新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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今回は策略謀略の嵐です。


第十五話『いずれ死に至る病』

イルネティア王国

王都キルクルス郊外

 

 王都キルクルスの郊外にて、一人の女の子が果実を台車で運んでいた。粗末だが動きやすい服装と、比較的短く切り揃えられた髪型を見て、ほとんどの男性ははつらつとした印象を受ける。

 その少女は、私有地内の竜舎の様な外観をした建物の前に立つと、その中にいる親友に果実を与えようと頑丈な扉を開ける。

 

「よいしょ……イルクス?」

 

 そこにいた幼竜……名を"イルクス"というが、彼は竜舎に取り付けられた大きめの窓から外をじっと眺めていた。

 

『ああ、ライカ。おはよう』

「おはようイルクス、外を見てどうしたの?」

『……ううん、なんでもない。最近きたあの人たちを見ていただけだよ』

 

 そう言ってイルクスは、窓の外からわずかに見える景色を指した。王都を囲む山々に位置し、比較的標高の高い場所にあるライカの家から見ると、イルクスが指した場所は開けており、空港の様にも見えた。

 

「……最近来たニホンの人達よね。気になるの?」

『ううん、あの人たちから悪い感じはしないんだけど……ちょっとね』

 

 イルクスが意味深なことを言うと、ライカが首を傾げる。

 

『なんか僕、感じるんだ。あの人たちから感じる憎しみや悲しみ、それから"疲れ"とか』

「"疲れ"?そりゃ、空港の工事しているんだから当たり前だと思うけど……」

『そうじゃないよ。そうじゃなくて、なんだかあの人たちからは"悲しい疲れ"が感じられるんだ。何か辛いことや悲しいことに耐えた、そんな疲れだよ』

「…………」

 

 そう言ってイルクスは、これ以上難しい話をしても人間の彼女にはわからないと思い、果実の入った台車に向き直る。

 

『それより……僕お腹すいちゃった。早く食べさせてよ』

「ああ、ごめんなさい。今あげるわね」

 

 そう言ってライカは窓から降りると、果実の入った台車へと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

日本国

東京 武道館

 

「黙祷……」

 

 レイフォル戦から数ヶ月が経ち、やっとこの日を迎えることができた。元外務大臣、佐藤氏の為の国葬である。

 国の為に尽くして、悲運にも蛮行により処刑された外務大臣の遺体は回収できなかったが、遺品を集めてなんとか弔おうと、この国葬が執り行われる事となった。

 

「(佐藤君……私はやるよ、日本を守ってみせるよ。この世界に飲まれようとも)」

 

 武田総理は新たな決意を胸に抱き、国葬を終えた。

 それが終わってから、武田総理はすぐにリムジンへと乗り込み、首相官邸へと戻って行った。総理大臣の仕事は忙しく、とてもじゃないが休んでいる暇などない。ここ最近の情勢も、休む暇を妨げていた。

 

「では各省庁より、直近のご報告をさせていただきます。まずは外務省から」

「はい、では私から。まず先日お話しした通り、ムー連邦との通商条約の締結により食料自給、および経済安定が進みました。これに関しては農林省や経済産業省からのご報告を待つとして、本題としては第一、第三文明圏との接触が課題となっております」

「ふむ……」

 

 新しく就任した外務大臣の報告を受け、武田総理も安心した気分だった。やはり国土転移後は食糧、経済の自給が最優先事項であった為に、それが達成できた事にひとまず安堵する。

 

「とりあえず、第二文明圏との接触は穏便に済まされたようだな」

「はい。一時期はソナル王国、ニグラート連合などのレイフォルと程近い国々の警戒心が強く、交渉に難航しているようでしたが、イルネティア王国との仲介により、これらの問題は解決しました」

 

 新任外務大臣の言う通り、レイフォルに程近い場所に位置するソナル王国やニグラート連合などの国々からは、日本はかなり警戒されていて交渉が難航していた。

 理由としては"レイフォルを侵略した事"、それから"侵略者であるにも関わらずムー連邦と穏便に接触できた事"で「ムー連邦が日本に手を貸しているのでは?」という憶測が広がり、余計な警戒を招いていたのだ。

