新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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今回はちょっと長めです。
やりたいことがこの章の間に入ってきた感じなので、ちょっとはっちゃけます。


第十七話『ソラの目線』

日本国 種子島宇宙センター

 

 日本の宇宙への玄関口、種子島宇宙センターのロケット発射台にて、一台の巨大なロケットがリフトオフを待っていた。

 このロケット、全体的な大きさが前任のH2A、H2Bロケットよりも一回り大きく、そしてブースターの数も多い。

 これこそが、日本国が開発した新型衛星打ち上げシステム、H3ロケットである。

 転移に伴い、衛星軌道上への打ち上げが困難になった前任のH2A/Bロケットに代わり、新世界の惑星の重力環境に合わせるべく急ピッチで開発された新型ロケットだ。

 

『3……2……1……リフトオフ』

 

 そのH3ロケットの1号機が、この日やっと打ち上げられた。新型エンジンが莫大な燃料を燃やし、数百トンに達する巨大なロケットを発射台から持ち上げ、空へと登らせる。

 貨物室の中には4基の偵察衛星が搭載されており、この新世界の惑星の軌道上に展開し、地上を監視する任務を帯びている。

 さらに衛星には、軍事用GPSの装置も組み込まれており、配備が進めばGPS誘導兵器の使用も可能になる。転移により環境が大きく変わった日本にとって、衛星の配備は急務だった。

 

『テレメーター、ロケットの現在位置を再確認。現在順調に上昇中』

『間も無くブースターのジェットソンに入ります』

 

 H3ロケットは順調に上昇を続け、その様子は地上の管制室でも随時チェックされ、異常が無いか監視されている。

 そして第一段のロケットブースターを切り離す高度に達すると、地上管制が機械を操作する。

 

『第一段、ブースターをジェットソン(切り離し)!』

 

 H3ロケットの側面に四基取り付けられていたブースターが、まるで花びらが開くが如き美しさで切り離され、地上へと落ちていく。

 身軽になったロケットは、残りの燃料を使ってなおも上昇を続ける。やがて第一段が切り離され、さらに高い高度へと登っていく。

 ロケットは今のところ異常なく、順調に上昇を続けていた。その様子は、ロケットに取り付けられたカメラからでも確認できる。

 

『第二段、燃焼終了』

『第二段をジェットソン(切り離し)!』

 

 第二段のロケットも切り離され、さらに身軽になったロケットは、既に宇宙空間に飛び出していた。広大な新世界の宇宙が広がり、眼下にはこの新しい惑星の様子がよく見えた。

 

『衛星軌道への展開を確認。貨物室、開きます』

 

 貨物室のカバーが展開され、衛星が露出する。それらは遠心力の力で宇宙空間に飛び出すと、予定の周回軌道へと飛び乗った。

 

『ミッション終了。ロケットは回収ポイントへ』

 

 こうしてH3ロケットの初打ち上げは成功を収め、衛星4基が展開された。これにより日本は、第二文明圏の付近を監視し続ける能力を手に入れたのである。

 だがH3ロケットの仕事はこれでは終わらない。

 さらに民間のGPSやインターネット衛星などなど、H3ロケットが打ち上げるべき代物は沢山あった。新世界への転移により、衛星網を全て失っていた日本は、その回復に尽力しなければならない。

 宇宙開発機構の仕事は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

日本国 市ヶ谷 防衛省

 

 新世界において、初めて衛星が打ち上げられてから数日ほど。日本の首都東京、市ヶ谷にある防衛省にて、自衛隊の幹部らが会議室に集まっていた。

 薄暗い部屋の中、空自の士官の1人が口を開き、幹部達にある作戦の許可をもらうべく説明を行なっている。

 

「……つまり、グローバルホークでの積極的な偵察行動を行いたい、と?」

「はい。かいつまんで言うとそのようになります」

 

 幕僚長の疑問符付きの言葉に、この作戦を提唱した空自の幹部は頷いた。彼の手には資料があり、その背後には偵察衛星が捉えたこの世界の()()()縮図がモニターに映る。

 

「場所は第一文明圏か」

「はい」

「当たり前の疑問だが、何故偵察する必要があるんだ?」

 

 幕僚長が第一に唱えた質問に対しては、空自の幹部がそのまま答える形となった。彼は指揮棒をカチャカチャ音を立てて伸ばすと、表示される地図に指を指す。

 

「まず、この世界においていきなり外交コンタクトを取るのは、今までの経験からすれば不安が残るでしょう。ムーの場合は大丈夫でしたが、それでも護衛を入れることは固く断られていました」

「まあ確かに、我々が警戒されているのは事実だ。だが何もしなければ、パガンダやレイフォルの二の舞となる可能性も高い」

「そうなんです。なので、相手国の事前の情報収集というのはかなり重要になってくるのですが、ミリシアルに関しては()()()も現地入りできていないようでして、現地の状況は全く不明な状態なんです」

 

 情報省、という言葉には自衛隊の幹部たちも合点がいったのか、顔色を変える者がいた。

 

