新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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今回は皆様お待ちかねのグラ・バルカス帝国の反応集です。


第十三話『東にある帝国』

ムー連邦南東部 カロッシュ州

 

 南東部、商業都市マイカルなどが存在するエリアを一括りにしたここカロッシュ州は、かねて昔より貿易の通行路として栄えていた。

 第二文明圏を通る船は、例え他の文明圏からの船であろうとほとんどがこの港を通り、他の地方の港へ行き着くルートを通る、いわゆる中継地点に当たる州である。

 そのため商業都市マイカルから少し離れたとしても、商業や製造業などが盛んな街が多い。立派な工業地帯である。

 さてそんなカロッシュ州のとある商会にて、エルフと人間のハーフらしきムー人が、堀の深い顔立ちをした人間種と商談を行なっていた。

 

「すまないマキマ、今後はグラ・バルカスからの輸出入は少なくなるかもしれねぇ」

「おいおいどうしたってんだ?冗談はよしとくれよー」

 

 グラ・バルカスからこの地に商人として出張していた商人は冗談めかしく笑って見せるが、途端に顔色が暗くなるムー商人を見て何かを察した。

 

「何があったって言うんだ………?」

 

 グラ・バルカスの商人がそう聞くと、ムー商人は頭を抱えながら理由を話し始めた。

 

「どうやら政府が、今後はグラ・バルカスから、ある新興国家からの輸入に大幅に切り替えるって話らしい」

「その新興国家ってのは………?」

「レイフォルが滅びたって話は聞いてるな?」

「あぁ、噂程度には」

「そのレイフォルを潰した、ニホンって国が、格安で我が国に輸出を持ちかけたらしい。それも、おたくらグラ・バルカスよりも性能がいいらしい精密機械類だ。こっちも関税で対抗してるが、まるで割に合ってないって工場長から聞いてる」

 

 どうやら話によるところ、ここ数ヶ月の間でムー政府はそのニホンという国の製品を格安で輸入し始めたらしい。

 ただそれだけなら、関税で対抗するなり平等な貿易手段はあるのだが、あまりに格安で高性能な品質のため、グラ・バルカス製品やムー製品と言った他国の機械製品を駆逐し始めたのだ。

 確かに思えば兆候はあった。ニホンの噂は聞いていたし、最近になって製品の売り上げが悪くなっていたので、ちょうどそれを聞きたかったのだ。まさか、その理由をムー商人から聞かされることになるとは思わなかったが。

 

「おいおい、それって大丈夫なのかよ……?」

「大丈夫な訳あるもんか!現にうちの国の会社や工場は物が売れなくなって頭が上がらなくなっちまってる!」

 

 ムー商人は現状を憂えるように、大声で不満を露わにした。

 

「政府にとっちゃ、ニホンに高値で食料を売り付けて、格安で機械やら車やらが買えると思い込んでるらしいが、実際はニホンに対する依存度がますます上がってるだけだ!誰も現状を理解しちゃいねぇ!!」

 

 ムー商人の剣幕に押されるが、話を聞く限りでは確かに彼に同情できた。

 グラ・バルカスとムーの交易は、ある意味で平等だった。グラ・バルカス製品とは確かに技術的格差はあったが、圧倒的というほどではなく、ムーも努力すれば追いつけるレベルである。そのためグラ・バルカスの会社はムーの製造業者と契約し、ある程度の技術提供を行ったり、一部のライセンス生産を許可していた。

 だが聞くところによると、ニホンとの差は圧倒的すぎて何も対抗手段がないとのことだ。一応、ニホンはノックダウン生産や修理工場にムー人を雇っているらしいが、結局会社自体はニホン人が牛耳っているので、ムーの製造業は困窮しているらしい。

 

「……ここだけの話なんだが、労働者層を中心にかなり不満が募っているんだ。いまここカロッシュ州や、ランガ共和国と言った西部や北部の構成国や州の一部が、反乱を企ててるって話もある」

