新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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今回も一万文字以上行きました。


第十八話『浸透する脅威』

日本国 東京

市ヶ谷 防衛省会議室

 

 日本国の首都、東京の天気は秋晴れで秋としては比較的暖かい時期となっていた。間も無く10月に入ろうとしているが、東京の気温はまだまだ夏に近い陽気だった。

 さて、防衛省の方では先のミリシアル本土偵察作戦の成功により、少し忙しくなっていた。グローバルホークの帰還後は、撮影された映像や写真などの各種センサーの情報をレコーダーから抜き取り、空自の作戦情報隊を中心に情報の精査が行われた。

 

「では、偵察作戦後の第一次経過報告をさせていただきます」

 

 そして、作戦から三日ほどで今回の会議に出すレベルの情報が纏まっていた。前回の会議と同じ幹部メンバーが集められ、報告が行われていた。

 

「今回帰還したグローバルホークには無数のデータがございますので、順を追って説明させていただきます。まずは、ミリシアル本土における現地情報から」

 

 士官の一人が端末を操作し、正面のモニターに無数の偵察画像を写した。主に地形や植生、民家の構造などの情報である。

 

「民家の構造は、雪の降る地域でもあるのか屋根などが非常に急角度に作られています。それから建物には煙突がないにも関わらず、適度な暖房が効いているようです。おそらく魔法による暖房機器があると思われます」

 

 士官は次のページをめくる。

 

「植生に関してはまだわかりませんが、概ね地球環境でもよく見られる色合いをしております。地形に関しては、今回のデータを元に情報隊の下で詳細な地形図を作成しております」

「ふむ……」

 

 士官はさらに端末を操作し、次のページをめくる。

 

「そして今回の偵察により、ミリシアル帝立空軍の装備や対応系統についても詳細が分かりました。こちらをご覧ください」

 

 士官が提示したのは、ミリシアル本土の海岸線を写した偵察写真であった。

 写真には、海の近くの崖の上に金色のパイプを用いたアート作品の様な物体が鎮座しており、海岸の方向に向けて複数並べられていた。

 

「帝立空軍が保有していると見られた魔力探知レーダーですが、どうやらこちらのグローバルホークを発見、追跡する能力は備わっていない様でして、グローバルホークはこの警戒網をすり抜けて内陸に侵入する事に成功しました」

「なんと、相手のレーダー網をすり抜けたのか?」

「やはり、予想通りのザル具合だな……」

 

 幹部らが苦笑いを挟みながらそう言う中、士官は補足の説明を行う。

 

「どうやら魔力探知レーダーとは、その名の通り相手の魔力を逆探知するだけのレーダーの様でして……魔法を用いない方式で飛行する飛行機械の追跡は不可能らしいのです。ですので……」

「つまり、機体の魔力もパイロットの魔力も探知できない無人機は、この穴を的確に突いた形となるのだな?」

 

 航空機についてよく知っている空自の幹部がそう言うと、士官はそれを肯定するべく頷いた。

 

「はい、その通りです。魔力探知レーダーを主力警戒網として運用しているミリシアルでは、飛行機械で尚且つ無人のグローバルホークは探知不能というわけです」

「これはいい結果が得られたな。少なくとも魔法文明国の防空圏相手には、無人機での偵察が最も適しているというわけだ」

 

 ちょっとしたステルス機みたいなものだと、空自の幹部らは思った。

 実際のステルス戦闘機でもそうだが、発見が遅れればそもそも迎撃機は上がって来れず、有効な迎撃を行うことができない。これは、大きなアドバンテージであると言えるだろう。

 

「しかし、最終的には目視で発見されたのか迎撃機が上がってきました。グローバルホークの機載レーダーの記録によりますと、このミリシアル製制空戦闘機は"加速と上昇性能に優れるものの、そもそもの速度が低すぎる為、こちらのグローバルホークに追従できなかった"とのデータが取れました。これは概ね、作戦前に提示した資料と一致しています」

「ふむ……見つけて即座に迎撃機を上げてきたのを見るに、指揮系統はしっかりしている様だな」

「もし新型機などを出され、追いつかれた時を考えると不安が残りますね」

 