「そこでその情報省から直接空自にご依頼がありまして、"ミリシアル帝国などの第一文明圏の国々に対し、偵察機を用いて情報を集めて欲しい"との事なのです」

「なるほど、情報省からの頼み事だったのか……そりゃ、断れんなぁ」

 

 情報省とは、日本国内にて散らばっていた既存の各情報機関を統合する形で発足した、日本最大の国家情報機関である。

 日本国の転移にともない、同盟国などからの情報の入手が不可能になったことや、転移直後の情報不足がパガンダやレイフォルでの悲劇を招いたことから、積極的な情報収集と工作活動を行える機関として発足した。

 職員は5000名ほどで、省庁としての歴史はデジタル庁に次いで最も浅いが、日本最大の情報機関ということもあり、発足後間も無いにも関わらず発言力を増している。

 

「しかし、何故わざわざグローバルホークを使いたいんだ?偵察衛星を待つんじゃダメなのか?」

 

 今回偵察に使うのは、"RQ-4グローバルホーク"と呼ばれる無人偵察機だった。

 元々転移直前に三沢の米軍基地に置いてあったものであり、それを確保した日本は製造会社の日本法人にアクセスし、ライセンス生産権を得たのである。その後は航空自衛隊で運用される運びとなり、現在9機が運用されている。

 

「情報省としては、今月中に現地入りを果たしたいとの事なので、偵察衛星は待っていられないとの事です」

「急ぎすぎじゃないのか?」

「まあ、それはわかります。ですが偵察行動を行えばミリシアル空軍の混乱を誘えますし、あわよくば国内がゴタゴタになっている間に現地入りできそう、との事なのです」

「なるほど、事情はだいたい把握した。それで、問題はミリシアル空軍の防空体制だが、そこはどうなんだ?」

 

 幕僚長が質問すると、それには別の士官が手を挙げ、答え始めた。

 

「ミリシアル空軍については、ムー連邦統治軍にて資料が見つかりましたので、こちらをご参考にさせていただければと思います」

 

 士官にそう言われ、幹部達の手元に新しい資料が配られ始めた。ムー連邦統治軍から交渉で入手した情報のようであり、かなり分厚い資料である。

 だが意外なことに、この資料の要点のほとんどは、最初の数ページに書いてあった。

 

『ミリシアル帝国帝立空軍についての第一次資料(情報省提供)』

・帝立空軍についての概要

 ミリシアル帝立空軍とは、神聖ミリシアル帝国が保有する近代空軍の正式名称である。この世界の歴史上最初の近代空軍と言われており、ワイバーンから航空機への転換により近代化を果たしている。そのため、ムー連邦統治空軍よりも若干歴史が長い。

 その形態は多少の差異はあれど、第二次大戦期のイギリス王立空軍が保有していた編成、運用、ドクトリンとよく類似している。

 

・帝立空軍の諸戦力

 ミリシアル帝立空軍の主戦力は、『天の浮舟』という、ジェット機に類似する魔法由来なエンジンで推進力を生み出し、飛行している航空機が主戦力である。

 しかし、その性能は日本国内で保有する第四世代ジェット戦闘機よりも低く、脅威とならないことが判明している。

 以下、帝立空軍が保有する戦闘機の概要である。

 

・エルぺシオ3

 神聖ミリシアル帝国が開発、運用を行う制空戦闘機型天の浮舟。制空戦闘機"エルペシオ"シリーズの最新型であり、その能力は世界最強とも言われているが、その実態はかなりの低性能と言うことが判明している。

スペック

乗員:1名

動力:魔法由来擬似ジェットエンジン×1発

最高速度:時速530km以上

巡航速度:不明

武装:翼内機関砲×4丁

 

・ジグラント3

 神聖ミリシアル帝国が開発、運用を行うマルチロール型天の浮舟。主に爆撃機、攻撃機として運用されており、こちらも現行の第四世代戦闘機には遠く及ばない。

スペック

乗員:1名

動力:魔法由来擬似ジェットエンジン×1発

最高速度:時速510km以上

巡航速度:不明

武装:翼内機関砲×2丁、950kg対艦爆弾×1

 

・帝立空軍の防空体制

 帝立空軍の防空体制は、第二次世界大戦期のイギリス王立空軍とよく類似している。編成は戦闘機軍団が基準であり、各地域ごとにセクターを振り分け防空を行う。

 しかし戦闘機以外の防空能力に関しては低いと言わざるを得ず、わずかな高射砲、20mmクラスの機関砲、そして魔力を逆探知するレーダーを配備するのみである。

 以上の事柄から、航空自衛隊によるミリシアル防空圏の突破は現代戦よりも遥かに容易であり、偵察行動は問題ないと言えるだろう。

 

 というところまで読み終えて、幹部達はミリシアルの防空能力の低さに愕然としたのか、それとも警戒していた事で拍子抜けしたのか、ため息をついた。

 

「……なるほど、どうやら心配は無用のようだな」

「ジェット機と聞いて少し心配したが、杞憂のようだ。グローバルホークは巡航でも時速600kmを超えるから、ミリシアルの戦闘機では追従不可能だろう」

 