「へぇ、反乱ねぇ………」

 

 グラ・バルカスの商人は、その反乱という言葉に少し興味を示す。ムー商人は気づいていないが、彼には裏の顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国本国 帝都ラグナ

戦略情報局本部

 

 遥か東の帝国、グラ・バルカス帝国。この国はロデニウス大陸におけるロウリア王国による侵略戦争を鎮圧したロデニウス戦役が起こって以来、第三文明圏のみならず第二文明圏や中央世界でも何かと注目されている国だ。

 そのグラ・バルカス帝国の本国、帝都ラグナに存在する戦略情報局の幹部であるバミダルは、帰還した商人兼諜報員の報告を聞いて頭を抱えていた。

 

「……と、言うことがありまして、今後ムーでの取引は暗礁に乗り上げるかもしれません」

「うーむ……まさかムーが良いように言いくるめられるとはな……」

 

 ムーでの取引は、グラ・バルカスにとっても蜜月であった。グラ・バルカスからしてみれば同じ科学文明国家ということで良き輸出相手であり、程よい稼ぎ市場である。

 ムーから見てもグラ・バルカスは技術の向上につながる条件を提示してくれる、国の成長に欠かせない国であった。

 だがそれもムー政府が方針を変えた事で関係が崩れ、今までのお互いの利益が無くなってしまった。結局のところムー政府は、お互いの信頼よりも商売の利益を優先していたという事であり、悲しいが裏切られた感覚だ。

 

「独自に調査した所によりますと、どうやらミリシアル相手の方でも似たような事案になってきておりまして……ムーの西方シフトによって、食料他様々な輸出入が減少傾向にあると」

「魔法文明のミリシアルならまだダメージは少ないだろうが……今までムーで利益上げてた連中にとっては大打撃だろうな」

「はい、そうなんです。石油関係で将来性が見込まれていたアルタラス王国ですら彼らは見限っており、アルタラス政府も激しく困惑しているとの事です」

 

 ムー連邦は今まではムーから見て東側の国に対して投資を行っていた。

 第三文明圏のアルタラス王国も例外ではなく、石油や魔石などの資源国家としての将来性が見込まれ空港の建設まで行われていたのだが、今回の西方シフトの影響で契約は暗礁に乗り上げることになるだろう。

 

「まあ、アルタラスに関しては代わりに我々が頂けば良い話だな。既に話は通してあるのだろう?」

「はい、既にアルタラス王国政府とは話を始めております。クイラ王国との取引でも石油は十分補えますが、予備のルートも確保する必要がありますからね」

「よろしい。では問題は、我々を弾いたニホンに関してだな。同じ機械文明で我々の製品を淘汰するとは、相当な製品を作る国だと見て取れる。何か情報はないのか?」

 

 バミダルと部下は頷き、その新たな商売敵に関してを精査する。だが日本に関する情報は、戦略情報局も掴みきれていなかった。

 

「それが……ニホンに関しては情報が少なく、"レイフォルを圧倒的海軍力で滅ぼした"という結果しか分かっていない状況になります。一応、彼らの海軍に関してはムー連邦首都オタハイトに巡洋艦を派遣した際に撮影された写真があります」

 

 バミダルはオタハイトで撮影されたミサイル巡洋艦〈シャイロー〉の写真を見て、しばらく唸って考え込む。不自然な船体と武装は、グラ・バルカス帝国人には理解し難い。

 

「これは……重巡か?だが武装は単装砲二門だけなのか?」

「はい、他に目立つパーツなどがありましたがそれが武装かどうかは……単装砲も120mmクラスと思われ、この立派な船体に対して武装が少ないんです」

「うーむ……なら、レイフォルでの残党狩りに関しては何か情報はないのか?残党狩り作戦なら、日本軍の陸上兵器があるんじゃないか?」

「それが、レイフォル方面で活動する工作員がここ数ヶ月で次々と連絡を絶っておりまして……おそらくですが、スパイ狩りがされているのかと」

「うーむ……流石に自分の植民地のスパイ対策は万全というわけか」

 