 空自の幹部らが口々にそう言うが、彼らは今回のミリシアルの体たらくを見て、少なくとも新型機が出てくるまで、グローバルホークの撃墜は不可能だと考えていた。

 新型機の開発に数年かかるとして、それまでグローバルホークはミリシアル領空内を好き放題偵察できる事となる。彼らはミリシアルのレベルの低さに安堵し、多少の警戒はしながらもそう考えていた。

 

「そして……ここからが重大な案件なのですが……」

 

 士官が端末を操作し、画像を新しいのに切り替えた。新しい画像には、ミリシアル本土から少し奥地に位置する基地が移されており、そこには見慣れない多数の建造物が見受けられていた。

 

「これは……?」

「こちらは今回新たに確認された、神聖ミリシアル帝国の秘匿基地のようです。いくつか説明いたします」

 

 士官は画像をさらに切り替え、画面にグローバルホークのセンサーによって拡大された写真が映される。

 画像には二つの、円形をしたハッチのような構造物が映されている。このハッチはかなり異彩を放っており、周辺の建物と比較してかなり大きい事も、幹部たちの疑問を誘った。

 

「これは……ミサイルのサイロか?」

 

 幹部の一人がそう言う。実際この構造物の形は、地球世界において冷戦期から現代にまで多数存在していた核ミサイルの発射基地とよく類似している。ミサイルと聞き、幹部達の中には顔を見合わせる者もいた。

 

「いえ、我々もはじめはそう思ったのですが……どうやらこの構造物は直径が300m以上ある様で、サイロにしては巨大すぎます。どちらかと言うと、周辺に多数の燃料タンクや倉庫、貯蔵施設があるのを見るに、何かの地下格納庫だと予想されるのです」

 

 だが幹部はその予測を否定し、分析の結果を伝える。

 

「地下格納庫?では、中に何かを格納しているのか?」

「そこまでは流石に……格納庫のハッチは強固で、各種センサーを使用しても何が居るかは分かりませんでした。ですが……」

 

 士官が画像を切り替え、サーモカメラの映像を映す。

 

「こちらのサーモカメラでの映像によりますと、熱源がこの周辺に集まっています。ここまで熱が集まるなら、中に何か大事な物体がなければあり得ません。この施設に"謎の何か"が居ることは確かな様です」

「ふむ……流石に第一次偵察の結果だけでは、詳細までは分からないか……」

 

 幹部はそう言うが、やはりこの施設の謎が目立つ中、それを放置しておくのは得策でないと感じていた。

 単なる好奇心ではない。もしこの施設の重要物が日本にとっての脅威となるなら、それを解明しなければならないのが彼らの務めだからである。

 

「そこでなのですが……今回の結果を元に第二次偵察を行うのはどうでしょうか?もっと高性能なセンサーを搭載して、格納庫の内部を暴いてやるのです」

「それは良いかもしれないが……性急すぎないか?今回の件を受け、防空網が強化されている可能性もある」

 

 確かにこの謎を放置しておくより、第二次偵察を行うのが急務であろう。だがそれに対しては、幹部らから様々な意見が出てくる。

 

「いや、日を置いてやってみるのはどうだ?何度も頻繁にすると警戒されるなら、奴らが忘れた頃に……」

「だが、この施設の謎を放置したままでは危険だ。早めに暴いておかなければならない」

「そうだな……では目安は三ヶ月後としよう。当該機体には、さらに高性能なセンサー類を搭載しておいてな」

 

 幹部らの意見は、数分間の議論の末に決着がついた。その日の報告会議は滞りなく終わった。彼らはそのまま、三ヶ月後の第二次偵察に備えて様々な準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

政府中枢 アルビオン城

 

 この日、神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリスは秋雨の陽気となっており、秋に近づくにつれてこの様な雨が多くなっている。市民らも、今日の雨のせいで外にはあまり出ていない。

 それと打って変わり、帝都ルーンポリスの中心部に位置する政府の中枢区画、アルビオン城では魔導器を用いた空調が行き渡っている。そのため室内は本来なら暖かいはずだが、この皇帝ミリシアル8世の執務室はなぜか冷え込んでいた。

 皇帝ミリシアル8世は、自らが質問をするべく呼んだ四人──国防省長官と同軍務大臣、そして空軍将校ら二名──をあえて無視し、しばらくはペンを動かして書類にサインしたり、魔法印などを焼き入れしたりなど、執務をこなしていた。