 資料を見て安心したのか、幹部の作戦は承認されそうな雰囲気となり、場の緊張が和む。

 

「にしても、防空体制があまりにザルすぎるな。こんなので世界最強の覇権国家を名乗っていたのか?」

「まあ、これに関しては周りのレベルが低すぎるが故、本土まで攻め込まれた経験がなかったからなのでしょうよ」

 

 幹部達も不安が解けたのか、口々にミリシアルのことをこき下ろし始めた。これを本場のミリシアル人が聞いたら憤慨ものであるが、そんなの気にしないと言わんばかりである。

 そんな幹部達の様子を見て、最初の言い出しっぺも苦笑いするしかなかった。

 

「それから、ミリシアル帝国という国はそれ自体が過去の遺産から発掘した兵器を使用しているとの事なので、もしかするとコピー品ばかりで技術の本質を理解していないのかもしれませんね」

「そうなのか。まあ、とにかくグローバルホークが撃墜されてそのまま鹵獲されるような事態は無さそうだな。間違ってもそういうことになるんじゃないぞ?俺たちの技術や素性が判っては、たまったもんじゃない」

「心得ております」

 

 少し時間はかかったが、こうして第一文明圏への偵察行動は承認される運びとなる。

 近日中、日本政府はムー連邦政府にグローバルホークがムーの領空を通る許可と、空港を使う許可を得た。

 これにより日本のグローバルホークは、レイフォル国内に建設された基地から空中給油を用い、第一文明圏まで移動できる手筈が整ったのである。

 

 

 

 

 

 

レイフォル特区 レイフォリア港

イルネティア王国軍使節 ライカ&イルクス

 

 この日、イルネティアの至宝たるライカとイルクスは、イルネティア島から船を乗り継ぎレイフォリアの港にたどり着いた。

 長い船旅、とは言っても日本製の鉄鋼船を用いての航行だった為にそこまで時間はかからなかったが、ライカはともかくイルクスは狭い船室で寝るのにも苦労していたのか、到着してからすぐに体を伸ばした。

 

『くぅ……うーん、やっと着いたぁ……』

「イルクスお疲れ様、もうレイフォリアの港だよ」

 

 ライカはクンクンと鳴くイルクスを撫で、長旅の疲れを癒すべく一玉の林檎を用意し、イルクスの口元に持ってくる。

 イルクスはライカが手に持つ林檎を歯で器用に掴むと、それを空中に放り投げ、口で再びキャッチした。

 

『うーん、ここがレイフォリアなの?なんか、港が随分とカチカチの土で覆われているけど……』

 

 イルクスは日本国が開拓しコンクリート固めになったレイフォリアの港を見て、率直かつ客観的な感想を漏らす。

 

「そうねぇ、多分ニホンの人たちが開拓したんじゃないかしら?こういう巨大な鉄の船が行き来できるようにさ」

『ああ、なるほどぉ!だからなんだね!』

 

 ライカの説明に納得したのか、イルクスは大きな声を出して納得した。

 

「…………」

 

 だが、その声は他の日本人の船員たちにも聞こえているのか、周囲で作業に入り始めた日本人船員が訝しむような顔をした。

 ライカはそれを見て、苦笑いを挟むしかなかった。

 

「アハハ……」

 

 この船の日本人たちは、最初は言葉が通じ、喋ることができるイルクスに驚き、相当怖がっていた。だが危害を加えられることが無いと解ると、こうして周囲で作業をし始めたのである。

 だがイルクスから聞こえる声は、やはり日本人たちからしたらあまり馴染みがないのだろうか、こうして距離を置かれているのが現状だ。

 

「でも、ニホンの人たちってすごいね。こんな大きな鉄鋼船を作れて、毎日運行できるなんて」

『そうだねぇ、それだけ国が豊かで凄いってことだよ。イルネティアからここまで来るのも、あっという間だったし』

 

 イルクスはそう言うように、二人は日本人の持つ技術力に関心を抱いていた。

 彼らをイルネティアから数日で運んできたこの鉄鋼船は無論のこと、日本はイルネティアを開拓し空港を建てる高い技術力と工業力を持っており、それは二人の生活も大きく進歩させていた。

 家には水や電気と言う文明の利器が通るようになり、家に残った祖母の生活もだいぶ楽になっていた。ライカとイルクスも、日本の農園から輸入された林檎などの食材に舌鼓を打ち、日本にはだいぶ感謝していた。

 

『でも、流石に僕を"荷物扱い"するのは酷いと思ったよ!僕は荷物じゃなくて、竜なんだよ?生き物なんだよ?』

「アハハ……」

 

 だがまあ、文化や認識の違いという壁は高い模様であり、日本人との意思疎通はかなり難しかった。ライカ自身、日本人とは仲良くしたいと思っているが、それも難しかった。

 さて、そうして会話を挟む間にライカとイルクスの乗るフェリーがコンクリートの桟橋に止まり、係留作業を始めた。

 

