【朝刊】経済成長率、7年ぶりに鰻登り
『我が連邦全体で見る経済成長率が、5年ぶりに鰻登りとなった。7年前の大幅な増税政策以降続いた成長率の低迷は、国内成長に対する深刻な障害となり、新興国グラ・バルカス帝国の出現も相俟って、ムー連邦の経済力は世界第三位にまで堕ちる結果となった。しかしその景気低迷も、今年で終わりを告げることとなる。
その明るい要因として挙げられるのが、第二文明圏西側に突如出現した新興国、日本国との交流によるものだ。日本国は我が連邦に対して食料を要求し、代わりに高性能な機械製品などを大量に輸出してくれている。食料の買い付け額は世界レートの3倍の価格となっており、日本国の輸出する機械製品は相当な安値。この貿易は我が連邦にとって多大な利益を与え、経済成長を導いてくれたと言えるだろう。
この貿易内容を引き出したのは、ひとえに日本が我が連邦の立場を弁えてくれたからであろう。我が連邦は世界第二位の実力を持つ列強国である。日本は新参者としてこの立場を弁え、我が連邦が得をする貿易内容を提示してくれたのだ。
我が連邦大統領は、今後は日本国との交易を重視していきたい考えを示した。大統領の政治外交手腕は停滞していた経済を立て直し、さらなる高みへ導いてくれるに違いない。
連邦万歳、連邦統一党万歳』
──中央暦1640年2月17日 ムー連邦南部管区 マイカル経済新聞
【朝刊】日本製にNO!各地で不満相次ぐ
『連邦加盟国各地で、日本製品に対するバッシング運動が起きている。理由は明白だ、日本製品があまりにも市場の公正な取引を無視し、法外な安さで労働者層の作る製品を淘汰しているからである。
昨夜夕刻、ランガ共和国内の各地で日本製品に対するデモ活動が行われた。労働者層の不満は日本製品に向けられ、店頭に並ぶ日本製品が次々と壊されていく。だが彼らの行為を暴力だと非難するのは、あまりにも彼らの窮地を理解していない愚か者の意見だと言わざる得ない。
デモに参加した労働者の一人、工場勤務のメラン氏(仮名)にインタビューをした。彼も日本製品に対して恨みを持つ、被害者の一人だ。「日本製が安すぎるせいで、うちの工場は物が売れなくなっちまった。今じゃ工場は閉鎖寸前で、俺たちは家族にパンを与えるのにすら苦労しちまう!」と、彼は日本製に対する怒りを露わにしていた。
これだけではない。日本製品によって仕事を奪われた人も相次いでいる。同じ労働者デモに、食品工場勤務の女性の姿もあった。彼女はつい最近まで地元のパン工場に勤めていたらしいが、工場が日本製の自動機械に置き換わったことにより、リストラされてしまったらしい。「日本製品は、女性が勤められるわずかな仕事ですら奪っていくんです。私たちには仕事がありません、お金もありません。息子を一人で育てるため、一時期は身売りすら考えていました……もう、我慢の限界です」日本製の工場機械は多少値段が張るものの、お抱えの日本人整備士さえ居れば、あとは自動で製品を作ってくれる。女性が勤められるわずかな仕事ですら、日本製は奪っていくのだ。
労働者層の不満は、あまりにも深刻すぎる。しかし政府はそれらの対策を取るどころか、日本との不平等な取引をさらに拡大させる方針である。これ以上、労働者層を締め付けて何をしようと言うのか。日本に骨抜きにされて属国にでもなるつもりなのか。政府の説明が求められる、深刻な事態である』
──中央暦1640年4月8日 ムー連邦北部管区 連邦読読新聞
【朝刊】庶民も手を伸ばせる日本製、その魅力に迫る
『連邦各地では、最近になって入ってきた日本製を持つことがブームになっている。日本製は素晴らしい、メイドイン・ニホンと言う言葉も、最近の流行語だ。
例えば時計、日本製の時計は腕に巻くほど小型化しており、デザインが良く、電池で動くのでゼンマイ式の時計よりも遥かに長持ちする。それでいてゼンマイ式より安い価格で手に入るのだ。今や街のジェントルマンは、全員この日本製を身に着けている。付けてない奴は時代遅れと言わざる得ない。