 その背中から滲み出ているのは、怒りである。

 一方で、ふかふかのソファに座る四人の内、一人を除いて彼らは極度に緊張していた。これから起こるであろう叱咤や叱責に、身を震わせているのである。

 ミリシアル8世は一向に何も喋らない四人に対し、大きくため息をつくと、執務の作業を一旦止めた。ペンを置き、椅子に深く座り、彼は口を開いた。

 

「……事の顛末を話してみよ」

「っ…………」

 

 皇帝の言葉に、ぴくりと肩が震えるのは空軍の将校達だった。隣に座っていた国防省長官のアグラ・ブリンストンは「さっさと喋れ」と言わんばかりに彼らの足を蹴り、それに後押しされたのか、空軍将校らは話を始めた。

 

「は、はっ……去る3日前、午前11時48分頃、ネバタ地区南西方向より所属不明機が上空8000より領空内に侵入。防空識別圏を突破し、そのまま我が国の領空を飛行しました……」

「それで?」

 

 皇帝はじっと睨みを効かせるように、空軍将校に対して続きを問いかけた。その目にはやはり、相当な怒りが伝わってくる。

 それもそうだ。絶対的とまで言わしめられた帝国の防空網を破り、国籍不明機が侵入して好き放題偵察したのだ。これは空軍の失態であり、これ以上の失態や失言は降格や更迭に繋がる。彼らの首は、皮一枚で繋がるかどうか、という状態だった。

 しかし、空軍将校は今回の事件を皇帝に報告する義務がある。彼は勇気を出し、額に冷や汗をダラダラと流しながらも、なんとか言葉を続けた。

 

「は、はいっ!こちらもすぐさまスクランブル対応を図りましたが、所属不明機の速度は我が軍のエルペシオ3よりも優勢であり、とても追従は不可能で……」

「たわけが!!」

 

 皇帝の怒号が、あまり広くない執務室に短く反響した。あまりに覇気迫る勢いに、空軍将校らだけでなく残りの二人の軍関係者らも固まった。

 

「言い訳を聞いておるのではない!空軍の初動対応にも問題があると聞いたぞ!魔導監視群の士官が飛行場指揮官をすっ飛ばし、戦闘機軍団に直接上申しなければならなかったとはどう言うことだ!?本土防空軍の体質に問題があるのではないのか!?」

「ぐっ……か、返す言葉もございません……」

 

 ぐうの音も出ない叱責に、空軍将校らは顔を酷く青ざめさせていた。それもそうである。今回の領空侵犯事件は空軍の失態であると同時に、軍全体の失態でもある。ここに呼ばれた軍人全員が、処罰の対象になるかもしれなかった。

 だが今まで領空侵犯をしてくる相手が全く居なかった手前、侵入した不明機のような高性能機に対する対策案などそう簡単に出せるものではない。むしろ「こんな事態は考えてませんでした」とハッキリ言ってしまいたいが、そうはいかない。

 

「……それで?奴らはどこを偵察し、何処へ帰って行ったのだ?」

 

 皇帝が一度ため息をつきつつも、椅子に深く座って続きの催促をした。だが今回の事件の本質は、その偵察された場所にあった。

 

「それが……所属不明機は、魔帝省のエリア48基地を偵察し南の方向へ帰って行きました……つ、追跡なども困難を極め……」

 

 空軍将校の言葉を聞き、ミリシアル8世はガタッと椅子から勢いよく立ち上がり、目を丸くさせた。

 

「エリア48だと!?よりによって、最も重要な研究施設ではないか!!」

「ぐっ……も、申し訳ございません!」

 

 エリア48の重要さは、この場にいる全員が理解していた。所属こそ魔帝対策省の管轄だが、その研究施設の重要性と機密度合いはミリシアル随一であった。

 それが、まんまと侵入された所属不明機により偵察されたと言う事実は、国家機密の漏洩に繋がる大事件である。空軍将校全員の更迭は免れないだろう。

 

「へ、陛下……お言葉ですがエリア48の重要機密区画は全て地下に偽装されているので、"例のもの"に関しては見られていないかと……」

「そこが問題なのでは無い!!」

 

 ミリシアル8世が再び怒号を上げると、空軍将校は完全に萎縮して何も喋らなくなった。

 

