新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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3週間遅れで申し訳ありません。


第十四話『雨降って地固まる』

 

 ムー大陸から西側に500km程離れた位置に、イルネティア王国と言う北海道ほどの大きさの島国がある。ここはパガンダ王国と同様に、古くから西方国家群と第二文明圏をつなぐ要所として、自然とその富が集まってできていた。

 イルネティア王国の首都、王都キルクルスでは様々な交易品が行きかい、町は活気にあふれている。キルクルスの中心部にはひときわ存在感を放つ王城が存在し、豊かな街並みを見守っている。

 だが今日の王城は大会議室を中心に厳粛な緊張感に包まれ、国の重役たちが王前会議を行っていた。多くの参加者が腕を組み、ため息やうなり声を上げながらも会議を進めていた。会議が憂鬱に進んでいる理由は、議題の内容があまりにも問題だからである。

 

「ムー連邦がニホンと接触しました。続報によりますと、通商条約の締結にまで完了したとのことです」

 

 進行役の宰相がその情報を読み上げると、会議場の人々は大きく項垂れる。驚くもの、驚嘆の声を上げる者もいる。

 

「さらに近日中、ムー連邦からニホンへ使節団が派遣される予定だそうでして、このように連邦政府はニホンとの友好関係を大々的に報道しております」

 

 宰相はムー連邦から入手した新聞記事を広げ、この件が連邦内部でも大々的に宣伝されている事を証拠としてあげた。

 

「どういうことか……ニホンには侵略の意図がないというのか?」

 

 この場にいるイルネティア王、イルティス13世が口を開いた。その考えは、この場にいる全員の思う疑問である。

 

「それは分かりませんが、何か裏の意図があると見るべきです。ここは警戒するべきかと」

「うーむ……」

 

 謎の新興国家のニホンに関しては、第二文明圏の各所で問題となっていた。ニホンのパガンダ王国侵攻を皮切りに、その後のレイフォル国にまで侵略行為を働いた事は周知の事実であり、「ニホンには第二文明圏全体に対して侵略の意図がある」という分析はイルネティア王国でも結論付けられていた。

 しかし、ここに来てニホンは第二文明圏の長たるムー連邦と友好的な接触を果たし、通商条約の締結にまで至った。今までの分析からすれば考えられない対応であり、かなり拍子抜けしたのだ。

 だが、いくらニホンがムー連邦と接触をしたとしても、警戒は怠れない。むしろ外交手段を講じ始めた事は更なる警戒を呼んでいた。

 

「まずは外務卿に問いたい」

「はっ」

 

 名指しされた外交を司る王都諸侯のビーリーは、イルティスに顔を向けた。ふくよかな身体と優しげな目つきを持つビーリーも、今回ばかりはしっかりとした目つきでイルティスを見て話す。

 

「大国との交渉を渡り歩いた貴君には、絶対の信頼を置いている。貴君から見て、ニホンにはどのような意図があると思われるか?忌憚なく述べよ」

「そうですな……私としては侵略行為を平然と行うニホンと外交交渉に応じたムー連邦が、なにやら一枚噛んでいるとしか思えませぬ」

「と言うと?」

「ニホンはあの列強レイフォルの海軍を、わずか数日で打ち破りました。おかしいと思いませんか?ニホンという国は今まで見たことも聞いたこともない国、新興国家です。そんな真新しい国の海軍が、あの列強のレイフォル海軍が打ち破れるとは思えませぬ」

 

 確かに、そこは皆の思う疑問点であった。ニホンという国は今まで聞いたことも見たこともない国だ。そんな国がいきなり出てきてパガンダはともかく、レイフォルまで下すとなれば、何かおかしいと思うべきである。

 

「だが、ニホンは実際にレイフォル海軍を打ち破ったのだろう?どんな魔法を使ったのかは定かでは無いが……」

「そこが問題なのです。列強レイフォル海軍に勝てる海軍組織なんて、世界中どこを探してもムーとミリシアルくらいです。じゃあなぜ勝ったのでしょうか?」

「それは……まさか!」

「ええ、憶測ではありますが……やはり別の国がニホンを支援しているとしか思えませぬ。そして先ほど言われたムーとの外交締結……怪しいのはムーと言えるでしょう」

 

 ビーリーの推測に、会議室の面々は大きくどよめいた。何せあの列強レイフォルを超える、列強上位国のムー連邦である。彼らが組みしているとなれば、イルネティアに勝ち目はない。

 