 バミダルもスパイ対策の重要性は十分知っている為、その点ではニホンの防諜性の高さに感心していた。武装はよく分からずとも、防諜に関する知見は充分にあると見るべきだ。

 

「仕方ない。とにかくニホンに関する情報は引き続き調査を継続する。ただし、レイフォルにまで深入りせずにムー連邦内での活動を続けろ」

「はっ、了解しました」

「で、だ。次の問題はムーに切られた損失の穴埋めをどうするかだな……」

 

 バミダルは考え込むが、部下が良さげなアイデアを提唱する。

 

「それなのですが、やはりここは大東洋諸国の面々に対する輸出を強化するべきではないでしょうか?」

「大東洋諸国の?しかし、彼らの経済規模からして購買力は……」

「塵も積もれば山となります。クワ・トイネの様にこちらから支援を提供すれば、その経済力にも成長が見られるでしょう。そうすればこちらの製品に対する購買力も高まります」

 

 部下はその言葉を続ける。

 

「それこそ、ギーニ・マリクス上院議員が提唱する『大東洋共栄圏』という枠組みを参考に、我が国を中心とした経済エリアを確立すれば良いのです」

「なるほど……同じ科学文明国家ではなく、近場の有象無象を吸収する方向へシフトしていくのか。良いかもしれんな。彼らとて我が国の製品や技術は欲しいものがあるだろう」

「それに、この政策は巡り巡ってパーパルディア皇国への牽制になります。もし彼の国に抗う国を引き入れることができれば、そのまま包囲網としても使えますからね」

「良いこと尽くめの良いアイデアだ、早速上申してみよう」

 

 こうして東の帝国は、今までのムー連邦との取引から撤退し、大東洋諸国との貿易を強めた。

 大東洋諸国は、当初こそグラ・バルカス帝国の強大さに恐れを抱いていたが、経済支援とインフラ開発を受け入れるとその印象は手のひらを返す様になり、グラ・バルカス帝国との同調を強く求める様になった。

 それはいつしかグラ・バルカス帝国と大東洋諸国による共栄圏の形成につながり、パーパルディア皇国に対する牽制と包囲網の形成に繋がることになる。

 

 

 

 

 

 

 一方、グラ・バルカス帝国が経済を重視する傍らで天を仰ぐ者達がいた。帝国の軍組織の一端、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊の軍人達である。

 

「うーむ……やはり新規建造艦を軒並み縮小するのは決定事項ですか……」

「ああ。特に主力艦の新規建造計画は、ほぼ無しになったぞ。全く弛んだもんだ」

 

 廊下を歩きながら、そう言って部下達に愚痴を漏らすのは東部方面艦隊司令長官のカイザル・ローランド大将だ。帝国三大大将の1人に選ばれるほどの人望と、実戦での戦果を持つその男も、先日帝都ラグナで行われた軍の方針会議には不服を漏らさざるを得なかった。

 彼らはロデニウス戦役以来、ほとんど暇だった。

 西部方面艦隊と肩を並べる東部方面艦隊は、グラ・バルカス帝国においても主力艦隊と目される。だが大きな戦争が発生しない以上、主力艦隊の仕事は減らされる一方だ。

 ましてや、東部方面艦隊は本国から東側の敵に対処する艦隊なのであるが、転移の影響で東側には敵どころかまともな国家すらない。地理の関係でも東部方面艦隊は、その役割を減らされていた。

 そしてロデニウス戦役以来のシーレーンにおける治安維持は、専門のコーストガード部隊を持つ本国艦隊に取られている。彼らは海賊狩りなどで戦果を挙げ、連日戦闘続きだというので正直羨ましく感じていた。