最近普及し始めた自動車に関しても、日本製が有利である。未来的な流線デザイン、運転しやすい補助技術、航続距離や速度性能に関しても、国内企業が作り出す自動車よりもはるかに洗練されている。時計と同じく、日本車を持つことは、男性諸君における一種のステータスになりつつある。
なにより有り難いのは、庶民でも手が伸ばしやすい価格であることだ。これほど手を伸ばせて庶民でも堂々と買える製品は、連邦国内のどこを探しても見当たらない。流石は日本である。
しかし残念ながら、これらの日本製の素晴らしさがわからない層がいるのも事実だ。中高年を中心とした、労働者層である。彼らは日本製にあまり良い印象を抱いていない様であり、やれ「日本製は仕事を奪う」だの「日本製のせいで物が売れない」だの揶揄しているが、そんな事実はどこにもない。もしあったとしても、それは日本製に追いつく様な良い製品を作れないからであり、どう考えても労働者の技術不足が原因だ。それで不満を持たれる日本製の方こそ、真の被害者と言えるだろう』
──中央暦1640年4月9日 ムー連邦中央管区 オタハイト・タイムズ紙
【朝刊】日・ム合同演習にてトラブル発生か
『昨日、ムー連邦西部軍管区の演習場で行われたニホン国ジエイタイと連邦統治軍による、初の合同演習が執り行われた。しかし、その演習にて両軍の兵士同士によるトラブルが発生した模様だ。
演習に派遣されたジエイタイの隊員と連邦統治軍西部軍管区の兵士が、突如として殴り合いに発展したとの事である。当該兵士達に対しては両成敗として処罰が下されたが、この件に関しての両軍指揮官の弁解が、非常に食い違っている事が問題視された。
ジエイタイ側の指揮官によると、「現場に居合わせたわけではないが、目撃者に聞いた話による」と前置きした上で「最近入ってきた新人隊員に対し、統治軍の兵士たちが体力不足を叱りつける暴言を吐いた事で、隊員達の怒りに触れた」事が原因であるとし、"はらすめんと"なるニホン語を用い、当該の統治軍兵士に対して処罰を求めた。
対して、連邦統治軍の指揮官は「ジエイタイの隊員が演習の足手纏いになる様な行動をとった為、演習終了後に厳しく問いただしただけである」とし、「ジエイタイの隊員は新人が多く、軍隊として弛んでいる。それなのに上官はそれを叱りつけ叩いて直すどころか、それを良しとする風潮が見られた。これでは実戦でも足手纏いになる」と厳しく非難した。
判決については今後の会議などを待たなければならないが、この一件が有事の際の両国軍の関係性に対し、大きな亀裂を呼ぶ様な事態にならなければと切に願うばかりだ』
──中央暦1640年6月11日 ムー連邦中央管区 チャーチワード・ポスト紙
日本国 岡山県
民間人に銃を向けてしまい、自宅謹慎を言い付けられた犬神剛は、しばらくの間実家に帰省していた。
彼の実家は洋食料理店だったが、案の定帰省して数ヶ月後に店が破壊される被害に遭ってしまった。両親は家の片付けをしていて、犬神剛は避難先として祖父の家を頼る事となった。
祖父の家は、地元の名士だけあって大きな武家屋敷である。広い敷地内には空き部屋も多いため時間を持て余してしまい、彼はリビングでテレビをみていた。
そこへ祖父が敷地内の剣道場に来るように誘ってきたので、頼っている身の犬神は断る事なく剣道場へ向かった。
このところ、犬神は葛藤していた。世間では犬神ら自衛隊員は英雄視され、陳情書が大量に送られているが、実家が破壊されてショックを受けていた。
何故か矛盾する二つの出来事を受け、犬神の心は何が正しいのかわからなくなっており、このところむしゃくしゃしていた。剣道場で藁の人形を必要以上に痛めつけたこともあったが、それでも気持ちは晴れなかった。
剣道場に入ると、祖父は仁王立ちで待っていた。開口一番、犬神のやらかした出来事について言及する。
「剛や、外地で散々やったらしいのぅ」
「じ、じいさんなぜそれを!?」
「ガッハッハッハッハッ。なぁに、霞ヶ関にはワシの知人がまだおるし、大企業にはワシの過去の部下もおる。情報なんてものは手に入れようと思えば何処からでも手に入るものじゃ」
祖父は高笑いしつつも、犬神に座るように促す。剛の前で胡座をかく祖父、剛もまた彼につられて同じように胡座をかいた。