「果たして事実かどうかは分かりません。ですが、ムーにはニホンを支援する理由はさもありなんと言ったところでしょうね。ニホンを支援して西からパガンダ、レイフォルを下せば、第二文明圏の統一だって夢じゃありません」

「確かに、ムーは散々侵略戦争を受けてきた国だからな……逆に過去の土地を取り戻したいと思うのか」

「ムーが掲げる民主主義というのは、良くも悪くも国民感情に流されやすい性質があります。民衆が望めば、時としてそんな非合理な手段を取ることもあり得ましょう」

 

 ビーリーはそう言って自分の憶測を言い切った。会議室の面々はどうするべきかと隣のメンバーと口々に相談したりし、ため息をついたりした。ビーリーの説には半信半疑でありつつも、それを完全に否定する事はできなかったからだ。

 

「まあ待て、憶測でものを語るのは良く無い。ここは落ち着こうでは無いか」

「はっ、失礼しました」

「ともかくだ。ニホンがムーと通じていたとして、国が存続できる道はあるのか?1000年の歴史を持つこの国が失われるのは惜しい」

 

 イルティス13世は不安を押し隠しながらも、周りの重役たちにそう尋ねた。だがニホンが列強上位のムーと結託しているとなれば、技術で劣るイルネティアが勝てる道はないだろう。重役達は黙りこくるしかない。

 

「ムーが味方ではない可能性があるなら……やはりミリシアルに援軍を頼めないだろうか?」

「あの殿様ミリシアルが加担すると思うか?同じ文明圏の話ならまだしも、わざわざ第二文明圏の話に首を突っ込むことはないだろう……」

「じゃあどうする!相手はレイフォル海軍を打ち破るような強敵だぞ?このままでは、我々に勝ち目はない!」

「彼らが来たときは、戦争を避けるように外交するしか……」

 

 と、その時。

 天井の照明が点滅した。

 

「おや、魔力切れか?」

「──違います!これはっ!?」

 

 それは緊急時に使用される点滅信号であり、会議室で起こったと言うことは城全体で起こっているだろう。重役達が思わず天井を見て、何か緊急事態が起きたことを察する。

 そして室内が騒然とする中、1人の兵士が息を切らして駆け込んできた。

 

「何事だ!?」

「大変です!西方沖合130km地点にて、ニホン国の戦闘艦を複数確認しました!」

「なっ……もう来てしまったのか!」

「はい!中には平甲板を持った旗艦と思しき巨大船もいます!」

 

 報告を受け取ったニズエルは、あまりに突然の来訪に驚嘆の声を上げる。

 

「海軍はどう対応した!?」

「はっ!海軍が臨検を行ったところ、相手は承諾。旗艦に外交官が同乗しているのが確認された為、こちらに指示を仰ぐ形となりました。戦闘艦群は、近くの港町への入港許可を求めております」

 

 割とあっさり臨検に応じた事を受け、当の海軍軍人達は拍子抜けしていた。てっきり臨検を拒否され、横暴な態度のまま無理矢理入港するのではと思っていたからだ。

 

「なんと。臨検はあっさりと受け入れるんだな……」

「油断はできん。不意打ちということもあり得る」

「しかし、外交官が乗っているとなれば無礼にはできないぞ」

 

 議論が白熱しそうなのを受け、イルティス13世は静かに手を挙げる。そうすると白熱していた議論はスッと収まった。

 

「相手が礼を弁え、正当な手段で外交を講じておるのだ。それを疑うものではない」

「陛下……」

「西で一番近い港町といえば……経済都市ドイバか。受け入れるように伝えよ。急な来訪だが、これはいい機会だ。奴らがどんな心理で侵略を繰り返すのか、探って見せようぞ」

 

 王の意見に異論を唱える者はおらず、正当な外交コンタクトとして西方の経済都市ドイバで受け入れることとなった。

 

 

 

 

 

数日後

 

 ニホン側から使節船としてやってきたのは、護衛艦〈いずも〉を含む護衛隊群であった。ドイバへの入港から数日の手続きと準備期間を経て、外交官らは王都キルクルスに入ることを許された。

 さて、王城の一室にて待機する外務卿ビーリーとその部下たちは、極度の緊張に包まれていた。まもなくニホンの使節団がこの部屋で会談を行うのだ。

 イルネティア王国外務局のトップであるビーリー侯は、王国貴族の中でもトップに入る王都貴族に属し、その一族は代々外交に尽くしていた。そのおかげか一族は海外にも顔が広く、その外交手腕も見事なものであった。

