新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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第二章
第十一話『世界の反応』


 中央世界のエモール王国は、竜人族という希少な種族が集まって建国した、竜人族の国である。

 故に、世界の竜人族のほとんどがこの国に集まった。その結果、強大な軍事力を保有するまでに至り、人口が100万人程度なのにも関わらず、列強に名を連ねている。

 竜都ドラグスマキラは、エモール王国の首都である。天然の要塞であるアクセン山脈から湧き出る大河の近くに位置し、人口のほとんどがここに集まっているのだ。

 

 さて、エモール王国では『空間の占い』という儀式が行われている。国に影響のある重要事項の有無を調べ、早期に障害を排除することを目的としている。

 その的中率は98.4%という驚異の数値を誇り、占いというよりは予知に近い。

 この占いには竜王ワグドラグーンなどの国の重役が集まっている。予知の内容が内容ならば、国際情勢すらも動かしかねない、重大な儀式であった。

 

「──空間の神々に許しを請い、これより未来を見る」

 

 空間の占い師アレースルの両手に、他の魔導士達から集めた魔力が宿り、淡い赤色の光を灯す。ドーム城の天井に星の様なものが映し出されると、アレースルは空間の占いを開始した。

 

「──なっ!そ……そんな!!……そんな馬鹿な!!」

「なんだ!?何が見えたというのか!?」

 

 アレースルの狼狽を受け、竜王ワグドラグーンら国の重役達も焦りを見せる。

 

「……魔帝」

「なっ!?」

「なんだとぉ!?」

「み、見間違いではないのか!?」

 

 突然出てきた、世界で最も恐れられるべき帝国の名前が出され、占い師達も重役達も大きく狼狽する。

 

「古の魔法帝国……彼の国がもうじき姿を現す」

「な、なんと……なんという事だ!」

「奴らが復活するのか!?」

 

 恐ろしき魔法帝国は、かつて世界を支配し様々な種族たちへ不幸をもたらした忌むべき存在、全世界の敵なのだ。

 エルフ族を「肉が美味いから」という理由で食い荒らし、亜人族を「下等生物だから」という理由で狩尽くし、人間族を「使えないから」という理由で虐殺していった、真に傲慢で横暴な種族たちであったのだ。

 彼ら竜人族もその被害に遭い、「皮が日用品に使えるから」という理由だけで存続の危機に遭い、戦争にまで発展した。戦いは熾烈を極めたが、結局コア魔法などの駆使により魔法帝国に膝を折る結果となってしまったのだ。

 

「……奴らは間も無く……おそらく数年のうちに姿を現し、この世界に不幸が訪れるであろう……

「そんな!奴らがまた復活するなどと……」

「だが、占いの結果は確実だ。荒唐無稽と侮るでない!」

 

 重役たちが狼狽を起こすが、空間の占いの結果として出ているので荒唐無稽と侮れず、恐れが伝染する。

 

「して……我が国を含め、世界のすべての種族は再び奴らに膝を折ることになるのか?どうなのか?」

 

 ワグドラグーンも額に汗を流しているが、平常を保って問いただす。

 

「否、読めぬ……未来は不確定なり」

「ふ、不確定だと!?一体どういうことだ?」

 

 未来が読めないことは、今まで一度もなかった。周囲は恐怖心と困惑に顔を歪め、狼狽する。

 

「言葉の通り、未来は強い光と闇に包まれていて読めぬ……」

「そうか……なら、奴らが復活しそうな場所はわかるか?いつごろ復活するのだ?」

 

 ワグドラグーンは一縷の手がかりすら逃すまいと、真剣な表情で尋ねる。アレースルは更なる未来を覗くために、強く集中する。

 

「ム……ヌゥゥゥゥ……ハッ!!」

 

 両手の赤い光がますます強く輝き、周囲の魔導士達も口を歪める。相当な負荷が掛かっているのが、周りからも見てとれた。

 

「西……奴らは、西に復活するであろう……西の、ムー大陸よりも西側である……!」

「西側か!他には!?」

「奴らの……その奴らは……血の滴る赤い丸を携えた国旗の国を携えてくる……新たな名前を携え、その名前は……!」

 

 そこまで未来を見たところで、アレースルは口から血を吐き、その場に倒れてしまった。

 

「なっ!?」

「アレースル殿!」

 

 慌てて救護担当の魔導士たちが駆けつけ、アレースルを治療し始めた。彼の容体は魔力を使いすぎたために起きた過労の様であり、魔導士たちは体力回復の魔法で治療する。

 