『さて、ライカ……合同訓練の事だけど……』

「わかってる。まあ、気持ちの整理はついているから」

 

 イルクスはライカを気にかけるようにそう聞いたが、ライカには余計なお世話だったのか、顔を伏せながら小さく呟く。

 今回二人がレイフォリアに来たのは、近日中に行われる第二文明圏各国の合同演習への参加のためである。日本とムーが主導となって呼びかけた合同演習で、第二文明圏の各国ほぼ全てが参加する大演習、との事だ。

 ライカとイルクスは、イルネティアの代表からぜひ参加するようにとお願いされていたが、イルクスを戦いに巻き込むことを憂慮するライカは、返事の最終日まで決断できないでいたのだ。

 

『僕は大丈夫だから。国を守るには、戦うことも必要だから、その覚悟はできてるよ』

「うん……」

 

 結局、ライカは祖国の国益を鑑みて参加を決意したが、その決意の揺らぎが、何か悩み事につながっているのではないかと思い、イルクスは心配だったのだ。

 

「で、ライカ。僕はどうやって船から降りたら良いのかな?」

「えっ、ああ……」

「アレみたいになるのは嫌だよ、僕……」

 

 イルクスが指差すのは、フェリーに積まれた木箱の見下ろし作業の光景だった。おそらく、あんな風に体を縛られた状態でクレーンで吊り下げられるのが嫌なのだろう。

 

「飛べばいっか」

『うん!やっぱりそれが一番!』

 

 イルクスが喜ぶのを見つつ、ライカはイルクスの背中に備えた鞍に登り、騎乗した。

 そしてそのまま空が見える甲板にまで出ると、翼を羽ばたかせてホバリングの体制に入る。通常のワイバーンはホバリングはできないが、イルクスはライカの長年の連携により、出来るようになっていた。

 

「あっ!お、おい!」

「皆さんお世話になりましたぁ!!」

 

 周囲にイルクスの作り出す風圧が流れ、船員たちが困惑し、二人を引き留める。だがライカとイルクスはそれを尻目に、レイフォリアの空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国南岸 セントレア海

日本国航空自衛隊所属 RQ-4グローバルホーク

 

 セントレア海、という海域が存在する。第一文明圏のミリシエント大陸から、第二文明圏のムー大陸の間に広がる広大な海域のことを指し、そのまま南方世界まで通じている。

 その広大な海域の最中、青く広がる視界の中、海鳥が飛ぶよりも遥か高高度にそれは居た。大きめのテーパー翼と、滑らかな流線型の表面を持つ無人偵察機──日本国航空自衛隊のグローバルホークであった。

 グローバルホークに描かれていた『航空自衛隊』を表すマークやラウンデルは全て消され、明らかな所属不明機を装ってミリシアルの海域に近づいていく。

 日本が実行したこの作戦の概要として、偵察目標はミリシアル帝国の南岸とされた。

 グローバルホークはムー大陸東岸の空港から離陸し、海上での空中給油を挟んでそのままミリシアル国内を巡って引き返す手筈であった。空中給油を挟めば、グローバルホークの長大な航続距離を用いて充分な偵察ができると予測されていた。

 

 さて、これと相対するミリシアル帝立空軍の対応は、非常に怠慢だった。

 

 ミリシアルにおいて、防空目的の空軍部隊の立場は低い。何故なら、実戦が発生しないからである。

 世界最強の国家として認められ、その発言力が非常に大きいミリシアル帝国は、敵に攻められ本土が戦場になるというシチュエーションが発生しない。

 ミリシエント大陸の周辺国家は軒並みミリシアル帝国に反旗を翻す実力はなく、唯一それが可能なエモールでさえ、ミリシアルとは関係が深く争いなど起きそうにもない。

 強いていうなら、彼らの敵は彼らのインスピレーション元である古の魔帝である。ミリシアルは魔帝以外を敵としてみておらず、同格との戦い方を知らなかったのだ。

 結果として、ミリシアルの本土防空の体制は非常にザルだった。

 敵も攻めて来ない、仕事もない、訓練も予算もないとなれば、職務のやる気は散漫。戦闘機の稼働率はみるみるうちに下がり、パイロットの飛行時間も目減りし、頼みの綱の魔力探知レーダーですら、レーダー網に穴がある状況だった。

 重要都市の防空部隊や、海外展開を行う部隊などはこのような事態には陥らず、高い練度と稼働率を維持し続けているが、それは彼らがエリートコースを進んだ上級部隊だからである。そこからあぶれた殆どのパイロットは、本土防空の部隊に配備されているのが現状だ。

 それでも今までずっと問題が無かったというのだから、この国がどれだけその地位にあぐらをかいていたかがよく分かるであろう。

 そしてこの日、ついにグローバルホークがミリシアル本土の領空に侵入して来たが、職務怠慢なミリシアル本土防空部隊はいつも通りの怠け具合であった。

 それが、大事件を引き起こすとも知らずに……

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国領南西部 バネタ地区

帝立空軍 本土防空軍 第19魔導監視群

 

