シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
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「なによあれ、いつからあそこに!?」
「多摩川半径二十キロの住民に避難勧告! 自衛隊に出動要請!」
今の今まで、あそこにあったのは夕暮れ時の茜色だった。そこに絵の具で足したかのように置かれた青の風船。内側で明滅を繰り返し、今も少しずつ膨張を続けている。
「分析の結果はどうだ」
「今すぐ何かしようって訳じゃ無さそうですが、内部に高エネルギー反応が認められます。そういう質量兵器か、禍威獣なのか……現時点ではなんとも」
船縁は手元のパソコンと空とを見比べそう話す。一方の滝は仕事に参加せず、今もなおパソコンのキーボードを一心不乱に叩き続けている。
「外星人め……一体何を企んでいる……!」
交渉のテーブルから外された禍特対に出来ることはそう多くない。田村はぎりりと唇を噛み締め、この騒ぎの張本人がいるであろうランド内部を睨んだ。
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『さっさと答えろ。早くスプラッシュマウンテンに並ばねばならんのだ。俺の貴重な時間を無駄にするな』
意図せずしてこの国の代表……、いやこの世界の代表としてイエス・ノーを言わなくてはならないこの局面。大隈総理は胃が裏返るような思いで何も言えず押し黙っていた。
イエスならこの世界の見知らぬ誰かを無作為に差し出すことを容認。ノーならばこの国はゴジラという未曾有の脅威に蹂躙されて終わり。政治家生命なんてものにすがるつもりはない。禍威獣災害で揺れるこの国で、ここ数年この役職から外されない事自体が奇跡だ。
「う……う……む。ひとつ、ひとつだけ宜しいでしょうか」
今までにないプレッシャーの中、大隈が喉の奥から無理矢理に絞り出したのは、否定でも肯定でもなく、新たな質問であった。
『何だ。手短にな』
「貴方は我々人類からミトコンドリアを採取すると話されていましたが、奪われたらどうなりますか?」
彼は禍威獣が次々現れる日本国の総理大臣だ。多少なりとも化学の知識は持っている。そんな彼がわざわざそんなことを尋ねる理由は何か。苦し紛れの時間稼ぎか? 否、総理は怯えた顔つきのその裏で、エックスの様子をじっと窺っていた。
『アー……』外星人は額に人差し指を当て、暫し考える。語彙が堪能とはいえ、星を別にする他天体からの来訪者だ。適当な言葉を自身のデータベースから探しているのだろう。
『逆に聞くが』エックスはバイザー越しに大隈を無感情に見。『お前達は屠殺場の牛や豚にそんなことを尋ねるのか?』
「そうですか」大隈は震える右手を左手で無理矢理留め、多少の間を置き、意を決して口を開く。「今回のご提案、我が国の答えは『ノー』です」
『何……!?』外星人の眉根が不快そうに吊り上がる。
「確かにゴジラは怖い。だが、我々はその恐怖に怯え、外星人の言いなりに見知らぬ誰かを犠牲にするのは人道に反します」
『オイ。オイオイオイオイオイ。お前は国を預かる立場だろう。勝手に総意を気取っていいのか?』
「構いません」最早、大隈の言葉に揺らぎはない。「他の国の首長に話しても無駄ですよ。貴方のような存在にヒトを売る者はいない」
「そして何より」大隈は精一杯険しい顔付きを作り、テーブルから身を乗り出して。「我々は、貴方がたの家畜ではない」
『どうやら。双方に思い違いがあるようだ』
決定的な拒絶を受けたにも関わらず、エックスの顔は冷静沈着。いや、それを通り越し冷淡とでも言うべきか。今の今まで存在していた嫌味な態度が消え失せた。
『ゴジラ程度の脅威ならなんとかなる。だから高圧的な態度には屈しない。お前たちの考えてることはそんなところだろう』
エックスはコートのポケットから小型のコントローラーめいたものを取り出すと。
『"他知的生物への干渉は生物兵器を以てのみ"――。星間協定に批准した星のルールだ。俺が、偶然に頼ってこんな要求を通すと思っていたのか? 甘く見られたものだ』
「総理。交渉中失礼します」
ここに居るのとは別の取り巻きが大隈の元で立て膝をつき、耳打ちをする。彼はこの外星人の言うことがハッタリでないことを知り、顔を引き攣らせた。
『自分たちは家畜じゃない? 違う、違う。お前たちはとっくに家畜だ。そのことを身を持って理解しろ』
外星人は手にしたコントローラーのレバーをぐいと引き上げる。ずっと遠くで何かが弾ける音がして、ずしん、という地鳴りが響く。
『我が星の他天体制圧兵器・ギドラだ。考えが変わったら館内放送で呼び出してくれ。俺はしばらくランドで遊んでいるからな』
※ ※ ※
「青色の球体、崩壊! 落下します、」
外星人がレバーを押し込んだのと時を同じくし。青く輝く風船めいた物体は幾重もの亀裂を発して破裂。『中のもの』が武蔵小杉近辺に落下する。
「球体……二足歩行状の形態に変化……」
夕暮れ時の茜色をその身に受けて、首をもたげる巨大なる異形。ワニめいた顔付きに白骨を思わせる外郭。その奥に走る黒の筋繊維。長い尻尾が周囲の車を撥ね飛ばし、悍ましい雄叫びが街に轟く。
これが外星人エックスの侵略兵器・ギドラか。