 だがそれらの国々とも、イルネティア王国との仲介があって交渉がひと段落した。第二文明圏に顔の広いビーリー侯が、日本との仲介を買って出た為に色々と進展したのだ。

 

「農林水産省です。レイフォルからの食糧調達、およびムー連邦、イルネティア王国との通商条約締結により食料供給率は100%を超え、安定しました。これにより各地の商業施設も営業を再開し、経済活動も動き始めました」

「やっとか、第二文明圏の国々と接触で、やっと安定したのか……」

 

 武田総理を含め、この場にいる全員がホッとした気分だった。やはり食糧自給率が低く、配給制にしてしまうほど困窮していた時期が長かった為に、その安堵は計り知れない。

 

「確かに安定はしていますが、今後また再び転移が起こらないとも限らない為、国内の食糧自給率も上げるべきだとの声もあり、どうかこの件に関しても御検討していただければと思います」

「そうだな……また転移が起こったら今度こそ手がつけられなくなってしまう。国内の農場も整備しなければな」

 

 続いて話は経済と防衛の話に移る。

 

「経済産業省です。ムー連邦との接触と通商条約の締結により国産製品の売れ行きが改善され、産業に関しても、安定した生産が再開できそうです。輸出品は主に中古車ですが、この他にもムー連邦からは防衛装備品に関する一部輸出の話が上がっておりまして、経済産業省としては是非とも応えたい考えであります」

「防衛大臣、どう思う?」

 

 総理から話を振られた防衛大臣は、しばらく項垂れる。

 

「どうでしょう……防衛省としても防衛装備品の輸出はありがたい話なのですが、技術の流出などが懸念されますね。古い装備品なら問題ないと思いますが、流石に最新の装備となると……」

「なら、輸出用にモンキーモデルやグレードダウンモデルなどを作るのは?」

「それも考えましたが、現状の装備品ではいくらグレードダウンしてもムー連邦にとっては過剰すぎます」

 

 防衛大臣は話を続ける。

 

「例えば陸自の90式戦車は、10式にこそ劣りますがほぼ同様のアビオニクスとデータリンク機能が搭載されています。これらをオミットするとなると、余計な無駄ができてしまいますし、オミットしてもなおムー連邦が扱えるような製品になるとは思えません」

「つまり、今の性能が過剰過ぎて使い物にならないと?」

「はい、そういう事です。もちろん再設計すればそれなりの物は作れるかと思いますが、時間はかかります」

「なるほど……」

 

 防衛大臣の言葉に、経済産業大臣は納得した。

 

「今防衛省として提供できるのは、今後の各自衛隊の近代化に合わせて淘汰される旧式装備などです。それに慣れてから、ダウングレードモデルを提供するのが望ましいかと」

「ではそうだな。今後2年ほどで防衛装備の大幅な改革がある事だろうから、それを見越して提供していこう。古い装備が軒並み流れることになるが、ムー連邦は信頼できる国だから問題は起こさないだろう」

「こちらもダウングレードモデルの設計を行ってみますので、そちらは3年ほどの猶予をください」

「分かった、待っておこう」

「では続きましてですが……」

 

 このような感じで、武田総理の一日は今日も過ぎて行った。願わくばこのような平和が続けば国も安定するのに、という願いを持ちながら、武田総理は一日の激務をこなす。

 

 

 

 

 

 

日本国

岡山県某所

 

 日本国内では、そろそろ食料自給率が安定して来た段階だった。最近になって様々な国と国交を持ったことにより、輸入量が安定して来たのである。

 そのため苦しかった配給制は終わりを告げ、営業を再開するスーパーや料理店などがたくさん出て来たのである。

 

「おそと!おそとぉ!」

「配給以外だと、久しぶりに外に出た感覚……やっと安定して来たのね」

 

 この日、百田桃子は、久しぶりに娘の花子に美味しいものを食べさせようと、近所にある洋食料理店に足を運んだ。

 すぐ近くにある上、美味しいスパゲッティやピザなどが食べられるとあって、桃子にとってもお気に入りの店だった。

 

「ねぇ花子、お店で何食べたい?」

「うーん……わたしピザがたべたい!マルゲリータ!」

「分かったわ!今日はたくさん食べさせてあげる!」

 