「なんと……アレースル殿が未来が読めぬまま力尽きるとは……」

 

 ワグドラグーンはかつてない出来事と結果に冷や汗を流しつつも、すぐさま冷静さを取り戻し、傍の重役たちに指示を出す。

 

「すぐさま魔帝について対策を取るのだ!ムー大陸より西側の国は全て警戒対象とし、国交を断絶せよ!それから、赤丸の国の正体を突き止めるのだ!」

「ははっ!仰せのままに!!」

 

 この年の空間の占いは波乱を生んで終わった。彼らはこの占いを完全に信じきっているが、彼らは誰もこの占いの正しさを疑わなかった。

 今年の占いは間違ってはない。間違ってはないのだが、空間が非常に歪んで先行きが見通せなくなっていたこともあり、とんでもない誤解が生まれてしまったことを……

 誰も考えはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 第二文明圏の列強であるムー連邦は、魔法文明が主体となっているこの世界において、ほぼ唯一と言っていい科学文明の国家であった。

 

「な、何だこれは……?」

 

 情報分析官にして技術士官であるマイラスは、レイフォルが戦ったとされ、そのレイフォルを滅ぼしたともされる「ニホン」という国の陸上兵器、『10式戦車』を捉えた魔導写真を見て絶句していた。

 その陸戦兵器は、バルクルス要塞の戦いにおいて諜報員が撮影してきたのであるが、設計思想から運用方法に至るまでムーにとっては謎だらけであった。

 まずこの兵器は車輪を伴わない特殊な駆動方式で機動している。一応言うならば、ムーで開発が進んでいる塹壕突破用の『無限軌道』と呼ばれる駆動方式だ。

 それで構成された巨大な車体の上に回転式の砲塔と大砲を携えている。大砲自体の長さが長大で車体の数倍に匹敵していることから、おそらくカノン砲であろう。だが、問題はその口径であった。

 

「周りの人間から逆算して、砲の大きさは105mm以上……うちの重カノン砲よりデカイじゃないか!」

 

 しかもそれだけではない。この兵器は時速70km以上で前進し、圧倒的な機動力を見せ付けたと言う。

 これだけのデカブツがそんな自動車以上の機動力を見せるなんて信じ難いが、報告書を疑うことはしないマイラスは、大真面目にそれを捉えていた。

 もし本当だとして、問題はそれを行うためのエンジン出力である。

 車体だけでも数十トンはありそうな物なのに、それにさらに重カノン砲を取り付け、重たい装置を伴う砲塔まで取り付けるとなると、その重量は50tは行くのではないか?と予想される。

 それを時速数十キロで移動させるには、無限軌道への動力伝達におよそ2000〜3000馬力が必要である。とんでもない大出力だ。

 そんな大出力を出せるのは、ムーの水準では重油エンジンくらいしかない。そしてムーには、この大きさの車両にその重油エンジンを収める技術がない。

 

「まるで陸上戦艦じゃないか……」

 

 マイラスはこの超兵器の分析を終え、悔しいようにため息をついた。

 なお、防御力については見る機会がなかったのか報告がなかったが、これだけ巨大ならば装甲も重圧だと予想される。

 もし重装甲ならば、要求されるエンジン出力はますます上がっていく。この車両に対抗するどころか、エンジン技術だけでも数百年は遅れているのではないか?とも考えられる、圧倒的な差がそこにあった。

 

「どうしろってんだ……こんな国がいきなり隣に現れるなんて……」

 

 マイラスは見比べるのに疲れてしまい、写真を投げ広げて背もたれに寄りかかった。木製の椅子から僅かに軋む音が聞こえ、誰もいない部屋に響く。

 ふと、マイラスは自分の傍にもう一つの封筒があるのに気がついた。封筒のタイトルには同じくニホン国の情報についてが記されており、こちらはどうやらレイフォリアで捉えられた艦艇の写真らしい。

 マイラスはその封筒をペーパーナイフで切り取り開封し、中から写真を取り出してみる。

 

「これは……空母なのか?」

 

 写真に写っていたのは、全長が数百メートルはあろう巨大な航空母艦の写真だった。鋼鉄製の船のようで、艦名は「ろなるど・れーがん」と言うらしい。

 問題はその大きさであり、周りの建物と比較すると小島もかくやの大きさをしており、搭載している航空機から甲板の広さも伺えた。

 だが、その写真には不自然な部分があった。その巨大な空母に対して、護衛艦が貧弱すぎることだ。

 

「これは……護衛艦なのか?なんでこんなに小さいんだ?」

 