「はぁ……まさかこんなことになるとはな……もう少し空軍の体質を鑑みるべきであった。まあ、これは余の責任でもあるが」

 

 ある程度の反省を交えつつ、ミリシアル8世が頭を抱えるのを見て、空軍将校らは目を背けたくなるほど冷や汗を流していた。

 それを知ってか知らずか、ミリシアル8世は話題を国防省長官のアグラに切り替えた。

 

「……アグラ」

「は、はっ」

「当該の不明機はどのような特徴を有していた?そもそも、どこの所属なのだ?」

 

 ミリシアル8世が疑問を投げかけられたのを受け、国防省長官のアグラは、手持ちのファイルに纏めてあった資料を素早く取り出した。

 

「……はい。当該の不明機は全体が灰色から濃い灰色に塗装され、ラウンデルや所属マークなどは消されている様でして、所属は不明です」

「相手は未だ正体は不明……と言うわけか。好き勝手に遊ばれてしまったな」

 

 アグラはその言葉を受け少し俯くが、言葉を続けた。

 

「特徴としましては、全長が10数mなのに対し、翼端までの長さが非常に大きく全幅は35m程。主翼にはテーパー翼が採用されておりまして……何より、プロペラがありませんでした」

 

 プロペラ、送風機という言葉は主に飛行機械の特徴を表す言葉として、この世界では広く浸透している。

 ムーやグラ・バルカスなど、飛行機械を用いる多くの国々の機体がこのプロペラを採用しており、いつしか魔法文明の人々は"飛行機械=プロペラがある"と連想する様になっていた。

 

「プロペラが無い?……報告では、飛行機械の可能性が高いと聞いていたが?」

「我々も初めはそう思いましたが、どうやら構造が違うと見るべきです。さらに付近では天の浮船と似た様なエンジンの駆動音が鳴り響いたとの報告もあり、おそらくですが……」

 

 アグラが続けようとした言葉は、ミリシアル8世が察して代わりに代弁した。

 

「天の浮舟と、同じ構造をしている可能性が高い、と?」

「そういう事です」

 

 アグラはミリシアル8世の言葉を肯定し、報告を続ける。

 

「少なくともですが、これはグラ・バルカス帝国の所属機体という可能性はかなり低いです。彼の国の飛行機械はとても高性能ですが、それでも送風機は搭載されておりますので、これとは一致しません」

「ふむ……確かにグラ・バルカス帝国が保有する様なものでも無いな」

「かと言って、ムー連邦である可能性はさらに低いでしょう。彼の国の技術力では、この様な高性能機は作れませんので」

 

 そこまで言われて、今度は軍務大臣を務めるシュミールパオが挙手をし、発言の許可を伺った。

 

「陛下、それに関してなのですが、一つ可能性のある怪しい国があります」

「ほう、それは何処だ?」

「ムー大陸より西にあると言われている新興国国家、ニホン国です」

 

 ニホン国に関しては、ミリシアル国内でもそれなりの頻度で噂になっていた国である。しかし国内の防諜性が高く、ニホン国に関する情報はあまり入ってきていないのが現状であった。

 その国の名前が上がった事で、ミリシアル8世は眉を顰め顎に手を当て長く垂らした髭を弄りつつ、情報を思い出す。

 

「ほう、ニホン国か?ああ、最近レイフォルを滅ぼした西の新興国か。確かに逃走した西の方角に位置しているが……だが、あの新興国にこんな高性能機が作れるというのか?」

 

 ミリシアル8世が問いかけると、シュミールパオは臆する事なく言葉を続ける。

 

「しかし、元レイフォル兵の証言によると、天の浮舟と似た様な駆動音をする飛行機械の情報があります。可能性としては高いとみるべきです」

「……それは見間違いじゃ無いのか?兵士が錯乱していた可能性もあるだろう?」

「…………」

 

 シュミールパオの言葉に、アグラが横から口を挟む。様々な情報を照らし合わせて出した推測を発言していたシュミールパオは、横から割り込まれたことに多少の不快感を覚えた。

 一方のミリシアル8世は、しばらく髭を弄って考えたのち、シュミールパオの意見を宥めた。

 

「……ニホンがあるとされている地点と、ここミリシエント大陸では1万5000キロ以上は離れている。飛行機械の航続距離からして、その様な長大な距離を飛行できるわけではあるまい。それに、証拠もあるわけでは無いだろうに」