 喜ぶ娘の声を聞き、桃子は自然と笑顔が溢れ安心した。娘には無理な我慢をさせて来たのではないかと、ずっと気になっていたからだ。

 食糧が配給制に変わってから数ヶ月間、娘にはあまり多くを食べさせることができず、結局今日まで我慢続きだった。それが変わるまで娘に我慢させていたのではないかと、桃子は心配だったのだ。

 

「(だから今日はたくさん食べさせないとね)」

 

 桃子は娘の為に今日は奮発し、たくさん食べさせると決めていた。

 だが、店へと続く曲がり角を曲がって店の外観を見た瞬間、桃子は凍りついた。

 

「っ……?」

 

 そこには荒らされた店の姿があり、ひどい有様だった。

 窓ガラスは割られ、店の看板は壊され、赤と緑の壁には一面に真っ黒なスプレーで落書きがなされていた。その言葉もひどいものであり、「売国奴」や「名誉異世界人」と言った意味不明な言葉が書かれている。

 

「なに……これ」

 

 桃子は店の店主が片付けをしているのを見て、思わず声をかけた。

 

「あの……どうしたんですか、これ?」

「ああ、桃子さん。すみませんねぇ、最近流行りの奴らに恨みを買ってしまって、今日は休業ですわ……」

 

 と、苦笑いで答える店主はホースを使ってなんとか落書きを消そうと頑張っていた。

 

「恨み……?何でレストランが被害に遭うんですか?」

「……なんか家内に聞いた所によりますとね、"洋食料理は異世界を彷彿とさせるから営業を止めろ"って電話をかけられたんですよ」

 

 店主は悔しそうに語り出す。

 

「むろん家内はそんなバカな話に取り合わなかったのですが、今朝店を開けようとしたら……やられてました」

 

 異世界、と言う言葉に桃子は疑問を抱く。洋食料理店は突如転移して来た異世界とは全く関係ないし、むしろ過去の地球を懐かしむことができるはずだ。

 店主だって外国人じゃなくて日本人だ。確かに海外で修行したことがあるらしいが、そんなのはクレームとは関係ない。

 

「意味が分からない……異世界とは何も関係ないのに……」

 

 桃子は思わず、これを起こした人に対して怒りを込めてそう言った。

 

「……しかも、私だけじゃないらしいです。わりと全国で起こってる話らしくて」

「そのわりにはテレビでニュースになってませんが……?」

「まぁ、こんな話視聴率にならないんでしょうよ」

 

 言われてみれば確かに、と桃子は思った。

 今の日本のテレビニュースは、異世界に対する偏見に満ちている。その内容の報道の方が、視聴率が取れる様になったからだ。

 逆に日本国内でこんなことが起こったのを報道しても、ほとんどの人は興味を示さず、視聴率は取れないだろう。

 始めはこれらの意見は比較的少数派であり、大多数の人々は現在進行中の問題も含めて無関心であった。

 しかし無関心で有ったがゆえに、少しずつ国民の間にこのような論調が広がり始めてしまう。当初は国と国の話であったが、次第に自分達が苦労しているのは異世界のせいだと都合良く解釈し始めた。

 おまけにこの様な主張をする集団にバックが付き(利権が欲しい者、現政権に不満を持つ者、これを利用して金を得たい者、そして外より浸透しようとする陰謀を持つ者)国民が気がつき始めた時には、もう後戻りが出来ない程に大きなうねりとなったのだ。

 これは別の世界線の話だが、ある地域において発生した戦争により、日本国内で戦争ものやミリタリーものなどの創作品を狩る運動が起きたという。それと同様に、この世界の日本でも異世界文化狩りが少数ながら起きているのである。

 皮肉にも、この流れは国の利益にも繋がっている。近年議論されている徴用自衛隊員制度に対しても、本来なら上がるはずの嫌悪感などが薄れていた。

 

「……異世界っぽい紛らわしい奴がどうなろうと、知ったこっちゃないって話ですよ」

「そんなの、差別じゃないんですか……?」

「ソイツらにとっては、差別じゃなくて区別なんでしょうよ。異世界っぽい奴と、そうでない奴との」

 