 これだけ巨大な空母を建造する技術があるなら、当然護衛の船も巨大で武装を多数搭載した強力な艦艇であるはずだ。

 だがこれらの護衛艦は空母に比べて小さすぎる。別の角度で撮られた護衛艦のアップ写真を見ても、護衛艦は空母に比べて明らかに小さく武装も貧弱だ。

 何せ、大砲が一門しかついていない。よほど命中精度に自信があるのか、単に大砲の値段が高すぎて一門しか搭載できないのか。

 いや、もしそうだとしたらあれだけ巨大な空母を建造、維持する能力はどこから来たのだろうか。矛盾は深まるばかりだ。

 

「よくわかんないなぁ……グラ・バルカス帝国の時は分かりやすかったのに」

 

 グラ・バルカス帝国がコンタクトを取ってきた時は、彼らは重巡洋艦という艦種でやって来たのであるが、その時の海軍の衝撃は計り知れなかった。

 何せ彼らが外交船として持ち出した「タウルス級重巡洋艦」は全長が200m以上と、巡洋艦の癖してムー海軍の最新鋭戦艦であるラ・カサミ級戦艦よりもさらに巨大だった。

 それでいてさらに武装も装甲も超強力であったことから、「巡洋艦レベルでこれなら、戦艦クラスになるとミリシアル帝国海軍でもない限り太刀打ちできない」とムー海軍上層部は結論付けていた。

 それほど分かりやすく力の差を見せつけられたが、ニホン国に関しては疑問が残る形でそれ以上の分析ができなかった。

 

「マイラス、夜食持ってきたぞ」

 

 と、背後の扉が開かれる音がしてマイラスは椅子に直り、背後を振り返った。

 

「ああ、ラッサンか。毎度毎度すまんな……」

「いいって。お前に体壊されては、親友の俺が困る」

 

 そう言ってサンドイッチを持ってきたのは、マイラスの親友で同じ情報通信部の戦術士官であるラッサン・デヴリン中尉だ。

 夜間にも関わらず情報収集を行うマイラスを労ってか、いつもこの様に夜食を持ってきてくれる。マイラスはそれに感謝しつつ、サンドイッチを頬張った。

 

「美味いっ、やっぱり持つべきものは友達だな!」

「俺をコック扱いするな……にしても、コレはレイフォルで撮られた写真か?」

「ああ、俺も分析したものをまとめているんだが……いまいちよく分からない部分もあってな。ラッサンはどう思う?」

 

 マイラスが例の陸上戦艦と護衛艦の写真を見せて、ラッサンがそれを見比べてみる。ラッサンはしばらく唸って、同じくサンドイッチを片手に写真を隅々まで見て調べようとする。

 

「これ、この陸上のデカブツの方はなんとなく運用方法がわかる気がする」

「どんなのだ?」

「やっぱり、歩兵の盾として運用するんじゃないか?これだけデカくて無限軌道を持っているなら塹壕まで超えられそうだし、途中の機関銃陣地だって弾丸を受け止めて、大砲で吹き飛ばすことができる。やっぱり歩兵支援用としか考えられないね」

「やっぱりか……俺も歩兵支援用の兵器だと思っていた。実際にそんな風に運用されていたらしいからな」

「陸上戦艦は分かりやすくていいな。問題は……こっちの護衛艦の方か」

 

 ラッサンは護衛艦の写真を見て考える。

 

「なんだこれ……こんなに大型の船体なのに主砲が一門しかない。大砲は沢山ないとまともに運用できないのに……」

「やっぱり、ラッサンから見てもチグハグに見えるか?」

「ああ、設計思想がまるで分からん。それにこの主砲の後ろのスペース……写真がぼやけてて分からんが、このスペースさえあればもっと沢山の主砲を搭載できそうなものなんだが……何故それをしないんだ?」

 

 流石の彼でも何も思いつかなかったのか、頭を掻きむしるまでに至り、ラッサンは両手を上げた。

 

「量産したいが為にコストを抑えたのか……それともこの程度しか作れないのか……」

「うーん、技術的ハードルではないと思うんだよな。陸上戦艦を作るくらいだし、船体もラ・カサミ級よりも大型だし……」

「陸上戦艦を持ってる癖して、海がこの程度だとすると……元は陸軍国だったのか?」

「いや、そんな情報はなかった。むしろ島国だったらしいから、本当に訳がわからないんだ……」

 

 マイラスの分析はさらに続くが、あまりに情報とその内容が荒唐無稽な為、ニホン国に関する調査は難航していた。

 