 つまるところ、東部方面艦隊はこの世界では過剰な戦力であるが故に、暇を持て余す組織になってしまった。そしてその平時における軍隊の暇は、軍縮へとつながるのが世の常である。

 

「大丈夫ですかね?まだパーパルディアという脅威が残っている以上、下手に軍縮するのは得策とは思えません」

「今の戦力でも、パーパルディア相手には十分と思っているのだろうな。実際、パーパルディア相手なら海上優勢は一瞬で取れるだろうし、一番戦うであろう陸軍の新型戦車の方に予算を回したいのはわかるがな」

「しかし残念ですね。カイザル司令が進めていたペルセウス級戦艦の計画も、この一件で頓挫しましたし……」

 

 カイザル司令が肝入りで進めていた建造計画の中に、いわゆる"ペルセウス級"という戦艦があった。帝国が建造を進めるグレード・アトラスター級の補佐を行うコンパクトな戦艦として建造されていたが、それもこの軍縮の嵐によって計画が頓挫し不要とされたのだ。

 現在建造中のペルセウス級は、転移以来軒並み建造中止となり、一隻も就役の日を見ることは無かった。カイザルの派閥にとっては、悲しい出来事でしかない。

 

「そういえば知ってますか?はるか西のレイフォルが滅ぼされたって話」

「なんだそれは?」

「それがですね、レイフォル国というこの世界の列強国が居たのですが、それが新興国のニホンって国によってわずか7日で滅ぼされたんですよ」

 

 カイザルはその話を聞いて、廊下の中で立ち止まった。その話を聞く限り、レイフォルという国がより強い強者に滅ぼされただけのように聞こえるが、わずか7日間で滅ぼされたと言うフレーズがカイザルの耳に残った。

 

「そりゃもう、第二文明圏はどこもかしこも大騒ぎでして、かのムー連邦ですら情報調査に躍起になっているそうです」

「それは、何処の情報だ?」

「え?外交官の友人からですが……」

「そうか。なら、レイフォル国の武装は?」

「えっと……気になるんですか?」

 

 部下はまさかこの話題がカイザルの関心を誘うとは思っていなかったので、拍子抜けするようにそう言った。

 

「ロウリアのような()()()()()ならまだしも、パーパルディアのような戦列艦を有する海軍だったら、7日で倒すにはそれなりの技術差が必要だろう。それで、どうなんだ?」

「えっと……レイフォル国の武装は主に戦列艦とマスケット銃が主力ですね。あと、魔法で動く大砲も」

「やはりか……」

 

 カイザルは何かを確信したのか、部下達に推測を話す。

 

「戦列艦レベルの海軍を7日で倒すには、相当な海軍力が必要だ。もしかしたらニホンという国は転移国家かもしれん」

「まさか!」

「そのニホンに関する武装は、何か情報があるか?」

「いえ……私は持ってないです。それに関しては、情報局の方が知っているかと」

「……わかった」

 

 カイザルは近いうちに情報局を訪ねてみようと思い、メモ帳を取り出し予定を確認する。

 

「司令、言ってはなんですがこれは噂レベルですよ?あまり真に受けるのは……」

「いや、良いんだ。何かその国、嫌な予感がする」

 

 嫌な予感、という言葉にカイザルの部下達は何か思うところがあるのか、背筋を青くした。

 

「やだなぁ、司令の直感はよく当たるんだ。くわばらくわばら……」

「もしかしたらニホンって国、将来俺たちの敵になったりしてな?」

「ここから3万キロ以上離れた遥か西方だぞ?それは無いんじゃないか?」

 

 カイザルはそんな部下達の戯言を尻目に、メモ帳に新しく予定を追加した。会議や実務の時間を割いたわずかな時間であるが、資料をもらうことくらいはできるだろう。カイザル並みの発言力を活かせばこの程度造作もない。

 だがまずは情報局へアポを取らなければならない。日本に関する情報を貰うためにいきなり押しかけては、向こうが迷惑するからだ。

 

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