 異世界っぽい奴……

 確かに今の日本人は、ほとんどの人が異世界に対する偏見に満ちている。あれだけ酷い外交をされたのだから当然と言えば当然だが、それが行き過ぎた差別や偏見に繋がるのはおかしいと思っていた。

 ましてや、その刃が日本国内にまで向くなんて、そんなのは……

 

「おかーさん、ピザ食べられないの?」

「あっ…………」

 

 静かな怒りが湧き上がっていた時、娘の花子が悲しそうな目でそう聞いた。桃子は店主と顔を見合わせるが、今日はそれどころではない事は知っていた。

 

「ごめんね花子……今日はお店やってないみたい」

「うん……」

「……スーパーで冷凍ピザでも買ってこようか。それならピザも食べれるでしょ?」

「うん……」

 

 なるべく子供が傷つかない様に、桃子はそう言うしかなかった。店主も申し訳なさそうに俯いていたのを見て、桃子も俯くしかなかった。

 

 

 

 

 

日本国領

択捉島、とある役所

 

 現在の日本領土には、2015年時点で海外領土であったが、不幸にも日本と共に転移して来た土地が存在する。戦後から代々「北方四島」と呼ばれていたロシア北方領土の島々である。

 

「では貴方も、移住希望者で間違い無いですか?」

「はい、移住希望で間違いありません」

 

 この地域の市役所に務めるロシア人の職員は、移住希望者としてここを訪れたスウェーデン人の女性にそう尋ねた。

 経歴を見る限り、移住に関しては問題ないと判断できる。日本を旅行中、不幸にも転移に巻き込まれてしまったタイプの外国人であり、彼女はしばらく本土でバイトをして暮らしていたらしい。

 そして、お金が貯まったのでここに移住したいと、この市役所を訪ねたのだ。

 

「うーむ……まあ、経歴を見る限り移住に関しては構わないですが」

「ですが……何でしょうか?」

「いや、その……何かこの土地に理想を見過ぎではないかと思いましてね」

 

 ロシア人スタッフは、この土地の現状を知っているが故にその外国人に警告する役割がある。移り住んで後悔しないためにも、ここや土地の現実を把握させるべきなのだ。

 

「この土地は日本としてもロシアとしても田舎の田舎です。日本本土にある品揃えのいいコンビニも無ければ、まともなインフラすら整って無い……日本政府もこの土地に関しては半端放置気味で、開発事業などはほとんど行っていません。このままでは暮らしづらいのでは?」

「それで良いんです。本土の人たちに白い目で見られるよりはマシですから……」

 

 そう言ってスウェーデン人の女性は目を伏せた。

 

「……そんなに本土の迫害は酷いのですか?」

「迫害……と言うほどでも無いのですが、それでも白い目で見られます。"外国人は異世界人に見える"とか、"紛らわしいから何処かへ行け"だとか、周りがそういう雰囲気になっているんです」

 

 そう言って、スウェーデン人の女性は暗そうに語り出す。

 

「知ってますか?本土の鉄道の駅なんか、英語の表記が削除され始めたんです。ネット上でも外国語廃絶運動が盛んで、洋食を作っただけで炎上したそうです」

「…………」

「それだけじゃなくて、外国人のキャラクターが出るアニメや漫画にも批判が相次いでいて……日本のキャラクターに仮装する、外国人コスプレイヤーにすら批判が相次ぎました。本土はそんな心無い人が増えてきていまして……」

 

 ロシア人のスタッフは、そこまで聞いて残念な気分になった。彼の祖国も含め、どの国も多少のきっかけがあれば外国人廃絶運動が進むとは思っていたが、まさかそれが日本でも起こるとは思っていなかった。

 確かに日本のニュースが見られる様になってから、日本が置かれた状況を目にして同情をした。しかし、そのような外国人差別が始まったことを知り、隣国の日本にある程度の幻想を抱いていた彼にとっては居た堪れない気持ちであった。

 

「分かりました。では移住の手続きをしておきます。住居も余っている空き家があるので、家賃さえ払ってくれればご自由にお使いください」

「……ありがとうございます」

 