 神聖ミリシアル帝国、帝立空軍の魔導探知レーダーの監視員達は、非常に暇だった。魔導探知レーダーの監視塔の中には数名の監視員と、一人の指揮官がいるのみであり、監視塔もボロボロでしばらく建て直されていない。

 第19魔導監視群は1基の魔力探知レーダーと、目視で敵機を探知する観測所が二つ、そして最低限の地上防空部隊と、この監視塔のみの小規模な部隊である。この小さな部隊が、ここバネタ地区の対空監視を任されていた。

 

「ようっし!また俺の勝ち!」

「あーあ、まーた負けたぜ」

「お前強すぎな。イカサマでも使ってるんじゃねぇか?」

「…………」

 

 第19魔導監視群の監視指揮所にて、空軍監視員の士官の一人は憂鬱だった。

 集中力を保ち、一向に目立ったものが映らないレーダーの画面をずーっと見ながら、所属不明の機体が侵入してこないかを監視している。何時間も、ずっと。

 だが後ろではやる気のない部下たちがポーカーをして遊んでおり、それが士官の神経を逆撫でてしていた。聞いていて良い気分ではないので、後ろを向いてやる気のない部下たちに注意する。

 

「お前ら、真面目に仕事しろ。ここでの賭け事は禁止だ」

 

 士官はコイツらを怒鳴りつけてやりたい気分を極力抑え、最低限の厳しさで彼らを注意した。だが、叱られた部下たちは素知らぬ顔でヘラヘラ笑い、士官に口答えした。

 

「えー、なんでですか監視長。こんな暇な画面眺めてても、つまらんだけですよ?」

「そうですよ。娯楽もクソもないんですから、色々やったって良いじゃないですか」

 

 その退屈な気分は解らないでもないが、そうさせるわけにはいかないので、士官は注意を続ける。

 

「あのなぁ、お前ら、俺たちは本土防空軍だぞ?この画面を見て、所属不明機が本土に現れないかを24時間見張り続けるのが俺たちの使命だ。つまらないとか、そういう問題じゃないだろ」

「とは言っても、ここは都市もないクソど田舎で重要度は低いんじゃないっすかぁ?」

「そうっすよー。俺たちがこんなとこ監視して、何の意味があるんですかー?」

「…………」

 

 彼らはそう言って田舎に配備されたことを腐して言うが、士官だけはここがそれなりに重要な場所だと知っている為、反論を続けようとした。

 だが、それは出来なかった。この場所が重要である意義は、軍にとっても国家にとっても重要機密にあたるからだ。それをこんな口に戸が建てられないようなチャランポランな連中に教えるわけにはいかない。

 そう思い、士官は最後にため息をついて反論をやめてしまった。そしてそのまま、本来なら部下たちがやるべき魔力探知レーダーの監視作業に戻る。

 

「はぁ……」

 

 士官は再びため息をつく。

 まあ、彼ら部下たちの言い分も解らないわけではない。彼らは元パイロット志願だったらしいが、試験落第した結果この辺境の本土防空軍団に配備される結果となったらしい。

 パイロットを夢見て空軍に入って、夢叶わずこんな辺境に流され、何も映らないレーダー画面を見続けるだけの仕事では、そりゃ愚痴の一つも吐きたくなるだろう。

 士官が頭に手を付きながら、再びレーダーの画面を見た。切り取られた水晶板を用い、そこに魔力を流し込むことでレーダーの情報を表示するこの画面には、未だ何も映ってない。

 だが画面を確認したその時、士官の座る椅子の隣に置いてある魔導電話に、コール音が鳴り響いた。定時連絡はまだ早く、昼休憩の合図でもない。何事かと思い、士官は素早く電話を取った。

 

「もしもし、こちら第19魔力監視所」

『こちら第27対空監視所だ。上空に何か見えるが、これはどこの機体だ?」

「え?」

 

 電話の相手は、魔力探知レーダーの周辺に設置されている対空監視所だ。魔力探知レーダーで発見した目標を、目視で再度確認するための施設である。

 そこから所属不明の機体が確認された事を受け、士官は監視所のレーダー画面を再び見据えた。何かの見間違いではないのかと思い、レーダー画面を見るが、そこには相変わらず何も映っていない。

 

「いや、こちらの魔力探知レーダーの画面では何も見えていないが?」

『いや、本当だ!何か見えるぞ!既に領空に侵入している!』

「しょ、詳細を教えてくれ!」

 

 電話の向こう側が慌てるのを見て、士官は対空監視所に詳細の報告を求めた。

 

「おいおい、なんだなんだ?」

「さあ?分からないが、ちょっとヤバいのかもしれないな」

 

 士官が大声を上げるのを聞いて、彼の部下たちも何事かと思い、賭け事をやめて彼に注目した。

 その間にも、事態は少しずつ進んでいく。

 

『南西方向、方位2-7-0、高度8000以上、時速は……300ノットだと!?』

「そ、それは本当なのか!?」

『本当だ!見間違いじゃない、本当に上空に見えるぞ!』

 