彼はもう90歳を超えている老人だと言うのに、未だに剣道を続けている。腕前も腕力もかなりの上級者で、幼い頃は剛にも剣道を教えていた。
さらに持ち合わせている顔の広さや、頭の回転の速さから、一部の口さがない者からは鬼だの妖怪だのと言われているらしい。本人はそんな事気にする素振りなど全くないが。
「で、なんだよ?説教したいのか?」
「ガハハハッ、まぁ、そうひねくれるでない」
祖父は高笑いしつつも剛を宥め、話を続ける。
「最近は何だかキナ臭くなっとるのぅ…」
「あぁそうだな……」
「まるで、ワシが若い頃の時みたいじゃ…」
祖父が言う若い頃とは、即ち太平洋戦争より前の事を指す。今日本が置かれた状況とはいささか違うかもしれないが、それでも世の中が大きく揺れ動いた事には変わりない。
「剛や、鬼とは何処に居ると思うかの?」
「また禅問答か?じいさん」
「ガッハッハッハッハッ……」
「はぁ………」
呆れる剛をよそに、祖父は答えを出す。
「ワシはのう、鬼とは心の中に居ると思う」
「そりゃまぁ、哲学的なこって」
「時に差別や偏見と言うのは、心の中の鬼が表面化して出てくるものじゃと思っとる。表面上では何か大義の為、何かを守る為じゃと大層な事を言うがそうではない」
祖父は話を続ける。
「自分の人生が上手く行かないから、それを誰かのせいにしたい。自分が何らかの原因でむしゃくしゃする……要するに不愉快だと思うからこそ蓋をしたい。自分が優位に立っているから、その力を存分に振るいたい。仲間がやっているなら、自分もやっても良いだろうと魔が差す…………差別の原因なぞ、実の所は些細な事じゃ」
確かに……と剛は思う所があった。
つい二日前、友人の洋食料理店を破壊した犯人が逮捕された。その犯人はそんじょそこらの主婦であった。彼女は始めの方は日本の為、被害者遺族の為だと大層な事を言っていたが、警察の調べによると事実は違ったようだ。
家庭内でのトラブルでストレスを抱えていた所を、偶々「異世界狩り」のネットニュースを発見し(ただし一社しか報道しなかった所に、世間の関心の薄さが伺える)、都合よく自分の不都合を異世界のせいへと転嫁、そして洋食料理店を襲ったのである。
「問題はその鬼にどう向き合うか、それが肝要じゃと思うのじゃ」
「そりゃなんだい?鬼退治でもするのか?」
剛の言葉を聞いて、祖父は静かに首を降る。
「そんな事は無理じゃ、鬼と言うのは心を持っているならば無限に出てくるものじゃ」
ならどうするべきなのか、剛が疑問に思う。
「じゃあ、どうするんだ?」
「肝心なのは向き合うかと言うておろうが。鬼もまた自分、自分もまた鬼。自分を理解し、尚且つそれをどう受け流すのか、どう対処するのかを考えるのがが大事じゃ」
祖父は剛に対し、言い聞かせる様にそう言う。
「自分の心の中の鬼にはなってはならぬ、決して鬼にはなってはならぬ。その時、人は敗北するものだ……」
「…………」
「剛よ、お前には心の鬼に負けぬ強さを持って欲しい。決して鬼に呑まれるな、お前は強い、必ず打ち勝てる筈だ」
「……わかったよ、じいさん」
剛が納得したのかしていないのかは分からなかったが、そう言って話を終えた。それでも何か心の変化があったのか、剛の目つきは変わっていた。
剛が去った後、祖父はふと、壁に掛けてある写真を見る。自分も立ち上がり、その壁の写真に相対した。
「白瀬艦長……申し訳ございませぬ。まさか艦長がお守りとなった両方の世界がこの様な形で再会し、尚且つ憎しみ合う事となろうとは……」
壁にかけられた写真はかなり色褪せているが、それでも白黒写真なのが見て取れる。
「ですが、必ず人々は理解し合える……ワシはそれを確信しておりまする。せめて……せめてその時まで日本を見守ってくれはしますまいか……艦長?」
それは、とある大戦艦の甲板で撮られた数少ない写真であった。中央に座るのは艦長だろうか、その両脇に居るのは戦艦の幹部達である。
そして海軍少佐の階級章を付け、カメラに微笑んでいるこの戦艦の砲術長は、どことなく犬神剛と風貌が似ていた。
同日午後
日本行政レイフォル特別区
「はぁ……ったく。桁を間違えただけであんなに怒る事ないだろ……」