 だが、今回ばかりは細心の注意を払わなければならない。

 ニホンはムー大陸西海岸にて最強だったレイフォル国を打ち破り、第二文明圏全体に侵略行為を進めている要注意国家だ。しかも、その背後にはムー連邦の援助と謀略が疑われている。

 仮に誤った一言を発してしまうだけでも、国の存亡にかかわる。

 これほどまでに緊張を強いられたことは、ビーリーにとっても初めてだった。

 

「よいか。相手に無礼があったとしても、その場の感情で噛みつくでないぞ」

 

 補佐を務める配下の貴族たちに、ビーリーは重々しく言い聞かせる。

 そして、ついにその時が来たのか扉がノックされる。王宮使用人が断りを入れるのが聞こえた。

 

「日本国の外交担当者様をお連れしました」

「お通ししろ」

 

 ガチャり、という音と共に扉が開き、ビーリー達は立ち上がって出迎える。

 

「(彼らが、ニホン人……!)」

 

 入って来たのは数名のスーツ姿の男たちで、全員顔つきは平たく特徴的な顔立ちをしている。1人は眼鏡をかけた顎の細い男で、もう1人はその補佐官らしい。

 

「(もう1人は……)」

 

 そしてもう1人、服の上からでも確認できるほどの筋肉を備えた、1人の大男がいた。彼らの護衛だろうか、武器を持っていないことは確認しているが、相当警戒されているらしい。

 ビーリーはそこまで確認し、気を落ち着けてにこやかな笑顔で挨拶をする。

 

「はじめまして、イルネティア王国王都キルクルスへようこそ。私は外交担当の長であるビーリーと申します」

「はじめまして。日本国外務省より参りました、柳田と申します。今回は貴国との外交設立のため、使節団の長を務めさせていただいております」

「それはそれは……では、どうぞおかけください」

 

 どうやらこの眼鏡の人物が代表だったようだ。物腰は柔らかいが、その内側には何か不穏なものが感じられる、注意するべき相手である。

 軍艦で外交団を派遣した相手である、最初から会議が難航することは予想していた為、ビーリーはまだ平常心を保っていた。

 

「いきなり戦闘艦で押しかけるような真似をしてしまいましたが、我々には戦闘の意志も侵略の意図も無いことを信じていただきたいです」

「ええ、それはもちろん」

 

 その後の会談は、ビーリーたちの予想に反してスムーズに進んだ。

 まずニホン国の事についての情報を交換し、精密な機械で撮った写真を見せてもらった。そこには王都キルクルスの豊かさを遥かに超える都市が写っていた。神聖ミリシアル帝国の首都、眠らない魔都ルーンポリスもかくやという都市である。

 さらに、ニホンの文化を知ってもらう為に文芸品や工芸品なども見せてもらった。夜道を明るく照らす懐中電灯や、ミリシアルの魔導板よりもはるかに小さい情報端末、そして美しい伝統工芸品の数々……

 

「(この国はこんなにも豊かなのか……)」

 

 一目で分かる、技術力と豊かさの数々。それを見てビーリーは、ニホンという国が自分たちより遥かに上の存在であることを理解した。

 だがそのニホンは、決してそれに胡座を掻いているわけでも無く、服従を迫ってくるわけでは無い。むしろイルネティアとの外交交渉は、驚くほどスムーズだ。

 ビーリーはニホン側の目的が分からなかったが、決して警戒を怠らなかった。もしかしたら何か企みがあるのかもしれないし、態度を急変させる可能性もあるからだ。

 

「それではそろそろ昼食ですし、ここで一旦休憩を挟みましょう。90分後に、またこちらの部屋で」

 

 という形で、ニホンとイルネティアの双方の代表団は一度休憩に入ることとなった。双方が待機室に向かい、部屋を出た。

 待機室に向かう廊下の中で、ビーリーは頭を抱えていた。警戒はしていたがなかなかニホン側の意図を読めず、彼を悩ませていた。

 

「どう思います?ニホン側の考えは」

「うーむ、今のところ何がしたいのかさっぱり分からん。普通に国交を結びたいだけなのか、それとも……」

 

 もしニホンに侵略の意図が無いのなら、このような誠実な対応も納得がいく。だがそんな事はあり得ないというのが、イルネティア側のニホンに対する認識であった。

 

「……今なら様子を見れるだろうか」

「ええ、でしたらこれを」

「うむ」

 