 電話の向こう側で慌てた声が聞こえるのを聞いて、士官は対空監視所から魔力探知レーダーを操作する。幾つか受信周波数を変え、なんとかしてその目標を探知しようとするも、一向に何も映らない。

 

『こちら第33対空監視所!こちらでも同一と思わしき物体を発見した!内陸に向かっている!』

『魔力探知じゃダメだ、お前らも目で確かめてみろ!本当に飛んでいるんだ!』

「おい、誰か外に行って見て来い!」

「お、俺が行きます!」

 

 対空監視所が複数怒鳴るのを聞いて、士官は先ほどの部下たちに、建物の外に出て目視で確認するよう命じる。

 彼らが外へ出て不明機を探している間、士官はこの事態を緊急事態と判断し、すぐさま付近の飛行場にいる上官──戦闘機群の指揮官──へと魔導通信を繋いだ。

 

『何、所属不明の機体が侵入しただと?魔力探知レーダーはどうした?』

「はい……それがこちらでも全く反応はありません。ですが、複数の対空監視所がそう言ってるんです。我々も、これから確認するところでして……」

「大変だ!本当に飛んでるぞ!!」

 

 部下たちが外で騒ぐのを聞いて、士官は事実であることを上官へ報告する。

 

「ほ、本当みたいです!本当に、上空に、所属不明機が……」

『そんな馬鹿な!魔力探知レーダーに映らないのに、目視だけで見えるなんてあり得んぞ!』

「ですが……これは飛行機械という可能性も……」

『例え飛行機械でも、そこまで近いならパイロットの魔力を探知できるだろうが!』

 

 一向に信用してくれない上官に腹が立つが、士官は食い下がって言葉を続ける。

 

「ですが、既に所属不明機は領空内に侵入し、時速300ノット以上で巡航しています!何度も目視で確認しました!』

『絶対に見間違いだ。しかも時速300ノットだなどと、そんなのエルペシオ3でも出せない速度だぞ?計算間違えじゃないのか?』

「ですが……」

『いいか、これ以上口答えをするな。俺は書類仕事で今忙しいんだ。こんな事で俺を呼び出したのを、後で報告させてもらうからな!』

「っ…………」

 

 そう言って、上官との電話は切られてしまった。「くそっ」と悪態をつく暇もなく、事態はさらに切迫している。

 先ほどまで遊び呆けていた部下たちが、恐る恐る士官にやるべき事を聞く。

 

「ど、どうするんですか……?」

「……仕方ない。飛行場がダメなら、直接戦闘機軍団に申し出てやる!」

 

 そう言って部下たちが青ざめる中、士官は自分が全ての責任を負う覚悟で、最上級部隊である第9戦闘機軍団の司令部へと電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

ミリシアル帝国 バネタ地区 政令都市アルバリオス

帝立空軍 第9戦闘機軍団司令部

 

 第9戦闘機軍団の司令部は、バネタ地区最大の都市アルバリオスの付近に存在する。各セクターの戦闘機群や魔導監視群などを一括指揮可能な指揮系統と、直接命令を下せる決定権を有している、まさに司令塔と言えるべき存在であった。

 その第9戦闘機軍団の指揮所にて、第19魔導監視群から直接電話を受け取った通信兵は、激しく困惑していた。

 

「え、南西から所属不明機が?」

 

 通信兵はすぐさま隣にいる魔力探知レーダーの監視員を呼び、レーダー画面を見せてもらう。そこには何も映っておらず、ド田舎故に民間機ですら飛行していない、まっさらな状態だった。

 

「こちらの魔力探知レーダーでは何も映っていませんが……」

『それが、何故か知らんが、コイツは魔力探知には引っかからないんだ!目視でしか発見できない!』

「は、はぁ……つまり、飛行機械というわけで?」

『わからん!だがなんでも良い、それを確かめるために目視が必要なんだ!高射部隊でも、対空監視所でもなんでも良い!とにかく相手がなんなのか確かめてくれ!』

「え、えっとぉ……」

 

 覇気迫る勢いで通信兵に喰ってかかる監視長の声を聞き、ここはどうするべきかと通信兵は考えかねた。

 だがちょうどその時、指揮所に第9戦闘機軍団の指揮官が入室。通信兵も敬礼を挟んだ後、その指揮官を呼び止めて状況を説明した。

 

「どうしたのかね?」

「それが……第19魔力監視所から直接、所属不明機を目視したという旨の報告がありまして……魔力探知レーダーには探知されない目標のようでして、どうするべきか……」

「電話を貸せ」

 

 指揮官は素早い判断で電話を代わると、電話の向こうにいる監視長から直接状況を聞きに入る。相手に話の通じる指揮官が出てくれた事により、監視長は冷静になって今までの状況を説明し始める。

 

「……つまり、所属不明機はもう既に領空に侵入しているというのか!?」

『はい!付近の飛行場にも連絡しましたが、見間違いと疑われ、警告を無視されまして……』

「くそっ、何をしとるのだ!誤報でもスクランブル対応をするのが飛行場の務めであるだろうに!」

 