工場事務員のブライツは、今日も深夜遅くまでの残業を経て酒場「列強酒」にたどり着いた。
王宮騎士団でありながら日本との戦争で運良く生き残った彼は、日本の統治下になった後、文字の読み書きができるという事で日本の工場の事務作業を任されていた。
嫌味な日本人の上司に叱られつつ、苦労しながら"ぱそこん"という機械の使い方を何とか覚え、王宮騎士団の頃では考えられなかった書類仕事ばかりを行っている。かつて騎士団で随一の銃剣使いであった頃の栄光は、もはや過去のものだった。
「おやじ、エールとリゾットを一つ頼む!」
「あいよ!」
レイフォル人の店主に注文を行うと、ブライツは適当なカウンター席に座った。店主は最新の日本製機械を使い、料理の準備を始める。
「おや?誰かと思えばブライツじゃないか!」
「あ、お前は確か……」
後ろから声をかけられたのを聞き、ブライツは後ろを向く。後ろの席にはブライツと仲が深かった友人、王宮騎士団の頃の同僚がいた。
彼はブライツを見つけると、連れに断って席を立ちブライツの居るカウンター席へと移動した。
「久しいなブライツ、元気にしてたか?ってか、生き残ってたんだな」
「勝手に殺すな、この通り五体満足で生きている。今は仕事も得ているしな」
「仕事って……日本の?」
「ああ……まあな」
日本という言葉が出て来た時、彼はなんだか暗い顔をして「そうか」とばつの悪そうに言った。
ちょうどその時、ブライツの頼んだエールとリゾットが新鮮な状態で出てきた。それを見て、元同僚は手に持つ半分だけ残ったエールを掲げる。
「まあ、まずは乾杯でもしようや」
「ああ、乾杯」
キン、と言うグラスの音と共にブライツはエールを喉に押し込む。日本製の冷蔵庫により、歯が痛くなるほど冷えたエールは疲れた体に染み渡った。
それからリゾットもスプーンで掬い、口にする。経済的な問題故か、前より量こそ減らされているものの、柔らかなチーズの風味と米の食感が口に広がり、疲れた身体のエネルギーとなる。
リゾットを一口食べてから、ブライツは言葉を話し始めた。
「レイフォルは戦争に負けたんだ。だから俺は食い繋ぐために日本企業に入った。待遇はクソ悪いがな……」
「まあ……そっか。そうだよな、俺たちは戦争に負けたんだ」
「お前の方の職はどうしたんだ?それとも軍人を続けてるのか?」
「まさか!日本軍は日本人しかなれないっての!……今はレイメビウス商会の下で働かせてもらってる。下っ端の安受けだがな」
そうか、確か彼も文字の読み書きができる人間だった。だからレイメビウス商会にも入れたんだと、ブライツは懐かしい様に思い出した。
「日本企業の元で働かなかったのか?」
「やだよ、あんないけ好かない戦勝国の下で働くのは!俺にもまだ、レイフォル人としての誇りがあるんだ」
「そうか……まあ、確かに日本企業の働き方よりはマシかもな」
日本企業の働き方は残酷なもので、とにかく一日中働かされる。
ほとんどが肉体労働ではなく書類仕事などの業務なのだが、これもこれで疲れる上、一日中座りっぱなしで血流が悪くなる事この上ない。
しかも待遇や給料はあまり良くなく、お勧めできる仕事だとは思わなかった。
「と言っても、レイメビウス商会も日本の製品扱ってんだがな。俺も似た様なもんだよ」
「今や、レイフォルで日本の製品が見えないところは無くなったから、どこも同じさ。この酒場ですらもな」
ブライツは腐してそう言うが、本当は今のレイフォルの現状があまり好きではなかった。
確かに日本は戦勝国にしては優しすぎるくらいの政策をしているが、それでも戦勝国面して好き勝手しているのは変わりない。あからさまにレイフォル人のことを見下すし、些細な事で厳しく叱咤する。
日本企業に事務仕事で一日中働かされる自分を見れば、余計にその現実を思い知らされた様な気分だった。
「本当やだよ、あいつらまるで俺たちの全てを否定するかの様に、何でも介入してきやがる。あれも、これも、ドアも壁も何でもかんでも日本製。いずれは空気まで日本製になるんじゃないかって、うちの上司も笑ってた」
「はははっ、違いないな」