 ビーリーは部下から書類を受け取り、それを「渡し忘れた」という名目で日本側の待機室に向かう事にした。

 休憩中に押しかけるのはあまり良い方法では無いが、これで何か分かればその後の交渉にも役立つはずだ。

 そして、ビーリーは待機室の前に立った。

 

「……柳田殿、柳田殿、少しよろしいか?」

「え?ああ、どうぞ!」

 

 ビーリーの突然の訪問に、柳田が慌てた様子で扉に駆け寄った音が聞こえる。しばらく経たないうちに、柳田は扉を開けた。

 

「ビーリー殿、どうかしましたか?」

「いや、こちらの書類を渡し損ねてな。王宮の方から来た、そなたらの友好を信じた親善書である。先程届いたものだ」

「ああ、これはこれは……ありがとうございます」

 

 もちろん親善書というのは建前で、イルティス13世の計らいであらかじめ用意しておいた手段なのであるが。

 そんな会話を挟みつつ、ビーリーは素早く部屋の中を見る。部屋にはいくつかの書類と、何かの情報端末などが並んでいる。

 そして、柳田の手には何か四角い不思議な物体が袋ごと握られていた。それには齧ったような跡があり、先端から欠けている。

 

「ん、それは……食べ物なのか?」

「ああ、すみません!今片付けますので……変ですよねこれ」

 

 食べかけのクッキーらしきものを片付け、ビーリーに向き直る柳田。

 

「いや、楽にしてくれ。ただ、その四角い食べ物が気になってな」

「これは……クッキーの一種ですね。色んなものが混ぜてあります」

「ほう、どうやって作るのだ?」

「それは……私は菓子職人ではないので分かりかねます」

 

 なるほど、ニホンはこのようなお菓子に関する技術も優れているのか、とビーリーは感心した。少なくともイルネティアには、立体の生地を形を残したまま焼く技術はない。

 

「まさかと思うが、それ一つだけしか食べておらぬのか?」

「え?ああ、いいんです。これで十分ですから……」

「良くないぞ。外交官とあらば、食事もしっかり摂らなければ戦えないぞ?」

「良いんです、良いんですから……」

 

 さらに深掘りしようとビーリーが世間会話を挟むと、柳田は何か目を伏せるようにしてそう言った。

 そしてさらに、濁った目で何かを諦めるように言葉をつづける。

 

「日本人全員が我慢しているのに、私だけ贅沢な物を食べて贅沢するわけにはいきません……国の代表として、それでは示しが付かないのです」

「なんと……お主らの国は、そんなに貧しいのか?」

「それは……」

 

 意外だった。

 ビーリーは戦闘艦の大きさや先ほどの写真、そして数々の伝統工芸品の技術力の高さから、ニホンが豊かな国だと思っていた。しかし、どうやら違うようだ。

 

「巨大な鉄船を作り、上等な工芸品を作る貴国は、何故そんなにひもじいのだ?」

 

 ビーリーは外交官としてではなく、1人の人間としてその事情が気になった。なので特段後先を考えず、そう聞いてみる。

 

「それは……こんな世界に来てしまったからですよ……!」

「……?」

 

 それに対して柳田は、感情を込めてそう言った。

 

「前の世界じゃ、世界3本の指に入る経済力で、好きなものを輸入して、得意なものを売って、豊かに暮らしていました!それが、この世界に来てみればどうですか?味方はいないし貿易してくれる国もいない……おかげで国の資源も食糧も、全部底を尽きそうだった!一歩間違えば餓死者も出かねなかった!」

 

 言葉を続ける柳田は、目に何か暗いものを濁らせながら感情を込めてそう言った。その腱膜に、ビーリーは一瞬たじろぐ。

 

「だから色んな国と国交を設立しようとしました!味方を得ようとしたのに、案の定奴らは俺たちを蛮族蛮族って罵って、見下して、異端者として扱うんです!こんな理不尽なことがあるのかと、怒りすら沸きましたよ……」

 

 柳田が思い出すのは、パガンダ王国とレイフォル国の数々の蛮行、そして戦争だった。異世界人に対する怒りすら感じられる。

 

「だから、もういいんです……どうせ私たちはもう後戻りできないんですよ!とにかく、前に進み続けるしかないんです。例えその道が、地獄に続いていようとも……」

 

 そこまで言って、柳田はビーリーから目を逸らした。

 

「……すまなかった」

「いえ、あなたが謝る必要はありませんから。悪いのはパガンダとレイフォルなんです」

「パガンダとレイフォル……まさか、貴国は」

「これ以上は……自分で調べてください」

 