 指揮官はその飛行場の指揮官を恨みつつ、電話の受話器を持ちながらすぐに周りへ指示を飛ばした。

 

「付近にある全ての飛行場にスクランブル命令!誤報でも良い、所属不明機を発見しろ、今すぐだ!」

「は、はいっ!!」

 

 指揮官の号令により、誤報でも構わないと、第9戦闘機軍団はスクランブル対応に取り掛かった。

 命令はすぐさま各所へ伝達され、各地の飛行場に警報が鳴り響く。パイロット達が急いでエルペシオ3に乗り込み、素早く武装を点検したのち、滑走路からの発進を開始した。

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 バネタ地区

魔帝対策省 極秘研究施設エリア48周辺

 

 ミリシアル空軍を騒がせた謎の所属不明機は、そのままミリシアル本土を北上すると、このエリア48と呼ばれる基地にまで飛行してきた。

 エリア48は、このバネタ地区周辺で最も重要な極秘研究施設である。

 この施設の管轄は魔帝対策省と呼ばれる機関であり、その名の通り古の魔法帝国の保有していた技術や遺産を研究し、魔帝に備える目的で作られた研究機関だ。

 その中でもエリア48は、魔帝対策省で最も重要な研究施設と目されており、配備されている遺産の性質から、その存在自体が一部の士官や指揮官しか知らない存在となっている。

 雪山の中にあるこのエリア48の施設のほとんどは地下にあり、全長300m以上はある巨大な地下格納庫と、建設中の巨大建造物と、後は地上にわずかな敷地を残すのみである。

 そんな研究施設の監視所にて、一人の人間族の男性が双眼鏡を片手に快晴の空を見ていた。彼が顔を隠すべく着けている仮面に空いたわずかな目の穴から双眼鏡を覗くと、その遙か高空の空に、一機の所属不明機がいた。

 彼のいる監視所に、同僚のエルフ族の男性が飛び込んできた。人間族の男性と同じく、研究者のような服装と仮面を付けている。

 

「おいメテオス、上空に所属不明機が侵入したって本当なのか?」

「ワールマンか。本当だ、これで見てみろ」

 

 ワールマン、と呼ばれた同僚の研究者に対し、メテオスは予備の双眼鏡を渡す。そして遙か上空の所属不明機を指差し、ワールマンに状況を説明した。

 

「本当に侵入されているじゃないか……空軍は何をやっとるんだ?」

「もうアテにはできんだろう。アレを見ればわかる」

 

 メテオスが再び指差したのは、空軍のエルペシオ3戦闘機の集団だった。高高度でヨロヨロとぎこちない飛び方をしながらも、なんとか相手の所属不明機に追従しようとしている。

 

「あのエルペシオ、相手の速度が速くて追従できないんだ。かなりの高高度を飛行しているようだし、これでは一撃を与えることすら叶わん」

「くそっ……これでは重要施設が覗かれ放題ではないかっ」

 

 ワールマンは空軍の不備により引き起こされた事態に怒りを露わにし、その場にあった机を蹴り飛ばした。

 

「とにかくワールマン、アレは見られていないな?」

 

 怒りで机を蹴り飛ばすという行為をあえて無視しつつ、メテオスはワールマンに施設の状況を尋ねる。

 

「ああ。いつも魔帝の有していた格納庫を使って、上空からは偽装してある。偵察機からでも見えんだろうな」

「だと良いが……」

 

 相手の偵察機に魔力を探知する装置などが組み込まれていた場合、格納庫の中に存在している"例の兵器"の存在が明るみに出ることになる。

 魔帝対策省として、この施設の秘密を知られてはたまったものじゃない。なんとしてでも、ここの秘密は守り抜かねばならないのだ。

 

「…………」

 

 そうしているうちに、謎の所属不明機は偵察活動に満足したのか、進路を変更し海の方向へと帰っていった。

 メテオスは双眼鏡でその覗き魔を見送りながらも、その偵察機がどこから来たのかを考察していた。

 

 

 

 

 

 

ムー連邦 西部軍管区

イルネティア王国軍使節 ライカ&イルクス

 

 その日、ライカとイルクスの二人は軍事演習を終え、一旦休息に入っていた。日本の手によって建設されたアルー付近のヘリコプター飛行場にて、ライカとイルクス、そしてもう一人の同年代の少女は和気藹々と話をしていた。

 

「それでね?私たちは上空3000mの位置から、目標の識別を始めたの。乱戦中って設定だったんだけど、私は見事、敵味方の戦車を見分けたってわけ」

「すごいじゃない!上空から点みたいな目標を識別するなんて、なかなか出来たものじゃないのに、本当にすごい!」

 

 ライカの今日の武勇伝を、アルーの地方資本家の娘、アリア・カラブレーゼは楽しそうに聞いていた。

 ライカとアリアは、今日の軍事演習の後に知り合った仲だった。演習で偵察訓練を受けていたライカとイルクスは、その後看護師の訓練を行なっていたアリアと偶然出会い、いろいろな話をしていたのだった。