 

 

 

 

 中央世界、世界最強の国家「神聖ミリシアル帝国」。

 この国の名前が表に出て来れば、誰もが恐怖し恐れ慄くであろう。この国は中央世界、第一文明圏における長の立場を欲しいままにし、名実ともにムーを抜いて世界最強の国家の称号を受けている。

 そのミリシアルを支えているのは世界で最も先進的な魔法技術、国の基礎を安定して支える近代的な政治体制、そして広大な国土と物資や資源の量産化であった。この国は他の文明国や列強国と比べても、頭ひとつ抜けており国力の優位は揺るがない。

 そんなミリシアル帝国の帝都ルーンポリスにある外務省の建物の一室にて、二人の男が会談をしていた。

 

「──しかしまあ、第二文明圏の二大巨頭の片割れであるレイフォル国が、完敗するとはな」

 

 外務省統括官リアージュは、情報局長のアルネウスに対してそう語った。アルネウスもその言葉に同意し、言葉を返す。

 

「ええ、私も未だに信じられません。日本国という国……どういう国なのか、早急に調査を行うべきだと思います」

「待て待てアルネウス君。……君は情報局長だから日本について情報を集めたいのはわかる。だが……」

 

 そう言ってリアージュは立ち上がり、背後にあるこの世界の地図を見て、レイフォルを指差した。

 

「レイフォルなど所詮は列強最弱だ。我が国の魔導艦隊を駆使すれば吹けば飛ぶような存在……それを撃破したとて、なんの影響がある?」

「問題はあります。既に日本国はパガンダ、レイフォルにおいて食糧資源の徴発を進めており、現地では大規模な餓死者が出ています」

「それで?」

「その先が問題なんです」

 

 アルネウスはパガンダやレイフォルの事を放っておき、改めて言葉を続ける。

 

「第二文明圏のムーが、随分と警戒しているようでして、情報収集に躍起になっているのです。既に彼らの使う兵器について、写真を手に入れた様でして……」

「……あのムー連邦が?」

「はい。我々は日本国の情報に関して、ムー連邦に一歩遅れているのです。世界最強の国家として、情報で遅れるのは良くないのでは?」

 

 アルネウスはそう言って面子を盾にリアージュを説得しようとするが、彼にはあまり響かなかったのか、溜息を吐いて席に戻った。

 

「……やめたまえ。面子で動くのはらしくないし、意味もない」

「ですが……」

「それに、ムー連邦と我々では事情が違う。彼の国は日本国と国境を接したのだから、警戒するのは当たり前だ。この話はここまでだ」

「っ…………」

 

 ミリシアルは、面子で何かをする様な小さい国ではない。そんなのは三流国家であるパーパルディアなどの悪癖であり、ミリシアルはそれを克服しているのだ。同じ列強国に情報で抜かされたからと言って、ムキになることなどしないのだ。

 それを説得されて、アルネウスは反論を言うことができずに口を塞がれた。アルネウスもそれ以上説得はせず、口を噤んだ。

 

「それより……この二つ目の報告書だが、グラ・バルカス帝国がムー国内で諜報活動を行なっているのは、本当なのかね?」

「ええ。ムーと接触する前から、何かしらの方法でスパイを送り込んで諜報活動を行なっているようでして……しかし、何を行なっているのか全く分からないのですよ」

 

 アルネウスが言うのは、最近第三文明圏で頭角を表しているグラ・バルカス帝国の諜報活動についてである。

 グラ・バルカス帝国に対しては、ミリシアル帝国は自身に匹敵する国力を持っていることから、世界一位の称号すらも揺るがしかねない強国だと認識されていた。

 そのためミリシアルはグラ・バルカス帝国の活動を注視しており、ほんの些細なことでも見逃さなかった。

 

「グラ・バルカス帝国の活動は注視しておけ。あの国は、我が国の地位すらも揺るがしかねない……我々もムーに諜報員を派遣し、彼の国の行っていることを調査してみろ」

「はい、了解いたしました」

 

 そう言ってアルネウスは報告書を持って立ち去り、リアージュの部屋を一礼して扉を閉じた。

 

「全く……次から次へと訳のわからん国が出てきたものだ」

 

 そう言ってリアージュは頬杖をつき、魔力タバコの束に手を出して、それに火を付けた。魔力タバコの苦い香りだけが、その部屋に充満した。

 




ちなみに今作でもムーは連邦制。
私の中でムーは多数の構成国から成り立つ連邦国家の扱い。
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