「日本人も酷いもんだぜ。俺たち外国人をこき使って、商談の時も見下してる。今日も俺たちとの商談の最中、こんなあからさまな新聞広げてやがった」
そう言って元同僚は、上質な紙に印刷された新聞を手に持ち、それを邪魔にならない程度に広げた。
「"こんびに"の前で同じの貰って来たんだがな……酷いぜこれ。俺たちの歩き方、顔、性格を否定し、果てにはペンの持ち方まで修正するべきだ、と書いてやがる。こいつは日本に買収された日本人向けの新聞で、俺たちの事を平気でこき下ろしてるんだ」
「そうだな……酷いな」
取りあえず、肯定したブライツに気を良くしたのか、はたまたアルコールが入ったせいなのか。元同僚は更に続けて饒舌に話し始めた。
「他にもまだあるんだぜ、つい先日レイフォル国立博物館に活動家が入ってきて、館内の美術品を壊しまくっていたらしい。」
元同僚が言うには真偽こそ不明だが、その活動家のバックは日本の情報機関であり、「レイフォル革新青年連盟」を名乗る若者達が、資金提供を受けて武器を購入。博物館だけでなくレイフォルの文化人や芸術家と言った、レイフォルの文化に携わる人物への暗殺や襲撃を行っているとのこと。
「風の噂じゃ、日本の情報機関はこの作戦を「対文明作戦」と呼んでいるらしいぜ」
「へぇ………それはそれは御大層なこって……」
ブライツは疲れた様にそう言った。しかし、元同僚はその態度に何か気になる事でもあるのか、さらに深掘りしていった。
「……なあ、お前はどうも思わないのかよ?日本人は俺たちレイフォル人の全てを否定して、従属させようとしているんだぜ?悔しいと思わないのか?」
「そうは言っても……日本にはもう勝てないだろ。レイフォリア沖の日本艦隊、駐留している陸上戦艦みたいなバケモノ、空を巡回する鉄の飛行機械……俺たちの全盛期でも勝てなかったんだ、今更どうしろって言うんだ?」
「……それでも戦うんだよ。偉大なるレイフォルのために」
そこまで聞いて、ブライツは元同僚に何かあるのを察した。そして彼がブライツを誘おうと、芝居を打っている事も。
「(ああそうか、お前は未だに王宮騎士団なんだな)」
そこまで察したブライツは、なるべく急いでリゾットと酒をかき込む。
「なんだよ、どうした?」
「すまん。今日は早く寝なきゃいけないのを思い出した」
「おいおい。なあ、せっかく久しぶりに会ったんだからもう少し話をしても……」
彼が言い終わるのを待たず、ブライツは財布を取り出し店主に代金を支払った。
「……すまん、また会ったらな」
「……わかった」
そう言ってブライツは上着を着て、そのまま店を出た。そろそろ冷え込み始めたレイフォリアの空を仰ぎ、前へと進み始めた。
レイフォリアの市街地はだいぶ復興していた。ニホンがこの地域を安定化させ、植民地として利用するにあたって、現地の復興は最優先だったからだ。
その街並みには、日本人も多く見られる様になった。彼らは主に開拓会社のビジネスマンやセールスマンたちだ。
ブライツが彼らを横目に見たその時……後ろの酒場から怒号が聞こえて来た。日本語だ。それを認識した際、ブライツは後ろを振り向いた。
「待て、逃すな!!」
「逮捕しろ!!」
そこには先ほどの元同僚が、警察官に囲まれ確保されていた。何事かと思い、それを凝視してしまう。
「やだわ……またレイフォル人の地下組織よ」
「よかったなぁ。テロ起こす前に逮捕されて」
周りの日本人がそう言ってヒソヒソと噂するのを聞き、ブライツは全てを察した。どうやら酒場に警察官が訪ねて来て、元同僚を捜しに来たらしい。そこから逃げようとした元同僚は、あえなく警察官に捕まったという事だ。
警察官は手錠を手に取り、暴れる元同僚を押さえつける。その時、彼の涙に滲んだ目線がブライツと合った。
「助けてくれ……頼む……!」
ブライツは元同僚の最後を見ていられず、顔を背けた。そして、元同僚が手錠を嵌められ逮捕されるのを尻目に、ブライツは逃げるように家への帰路を急いだ。
「(悪いな友よ、俺は前に進まなくちゃならないんだ)」
西から登って来たギラついた太陽に、国ごと侵食されるレイフォル国。そんなご時世でも、元王宮騎士団ブライツは前に進むことを決意した。