「あくまで可能性の一つです。しかし、仮にこの憶測を元に外交で追及しても、向こうはしらばっくれるだけでしょう」

 

 シュミールパオ自身、大した証拠も無いのにこの様なことを追求しても、無駄だと知っている。出来れば当該の不明機を撃墜なりして鹵獲すれば、分かる事も多いのだろうが、それは今の防空体制では難しいと思われる。

 

「陛下。とにかくこの問題は早急に、手当たり次第に調べなければならない案件だと思います。当該不明機は、我が国の防空圏をすり抜ける性能を有するだけでなく、魔力探知レーダーにも映らなかったのです」

「ああ、それも聞いている。ついでに言えば、原因は不明だとも」

 

 ミリシアル8世も、数ある報告の中で当該の不明機が有していた原理不明のステルス性能の話を聞いていた。それにより不明機は目視圏内まで発見できず、初動対応にも遅れが生じた事も知っている。

 

「今回は偵察型だと判断されましたが、今後制空戦闘型や爆撃型が現れた場合、我々は奇襲攻撃を受ける事になります。これは、国家の安全保障全体に関わる話です」

「ならば、どうするのだ?具体的に答えてみよ」

「はい。まず当該の不明機に関しては、相手が魔力を持たないせいで魔力探知レーダーに映らなかったとする推測もあります」

 

 シュミールパオは言葉を続ける。

 

「そこでなのですが……相手に魔力がなくとも探知可能な、魔導電磁レーダーの配備推進をお願いしたく存じ上げます」

 

 魔導電磁レーダーとは、その名の通り電磁波を利用したレーダー装置のことである。その存在は、ミリシアル8世自身もよく覚えていた。

 

「魔導電磁レーダー……たしか電磁系の魔導波を照射し、その跳ね返りを用いて敵機を探知する方式の次世代魔導レーダー……だったな?」

「はい。今回の件は、確かに本土防空軍の体質に幾らかの問題があったでしょうが、それ以前にこちらの装備の穴を突かれた形でもあります。ここは当該の空軍将校を更迭し、新たな装備と将校を迎え、防空体制を一新するべきです」

「くっ……」

 

 あえて責任を追及され、本土防空軍の将校が苦虫を潰したような顔をして顰める。それを気にせず、ミリシアル8世は納得した様子で口を開いた。

 

「……なるほど、分かった。やはり早急に、国の防空体制の一新に取り掛からなければならないのは確かだな」

 

 そう言ってミリシアル8世は椅子から立ち上がり、アグラとシュミールパオ、そして軍関係者らに命令を下す。

 

「また再び不明機が現れる可能性を考慮し、三ヶ月を目安に体勢を一新して見せよ。魔導電磁レーダーなども、都市部にいる拠点防空軍からなるべく回してくる様に命令を出す。良いな?」

「はっ、了解いたしました」

 

 こうして、皇帝ミリシアル8世の命令によりミリシアル帝立空軍の大改革が始まることになる。後にこれが、更なる大事件を引き起こす事になるとは、この時は誰も想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ミリシアル帝国 バネタ地区

魔帝対策省 極秘研究施設エリア48

 

 一方のエリア48では、先の偵察機による事件を受け、基地の設備に様々な偽装作業を施していた。

 倉庫に布を被せたり、一部の施設を盛り土で覆い隠したり、地上の設備の一部を地下に移したりなど、また偵察機に撮影されても問題が広がらない様、対策がなされていた。

 

「まあ、こんな努力は空から見れば無駄なんだろうな」

 

 秋の寒空の下、そろそろ雪が降りそうな気温と湿度の中で、厚着を着て外に出ていたメテオスはそう呟いた。

 実際、このエリア48には覆い隠しきれない施設も一部あった。巨大な円形の地下格納庫と、海軍との共同設備として建設中の陸上戦艦の二つである。

 

「主任、なにか?」

「……いや、なんでも無い」

 

 側で作業をする部下に聞かれてしまったのか、メテオスは自らの発言を無かったことにした。そしてこれ以上周りに小言が聞かれることがない様、メテオスは目立たない位置に場所を変えた。

 実際、このエリア48で行われている偽装作業の数々は、空から見ればあまりに無力であろう。大抵の偵察機には高性能な探知機が搭載されており、何かシートで覆い隠したとしても、中身の詳細が分かる事はよくあることだ。