 同年代の女の子同士ということもあり、彼女らは姉妹のように楽しげな会話を繰り返し、その友情を深めていっていた。

 

「でもね、その後上空から味方部隊を識別する事になったんだけど……私は"全部戦車です"って答えて、採点係だったオカ・シンジって人が"戦車と自走砲は違うよ"って言われて、厳しめな採点をつけられたの……」

「えー、そりゃひどい!私たちですら、ジエイタイの兵器なんてぜんっぜん見分けられないのに、厳しすぎる!」

「アハハ……まあ、仕方ないんだけどねー」

 

 ライカとアリアは面白おかしくそう言うと、見かねたイルクスが、遠くでその声を聞いていた一人の自衛官に目線をつけた。

 

『こらこら二人とも、オカさんが聞いてるよ』

 

 自衛官仲間と話していた岡 真司三等陸曹が、仲間に揶揄われながらも、バツが悪そうに三人に謝罪した。

 

「あー、悪かったね……厳しめな採点で」

「あっ、全ての元凶。もう少しでライカが一位だったかもしれないのにー」

「まあまあ、そんなこと言わないの……見分けられなかったのは事実だからさ」

 

 そう言ってライカは自分の隣のスペースを叩き、岡に座るように促す。

 

「良いんですか?」

「どうぞ。それとも年頃の女の子と話すのは初めて?」

「あー……こりゃ女性隊員から白い目で見られるなぁ……」

 

 岡がバツが悪そうにそう言うと、犯罪にならないような距離感で、恐る恐る地面に座った。

 そんな岡に対し、アリアが疑問を投げかけた。

 

「思ったんだけどさ。なんでライカにあんな厳しめな採点をしたの?」

「……そりゃあ、自走砲が隠れていることを見分けられなかったら、味方が危険だからだよ」

「危険?」

 

 アリアは聞き返す。

 

「自走砲ってのは、敵の地上部隊を遙か遠距離から叩くための長射程兵器なんだ。だからそれを見逃してしまうと、攻撃しようとする部隊はその攻撃に晒せれるだろう?それじゃあ困るんだよ」

「へぇ……よく分かんないけど、それを見分けるのは重要ってことなのね」

「ある意味、実戦的って事なのかも」

 

 岡の説得力のある言葉に、さすがのアリアとライカも納得したのか、

 

「イルクス、地上の兵器の違いは、竜の目線では見えていたのかい?」

『それは言っちゃいけないって事になってたけど……そうだね、しっかりと違いは見えていたよ』

「竜と会話してカンニングするのはダメなんて、流石に厳しいと思うわ」

 

 アリアがそう言うが、岡は話を続けた。

 

「さっきも言ったように、俺たちは実戦的なやり方を求めているんだ。実戦では竜の目線に頼るよりも、自分の目線や識別能力が試されることもある。だから……」

「でもさ、誰と戦うの?」

 

 アリアの突然の疑問に、岡は答えられなかった。

 

「……さあ、それは分からないな。今は」

 

 岡は夕暮れに差し掛かった空を見上げつつ、そう言って曖昧な答えを出すしかなかった。

 




ちょっとここでも情報コラムを

『情報省』
 日本にある既存の各情報機関(内閣情報調査室、防衛省情報本部、外務省国際情報統括官組織、法務省公安調査庁など)を統合・発展・拡大させる形で発足した、日本最大の国家情報機関。
 日本国の転移にともない、米国政府を経由したCIAやNSAなどからの情報の入手が不可能になったことや、転移直後の情報不足がパガンダやレイフォルでの悲劇を招いたことから、積極的な情報収集と工作活動を行える機関として、また情報の収集と分析の効率化を図るために急遽発足した。
 職員数はおよそ5,000人。統合された各情報機関の人員のほか、陸自の中央情報隊、情報学校、警察庁、警視庁公安部などから人員を出向させて構成されており、国家安全保障局や内閣情報会議との連絡も綿密に行っている。本部は防衛省本庁舎C棟内の旧情報本部の区画にそのまま仮設置されている。
 国内外のあらゆる情報を収集、処理、分析し、日本国に必要な戦略的情報を作成することを基本業務としている。このほかにも海外の諜報員などに対する防諜活動や、工作活動要員(要するにスパイ)による海外でのヒューミントを中心とした工作活動を展開している。
 スパイ活動を行う要員は外国人系の顔(ハーフ顔)をした職員が優先的に選ばれているが、この他にも転移に巻き込まれた一部の外国人(日本語に堪能で、危険思想がなく、警察か軍属の経験がある者)を雇用し、スパイ要員へと仕立てている(ただし雇用外国人スパイは家族を保護の名目で人質にし、裏切れないようにしている。これは北朝鮮偵察総局のやり方が参考にされた)。
 国内での防諜活動に関しては発足以前の各省庁・組織のノウハウがあるものの、海外での情報工作に関しては経験不足で能力は低い。
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