 そう言って柳田は扉を閉じ、向こう側にはビーリーが残された。

 

「そういう、ことだったのか……」

 

 ビーリーは扉の前に佇み、真実を知った。

 

 

 

 

 

 

「──以上が、ニホンとの会談内容になります」

 

 その後、日本とイルネティアの外交会談を経て、正式に国交が設立される運びとなった。その報告は、イルティス13世たちに詳細に説明された。

 

「むぅ……まさか彼らが、侵略された側だったとはな」

「確かに、あの外交長なら温和なニホン人が怒るようなことをやりかねない」

「盲点でした。思えば、パガンダは"そういう国"でしたね……」

 

 外務に関わらない者達でも、パガンダ王国の外交長ドグラスの横暴さはよく知っていた。外交上手なイルネティア王国でも、ドグラスと交渉を行うのは至難の業であり、見下されることもしばしばあった。

 その後の調査によると、そのドグラスによりニホン側の外務大臣が処刑されてしまったのが、侵略行為の始まりだったと言う。

 たしかにそんな事をされれば、あの温和そうなニホン人が怒るのは当然といえよう。

 だがパガンダ王国の行った事は、ニホンの侵略行為があまりに素早く終わった為、他国にはほとんど知られていなかった。近くにいたイルネティアですら知らなかった事を見れば、第二文明圏の他の国も知らないのだろう。

 

「ニホンには同情せざる得ないな……それに今のところ、奴らが再び侵略をする兆候はないのだろう?」

「はい。外交官からも"これ以上第二文明圏に手を出す事はない"と言われましたので」

「外交の場でそれを言うということは、約束と捉えても良いだろう。ここは、信用してみようじゃないか」

 

 当初の警戒度は何処へやら、王宮のメンバーはほとんどニホンを信用しきっていた。それもそのはず、ニホン側から提示された数々の開発計画も魅力的だった。

 

「それから陛下、ニホン側から提示されたインフラ整備案、素晴らしいものですよ。こちらから食料を輸出するだけで、ここまでしてくれるそうです」

「国がかつてなく豊かになるな……良いだろう、ひとまずニホンがやってくれるなら、その関係性を着実に構築していきたい。ビーリー卿、今後も彼の国との交渉は頼んだぞ」

「ははっ、お任せください」

 

 こうしてニホンは、平和的にイルネティア王国とも接触を果たすことができた。

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国 帝国情報局

 

 帝都ラグナの天候は今日も曇り空で、辺り一面に霧が立ち込めている。しかし整備された信号網と、日頃からこの様な悪天候に慣れたグラ・バルカス人ドライバーにより、今日も交通事故を最小限に抑えている。

 

「着きました」

「ありがとう、また17時に迎えに来てくれ」

 

 専属のドライバーに指示を送ると、カイザル・ローランド海軍大将は、鞄持ちの部下一人と共に情報局のこじんまりとした建物へと入って行く。

 中の玄関の受付に要件を話して通してもらい、案内の士官を伴って廊下を進む。そこでは常に電子計算機の音が鳴り響き、通信機の音も常に聞こえている。

 

「なんか新鮮ですね、海軍省には無い音です」

「ああ。しかし何を言っているのかは聞こえないようになっているな」

 

 カイザルと部下がそんな会話を挟むと、案内役の士官が説明を行った。

 

「あれらは通信機の音声ですが、外からではなんの信号か分からないように、常に音をかき乱しているんです。聞こえる範囲にスパイがいた時、聞かれてしまっては困りますからね」

「ほう……」

 

 なるほど、これが防諜という概念かとカイザルが感心している中、案内役士官によって奥の部屋へと連れてこられた。

 

「バミダル大佐、海軍のカイザル大将がいらっしゃいました」

「お通ししろ」

 

 数回のノックを挟み、扉の奥から声がしたのを聞いて案内人は扉を開けた。その奥には情報局のバミダル大佐が、椅子から立ち上がって出迎えてくれた。

 

「これはこれは、海軍の方からよくぞおいでくださいました、カイザル大将」

「ああ。こちらこそ、わざわざ押しかけて来てすまない」

 

 お互いが握手を交わし、カイザル大将はソファへと促される。彼が座るのを待ち、階級が下のバミダル大佐は向かい合ってソファに座った。

 

「して、要件についてだが……確認してくれたか?」

「ええ、ニホン国についての事ですよね?なんとか情報を集めて参りました」

 