 もちろん、これらの対策は最近発令された空軍の大規模改革が完了するまでの"繋ぎ"であることは確かだ。

 だがそれでも、今日明日にまた再び偵察機が侵入して来ないとは限らない。昨日になってこのエリア48にも高射魔導砲や魔光砲などが運び込まれ、偵察機を是が非でも落とそうと躍起になっていた。

 それが何処まで通用するのかどうかは、本当にわからないが。

 

「メテオス、こんな所にいたのか」

「ん?ああ、ワールマンか」

 

 甲板の先端に立っていたメテオスは、後ろから聞き馴染んだ声が耳に入ったことを受け、ふと振り向いた。

 そこには、同じ魔帝対策省における同僚のワールマンが立っており、紅茶の水筒を二つ持っていた。

 

「紅茶でもどうだ?そろそろ冷え込む時期だ」

「すまんな、頂くよ」

 

 メテオスは紅茶の水筒を受け取ると、蓋をひねって片手に持ち、それをコップにする様に紅茶を注いだ。

 それを口に注ぐと、エモール産の茶葉の程よい香りと適度な渋みが口を包む。暖かな状態で出された事もあり、自然と身体が温まっていく。

 

「それで、空軍の方は?」

 

 ワールマンが不意にそう聞いてくるので、残りの紅茶を飲み干したメテオスは、水筒の蓋を閉めると口を開いた。

 

「……案の定、空軍からは三人が処罰された。一人は空軍大将で、もう一人はその参謀、二人とも左遷。最後の一人……魔導監視群からの電話を切った飛行場指揮官に関しては、更迭された」

「なるほど、これで空軍は処罰を受けたということか。まあ、左遷されたとなれば元のキャリアには戻れんな」

「そして我々魔帝対策省は、被害者という事でお咎めなし。まあ、妥当な処遇と言えるだろう」

 

 今回の一件を受け、皇帝からの空軍に対する信頼はかなり落ちていた。無論、それを是正するべく大規模な改革が行われることになるのだが、それにはやはり時間が必要だった。

 

「そう言えばだが、ワールマン。空軍の大規模改革に準じ、高射魔導砲や魔光砲にも改良が加えられるという話、聞いたか?」

「ああ。現状の高射魔導砲では、例の偵察機が飛ぶ高度まで届かないらしいからな」

「そう、それだ。だから新型の高射砲に加え、ウチと海軍が共同していた誘導魔光弾の研究に関しても、かなり注目されているらしいぞ」

 

 メテオスのその言葉に、ワールマンは「ほう……」と興味深い一言を発した。

 

「それはまた……確かに理論上、誘導魔光弾は高射砲の届かない敵機に対しても有効であると言える」

 

 誘導魔光弾とは、魔法を駆使して敵機や敵艦などに向けて誘導弾を放つ兵器であり、伝承では古の魔法帝国と、インフィニティドラグーンしか実用化していなかったと言われている。

 その誘導魔光弾を、ミリシアルが実用化するまでの道のりは前途多難であった。要求される技術も魔力も、今までのレベルとは桁違いなのであるからだ。

 しかし、今回その誘導魔光弾に注目が集まっているというのは、開発元である魔帝対策省としては嬉しい話だ。もしかしたら、予算も追加で増やされるかもしれない。

 

「だが研究が進んでいるとは言え、配備はもっと先になるはずだろう?」

「それがだな……実は先日、現物をバラして解析する許可が降りた」

 

 ワールマンは何気なくそう聞くが、メテオスからの言葉を聞き、彼は目を見開いて聞き返した。

 

「おいおい、貴重な魔帝の遺産の一つだぞ?バラす許可が降りたのか?」

「ああ。どうやら上の方でもこの事態を重く受け止めている様でな、海軍と結託し、海上要塞パルカオンに搭載されていた現物をバラす許可を、先日皇帝陛下から頂いたそうだ」

「パルカオンに搭載されていたのは、片手で数えるくらいしか無いのに……いや、だがこれで誘導魔光弾に関する研究が大きく前進するのは事実だ」

「ああ。そのテストベッドとして、この陸上戦艦も来月への完成に繰り上げるそうだ。これで誘導魔光弾は、予定より早く実用化しそうだぞ」

 