 そう言ってスウェーデン人の女性は、感謝を伝えると相席を立ち、一礼を伝えた。そして別のスタッフに連れられ、新居の様子を見るために市役所を出ていった。

 

 

 

 

 

 

アニュンリール皇国

皇都マギカレギア

 

 空を貫かんばかりに立つ高層建築物、その中でも一際大きな建物が都市の中心部にある。アニュンリール皇国皇帝、ザラトストラが君臨するオラナタ城だ。

 その周囲にはサクラダファミリアを近代的にした様な見た目の建造物が一箇所に集められたこの国の霞ヶ関……アヴァストリアが立ち並ぶ。敷地は広く、国会議事堂、官邸、各省庁、マギカレギア市庁舎、最高裁判所などを一つに集め、さながら"行政機関要塞"とも言えるだろう。

 

「レイフォルが滅び、ムー連邦も言いくるめで傀儡国に成り下がりました。すべてニホン国の仕業です」

「ふむ……」

 

 オラナタ城皇帝の間にて、この国を動かす行政部門の長たちの話を聞くこの青年こそ、アニュンリール皇国皇帝ザラトストラである。

 青みがかかった煌めく短い髪に、アダマンで作られた美しい冠を頭に戴く。青い目、色素が抜けたような白い肌、そして翼のない背中……有翼人の国として君臨するアニュンリール皇国としては非常に珍しい、純血の光翼人である。

 

「グラメウス大陸でのビーコンの回収失敗を含め、今この世界は急速に揺らいでおり、来る魔帝復活への障害が増えて来ました。今回はこれに関しての対策会議を行います」

 

 外交部高官のカール・クランチからの報告を聞き、魔帝復活対策庁長官ヒスタスパ・デュラムは小さく歯軋りを起こした。

 グラメウス大陸でのビーコン回収作戦が失敗したのは、他ならぬ彼の責任であるからだ。それをわざわざ皇帝の目の前で言うとなって、ビスタスパはカールを睨んだ。

 

「まず、魔帝復活対策庁長官」

「はっ」

「古来ラヴァーナル帝国の復活は我が国──いや、我が民族の悲願である」

 

 軽やかな声色がヒスタスパの耳に流れ、透き通るように消えていった。その一瞬だけで全身に痺れのような感覚をもたらす。

 

「……存じております」

「復活の日は近い。そのためビーコンの保護は抜かりなかったはずだが、何故失敗した?」

 

 皇帝に責任を追及され、ヒスタスパは言葉に詰まる。グラメウス大陸……もとい、エスペラント王国での失敗は内密に処理していたはずだったが、ここに来て急にその話題が出て来た。誰かの差し金を疑わざる得ない状況だが、考えるより先に言い訳が飛び出す。

 

「申し訳ございません。とうやらグラメウス大陸のエスペラント王国に対して、グラ・バルカス帝国からの介入があり失敗したと見ております」

「ふむ……グラ・バルカス帝国の民は僅かな魔力しか持たない劣等種と見ていたが、何故そのように出し抜かれた?」

「はっ、どうやら現地での武器の性能が大きな差を分けた模様でして……グラ・バルカス帝国が戦車などの大兵力を派遣したのに対して、派遣職員は拳銃程度しか持ち合わせておらず、撤退せざる得ませんでした」

 

 グラメウス大陸に派遣した職員からの報告によると、失敗した原因は現地職員がまともな武器を持っていなかったことにあると指摘された。さらに予算不足により派遣された職員の数も少なく、効果的な工作が出来なかったことも指摘されている。

 それに対してグラ・バルカス帝国はトーパ王国からの投入兵力で電撃戦を行い、エスペラント王国と接触、付近の魔獣を完全に駆逐してしまった。職員はかの邪竜アジ・ダハーカの復活を用いて対抗しようとしたが、それすらも電撃戦のスピードに敵わず途中で放棄せざる得なかった経緯がある。

 

「なるほど、つまり投入兵力や武器の性能から失敗したのか」

「はい」

「しかし、疑問であるな。何故奴らがグラメウス大陸を狙ったのだ?あそこは土地もそこまで裕福ではなく、旨みもない土地であるが……まさかビーコンの存在がどこからかバレたのではあるまいな?」