 とは言うものの、バミダル大佐はニホンに関する情報をあまり集められなかった。情報量に関しては、以前ニホンがムー連邦と通商条約を結び、ムー連邦との取引から追い出されて以来あまり集まっていない。

 それでもバミダルは集められるだけ集めた情報を、カイザルに提供するつもりだった。封筒に入れられた機密情報をわざわざ海軍に公開するのは、カイザル大将が持つ影響力の高さ故の、特別措置である。

 

「こちらが、ニホンの武装に関する写真です」

「ふむ、これがニホンの……」

 

 ムー連邦国内で撮られたいくつかの写真を回し見しながら、カイザル大将は静かに唸った。その中でニホンの巡洋艦〈シャイロー〉を捉えた写真を見て、その手が止まる。

 

「この巡洋艦は……本当に武装がこれだけなのか?」

「はい、写真に間違いはありません。我々の方でも分析してみましたが……この艦の武装に関しては不明な部分が多く、あまり脅威度が分からないのです」

「ニホンの他の艦艇も、こんな感じなのかね?」

「はい。他の艦艇に関してもどうやら同様の武装との事で、あまり情報がないのが現状です」

「なるほど、しかしこれは……」

 

 カイザルは深く考え込み、そして言葉を発する。

 

「……いや、なるほど。確かにこれならレイフォルが滅ぶわけだ」

「ん?と、言うと?」

 

 カイザルが一人で納得したのを見て、バミダルは何か不穏なものを感じて聞き返す。

 

「これを見てくれ、写真から見たこの艦の予想排水量は7000トンから1万トンクラスと予想できる。どれだけ武装が貧弱でも、重巡洋艦並の船体を作るのに求められる技術は計り知れない。全長だって170m以上はあるし、建造技術はそれなりにあるはずなんだ」

「なのに、武装面が貧弱なのが不自然だと?」

「ああ。これだけの技術蓄積があるなら、この2門しかない大砲だって意味のある武装のはずだ。例えば……我が海軍が開発中の速射砲とか」

「速射砲?」

 

 聞きなれない言葉を聞き、カイザルはそれに回答する。

 

「薬莢装填と自動装填装置の搭載により、少人数化と高レートの発射を可能とした、対空用艦砲のことだ。実現には課題があるが、もしこれが速射砲だとすれば砲門数は二門でも事足りるかもしれん」

「なんと……そんな大砲が存在するとは」

「ニホンはレイフォル海軍を易々と殲滅したという。我が国でも実現できなかった艦砲を実現しているとなれば、日本は転移国家かもしれない。俺はそう思い、ここに足を運んだわけだが……これを見て確信に変わりそうだ」

 

 カイザルは満足気にそう言うと、日本に関する情報を持ち帰れないかと相談する。

 

「なあ、これらの情報は持ち帰ってはダメなのか?」

「ダメです。例え同じ帝国の大将殿でも、こちらには防諜という物があります」

「そうか……だがニホンに関する情報はもっと欲しい。どうにかして探れないか?」

 

 カイザルがそう言うので、バミダルはここから交渉に入ると予想し、先手を打った。

 

「それに関してなのですが……こちらも第二文明圏における人員は少なく、思うように集まらないのが現状です」

「……そう言うと思ったぞ。要は協力体制が欲しいんだろ?」

「はい、その通りです」

 

 真意を理解したカイザル大将は、苦笑いをしながらバミダルに提案をした。

 

「なら海軍と情報局で協力体制を締結し、可能な限りの支援を行う」

「具体的には、どのように?」

「まず海軍からも、情報に詳しいスパイを派遣しよう。それから俺が北方艦隊を説得して、潜水艦も行き来に使わせよう」

 

 その条件を聞いて、バミダルもかなり態度を柔らかくした。自分達情報局が海軍に求めていた協力体制を、向こう側から引き出せたからだ。

 

「しかしどうするのです?ニホンに関して情報を集めても、その脅威が正しく伝わるとは思えませんが……」

「そこは俺の立場を利用して説得する。俺が先頭に立って、ニホン脅威論を広める形になるがな」

「……分かりました。では、ここは秘密の協定ということで」

「ああ、よろしく頼む」

 

 こうしてグラ・バルカス帝国情報局は、海軍大将カイザル・ローランドの協力を得て再び日本への諜報活動を行うこととなった。これを受け、レイフォル特別区では更なるスパイ合戦が繰り広げられることとなる……

 




ところでイルネティア、原作でパガンダの蛮行の事を知っていましたが、あの状況でどうやって知ったんでしょうかね?
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