回答を持ち帰るなんて真似は止めろよ。今、この場で答えを出せ』

 

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