 それはそれで、魔帝対策省の職員としては嬉しい出来事である。魔帝対策省としては、来る古の魔法帝国の再来に備えなければならない責務がある以上、その研究が進むのはありがたい話であった。

 だが、あまりに素早い対応には疑問が残る。今回の件で魔帝対策省が危機感を覚える理由が、今一つ掴めないのだ。

 

「しかし空軍はまだしも、何故ウチの上層部も焦っているんだ?今回の件、魔帝がどうこうという話では無いだろうに……」

「……それがな、ワールマン。どうも込み入った事情がある様だ」

「どんなだ?」

 

 メテオスはそこまで聞くと、口に人差し指を当ててワールマンに無言を強要した。そして、周囲を見渡して誰も居ない、聞いていないことを確認すると、メテオスは再びワールマンに振り向いた。

 

「……この事は他言無用、同じ魔帝対策省の職員相手でも話すな。主任階級である俺たちだけの極秘事項としろ」

「あ、ああ……」

 

 メテオスが目の色を変え、いきなり仰々しく釘を刺すものだから、ワールマンは少し萎縮してしまう。それを他所に、メテオスは話を始めた。

 

「今年の初めあたりだったか……エモールが空間の占いを実行したという話は聞いているな?」

「ああ、いつもの恒例行事だな」

「普通、空間の占いの結果は国家機密として扱われるが……偵察機の事件を受け、エモールの方から秘密裏にコンタクトがあった。それで、結果の一部を教えて来た」

「なんだと?」

 

 空間の占いというのは、よほどの大災害の予言でない限りはエモールが結果を独占している。そもそもの始まりが、エモールという国の戦略を有利に進めるための行事であるから、当たり前ではある。

 だが今回、その情報は向こう側からのコンタクトによってミリシアル側に持ち込まれたのであった。

 

「……問題はここからだ。占いの結果、"ムー大陸の近辺に、魔帝の申し子が出現している可能性が高い"という結論が出たそうだ」

「ムー大陸の近辺に、魔帝の手先が姿を現したというのか?そんな馬鹿な……」

「そして、そのムー大陸の近辺で最近暴れている国がいるだろう?」

「確か、ニホン国……!」

 

 ニホン国に関する情報は、魔帝対策省では全く話題に上がらなかった。それもそのはず、そもそもかの魔帝とは全く関係のない存在。

 そういう普通の国の情報を精査するのは、本来なら情報局などの別の部署である。

 

「そうだ。上はもしやと思い、レイフォル近辺でレイフォル軍の生き残りの竜騎士を探して尋問してみたところ、やはりというべきか、誘導魔光弾に関する口述が出てきた」

「まさか……!」

「"光の矢が意志を持つかの様に曲がり、こちらを追いかけて来た"との事だ。もちろん見間違いという事もあり得るが、複数の竜騎士が同じ様な表現でその兵器を言い表している以上、警戒せねばならない。そして、今回の偵察機もニホン国の仕業だとしたら……」

「なんて事だ……我々はもうすでに目をつけられているのか……」

 

 ワールマンは顎に手を当て、額から冷や汗を流していた。

 ここまで聞けば、魔帝対策省にとっての仇のような存在である魔帝が、復活のため準備を着々と進めていると分かる。

 

「……なあメテオス、もしニホン国が魔帝の尖兵だとしたら、我々はどうするべきだ?」

「……とにかく、備えるしかあるまい。こちらもさっさと誘導魔光弾を配備し、戦力を整えなければならない。それに限らず、さらなる情報を集めるだけでも全然違う」

 

 メテオスは一呼吸置き、再び紅茶の水筒を開けて、コップにそれを注ぐ。

 

「……そして時が来たら、この情報を各国に開示してニホン国を警戒対象とするべきだ。これは、世界共通の脅威だと見るべきだからな」

「ニホン国……俺の方でも少し調べておこう、やっぱり嫌な予感がする」

「ああ。そうしておこう」

 

 二人揃って紅茶を飲み干すと、メテオスとワールマンはそれぞれの仕事に戻る。そして早速ニホン国に関する情報収集に取り掛かった。

 




今回は情報コラムは無し。
前回書いた情報省について、彼らのスパイが主人公の短編幕間を書いてみたい欲に駆られ、書き進めております。
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