「ぐっ……それは、ありません。防諜に関しては万全を期しております」

 

 そんな筈はない、とヒスタスパは確信していたが、あえて揺さぶる為に皇帝はそれを指摘した。

 実際のグラ・バルカス帝国は、トーパ王国における魔王ノスグーラ侵攻に際して、援軍として第4装甲師団と第8装甲擲弾兵師団の二個師団を派遣しただけだった。

 グラメウス大陸へ侵攻したのも、進み足りなかった第4装甲師団の師団長が恩を売る形で魔獣を駆逐しただけに過ぎない。エスペラント王国との接触は、本当に偶然だったのだ。

 

「ふむ……なら良い。今後は失敗を繰り返すな」

「はっ、心得ております」

 

 そう言ってヒスタスパは、皇帝の前から下がって行った。

 

「しかしグラ・バルカスにニホン国、新興国かつ高度な軍事力を擁するとはな。両者とも転移国家とは聞くが、なかなか侮れん」

「ええ、我が国の妨害、魔法帝国復活の妨害になる可能性が有りますな……」

 

 官僚の一人が、今後を示唆するように会話をする。

 

「だが、新興国かつ強国と言う立場は、もしかすると此方の都合が良いように使えるかもしれぬ」

「と、言いますと?」

「奴等は聞けばどちらも転移国、すなわち右も左も解らぬと言う事、それと強国ゆえの傲り易さを活用すれば……逆に工作の一部として機能するやもしれん」

 

 アニュンリール皇国は、各国の国民に化けていたスパイ網から、日本やグラ・バルカスの存在を確認していた。そして転移の混乱がまだ続いているだろう両国に対して、早速策略を張り巡らす。

 

「まず軍部に聞きたい。グラ・バルカス帝国とニホン国、どちらの方が脅威だと思うか?それによって戦略を変える必要がある」

「はっ、それに関しては資料を元に分析が進んでおります」

 

 軍部長官が立ち上がり、話を進める。

 

「まず、国力に関する面ではグラ・バルカスに軍配が上がるでしょう。彼の国は経済力、工業力が非常に高く、高い工業基盤が整っております。対してニホン国もそれなりの工業基盤はありますが、グラ・バルカスほどではありません」

「ふむ……」

「しかし、軍事技術となれば話は別です。資料の24ページを見てください」

 

 高官達が資料を捲ると、そのページには空母ロナルド・レーガンをはじめとした、レイフォリア沖の艦隊が映し出されていた。

 

「これは……」

「この空母の全長は推定330m、排水量は10万トン越えと予想されます。これほど大型の航空母艦は、グラ・バルカス帝国どころか我が国にもありません」

 

 軍部長官は話を続ける。

 

「レイフォリア沖では戦艦などは確認できませんでしたが、これだけ巨大な艦艇を建造する技術を有するとなれば、他の艦艇も秘匿されているだけで相当強力な可能性があります。脅威となるのはニホン国の方でしょう」

「なるほどな」

 

 そこまで言われて、皇帝ザラトストラは顎に手を乗せ策略を巡らせる。

 

「ならば、脅威となるニホン国の方を潰す必要があるな。各国に脅威として情報を流布しよう、ニホン脅威論を少しづつ浸透させ、対抗させるのだ」

「そしてニホンとの関係が悪化した後、キッカケを作り出して戦争へ向かわせる、ですね?」

「ああ、そうだ。これらの策略に関しては、外交部と情報部に一任する。全てを魔帝の復活のため、都合の良い方向へ導くのだぞ?」

「ははっ……」

 

 こうしてアニュンリール皇国は、まず手始めにグラ・バルカス帝国を含め異世界各国のメディアに対して、日本脅威論を少しずつ浸透させる行動に出た。

 さらに日本に対しても、在日外国人に紛れるように日本に潜入し、諜報活動を行ったり、人権団体と在日外国人を装ってのアポを取り始める。

 そして、その魔の手はゆくゆくは日本の財界や政治家達にも──

 




本作では主に日本に関してのあれこれを書くので、グ帝に関しての描写は最小限になります。
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